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平成14年(行ケ)第440号 審決取消請求事件
平成15年3月20日判決言渡,平成15年2月13日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 有限会社猫じゃらし産業
 訴訟代理人弁護士・弁理士 上村正二,石葉泰久,弁護士石川秀樹,松村武
 被 告 常陸化工株式会社
 訴訟代理人弁護士 松尾和子,弁理士 井滝裕敬,復代理人弁護士 高石秀樹
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が無効2001-35362号事件について平成14年7月29日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告が商標権者である本件登録第3190581号商標は,平成5年6月11日
に登録出願,「木の猫砂」の文字を横書きしてなり,第21類「愛玩動物用糞尿処
理材」を指定商品として,平成8年8月30日に設定登録されたものである。
 被告が,平成13年8月22日に本件商標登録の無効の審判を請求した結果(無
効2001-35362号),平成14年7月29日に「登録第3190581号
の登録を無効とする。」との審決があり,その謄本は同年8月8日原告に送達され
た。
 本件無効審判請求の理由は,本件商標は第21類「愛玩動物用糞尿処理材」中の
猫のトイレ砂(猫砂)の品質を示すにすぎないから,商標法3条1項3号に該当
し,また,上記商品以外の商品に使用すれば商品の品質を誤認させるから,商標法
4条1項16号に該当する,というにある。
 2 審決の理由の要点
 (1) 被告(請求人)の提出に係る「月刊ペットページ」(審判甲第6号証)の砂
のうつわ(上)の「新素材の導入で猫砂市場の活性化」の項をみると,「猫砂が日
本のペット市場に導入されたのは1969年より数年前のこと,輸入品だった。そ
して,1970年以前,土壌改良剤として利用され,吸収性,消臭効果の高いゼオ
ライトを原材料とした国産品が登場した。これが日本における猫砂ビジネスのスタ
ート点となる」等記載され,この記事中に,猫砂,猫砂製品,猫砂市場等の語が普
通に使用されていることが認められる。また,「日本のペット用品市場」(審判甲
第7号証)には,「犬・猫が室内で排泄する際に使うトイレ用シーツ(犬用)や猫
砂…のニーズが高まってきている」あるいは「その後猫砂を使用する人が口コミで
徐々に増えてきて,80年頃から急速に普及し始めた」等の記載がある。
 (2) また,公開実用新案公報(平成1-87647)の明細書中に「…従来の猫
砂」という語句及び特許公報(平成4-48407)の明細書中にも「従来,いわ
ゆる猫砂と称されるペット用排泄処理材…」と記載され使用されていることが認め
られる(審判甲第41号証及び審判甲第42号証)。
 (3) さらに,被告の提出に係る新聞,化学業界の専門紙,ペット関連用品の雑
誌,ガイドブック(審判甲第6号証及び審判甲第10号証ないし審判甲第40号
証),インターネットにおける「猫砂」の検索(審判甲第54号証)及び「日本獣
医師会雑誌」,「資源と環境」(審判甲第55号証及び同第56号証)の研究発表
や論文をみると,「猫砂」が商品化され市場で取引されるようになったのは197
0年ころと推測され,その当時「猫砂」の原材料としては,吸収性及び消臭効果の
高い「ゼオライト」が主であったが,その後,水に濡れると固まるという性質を持
つ「ペントナイト」が使用されるようになった。これらの鉱石系物質を原材料とす
る「猫砂」は,尿を吸うと固まる特性を有し,におい成分を吸着して消臭作用も高
いので,現在も広く出回っているが,使用後に燃えるゴミとして処分できない場合
があり,可燃性の高い素材を利用した「猫の糞尿処理材」が存在することが認めら
れる。
 そして,鉱石系以外のものを原材料とする「猫の糞尿処理材」に紙製,モミガ
ラ,木の粉,とうもろこしの芯,コーヒーの豆殻等が使用された商品が,本件商標
の登録査定時において,既に,製造発売されている事実も認められる。
 (4) そこで,本件商標をみると,本件商標は「木の猫砂」の文字からなるとこ
ろ,前記した実情よりすれば,その構成中,「猫砂」の文字は,「猫が室内で排泄
する際に使うトイレ用の砂」を認識,理解させるものである。また,「砂」は元来
「細かい岩石の粒の集合」の意味を有する語であるとしても,前記したとおり「猫
の糞尿処理材」に「木」が原材料として使用されている事実よりすれば,本件商標
中の「木の」の文字部分は「砂」の代わりとして「木」を原材料とした「猫の糞尿
処理材」を容易に認識,理解させるというのが相当である。
 そうとすれば,本件商標は,本件商標の登録査定時においても,「愛玩動物用糞
尿処理材」の指定商品中「木を使用した猫の糞尿処理材」に使用するときは,その
原材料,品質を表示するにとどまり,自他商品の識別標識としての機能を果たし得
なかったものといわざるを得ない。また,前記商品以外の商品に使用するときは商
品の品質を誤認させるおそれがあるものである。
 この点において,原告(被請求人)は,国語辞典,百科事典等に「猫砂」の語が
掲載されていないこと,原告による商品アンケートの中で「猫砂」と呼称されてい
ない事実,「砂」は「細かい岩石の粒の集合」の意味であること等を理由に,本件
商標は「猫の糞尿処理材」の原材料,品質を表示するものではない旨主張している
が,「猫の糞尿処理材」を扱う業者間において,既に,前記のとおり,「猫が室内
で排泄する際に使うトイレ用の砂」の代替品として「木」が使用されている実情よ
りすれば,上記のとおり判断するのが相当である。
 したがって,本件商標は,商標法3条1項3号及び4条1項16号に違反して登
録されたものであるから,商標法46条1項の規定によりその登録を無効とすべき
である。
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は誤った事実認定に基づくものであり,「猫砂」が普通に使用されていたと
した評価も誤っているから,取り消されるべきである。
 1 「猫砂」は,少なくとも本件登録査定時において普通に使用されていたもの
とはなっていなかった。
 審決は,「月刊ペットページ」(審判甲第6号証)の「新素材の導入で猫砂市場
の活性化」の項に猫砂,猫砂製品,猫砂市場等の語が普通に使用されていると認定
している。この雑誌(乙第4号証)は1996年(平成8年)3月号のものである
が,この記載は意図的に「猫砂」なる用語を使用しているにすぎない。普通に使用
されていたものとして認知されるためには,少なくとも,一般人がよく利用する辞
典類に単語熟語若しくは略語として掲載されていることが必要である。昭和50年
ころから平成14年までに発行されている国語辞典,百科事典,情報知識辞典に
は,「猫砂」なる用語は,略語あるいは普通名称として掲載されていない。
 審決は,公開実用新案公報や特許公報の明細書中の記載も認定の基礎としている
が,これは出願代理人の使用にすぎず,「猫砂」を普通に使用されていたものと認
定する根拠とすることはできない。
 原告は,平成11年12月9日付け朝日新聞地域版(甲第23号証)において,
原告の商品記事掲載の際に原告商品についてアンケートを求めた。これに約108
0通の応募があり,その結果は,ペットの糞尿処理材については「猫の砂」と呼称
されることはあっても,「猫砂」とは呼称されていない実情となっている(甲第6
号証)。
 2 「木の猫砂」の「木」は製品の原材料,品質等を表すものではない。
 審決は,「本件商標中の「木の」の文字部分は「砂」の代わりとして「木」を原
材料とした「猫の糞尿処理材」を容易に認識,理解させる」と認定判断している。
しかし,広辞苑は,鉱物でないものを「砂」と称し認識することはないことを示し
ている。材木を切ったときに生じるものを「おが屑」,「鋸屑」ということはあっ
ても,「砂」とは表現しない。したがって,本件商標の「木の猫砂」からは何の観
念を生じず,本件商標をもって単なる造語と認識するのが,一般の需要者である。
 「木の猫砂」の「木」は製品の原材料,品質等を表すものとは断定することがで
きない。
第4 当裁判所の判断
 1 審決は,「猫砂」の語が少なくとも本件商標の登録査定時において普通に使
用されていたとの認定を前提として,その結論に至っている。
 原告が「猫砂」の語をもって,普通に使用されていなかったものと主張する基調
は,審決が認定した雑誌,公報その他の文献の記載そのものについて特に争わず
に,個々の文献の記載は,記載者の認識だけに基づくものであるというのである。
しかしながら,審決が「猫砂」の語が普通に使用されていたと認定したのは個々の
文献だけからではなく,審決が挙げた複数の文献の記載を総合してみた結果による
ものである。この認定は,審決が挙げる審判甲号証(対応するものが本訴の乙号証
として提出されている。)に照らして是認することができる。
 2 原告は,平成11年12月9日付け朝日新聞地域版(甲第23号証)の記事
掲載から得られた応募の記載にある「猫の砂」との呼称をもって,「猫砂」が普通
に使用されていないことの根拠とするが,上記記事の表題は「猫じゃらしと猫の
砂」というものであり,原告が「延長アダプター付き猫じゃらしと木の砂のセッ
ト」を45人にプレゼントするという記事内容となっている。甲第6号証の1~2
89は,その応募葉書であって,そこにおける記載は,原告主張のように原告商品
についてのアンケート結果ではない。原告(そして朝日新聞地域版の記事)が求め
た応募要領に従って応募葉書に記載されるのは当然のことであるから,甲第6号証
の1~289の記載も,「猫砂」の語が普通名称となっていたとの審決の認定を左
右するものではない。
 なお,審決が挙げた証拠によって,「猫砂」の語が普通に使用されていることが
認められる以上,広辞苑等の一般の国語辞典等に「猫砂」が略語あるいは普通名称
として掲載されていることを認めるべき証拠はないことも,上記判断を動かすもの
ではない。少なくとも猫に関心のある一般需要者にとって「猫砂」の語が普通に使
用されていることは,審決の認定事実から十分に認めることができる。
 3 審決が認定したように,可燃性の高い素材を利用した「猫の糞尿処理材」が
存在する事実,鉱石系以外のものを原材料とする「猫の糞尿処理材」に紙,モミガ
ラ,木の粉等が使用された商品が,本件商標の登録査定時において製造発売されて
いる事実について,原告は争うものではない。そうだとすると,「本件商標は,本
件商標の登録査定時においても,「愛玩動物用糞尿処理材」の指定商品中「木を使
用した猫の糞尿処理材」に使用するときは,その原材料,品質を表示するにとどま
り,自他商品の識別標識としての機能を果たし得なかったものといわざるを得な
い。また,前記商品以外の商品に使用するときは商品の品質を誤認させるおそれが
ある」とした審決の判断に誤りがあるとすることはできない。原告は,鉱物でない
ものを「砂」と称し認識することはないと主張するが,審決の上記判断は「木の猫
砂」との本件商標を一体としてみたものであって,「砂」の語だけに着眼する原告
の主張は,上記判断を左右するものではない。
 4 その他,原告が主張するところをもってしても,審決の認定判断に誤りがあ
るものということはできない。
第5 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
  東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官塚   原   朋   一
            裁判官塩   月   秀   平
裁判官田   中   昌   利

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