弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年(行ケ)第183号 特許取消決定取消請求事件 
平成15年3月20日判決言渡、平成15年3月6日口頭弁論終結
           判    決
    原   告       パロマ工業株式会社
    原   告       東邦瓦斯株式会社
   原告ら訴訟代理人    弁理士石田喜樹、齊藤純子、上田恭一
    被   告       特許庁長官 太田信一郎
    指定代理人       原慧、橋本康重、高木進、林栄二
主    文
 原告らの請求を棄却する。
 訴訟費用は原告らの負担とする。
 
            事実及び理由
第1 原告らの求めた裁判
 特許庁が異議2001-72640号事件について平成14年3月1日にした決
定を取り消す、との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告らは、発明の名称を「グリル」とする特許第3150313号(「本件特
許」。平成6年5月7日出願の特願平6-117671号からの分割出願。平成1
3年1月19日設定登録)の特許権者である。本件特許について、特許異議の申立
てがされ(異議2001-72640号)、特許庁は、平成14年3月1日、「特
許第3150313号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定を
し、その謄本を同年3月22日に原告らに送達した。
 2 特許請求の範囲(以下の請求項1、2に係る発明をそれぞれ「本件発明
1」、「本件発明2」という。)
【請求項1】 バーナを備えたグリル庫と、そのグリル庫に連通して上記バーナの
燃焼により発生した排気を排出する排気通路とを設けたグリルであって、
上記バーナを上記グリル庫の左右両側に、上記排気通路を上記グリル庫の後部に夫
々設けて、上記左右のバーナから発生した排気が上記グリル庫内に滞留した後、上
記グリル庫の後方へ移動して上記グリル庫と排気通路との連通部を通過して上記排
気通路に至る燃焼排気経路を形成し、上記グリル庫内に滞留する排気中に調理品を
載置するグリル網を設けて、上記調理品を排気熱により加熱調理可能としたことを
特徴とするグリル。
【請求項2】 連通部をグリル網より下位置となるように形成した請求項1に記載
のグリル。
 3 決定の理由の要旨
 (1) 決定の理由は、要するに、本件発明1、2は、刊行物1(実公昭47-
783号公報。甲第2号証)、刊行物2(特公昭47-46234号公報。甲第3
号証)及び刊行物3(実願平4-4655号(実開平5-63434号)のCD-
ROM。甲第4号証)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができな
いから、本件発明1、2についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許
出願に対してなされたものであり、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律
第116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に
伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により、取
り消されるべきである、というものである。
 (2) 決定の本件発明1、2と刊行物1記載の発明との一致点・相違点の認
定、及び相違点についての判断は、以下のとおりである(決定の理由中の「4.対
比・判断」をそのまま引用する。)。
・ 本件発明1について
 本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された
「バナー2」、「内罐1」、「煙道6」、「焙焼器」、「出口5」、「焼網4」
は、それぞれ本件発明1の「バーナ」、「グリル庫」、「排気通路」、「グリ
ル」、「連通部」、「グリル網」に相当し、また、刊行物1に記載されたものも本
件発明と同様に内罐内に滞留する排気中に焼網が設けられ、調理品を内罐内に滞留
する排気の熱により加熱調理するものと認められるから、両者は、「バーナを備え
たグリル庫と、そのグリル庫に連通して上記バーナの燃焼により発生した排気を排
出する排気通路とを設けたグリルであって、上記のバーナから発生した排気が上記
グリル庫内に滞留した後、上記グリル庫と排気通路との連通部を通過して上記排気
通路に至る燃焼排気経路を形成し、上記グリル庫内に滞留する排気中に調理品を載
置するグリル網を設けて、上記調理品を排気熱により加熱調理可能としたことを特
徴とするグリル」である点で一致し、次の点で相違する。
【相違点】
 本件発明1がバーナをグリル庫の左右両側に、排気通路をグリル庫の後部に夫々
設けて、グリル庫内に滞留した排気をグリル庫の後方へ移動してグリル庫と排気通
路との連通部を通過して排気通路に至る燃焼排気通路を形成したのに対し、刊行物
1に記載のものでは、バーナをグリル網の下方のグリル庫前後両側に、また、排気
通路をグリル庫の側部、上部、及び後部に亘って設け、グリル庫内に滞留した排気
をグリル庫の側方へ移動してグリル庫と排気通路との連通部を通過して排気通路に
至る燃焼排気通路を形成した点。
 
 上記相違点について検討すると、刊行物3には、グリルにおいて、バーナをグリ
ル庫の左右両側に設けたものが、また、刊行物2には、焙焼器(本件発明1の「グ
リル」に相当)において、煙道(本件発明の「排気通路」に相当)を焙焼室(本件
発明の「グリル庫」に相当)の後部に設け、焙焼室内に滞留した排気を焙焼室の後
方へ移動して排気口8(本件発明の「連通部」に相当)を通過して煙道に至る燃焼
排気通路を形成したものがそれぞれ記載されている。
 したがって、刊行物1に記載のグリルにおいて、刊行物3に記載されたバーナの
配置、及び、刊行物2に記載された煙道の配置を適用して、上記相違点における本
件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
 また、本件発明1が奏する作用、効果は、刊行物1~3の記載から予測できたも
のであって、格別のものとはいえない。
・本件発明2について
 本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、本件発明2は、請求項
1を引用し、さらに構成を付加、限定するものであり、両者は、本件発明1と刊行
物1に記載された発明との上記一致点に加えて、連通部をグリル網より下位置とな
るように形成した点で一致し、上記した本件発明1と刊行物1に記載された発明と
の相違点と同一の点で相違する。
 しかしながら、該相違点については本件発明1の検討で述べたとおりであるか
ら、刊行物1に記載の発明に刊行物2、3に記載の上記技術手段を適用して本件発
明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
 また、本件発明2が奏する作用、効果は、刊行物1~3の記載から予測できたも
のであって、格別のものとはいえない。
第3 原告ら主張の取消事由の要点
 決定は、本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由
1)、本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点の判断を誤り(取消事由2)、
さらに本件発明1の効果を看過し(取消事由3)、その結果、本件発明1の進歩性
の判断を誤り、その誤った判断を前提とすることにより本件発明2の進歩性の判断
も誤った(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定の誤り)
 決定における一致点の認定は、以下に述べるとおり、誤りである。
 (1) 刊行物1記載の焙焼器においては、バナー2による直火焼調理がされる
のであって、内罐内に滞留する排気熱による加熱調理を意図したものでない。確か
に、刊行物1の図面からみると、内罐の構造上焼煙が内罐内に滞留する場合もあろ
うが、「被焙焼物から発した燃焼されるいとまなく出口7から出た不燃焼煙を」
(2欄11~13行)という記載からすると、不燃焼煙を長く滞留させようとする
ものではなく、逆に不燃焼煙が素早く内罐から排出されてしまうため、改めて出口
上のガスバナー8で完全燃焼させようとするものである。
 これに対し、本件発明1では、バーナから発生した排気の滞留によってグリル庫
全体に熱がこもり、この排気中の調理品にむらなく熱が行き渡る結果、グリルによ
る「篭り焼き」ができるのである。
 (2) 被告は、刊行物1記載の焙焼器もその燃焼ガスは焙焼室内に滞留するこ
とは明らかであると主張するが、刊行物1記載の焙焼器が、被焙焼物から発生して
すぐ排出されてしまう不燃焼煙の再燃焼を意図するものである以上、当該焙焼器が
間接調理(「篭り焼き」)ではなく直火焼調理用の焙焼器であることは明白であ
る。かかる直火焼調理用の焙焼器における燃焼ガスの滞留について論じることは無
意味である。
 2 取消事由2(本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点の判断の誤り)
 決定における本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点についての判断は、単
に、決定が認定した相違点のうち、バーナの配置に関する部分は刊行物3に、排気
通路の配置及び燃焼排気通路の経路に関する部分は刊行物2に、それぞれ記載され
ているというものにすぎず、それらの構成の有機的な結合については考慮も評価も
していなから、誤りである。
 (1) 刊行物2に記載の発明は、焙焼器の底部に設けられる受皿の改良によっ
て受皿内の水の蒸発を防止すると共に熱効率の向上を目的としたものであって、燃
焼排気による加熱の作用効果への言及はない。
 刊行物3に記載された発明は、表面燃焼式の上火バーナをグリル庫内の上部両側
に設けることで、グリル庫の高さを大きくしなくても大きな調理品を調理可能とす
る発明であって、調理品の加熱は上火バーナからの熱輻射(直火)により行うとい
う従来からの技術にとどまる。特に、同刊行物には排気通路や連通口の位置や形態
については全く記載されておらず、燃焼排気をグリル庫内からどのようにして排出
するのか不明であるとともに、燃焼排気で調理品を加熱調理するという技術思想は
何らうかがえない。
 以上のように、刊行物2、3記載の発明は、本件発明1の課題である①グリル庫
内の熱の保存と排気の滞留や②グリル庫中央部の加熱の確保を意図するものではな
く、燃焼排気をグリル庫内に滞留させることによって調理品にむらなく熱が行き渡
るようにするという本件発明1の作用、効果は発揮されないし、またそれらを示唆
する記載もない。
 同様に、刊行物1記載の発明も「焙焼器における焙焼煙の消滅」を課題としてお
り、本件発明の前記課題①や②を意図するものではないし、ましてや本件発明1と
同様の作用、効果を発揮するものでもない。
 したがって、たとえ前記刊行物1ないし3記載の発明が本件発明1と同種の焙焼
器やグリルに関する発明であるとしても、それらはいずれも本件発明1とは技術的
課題を異にしており、刊行物1記載の発明に刊行物2、3の発明を転用することは
当業者といえども容易に想到し得ないところである。
 (2) 被告は、刊行物1、2に記載の発明は、上記課題①及び②を実質的に解
決していると主張するが、刊行物1記載の発明が上記課題を有していないことは前
述のとおりである。刊行物2記載の発明に関しては、その構成から、燃焼排気の滞
留が想定できなくもないが、バーナー管3、4は、刊行物1と同様、前後に配置さ
れているので、後方のバーナー管4の燃焼排気は、調理加熱に寄与せずにそのまま
排気口8から排出されやすく、本件発明1に比して熱効率が悪いとともに、焙焼室
1内に排気を良好に滞留させ温度分布を均一化させることは難しい。したがって、
刊行物2において上記課題①や②が実質的に解決されているということもできな
い。
 3 取消事由3(本件発明1の効果の看過)
 決定は、本件発明1の効果を看過しており、「本件発明1が奏する作用、効果
は、刊行物1~3の記載から予測できたものであって、格別のものとはいえな
い。」との決定の判断は誤りである。
 (1) 刊行物1記載のものでは、前後のバナーとそれらに直交する方向である
側方に出口が配置されており、刊行物2記載のものでは前後のバーナと焙焼室の後
方に排気口が配置されている。刊行物3には排気口の記載は全くない。
 そこで、刊行物1や刊行物2の燃焼排気のグリル庫内の流れを考えてみると、刊
行物1は、前後のバナーからグリル庫側方の出口に向って燃焼排気が流れることに
なり、グリル庫中央部の出口と反対側の燃焼排気が疎になり、温度の均一化が達成
できない。また、刊行物2では、燃焼排気はグリル庫の後方の排気口に向って流れ
るが、後方のバーナの熱が排気口から逃げやすく、熱効率という観点からも好まし
くない。
 (2) これに対し、本件発明1は、グリル庫の左右にバーナを配置し、それら
と直交する方向であるグリル庫後方に排気通路を設けた配置となっているので、燃
焼排気が左右からグリル庫の中央に向かい、中央部で互いにぶつかり合うことで撹
拌され、更により温度の高い後方へ自然と誘導されるので、グリル庫内の温度分布
が均一化し、熱効率もよいのである。したがって、本件発明1によれば、燃焼排気
によって調理品を焼けむらなく良好に加熱調理できるという顕著な作用、効果を奏
するのであり、これは刊行物1~3記載の発明から予想される効果の総和以上のも
のである。
 4 取消事由4(本件発明2の進歩性の判断の誤り)
 本件発明1が進歩性を有するものである以上、本件発明1の構成を「連通部をグ
リル網より下位置となるように形成した」点で限定した本件発明2も進歩性を有す
るのは明らかである。
第4 被告の反論
 1 取消事由1に対して
 本件特許明細書には、バーナから発生した排気のグリル庫内での滞留について
「連通部7がグリル網15より下に設けられていることから、これらの排気はいっ
たんグリル庫10に滞留する。そして、排気の圧力が少し上昇してはじめて下降を
開始し、連通部7を通過していく。そのため、従来とは違って、グリル庫10内の
熱が排気の流れと一緒になって排気口6へ抜けてしまうことがなく、グリル庫10
内に熱がこもって、調理品A,B全体にわたってむらなく中まで焼けるようにな
る。」(本件特許公報3頁左欄13~20行)と記載されている。この記載によれ
ば、グリル庫内に排気が滞留するための構造上の条件は、バーナから発生した排気
をグリル庫内から外部に排出する連通部がグリル網より下に設けられていることと
解されるが、そのような構成は刊行物1に記載された焙焼器も本件発明1と同様に
備えている。刊行物1記載の発明においても、燃焼ガスが焙焼室内に滞留すること
は明らかである。
 2 取消事由2に対して
 (1) 刊行物1、2に記載の発明は、いずれもその排気出口が焼網より下方に
設けられているので、排気を内罐内に滞留させる構成を有するものであって、原告
らの主張する本件発明の課題①、②は実質的に解決されている。
 (2) 刊行物2記載のものも、「バーナに点火すると、炎孔5、6、7から出
る燃焼ガスは矢印の如く被燃焼物を上下より加熱する。」(1頁2欄5~7行)と
記載され、第1図には、垂直炎孔7からの燃焼ガスが焙焼室1後壁に沿って上昇
し、上壁で反転することが示されていることから、焙焼室内に排気を滞留させるこ
とを意図していることは明らかである。
 (3) 刊行物1記載の発明において、そのバナーを焙焼室左右に配置し、出口
を焙焼室後方に配置して本件発明1の構成とすることは、当業者であれば刊行物1
~3に記載の発明に基づいて容易に想到し得たことである。
 
 3 取消事由3に対して
 原告らは、刊行物1記載のものは前後のバナーからグリル庫側方の出口に向かっ
て燃焼排気が流れることになり、グリル庫中央部の出口と反対側の燃焼排気が疎に
なり、温度の均一化が達成できないと主張するが、刊行物1記載のものも、燃焼排
気が前後からグリル庫の中央に向かい、中央部で互いにぶつかり合うことで撹拌さ
れ、更により温度の高い側方へ自然と誘導されるので、グリル庫内の温度分布が均
一化し、熱効率もよくなることになる。原告らが主張するようにグリル庫内の温度
分布の均一化及び熱効率について両者に相違が生ずるはずがない。
 4 取消事由4に対して
 決定の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点認定の誤り)につ
いて
 (1) 原告らは、刊行物1記載の焙焼器は、調理品を内罐内に滞留する排気の
熱により加熱調理するものではないから、決定における本件発明1と刊行物1記載
の発明との一致点の認定は誤りであると主張する。
 (2) 刊行物1(甲第2号証)の図面には、焙焼器の内罐1内に配置された焼
網4の下に煙道6に連通した出口5を設け、さらに出口5より下にバナー2を設け
た配置が示されている。この配置において、バナー2より発生した燃焼排気は、高
温であるため内罐1内を上昇し、その一部は焼網4に到達する前に焼網4より下に
配置されている出口5から直接排気されるということができるが、技術常識からし
て、燃焼排気の大部分は、出口5から直接排気されずに焼網4に載置された被焙焼
物を加熱し、その後さらに内罐1内を上昇し内罐1上部に滞留すると考えられる。
 そして、燃焼排気の量が増大し排気の圧力が上昇するとともに、内罐1上部に滞
留する燃焼排気は内罐1内を下降して出口5に達し、出口5から排気されること
も、技術常識上明らかである。
 このような燃焼排気の流れの中で、焼網4に載置された被焙焼物は出口5より内
罐1内上方に位置するのであるから、内罐1上部に滞留する燃焼排気は、当然、下
降して出口5に達する前に、焼網4に載置された被焙焼物をその排気熱により加熱
することになる。
 したがって、刊行物1中に調理品を内罐内に滞留する排気の熱により加熱調理す
るものであるとの積極的な記載はないものの、刊行物1記載の発明も本件発明1と
同様に、「グリル庫(内罐)内に滞留する排気中に調理品を載置するグリル網(焼
網4)を設けて、上記調理品を排気熱により加熱調理可能とした」ものであること
は明らかである。決定における本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定
に誤りはない。
 (3) 原告らは、刊行物1記載の発明が「焙焼器」であり、また被焙焼物から
発生した焼煙の再燃焼を意図するものであることから、刊行物1記載の焙焼器がバ
ーナの炎により直火調理を行うものであって、内罐内に滞留する排気熱による間接
調理を意図したものではないと主張する。しかし、意図していると否とにかかわら
ず、刊行物1記載のものにおいて、炎から生じる燃焼排気が内罐1上部に上昇し、
内罐1内に滞留し、その後下降して、被焙焼物が燃焼排気の排気熱により加熱調理
されると認められることは前示のとおりであるから、原告らの主張は採用すること
ができない。
 原告ら主張の取消事由1は理由がない。
 2 取消事由2(本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点についての判断の
誤り)について
 (1) 原告らは、刊行物2(甲第3号証)に記載された発明は、燃焼排気によ
る加熱を意図したものではなく、燃焼排気による加熱の作用、効果への言及はない
と主張する。
 しかし、刊行物2の第1図には、焙焼室1内において焼網を置く載置台2より下
に煙道9に連通した排気口9を設けた配置が示され、しかも垂直炎孔7からの燃焼
ガスが焙焼室1後壁に沿って上昇し、上壁で反転した後載置台2の方向へ下降する
様子が矢印で示されているから、刊行物2記載の焙焼器において、焙焼室1内で燃
焼排気が滞留することは明らかである。後方のバーナー管4の燃焼排気の一部がそ
のまま排気口8から排出されることがあるとしても、第1図に示された燃焼排気の
流れを示す矢印からみて、後方のバーナー管4の燃焼排気の大部分は、焙焼室1内
で滞留し、載置台2上の焼網に載せられた被焙焼物を加熱した後、排気口8から排
出されると考えられる。
 したがって、刊行物2に燃焼排気を滞留させて加熱することについて直接の記載
がないとしても、刊行物2記載の発明が客観的にみて燃焼排気を滞留させる構成を
備えていることは明らかであり、その構成の結果として、被調理物が滞留した燃焼
排気により加熱されることも当業者には明らかである。 
 (2) 原告らは、刊行物1、2はいずれも①グリル庫内の熱の保存と排気の滞
留、②グリル庫中央部の加熱の確保という本件発明1の課題を意図しておらず、か
かる刊行物1に刊行物2を転用することは当業者といえども容易に想到することは
できないと主張する。
 しかし、刊行物1、2記載の焙焼器がいずれも燃焼排気を焙焼室内で滞留させ、
被調理物を燃焼排気により加熱するものであることは前示のとおりである。 
 そして、焙焼室内で滞留する燃焼排気をどのように移動させて排気するかという
点に関して、刊行物1記載の発明に刊行物2に記載された技術事項を適用すること
に格別の困難性は見いだせない。
 (3) 原告らは、刊行物3についても、刊行物1、2と同様、本件発明1の上
記課題①及び②を意図しておらず、かかる刊行物1に刊行物3を転用することは当
業者といえども容易に想到することはできないと主張するが、グリル庫内のどこに
バーナを設けるかは、バーナを備えたグリルを設計するに当たり、当業者が当然試
みるであろう設計事項であり、バーナの配置として刊行物3記載のようにグリル庫
の左右両側に設けることは当業者が適宜採用し得る選択肢の一つにすぎないという
べきである。
 (4) 以上の理由で、「刊行物1に記載のグリルにおいて、刊行物3に記載さ
れたバーナの配置、及び、刊行物2に記載された煙道の配置を適用して、上記相違
点における本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることであ
る。」とした決定の判断に誤りはない。
 3 取消事由3について
 原告らは、本件発明1は、グリル庫の左右にバーナを配置し、それらと直交する
方向であるグリル庫後方に排気通路を設けた配置となっているので、燃焼排気が左
右からグリル庫の中央に向かい、中央部で互いにぶつかり合うことで撹拌され、更
により温度の高い後方へ自然と誘導され、グリル庫内の温度分布が均一化し、熱効
率もよいという格別の効果を奏すると主張する。
 しかしながら、刊行物3記載のようにグリル庫の左右両側にバーナを設けるもの
において、燃焼排気が左右からグリル庫の中央に向かい、中央部で互いにぶつかり
合うことで撹拌され、グリル庫内の温度分布が均一化されるのは明らかである。
 また、刊行物1、2に記載のものにおいてもバーナは焙焼室内で対向するように
配置されているので、燃焼排気は焙焼室の中央部で互いにぶつかり合うことで撹拌
されると考えられる。
 さらに、燃焼排気の排気口を刊行物2のように焙焼室の後部に設ければ、密閉さ
れた焙焼室内においては、バーナから発生し、撹拌された排気が焙焼室の後方へ移
動して焙焼室から排出されることも自ずと明らかである。
 してみると、原告らが主張するグリル庫内の温度分布が均一化し、熱効率もよい
という本件発明1の効果は、刊行物1~3に開示されている事項から当業者の予測
し得る程度のものというべきである。
 したがって、「本件発明1が奏する作用、効果は、刊行物1~3の記載から予測
できたものであって、格別のものとはいえない。」とした本件決定の判断に誤りは
ない。
 4 取消事由4について
 原告らは、上記取消事由1ないし3を前提とし、さらに本件発明1の構成を「連
通部をグリル網より下位置となるように形成した点で限定した本件発明2の進歩性
を主張しているが、取消事由1ないし3にいずれも理由がないことは前示のとおり
であり、しかも「連通部をグリル網より下位置となるように形成した」点が刊行物
1に示されていることも前示のとおりである。
 したがって、本件発明2に進歩性はなく、決定における本件発明2についての判
断に誤りはない。
 取消事由4は理由がない。
第6 結論
 原告らの主張する取消事由はすべて理由がなく、本件決定には取り消すべき瑕疵
が見当たらないから、原告らの請求は棄却されるべきである。
東京高等裁判所第18民事部
       裁判長裁判官     塚   原   朋   一
          裁判官     塩   月   秀   平
裁判官     古   城   春   実

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛