弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人らに対し被上告人への金銭支払を命じた部分を破棄し、
右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
     その余の上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人国指定代理人貞家克己、同高橋欣一、同伊藤瑩子、同宝金敏明、同舟越俊
雄、同北川直彦、上告人滋賀県指定代理人沢慶一郎、同松村敢、同中嶋太郎次、同
関河道夫の上告理由第一及び第二について
 本件堤防及びその地盤である本件土地が被上告人の所有に属するとの原審の認定
判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認しえないものではなく、その過程に
所論の違法はない。論旨は、ひつきよう原審の専権に属する事実の認定、証拠の取
捨を非難するものであつて、採用することができない。
 同第三について
 一 原判決の認定判断の要旨は、「本件河川である安曇川は、旧河川法(明治二
九年法律七一号、昭和四〇年四月一日廃止)の準用河川であり、現行河川法の一級
河川であるところ、被上告人先々代は、明治二五年頃右河川の氾濫による水害から
本件土地付近にある同人所有の田地を守るため自己所有の本件土地内に本件堤防を
築造し、その後一〇余年にわたつて補強を重ね、ほぼ現状のとおりの堤防(ただし、
昭和二八年以後a町ないし滋賀県知事において復旧補修した東端部分は現状と異な
る。)を完成し、以後被上告人先代及び被上告人においてその補修、管理を続けて
いたものであつて、本件堤防及びその地盤である本件土地は被上告人の所有に属す
るところ、上告人らは、始期は明らかではないがおそくとも昭和三四年一一月一日
以降本件堤防を河川管理施設である堤防と誤信して補修を加えたり、堤防上の竹を
伐採したりして本件堤防を利用している。そして、本件堤防は、右のように被上告
人所有の田地を本件河川の氾濫による災害から守るために築造され、以来現在にい
たるまで本件土地付近の農地を右水害から守る役割を果しており、本件河川の管理
上本件堤防の設置又はこれに代るべき施設の設置が必要不可欠と認められるところ、
河川管理者として堤防を築造する義務を有することの明らかな上告人国及びその費
用を負担すべき上告人滋賀県は、他人の設置した堤防を権原なく利用することによ
り、みずから堤防を築造する費用の支出を免れ、法律上の原因なく利得し、かつ所
有者に損失を与えているものということができ、右利得及び損失は、一年につき、
昭和三四年頃の本件堤防に相当する堤防を新に築造するための費用二五〇〇万円の
年六パーセントにあたる一五〇万円と認めるのを相当とし、右利得及び損失は上告
人らにおいて本件堤防の買受け又は代替堤防を築造するにいたるまで続くものと推
認されるから、上告人らは各自被上告人に対し昭和三四年一一月一日以降本件堤防
の買受け又は代替堤防の築造にいたるまで一年につき一五〇万円の割合による金員
の支払義務がある。」というのである。
 二1 原判決は、右のように上告人国及び上告人滋賀県は、本件堤防を利用する
ことによつて不当利得しているものとするところ、上告人国は本件堤防を占有する
ことを明らかには争わないが(原判決理由七(一)(2))、上告人滋賀県が本件堤防
を占有することは認められないのであつて(同七(一)(1))、原判決のいう上告人
らの本件堤防利用の内容及びこれを前提とする同人らの不当利得の内容は、明確を
欠くといわなければならないところ、仮に原判決の趣旨が、本件河川の河川管理者
である上告人国において、被上告人所有の本件堤防を河川管理施設としての堤防と
して占有、使用するというのであれば、本来右堤防付近の土地を河川区域と認定し
たうえ同堤防につき所有権、使用権を取得する等の手続を経て占有、使用すべきで
あるのに、同上告人がそのような手続をとることなく本件堤防を事実上河川管理施
設としての堤防として占有、使用していることをもつて、不当利得とするというの
であれば、それは他人の物を権原なく占有することによる不当利得を認めたもので
あつて、その限りにおいてその判断は正当である。しかし、原判決は、その利得を
一年につき昭和三四年頃の本件堤防に相当する堤防の新設に要する費用二五〇〇万
円の六パーセントと認定するところ、右堤防の利用による上告人らの利得の算定に
あたり、他に適切な方法がないときは、原判決のようにその建設費の利回り計算に
よつて算定することもあながち不合理とはいえないとしても、建設費については、
鑑定をするなど客観的な資料によつて認定すべきであるにもかかわらず、原判決は
「本件堤防に相当する堤防を新に築造するには予算二五〇〇万円を要する。」旨の
証言のみに依拠してこれを認定し、また、不動産による利潤について利回り計算を
するにあたつて商事法定利率に等しい年六パーセントの利率を用いることは高きに
すぎて正当ではないばかりでなく、上告人国が堤防を使用しているとすれば通常こ
れに伴い必要費、有益費を支出しているのであつてこれを控除すべき筋合であるの
に、原判決はなんらそのことを考慮にいれていない。更に、他人の物の不法占有に
よる不当利得の発生はその占有をやめることによつて終るのが通常であるところ、
原判決は、本件堤防が本件河川の管理上必要不可欠であり、上告人らに右堤防の買
受け又は代替堤防を築造する義務があることを前提として、上告人国の不当利得は
上告人らにおいて右堤防を買い受け又は代替堤防を築造するまで継続して発生する
とするのであるが、河川管理のため河川のどの地点にいかなる管理施設を設置すべ
きかは、河川管理者がその河川の特性、河川全流域の自然的・社会的条件、河川工
事の経済性等あらゆる観点から総合的に判断して決めるべきことであり、単にある
特定の地点に河川の氾濫による災害の生ずるおそれがあるとか、災害が生じたとか、
あるいは河川管理者がたまたま住民私有の堤防を占有、使用していた等の事実があ
ることから直ちに河川管理者に右地点に堤防を築造する義務又は既存の住民私有の
堤防を買い受ける義務があるとはいえないのであつて、河川管理者にそのような義
務があるというためには、前述のようなあらゆる観点から総合的に判断して、河川
管理上その地点に河川管理施設を設置することが必要不可欠であることが明らかで
あり、これを放置することがわが国における河川管理の一般的水準及び社会通念に
照らして河川管理者の怠慢であることが明白であるといえるような特別な事情のあ
ることを必要とするといわなければならない。ところが、原判決は、右特別の事情
の存在を考慮することなく漫然上告人らの本件堤防買受け又は代替堤防築造義務を
認め、上告人らが右義務を果たすまで不当利得の発生が継続するとするものであつ
て、その点においても、不当利得の法理の適用を誤つたものといわなければならな
い。
  2 上告人滋賀県については、前述のように、原判決は、右上告人が本件堤防
の占有をしないとしながら、同人は堤防の築造費の支出を免れ不当利得するとする
ところ、原審の右判断は、上告人国の本件堤防買受け又は代替堤防築造義務を前提
としてこれに伴う河川管理費用の分担者である上告人滋賀県のその費用の支出義務
を認めたものと解されるが、前述のように、なお上告人国の右義務を認めるには足
りないのであり、したがつて上告人滋賀県の右費用支出義務を認めることもできな
いから、同上告人の不当利得を認めた原判決は違法といわなければならない。
 3 右のとおりであるから、論旨は理由があり、原判決中上告人らに対し被上告
人への金銭支払を命じた部分は破棄を免れないところ、叙上に指摘した各点につい
て当事者双方に攻防を尽くさせたうえ十分な審理を遂げるため、右破棄部分につき
本件を原審に差し戻すのを相当とする。
(結 論)
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、八九条、九三条に従い、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光
 裁判官下田武三は退官のため評議に関与しない。
         裁判長裁判官    岸       盛   一

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