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平成27年7月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(行ケ)第10003号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年5月28日
判決
原告セラムテックゲーエムベーハー
訴訟代理人弁理士橋本千賀子
同塚田美佳子
同長谷玲子
被告特許庁長官
指定代理人手塚義明
同酒井福造
同根岸克弘
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2014-650017号事件について平成26年8月28日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)原告は,別紙立体商標目録記載の立体商標(以下「本願商標」という。)に
ついて,指定商品を下記のとおりとして,平成24年1月18日,国際登録
第1109213号に係る国際商標登録出願(パリ条約による優先権主張日
平成23年7月25日,ドイツ連邦共和国。以下「本願」という。)をした
(乙1)。

「Class10Implantsforosteosynthesis,ortheses,endoprosthesesand
organsubstitutions,anchorsforendoprosthesesanddentalprotheses,a
rticularsurfacereplacement,bonespacers;hipjointballs,acetabula
rshell,acetabularfossaandkneejointcomponents」
(訳文)
第10類「骨接合術用インプラント,矯正器,体内人工器官及び器官の代用品,体
内人工器官用及び歯科用義歯用のアンカー,関節面の代用部品,ボーンスペー
サー,股関節用ボール,寛骨臼シェル,寛骨臼窩用及び膝関節用の構成部品」
(2)原告は,平成25年11月8日付けの拒絶査定を受けたため,平成26年
2月21日,拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2014-650017号事件として審理を行
い,平成26年8月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決(出訴期間の付加期間90日。以下「本件審決」という。)をし,同年9
月10日,その謄本が原告に送達された。
(3)原告は,平成27年1月5日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本
願商標は,球体の一部を切断し,その切断面の中央に半球状のくぼみを有する
ピンク色の立体的形状からなるものであるが,本願商標に係る立体的形状は,全
体がピンク色に着色されているとしても,人工股関節などに用いられるヘッド
と称するインプラントの形状であって,当該インプラントの機能を発揮させる
ために施された形状というべきであるから,本願商標をその指定商品中,人工
股関節などに用いられるインプラントに照応する商品に使用しても,取引者,需
要者は,その商品の形状を普通に用いられる方法で表示したものとして理解す
るにとどまり,自他商品を識別するための標識とは認識し得ないから,商標法
3条1項3号に該当し,また,本願商標がその指定商品に使用された結果,需
要者が本願商標を原告の業務に係る商品であることを認識することができるに
至ったものとは認められず,本願商標は同条2項の要件を具備しないとして,本
願商標については商標登録を受けることができないというものである。
第3当事者の主張
1原告の主張
(1)取消事由1(本願商標の商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)
ア本願商標は,ピンク色の半球体であって,その中央に円形のくぼみを有す
る立体的形状からなるものであって,人工股関節などに用いられるインプラ
ントに共通の特徴を有しているとしても,「柔らかな球体のフォルムと,つ
やつやとしたピンク色の半球体の形状」ゆえに,形状及び色彩に他に類する
もののない特徴を有しており(甲5,12),市場で初めて本願商標に接し
た者は,「これは一体なんだろう。」という素直な感想を持つと解するのが
自然であるから,本願商標は,インプラントを立体的に表したものと容易に
認識,把握させるにとどまらず,自他商品識別力を生来的に備えていること
は明らかである。
したがって,取引者,需要者は,本願商標が,指定商品である「骨接合術
用インプラント」に含まれる人工股関節用インプラントの商品に使用され
た場合,その商品の形状を普通に用いられる方法で表示したものと理解する
にとどまらず,十分に自他商品を識別するための標識と認識し得るものであ
る。
イなお,市場における他社製品の色彩は,白色かベージュ色(甲6ないし
11)であって,ピンク色の製品は存在しないことに鑑みると,本願商
標は,取引上何人も使用を欲する標識ではなく,本願商標が登録され,出
願人による独占利用が認められたとしても,公益上の不利益は何ら生じ
ない。
ウ以上によれば,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審
決の判断は誤りである。
(2)取消事由2(本願商標の商標法3条2項該当性の判断の誤り)
ア本願商標の使用
原告は,ドイツに本拠地を置く,セラミックス部品メーカーであり,その
事業所及び関連会社が,ヨーロッパのみならず,アジア及び南北アメリカの
各地に展開されている。原告は,軽量ながら高い強度を保つことができるセ
ラミックスの特性を活かし,医療機械器具,エレクトロニクス,自動車等の
幅広い分野で事業を展開し,本願商標に係る立体的形状は,このうちの関節
・骨接合術用インプラント「BIOLOXdelta」シリーズとして製
造販売されているボールヘッド型インプラントである。当該製品は,197
4年(昭和49年)の販売開始以降,素材・形状の改良と品質管理の向上が
継続して行われた結果,今や累計800万件以上の臨床実績を有し,名実共
に「臨床で使用される製品のスタンダード」として世界的に認められてい
る。また,原告の商品が人工股関節用セラミックインプラントに占めるシェ
アは約80%に至る。
原告は,日本においても,日本語のウェブサイト(甲2,4)を作成し,パ
ンフレット(甲5)等による営業活動を積極的に行っている。
イ使用による自他商品識別機能の獲得
(ア)人工関節置換技術において用いられる「骨接合術用インプラント」の
形状は,大腿,膝,肘等の手術箇所,手術方法,患部の状態等によって異
なり,同じ手術箇所に用いられるインプラントであっても,本願商標に係
る立体的形状と必ずしも同一となるものではない。例えば,他社の製品
は,半球体がやや平たくなっているもの(甲6)等がある。同業他社や専
門家にもピンク色の本願商標に係る立体的形状が広く認知され,本願商標
に係る商品の評価も非常に高く,原告は,先端的セラミック分野における
グローバルリーダーであるとも評されている(甲23)。
したがって,本願商標に係る立体的形状でなければ,商品の機能が発揮
できないというものではなく,本願商標は,商品の形状そのものの範囲を
出ないと認識されるものではない。
(イ)本願商標の特徴は,色彩にある。従来,骨接合術用インプラントは金
属製であったため,金属色以外の骨接合術用インプラントは存在せず(甲
7),また,昨今は,セラミックス素材が使用されるようになったため,自
由に着色することが可能になったものの,他社の同種製品の色彩は,白色
又はベージュ色である(甲8ないし11)。
これに対し,原告は,マーケティング戦略の一環として,自社製品を全
てピンク色に着色し,製品説明資料のみならず,2008年(平成20年)こ
ろから継続して,製品のピンク色を特に強調したブース展示を行う等の宣
伝活動を行い,また,販売促進のために,顧客に配布するグッズ(ゴルフ
ボール,手提げバッグ,USBメモリ等)にも,ピンク色の製品イラスト
をデザインしている(甲12ないし16)。
原告は,市場に白色かベージュ色の製品しか存在しない中で,製品その
もののピンク色を強調するマーケティングを行っていることから,本願商
標に係る立体的形状に接した需要者は,当該製品を「セラムテック社のイ
ンプラント」ないし「あのピンク色のインプラント」と認識するのであっ
て,本願商標に係る立体的形状が自他商品識別機能を備えていることは明
らかである。
(ウ)欧州医療用品供給業者団体による統計によれば,欧州各国で原告の業
務に係る商品が出荷され使用され(甲18),本願商標に係る商品は,「
バーバリアンイノベーションアワード2006」での目覚ましく革新的な
功績による表彰や「EFORTインダストリーアワード2013」での評
価をはじめとして,「Heinz-Mittlemeier研究賞」の受賞等,欧州各国にお
いて,高く評価されている(甲19,20)。
また,ドイツのベルリンで開催された第13回EFORT会議に参加し
た整形外科医療従事者を対象者として,2012年(平成24年)5月2
4日から25日に実施したアンケート結果(甲17)によれば,整形外科
医療従事者の約6割が,本願商標に係る立体的形状を「(具体的な社名を
挙げることはできないものの)特定の企業の商品である」と回答し,約4
割が「セラムテック社の商品である」と回答している。
上記アンケート結果から,本願商標に係るピンク色のイラストや立体的
形状がその指定商品に使用され,ドイツをはじめとする各国において需要
者の間に広く認識されていることは明らかである。
そして,前記アのとおり,原告の商品が名実共に「臨床で使用される製
品のスタンダード」として世界的に認められていること,人工股関節用セ
ラミックインプラントに占めるシェアが約80%に至ること,日本におい
ても,製品に関する専門サイトを作成し,また,パンフレット等による営
業活動を行っていることに照らせば,ドイツのみならず,日本においても
本願商標に係る立体的形状がその指定商品に使用され,需要者の間に広く
認識されていることは明らかである。
さらには,ニュージーランド・オークランドにおいて関節置換手術に精
通している整形外科医でさえ,ピンク色のインプラントといえば原告の「
BIOLOXdelta」を連想すると述べていること(甲24,2
5)からすると,日本においても,ピンク色のインプラントに関しては原
告の業務に係る商品であることを認識できることは容易に推測できる。
(エ)前記(ア)ないし(ウ)によれば,本願商標がその指定商品に使用された
結果,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができる
に至ったものといえるから,本願商標は商標法3条2項に該当する。
ウ小括
したがって,本願商標が商標法3条2項に該当することを否定した本件
審決の判断は誤りであるから,本件審決は,取り消されるべきである。
2被告の主張
(1)取消事由1に対し
ア本願商標は,別紙立体商標目録記載のとおり,立体的形状と色彩との結
合からなる商標であるところ,その立体的形状は,球体を半球よりやや大
きめに切断し,その半球状の平らな面(切断面)の中央部分に,切断面の
円の3分の1程度の大きさの円形のくぼみを有したものであり,立体的形
状全体が淡いピンク色である。
イ(ア)本願の指定商品には,人工股関節用インプラントが含まれる。股関
節は,大腿骨の上端にある骨頭と呼ばれる球状の部分が,骨盤の寛骨臼
にはまり込むように形成され,可動するものであり,一般的な人工股関
節用インプラントは,大腿骨の骨頭の役割をする「ヘッド」,ヘッドを
受け止める「インサート」,骨盤の寛骨臼にはめ込みインサートを支え
る「カップ」,ヘッドに差し込んで支えるための土台として大腿骨に埋
め込む「ステム」から構成されている。
しかるところ,本願商標の立体的形状と一般的な人工股関節用インプ
ラントのヘッドの立体的形状とは,一部を平らにした半球状であるこ
と,球体状の部分の反対側にくぼみを有することにおいて共通する実質
的に同一のものであるから,本願商標の立体的形状は,指定商品である
人工股関節用インプラントのヘッドの立体的形状そのものである。
(イ)商品に,その素材から生じ得る自然な色を採択したり,単一の色彩
を施すことは,幅広い商品分野において,極めて一般的に行われてお
り,人工股関節用インプラントのヘッドにおいても,全体が白色の商
品,ベージュ色の商品などが取引されている実情がある(乙6,8,9)。
本願商標の色彩であるピンク色(淡いピンク色)は,基本的な色の一
つであるから,人工股関節用インプラントについて,これまで使用され
ていなかったとしても,普通に採択され得る色彩の一つといえるもので
あり,しかも,白色やベージュ色(淡い茶色)とも比較的似た印象を与
え,これらと比較しても,特に特徴のある色彩であるとはいえない。
また,人工股関節用インプラントは,医療を目的として体内に埋め込
んで使用するものであり,専ら,医療従事者又はその関係者等の専門家
によって,特に求められる機能や目的からその形状や材質に着目して取
引されるものであり,商品の色彩が着目されるものとはいい難く,これ
らの専門家は,本願商標の立体的形状に彩色された色彩の種類にかかわ
らず,本願商標が人工股関節用インプラントのヘッドを表したものと認
識,把握する。
そうすると,本願商標の立体的形状全体が単一のピンク色(淡いピン
ク色)であることは,単にその形状に普通に採択され得る色彩の一つが
施されているにすぎないものと認識されるものであって,これをもって
自他商品の識別標識としての機能が生じるということはできない
(ウ)以上によれば,本願商標の立体的形状は,指定商品である人工股関
節用インプラントのヘッドの立体的形状そのものであり,また,その形
状全体が単一のピンク色であることは,単にその形状に普通に採択され
得る色彩の一つが施されているにすぎないものと認識されるものであっ
て,これをもって自他商品の識別標識としての機能が生じるということ
はできない。かかる構成からなる本願商標は,上記指定商品に使用した
場合,その商品の一般的な形状と理解されるにとどまり,自他商品を識
別するための標識と認識し得ないものであるから,商標法3条1項3号
に該当する。
(エ)原告は,これに対し,①市場で初めて本願商標に接した者は,「柔
らかな球体のフォルムと,つやつやとしたピンク色の半球体の形状」ゆ
えに,「これは一体何だろう。」という率直な感想を持ち,人工股関節
用インプラントのヘッドを立体的に表したものと認識,把握させるにと
どまらず,本願商標は,自他商品識別力を生来的に備えている,②市場
における他社製品の色彩は,白色かベージュ色であって,ピンク色の
製品は存在しないことに鑑みると,本願商標は,取引上何人も使用を
欲する標識ではなく,本願商標が登録され,出願人による独占利用が
認められたとしても,公益上の不利益は何ら生じないとして,本願商標
が商標法3条1項3号に該当するものとはいえない旨主張する。
しかしながら,一般的な人工股関節用インプラントのヘッドが半球状
の形状からなり,かつ,インサートとの摩耗を軽減するために平滑な表
面を必要とした結果,つやつやした光沢が生じ得ることからすれば,本
願商標に光沢が表されていることをもって,本願商標が自他商品識別力
を生来的に備えているとはいえない。
そして,前記(ウ)のとおり,本願商標の立体的形状は,人工股関節用
インプラントのヘッドについて,多くのメーカーが採択している商品の
一般的な形状そのものであって,同種の商品に関与する者がその商品の
形状を表す際にはその使用を欲するものといえるものであり,また,商
品に,その素材から生じ得る自然な色を採択したり,単一の色彩を施す
ことは,極めて一般的に行われており,ピンク色は,基本的な色の一つ
であるから,人工股関節用インプラントについても,使用され得る色彩
といえる。
そうすると,本願商標は,同種の商品に関与する者がその使用を欲す
るものであって,先に商標登録出願をしたことのみを理由として,その
独占使用を認めるのは公益上適当とはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ以上によれば,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審
決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
(2)取消事由2に対し
ア本願商標が使用された結果,原告の業務に係る商品を表すものとして,需
要者の間に広く認識されるに至っているか否かは,我が国の商標法,我が
国の取引の実情の下で,我が国の需要者の視点に立って判断されるべきも
のである。
原告が「BIOLOXdelta」の商品名で製造販売する人工股関
節用インプラントのヘッド(使用商品)の形状及び色彩は,本願商標の立
体的形状と実質的に同一の範囲内といえるものの,原告は,我が国の市場
における上記使用商品の製造・販売実績やシェアについて,何ら立証して
いないし,上記使用商品が広告宣伝された期間,地域及び規模等について
も立証していない。
他方で,日本ストライカー株式会社の商品カタログ(乙10)には,上
記使用商品と同一形状(色彩)の商品の写真が掲載され,「BIOLOX
delta」の記載及び「製造販売業者日本ストライカー株式会社」の
記載があること,「メディカルオンライン」のウェブサイト(乙11)に
は,上記使用商品と同一形状(色彩)の商品の写真が掲載され,「BIO
LOXdeltaセラミックヘッド」の記載及び「製造販売企業:バ
イオメット・ジャパン」の記載があることに照らすと,上記使用商品に接
する取引者,需要者は,必ずしも原告の業務に係る商品と認識するとはい
えないものである。
したがって,我が国において,本願商標が出所識別機能を発揮する態様
で使用されているとはいえないし,原告が上記使用商品の営業活動を積極
的に行っている実情があるともいえない。
イ原告は,ドイツで行われた本願商標の認知度に関するアンケート結果(
甲17)やニュージーランドの整形外科医等の認識(甲24,25)を根
拠として挙げて,本願商標が各国において需要者の間に広く認識されてお
り,日本においても,同様である旨主張する
しかしながら,上記アンケートは,ドイツにおいて開催された国際会議
の参加者に対し行われたものであり,その回答者は整形外科の関係者22
5人にすぎず,かつ,その内訳は,原告の所在するドイツ及びその近隣諸
国に限られたものであって,日本人は含まれていない。また,甲24及び
25は,いずれもニュージーランドで作成された一私人の宣言書にすぎな
いものであり,本願商標が我が国において知られていることが記載されて
いるものでもない。
したがって,原告の上記主張は,理由がない。
ウ以上によれば,本願商標がその指定商品に使用された結果,需要者が原
告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとい
うことはできず,本願商標が商標法3条2項の要件を具備しないとした本
件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1)商標法3条1項3号該当性について
商標法3条1項3号が,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用
途,形状(包装の形状を含む。),生産若しくは使用の方法若しくは時期そ
の他の特徴,数量若しくは価格」を普通に用いられる方法で表示する標章の
みからなる商標について商標登録を受けることができない旨規定しているの
は,このような商標は,指定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品
質,形状その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な
表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占
使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であ
って,多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解され
る。
そうすると,本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,本
件審決がされた平成26年8月28日の時点において,本願商標が,その指
定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品質,形状その他の特性を表
示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり,本願商標の指定商
品の取引者,需要者によって本願商標がその指定商品に使用された場合に,将
来を含め,商品の上記特性を表示したものと一般に認識されるものであれば
足りると解される。
以上を前提に,本願商標の商標法3条1項3号該当性について判断する。
ア本願商標は,別紙立体商標目録記載のとおり,球体を半球よりやや大き
めに切断し,その半球状の平らな面(切断面)の中央部分に,切断面の円
の3分の1程度の大きさの円形のくぼみを有する立体的形状の全体を淡い
ピンク色とした構成からなる立体的形状と色彩を結合した商標である。
イ本願商標の指定商品中の「骨接合術用インプラント」に「人工股関節用
インプラント」が含まれることは争いがない。
証拠(甲9ないし11,乙1ないし9)及び弁論の全趣旨によれば,①
股関節は,大腿骨の上端の球状の骨頭が骨盤のくぼみ(寛骨臼)にはまり
込むように接合して形成されていること,②一般的な人工股関節用インプ
ラントは,大腿骨の骨頭の役割を果たす「ヘッド」,ヘッドを受け止める
「インサート」,骨盤の寛骨臼にはめ込みインサートを支える「カップ」,ヘ
ッドに差し込んで支える土台として大腿骨に埋め込む「ステム」から構成
されていること,③ヘッドは,カップ又はインサートの中で可動するため
に半球状を呈し,球状部分の反対側の平らな面にはステムとつなぐための
くぼみを有すること,④市販されている人工股関節用インプラントのセラ
ミック製のヘッドには,全体が単色の白色,ベージュ色等の色彩のものが
あることが認められる。
上記認定事実によれば,本願商標の立体的形状と人工股関節用インプラ
ントのヘッドの立体的形状とは,一部を平らにした半球状である点及び球
状部分の反対側にくぼみを有する点において共通するものであり,本願商
標の立体的形状は,人工股関節用インプラントを構成する「ヘッド」の一
般的な立体的形状であることが認められる。
また,前掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,人工股関節用インプラント
は,大腿部頚部骨折,変形性股関節症等の股関節疾患の治療を目的とした
人工股関節置換術に用いられる商品であって,人の体内に埋め込んで使用
されるものであること,その取引者,需要者は,整形外科の医療従事者又
はその関係者等であり,上記商品の取引に際しては,商品の形状・寸法が
患者の具体的な症状に適したものであるかどうか,生体適合性,耐摩耗
性,強度等の商品の材質の物性に着目するものであり,商品の色彩が着目
されることは通常ないものと認められる。
そうすると,本件審決がされた平成26年8月28日の時点において,本
願商標は,その指定商品中の「骨接合術用インプラント」に含まれる人工
股関節用インプラントに使用された場合には,取引者,需要者である上記
医療従事者又はその関係者等によって,人工股関節用インプラントを構成
する「ヘッド」の立体的形状を表示するものとして一般に認識されるもの
であり,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するもので
あったものと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公
益上適当でないとともに,自他商品識別力を欠くものというべきである。
加えて,市販されている人工股関節用インプラントのセラミック製のヘ
ッドには,全体が単色の白色,ベージュ色等の色彩のものがあることに照
らすと,本願商標の全体が淡いピンク色の構成であることは,表示方法と
して格別なものではなく,本願商標は,人工股関節用インプラントを構成
する「ヘッド」の立体的形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみ
からなるものと認められる。
以上によれば,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認め
られる。
ウ原告は,これに対し,本願商標は,人工股関節などに用いられるインプラ
ントに共通の特徴を有しているとしても,「柔らかな球体のフォルムと,つ
やつやとしたピンク色の半球体の形状」ゆえに,形状及び色彩に他に類する
もののない特徴を有しており,市場で初めて本願商標に接した者は,「これ
は一体なんだろう。」という素直な感想を持つと解するのが自然であるか
ら,本願商標は,インプラントを立体的に表したものと容易に認識,把握さ
せるにとどまらず,自他商品識別力を生来的に備えているから,本願商標が
商標法3条1項3号に該当するものとはいえない旨主張する。
しかしながら,前記イで述べたように,本願商標の図形は,人工股関節
用インプラントを構成する「ヘッド」の一般的な立体的形状であり,また,そ
の図形の色彩が原告が主張するように「つやつやとしたピンク色」であると
しても,人工股関節用インプラントの取引者,需要者である整形外科の医
療従事者又はその関係者等は,商品の形状・寸法が患者の具体的な症状に
適したものであるかどうか,生体適合性,耐摩耗性,強度等の商品の材質
の物性に着目するものであり,商品の色彩が着目されることは通常ないも
のといえるから,本願商標が自他商品識別力を生来的に備えているものと認
めることはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2)小括
以上のとおり,本願商標は本件審決時において商標法3条1項3号に該当
する商標であったものと認められるから,これと同旨の本件審決の判断に誤
りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(本願商標の商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1)商標法3条2項該当性について
原告は,①ドイツに本拠地を置く,セラミックス部品メーカーである原告
は,ヨーロッパのみならず,アジア及び南北アメリカの各地で事業を展開し,本
願商標に係る立体的形状は,関節・骨接合術用インプラント「BIOLOX
delta」シリーズとして製造販売されているボールヘッド型インプラント
であり,当該製品は,1974年(昭和49年)の販売開始以降,累計800
万件以上の臨床実績を有し,名実共に「臨床で使用される製品のスタンダー
ド」として世界的に認められ,原告の商品が人工股関節用セラミックインプラ
ントに占めるシェアは約80%に至ること,②原告は,日本においても,日本
語のウェブサイト(甲2,4)を作成し,パンフレット(甲5)等による営業
活動を積極的に行っていること,③原告が市場に白色かベージュ色の製品しか
存在しない中で,製品そのもののピンク色を強調するマーケティングを行った
結果,同業他社や専門家にもピンク色の本願商標に係る立体的形状が広く認知
され,本願商標に係る商品の評価も非常に高く,原告は,先端的セラミック分
野におけるグローバルリーダーであるとも評されていること(甲23)などか
ら,本願商標に係る立体的形状に接した需要者は,当該製品を「セラムテック
社のインプラント」ないし「あのピンク色のインプラント」と認識するに至っ
ていること,④欧州医療用品供給業者団体による統計によれば,欧州各国で原
告の業務に係る商品が出荷され使用され(甲18),本願商標に係る商品は,「
バーバリアンイノベーションアワード2006」での目覚ましく革新的な功績
による表彰や「EFORTインダストリーアワード2013」での評価をはじ
めとして,「Heinz-Mittlemeier研究賞」の受賞等,欧州各国において,高く評
価されており(甲19,20),また,ドイツのベルリンで開催された第13
回EFORT会議に参加した整形外科医療従事者を対象者として,2012年
(平成24年)5月24日から25日に実施したアンケート結果(甲17)に
よれば,整形外科医療従事者の約6割が,本願商標に係る立体的形状を「(具
体的な社名を挙げることはできないものの)特定の企業の商品である」と回答
し,約4割が「セラムテック社の商品である」と回答しており,上記アンケー
ト結果から,本願商標に係るピンク色をしたイラストや立体的形状がその指定
商品に使用され,ドイツをはじめとした各国において需要者の間に広く認識さ
れていることが明らかであること,⑤ニュージーランド・オークランドにおい
て関節置換手術に精通している整形外科医でさえ,ピンク色のインプラントと
いえば原告の「BIOLOXdelta」を連想すると認識していること(
甲24,25)などからすると,ドイツのみならず,日本においても,本願商
標がその指定商品に使用された結果,需要者が原告の業務に係る商品であるこ
とを認識することができるに至ったものといえるから,本願商標は商標法3条
2項に該当する旨主張する。
そこで検討するに,商標法は,商標登録の要件について,3条1項で,同
項各号に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる旨定め,同条2
項で,前項3号から5号までに該当する商標であっても,その使用をされた
結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することが
できるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることが
できる旨定めていることからすると,同条2項により商標登録が認められる
ためには,前項3号から5号までに該当する商標が,その使用の結果,指定
商品又は指定役務の需要者の間で,特定の者の出所表示として我が国におい
て全国的に認識されるに至ったことが必要であるものと解される。
しかるところ,原告が挙げる「BIOLOXdelta」シリーズのボ
ールヘッド型インプラント商品の販売実績,原告の商品が人工股関節用セラミ
ックインプラントに占めるシェアが約80%に至ること,欧州医療用品供給業
者団体による統計などの諸点は,我が国の市場における上記商品の販売実績
やシェアについて述べるものではなく,我が国における需要者の認識に直接反
映されるものとは認め難い。
また,原告は,日本においても,日本語のウェブサイトを作成し,パンフレ
ット等による営業活動を積極的に行っている点を挙げるが,我が国の市場にお
ける上記商品の販売実績やシェアについて具体的な立証はされていない
し,日本語のウェブサイトのアクセス数,パンフレット等による広告宣伝がさ
れた期間,地域及び規模等についての具体的な立証もない。
さらに,原告が挙げるアンケート(甲17)は,ドイツのベルリンで開催さ
れた第13回EFORT会議に参加した整形外科医療従事者を対象として行わ
れたアンケートであり,そのアンケートの回答者の中に日本人が含まれている
ことを認めるに足りる証拠はないことに照らすと,上記アンケートの結果
は,我が国において,本願商標が原告の業務に係る商品を表すものとして需
要者の間に広く認識されていることの根拠となるものではない。同様に,原
告が挙げるニュージーランドの整形外科医の認識も,我が国において,本願商
標が原告の業務に係る商品を表すものとして需要者の間に広く認識されてい
ることの根拠となるものではない。
以上によれば,原告が挙げる諸点を勘案しても,本件審決時において,本
願商標が,その使用の結果,指定商品の需要者の間で,原告の業務に係る商
品の出所を表示するものとして我が国において全国的に認識されるに至って
いたものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本願商標が本件審決時において商標法3条2項に該当する商
標であったものと認められないから,原告の上記主張は,理由がない。
(2)小括
以上のとおり,本願商標が本件審決時において商標法3条2項に該当する
商標であったものと認められないから,これと同旨の本件審決の判断に誤り
はなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
3結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審
決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官富田善範
裁判官大鷹一郎
裁判官鈴木わかな
(別紙)立体商標目録
(ただし,色彩については原本参照)

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