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平成17年(行ケ)第10221号 審決取消請求事件
平成17年11月21日口頭弁論終結
判       決
    原       告   原告X
    同訴訟代理人弁護士   小野明
    同訴訟代理人弁理士   木村高明
    被       告   特許庁長官 中嶋誠
    同指定代理人      宮下正之
    同           伊藤三男
    同           立川功
主       文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が不服2004-315号事件について平成16年5月11日にした
審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文第1及び第2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
   原告及びコクミンクレジットカードカンパニーリミテッド(以下「コク
ミンクレジット」という。)は,発明の名称を「非接触方式の無線波認識クレジッ
トカードシステム」とする発明につき,韓国において平成7年6月16日付け特許
出願(1995/16057)及び平成8年3月14日付け特許出願(1996/
6854)をし,これらの出願に基づき,平成8年4月29日付けで日本を指定国
に含む国際出願(PCT/KR96/00061)を行った。原告及びコクミンク
レジットは,平成9年2月17日,特許法184条の5第1項の規定による書面を
特許庁に提出し(平成9年特許願502933号。以下「本願」という。),同月
18日,出願審査請求をした。特許庁は,平成14年3月19日付け及び平成15
年2月5日付けで拒絶理由を通知した上,平成15年9月29日付けで本願につい
て拒絶査定をし(審判請求のための付加期間が60日と定められた。),同年10
月8日,その謄本が原告及びコクミンクレジットに送達された。
   この拒絶査定に対し,平成16年1月5日,コクミンクレジットのみを審判
請求人として表示した書面(以下「本件審判請求書」という。)により審判請求
(以下「本件審判請求」という。)がされ,特許庁は,これを不服2004-31
5号事件として審理し,同年5月11日,「本件審判の請求を却下する。」との審
決をし(出訴のための付加期間が90日と定められた。),同月31日,その謄本
がコクミンクレジットに送達された。
   原告は,平成16年8月20日,共同出願人としてコクミンクレジットが有
する特許を受ける権利を譲り受け,同年9月21日,出願人名義変更届を特許庁長
官に提出し,これが受け付けられた。その後,原告は,同月22日,本件訴えを提
起した。
2 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件審判請求は,特許を受け
る権利の共有者全員が共同してしたものでないから,特許法132条3項の規定に
反する不適法な請求であって,その補正をすることができないものであるから,同
法135条の規定により却下する,とするものである。
第3 原告主張の取消事由の要点
 本件審判請求書には,審判請求人としてコクミンクレジットしか表示されて
いないが(なお,代理人の委任状は後日追完する予定で本件審判請求書を提出し
た。),本願については,その出願時から原告及びコクミンクレジットが共同出願
人となっており,特許を受ける権利の共有者双方を代理する代理人があえて一方当
事者のみのために審判請求をすることは想定し難いから,特許庁において本件審判
請求が原告及びコクミンクレジット双方のためにされたものであることを知ること
が可能であった。このような場合において,特許庁は,特許法131条1項に定め
る方式不備があるものとして,同法133条1項の規定に従い,相当の期間を指定
して当事者の表示の補正を命ずるべきであり,これを命ずることなく本件審判請求
を却下した審決には,重大な手続的違法があるから,審決は取り消されるべきであ
る。
第4 被告の反論の骨子
 本件審判請求書に表示された請求人はコクミンクレジットのみであり(な
お,本件審判請求書の提出に際し,代理人の委任状は提出されていない。),審判
請求期間内に,原告も共同して審判請求をする意思があることを推認させる事情は
なかった。したがって,本件審判請求は,特許を受ける権利の共有者である原告及
びコクミンクレジットが共同してしたものであるとは認められず,不適法なもので
ある。したがって,単なる請求書の方式不備ということはできず,特許法133条
1項の規定を適用する余地がないものであるから,補正する機会を与えず,本件審
判請求を却下した審決に何ら違法はない。
第5 当裁判所の判断
 1 本件審判請求は,平成16年1月5日,木村高明弁理士(以下「木村弁理
士」という。)を代理人として,コクミンクレジットのみを審判請求人と表示した
本件審判請求書によってされたものである(前記争いのない事実及び甲第1号証の
2)ところ,本件審判請求の時点で,木村弁理士の委任状が提出されていなかった
ことは,当事者間に争いがない。
   乙第1号証によれば,本願の出願時点における原告及びコクミンクレジット
の代理人は,A,B及びCの各弁理士(以下「A弁理士ら」という。)であり,木
村弁理士は含まれていないことが認められる。また,乙第1号証中の「委任状」に
よれば,A弁理士らは,原告及びコクミンクレジットを代理して審判請求を行う権
限も有していたことが認められるが,本件審判請求書(甲第1号証の2)には,A
弁理士らが代理人として表示されておらず,木村弁理士だけが代理人として表示さ
れていることが認められる。
 2 特許法132条3項は,特許を受ける権利の共有者が共有に係る権利につい
て審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならないと定め
ている。
 しかし,本件審判請求書の記載自体からすると,本件審判請求は,共有者の
1人であるコクミンクレジットのみが木村弁理士を代理人として審判請求をしたも
のであると解される。そして,前記1に認定したとおり,本願の出願時の委任状
(乙第1号証)には,A弁理士らは,原告及びコクミンクレジットを代理して審判
請求を行う権限も有する旨が記載されていたが,本件審判請求については,その代
理人にA弁理士らは含まれておらず,それまで出願手続に関与していなかった木村
弁理士が新たに代理人となっていたのであり,しかも,木村弁理士に対する委任状
の提出もなく,木村弁理士がコクミンクレジットのほかに原告の委任を受けていた
ことを窺わせる事情も存在していなかったのであって,出願過程で提出された書面
に照らしても,本件審判請求が,原告の主張するように「特許を受ける権利の共有
者双方を代理する代理人が一方当事者のみのために」した審判請求であるとは,認
められない。このことは,弁理士が,審判請求以降の手続についてのみ代理人とな
ることも,また,特許を受ける権利の共有者の一部の者のみの代理人となることも
できることからいっても,明らかである。
 ところで,甲第3号証(出願人名義変更届)には,原告から木村弁理士に対
する委任状があり,委任事項の一つとして本願に関する「拒絶査定に対する審判の
請求」が挙げられているが,この委任状は,原告がコクミンクレジットから共同出
願人としての特許を受ける権利を譲り受けたことに基づく出願人名義変更届ととも
に提出されたものであるところ,それが特許庁に提出されたのは平成16年9月2
1日であって,審判請求期間が経過した後であり,しかも審決がされた後であるこ
とが明らかである(なお,上記委任状は,作成日付が平成16年1月27日であ
り,審判請求期間が経過した後のものである。)から,これをもって本件審判請求の
請求人を判断する資料とすることはできない。このほか,審判請求期間満了時(平
成16年1月6日)までに,原告及びコクミンクレジットから木村弁理士に対する
委任状が特許庁に提出(追完)されたと認めるに足りる証拠はない。
   以上のとおり,審判請求期間満了時までに提出された書面によっては,本件
審判請求について,原告も共同して審判請求をする意思があることを推認させる事
情は認められないから,本件審判請求は,本件審判請求書に記載されているとおり
コクミンクレジットが単独でしたものとみるほかない。そうすると,本件審判請求
書が特許法131条1項所定の方式に違反しているとはいえず,同法133条1項
の規定により補正を命ずべき場合に当たらないから,当事者の表示の補正を命ずる
ことなく本件審判請求を却下したことは違法ではない。
 3 結論
   以上に検討したところによれば,本件審判請求は,特許を受ける権利の共有
者全員によってされたものであるとは認められず,不適法なものであるから,これ
を却下した審決の判断に誤りはなく,その手続に違法があるともいえない。原告の
主張する取消事由は理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められな
い。
   よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担,上告及び上
告受理の申立てのための付加期間につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61
条,96条2項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官    佐  藤  久  夫
裁判官    三  村  量  一
裁判官    古  閑  裕  二

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