弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件抗告を棄却する。
2抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨
1原決定を取り消す。
2本件を東京地方裁判所に差し戻す。
第2事案の概要
1本件は,抗告人が,取引先である相手方による発注停止等が私的独占の禁止
及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)19条に違
反する旨主張して,同法24条所定の差止請求権を被保全権利として,①相手
方が,抗告人に対し,原決定別紙1記載の書面に基づき,発注停止をしてはな
らないこと(本件申立1)及び②相手方が,抗告人に対し,原決定別紙2記載
の各製品と同等製品の製造を原決定別紙3の契約書の条件に従い,従前のとお
り発注すること(本件申立2)を命ずる各仮処分命令を申し立てたところ,原
審が被保全権利の疎明がないなどとしてこれを却下したため,抗告人が即時抗
告を申し立てた事案である。
2事案の概要の詳細は,抗告人の主張を別紙「即時抗告申立理由書」記載のと
おり加えるほかは,原決定の「理由」欄の「第2事案の概要」に記載のとお
りであるから,これを引用する。
なお,原決定2頁24行目の「下請代金支払遅延等防止法」の次に「(以下
「下請法」という。)」を加える。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,抗告人の主張する被保全権利は疎明されていないので,本件各
仮処分命令の申立ては理由がないから却下すべきものと判断する。その理由は
以下のとおりである。
2被保全権利について
(1)抗告人は,相手方の本件減額要請及び本件通知に基づく本件取引の拒絶(以
下「本件取引拒絶」という。)が,それぞれ独占禁止法19条で禁止する不
公正な取引方法である不当減額要求(平成21年公正取引委員会告示第18
号による改正前の昭和57年公正取引委員会告示第15号(以下「旧一般指
定」という。)14項,独占禁止法2条9項5号ハ。下請法4条1項5号参
照)及び単独の取引拒絶(昭和57年公正取引委員会告示第15号(以下「一
般指定」という。)2項。下請法4条1項7号参照)に当たり,同行為によ
ってその利益を侵害され,又は侵害されるおそれがあり,これにより著しい
損害を生じ,又は生ずるおそれがあるので,本件各申立てに係る請求をする
権利があると主張する。
そこで,まず,相手方の本件減額要請及び本件取引拒絶が不公正な取引方
法である不当減額要求又は単独の取引拒絶に該当するか否か検討する。
(2)一件記録によれば,次の事実が疎明されている。
ア相手方の資本金の額は46億4000万円であるのに対し,抗告人の資
本金の額は1000万円である。
また,抗告人の平成19年6月から平成21年7月までの月当たりの平
均総売上額は8097万5533円であるが,同期間の相手方に対する月
当たりの平均売上額は1803万2984円であり,抗告人の総売上額に
占める相手方に対する売上額の割合は22.9%であった。
イ(ア)相手方は,平成20年10月から,抗告人に対し,コストダウンの依
頼をしていたところ,同年11月18日には,より具体的に,本件取引
に係る賃率を1時間当たり2400円から1600円に下げることが可
能かについて交渉が始められた。
そして,相手方は,抗告人の求めに応じ,平成20年12月3日付け
で「コストダウン検討のお願い」と題する文書(甲7)を交付したが,
同文書には,相手方の計測機器事業が現状赤字となっており,黒字転換
を図らなければ,平成21年以降の事業の継続ができない状況となって
いることから,賃率を1時間当たり1600円として対応可能であるか
検討を依頼する旨記載されていた。また,同文書には,今後の進め方と
して,相手方において,更なる対策として海外展開が必要になるか検証,
判断していく旨も記載されていた。
(イ)平成20年12月9日,相手方の代表取締役社長であるA(以下「A
社長」という。)が,抗告人の代表取締役会長であるB(以下「B会長」
という。)及び抗告人の代表取締役社長であるC(以下「C社長」とい
う。)と面談し,相手方の置かれた経済状況を説明し,抗告人に対し,
可能な限り賃率の引下げへ協力するよう要請し,抗告人側の案の提示を
求めた。
その後,平成21年1月15日,再度,A社長が,B会長及びC社長
と面談し,相手方において計測機器事業を継続し得る製品単価水準を考
えると,今まで抗告人に委託していた製造業務を中国に移管せざるを得
ない状況にあることを伝えた。その後,同月30日,同年3月13日,
同年4月9日にも抗告人と相手方との間で協議の場が持たれ,抗告人も
賃率は1時間当たり2400円を維持した上で作業内容の削減等の提案
をしたが,同提案は,相手方の負担を増す可能性のあるものであって,
結局,コストダウンについての合意には至らず,相手方は,コストダウ
ンが実現しない場合,計測機器事業を中国に移管するか,同事業から撤
退するかの選択を迫られる旨発言していた。
(ウ)上記(イ)の交渉に先立ち,抗告人は,平成20年2月28日,相手方
に対し,過去に違法な減額要請があり,これを元に戻してほしいこと,
相手方が抗告人に対し支給する部品の納期が遅れて売上げが減少し,コ
ストダウンが困難であること,部品の納期の遅れにより損失が発生して
いること等を伝え,同年3月8日,部品の納期の遅れに関する資料を交
付していた。
そして,上記(イ)の交渉の後,抗告人は,相手方に対し,平成21年6
月29日付け文書で,相手方に独占禁止法及び下請法に違反する行為が
あった旨の指摘を行うに至った。
(エ)相手方は,抗告人に対し,同年4月23日付け書面(甲9)により,
抗告人との取引中止を通知するに至った(本件通知)。本件通知には,
6か月の予告期間がおかれ,取引終了は同年10月末日とされていた。
ただし,実際の発注生産自体は同年8月末までに終了し,同年9,10
月分については,金銭補償として対応する旨記載されていた。
そして,相手方から抗告人に対し,同金銭補償の額として1500万
円が提示された。
(オ)相手方は,抗告人に対し,平成21年7月24日付け書面(甲20)
をもって,相手方の計測機器事業の一部につき,国内生産を中止し,中
国における生産に切り替えること,現在,候補企業との交渉段階にある
ことを伝え,貸与設備ごとに使用終了が確定次第,速やかに返還するこ
とを求めた。
(カ)相手方は,平成21年8月,抗告人に対し,緊急生産の依頼をし,抗
告人もこれに応じたため,貸与設備は,同月末に至っても相手方に返還
されることはなく,最終的に,同年11月21日から同月24日の間に
返還された。
また,相手方は,平成22年1月29日,抗告人に対し,本件取引拒
絶に係る金銭補償として従前提示していた金額に相当する1500万円
を支払った。
ウ相手方においては,計測機器事業の一部について,従前から中国企業に
製造を委託していたが,前記イ(イ)のコストダウンに係る交渉と並行して,
抗告人に委託していた計測機器の製造を中国へ移管することが検討されて
いた。
ところが,相手方の親会社であるD株式会社が株式会社Eとの間で相手
方の計測機器事業につき事業譲渡の交渉を進めており,平成22年1月8
日,相手方と株式会社Eとの間で,相手方の計測機器事業の譲渡契約が締
結され,同月11日,これが公表されるに至った。同公表内容によると,
相手方の計測機器事業の譲渡は平成22年3月末に実施することを目標と
されていた。同譲渡契約により,相手方が抗告人に委託していた計測機器
の製造をすべて中国へ移管することは,結局,実現しなかった。
エ本件取引が終了後,相手方においては,F株式会社から1時間当たり1
620円の費用で8人の人材派遣を得,また,一部G株式会社へ,賃率を
1時間当たり1800円から2200円として,製造委託を行うことによ
り,抗告人に委託していた分の計測機器の製造を行ってきた。
(3)検討
ア不当減額要求について
(ア)確かに,本件減額要請は,本件取引に係る賃率を1時間当たり240
0円から1600円に引き下げるもので,大幅な減額の要請であるとい
うことができる。
しかしながら,前記認定事実によれば,相手方は,コストダウンの目
的で,抗告人に委託していた計測機器の製造について,これを中国へ移
管することを検討していたことが認められ,したがって,国内での製造
委託を継続することが可能であるか否かを検討するために,抗告人に大
幅なコストダウンを求めることは,およそ不合理なものとはいえない。
そして,前記認定のとおり,本件取引終了後,抗告人に委託していた
分の計測機器の製造について,F株式会社から1時間当たり1620円
の費用で8人の人材派遣を得,また,G株式会社へ,賃率を1時間当た
り1800円から2200円として,一部を委託して行ったこと,これ
らの取引の条件が本件減額要請を上回る部分があるとしても,本件取引
終了後相手方が中国企業に製造を委託するまでの間の応急のものである
ことを前提とする取引であったことを考慮するならば,相手方が抗告人
に提示した本件減額要請に係る取引条件が他の業者との取引条件との比
較で不当に不利益な条件を設定するものであることの疎明は不十分であ
るといわざるを得ない。
そして,前記認定のとおり,相手方から抗告人に対し,平成20年末
には,賃率を1時間当たり2400円から1600円に下げることが可
能かどうかにつき検討が依頼され,平成21年4月まで数度にわたる交
渉が行われた上,最終的に6か月間の猶予期間をおいて本件取引拒絶に
至ったこと,相手方は,抗告人に対し,本件取引拒絶に際し,その金銭
補償として1500万円を提示し,これを支払ったこと,この間の交渉
において,相手方から抗告人に対し,相手方が計測機器の製造を中国へ
移管することを検討しており,これを踏まえた減額要請であることが説
明され,抗告人自身も,製造業者として,製造単価水準によってはコス
トダウンのため中国等海外への製造部門の移転が必要となり得ることは
認識し得たものと推認されることに照らすと,相手方の抗告人との協議
が不誠実であったとか,不十分であったことの疎明も不十分である。
したがって,本件減額要請が,相手方の取引上の地位が抗告人に優越
していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に取引の条件を
設定したものともいえず,旧一般指定14項,独占禁止法2条9項5号
ハに定める違反行為に該当する旨の抗告人の疎明はない。
また,前記(2)アによれば,相手方が下請法2条7項1号の親事業者に
当たり,抗告人が同条8項1号の下請事業者に当たることは明らかであ
るが,前判示の点に照らせば,本件減額要請が,抗告人の給付の内容と
同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い
下請代金の額を不当に定めたことの疎明は不十分であり,同法4条1項
5号に定める違反行為に該当する旨の疎明もない。
(イ)これに対し,抗告人は,従前の賃率2400円は,不良品等への対応,
準備作業,出荷検査・梱包作業,設備の維持管理,品質管理体制の維持
改善等及び抗告人の滋賀工場の経費を抗告人において負担することを前
提としたものであったこと,抗告人が相手方から請け負う業務は,極細
線のハンダ付け等の熟練技能を要するものであり,少量・多品種という
特色を有していることから,本件減額要請が不当であると主張する。
確かに,抗告人と相手方との取引条件が他の受託者のそれと異なる点
があるとしても,相手方が抗告人に対し大幅なコストダウンを求めるこ
と自体は不合理なものではないこと,相手方において抗告人に委託して
いた計測機器の製造を中国へ移管するという製造態勢の大幅な変更が検
討されていたことなど(ア)判示の点を併せ考えると,前記判断を左右する
には足りないというべきである。
抗告人の主張は採用することができない。
(ウ)抗告人は,本件減額要請が,1000機種にも及ぶ全機種一律に賃率
の引下げが要求されたことから,不当なものであると主張する。
しかしながら,本件減額要請は,全機種について一律に賃率の引下げ
を要求するものではあるが,抗告人と相手方との本件取引においては,
従前から一律の賃率が定められていた上,抗告人において製造する機種
が1000機種もあり,抗告人において提供される役務の中心が計測機
器の製造等にかかわる技術者の労務であって各機種ごとに要求される労
務の内容が賃率にどれだけ影響を与えるものかを確認するには困難が伴
うことなどに(ア)判示の点を総合すれば,全機種一律に減額を要請したこ
とのみをもって,前記判断を左右するには足りない。
抗告人の主張は採用することができない。
(エ)抗告人は,相手方による計測機器の製造の中国への移管は本件取引の
拒絶の真の理由ではないと主張し,結局,相手方が抗告人に委託してい
た計測機器の製造をすべて中国へ移管することは実現しなかったことは
前記認定のとおりである。
しかし,前記認定事実によれば,相手方においては,抗告人のコスト
ダウンが実現しなかった場合には,中国への製造の移管と並んで計測機
器事業からの撤退も検討されていたというのであるから,貸与設備の回
収の遅れ,親会社であるD株式会社が進めた株式会社Eへの事業譲渡と
いう当初予期し得なかった事情によって,当初予定していた中国への製
造移管は実現しなかったとの相手方の説明も必ずしも不合理なものでは
なく,本件全疎明資料によってもこれが虚偽であるとまでの疎明はない。
抗告人の主張は採用することができない。
イ単独の取引拒絶について
(ア)抗告人は,本件取引拒絶が,不当な本件減額要請を実効あらしめるた
め行われたものであるので,不当であり,一般指定2項の違反行為に当
たると主張する。
しかし,前記認定事実によれば,本件取引拒絶に至った理由は抗告人
が相手方の本件減額要請に応じなかったからであることが一応認められ
るところ,本件減額要請が,相手方の取引上の地位が抗告人に優越して
いることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,取引の条件を設
定したものとはいえず,旧一般指定14項,独占禁止法2条9項5号ハ
に定める違反行為に該当する旨の疎明がないことは,前判示のとおりで
あるので,これが不当であることを前提として本件取引拒絶の不当をい
う抗告人の主張は,その前提を欠き失当である。
また,その他,抗告人が主張する相手方の下請法違反行為を実効あら
しめるために本件取引拒絶を行ったとの疎明もない。
(イ)さらに,抗告人は,本件取引拒絶が,抗告人が平成20年2月ころか
ら相手方の下請法違反を指摘してきたことに対する報復であると主張
し,前記認定事実によれば,抗告人は,相手方に対し,平成20年2月
の時点で,過去に違法な減額要請があり,これを元に戻してほしいこと,
相手方が抗告人に対し支給する部品の納期が遅れて売上げが減少し,コ
ストダウンが困難であること,部品の納期の遅れにより損失が発生して
いること等を交渉の過程で指摘していたことが認められる。
しかし,本件取引拒絶に至った理由は,抗告人が相手方の本件減額要
請に応じなかったからであることが一応認められることは,前判示のと
おりである上,抗告人の上記指摘が下請法違反の事実を明確に指摘した
ことまでの疎明はないことに照らすと,抗告人の下請法違反の指摘に対
する報復として本件取引拒絶がされたとの疎明は不十分であるといわざ
るを得ない。
また,下請法4条1項7号は,下請事業者が公正取引委員会又は中小
企業庁長官に対し親事業者の下請法違反の事実を知らせたことを理由に
取引を停止すること等を禁止するものであるが,抗告人が公正取引委員
会又は中小企業庁長官に相手方の下請法違反の事実を知らせたことの主
張及び疎明はない。
なお,抗告人は,本件取引拒絶が,抗告人が財団法人H協会等に対す
る相談をしたことに対する報復行為であるとも主張するが,抗告人が同
協会に相談したこと及びそのことを理由として相手方が本件取引の拒絶
を行ったことの疎明もない。
抗告人の主張は採用することができない。
(ウ)その他,一件記録を精査しても,本件取引拒絶が,不当に,抗告人に
対し取引を拒絶したものであることを疎明するに足りる資料はない。
ウ加えて,抗告人は,相手方には,下請代金の支払遅延,検収済み品の無
償解析強要,暫定価格10円での発注及び倉庫管理費未払という優越的地
位を濫用する行為があった旨主張する。
しかし,相手方の上記行為が優越的地位を濫用する行為に当たることの
疎明が不十分である。その上,本件仮処分において抗告人の主張する被保
全権利は,相手方による本件減額要請及び本件取引拒絶が不公正取引に当
たるとして,これによる侵害の停止又は予防を請求する権利であり,その
疎明がないことは前判示のとおりである。
また,本件仮処分の申請の趣旨が前記の発注停止の禁止と継続発注を求
めるものであることからすると,抗告人の主張が,前記イ(ア)(イ)の主張を
超えて,相手方の上記各行為の存在自体を理由に被保全権利の存在を主張
するものであるとすると,その主張は失当である。
エ以上のとおり,本件減額要請が不当減額要求に当たること,本件取引拒
絶が単独の取引拒絶に当たることのいずれについても疎明があったとはい
えず,被保全権利の疎明がない。
3よって,その余の点について判断するまでもなく,抗告人の本件各申立ては
理由がないから却下すべきところ,これと同旨の原決定は相当であるから,本
件抗告を棄却することとして,主文のとおり決定する。
平成22年9月1日
東京高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官大竹たかし
裁判官山まさよ
裁判官林俊之
(原裁判等の表示)
主文
1本件申立てをいずれも却下する。
2申立費用は債権者の負担とする。
理由
第1申立ての趣旨
1債務者は,債権者に対し,別紙1記載の書面に基づき,発注停止をしてはな
らない。(以下「本件申立て1」という。)
2債務者は,債権者に対し,別紙2記載の各製品と同等製品の製造を,別紙3
の契約書の条件に従い,従前のとおり発注せよ。(以下「本件申立て2」とい
う。)
第2事案の概要
1本件は,債権者が,取引先である債務者による発注停止等が私的独占の禁止
及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)19条に違
反する旨主張して,同法24条所定の差止請求権を被保全権利として,前記第
1記載の各仮処分命令を申し立てた事案である。
これに対し,債務者は,当該発注停止等は独占禁止法19条に違反しない,
保全の必要性もない等と主張して,これを争っている。
2前提となる事実(一件記録により疎明があったといえる。)
(1)債権者は,電子機器部品の製造,販売等を営む株式会社である。
債務者は,計測機器等の製造,販売等を営む株式会社である。
(2)債権者は,昭和46年以降,平成21年まで,債務者との間で,計測機器
であるデジタルゲージ等を製造して債務者に販売するという取引(以下「本
件取引」という。)を継続してきた。
(3)債務者は,平成21年4月23日付け文書により,債権者に対し,本件取
引を同年10月31日をもって終了する,実際の発注生産は同年8月末まで
とし,同年9月分及び10月分については金銭補償という形で対応する旨を
通知した(甲9,別紙1。以下「本件通知」という。)。
債務者は,同年11月以降,債権者に対する発注を行っていない。
3債権者の主張の要旨
(1)債務者は,本件取引において,その開始時から(とりわけ平成16年以降),
独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法に違反する行為(代金支払の不当遅
延,代金の不当減額,倉庫管理費未払い,検収済み品の無償解析強要,暫定
価格10円での発注等)を繰り返してきた。平成20年2月ころ以降,債権
者が債務者に対してそれらの違反行為を指摘していたところ,債務者は,そ
れに対する報復として,同年12月3日付け「コストダウン検討のお願い」
と題する書面(甲7)等により,債権者に対し,賃率(1時間当たりの報酬)
を,従前の2400円から1600円に引き下げるよう強要し(以下「本件
減額要請」という。),これに応じなければ本件取引を停止して他社との取
引を開始すると述べるようになった。かかる行為は,独占禁止法で禁止され
ている優越的地位の濫用(不当減額)(旧一般指定14項,独占禁止法2条
9項5号)に該当する。
(2)債務者は,上記(1)の優越的地位濫用を実効あらしめるため,他社との取
引を開始しようとし,その一方で不当に本件取引を拒絶した。かかる行為は,
独占禁止法で禁止されている単独の取引拒絶(一般指定2項)に該当する。
(3)債権者の債務者に対する取引依存度は高く,本件取引を拒絶される状況が
続いた場合には,債権者の経営が窮状に追い込まれることは必至であり,上
記第1の差止は必要不可欠である。
第3当裁判所の判断
1本件申立て1は,文章形式的には不作為を求めるものであるが,実質的には
「発注」という作為を求めるものにほかならない。そして,単なる「発注」で
は意味を成さないから,結局のところ,本件申立て2と同内容の申立てをする
趣旨であると解される。
2本件申立て2については,「別紙2記載の各製品と同等製品」,「別紙3の
契約書の条件に従い」,「従前のとおり」等の文言の指し示す具体的内容が明
確でなく,全体として特定の不十分なものといわざるを得ないが,その点を措
くとしても,本件において,本件申立て2に係る仮処分命令の基礎となり得る
ような被保全権利の主張・疎明があったとはいえない。
すなわち,本件申立て2は「従前のとおり」の発注を求めるものであるとこ
ろ,これについて債権者は「発注数量についても,過去の月間委託費用150
0万円から2000万を上記発注単価により除することにより求められる」等
と述べており,従前の発注金額(期間当たり)と同程度の発注金額(期間当た
り)になるような数量の発注を求める趣旨と解される。
しかしながら,本件取引に係る債権者・債務者間の基本的な契約内容は最終
的には別紙3のとおりであるとみられるところ,そこには,債務者が債権者に
対して一定数量の発注義務を負うこととなるような合意等の存在はうかがわ
れず,その他かかる合意等について疎明があったとはいえない。過去において
継続的に一定程度の数量の発注を受けていたとしても,そのことをもって,将
来においても同程度の数量の発注を求める法的権利を取得するものではない。
そうすると,仮に債権者において独占禁止法24条所定の「侵害の停止又は
予防」の請求として何らかの作為請求を行う余地があったとしても,少なくと
も本件において,債務者に対して「従前のとおり」の数量の発注を請求する権
利を有するものと解する余地はないといわざるを得ない。
なお,発注数量を限定せずに単に「発注せよ」とする仮処分命令は,「債権
者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避ける」(民事保全法23条2項)た
めに有効適切なものとはいえず,そのような仮処分命令について保全の必要性
を認めることはできない。
3また,一件記録によっても,本件通知に係る取引拒絶が独占禁止法上の不公
正な取引方法に該当することについて疎明があったとはいえない。
すなわち,債務者は,本件減額要請及び本件通知の経緯に関して,「近年,
計測機器の市場価格が下落していく一方であり,債務者は,毎年,債権者との
間で,本件取引の単価引下げの交渉をしていたが,市場価格の減少率は本件取
引の単価の減少率より大きかった。平成20年ころには,債務者の計測機器事
業が,従前の仕入単価のままでは赤字になるという状況に至った。債務者は,
本件取引のさらなる単価引下げによって日本国内における計測機器事業の継
続が可能か否かを探るため,本件減額要請を行った。その一方で,債務者は,
平成21年に入るころには,採算確保のためには生産委託先を中国企業に変更
せざるを得ないのではないかと考えるようになり,その関係での調査等を開始
し,同年3月ころには,委託先候補として複数の中国企業を選定し,その中の
1社を第1候補とした。債務者は,同年1月以降も債権者との協議を複数回行
い,本件取引の単価引下げによって日本国内における計測機器生産を継続する
可能性の有無を探っていたが,同年4月に至っても単価引下げに至らなかった
ため,本件通知を行った。」旨主張しているところ,これらの主張内容につい
て,虚偽であることの疎明があったとはいえない。少なくとも,計測機器の市
場価格の下落や債務者の計測機器の赤字転落に関しては,債権者は,「かかる
理由のみをもって減額が容認されるものではない」等とは主張するものの,事
実と異なる旨の明示の主張はしていない。他方,債権者は,債務者が独占禁止
法や下請代金支払遅延等防止法に違反する行為を繰り返してきたこと,債権者
が債務者に対してそれらの違反行為を指摘してきたこと等を主張するが,これ
らの事情について疎明があったとはいえない。
また,本件減額要請は相当大幅な減額を求めるものではあるが,そこで示さ
れた賃率1600円について,社会一般における同内容の取引においておよそ
考えられないような不合理な価格であるとの疎明があったとはいえない。むし
ろ,債務者は,「本件取引において債権者に委託していた生産を,その後自社
内で行っていたところ,その作業に関して,申立外F株式会社からの人材派遣
を,時給1620円で受けた」旨主張しているところ,これが虚偽であるとの
疎明があったとはいえない。これに対し,債権者は,①派遣労働者の平均派遣
料金や他社の派遣料金が1600円より高いこと,②本件取引における賃率に
は不良品への対応,準備作業,出荷検査,梱包作業,設備の維持管理,品質管
理態勢の維持管理等の費用がすべて含まれていること,③本件取引における受
託業務は熟練技能を要し,かつ少量・多品種生産となること等を指摘するが,
上記①については,それらの事例と本件取引との業務内容等の異同が明らかで
なく,上記②・③を考慮しても,上記認定判断を左右するものではない。
その他,一件記録を精査するも,本件減額要請が「正常な商慣習に照らして
不当」(旧一般指定14項,独占禁止法2条9項5号)なものであったことや,
本件通知に係る取引拒絶が優越的地位濫用行為の実効確保の目的で行われた
ことについて,疎明があったとはいえない。
4よって,いずれにせよ被保全権利の疎明があったということはできないので,
主文のとおり決定する。
平成22年6月18日
東京地方裁判所民事第8部
裁判官秋吉信彦

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採用情報


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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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