弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人辻武夫の上告理由第一点および第五点について。
 論旨は、要するに、本件は農地法三条二項の不許可事由に該当することが一見き
わめて明白で、被上告人において知事の許可をうることはできず、原判決説示のよ
うな法定条件の成就の可能性は絶無であるから、被上告人の、知事に対する許可申
請手続およびその許可を条件とする所有権移転登記手続の請求を認容した原判決に
は、同法三条の解釈・適用を誤つた違法があり、本件係争地のうち田畑二筆の農地
に関するかぎり、本訴はその利益を欠くものである、と主張する。
 よつて検討するのに、被上告人が所論の不許可事由に該当するか否かの判断は、
知事が許可申請に対する拒否決定をする段階においてなすべきものと解される。す
なわち、農地法三条二項所定の不許可事由、とくにその五号には、原則として耕作
面積三〇アール(昭和四一年法律四一号による改正前においては三反歩)以上とい
う、数量的な、したがつてまた裁量の余地のない明白な基準があり、同条二項ただ
し書、同法施行令一条二項一号によつて認められる例外規定によつても、「耕作の
事業に供すべき農地の面積の合計……が、その権利の取得の結果、法三条二項五号
に規定する面積をこえ」という、右同様の基準があつて、被上告人が現に(原審口
頭弁論終結当時において)、この要件を充足していないことが記録上窺われないで
はないが、この要件は、ほんらい、知事の許可に関する決定の段階において充足さ
れておれば足りる筈のものである上、許可申請手続の請求訴訟の段階において、裁
判所が、事前に右要件の充足の有無を判定して、不許可事由の存否を論ずることは
失当であり、被上告人が現に右所定要件を充足していないとしても、そのことは、
なんら本訴の利益を失わしめるものではない。
 原判決は叙上と理由を異にするところがあるが、けつきよく、正当であつて、所
論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 原判決は、措辞やや簡にすぎる嫌いはあるが、本件の事実関係のもとにおいて、
所論失効の原則の適用なしとした判断は正当で、原判決に所論の違法はなく、論旨
は採用できない。
 同第三点および第四点について。
 論旨は、要するに、原審が本件において知事の許可申請請求権の時効消滅を認め
なかつたのは、本件契約の解釈を誤り、右請求権の実体を誤解し、民訴法二三二条、
二三五条に違反する違法がある、と主張する。
 よつて検討するのに、被上告人から上告人に対する所有権移転登記請求の本訴が
提起されたのが、昭和三九年二月二一日であり、知事に対する許可申請手続の請求
が追加されたのが、同四〇年一月二一日であることは、記録上明らかであつて、本
件贈与契約の日が同二九年二月二一日であることは、原審の確定するところである
から、右契約時から知事に対する許可申請の請求時まで一〇年以上を経過している
ことは、所論のとおりである。
 しかしながら、被上告人が当初提起した所有権移転登記請求は、農地法三条に基
づく知事の許可により本件農地の所有権が被上告人に移転することを当然の前提と
するものであるから、右移転登記請求は、それ自体として知事に対する許可申請手
続を訴求するものでないにせよ、少なくとも、右許可申請手続をせよという催告が
これに含まれているものと見ることができる。そして、ここにいう「催告」は、被
上告人より上告人に対する移転登記請求の提訴という訴訟行為によるものであるか
ら、その提訴より前記請求の追加的変更に至るまで、黙示的に継続して存在するも
のというべく、この場合、民法一五三条の六ヵ月の期間は、当該催告の終了した時
から起算すべきであるから、本件において一の催告として観念されうる所有権移転
登記請求の提訴が維持されている以上、催告はいまだ終了せず、右の法定期間も進
行を開始しないものといわなければならない。かかる見地は、さきに当裁判所のし
た昭和三五年(オ)第三六二号同三八年一〇月三〇日大法廷判決、民集一七巻九号
一二五二頁の趣旨にそうものということができる。したがつて、本件の請求の追加
的変更による裁判上の請求(許可申請の請求)が、前記の催告に接続した時期に行
なわれている以上、これにより、上告人主張の時効は、確定的に中断されたものと
いわなければならない。
 原判決は叙上とその理由を異にするが、上告人の時効の抗弁を排斥した原審の判
断はけつきよく相当で、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同第六点について。
 原審は、所論知事の許可をいわゆる法定条件にあたるとし、上告人は法律上当然
に知事に対する許可申請手続をなすべき義務があるものとしたもので、その判断は
正当である(当裁判所昭和三三年(オ)第八三六号同三五年一〇月一一日第三小法
廷判決、民集一四巻一二号二四六五頁、昭和三二年(オ)第九二三号同三六年五月
二六日第二小法廷判決、民集一五巻五号一四〇四頁、昭和三三年(オ)第一〇五三
号同三七年五月二九日第三小法廷判決、民集一六巻五号一二二六頁参照)。
 論旨は採用できない。
 同第七点について。
 農地の譲受人は、その必要があるかぎり、譲渡人に対し知事の許可を条件として
農地所有権移転登記手続請求をすることができるとすること、当裁判所の判例であ
る(昭和三八年(オ)第一二七二号同三九年九月八日第三小法廷判決、民集一八巻
七号一四〇六頁)。論旨は採用できない。
 同第八点について。
 所論登記請求権の放棄は、原審において主張・判断を経ない事項に関するもので、
本件において失効の原則の適用されえないことは前述のとおりであり、その余の所
論はそれ自体失当とするほかなく、論旨はすべて採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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