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判決 平成14年3月26日 神戸地方裁判所 平成12年(わ)第609号,同第
731号,同第893号 傷害,横領,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
主    文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中300日をその刑に算入する。
回転弾倉式けん銃1丁(平成12年押第178号の1),実包5個(同号
の2)及び弾頭つき空薬きょう3組(同号の3の1から3)を没収する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理    由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 AがBから貸与を受け,Bの承諾を得て65万円で入質した男物腕時計(ロ
レックス)1個を返還しないことから,Bがその返還を受けるため,Bより,Aに
上記腕時計を質請けさせるため,その返済資金をAに交付するよう依頼を受け,平
成11年9月6日ころ,神戸市兵庫区(以下省略)の「焼きとりC」店内で,Bか
ら前記返済資金として現金70万円を受領し,Bのため預かり保管中,そのころ,
Bから70万円の返還を求められたが,ほしいままに,これを自己の用途に費消す
る目的で返還せず着服して横領した。
第2 法定の除外事由がないのに,平成12年3月10日ころから同年5月20日
までの間,同市灘区(以下省略)の市営a住宅b号室のD方で,回転弾倉式けん銃
1丁(平成12年押第178号の1)とこれに適合する実包8発(同号の2,3の
1から3。なお,同号の3の1から3は,鑑定のため試射済み。)と共に保管して
所持した。
第3 同年5月14日午後11時15分ころ,同区(以下省略)の自宅で,妻のE
(当時37歳)の帰宅が遅いとして立腹し,Eに対し,その顔面等を殴り付け,そ
の背中等を足蹴にする等の暴行を加え,その結果,Eに約9日間の治療を必要とす
る頭顔打撲,頸椎捻挫,胸部打撲,右胸擦過傷,両下肢打撲の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
省略
(争点に対する判断)
第1 判示第1の横領の事実について
1 被告人は,捜査段階及び公判を通じ,Bから預かった70万円は,Bの了承
を得て使ったものであると主張する。
2 まず,前掲関係証拠によれば,以下のような事実が認められる。これらの事
実は,被告人とBにおいて,概ね争いはない。
(1) Bは,神戸市内で美容院を経営しているものであるが,かねてから,Aや
Fに対し,多額の金銭を貸し付けていた。
(2) Bは,Aから金銭を貸してくれと頼まれていたが,これを断り,平成11
年8月25日ころ,Aに対し,1週間ほどの期限の約束で,Bの夫に内緒で,その
夫の腕時計(ロレックス)を貸した。Bは,Aが,金銭であれば返してくれない
が,Bの夫のロレックスを,夫に内緒で貸せば,確実に返してくれるだろうと考え
て貸したものであり,Aも,Bが夫に内緒でロレックスを貸してくれていることは
分かっていた。Aは,同日,Bから借りたロレックスを神戸市長田区内の質屋cに
質入れし,65万円を借り受けた。
(3) しかし,その後,Aは,約束の期限になっても,ロレックスを質請けして
Bに返そうとしなかった。そこで,Bは,同年8月末か9月初めころ,平成10年
夏ころからAの紹介でFに対する債権の回収を依頼していた暴力団組長の被告人に
ロレックスの質請け代金70万円を預け,これを被告人からAにロレックスの質請
け代金として貸し渡し,Aにロレックスを質請けさせて返してもらおうと考えた。
(4) Bは,平成11年9月6日ころの午後5時ころ,同市兵庫区(以下省略)
の「焼きとりC」で,被告人に対し,前記のような事情を説明した上,被告人に7
0万円を預けるので,これを被告人からAに貸し渡し,Aにその70万円でロレッ
クスを質請けさせてBに返すようにしてほしい旨を話し,被告人に現金70万円を
手渡して預け,被告人は,これを承諾し,70万円を預かった。
(5) 翌7日ころ,被告人は,Aを被告人宅に呼び出し,Aに対し,被告人がロ
レックスの質請け代金として70万円を貸すから,Bのロレックスを質請けするよ
うに言ったが,Aは,被告人の申出を断った。そのため,前記70万円は,被告人
が預かったままであった。
(6) 同月8日,Bは,被告人に対し,被告人に預けた70万円をAに渡したか
どうか確認の電話をかけた。被告人は,Aが2,3日したら金が入るので,その金
で請け出す旨言っていると伝えたところ,Bは,被告人に対し,「(被告人の姓)
さん,お金(70万円のこと)持っとるよね。」と尋ね,被告人は,「持っとる
よ。」と答えた。このとき,Bは,被告人に対し,2,3日してもAが請け出さな
いのであれば,被告人がAから質札を取り上げて,ロレックスを質請けしてくれる
ように言ったりしたが,Aは,その後もBにロレックスを一向に返さなかった。B
は,被告人に対し,ロレックスの質請けがどうなっているのか,70万円を返して
ほしい等と頻繁に催促の電話をしていた。
(7) Bは,その約1か月後である同年10月6日ころ,同市灘区(以下省略)
の喫茶店「G」で,被告人と会い,被告人に対し,「70万円を返してほしい。」
と言った。
3 B証言の要旨
    しかるところ,証人Bは,前記70万円に関して,概ね以下のように証言
する。
(1) 被告人に前記70万円を渡した2,3日後,Bが,被告人に電話をかけた
ところ,被告人は,Aが70万円を受け取るのを断ったと言った。それで,被告人
は,その70万円は被告人が預かっておくと言った。そのため,Bは,被告人に対
し,電話等で70万円を返してくれるように言っていた。
(2) そして,同年9月終わりころ,被告人が,Bに対し,「Aの弱みは何かな
いか。」,「Aをちょっと懲らしめたらなあかん。」と言ってきたことがあり,そ
の2,3日後,AからBに電話があり,Aが,「お姉さん(Bのこと),うわあ,
えらいことしてくれたなあ。」とわめき散らすように言い,Bは,Aが何者かに襲
われてけがをしたことを知った。それで,Bは,被告人に対し電話し,「Aがわあ
わあ言うて電話してきとるけど,何かあったん。」と聞くと,被告人は,「いや,
ちょっと懲らしめただけや。」と答えていた。
(3) さらにその2,3日後,Bは,被告人に対し,電話で,70万円を返して
くれるように頼んだところ,被告人は,「Aに,若い子の二人が顔を見られたか
ら,Aを殴った。二人を逃亡させなあかん。その逃亡費用に70万円は使わせても
らう。若いもんを大阪の方の組に預ける。」などと言った。そのため,Bは,自分
がAを殴ったりすることを頼んだわけではないので,「それは困る。これ(70万
円のこと)は別のお金や。」と言って,Bが預けている70万円を,被告人が,若
い者の逃亡費用として使用することを拒絶した。
(4) その後,Bは,同年10月20日ころまで,被告人に対し,70万円を返
してくれるように繰り返し要求していた。
(5) Bは,被告人に対し,被告人が,Aから取り立てた金銭の中から前記70
万円を差し引いてもよい旨の話をしたことはない。また,被告人が,Bに対し,そ
のような趣旨の話をしたこともない。
4 以上のB証言は,正確な日時等について,多少記憶の減退があるものの,証
言内容は自然であり,前記70万円については,あくまでも被告人に対し,返還を
求めており,これを被告人の配下の若い者に対する逃亡費用,行動費用として使用
することを承諾したことはない旨一貫して明確に証言しているところであり,弁護
人の反対尋問にも崩れていない。しかも,以上のB証言は,被告人から前記70万
円は,Aを襲撃した被告人の配下の者の逃亡資金に使うと言われ,何で逃亡資金を
自分(Bのこと)が払わなければならないのかとBが怒っていた,Bは,逃亡資金
に使うことの承諾をしてしまったことはない旨証言しているH証言と合致している
だけでなく,前記のAを襲撃させたのはその陰湿な人間性からしてBの仕業だと思
ったとまで証言しているA証人が,同年11月,12月ころになっても,Bが,前
記70万円を被告人が返してくれない旨かなり強い口調で怒っていた,Bが,その
70万円は,被告人に対して足代として使わせると言っていたことは全然聞いたこ
とがない旨これまたB証言と合致する証言をしていることに照らし,十分に信用す
ることができると認められる。
5 被告人の弁解について
これに対して,被告人は,捜査段階及び公判を通じ,前記70万円は,債権
取立てのための足代(交通費)として使いたい旨Bに了解を求めたところ,Bが承
諾した旨弁解する。
しかし,以上に検討したB証言,A証言,H証言のとおりであり,被告人の
前記弁解に沿う証拠は全く見あたらない。
加えて,被告人の前記弁解供述を見ても,被告人は,足代とか交通費という
ものの,捜査段階では,警察官調書(39号証,41号証)では,Fの件の取立て費用
として承諾を得た旨述べていたのに,警察官調書(42号証,43号証)では,単に交
通費として承諾を得たと述べ,さらに,検察官調書(46号証)では,A,Fの件で
足代がかかっている旨供述している。また,公判でも,弁護人の質問に対しては,
Fの件で50万円以上使っているとBに言った旨述べ,検察官の質問に対しては,
70万円というのはAとFの件の交通費両方を含んでいる旨述べ,裁判官の質問に
対しても,Fの分で50万円くらい使っていた,多少はAの分も入っている旨供述
しているのであって,その供述の重要部分が,区々に変転しているのである。それ
ばかりか,警察官調書(
41号証)によれば,被告人は,Aと雑談中に被告人が,Fの件の取立てにつきBか
ら足代をもらっていないという話になった際,Aから前記70万円を足代として使
ったらどうかと勧められて,そうすることにしたというのであるが,そのような事
項につき他人に言われて気が付くということ自体いかにも不自然である上,被告人
は,公判では,前記のように同年10月6日に「G」に行く途中に,交通費に使う
ことを思いついた旨,前記警察官調書(41号証)の供述とは異なる供述をしている
のである。
なお,被告人は,捜査段階及び公判を通じ,被告人の配下の者がAを襲った
事実はなく,それは,Aの一人芝居であると供述しているが,襲われた際の状況や
それに立腹したAがBに対し電話で文句をつけた状況等,A及びB両証人が迫真性
に富んだ証言をしていること,Aが顔面打撲・挫創等により約10日間の安静加療
を要する傷害を負ったとする平成11年9月17日付の医師の診断書を捜査機関に
提出していることに徴し,到底信用することができない。
以上の諸事実に照らせば,前記70万円は債権取立てのための足代(交通
費)として使う旨Bから承諾を得ていた旨の前記被告人の捜査段階及び公判の供述
は,到底信用することができない。
6 以上の次第で,B証言のほか,前掲関係証拠によれば,判示第1の横領の
事実は優に認めることができる。
第2 判示第2のけん銃加重所持の事実について
1 被告人は,捜査段階及び公判を通じ,被告人は,本件けん銃及び実包につい
ては全く知らないと主張する。
2 前掲捜索差押調書(55号証),写真撮影報告書(56号証,57号証),鑑定
書(62号証)等によれば,以下の事実が認められる。
平成12年5月22日午後零時15分ころ,兵庫県西宮警察署の警察官が,
D方を捜索したところ,D方8畳台所南東隅の水屋下段片開き戸棚内から,黄色ビ
ニール袋の包みが発見され,その中から白色ビニール袋に包まれたホルスター入り
回転弾倉式けん銃1丁(平成12年押第178号の1)とこれに適合する実包8発
(同号の2,3の1から3。なお,同号の3の1から3は,鑑定のため試射済みの
弾頭つき空薬きょう。)が発見された。
3 D証言の要旨
本件けん銃及び実包に関し,証人Dは,概要以下のとおり証言している。
(1) 被告人は,Eと夫婦であり,Eの母方叔母がDであるが,Dは,平成11
年5月ころの午後7時ころ,D方玄関で,姪のEからずしんと重い感じのものの入
った白色ビニール袋を預かった。そのとき,Dは,Eから,「お姉ちゃん(Dのこ
と),これ被告人のやけど,ちょっと預かっといてくれへん。」と言われ,Dは,
そのビニール袋の中身を尋ねたが,Eは知らなかった。Dは,Eから品物を預かる
のが初めてでもあり,いったん断ったが,Eに「置いといて,そのうちに被告人が
取りに行くから。」と言われ,預かることにし,台所の水屋に入れて,全く触るこ
ともなかった。
(2) 平成12年3月ころの午後7時を回ったころ,スーツを着た被告人が,D
がEから預かっていた白色ビニール袋に入ったものを一人で取りに来た。Dは,白
色ビニール袋に入ったものを被告人に渡し,Eの勤務先である美容院「J」に電話
し,Eに,Eが預けていたものを被告人が取りに来たことだけを伝えた。
(3) その1週間くらい後,Dは,Eから,電話で,この間被告人が取りに来た
ものを再度預かってほしいと依頼され,断ったが断り切れず,結局預かることにな
り,同日午後6時すぎころ,Dは,D方から歩いて5分ほどのところにある,Dの
借りている駐車場で,Eから,中に白いビニール袋の入った黄色ビニール手提げ袋
を預かった。そのとき,Dは,預かったものの中身までは見て確認しなかったが,
その重さは前回の平成11年5月ころに預かったものとほぼ同じくらいであった。
Dは,そのビニール袋に入ったものを前回に預かったときと同じ水屋に入れておい
た。
(4) 平成12年5月15日(月曜日)ころ,Dは,Eから,電話で,同日こ
ろ,被告人が逮捕されたことを聞いた。その後の同月17日(水曜日)ころ,Eか
ら電話があり,Eは,Dに対し,電話で,被告人の舎弟のIがEの美容院「J」に
Dの電話番号等を聞きに来た,それで,Iが,D方へ,Eが預けた黄色ビニール袋
に入ったものを取りに行くかも分からないが,渡さないでほしい旨言った。
(5) 同月20日(土曜日)昼ころ,Dは,昼休みでいったん帰宅していたと
き,Eから,「お姉ちゃん,ちょっと取りに行くわ。」という電話があった。それ
で,Dは,預かっていた黄色ビニール袋に入ったものを持って,D方前の道路に出
て待っていると,Eがバイクに乗ってきたので,Eに対し,黄色ビニール袋に入っ
たものを渡した。
(6) さらに,翌21日(日曜日)夕方ころ,Dは,Eから電話で,再び預かっ
てほしいと頼まれ,今度も仕方なく預かることにした。Dは,D方玄関で,Eか
ら,前日にEが持ち帰ったのと同じ黄色ビニール袋に入った,大きさや形の同じも
のを預かった。その際,Eは,「ちょっと置いといて。」と言うだけで,Dに何も
説明をしなかった。そして,Dは,受け取った品物の中身を見ることなく,今度も
同じ台所の水屋に入れておいた。
(7) そして,翌22日昼ごろ,D方に警察官の捜索があり,Eから預かってい
た前記黄色ビニール袋が発見され,その中から本件けん銃と実包が出てきた。
4 E証言の要旨
また,証人E(E証人は,被告人が逮捕された後の同年7月19日,被告人
と協議離婚をする旨の届出をし,証言当時,婚姻中の姓から婚姻前の姓に復氏して
いた。なお,同証人は,その後,協議離婚無効の審判が確定したため,婚姻中の姓
に復氏している。)は,概ね以下のとおり証言している。
(1) 平成11年5月ころ,Eは,自宅で,被告人から,縦,横の大きさが約2
0から30センチメートルで,固くてずしりと重い,中の見えない白色ビニール袋
に入ったものを渡され,「お姉さん(Eの叔母であるDのこと)に預けてほし
い。」と言われた。Eは,被告人はやくざなので,ピストルかもしれないと思った
が,被告人には聞かなかった。そして,Eは,自動車で10分くらいの距離にある
D方に前記白色ビニール袋に入ったものを持参し,「被告人が預かってほしいと言
っている。」旨告げて,これをDに預けた。
(2) Eは,その後,前記白色ビニール袋に入ったものをDに預けたままにして
いたが,平成12年3月ころ,Dから,被告人が白色ビニール袋に入ったものを取
りに来たことを電話で聞いた。
(3) その10日くらい後の平成12年3月10日,Eは,出勤前の午前9時か
ら10時までの間ころに,被告人から,前回の平成11年5月にDに預けたものと
同様の固くてずしりと重いものが入っている黄色ビニール手提げ袋を預かり,再度
Dに預けてほしいと言われた。このとき,Eは,前回Dに預けたものと同様に,け
ん銃かもしれないと思った。そして,Eは,同日午後5時50分に,勤務先の美容
院「J」からDの携帯電話に電話し,Dに対し,「ちょっとまた預かってほしいも
のがある。」と言い,嫌がるDを説得して,前記黄色ビニール手提げ袋に入ったも
のを再度預かってもらうこととなり,同日午後6時から6時半までの間ころ,Dの
駐車場にこれを持参して,Dに預けた。
(4) 同年5月15日に被告人が傷害事件で逮捕された後の1週間くらいの間
に,被告人の弟分であるIが,Eの美容院「J」にDの電話番号を問い合わせに来
たことから,Eは,IがD方に預けている前記の黄色ビニール手提げ袋に入ったも
のを取りに行くのではないかと思い,中身がピストルかもしれないと考えていたこ
とから,被告人が逮捕されている間に,被告人の組の組員が取りに来て勝手に移動
させていると,後で被告人から叱責され,またEの責任問題も生じる上,叔母のD
にも迷惑をかけたくないと考え,Dに電話して,Dに対し,前記黄色ビニール手提
げ袋に入ったものは,Iとか誰が来ても渡さないように言った。
(5) そして,Eは,D方からけん銃が押収された日(5月22日)の2,3日
前である同月20日ころ,単車でD方の下まで行き,同所で,Dから預けていた前
記黄色ビニール手提げ袋に入ったものを返してもらい,Eの美容院に持ち帰り,黄
色ビニール手提げ袋の中を確認したところ,ガムテープで止められたサティの白い
ビニール袋に入れてくるんである,黒い専用ケースに入ったけん銃が入っていた。
Eは,元の状態に復した黄色ビニール手提げ袋に入ったけん銃を同美容院の奥の更
衣室で保管した。
(6) 翌21日,Eは,前記黄色ビニール手提げ袋に入ったものを同美容院に置
いておくと迷惑がかかると思い,同日午後8時ころ,再びD方に持参し,預かって
もらった。その際,Dがびっくりすると思って,中身がけん銃であるとはDに言わ
なかった。その後,Eは,同月22日に警察官が押収するまで,黄色ビニール手提
げ袋やその中身のけん銃を見ていない。
5 以上,3,4で見たD証言とE証言は,いずれも極めて具体的かつ詳細なも
のであり,しかもその証言する内容が極めて複雑なものである上,相互に一致して
いるものである。加えて,被告人の妻のEの叔母であるDが,被告人に対し,殊更
に不利益な虚偽の証言をしなければならない事情は全く見い出せないこと,E証言
は,平成12年3月10日に美容院「J」からDの携帯電話に電話をしたという点
については,「J」の加入電話の発信記録内容(捜査報告書85号証)と一致し,客
観的証拠とも細部にわたり合致している上,Iの行動については,被告人の舎弟で
あり,被告人に不利益な供述をするとは考えられないIの検察官調書(75号証)と
も一致していること等の事実に照らすと,D証言及びE証言の信用性は,いずれも
高いものと認められる。
6 被告人の弁解について
被告人は,捜査段階及び公判を通じ,本件けん銃及び実包については,全く
知らない旨否認し,本件けん銃及び実包は,妻のEとその浮気相手であるKが,被
告人をはめようとして仕組んだものである旨供述する。
しかし,被告人は,公判で,妻のEとKが浮気していることも,Kがけん銃
を用意して被告人に罪を着せようとしたことも,いずれも被告人の単なる推測でし
かなく,確実な根拠は何もないことを認めている。さらに,Dは,Eの身内である
から口裏を合わせて偽証していると強弁する一方で,被告人は,Dから恨まれる理
由はなく,しかも,Dが嘘をつく理由もないことを認めるなど,全く矛盾した供述
をしているのである。
以上の諸事実に照らすと,本件けん銃及び実包は,妻のEとその浮気相手の
Kが被告人をはめようとして仕組んだものである旨の被告人の前記捜査段階及び公
判の供述は,到底信用することができない。
7 以上の次第で,D証言,E証言のほか,前掲関係証拠によれば,判示第2の
けん銃加重所持の事実は優に認めることができる。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法252条1項に,判示第2の所為は銃砲刀剣類所
持等取締法31条の3第2項,1項,3条1項に,判示第3の所為は刑法204条
にそれぞれ該当するところ,判示第3の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上
は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判
示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を
懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中300日をその刑に算入
し,押収してある回転弾倉式けん銃1丁(平成12年押第178号の1),実包5
個(同号の2)及び弾頭つき空薬きょう3組(同号の3の1から3)は,いずれも
判示第2のけん銃加重所持の犯罪行為を組成したもので,被告人以外の者に属しな
いから,同法19条1項1号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用につい
ては,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとす
る。
(量刑の理由)
被告人の,判示第1の横領の犯行は,その被害額は少なくないこと,勝手にAに
傷害を加え,その配下の者の逃亡費用が必要と勝手な理屈をつけて70万円全額の
返還を拒絶したその犯行態様は,卑劣で悪質であること,被告人は,捜査・公判を
通じて不合理な弁解に終始していること,判示第2のけん銃加重所持の犯行は,適
合実包8発と共に真正けん銃を所持していたもので,それ自体で重大,悪質な犯行
である上,隠匿保管場所が住宅地内の一般民間人であるD方であって,捜査機関か
らの発見を困難にするもので,犯行態様は,悪質,巧妙であること,被告人が暴力
団の副組長と幹部構成員の地位にあることからすると,本件けん銃が抗争等に使用
される危険性は大きかったものといえること,被告人は,捜査,公判段階を通じ,
本件けん銃等の所持を一切認めようとせず,極めて不合理な弁解に終始し,妻であ
るEと舎弟分のKに責任転嫁する身勝手な態度を示していること,判示第3の傷害
の犯行は,被告人が粗暴犯の前科を多数有していることに徴し,被告人の粗暴な性
格に起因するものと認められること,被害者である妻のEに落ち度があるかのよう
な一方的な供述に終始していること等の事情にかんがみると,被告人の刑事責任は
重いというべきである。
しかし,他方,判示第1の横領の犯行では,暴力団幹部である被告人に対し,7
0万円をAに手渡してくれるように依頼をした被害者Bにも,被告人に付け込まれ
る隙がなかったわけではないと思われること,判示第3の傷害の犯行では,被告人
は,捜査段階の当初から本件犯行を素直に認めていたこと等被告人に有利な事情も
認められる。
そこで,これらの事情を総合考慮して,被告人に対しては,主文の刑を科するの
が相当であると判断した。
平成14年3月26日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官   白 神 文 弘
裁判官   寺 本 明 広
裁判官   谷 口 吉 伸

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