弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
 一審判決を破棄する。
 被告人を懲役1年4か月に処する。
 一審における未決勾留日数中200日をその刑に算入する。
         理    由
第1 弁護人の控訴理由
 1 理由不備
 一審判決は,第2の事実について,窃盗の主位的訴因を認定せず,盗品等保管の予備的訴因を認定し
ているが,窃盗の事実を認定しなかった理由と,盗品等保管の事実を認定した理由との間に矛盾があり,
理由の食い違いがある。
 2 事実誤認
 被告人は,一審判決第2の盗品等保管の犯罪行為をしていないから,これを認めた一審判決には事実
誤認がある。
 3 量刑不当
 一審判決の懲役1年4か月及び罰金30万円の量刑は重すぎて不当である。
第2 控訴理由に対する判断
 1 理由不備について
 記録によれば,一審判決には何ら理由の不備や食い違いはなく,この点に関する弁護人の主張には理
由がない。
 2 事実誤認について
 証拠によれば,次の事実が認められる。
 (1)本件車両は,Bが所有する時価約30万円相当の三菱製の軽四輪乗用自動車であるが,平成15年
5月4日午後4時30分ころから5月6日午前8時ころまでの間に,大阪市(以下地名省略)の駐車場にお
いて,何者かによって盗まれた。
 (2)被告人は,平成15年5月8日午後10時5分ころ,兵庫県尼崎市所在の自宅マンション近くの路上に
おいて,酒気を帯びて本件車両を運転しているところを警察官に現認され,逮捕された。
 (3)被告人が逮捕されたとき,本件車両は,エンジン始動用のキーシリンダー,運転席ドア,助手席ドア,
後部ドアの各キーシリンダーがすべて交換されており,被告人は,交換後のキーシリンダーに適合するエ
ンジンキーを所持していた。このエンジンキーにはドアロック開閉用のリモコンも付いていたが,本件車両
に適合するように設定されておらず,使用できない状態であった。本件車両に付けられていた正規のナン
バープレートはなくなっており,代わりに被告人の知人の知人が所有する軽四輪自動車のナンバープレー
トが付けられていた。さらに,同車内には,多数のブランクキー(特定の自動車に適合するように加工され
ていないエンジンキー材料)や加工途中のブランクキー,多数のキーシリンダー,プラス及びマイナスの各
ドライバー,千枚通し,ニッパ,やすり,自動車に車台番号を打刻するときに使用する器具,被告人の知人
が所有する軽四輪自動車のナンバープレートなどが積載されていた。上記のブランクキー,キーシリンダ
ーと工具類を使用すれば,本件車両のキーシリンダーを交換することが可能である。
 (4)被告人は,逮捕されたとき,本件車両を降りて路上に駐車された普通乗用自動車(車種は「ステップ
ワゴン」)のドアを開けており,同車内には被告人のゴルフクラブが積載されていたが,このステップワゴン
も盗難車であった。同車は,本件車両と同様,エンジン始動用のキーシリンダー,運転席ドアのキーシリン
ダーとナンバープレートが交換されており,被告人の知人が所有する自動車のナンバープレートが付けら
れていた。
 (5)被告人が逮捕された後,被告人の自宅の捜索により,複数のエンジンキー,キーシリンダーなどが
発見された。また,被告人の知人である自動車修理業者の事務所の捜索により,多数のキーシリンダー,
ナンバープレート,ナンバープレートの封印などが発見されている。
 (6)被告人は,本件車両とステップワゴンについて,知人のスリランカ人である「D」から預かったもので
あると弁解している。また,被告人は,中古車ブローカーをしており,事件物の自動車も扱っており,盗難
車両の買い取りを求められたこともあると供述している。
 一審判決は,以上の事実等に基づき,被告人が平成15年5月4日午後4時30分ころから5月8日午後
10時5分ころまでの間に,何者かが盗んできた本件車両を,それが盗品であることの情を知りながら氏
名不詳者から預かり,もって盗品を保管したと認定している。
 しかし,この判断は是認することができない。
 すなわち,被告人が何者かから本件車両を預かったという事実を直接示す証拠は,「D」から預かったと
いう被告人の供述以外にはないが,この被告人の供述は,一審判決自身が適切に述べているとおり,到
底信用できないものである。被告人の供述は,Dとの関係について,捜査段階においては中古車やその
部品の売買をしていたと述べながら,公判段階では,Dから中古車の価格査定を請け負って報酬をもらっ
ていたと述べ,本件車両を預かった日時やその経緯についても転々とするなど,不自然に変遷している。
また,被告人の供述は,3年以上も取引を続けている取引先であると言いながら,Dの身上関係はほとん
ど知らず,その唯一の連絡方法は電話であるが,その電話番号はDから預かった携帯電話に登録されて
いたからこのほかに記録を残してはおらず,しかも,その携帯電話も既にDに返しており,その際,Dの電
話番号をどこかに記録することもせず,それ以外の連絡方法を聞くこともしなかったから,結局,現在では
Dの知人に尋ねる以外に連絡を取る方法はないというのである。このような被告人の供述は不自然極ま
りないものといわなければならない。以上のとおり,本件車両をDから預かったという被告人の供述は,到
底信用することができない。
 したがって,被告人が何者かから本件車両を預かったという事実は,状況証拠により推認するしかない
わけであるが,前記認定の事実を総合しても,そのような推認をすることはできず,他にそのように認める
に足りる証拠はない。被告人は逮捕されたときに本件車両を現に保管していたのであるから,その占有を
何らかの方法で取得したことは明らかである。しかし,占有取得の事情としては,委託を受けて預かるほ
かにも,自ら盗んだ場合や買い受けた場合,あるいは無償で譲り受けた場合など,幾らでも考えられるの
であって,被告人が本件車両を現に保管していたというだけの理由で,何者かから預かったものと断定す
ることはできない。一審判決は,前記の被告人の供述により,被告人が中古車ブローカーをしており,事
件物の自動車も扱っており,盗難車両の買い取りを求められたこともあると認定し,何者かから本件車両
を預かった事実を推認する根拠としている。しかし,この供述を裏付ける証拠は何もなく,かえって,証拠
によれば,被告人は自動車を保管する場所を保有しておらず,本件車両とステップワゴンについても路上
駐車していたことが認められるのであって,被告人が中古車ブローカーをしていたということは容易に信
用することができない。被告人の上記供述は信用することができない。
 以上のとおり,一審判決第2の盗品等保管の犯罪事実は認めることはできず,同判決には,判決に影
響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある。そこで,一審判決を破棄し,自判する。
第3 適用法令
 刑事訴訟法397条1項,382条,400条ただし書
第4 判断の対象となる訴因について
 自判に先立ち,本件起訴状の公訴事実第2について,判断の対象となる訴因につき裁判所の判断を示
す。
 検察官は,本件公訴の提起に当たり,公訴事実第2として窃盗の訴因を掲げ,その後,これに盗品等保
管の訴因を予備的に追加したが,一審判決が窃盗を認めず,盗品等保管を認めて被告人を有罪としたと
ころ,これに対して被告人のみが控訴し,検察官は控訴しなかったものである。検察官は,一審判決に対
して控訴しなかったことにより,主位的訴因である窃盗については判断を求めない意思を示したものとい
えるから,窃盗の訴因は,控訴審において一審判決を破棄する場合の判断の対象から外れるのではない
かとも考えられる。しかし,窃盗の主位的訴因と盗品等保管の予備的訴因とは,法律上両立し得ない関
係にあり,かつ,一審の判断とは逆に窃盗は認められるが盗品等保管は認められないという場合があり
得る関係にあるから,窃盗を認めず盗品等保管を認めた一審判決に対して控訴しなかった検察官の意思
を合理的に解釈すれば,被告人が控訴せず,又は被告人の控訴が棄却される場合には,窃盗の訴因に
ついて判断を求めないが,被告人の控訴に基づき一審判決が破棄される場合には,窃盗の訴因につい
て主位的に判断し,処罰することを求める趣旨であると理解することができる。したがって,【要旨】窃盗の
主位的訴因を認めず,盗品等保管の予備的訴因を認めた一審判決に対し,被告人のみが控訴し,これ
に基づき一審判決を破棄する場合には,自判に当たり,窃盗の主位的訴因と盗品等保管の予備的訴因
とがいずれも判断の対象となると解すべきである(なお,本件においては,検察官は,控訴審の公判にお
いて,一審判決が破棄される場合には窃盗の訴因を主位的に判断し,処罰することを求める意思を明ら
かにしている。)。
 以上のとおり,自判に当たり,本件公訴事実第2について判断の対象となる訴因は,主位的には窃盗,
予備的には盗品等保管であると解される。
第5 自判
【犯罪事実】
 被告人は,次の各行為をした。
 1 一審判決第1のとおり
 2 平成15年5月4日午後4時30分ころから5月6日午前8時ころまでの間,大阪市(以下地名省略)駐
車場において,B所有の普通乗用自動車(軽四)1台(時価約30万円相当)を盗んだ。
 3 一審判決第3のとおり
【証拠】
 一審判決のとおり(ただし,犯罪事実の特定について「第1」「第2」「第3」とあるのをそれぞれ「1」「2」
「3」と改める。)
【争点に対する判断】
 弁護人は,2の窃盗の事実を争い,被告人もこれを否認している。
 証拠によれば,先に述べた控訴理由に対する判断の2の(1)ないし(5)のとおり事実が認められる。以上
の事実によれば,被告人は,本件車両が盗まれた数日後にこれを乗り回して使用しており,その際,本件
車両のキーシリンダーとナンバープレートが付け替えられ,被告人は交換後のキーシリンダーに適合する
エンジンキーを所持していた上,付け替えられたナンバープレートは被告人の知人の知人が所有する自
動車のものであり,しかも,車内にはキーシリンダーの交換を可能にする道具や被告人の知人のナンバ
ープレート,車台番号の打刻に用いる器具などが積載されていたのであるから,被告人が自らこれを盗み
取ったものと推認することができる。逮捕時に被告人がドアを開けており,被告人の所有物が積載されて
いたステップワゴンも盗難車であり,同じようにキーシリンダーとナンバープレートが交換され,被告人の
知人のナンバープレートが付けられていたことや,被告人の自宅から複数のエンジンキー,キーシリンダ
ーなどが発見され,被告人の知人の事務所から多数のキーシリンダー,ナンバープレート,ナンバープレ
ートの封印などが発見されたことも,この推認を補強するものである。
 被告人はこれを否認し,本件車両はDから預かったものであると供述するが,この供述が信用できない
ことは先に控訴理由に対する判断の項で述べたとおりである。
 弁護人は,本件車両に積載されていた上記の道具のみによっては,キーシリンダーを交換することはで
きないと主張し,被告人も同様の供述をするが,一審証人Cの公判供述と実況見分調書(一審検察官請
求番号31)によれば,上記の道具のみによってキーシリンダーを交換することは可能であると認められ
る。もっとも,Cは,自動車整備士としての知識と経験に基づき,上記の道具のみによって交換が可能であ
ると供述しながら,他方では,エンジン始動用のキーシリンダーを外すためにはそのキーシリンダーに適
合するキーが必要であるとも述べており,かつ,本件車両の正規のエンジンキーは盗まれておらず,当然
本件車両には積載されていなかったから,一見すると供述が矛盾しているかのようである。しかし,その
供述を子細に見れば,助手席ドアなどのキーシリンダーを外し,これを使ってブランクキーを加工してこの
キーシリンダーに適合するキーを作れば,そのキーはエンジン始動用のキーシリンダーにも適合するはず
であるから,これを外すことができるという趣旨を述べていると理解することができ,その供述は信用する
ことができる。これに反する被告人の供述は信用することができない。
【適用法令】
 罰       条 1及び3の各行為について,いずれも道路交通法117条の4第2号,65条1項,同法
施行令44条の32の行為について,刑法235条
 刑種の選択    1及び3の各罪について,いずれも懲役刑を選択
 併合罪の処理  刑法45条前段,47条本文,10条,47条ただし書(最も重い2の罪の刑に加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書(一審及び控訴審)
【量刑理由】
 本件は,自動車盗1件と酒気帯び運転2件の事案である。被告人には多数の前科があり,昭和56年,
昭和63年,平成6年と3回にわたって窃盗罪(うち1回は窃盗未遂罪)で服役し,昭和56年から昭和63
年までの間には道路交通法違反の罪(他の罪との併合罪を含む。)で7回も服役しているのに,今回また
も窃盗と酒気帯び運転をしたものであって,遵法意識が欠如しているものといわざるを得ない。窃盗につ
いては,その手口から常習性がうかがわれる。窃盗の犯行を否認し,不合理な弁解に終始するその態度
からは反省の情はうかがわれず,再犯が懸念されるところである。
 そうすると,被告人の刑事責任は軽いものではないが,他方,窃盗の被害品が還付されていること,最
終前科の執行を終えてから本件犯行までに8年以上が経過していることなど,被告人のために考慮すべ
き事情も存在する。そこで,以上を総合して,主文のとおり刑を定めた。
(裁判長裁判官 今井俊介 裁判官 長井秀典裁判官 難波 宏)

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