弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 一 弁護人藤巻三郎の上告趣意、弁護人栗坂諭の上告趣意一(2)、(5)、弁
護人杉田亮造の上告趣意第一点、第三点は、憲法一一条ないし一三条、三一条、三
三条、三四条違反をいうが、その実質は、別件逮捕中に捜査官が得た自白を資料と
して発付された本件の逮捕状による逮捕中の勾留質問の違法及び右自白を資料とし
て発付された勾留状による勾留中に行われた消防職員の質問調査の違法をいい、ひ
いてそれら質問の結果を録取した各調書の証拠能力を争う、単なる法令違反の主張
であつて、適法な上告理由にあたらない。
 なお、所論にかんがみ、職権をもつて次のとおり判断を加える。
 (一) 勾留質問は、捜査官とは別個独立の機関である裁判官によつて行われ、
しかも、右手続は、勾留の理由及び必要の有無の審査に慎重を期する目的で、被疑
者に対し被疑事件を告げこれに対する自由な弁解の機会を与え、もつて被疑者の権
利保護に資するものであるから、違法な別件逮捕中における自白を資料として本件
について逮捕状が発付され、これによる逮捕中に本件についての勾留請求が行われ
るなど、勾留請求に先き立つ捜査手続に違法のある場合でも、被疑者に対する勾留
質問を違法とすべき理由はなく、他に特段の事情のない限り、右質問に対する被疑
者の陳述を録取した調書の証拠能力を否定すべきものではない。
 (二)また、消防法三二条一項による質問調査は、捜査官とは別個独立の機関で
ある消防署長等によつて行われ、しかも消防に関する資料収集という犯罪捜査とは
異なる目的で行われるものであるから、違法な別件逮捕中における自白を資料とし
て本件について勾留状が発付され、これによる勾留中に被疑者に対し右質問調査が
行われた場合でも、その質問を違法とすべき理由はなく、消防職員が捜査機関によ
る捜査の違法を知つてこれに協力するなど特段の事情のない限り、右質問に対する
被疑者の供述を録取した調書の証拠能力を否定すべきものではない。
 なお、消防法三二条一項は、消防署長等が当該消防署等に所属する消防職員をし
て質問調査を行わせることを禁じた趣旨ではなく、また同法三五条の二第一項は、
放火又は失火の罪で警察官に逮捕された被疑者に対し、事件が検察官に送致された
後に、消防署長等が検察官等の許諾を得て同法三二条一項による質問調査を行い、
あるいは消防署等に所属する消防職員をしてこれを行わせることを禁じた趣旨では
ないと解すべきである。
 (三)したがつて、原判決認定の事情のもとで作成された裁判官の勾留質問調書
及び消防職員の質問調書の証拠能力を肯定した原判決の判断は相当である。
 二 弁護人栗坂諭の上告趣意一(1)、(3)は、捜査機関の作成した供述調書
の証拠能力が否定された場合に捜査機関以外の者の作成した供述調書を証拠として
被告人の刑事責任を問うことは、刑事訴訟法の裁判体制としては認めていないとこ
ろであるとして、憲法三一条違反をいうが、その実質は、裁判官の勾留質問調書及
び消防職員の質問調書の証拠能力一般を争う単なる法令違反の主張であつて、適法
な上告理由にあたらない。
 三 弁護人栗坂諭の上告趣意一(4)は、消防職員Aは、被告人に対し黙秘権を
告知することなく質問を行つたものであるから、これに対する被告人の供述を録取
した質問調書に証拠能力を認めた原判決の判断は憲法三八条一項に違反するという
のである。
 しかし、憲法三八条一項は、被告人等を尋問するにあたり、予め黙秘権を告知す
べきことまで要求しているものではなく、したがつて、右質問調書に証拠能力を認
めても憲法三八条一項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二
三年(れ)第一〇一号同年七月一四日判決・刑集二巻八号八四六頁、同年(れ)第
一〇一〇号同二四年二月九日判決・刑集三巻二号一四六頁)の趣旨に徴し明らかで
あるから、所論は理由がない。
 四 弁護人栗坂諭の上告趣意二は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由に
あたらない。
 五 弁護人杉田亮造の上告趣意第二点は、任意性に疑いのある被告人の自白を録
取した裁判官の勾留質問調書及び消防職員の質問調書に証拠能力を認めた原判決の
判断は、憲法三八条二項の趣旨に違反するというのである。
 しかし、記録によれば、右被告人の自白はいずれも任意性に疑いがないとした原
判決の認定は相当と認められるから、所論は前提を欠き適法な上告理由にあたらな
い。
 六 弁護人杉田亮造の上告趣意第四点は、消防職員Aが、被告人に対し黙秘権の
告知をしないで質問を行い、これに対する被告人の供述を録取した質問調書に証拠
能力を認めた原判決の判断は、東京高等裁判所昭和四五年(う)第三一四三ないし
三一四八号同四七年一一月二一日判決・高刑集二五巻五号四七九頁に違反するとい
うのである。
 しかし、右高等裁判所判例は、事案を異にし本件に適切でないから、所論は適法
な上告理由にあたらない。
 七 弁護人杉田亮造の上告趣意第五点は、単なる法令違反の主張であつて、適法
な上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四〇八条により、本件上告を棄却することとし、裁判官伊藤正己
の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官伊藤正己の補足意見は次のとおりである。
 私も、法廷意見と同じく、本件において、裁判官の勾留質問調書及び消防職員の
質問調書の証拠能力を肯定した原審の判断は、正当として是認できると考えるもの
であるが、本件は、いわゆる違法収集証拠の排除に関して問題を提起しているもの
であるから、ここに若干の見解を示して、補足意見としておきたい。
 記録に照らせば、被告人は、本件現住建造物等放火罪を理由とする逮捕、勾留に
先き立つて、住居侵入罪を理由として逮捕されているが、この逮捕は、裁判官が適
法に発付した逮捕状によつて行われたものであつたとはいえ、その真の目的が、当
時いまだ逮捕状を請求するに足りる資料のなかつた本件現住建造物等放火事件につ
いて被告人を取り調べることにあり、住居侵入事件については、逮捕の必要性のな
かつたことが認められる。したがつて、右逮捕は、憲法の保障する令状主義を潜脱
して強制捜査を行つた、いわゆる違法な別件逮捕にあたるものというべきであり、
これによつて収集された自白は、これを違法収集証拠として裁判の資料から排除す
るのが、適正手続の要請に合致し、また将来において同種の違法捜査が行われるこ
とを抑止し、司法の廉潔さを保持するという目的からみて相当であると考えられる。
 ところで、このような違法収集証拠(第一次的証拠)そのものではなく、これに
基づいて発展した捜査段階において更に収集された第二次的証拠が、いわゆる「毒
樹の実」として、いかなる限度で第一次的証拠と同様に排除されるかについては、
それが単に違法に収集された第一次的証拠となんらかの関連をもつ証拠であるとい
うことのみをもつて一律に排除すべきではなく、第一次的証拠の収集方法の違法の
程度、収集された第二次的証拠の重要さの程度、第一次的証拠と第二次的証拠との
関連性の程度等を考慮して総合的に判断すべきものである。本件現住建造物等放火
罪を理由とする逮捕、勾留中における、捜査官に対してされた同罪に関する被告人
の自白のように、第一次的証拠の収集者自身及びこれと一体とみられる捜査機関に
よる第二次的収集証拠の場合には、特段の事情のない限り、第一次的証拠収集の違
法は第二次的証拠収集の違法につながるというべきであり、第二次的証拠を第一次
的証拠と同様、捜査官に有利な証拠として利用することを禁止するのは、将来にお
ける同種の違法捜査の抑止と司法の廉潔性の保持という目的に合致するものであつ
て、刑事司法における実体的真実の発見の重要性を考慮にいれるとしても、なお妥
当な措置であると思われる。したがつて、第一審判決及び原判決が、その適法に認
定した事実関係のもとにおいて、捜査官に対する被告人の各供述調書の証拠能力を
否定したことは適切なものと考えられる。
 しかしながら、本件勾留質問は、裁判官が、捜査に対する司法的抑制の見地から、
捜査機関とは別個の独立した職責に基づいて、受動的に聴取を行つたものであり、
またこれに対する被告人の陳述も任意にされたと認められるのであるから、その手
続自体が適法であることはもとより、この手続に捜査官が支配力を及ぼしたとみる
べき余地はなく、第一次的証拠との関連性も希薄であつて、この勾留質問調書を証
拠として許容することによつて、将来本件と同種の違法捜査の抑止が無力になると
か、司法の廉潔性が害されるとかいう非難は生じないと思われる。(なお、ここに
もいわゆる自白の反覆がみられるのであるが、一般に、第二次的証拠たる自白が第
一次的証拠たる自白の反覆の外形をもつ場合に、第一次的証拠に任意性を疑うべき
事情のあるときは、証拠収集機関の異同にかかわらず、第二次的証拠についてもそ
の影響が及ぶものとみて任意性を疑うべきであるとしても、本件において、第一次
的証拠につき、その収集が違法とされ、これが排除されたのは、前記のとおり、任
意性には必ずしも影響を及ぼさない理由によるものであるから、単に自白反覆の故
をもつて、直ちに第二次的証拠を排除すべきものとすることは適切でない。)
 また、消防機関は、捜査機関とは独立した機関であり、その行う質問調査は、効
果的な火災の予防や警戒体制を確立するなど消防活動に必要な資料を得るために火
災の原因、損害の程度を明らかにする独自の行政調査であつて、犯人を発見保全す
るための犯罪の捜査ではないから、消防機関が右行政目的で行つた質問調査が、捜
査機関によつて違法に収集された第一次的証拠を資料として発付された逮捕状、勾
留状による被疑者の身柄拘束中に、当該被疑者に対して行われたとしても、そこに
捜査と一体視しうるほどの密接な関連性を認めて、その質問に対する任意の供述の
証拠能力を否定すべきものとする必然性のないことは、裁判官による勾留質問の場
合と同様である。もとより、捜査機関が、その捜査の違法を糊塗するためにとくに
消防機関に依頼し、これに基づき、消防官が、捜査官においてすでに違法に収集し
た証拠を読み聞かせるなどして質問をし、これに沿うようその供述を誘導して録取
するなど、消防機関の質問調査を捜査機関による取調べ又は供述録取と同一視すべ
き事情があるときは、その調書の証拠能力を否定することが相当とされる。しかし、
本件においては、そのような事情があるとはいえない。
 以上のように右勾留質問調書及び消防官調書は第一次的証拠との関連の程度が希
薄であることに加え、本件の事案も重大であり、右各調書は証拠としても重要であ
ること等を総合考慮すれば、これらの証拠能力を否定することは、違法収集証拠の
排除の目的を越えるものであるというべきであるから、これらの調書を裁判の資料
とした措置には、所論の違法があるものとはいえない。
  昭和五八年七月一二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    安   岡   滿   彦

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