弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意第一点並びに弁護人森安五郎の上告趣意について。
 所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
次に、一件記録によれば、被告人は、第一審において、その住居を原控訴裁判所の
所在地でない久留米市a町b丁目c番地と申立て(当審第一回の上告趣意書中の被
告人の肩書住居の表示にも同所と明記している)、且つその保釈許可決定において
も同所に住居を制限されたものである。そして、原審裁判所書記官は、昭和二六年
二月三日午前九時の公判期日の召喚状を昭和二五年一二月二七日午前十時被告人に
対して書留郵便に付して発送し、更らに、昭和二六年二月二〇日午前九時の再度の
公判期日の召喚状を同年同月五日午前十時被告人に宛て書留郵便に付して発送した
ことが認められる。されば、原審の召喚状の送達は一応適法なもので右郵便に付し
た時を以て送達されたものと看做さざるを得ない。尤も、当裁判所の調査によれば、
久留米市a町b丁目にはc番地がなく(同町d丁目にc番地があり同所A方には被
告人の妻が居住していることが認められる)、そのため右召喚状が返還され被告人
に到達しなかつたことが認められる。従つて、被告人が原審において再度公判期日
に出頭しなかつたことは、必ずしも被告人の故意又は怠慢の結果であるということ
はできない。しかしながら、右不送達の原因は、被告人の住居の申出の不完全なこ
とに基因するものと認められるばかりでなく、被告人は、同年三月六日午前九時の
判決言渡期日を同年二月二三日適式に通知され且つ右言渡期日に被告人自身が原審
公判廷に出頭したにかかわらず、前記再度の公判期日の通知が不送達であつたこと
を申し出ることなく且つ弁論再開等の申立をもしなかつたことも記録上明白である。
されば、当裁判所は、結局刑訴四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく
正義に反するものとは認めることができない。
 被告人本人の上告趣意第二点、第三点について。
 論旨第二点は、前記上告趣意第一点を前提とする違憲又は違法の主張であつて、
前述のごとく、その前提が採用できないものであり、また、同第三点は、被告人等
を直接尋問しなかつた違法、新らたな証拠調をしなかつた違法又は採証の法則違反
等単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らないし、記録を調
べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて、刑訴施行法二条、三条の二、旧刑訴四四六条に従い、裁判官全員一致の
意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 福原忠男関与
  昭和二九年二月四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎
 裁判官沢田竹治郎は、退官につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    真   野       毅

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