弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人菊池嘉太義の上告理由について
 被上告人は、昭和三八年一月六日亡Dに対し一五〇万円を貸与し、上告人外一名
がその連帯保証をしたと主張して、Dの相続人ら及び上告人を共同被告として該債
務の履行を求める訴訟(松山地裁大洲支部昭和四一年(ワ)第一八号損害賠償請求
事件)を提起したところ、右相続人らは被上告人の請求原因事実を争つたが、上告
人はこれを認めたので、上告人に関する弁論が分離され、昭和四一年一〇月二六日
被上告人の上告人に対する請求を認容する旨の判決がされ、同判決は同年一一月一
二日確定した。
 他方、右相続人らに対する関係では審理の結果請求原因事実が認められず、昭和
四四年一二月三日被上告人の右相続人らに対する請求を棄却する旨の判決がされ、
同判決に対しては被上告人から適法な控訴の申立がされたが、控訴審の口頭弁論期
日に当事者双方が欠席したことにより昭和四五年八月二六日右控訴が取り下げられ
たものとみなされた結果、右判決は確定するに至つた。
 以上は、原審の適法に確定するところであつて、被上告人と右相続人ら間の右判
決謄本である甲第一号証(同号証の成立については、当事者間に争いがないものと
されている。)によると、被上告人の右相続人らに対する請求が棄却された理由は、
被相続人である亡Dの被上告人に対する主債務の成立が否定されたためであること
が明らかであり、原審の右認定の趣旨もここにあるものと解される。
 所論は、要するに、上告人に対する前記判決は連帯保証債務の履行を命ずるもの
であるところ、その主債務は、右判決確定後、主債務関係の当事者である被上告人
と右相続人ら間の確定判決により不存在と確定されたから、上告人は、連帯保証債
務の附従性に基づき請求異議の訴により自己に対する前記判決の執行力の排除を求
めることができる筋合であると主張する。そこで案ずるに、一般に保証人が、債権
者からの保証債務履行請求訴訟において、主債務者勝訴の確定判決を援用すること
により保証人勝訴の判決を導きうると解せられるにしても、保証人がすでに保証人
敗訴の確定判決を受けているときは、保証人敗訴の判決確定後に主債務者勝訴の判
決が確定しても、同判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となつた事実審口頭弁論終
結の時までに生じた事実を理由としてされている以上、保証人は右主債務者勝訴の
確定判決を保証人敗訴の確定判決に対する請求異議の事由にする余地はないものと
解すべきである。けだし、保証人が主債務者勝訴の確定判決を援用することが許さ
れるにしても、これは、右確定判決の既判力が保証人に拡張されることに基づくも
のではないと解すべきであり、また、保証人は、保証人敗訴の確定判決の効力とし
て、その判決の基礎となつた事実審口頭弁論終結の時までに提出できたにもかかわ
らず提出しなかつた事実に基づいてはもはや債権者の権利を争うことは許されない
と解すべきところ、保証人敗訴判決の確定後において主債務者勝訴の確定判決があ
つても、その勝訴の理由が保証人敗訴判決の基礎となつた事実審口頭弁論の終結後
に生じた事由に基づくものでない限り、この主債務者勝訴判決を援用して、保証人
敗訴の確定判決に対する請求異議事由とするのを認めることは、実質的には前記保
証人敗訴の確定判決の効力により保証人が主張することのできない事実に基づいて
再び債権者の権利を争うことを容認するのとなんら異なるところがないといえるか
らである。
 そして、原審認定の前記事実に照らせば、本件は連帯保証人である上告人におい
て主債務者勝訴の確定判決を援用することが許されない場合であるというべきであ
るから、上告人の右援用を否定した原審の判断は正当として是認することができる。
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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