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判決 平成14年3月26日 神戸地方裁判所 平成14年(ワ)第146号預託金
返還請求事件
            主    文
   一 被告は原告に対し,金820万円及びこれに対する平成14年2月10
日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
   二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
            事実及び争点
第一申立
   主文と同じ
第二 事案の概要
   本件は,原告が被告に対し,原告が被告に預託したゴルフクラブの入会預託
金の返還を請求した事案である。
 一 争いのない事実等(証拠を摘示しない事実は争いがない。)
  1 甲(以下,「破産者」という。)は,平成13年11月16日午後2時3
0分,神戸地方裁判所尼崎支部において破産宣告を受け(同支部平成13年(フ)第
1253号事件),原告が破産管財人に選任された(甲1)。
  2 破産者は被告との間で,平成元年11月28日,被告経営のゴルフ場を利
用できる全旭国際ゴルフ倶楽部(以下,「本件クラブ」という。)の個人正会員に
破産者がなることを内容とする会員契約を締結し,被告に対し,入会預託金として
820万円を預託した。
  3 原告は被告に対し,平成14年1月15日に到達した書面で,本件クラブ
から退会する旨の意思表示をした。
  4 本件クラブの会則には,以下のような条項がある。
   (1) 入会預託金は,5年間の据置期間経過後,退会の際に返還する。
   (2) 前項にかかわらず,天災地変,その他やむを得ざる事情ありたる場合及
びその他理事会の決議により必要と認めたる場合は,前記据置期間を延長すること
がある。(9条)
  5 全旭国際ゴルフ倶楽部理事会(以下,「理事会」という。)は,平成13
年1月25日,預託金返還の据置期間を5年間延長する決議(以下,「本件決議」
という。)をした。
  6 被告は,総会員数1万人余り,預託金総額500億円余り,総ホール数1
26を有する関西随一の預託金会員制ゴルフ倶楽部を経営する会社である。
    バブル経済崩壊後の長引く不況により,ゴルフ場の来場者数は減少の一途
をたどり,また,会員権相場の暴落により会員権価格が額面割れするという事態に
至っており,多数の会員が預託金の返還を求めるという事態に陥っている。被告
は,バブル経済期においても無理な投資を避け,他のゴルフ場と比較して堅実な経
営を続けてきたが,それでも長引く不況の影響は避けられず,来場者数の減少,コ
ース売上の減少という事態を招いた。こうした状況の中でも,被告は,平成7年か
ら12年の間に総額97億円余りの預託金の返還をしてきた。そのため,遊休不動
産の売却,人件費の削減,販売費・管理費の削減,集客力増進のための努力等の施
策を講じてきた。
    このように,被告は会員の預託金返還請求に対処してきたが,一部会員に
よる預託金全額の一括返還請求や新たな返還請求により,これ以上預託金の返還に
応じることが極めて困難な状況に陥った。
    そこで,理事会は,会則9条に基づき,平成12年6月8日,2年間据置
後即返金又はその時の事情により分割弁済する旨の決議をした。更に,理事会は,
会則9条に基づき,平成13年1月25日,預託金を5年間据え置く旨の本件決議
をした。
 二 争点
   以下に被告が主張するとおり,原告に対し,預託金の据置期間延長の効力が
及ぶかが,本件の争点である。
  1 会則9条の理論的根拠
   (1) 会員契約の集団性,牽連性による内在的制約
     預託金会員制ゴルフ倶楽部を経営する会社は,ゴルフ施設の開発・建設
資金を多数の者から調達するために,集団的約款に類する会則等を予め作成し,こ
れに基づいて個々の会員と会員契約を締結する。すなわち,共通のゴルフ場施設の
利用に関し,預託金の額や利用権の範囲に差はあるものの,質的に同一の契約を多
数の会員と契約することを前提にしている。このように,会員契約は個別に締結さ
れるものの,その発生段階から集団性を有し,ゴルフ場経営会社を基点として相互
に牽連し,1人又は一部の会員の権利行使が他の会員に対して影響を与えることと
なるところ,契約の両当事者は当然これを承知の上契約を締結している。
     仮に,一部の会員の預託金返還請求により,ゴルフ場施設等に強制執行
がなされれば,経営会社の破産申立ということになりかねず,他の多数の会員の権
利は事実上無価値化してしまうことになる。そのため,全ての会員は,他の会員及
びゴルフ場経営会社に対して,このような結果を招来する事態を生じさせる預託金
返還請求を差し控えるべき義務を負っており,会則9条を甘受すべきものである。
   (2) 共同財産性
     預託金会員制ゴルフ倶楽部におけるゴルフ場の諸施設は,会員から集め
られた預託金によって建設されているのであるから,会員の共同財産である。一
方,ゴルフ場経営会社は,経営権の一内容として施設管理の権利を有するととも
に,全ての会員に対し共同財産たるゴルフ場を利用させる役務を長期間,安定的に
提供する義務を負っている。
     したがって,ゴルフ場経営会社は,一部会員による預託金返還請求によ
りゴルフ場経営を行い得なくなるような事態を未然に防止する義務を負っている。
そこで,ゴルフ場経営会社又はゴルフ倶楽部は,会則に預託金据置期間の延長を行
い得る条項を規定し,自ら破綻に至る前に,各会員の預託金返還請求を奪わない範
囲内で,権利変更の程度,代替処置・代償措置による会員の権利保護施策の実施,
会員の多数意見等に配慮し,預託金返還期限の延期をする旨の決議をすることがで
きるのである。
  2 会則は原告に対しても拘束力を有する。
  3 本件決議は,預託金返還の資金が枯渇した被告の経営破綻を避けるため行
われたもので,かかる事情は,会則9条の「やむを得ざる事情ありたる場合及びそ
の他理事会の決議により必要と認めたる場合」に該当する。
    また本件決議による延長は,預託金返還請求権を事実上無にしてしまうよ
うな長期間の延長ではないし,大多数の会員が退会を望んでいないことも明らかで
あり,更に,被告は過去返還請求に誠実に対応し,また代償措置を提案してきたも
のである。
    よって,本件決議は有効であり,原告に対する拘束力を有する。
  4 近時の下級審裁判例によると,①予測不可能な著しい変化,②預託金返還
により倒産が必至等の経営に重大な支障が生じること,③返還期限延長が真にやむ
を得ない措置であり,他に採り得る手段がないこと,④返還期限延長の代償措置が
あること,⑤延長期限経過後に返還が期待でき,かつ,延長期間が可能な限り短期
間に設定されていることの5要件を満たす場合には,延長決議は有効であるとして
いるものがある。本件ではこの5要件は満たすものであり,少なくとも,これらの
要件から総合的に判断すれば,本件決議は有効であるということができる。
  5 本件決議により,預託金の据置期間は平成18年1月25日まで延長され
た。
            理    由
一 本件決議による据置期間延長の効力が認められるか
 1 本件クラブは,いわゆる預託金会員制のゴルフクラブであり,弁論の全趣旨
によれば,ゴルフ場経営会社である被告と独立して権利義務の主体となるべき社団
としての実体を有しないから,会則は,これを承認して入会した会員と被告との間
の契約上の権利義務の内容を構成するものということができ,会員は,会則に従っ
て入会の際に預託した預託金を会則に定める据置期間を経過後に退会の上返還請求
することができるものであり,会則に定める据置期間を延長することは,会員の契
約上の権利を変更することにほかならないから,原則として,会員の個別的な承諾
を得ることが必要であり,承諾を得ていない会員に対しては据置期間延長の効力を
主張することはできないものと解すべきである(最高裁昭和61年9月11日第1
小法廷判決・判例時
報1214号68頁参照)。
 2 本件で,被告は,会則9条に基づき据置期間延長の決議をしたと主張してい
るが,「天災地変,その他やむを得ざる事情ありたる場合」に該当するのか,ある
いは「その他理事会の決議により必要と認めたる場合」に該当するというのかは明
確でない。
   ところで,本件で被告が主張している事情は,経済情勢の変化により全ての
預託金返還請求に応じることが著しく困難となったというものであるところ,この
ような事情は,被告だけではなく全ての財産上の給付義務を負っている債務者に起
こり得ることであり,このような事情をもって「天災地変,その他やむを得ざる事
情」に該当すると解することはできない。
   また,「その他理事会の決議により必要と認めた場合」という規定は,理事
会に大幅な裁量を許す規定であると解されるが,被告主張の事情の上記のような性
格を考えると,これをもって同規定に該当すると解することが許されるとすれば,
返還が困難になれば理事会決議をもって自由に期限延長ができるという結果を容認
することになり,このような結果が会員契約の本旨に反することは明らかである。
   被告は,近時の下級審裁判例に基づき,被告主張の5要件が満たされれば据
置期間延長決議は会員を拘束すると解すべきであると主張するが,本件では(会則
を前提とすれば),少なくとも,会員全体の意見を聴取して大多数の賛成の下に延
長決議がなされたというような事実がない限りは,被告主張の5要件を満たすか否
かに関わりなく,延長決議を個別的に承諾していない会員に対して主張できないと
解するべきであるところ,このような手続を経て本件決議がなされたものでないこ
とは,弁論の全趣旨により明らかである。
   よって,その余の点を判断するまでもなく,被告の主張は理由がない。
二 結論
  以上によれば,原告の請求は理由がある。
     神戸地方裁判所第5民事部
          裁判官   前   坂   光   雄

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