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平成27年7月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(行ケ)第10047号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年6月18日
判決
原告コスメディ製薬株式会社
訴訟代理人弁理士小川禎一郎
被告特許庁長官
指定代理人本多誠一
同橘崇生
同根岸克弘
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2014-10393号事件について平成27年1月15日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)原告は,平成24年12月28日,別紙審決書(写し)の「別紙第1」記
載の意匠(以下「本願意匠」という。)につき,意匠に係る物品を「マイク
ロニードルパッチ」とする,物品の部分についての意匠登録出願(意願20
12-32349号。以下「本願」という。)をしたが,平成26年2月1
3日付けで拒絶査定を受け,同年5月19日,拒絶査定不服審判を請求した。
(2)特許庁は,これを不服2014-10393号事件として審理をした結果,
平成27年1月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年2月9日原告に送達され
た。
(3)原告は,平成27年3月9日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,
本願意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有す
る者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又は
これらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるか
ら,意匠法3条2項の規定に該当し,意匠登録を受けることができない,と
いうものである。
(2)本件審決が認定した本願意匠及び公知の形態
ア本願意匠
本願意匠は,別紙審決書(写し)の「別紙第1」に記載されたとおりの
ものであり,すなわち,薬剤や化粧剤を経皮吸収させるマイクロニードル
パッチに係り,その形態は,(A)全体をシート状とした略曲玉形状であ
り,(B)裏面内側中央部に全体の輪郭形状より一回り小さな略相似形の
効能部材であるマイクロニードル部を設け,(C)マイクロニードル部周
辺の残余の裏面縁部を接着領域とし,左右の接着領域の幅を上下の接着領
域の幅よりやや幅広としたものであって,そのうちの(B)のマイクロニー
ドル部の外縁部を除いた略曲玉形状の内側部分を除いた,残余の部分(以
下「本願部分」という。)である。
イ公知の形態
マイクロニードルパッチを含む理美容用品の分野において,顔面に貼る
シートについては,以下の各形状は,いずれも本願の出願前に公然知られ
た形態である。
形態A
全体の態様を,目,鼻,口,耳等に近接した箇所に貼る形状として,
その全体形状を略曲玉形状にすること(①特開2009-7373号公
報(乙6。以下「乙6公報」という。)の【図6】,別紙審決書(写し)
の「別紙第2」の「意匠1-1」参照。②特表2008-521785
号公報(乙7。以下「乙7公報」という。)の【図1】,別紙審決書(写
し)の「別紙第3」の「意匠1-2」参照。③雑誌「クロワッサン」(株
式会社マガジンハウス発行)2010年9月10日号(同年8月25日
発売第34巻第17号)の112頁及び113頁(乙8。以下「乙8文
献」という。)に所載の美容用シート(製品名:ドリームマスク・ゴー
ルド(目元シート)),別紙審決書(写し)の「別紙第4」の「意匠1
-3」参照。以下「形態A」という。)。
形態B
効能部材を,全体の中央部にその輪郭形状と略相似形状に設けること
(④意匠登録第1419486号公報(乙11。以下「乙11公報」と
いう。)の意匠,別紙審決書(写し)の「別紙第7」の「意匠3-1」
参照。⑤意匠登録第1418317号公報(乙12。以下「乙12公報」
という。)の意匠,別紙審決書(写し)の「別紙第8」の「意匠3-2」
参照。⑥意匠登録第1363815号公報(乙13。以下「乙13公報」
という。)の意匠,別紙審決書(写し)の「別紙第9」の「意匠4-1」
参照。⑦意匠登録第1172298号公報(乙14。以下「乙14公報」
という。)の意匠,別紙審決書(写し)の「別紙第10」の「意匠4-
2」参照。以下「形態B」という。)。
形態C
接着領域を,効能部材の周囲に上下左右等幅にせず,はがれやすい方
向を幅広にしたり,接着領域を狭くして効能部材を広く行き渡るように
設けること(④乙11公報の意匠,別紙審決書(写し)の「別紙第7」
の「意匠3-1」参照。⑥乙13公報の意匠,別紙審決書(写し)「別
紙第9」の「意匠4-1」参照。以下「形態C」という。)。
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
本件審決は,本願意匠の構成の認定を誤り,本願意匠の創作容易性の判断を誤っ
たものであるから,違法であり,取り消されるべきである。
1本願意匠の構成の認定について
本願意匠は、鼻翼横から口元にかけてのほうれい線対策用として設計された
ものであり,底面視(別紙図1参照)において、下部(鼻翼や口元に近い部分)
の粘着部の幅はできるだけ狭く形成して鼻翼や口元に近く貼付できる一方、左
右と上部の粘着部は幅広く形成してその粘着性を確保しているところに創作に
係るポイントがある。
すなわち,マイクロニードルアレイの形状は、ほうれい線のカーブに合わせ
るため略曲玉形状となっているが(別紙図1参照),ほうれい線は鼻翼や口元
にきわめて近い部分にあるため、ほうれい線にマイクロニードルパッチを貼付
するためには、粘着部の鼻翼や口元に近い側の幅をできるだけ狭くする必要が
あることから(別紙図2参照),本願意匠においては,鼻翼や口元に近い側の
粘着力が低下した分を補うために,左右両側と鼻翼や口元から遠い側の粘着部
(粘着剤シートのうち基板外にはみ出している部分をいう。)の幅を広げて粘
着性を補強しているのである。
したがって,本願意匠の構成として,「鼻翼や口元に近く貼付するため基板
の形状を定め、粘着剤シートの粘着部の鼻翼や口元に近い部分を狭くし、左右
を広げた形状」である点が認定されるべきである。
本件審決は,上記の点を本願意匠の特徴的構成と認定しなかった点で誤りで
ある。
2創作容易性の判断について
(1)本件審決は,本願意匠の創作容易性について,マイクロニードルパッチを
含む理美容用品の分野において,顔面に貼るシートについては,(A)形態
Aは公然知られており,容易に想到できるものであり,(B)形態Bは公然
知られており,特段の創意はなく,(C)形態Cは,通常行われている手法
であり,特段の創意があるものとすることはできないから,本願意匠は,全
体を,公然知られた形状である略曲玉形状のシート状の裏面中央部に,通常
行われている手法で公然知られた全体の輪郭形状に沿ってマイクロニードル
部を設け,マイクロニードル部周辺の裏面縁部を,単に通常行われている手
法で接着領域とした程度のものであって,特段の創意は認められない旨判断
した。
(2)しかしながら,本件審決における本願意匠の創作容易性の判断は,以下の
とおり誤りである。
ア形態Cについて
本件審決が認定した形態Cは,「接着領域を,効能部材の周囲に上下左
右等幅にせず,はがれやすい方向を幅広にしたり,接着領域を狭くして効
能部材を広く行き渡るように設けること」であるが,本願意匠においては,
「はがれやすい方向」の粘着剤シートの粘着部は狭くなっており,粘着剤
シートの粘着部が狭くなっているのは,効能部材を鼻翼や口元に近づける
ためであって,効能部材を広く行き渡るようにするためではない。
したがって,形態Cをもって,本願意匠の創作容易性をいう本件審決の
判断は誤りである。
イ引用意匠には本願意匠のモチーフについての示唆がないこと
本件審決が挙げる「意匠3-1」,「意匠3-2」,「意匠4-1」,
「意匠4-2」のいずれにも,「粘着剤シートの粘着部について、ほうれ
い線の形状に合わせて鼻翼や口元に近い部分は幅を狭くし、粘着力を補う
ため左右部分と遠い部分は幅広くする」というモチーフは,記載も示唆も
されていないから,本願意匠は,引用意匠をもとに容易に創作できたもの
ではない。
ウ各引用意匠を組み合わせる動機付けがないこと
本件審決が形態Aの引用意匠として挙げる「意匠1-1」ないし「意
匠1-3」は,基板と粘着剤シートという構成を有しないから,本願意
匠とは骨格において異なる。すなわち,「意匠1-1」ないし「意匠1
-3」は,単なる略曲玉形状にすぎず,そこに基板が貼付されているこ
とは記載も示唆もされていないから,基板と粘着部の形状との関係に特
徴がある本願意匠の創作性を否定する根拠とはなり得ない。
本件審決が形態Cの引用意匠として挙げる「意匠3-1」には,ほう
れい線対策であることは記載されておらず,また,「意匠4-1」は,
そもそも顔面に貼付することを想定していない。
本願意匠の特徴的構成は,「全体が略曲玉状で,下部(鼻翼や口元に
近い部分)の粘着部の幅はできるだけ狭く形成して鼻翼や口元に近く貼
付できる一方,左右と上部の粘着部は幅広く形成してその粘着性を確保
している点」にあるが,本件審決が挙げるいずれの引用意匠にも,かか
る特徴的構成についての記載や示唆はない。
本願意匠と各引用意匠とは,意匠創作の課題,機能,構造を異にする
ものであるから,そもそも各引用意匠を組み合わせる動機付けがないし,
また,各引用意匠をいかように組み合わせても本願意匠を創作すること
はできない。
エ以上のとおり,本件審決における本願意匠の創作容易性の判断は誤りで
ある。
3被告の主張について
被告は,本願の願書における意匠に係る物品の説明や意匠の説明に本願意匠
の創作の意図や本願意匠の特徴が記載されていなかったから,これらを本願意
匠の構成の認定や本願意匠の創作容易性の判断において考慮しなかった点に誤
りはない旨主張する。
しかしながら,意匠法6条は,意匠創作の意図や意匠の特徴を願書に記載す
べきことを規定していないから,これらについての記載が願書にないとの点を
問題にする被告の主張は失当である。
〔被告の主張〕
1本願意匠の構成の認定の誤りについて
(1)原告は,本願意匠の構成として,「鼻翼や口元に近く貼付するため基板の
形状を定め、粘着剤シートの粘着部の鼻翼や口元に近い部分を狭くし、左右
を広げた形状」である点が認定されるべきであり,本件審決が,本願意匠の
特徴的構成として上記の点を認定しなかった点に誤りがある旨主張する。
しかしながら,本願の願書における意匠に係る物品の説明や意匠の説明は,
別紙審決書(写し)の「別紙第1」記載のとおりであり,原告が主張する,
鼻翼や口元近くなど使用部位に関する記載や粘着部の幅の相違と粘着力の確
保についての記載はない。また,本願の願書には,本願意匠を使用する際に,
その貼付する部位について,鼻翼や口元はおろか,顔面に貼付することも明
示はされておらず,単に「薬剤や化粧剤を人体に供給する」との記載がある
だけである。むしろ,「基板の大きさは1~10cm」と10倍もの差のあ
る場合が示され,願書に添付した図面の記載においても,平面形状として略
曲玉形状が下向きに凸の方向で表されているが,使用時の本願意匠の上下左
右等の向きは不明であって,使用の状態を示す参考図もなく,願書及び願書
に添付した図面には,鼻翼横から口元にかけてのほうれい線のみにしか使用
できない,という示唆はない。
(2)本件審決は,本願の願書及び願書に添付された図面の記載内容に基づいて,
本願意匠の形態を「(A)全体をシート状とした略曲玉形状であり,(B)
裏面内側中央部に全体の輪郭形状より一回り小さな略相似形の効能部材であ
るマイクロニードル部を設け,(C)マイクロニードル部周辺の残余の裏面
縁部を接着領域とし,左右の接着領域の幅を上下の接着領域の幅よりやや幅
広としたものであって,本願部分は,そのうちの(B)のマイクロニードル
部の外縁部を除いた略曲玉形状の内側部分を除いた,残余の部分である。」
と認定したものであるが,ここでは,接着領域を含む全体と裏面のマイクロ
ニードル部の2つの略相似形の略曲玉形状の曲線で形成される接着領域につ
いて,「全体の輪郭形状より一回り小さな略相似形の効能部材であるマイク
ロニードル部を設け」,「マイクロニードル部周辺の残余の裏面縁部を接着
領域とし」と認定し,その上で,その態様について,大小の相似形で単純に
形成された,いわゆる,縁取り的な等幅なものではない点を「左右の接着領
域の幅を上下の接着領域の幅よりやや幅広としたもの」と認定している。
本件審決における上記認定に誤りはない。
2創作容易性の判断について
(1)形態Cに係る主張について
原告は,本願意匠においては,「はがれやすい方向」の粘着剤シートの粘
着部は狭くなっており,粘着剤シートの粘着部が狭くなっているのは,効能
部材を鼻翼や口元に近づけるためであって,効能部材を広く行き渡るように
するためではないから,形態Cをもって,本願意匠の創作容易性をいう本件
審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,薬剤等の効能が目的箇所まで行き届くようにできるだけ接
着領域の幅を狭くし,かつ,その他の箇所において接着領域の幅を広げてパッ
チが剥がれにくくするなど,接着領域を等幅でない態様としたものが,本件
審決において例示した「意匠3-1」及び「意匠4-1」に表れており,そ
の他同種物品として,例えば,乙1(特開2012-213586号公報の
【図1】)なども本願の出願前に普通に見られることから,本件審決が「接
着領域を,効能部材の周囲に上下左右等幅にせず,はがれやすい方向を幅広
にしたり,接着領域を狭くして効能部材を広く行き渡るように設けること
は・・・通常行われている手法であり,特段の創意があるものとすることは
できない。」として,底面図において下側の接着領域の幅を最小にし,上側
の領域を中程度,そして,左右の接着領域の幅を最大にした本願意匠の創作
が容易であると判断した点に誤りはない。
本件審決が「はがれやすい方向を幅広にしたり」と述べたのは,全体に必
要な一定の粘着力をできるだけ効果的に持たせようとすると,使用時の方向
性や効能部材の形状等の関係から,より広く粘着領域を設けた方が良い方向,
つまり,剥がれやすい方向を勘案した上で,その他の方向に粘着領域を広く
設けるという意味であって,原告の主張する本願意匠の設計(創作)時の考
え方と同じことである。
また,本件審決が「接着領域を狭くして効能部材を広く行き渡るように設
ける」と述べたのは,「効能が所望の位置に届くように,つまり効能部材を
例えば目元や口元に近づけるようにするためである」ということについて,
接着領域の観点からそれを「狭くする」と表現したものであって,これを効
能部材の観点から表現すると,所望の特定の方向に向けて「効能部材の領域
を広げて効能ができるだけ隅まで行き渡るようにする」こととなり,接着領
域を狭くすることと効能部材を広く行き渡るように設けることとは同義であ
る。
(2)引用意匠には本願意匠のモチーフについての示唆がないとの主張につい

原告は,本件審決が挙げる「意匠3-1」,「意匠3-2」,「意匠4-
1」,「意匠4-2」のいずれにも,「粘着剤シートの粘着部について、ほ
うれい線の形状に合わせて鼻翼や口元に近い部分は幅を狭くし、粘着力を補
うため左右部分と遠い部分は幅広くする」というモチーフは,記載も示唆も
されていないから,本願意匠は,引用意匠をもとに容易に創作できたもので
はない旨主張する。
しかしながら,創作容易性の判断において,基礎となる判断材料は,当該
出願意匠と直接的な対比のみを行うためのものばかりではなく,当該出願意
匠の着想の新しさや構成要素ごとの斬新さの有無を問うための判断材料とし
ても提示されているものである。したがって,本願の出願前に公知の意匠の,
意匠に係る物品や各部位の構成等について本願意匠と比較して相違するとこ
ろがあるとしても,そのことが直ちに創作容易性を問うための判断材料とし
て不適格ということにはならない。
本件審決が挙げた「意匠1-1」等により,全体形状を,略曲玉形状とす
ることを初め,略相似形状に一回り小さくした効能部材の周囲に不等幅の接
着面を設けた態様が,「意匠3-1」や「意匠4-1」等に存することを勘
案したときに,本願意匠に着想の新しさや独創性が認められ得るか否かに
よって本願意匠に対する創作の容易性を判断すべきである。
本件審決は上記の観点から本願意匠が容易に創作し得るものである旨判断
したのであって,かかる判断に誤りはない。
(3)各引用意匠を組み合わせる動機付けがないとの主張について
ア原告は,本願意匠と各引用意匠とは,意匠創作の課題,機能,構造を異
にするものであるから,そもそも各引用意匠を組み合わせる動機付けがな
いし,また,各引用意匠をいかように組み合わせても本願意匠を創作する
ことはできない旨主張する。
しかしながら,①「意匠1-1」ないし「意匠1-3」は,本願意匠の
形態のうち(A)について,この種物品分野において全体形状を略曲玉形
状とすることが公然知られている例として示したものであり,②ほうれい
線対策のものと限定していない「意匠3-1」及び顔面用と限定していな
い「意匠4-1」は,本願意匠の形態のうち(B)について,効能部材の
輪郭形状をその全体の輪郭形状を略相似形状に一回り小さくして,全体の
略中央に設けることが公然知られている例として示したものであり,③「意
匠3-1」及び「意匠4-1」は,効能部材を目的箇所に近づけるため又
は粘着性を確保するために粘着部の幅を適宜変更すること(本願意匠の形
態のうちの(C))が通常行われている手法であるという根拠として示し
たものであって,前記(A)ないし(C)が相まって生じる全体の態様に
も特段の創意は認められないから,これらの引用意匠を根拠に,本願意匠
の創作が容易であったとした本件審決の判断に誤りはない。
イ原告は,本件審決が形態Aの引用意匠として挙げる「意匠1-1」ない
し「意匠1-3」は,単なる略曲玉形状にすぎず,そこに基板が貼付され
ていることは記載も示唆もされていないから,基板と粘着部の形状との関
係に特徴がある本願意匠の創作性を否定する根拠とはなり得ない旨主張す
る。
しかしながら,「意匠1-1」ないし「意匠1-3」は,基板と粘着材
シートという構成ではないが,美容のために化粧剤等を含ませて顔面に貼
付する用途,使用方法のものであって,本願意匠に係る物品とほぼ同種の
ものであるから,本願意匠と同種の物品において,全体の形状を略曲玉形
状としたものが既に公知であることを示しているといえ,本願意匠の創作
が容易であることの根拠となり得るものである。
ウ原告は,本件審決が形態Cの引用意匠として挙げる「意匠3-1」には,
ほうれい線対策であることは記載されておらず,「意匠4-1」は,そも
そも顔面に貼付することを想定していないから,本願意匠の特徴的構成を
示唆するものではない旨主張する。
しかしながら,本件審決が「意匠3-1」及び「意匠4-1」を挙げた
のは,ほうれい線対策用であることを示すためではなく,人体に貼付して
薬剤や化粧剤の効能を発揮させる物品分野において,その効能部材の周縁
に接着領域を設けるという点で,本願意匠のマイクロニードルパッチと同
様であり,それ以前から見られる美容用のパック用シートや創傷被覆材な
どの物品において,それらが人体のどの部位に貼付されるものであれ,接
着領域を効能部材の周囲に単純に上下左右等幅にせず,必要に応じてはが
れやすい方向を幅広にしたり,接着領域を狭くして効能部材を広く行き渡
るように適宜調整して設けることが多数公知であることを示すためである。
本件審決が,形態Cを含め,前記ア記載のとおり,本願意匠の創作容易
性を判断したことに誤りはない。
(4)以上のとおり,本件審決における本願意匠の創作容易性の判断に誤りはな
い。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由は理由がないものと判断する。その理由は
以下のとおりである。
1本願意匠の構成について
(1)本件審決は,本願意匠の形態を,前記第2の2(2)ア記載のとおり,(A)
全体をシート状とした略曲玉形状であり,(B)裏面内側中央部に全体の輪
郭形状より一回り小さな略相似形の効能部材であるマイクロニードル部を設
け,(C)マイクロニードル部周辺の残余の裏面縁部を接着領域とし,左右
の接着領域の幅を上下の接着領域の幅よりやや幅広としたものであって,そ
のうちの(B)のマイクロニードル部の外縁部を除いた略曲玉形状の内側部
分を除いた,残余の部分(本願部分)と認定した。
これに対し,原告は,本願意匠の構成として,「鼻翼や口元に近く貼付す
るため基板の形状を定め、粘着剤シートの粘着部の鼻翼や口元に近い部分を
狭くし、左右を広げた形状」である点が認定されるべきである旨主張するの
で,以下において検討する。
(2)本願の願書(甲6)には,「意匠に係る物品」として「マイクロニードル
パッチ」と,また,「意匠に係る物品の説明」として「本物品は,薬剤又は
化粧剤を効果的に人体に供給する物品です。本物品は基板,基板上の多数の
マイクロニードル及び粘着剤シート(高分子フィルム)から構成されていま
す。基板の大きさは1~10㎝,厚みは0.01~2㎜です。マイクロニー
ドルは薬剤又は化粧剤を含有し,その長さは10~1000μmです。本物
品を皮膚に貼付しマイクロニードルを皮膚に刺入すると,含有されていた薬
剤又は化粧剤が体内に吸収されます。また,粘着剤シートは皮膚に添付され
る際には曲げられ,本物品を皮膚に固定するのに用いられます。」と記載さ
れている。
上記記載によれば,本願意匠に係る物品は,薬剤又は化粧剤を経皮吸収さ
せる「マイクロニードルパッチ」であり,その使用部位は顔面の特定の部位
に限られないものであると認められる。
したがって,原告の上記主張のうち,「鼻翼や口元に近く貼付するため」,
「鼻翼や口元に近い部分」といった,本願意匠に係る物品の使用部位が顔面
の特定の部位に限られるものであることを前提に本願意匠の構成を認定すべ
きであるとする点は理由がない。
(3)粘着剤シートの粘着部の形状(本願部分)について,本件審決は,「全体
の輪郭形状(略曲玉形状)より一回り小さな略相似形の効能部材であるマイ
クロニードル部を設け」,「マイクロニードル部周辺の残余の裏面縁部を接
着領域とし」とした上で,「左右の接着領域の幅を上下の接着領域の幅より
やや幅広としたもの」であると認定している。
この「左右の接着領域の幅を上下の接着領域の幅よりやや幅広とした」と
いうのは,「(底面図における)下側及び上側の接着領域の幅より,(底面
図における)左側及び右側の幅をやや広げた形状」というのに等しい。
そして,本願の願書に添付された図面(底面図)によれば,本願意匠は,
下側の接着領域の幅と上側の接着領域の幅との比率をおおむね1対2,下側
の接着領域の幅と左右の接着領域の幅との比率をおおむね1対3程度とした
ものであるから,「(底面図における)下側及び上側の接着領域の幅より,
(底面図における)左側及び右側の幅をやや広げた形状」といい得るもので
ある。
一方,前記(2)のとおり,「鼻翼や口元に近く貼付するため」,「鼻翼や口
元に近い部分」といった,本願意匠に係る物品の使用部位が顔面の特定の部
位に限られるものであることを前提に本願意匠の構成を認定すべきであると
はいえないから,かかる記述を除けば,原告が本願意匠の粘着剤シートの粘
着部の特徴的形状として主張するのは,「(底面図における)下側の接着領
域の幅を狭くし,(底面図における)左側及び右側の幅を広げた形状」であ
り,かかる特徴は本件審決における上記認定と大差のないものである。
(4)以上によれば,本件審決における本願意匠の態様に係る認定は,本願の願
書及び願書に添付された図面の記載内容に基づいて,その特徴的構成を認定
したものであるというべきであって,上記認定に誤りはないから,この点に
かかる原告の主張は理由がない。
2創作容易性について
(1)公知の形態の認定について
ア形態A
文献の記載
a乙6公報には,「少なくとも1種の媒体及び該媒体によって担持さ
れた少なくとも1種の化粧用組成物を包含する化粧用または外皮適用
用物品」に関し,腎臓様の輪郭をした媒体(クッション,マスク又は
パッチ等)を有し,まぶたにメーキャップを施すことを意図されてい
る物品を示す平面図として略曲玉形状(図6)が記載されている。
b乙7公報には,「肌の手入れのための美容パッチ」に関し,パッチ
が,ユーザの目又は口の下に配置され,ユーザの目又は口の周囲の皺
及び/又は小皺をトリートメントするのに適すること,パッチの形状
として三日月形(図1)が記載されている。
c雑誌「クロワッサン」2010年9月10日号(乙8文献)には,
スキンケア用品であるシリコン製マスクに関し,「ドリームマスク・
ゴールド(目元シート)」という商品が掲載されており,同商品の形
状として略曲玉形状が記載されている。
d乙2(特開平11-130623号公報)には,「シート状パック」
に関し,「そら豆型」の形状(図1)が記載されており,図1に示す
高さAが50~80㎜,中心部の幅Bが20~30㎜,凹部の深さC
が5~10㎜,凹部の幅Dが40㎜以上で,凹部中心の曲率半径Eが
25~30㎜であるという所定の範囲内の寸法をとることにより,
シート状パックを目の下や目尻部へ貼着したときのフィット性を改善
するとともに,該シート状パックを目元ケア用のみならず鼻唇溝等他
の部位にも適用可能としたものであることが記載されている(図2)。
上記各文献の記載によれば,理美容用品の分野において,顔面の目や
口に近接した箇所に貼付するシートの形状を略曲玉形状とすることは,
本願の出願前に公知の形態であったものと認められる。
イ形態B
文献の記載
a乙11公報には,口元や目元に使用され,真皮内に美容成分を浸透
させるパック用シートであって,シートの貼付側内側中央部に無数の
ニードル状の固形美容成分が形成され,該ニードル部は全体の輪郭形
状と略相似形状であるパック用シートが記載されている。
b乙12公報には,平板四角形状のシート部の貼付側内側に,該シー
ト部の輪郭形状と略相似形状であるニードル部を備えた,薬剤を皮膚
内に供給する貼付剤が記載されている。
c乙13公報には,粘着層と患部接触層を備え,全体の輪郭の中央部
に,該輪郭形状と略相似形状の患部接触層が配された,仙骨部の創傷
治療に適した創傷被覆材が記載されている。
d乙14公報には,紙又は不織布等の基材の中央部に,該輪郭形状と
略相似形状の化粧料が表面に塗布された不織布が貼付された,踵に貼
付する化粧用パックシートが記載されている。
上記各文献の記載によれば,理美容用品である美容成分や薬剤を皮膚
内に浸透させるパック用シート(貼付剤)において,効能部材を全体の
中央部分内側に,全体の輪郭形状と略相似形状に設けることは,本願の
出願前に公知の形態であったものと認められる。
ウ形態C
文献の記載
a乙11公報には,パック用シートにおいて,シート部のうち内側中
央部のニードル部を除いた縁部の幅が,均一ではなく,底面図におい
て,右側(ニードル部の上下幅が広い部分)の周辺部ではやや幅広と
なっており,左側(ニードル部の上下幅が狭い部分の周辺部)では狭
くなっている形状(最大幅と最小幅の比率はおおむね3対1程度)が
記載されている。
b乙13公報には,仙骨部の創傷治療に適した創傷被覆材において,
患部接触層の周辺に配された粘着部の幅が,均一ではなく,平面図に
おいて,下側ではやや幅広となっており(面積が大きく),上側では
狭くなっている(面積が小さく)形状(平面図の下側の幅と上側の幅
の比率はおおむね3対1程度)が記載されている。
c乙1(特開2012-213586号公報・平成24年11月8日
公開)には,理美容用品である,目の下に貼付することを想定して設
計されたマイクロニードルパッチの形状として,マイクロニードルア
レイ11の周辺に配された粘着シートの幅が,下側では狭くなってお
り,左側及び右側でやや幅広となっている形状(図1において,下側
の接着領域の幅と上側の接着領域の幅との比率をおおむね1対2,下
側の接着領域の幅と左右の接着領域の幅との比率をおおむね1対3程
度としたもの)が記載されている。
上記各文献の記載によれば,理美容用品であるパック用シート(貼付
剤)において,接着領域を,効能部材の周辺部に等幅に設けるのではな
く,ある部分では狭くし(面積を小さくし),他の部分では幅広にする
(面積を大きくする)ことは,本願の出願前に公知の形態であったもの
と認められる。
(2)創作容易性について
前記(1)記載のとおり,理美容用品の分野において,顔面の目や口に近接し
た箇所に貼付するシートの形状を略曲玉形状とすることは,本願の出願前に
公知の形態であったものと認められ,また,理美容用品の分野において,美
容成分や薬剤を皮膚内に浸透させるため,効能部材を全体の中央部分内側に,
全体の輪郭形状と略相似形状に設けることも,本願の出願前に公知の形態で
あったものと認められる。さらに,パック用シート(貼付剤)において,接
着領域を,効能部材の周辺部に等幅に設けるのではなく,ある部分では狭く
し(面積を小さくし),他の部分では幅広にする(面積を大きくする)こと
も,本願の出願前に公知の形態であったものと認められる。
これら公知の形態は,いずれも,顔面の美容成分や薬剤を浸透させたい箇
所に貼付するパック用シート(貼付剤)についてのものであるから,本願意
匠に係る物品の属する理美容用品であるパック用シートの分野の当業者にお
いて,これら公知の形態を組み合わせることは容易であると認められる。
そして,本願意匠の形態は,前記第2の2(2)ア記載のとおりのものであっ
て,全体を公知の形態である略曲玉形状のシートとし(形態A),シート裏
面内側中央部に全体の輪郭形状と略相似形状のマイクロニードル部(効能部
材)を設け(形態B),略曲玉形状のシート全体のうちマイクロニードル部
を除いた残余の裏面縁部を接着領域とし,この際,本願の願書に添付された
図面(底面図)における下側及び上側の接着領域の幅より,左側及び右側の
幅をやや広げた形状とした(形態C)ものであり,下側の接着領域の幅と上
側の接着領域の幅との比率をおおむね1対2,下側の接着領域の幅と左右の
接着領域の幅との比率をおおむね1対3程度とした点も,前記(1)
とおり,他の公知の意匠にも見られるありふれた比率にすぎないものである。
したがって,本願意匠は,前記公知の形態を当業者にとってありふれた手
法により組み合わせたものにすぎず,前記公知の形態に基づいて容易に創作
をすることができたものであるというべきである。
(3)原告の主張について
ア原告は,「意匠3-1」,「意匠3-2」,「意匠4-1」,「意匠4
-2」のいずれにも,「粘着剤シートの粘着部について、ほうれい線の形
状に合わせて鼻翼や口元に近い部分は幅を狭くし、粘着力を補うため左右
部分と遠い部分は幅広くする」というモチーフは,記載も示唆もされてい
ないから,本願意匠は,引用意匠をもとに容易に創作できたものではない
旨主張する。
しかしながら,意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチー
フとして日本国内において広く知られた形状,模様若しくは色彩又はこれ
らの結合を基準として,それから当業者が容易に創作することができる意
匠でないことを登録要件としたものであって,そこでは,物品の同一又は
類似という制限をはずし,社会的に広く知られたモチーフを基準として,
当業者の立場から見た意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするもの
であるから,本願意匠の創作容易性の判断資料は,本願意匠に係る物品で
ある「マイクロニードルパッチ」と同一又は類似の物品に係るものに限ら
れず,「ほうれい線」対策という特定の使用部位に関する物品に係るもの
にも限られない。
また,そもそも,本願意匠に係る物品は,薬剤又は化粧剤を経皮吸収さ
せる「マイクロニードルパッチ」であり,その使用部位は顔面の特定の部
位に限られないものであるから,「ほうれい線」対策という特定の使用部
位に関するモチーフをもって本願意匠の創作容易性を判断しなければなら
ないものでもない。
以上によれば,原告の上記主張は理由がない。
イ原告は,「意匠1-1」ないし「意匠1-3」は,単なる略曲玉形状に
すぎず,そこに基板が貼付されていることは記載も示唆もされていないか
ら,基板と粘着部の形状との関係に特徴がある本願意匠の創作性を否定す
る根拠とはなり得ず,また,「意匠3-1」には,ほうれい線対策である
ことは記載されておらず,「意匠4-1」は,そもそも顔面に貼付するこ
とを想定していないから,本願意匠の創作性を否定する根拠とはなり得な
い旨主張する。
しかしながら,前記(1)ア記載のとおり,「意匠1-1」ないし「意匠1
-3」(乙6ないし8)は,理美容用品の分野において,顔面の目や口に
近接した箇所に貼付するシートの形状を略曲玉形状とすることが本願の出
願前に公知の形態であったこと(形態A)を示すものであるが,本願意匠
の創作容易性の判断資料が,それ自体が基板と粘着部という構成を備える
ものに限られるとすべき理由はないから,原告の指摘は当たらない。
また,前記(1)ウ記載のとおり,「意匠3-1」及び「意匠4-1」(乙
11及び乙13)は,理美容用品であるパック用シート(貼付剤)におい
て,接着領域を,効能部材の周辺部に等幅に設けるのではなく,ある部分
では狭くし(面積を小さくし),他の部分では幅広にする(面積を大きく
する)ことが本願の出願前に公知の形態であったこと(形態C)を示すも
のであるが,本願意匠の創作容易性の判断資料が,顔面に貼付することを
想定したもの,あるいは,ほうれい線対策のものに限られるとすべき理由
はないから,原告の指摘は当たらない。
そして,前記(1)記載の形態A,形態B及び形態Cは,いずれも顔面の美
容成分や薬剤を浸透させたい箇所に貼付するパック用シート(貼付剤)に
ついてのものであるから,本願意匠に係る物品の属する理美容用品である
パック用シートの分野の当業者において,これら公知の形態を組み合わせ,
本願意匠を創作することは容易であると認められることは前記(2)記載の
とおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(4)以上によれば,本件審決における創作容易性の判断に誤りはないから,こ
の点にかかる原告の主張は理由がない。
3結論
以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消
すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官富田善範
裁判官田中芳樹
裁判官柵木澄子
(別紙)
【図1】(底面図)
【図2】(模式図)

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