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平成19年(行ケ)第10237号審決取消請求事件
平成20年3月25日判決言渡,平成20年3月11日口頭弁論終結
判決
原告ベイセル,ノース,アメリカ,インコーポ
レーテッド
訴訟代理人弁護士吉武賢次,宮嶋学,高田泰彦
同弁理士中村行孝,紺野昭男,横田修孝,高村雅晴
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人井出隆一,一色由美子,唐木以知良,
大場義則,渡邉陽子
主文
特許庁が訂正2006−39154号事件について平成19年2月2
0日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2当事者間に争いがない事実等
1特許庁における手続の経緯
()原告は,発明の名称を「弾塑性ポリオフィレン組成物」とする特許第331
85274号(平成3年8月1日にした出願〔特願平3−216053号〕
の一部を分割して平成13年6月6日に出願したもの。優先権主張:平成2
年8月1日〔以下「本件優先日」という。〕・イタリア。平成14年12月
27日設定登録〔以下「本件特許」という。〕)の特許権者である(甲1)。
()本件特許に対して,異議申立てがされ,特許庁はこれを異議2003−72
2227号事件として審理し,原告は,明細書等を訂正請求書により訂正し
たところ,平成18年2月13日,特許庁は,「訂正を認める。特許第33
85274号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定(甲1
1)をした。
同決定の理由の要旨は,請求項1(後記2()参照)のA)に記載された1
成分と同B)に記載された成分(以下,「A成分」,「B成分」という。)
等が区別できなければならないところ,A成分のうちキシレンに不溶性の部
分がB成分と区別できないことなどから,その記載が不明りょうであり,そ
れらの発明に係る特許は特許法36条5項,6項に規定する要件を満たして
いないというものであった。
原告は,上記決定に対し,平成18年6月30日,知的財産高等裁判所に
取消しの訴えを提起し,この訴えは係属中である(同裁判所平成18年(行
ケ)第10304号)。
そして,原告は,平成18年9月19日,本件特許につき,明細書等を訂
正することを求めて訂正審判の請求をした(甲2。以下「本件訂正」とい
う。)。特許庁は,上記請求を訂正2006−39154号事件として審理
していたところ,原告は,平成18年12月15日付け手続補正書により上
記請求書の補正をした(以下,同日付け手続補正書〔甲4〕による明細書に
対する補正を「本件補正」という。)。特許庁は,平成19年2月20日,
本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
をし,その謄本は同年3月2日,原告に送達された。
この審決に対し原告が知的財産高等裁判所に取消しの訴えを提起したのが,
本件訴訟である。
2発明の要旨
()本件訂正前の,本件特許に係る特許明細書(以下「本件特許明細書」とい1
う。)に記載された特許請求の範囲の請求項1の記載(請求項2ないし4は
省略する。)
「【請求項1】A)80よりも大きいアイソタクチック指数を有するプロ
ピレンの単独重合体,またはプロピレンとエチレン,式CH=CHR(式2
中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)のα−オレフィンまたはそれら
の組み合わせとの共重合体(該共重合体はプロピレン85重量%以上を含有
する)10∼50重量部,
B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,
C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは炭素数22
∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまたはそれらの組み合わせ
と場合によって小割合のジエンとの共重合体画分(該画分はエチレン40重
量%未満を含有し,室温のキシレンに可溶性であり且つ固有粘度1.5∼4
d/gを有する)40∼80重量部を含み,全ポリオレフィン組成物にl
対する(B)画分と(C)画分との和の重量%は50%∼90%であり且つ
(B)/(C)の重量比は0.4未満であることを特徴とするポリオレフィ
ン組成物。」
()訂正審判の請求書に添付した訂正明細書(甲2。以下「本件訂正明細書」2
という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載(請求項2ないし4は省略す
る。)(下線部が訂正部分。)
「【請求項1】A)80よりも大きいアイソタクチック指数を有するプロ
ピレンの単独重合体,またはプロピレンとエチレン,式CH=CHR(式2
中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)のα−オレフィンまたはそれら
の組み合わせとの第一の共重合体(該共重合体はプロピレン85重量%以上
を含有する)10∼50重量部,
および
B+C)エチレン−プロピレン混合物,エチレン−別のα−オレフィン混
合物,またはエチレン−プロピレン−別のα−オレフィン混合物を成分
(A)の製造工程とは異なる重合工程で重合して得られる第二の共重合体4
5∼100重量部であって,下記成分からなるもの:
B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,
C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは炭素数22
∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまたはそれらの組み合わせ
と場合によって小割合のジエンとの共重合体画分(該画分はエチレン20∼
38重量%を含有し,室温のキシレンに可溶性であり且つ固有粘度1.5∼
4dl/gを有する)40∼80重量部を含み,全ポリオレフィン組成物に
対する(B)画分と(C)画分との和の重量%は50%∼90%であり且つ
(B)/(C)の重量比は0.4未満である,ポリオレフィン組成物であっ
て,
前記ポリオレフィン組成物が,塩化マグネシウム上に担持されたチタン化
合物および電子供与体化合物を含有する固体触媒成分とA1トリアルキル化
合物および電子供与体化合物との反応生成物からなる触媒を用いた重合を用
いることにより得られるものであることを特徴とするポリオレフィン組成
物。」
()本件補正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載(請求項2ないし3
4は省略する。)(下線部が補正部分)
「【請求項1】
(A)80よりも大きいアイソタクチック指数を有するプロピレンの単
独重合体,またはプロピレンとエチレン,式CH=CHR(式中,Rは炭2
素数2∼8のアルキル基である)のα−オレフィンまたはそれらの組み合わ
せとの共重合体(該共重合体はプロピレン85重量%以上を含有する)であ
る第一の重合体10∼50重量部と,
(B+C)エチレン−プロピレン混合物,エチレン−別のα−オレフィ
ン混合物,またはエチレン−プロピレン−別のα−オレフィン混合物を第一
の重合体(A)の製造工程とは異なる重合工程で重合して得られる共重合体
であって,(B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼
20重量部,および(C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR2
(式中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまた
はそれらの組み合わせとの共重合体画分(該画分はエチレン20∼38重量
l%を含有し,室温のキシレンに可溶性であり且つ固有粘度1.5∼4d
/gを有する)40∼80重量部のみからなる第二の重合体45∼100重
量部と
を含み,
全ポリオレフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分との和の重量%
は50%∼90%であり且つ(B)/(C)の重量比は0.4未満である,
ポリオレフィン組成物であって,
第一の重合体(A)および第二の重合体(B+C)が,塩化マグネシウム
上に担持されたチタン化合物および電子供与体化合物を含有する固体触媒成
分とAlトリアルキル化合物および電子供与体化合物との反応生成物からな
る触媒を用いた重合を用いることにより得られるものであることを特徴とす
るポリオレフィン組成物。」
3審決の理由
審決の理由の部分の記載は,後記第5の1()カ及び同2()のとおりであり,22
本件補正について,審判請求書の要旨を変更するものであると却下した上で,
本件訂正について,特許明細書に記載した事項の範囲内でしたものではないと
した。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,本件補正の適法性についての判断を誤って(取消事由1),本件補
正を却下し,また,本件訂正の適法性についての判断を誤って(取消事由2),
本件訂正が許されないとの誤った結論に至ったものであり,違法であるから,
取り消されるべきである。
1取消事由1(本件補正の適法性についての判断の誤り)
()審決は,本件補正のうち,本件訂正明細書の請求項1についての補正(以1
下「補正1」という。)について,「審判請求書の要旨を変更するものであ
るから,特許法第131条の2第1項の規定により認められない。」と判断
して,本件補正を却下したが,誤りである。
()審決は,「補正前の請求項1は,その文章が日本語として明確でなく,か2
つ意味不明であったのに対して,補正後の請求項1は,日本語としての体裁
が整えられ,その意味が理解できるものである。このような補正1は,訂正
明細書を実質的に変更するものであるから,審判請求書の要旨を変更するも
のと認める。」(3頁下から第3段落∼第2段落)としたが,特許法131
条の2第1項の趣旨に照らし,あまりにも不合理な判断である。
そもそも,特許法131条の2第1項の趣旨は,「審判請求人が審判の審
理が進んだ段階での理由の要旨を拡張・変更すると,実質的な審理のやり直
しをせざるを得ず,審理が長期化・遅延することに照らし,審判請求書の補
正がその『要旨の変更』に当たる場合にはこれを許さないものとした」こと,
すなわち,「審判における審理対象の拡張変更による審理遅延を防止する」
ことにある(知財高裁平成17年(行ケ)第10706号判決)。
そうすると,原告が行った補正1は,補正後の請求項1において,「日本
語としての体裁が整えられ,その意味が理解できるもの」とする補正であっ
て,審判における審理対象の拡張変更をするものでなく,審理遅延を防止す
るどころか,審理を促進するものである。原告が訂正審判を請求することに
より解消しようとしている異議の決定(甲11)の特許取消理由は,特許請
求の範囲が不明りょうであるとする特許法36条5項及び6項違反であるか
ら,「日本語としての体裁が整えられ,その意味が理解できるもの」とする
補正は,原告が訂正審判を請求している本来の目的を担当審判官の特質を考
慮しながらより効率良く達成できるように審理協力を試みたものであり,
「審理のやり直し」を招くことは考えられず,逆に,特許法36条5項及び
6項違反が解消されたか否かについての審理を促進することは明らかである。
このように,補正1は,特許法131条の2第1項の趣旨に適合する補正
であるから,審判請求書の要旨を変更するものではない。
()補正1は,極めて形式的な補正であり,審判における審理対象の拡張変更3
をするものでないことは明らかである。要旨の変更に当たるかどうかは,単
に請求の趣旨や理由が変更されたかどうかを形式的に判断するのではなく,
補正前と補正後の内容を実質的に対比検討し,訂正審判における審理の範囲
が,補正により実質的に拡張・変更されるかどうかに基づいて判断されるべ
きである(前記知財高裁判決参照)。
ア「A)」を「(A)」とした補正は,表記手法を統一して,記載を視覚
的により一層見やすくしたものにすぎない。本件補正前は,「A)」と
「成分(A)」という2種類の表記が存在していたが,両表記とも「A」
というアルファベット記号を含むことから,これらが同一の成分を指すこ
とは明りょうであったが,念のため整合性を向上させるため補正したもの
である。
イ「第一の共重合体(・・・)10∼50重量部,および」を「共重合体
(・・・)である第一の重合体10∼50重量部と,」とした補正は,
「第一の共重合体」との記載を「共重合体」と戻しながら,「単独重合
体」及び「共重合体」とを選択的に包含する「・・・である第一の重合
体」との用語に補正して,記載の整合性を向上させたものにすぎない。
もともと,A成分において,「第一の共重合体」の「第一の」という表
現は,B+C成分の「第二の共重合体」との区別を明確にするための識別
記号として加えたものであり,その機能は補正前から十分に果たされてお
り,何ら不明りょうなものではなかった。
しかし,A成分の記載中に「第一の共重合体」との用語が存在すると,
B+C成分の「第二の共重合体」との関係においてそれだけが視覚的に強
調されてしまい,「第一の共重合体」と選択的に使用可能な「単独重合
体」の存在が視覚的に希釈化されるおそれがあったため,念のため,「第
一の共重合体」との用語に代えて,「単独重合体」及び「共重合体」の両
方を包含するように「・・・である第一の重合体」との記載に補正して,
「第二の共重合体」(補正後の「第二の重合体」)との間の表現の整合性
を向上させたのである。
ウ「B+C)」を「(B+C)」とした補正は,括弧を伴って記載される
「(A)」との間で括弧書き表記手法を統一して,記載を視覚的に見やす
くしたものにすぎない。
エ「第二の共重合体45∼100重量部であって,下記成分からなるもの
:B)・・・5∼20重量部,C)・・・40∼80重量部」を「共重合
体であって,(B)・・・5∼20重量部,および(C)・・・40∼8
0重量部のみからなる第二の重合体45∼100重量部と」とした補正は,
「であって,下記成分からなるもの:」及びそれに続く「B)・・・5∼
20重量部,C)・・・40∼80重量部」の語順を入れ替えることによ
り「下記成分」という記載を削除して,視覚的に記載をより一層見やすく
したものにすぎない。
もともと,「下記成分」は,その直後に括弧記号を伴って明示される
「B)・・・5∼20重量部,C)・・・40∼80重量部」を指すこと,
すなわち,「第二の共重合体」がB成分とC成分のみからなることは明り
ょうであったが,念のため,視覚的により一層見やすくするため,補正し
たものにすぎない。
オ「第二の共重合体」を「第二の重合体」とした補正は,「第二の共重合
体」との記載から「共」の字を削除して「第二の重合体」とすることで,
本件補正後の「第一の重合体」との記載の整合性を向上させたものにすぎ
ない。
カ「場合によって小割合のジエン」を削除した補正は,C成分に関する
「場合によって小割合のジエン」との不要な記載を削除して,C成分の原
料として記載される「エチレン−プロピレン混合物,エチレン−別のα−
オレフィン混合物,またはエチレン−プロピレン−別のα−オレフィン混
合物を成分(A)の製造工程とは異なる重合工程で重合して得られる」と
の整合性を向上したものにすぎない。
本件補正前,「場合によって小割合のジエン」は生成物としてのC成分
中の任意成分として記載されていたが,その原料を記載する「B+C)」
で始まる前置きには「エチレン−プロピレン混合物,エチレン−別のα−
オレフィン混合物,またはエチレン−プロピレン−別のα−オレフィン混
合物を成分(A)の製造工程とは異なる重合工程で重合して得られる」と
しか記載されておらず,「場合によって小割合のジエン」は原料として記
載されていなかったのであるから,その生成物中の任意成分として記載さ
れる「場合によって小割合のジエン」は実質的に記載されていないも同然
であることは明りょうであったが,念のために整合性を向上させるために
補正したものである。
キ「ポリオレフィン組成物が」を「第一の重合体(A)および第二の重合
体(B+C)が」とした補正は,「重合を用いることにより得られるも
の」として記載されていた「ポリオレフィン組成物」を「第一の重合体
(A)および第二の重合体(B+C)」と補正することにより,「重合」
という用語との形式的な表現の一致によって整合性を向上させたものにす
ぎない。
そもそも,「ポリオレフィン」ないし「ポリオレフィン組成物」は,
「重合を用いることにより得られるもの」であることは明りょうであった
(甲6)が,もともと明りょうな記載をより一層明りょうにするだけのも
のである。
()審決は,「補正前の請求項1は,その文章が日本語として明確でなく,か4
つ意味不明であった」との前提に立ち,「補正後の請求項1は,日本語とし
ての体裁が整えられ,その意味が理解できるものである」から,「このよう
な補正1は,訂正明細書を実質的に変更するものである」と判断したが,後
記2のとおり,その前提である「補正前の請求項1は,その文章が日本語と
して明確でなく,かつ意味不明であった」こと自体が誤っているのであるか
ら,上記判断は誤りである。
()審決は,「補正1は,補正前の請求項1における,文言,用語,及び,符5
号を,追加,削除,または,変更するものであり,具体的な補正箇所は多岐
にわたる。」ことを,補正1が訂正明細書を実質的に変更する理由として指
摘する。
しかし,「具体的な補正箇所は多岐にわたる」ことと,訂正明細書を実質
的に変更することとは無関係である。訂正明細書を実質的に変更する否かは
単なる補正箇所の個数によって判断されるべきではなく,補正事項の実質的
な内容に基づいて判断されるべきである。そして,本件補正は,もともと明
りょうな記載をより一層明りょうにするだけの極めて形式的な補正にすぎな
い。
2取消事由2(本件訂正の適法性についての判断の誤り)
()審決は,「訂正拒絶理由で示した上記判断を改めて検討するに,意見書を1
みても,当該判断を覆すべき理由は見いだせない。したがって,訂正事項1
は,特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められな
い。」(6頁第2段落)とする。そして,「上記判断」とは,訂正拒絶理由
で示された「(1)そこで特許明細書の記載を検討するに,上記のような,
それ自体意味不明な訂正発明は,特許明細書に記載がなく,また,特許明細
書の記載から自明なものとも認められない。したがって,訂正事項1は,特
許明細書に記載されている範囲内のものとは認められない。」というもので
あり,その根拠として「2.訂正発明の意味」において,(1)∼(7)の
理由を挙げている(以下,これらをそれぞれ,「(1)の理由」などとい
う。)。しかし,この(1)∼(7)の理由は,いずれも失当である。
()ア審決は,(1)の理由として,「訂正発明において,第二の共重合体は,2
『下記成分からなるもの』として記載されているが,この『下記成分』と
はどの記載をいうのか,文章上明りょうでない。」と判断する。
しかし,「下記成分」とはその直後に括弧記号を伴って明示されるB成
分及びC成分を指すことを示すことは視覚的にも内容的にも明りょうであ
る。複数成分を含む共重合体ないし組成物を請求項に規定するに当たり,
「・・・および・・・を含み」との表現を用いるのが一般的であり,「下
記成分」からなるとされる第二の共重合体は,「共重合体」である以上,
それを構成する単量体ないし画分を「成分」と呼ぶのは本件優先日当時の
一般的な技術常識であるから,その直後に記載されるB成分及びC成分が
対応成分であることは明らかである。そして,請求項1において「を含
み,」の直後に記載される「全ポリオレフィン組成物に対する(B)画分
と(C)画分との和の重量%は50%∼90%であり且つ(B)/(C)
の重量比は0.4未満である,」との記載は,「・・・は・・・である」
と完結した文章で構成されているから,付加的な限定事項であって,
「A)・・・およびB+C)・・・を含み,」との枠組みに含まれないこ
とも明らかである。
イ審決は,(2)の理由として,「訂正発明は,一部省略して示すと,
『・・・第一の共重合体10∼50重量部,および・・・第二の共重合体
45∼100重量部であって,下記成分からなるもの:・・・ポリオレフ
ィン組成物。』となるが,『下記成分からなるもの』は,次に,どの用語
に,意味の上でつながるのか,文章上不明である」と判断するが,「下記
成分」とは,その直後に括弧記号を伴って明示されるB成分及びC成分を
指すことを示すことは視覚的にも内容的にも明りょうである。
ウ審決は,(3)の理由として,「ポリオレフィン組成物が,第一の共重
合体と,第二の共重合体のみからなるのか,それ以外の成分を含みうるの
か文章上不明である。」と判断する。
しかし,ポリオレフィン組成物は,第一の共重合体と第二の共重合体の
みからなるではなく,それ以外の成分を含み得ることは,文章上明りょう
である。請求項1は,「『A)・・・』および『B+C)・・・』を含み,
・・・である『ポリオレフィン組成物であって』」と記載されているので
あって,「A成分及びB+C成分を含むポリオレフィン組成物」と自然に
解釈されるから,A成分とB+C成分と「を含み」と記載し,それら「か
らなる」ないし「のみからなる」とは記載せず,その他の成分を含み得る
ことは文章上明確である。
エ審決は,(4)の理由として,「第二の共重合体が『室温のキシレンに
不溶性のエチレン含有共重合体画分』と『エチレンとプロピレンまたは式
CH=CHR(式中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)の別のα2
−オレフィンまたはそれらの組み合わせと場合によって小割合のジエンと
の共重合体画分(該画分はエチレン20∼38重量%を含有し,室温のキ
シレンに可溶性であり且つ固有粘度1.5∼4d/gを有する)』のl
みからなるのか,他の画分をも含みうるのか文章上不明である。」と判断
した。
しかし,請求項1において,第二の共重合体は「下記成分からなるも
の」と特定し,「下記成分」は,その直後に括弧記号を伴って明示される
「B)・・・5∼20重量部,C)・・・40∼80重量部」を指すこと
が明らかであるから,「第二の共重合体」がB成分とC成分とのみからな
ることは明らかである。
オ審決は,(5)の理由として,「『成分(A)の製造工程とは異なる重
合工程で重合して得られる第二の共重合体』との記載があるが,『成分
(A)』が何か記載されていない。」と判断する。
しかし,請求項1には「A)」及び「成分(A)」という2種類の表記
が存在していたが,両表記とも「A」というアルファベット記号を含むこ
とから同一の成分を指すこと,すなわち,「成分(A)」とは「A)・・
・」なる成分を指すことは一義的に特定することができるので,明りょう
である。
カ審決は,(6)の理由として,「『ポリオレフィン組成物が,塩化マグ
ネシウム上に担持されたチタン化合物および電子供与体化合物を含有する
固体触媒成分とAlトリアルキル化合物および電子供与体化合物との反応
生成物からなる触媒を用いた重合を用いることにより得られるものであ
る』との記載があるが,触媒を用いた重合で得られるのは重合体であるこ
とを考慮すると,この記載の意味が不明である。」と判断する。
しかし,「ポリオレフィン」とは,「比較的簡単なオレフィン(エチレ
ン,プロピレン,・・・など)を重合または共重合して得られる熱可塑性
樹脂」(甲6)であることは本件優先日当時の技術常識であるから,「重
合を用いることにより得られるもの」であることは明りょうである。
キ審決は,(7)の理由として,「第二の共重合体の原料が『エチレン−
プロピレン混合物,エチレン−別のα−オレフィン混合物,またはエチレ
ン−プロピレン−別のα−オレフィン混合物』であるにも係わらず,
『C)』に,『エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,R2
は炭素数2∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまたはそれら
の組み合わせと場合によって小割合のジエンとの共重合体画分』と記載さ
れ,該画分は,場合によって小割合のジエンを共重合成分とするから,原
料と生成物が不一致である。」と判断する。
しかし,「場合によって小割合のジエン」は生成物中のC成分の任意成
分として記載されていたが,その原料を記載する「B+C)」で始まる前
置きには「エチレン−プロピレン混合物,エチレン−別のα−オレフィン
混合物,またはエチレン−プロピレン−別のα−オレフィン混合物を成分
(A)の製造工程とは異なる重合工程で重合して得られる」としか記載さ
れておらず,「場合によって小割合のジエン」は原料として記載されてい
なかったのであるから,その製造物中の任意成分として記載される「場合
によって小割合のジエン」は実質的に記載されていないも同然であること
は明りょうである。したがって,「場合によって小割合のジエン」との記
載が存在することが不明りょうとまではいえない。
()被告は,本件については,A∼C成分の重量部が特定されており,この特3
定のためには,A∼C成分がそれぞれ区別できなければならないところ,前
出平成18年(行ケ)第10304号事件で審理されている異議2003−
72227号事件の決定で指摘された,A成分のうちキシレンに不溶性の部
分(X成分)はB成分と区別できないという,X成分が不明りょうな点が解
消されていない旨主張する。
しかし,「X成分が不明りょうな点」は,本件の審決において全く言及さ
れていない事項であるから,このような事項を本訴の審理対象とすることは,
許されない。本件の審決は,「修辞法上の記載の明りょう性」に照らして意
味不明な訂正発明であると結論付けていて,本件においては,本件訂正後の
発明の「修辞法上の記載の明りょう性」が問題となっていて,各成分の実体
についての明りょう性は問題となっておらず,「X成分が不明りょうな点」
は各成分の実体についての明りょう性の問題であり,本件の訴訟において,
審理対象とされるべきではない。
なお,被告は,X成分が不明りょうな点は,本件訂正によっても解消され
ない旨主張するが,X成分が不明りょうな点は,本件訂正後の請求項1によ
れば,解消される。訂正発明においては,A成分,B成分及びC成分の各重
量部の算出は,互いに「異なる重合工程で重合して得られる」という製造工
程の相違に着目し,最終生成物のみならずその互いに異なる製造工程に遡っ
てデータを入手することで,当業者が容易に行うことができるものである。
審決も,本件の訂正審判の請求が成り立たないとする理由として,本件訂
正が,「特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合しない」とするの
であり,特許法36条5項及び6項違反に基づく独立特許要件違反(特許法
126条3項)を挙げていない。このことからも,本件訂正によって,「X
成分が不明りょうな点」は解消されている。
第4被告の反論
1取消事由1(本件補正の適法性についての判断の誤り)に対して
()原告は,審決において「補正後の請求項1は,日本語としての体裁が整え1
られ,その意味が理解できるものである。」と認められたことを理由として
本件補正が許されないのは,特許法131条の2第1項の趣旨に照らし,不
合理である旨主張する。
()審決は,「補正後の請求項1は,日本語としての体裁が整えられ,その意2
味が理解できるものである。」と指摘したが,これは,本件補正前は,特許
請求の範囲に記載された文言が何に対応するのか,どこにかかるのかなどの
対応関係が,そもそも「その文章が日本語として明確でなく,かつ意味不明
であった」点で,特許請求の範囲の記載として論外であったものが,補正に
より,形式的にみて特許請求の範囲に記載された文言が何に対応するのか,
どこにかかるのかなどの対応関係が一応分かるようになった点において,一
応改善されたので,そのことにつき,「補正後の請求項1は,日本語として
の体裁が整えられ,その意味が理解できる」と指摘したにすぎない。
()原告は,本件補正前に用いられていた「下記成分」との文言に係る補正に3
ついて,視覚的に記載をより一層見やすくしたものにすぎないし,下記成分
が何を指すかは明確である旨主張する。
しかし,本件補正は,「下記成分」という概念をなくすとともに,「下記
成分」に包含される可能性がある記載内容が全く異なっているものであって,
訂正を求める範囲を実質的に拡張・変更するものであるから,請求書の要旨
を変更するものである。
また,本件補正前の「下記成分」については,原告が主張するように,
「B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,
C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは炭素数22
∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィン・・・40∼80重量部」
を指すとも解せるが,「B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合
体画分5∼20重量部,C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CH2
R(式中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィン・
・・40∼80重量部を含み,全ポリオレフィン組成物に対する(B)画分
と(C)画分との和の重量%は50%∼90%であり且つ(B)/(C)の
重量比は0.4未満である」を指すとも解釈できる。
それを,本件補正は,上記「下記成分」の内容について,「(B)室温の
キシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,および
(C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは炭素数22
∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィン・・・40∼80重量部の
みからなる第二の重合体45∼100重量部とを含み,」のように変更した。
この結果,補正前はB+C成分が,「下記成分」からなり,その「下記成
分」がB成分,C成分40∼80重量部を含む,であるから,「含む」との
記載があっても,「からなり」との記載と不整合であり,A成分とB+C成
分のみからなるのか,その他の成分を含み得るのか不明であったものが,本
件補正後は,全ポリオレフィン組成物が第一の共重合体と第二の共重合体と
を含む意味に解されるように(すなわち,A成分,B+C成分以外の他の成
分(以下「D成分」という。)を含み得るように変更したものであって,多
義的に解釈し得る記載を,何の根拠もなく一義的に解釈し得る記載に変更し,
しかも,記載内容を大幅に変更して,当初の記載内容とは全く異なるものと
変更した点で,訂正を求める範囲を実質的に拡張・変更するものであるから,
このような補正は請求書の要旨を変更するものである。
また,ポリオレフィン組成物について,当初,①第一の共重合体(A成
分)と,第二の共重合体(B+C成分)のみからなるのか,②それ以外の成
分を含み得るのか,文章上不明であったものを,D成分をも含み得るように
拡張・変更した点で,訂正を求める範囲を実質的に拡張・変更するものであ
る。
そして,D成分を含み得るようになった結果,「(B)画分と(C)画分
との和の重量%は50%∼90%成分」の事項は,((B+C)/A+B+
C+D)を示すものとなり,(A成分)と(B+C成分)のみのポリオレフ
ィン組成物における割合((B+C)/A+B+C)と,その意味が全く異
なるものとなる。
したがって,このような補正は請求書の要旨を変更するものである。
()また,本件補正は,補正前の「ポリオレフィン組成物が,塩化マグネシウ4
ム上に担持されたチタン化合物および電子供与体化合物を含有する固体触媒
成分とAlトリアルキル化合物および電子供与体化合物との反応生成物から
なる触媒を用いることにより得られるものである」について,本件補正によ
り,「ポリオレフィン組成物が」を「第一の重合体(A)および第二の重合
体(B+C)が」とするものである。
本件補正前の「前記ポリオレフィン組成物が,・・・からなる触媒を用い
ることにより得られるものである」と「B+C)・・・成分(A)の製造工
程とは異なる重合工程で重合して得られる第二の共重合体」との記載と合わ
せて解釈すると,本件補正前は触媒を用いて重合されるものがポリオレフィ
ン組成物であり,同一反応器での二段重合による組成物を想起させるもので
あるが(通常,触媒を用いた単一の重合工程で得られるのは重合体であるが,
触媒を用いた同一反応器での二段重合を行う場合に得られるのは組成物であ
ることは自明であるし,本件明細書中にも実施の態様として二段重合のみ開
示されている。),補正により触媒を用いて重合されるものが第一の重合体
(A)と第二の重合体(B+C)とされ,単一の重合工程で得られるのが重
合体であることからすると,同一の反応器での二段重合に限られず,別の反
応器で製造された物を混合して組成物とする態様をも包含するように変更に
なった。
このような結果をもたらす本件補正は,明らかに,特許請求の範囲を実質
的に拡張変更するものである。
2取消事由2(本件訂正の適法性についての判断の誤り)に対して
()審決が,本件訂正を不適法と判断するに当たり,(1)の理由として,1
「訂正発明において,第二の共重合体は,『下記成分からなるもの』として
記載されているが,この「下記成分」とはどの記載をいうのか,文章上明り
ょうでない。」としたのに対し,原告は,「下記成分」がどの記載をいうの
か明りょうである旨主張する。また,審決が,理由(2)として,「訂正発
明は,一部省略して示すと,『…第一の共重合体10∼50重量部,および
…第二の共重合体45∼100重量部であって,下記成分からなるもの:…
ポリオレフィン組成物。』となるが,「下記成分からなるもの」は,次に,
どの用語に,意味の上でつながるのか,文章上不明である」と判断したのに
対し,原告は,「下記成分からなるもの」とは,「B成分及びC成分からな
るもの」を意味することは明らかである旨主張する。
しかし,上記1()のとおり,「下記成分」については,2とおりの解釈3
があり得るのであり,意味内容が多義的に理解でき,不明確である。
この点,原告は,請求項1において「を含み,」の直後に記載される「全
ポリオレフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分との和の重量%は5
0%∼90%であり且つ(B)/(C)の重量比は0.4未満である,」と
の記載は「・・・は・・・である」と完結した文章で構成されているから,
付加的な限定事項であって,「A)・・・およびB+C)・・・を含み,」
との枠組みに含まれないこともまた明らかである旨主張するが,「全ポリオ
レフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分との和の重量%は50%∼
90%であり且つ(B)/(C)の重量比は0.4未満である,」との記載
も,B成分およびC成分と併せ,成分を限定するものであることは明らかで
あるし,しかも,「A)・・・およびB+C)・・・を含み,」との枠組み
が請求項1の解釈に影響を及ぼすことはないから,原告の主張は失当である。
そして,この「下記成分」についての訂正事項は,後記()のとおり,2
「を含み」の解釈に影響を及ぼすものであって,その結果,特許請求の範囲
に記載された発明を拡張しようとするものであり,到底許されるものではな
い。
()審決が,(3)の理由として,「ポリオレフィン組成物が,第一の共重合2
体と,第二の共重合体のみからなるのか,それ以外の成分を含みうるのか文
章上不明である。」と判断したのに対し,原告は,ポリオレフィン組成物が,
第一の共重合体と第二の共重合体のみからなるのではなく,それ以外の成分
を含み得ることは文章上明りょうである旨主張する。
しかし,請求項1には「を含み」という文言はあるが,これは「ポリオレ
フィン組成物」に係ると解し得るとしても,その直後に記載された「全ポリ
オレフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分との和の重量%は50%
∼90%であり且つ(B)/(C)の重量比は0.4未満である」との記載
に続き,ともに,「B+C)・・・第二の共重合体」に係るとも解し得るの
である(日本語としては,その直後に記載された文言に続くと解する方がよ
り自然である。)から,結局,ポリオレフィン組成物が,第一の共重合体と,
第二の共重合体のみからなるのか,それ以外の成分を含み得るのか文章上不
明である。原告の主張は,意図的に特許請求の範囲に記載された発明を拡張
しようとするものである。
()審決が,(6)の理由として,「『ポリオレフィン組成物が,塩化マグネ3
シウム上に担持されたチタン化合物および電子供与体化合物を含有する固体
触媒成分とA1トリアルキル化合物および電子供与体化合物との反応生成物
からなる触媒を用いた重合を用いることにより得られるものである』との記
載があるが,触媒を用いた重合で得られるのは重合体であることを考慮する
と,この記載の意味が不明である。」と判断したのに対し,原告は,「ポリ
オレフィン」が,「重合を用いることにより得られるもの」であることは明
りょうであると主張する。
しかしながら,「ポリオレフィン組成物・・・より得られるものである」
の記載は,同一反応器で二段重合する場合には一見すると明りょうになるが,
その場合であっても,二段重合により生じるX成分である(A)と(B)は
区別できるものではないので,このような区別できない成分よりなる「ポリ
オレフィン組成物」は不明りょうであるし,そうすると「前記ポリオレフィ
ン組成物・・・より得られるものである」の記載も不明りょうとなる。
()前出平成18年(行ケ)第10304号事件で審理されている異議20034
−72227号事件においては,当該発明について,A∼C成分の重量部が
特定されており,この特定のためには,A∼C成分がそれぞれ区別できなけ
ればならない。ところが,A成分のうちキシレンに不溶性の部分(X成分)
はB成分と区別できず,組成物中に存在するX成分はA成分に計上されるの
か,B成分に計上されるのか,それともA成分にもB成分にも計上されるの
か不明であり,当該発明で特定された重量部はどのようにして決定される値
か不明であるとして,当該発明の特許請求の範囲の記載は不明りょうである
とされた。
訂正2006−39154号事件により訂正され,また,その後手続補正
されたことによっても,依然としてX成分が不明りょうな点は解消されてお
らず,審決は,この点を踏まえて,認定判断をしているものである。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(本件補正の適法性についての判断の誤り)について
()原告は,審決が「補正1は,補正前の請求項1における,文言,用語,及1
び,符号を,追加,削除,または,変更するものであり,具体的な補正箇所
は多岐にわたる。しかも,後述の[4]に示すとおり,補正前の請求項1は,
その文章が日本語として明確でなく,かつ意味不明であったのに対して,補
正後の請求項1は,日本語としての体裁が整えられ,その意味が理解できる
ものである。このような補正1は,訂正明細書を実質的に変更するものであ
るから,審判請求書の要旨を変更するものと認める。」(3頁下から第3段
落∼第2段落)として本件補正を認めなかった判断について,誤りである旨
主張する。
()本件については,以下の経緯が認められる。2
ア本件訂正前の,本件特許明細書に記載された特許請求の範囲の請求項1の
記載は以下のとおりである(甲1)。
「【請求項1】A)80よりも大きいアイソタクチック指数を有するプロ
ピレンの単独重合体,またはプロピレンとエチレン,式CH=CHR(式2
中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)のα−オレフィンまたはそれら
の組み合わせとの共重合体(該共重合体はプロピレン85重量%以上を含有
する)10∼50重量部,
B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,
C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは炭素数22
∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまたはそれらの組み合わせ
と場合によって小割合のジエンとの共重合体画分(該画分はエチレン40重
量%未満を含有し,室温のキシレンに可溶性であり且つ固有粘度1.5∼4
d/gを有する)40∼80重量部を含み,全ポリオレフィン組成物にl
対する(B)画分と(C)画分との和の重量%は50%∼90%であり且つ
(B)/(C)の重量比は0.4未満であることを特徴とするポリオレフィ
ン組成物。」
イ本件特許に対しては,異議申立てがされ,特許庁はこれを異議2003−
72227号事件として審理し,原告は,明細書等を訂正請求書により訂正
したところ,平成18年2月13日,特許庁は,「訂正を認める。特許第3
385274号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定をし
た。
原告は,それに対し,平成18年6月30日,知的財産高等裁判所に取消
しの訴えを提起した(同裁判所平成18年(行ケ)第10304号)。この
訴えは,係属中であり,上記異議決定は確定していない。(当裁判所に顕
著)
ウ原告は,平成18年9月19日,本件特許明細書の請求項1の記載を以下
のとおり訂正することを求める訂正審判の請求をした(甲2。下線部が訂正
部分。)。
「【請求項1】A)80よりも大きいアイソタクチック指数を有するプロ
ピレンの単独重合体,またはプロピレンとエチレン,式CH=CHR(式2
中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)のα−オレフィンまたはそれら
の組み合わせとの第一の共重合体(該共重合体はプロピレン85重量%以上
を含有する)10∼50重量部,
および
B+C)エチレン−プロピレン混合物,エチレン−別のα−オレフィン混
合物,またはエチレン−プロピレン−別のα−オレフィン混合物を成分
(A)の製造工程とは異なる重合工程で重合して得られる第二の共重合体4
5∼100重量部であって,下記成分からなるもの:
B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,
C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは炭素数22
∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまたはそれらの組み合わせ
と場合によって小割合のジエンとの共重合体画分(該画分はエチレン20∼
38重量%を含有し,室温のキシレンに可溶性であり且つ固有粘度1.5∼
4dl/gを有する)40∼80重量部を含み,全ポリオレフィン組成物に
対する(B)画分と(C)画分との和の重量%は50%∼90%であり且つ
(B)/(C)の重量比は0.4未満である,ポリオレフィン組成物であっ
て,
前記ポリオレフィン組成物が,塩化マグネシウム上に担持されたチタン化
合物および電子供与体化合物を含有する固体触媒成分とA1トリアルキル化
合物および電子供与体化合物との反応生成物からなる触媒を用いた重合を用
いることにより得られるものであることを特徴とするポリオレフィン組成
物。」
エ上記訂正審判の請求に対し,特許庁は,これを訂正2006−39154
号事件として審理し,平成18年10月24日付けで訂正拒絶理由を通知し
た。訂正拒絶理由通知書(甲3)には以下の記載がある。
(ア)「2.訂正発明の意味
そこで,訂正発明が意味するところを検討する。
(1)訂正発明において,第二の共重合体は,『下記成分からなるもの』
として記載されているが,この『下記成分』とはどの記載をいうのか,文章
上明りょうでない。
(2)訂正発明は,一部省略して示すと,『・・・第一の共重合体10∼
50重量部,および・・・第二の共重合体45∼100重量部であって,下
記成分からなるもの:・・・ポリオレフィン組成物。』となるが,『下記成
分からなるもの』は,次に,どの用語に,意味の上でつながるのか,文章上
不明である。
(3)ポリオレフィン組成物が,第一の共重合体と,第二の共重合体のみ
からなるのか,それ以外の成分を含みうるのか文章上不明である。
(4)第二の共重合体が『室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合
体画分』と『エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは2
炭素数2∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまたはそれらの組
み合わせと場合によって小割合のジエンとの共重合体画分(該画分はエチレ
ン20∼38重量%を含有し,室温のキシレンに可溶性であり且つ固有粘度
1.5∼4dl/gを有する)』のみからなるのか,他の画分をも含みうる
のか文章上不明である。
(5)『成分(A)の製造工程とは異なる重合工程で重合して得られる第
二の共重合体』との記載があるが,『成分(A)』が何か記載されていない。
(6)『ポリオレフィン組成物が,塩化マグネシウム上に担持されたチタ
ン化合物および電子供与体化合物を含有する固体触媒成分とA1トリアルキ
ル化合物および電子供与体化合物との反応生成物からなる触媒を用いた重合
を用いることにより得られるものである』との記載があるが,触媒を用いた
重合で得られるのは重合体であることを考慮すると,この記載の意味が不明
である。
(7)第二の共重合体の原料が『エチレン−プロピレン混合物,エチレン
−別のα−オレフィン混合物,またはエチレン−プロピレン−別のα−オレ
フィン混合物』であるにも係わらず,『C)』に,『エチレンとプロピレン
または式CH=CHR(式中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)2
の別のα−オレフィンまたはそれらの組み合わせと場合によって小割合のジ
エンとの共重合体画分』と記載され,該画分は,場合によって小割合のジエ
ンを共重合成分とするから,原料と生成物が不一致である。」
(イ)「以上のとおりであるから,訂正発明は,文章が日本語として明確でな
く,かつ意味不明である。」
(ウ)「3.判断
(1)そこで特許明細書の記載を検討するに,上記のような,それ自体
意味不明な訂正発明は,特許明細書に記載がなく,また,特許明細書の記載
から自明なものとも認められない。したがって,訂正事項1は,特許明細書
に記載されている範囲内のものとは認められない。」
オ原告は,平成18年12月15日付けで手続補正書(甲4)を提出し,訂
正明細書について,本件補正を行った。本件補正後の明細書の特許請求の範
囲の請求項1の記載は以下のとおりである(下線部が補正部分)。
「【請求項1】
(A)80よりも大きいアイソタクチック指数を有するプロピレンの単
独重合体,またはプロピレンとエチレン,式CH=CHR(式中,Rは炭2
素数2∼8のアルキル基である)のα−オレフィンまたはそれらの組み合わ
せとの共重合体(該共重合体はプロピレン85重量%以上を含有する)であ
る第一の重合体10∼50重量部と,
(B+C)エチレン−プロピレン混合物,エチレン−別のα−オレフィ
ン混合物,またはエチレン−プロピレン−別のα−オレフィン混合物を第一
の重合体(A)の製造工程とは異なる重合工程で重合して得られる共重合体
であって,(B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼
20重量部,および(C)エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR2
(式中,Rは炭素数2∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまた
はそれらの組み合わせとの共重合体画分(該画分はエチレン20∼38重量
l%を含有し,室温のキシレンに可溶性であり且つ固有粘度1.5∼4d
/gを有する)40∼80重量部のみからなる第二の重合体45∼100重
量部と
を含み,
全ポリオレフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分との和の重量%
は50%∼90%であり且つ(B)/(C)の重量比は0.4未満である,
ポリオレフィン組成物であって,
第一の重合体(A)および第二の重合体(B+C)が,塩化マグネシウム
上に担持されたチタン化合物および電子供与体化合物を含有する固体触媒成
分とAlトリアルキル化合物および電子供与体化合物との反応生成物からな
る触媒を用いた重合を用いることにより得られるものであることを特徴とす
るポリオレフィン組成物。」
カ審決は,補正1について,以下のとおり判断した。
「そこで,検討するに,補正1は,補正前の請求項1における,文言,用
語,及び,符号を,追加,削除,または,変更するものであり,具体的な補
正箇所は多岐にわたる。しかも,後述の[4]に示すとおり,補正前の請求
項1は,その文章が日本語として明確でなく,かつ意味不明であったのに対
して,補正後の請求項1は,日本語としての体裁が整えられ,その意味が理
解できるものである。
このような補正1は,訂正明細書を実質的に変更するものであるから,審
判請求書の要旨を変更するものと認める。
請求人(判決注:原告)は,補正1は,記載を明瞭化するための極めて形
式的な補正であり,訂正審判における審理範囲を実質的に拡張ないし変更す
るものではない旨の主張をしているが,補正1は,記載を大幅に変えて,意
味不明なものを明らかなものに変更するものであるから,訂正審判における
審理範囲は,この補正によって実質的に変更される。したがって,この請求
人の主張は採用できない。請求人は平成17年(行ケ)10706号判決を
引用しているが,当該判決をみても,補正1のような大幅な補正が要旨変更
に該当しないという判断は示されていない。
以上のとおりであるから,本件補正は,審判請求書の要旨を変更するもの
であるから,特許法第131条の2第1項の規定により認められない。」
(審決3頁下から第3段落∼4頁第2段落)
()訂正審判請求において,請求の趣旨の要旨を変更する補正は認められない3
ところ(特許法131条の2第1項),審決は,本件補正が,審判請求書の
請求の趣旨の要旨を変更すると判断したと認められる。
その理由として,審決は,具体的な補正箇所が多岐にわたること,補正前
の請求項1の文章が日本語として明確でなく,意味不明であったのに,補正
後の請求項1は日本語としての体裁が整えられ,その意味が理解できること
になったことを挙げる。
しかし,内容を全く変更するものではない極めて形式的な補正箇所が多数
あることもあるのであるから,具体的な補正箇所が多岐にわたることのみで
審判請求書の請求の趣旨の要旨が直ちに変更されるわけでないことは明らか
であるし,後記2のとおり,補正前の請求項1の文章が日本語として明確で
ないとまでは認められないから,上記の理由付けは必ずしも適切ではない。
しかし,審決は,審判請求書の請求の趣旨の要旨を変更するものとして本件
補正を却下したところ,本件補正は後記()のとおり,審判請求書の請求の4
趣旨の要旨を変更するものであり,この点についての審決は,結論として相
当である。
()本件補正前の請求項1の特許請求の範囲には,「前記ポリオレフィン組成4
物が,塩化マグネシウム上に担持されたチタン化合物および電子供与体化合
物を含有する固体触媒成分とA1トリアルキル化合物および電子供与体化合
物との反応生成物からなる触媒を用いた重合を用いることにより得られるも
のであることを特徴とするポリオレフィン組成物。」と記載されていて,ポ
リオレフィン組成物について,「触媒を用いた重合を用いることにより得ら
れるもの」と規定しているのであるから,その文言からも,ポリオレフィン
組成物について,これが重合により得られることを規定しているとするのが
自然である。
また,訂正明細書においては,「例一般的操作条件・・・操作は,2
工程で不連続である:第一工程は液体単量体中でのプロピレンとエチレンと
の重合,および第二工程は気相中でのエチレンとプロピレンとの共重合であ
る。(A)第一工程:オートクレーブに20℃において下記成分を下記順序
で導入する:液体プロピレン16リットル,表1Aに表示のような適量のエ
チレンおよび水素,および後述のように調製される固体成分(約0.15
g)と,・・・(B)第二工程:各種の分析を行うための試料を除去した後,
第一工程の重合体を所定の温度にさせる。次いで,順次,気相の組成および
所定の圧力を達成するのに所望の比率および量のプロピレンおよびエチレン
を供給する。重合時に,圧力および気相組成は,所望の共重合体と同じ組成
を有するエチレン−プロピレン混合物を流量を調整し且つ測定する機器によ
って供給することによって一定に維持する。・・・重合の終わりに,粒状重
合体を排出し,上記のように安定化し,オーブン中で窒素流下で60℃にお
いて乾燥する。」(段落【0034】∼【0036】)として,二段重合に
よって,ポリオレフィン組成物を得ることが記載されていることも併せ考慮
すれば,本件補正前の特許請求の範囲は,訂正明細書に記載されている重合
である二段重合によってポリオレフィン組成物を得ることを規定するもので
あると認められる。
これに対し,本件補正後の特許請求の範囲によれば,「第一の重合体
(A)および第二の重合体(B+C)が,塩化マグネシウム上に担持された
チタン化合物および電子供与体化合物を含有する固体触媒成分とAlトリア
ルキル化合物および電子供与体化合物との反応生成物からなる触媒を用いた
重合を用いることにより得られるものによる」として,第一重合体及び第二
の重合体について「触媒を用いた重合を用いることにより得られるもの」と
するのみであり,ポリオレフィン組成物について,どのように得られるかを
規定しない。そうすると,本件補正後は,本件補正前と異なり,第一の重合
体であるA成分と第二の重合体であるB+C成分について,それぞれ別個に
製造してその後混合するような方法で得られるものも含むこととなる。
したがって,本件補正前は,ポリオレフィン組成物が重合により得られこ
とが規定されていたのに,本件補正によって,本件補正後の発明は,そのよ
うなものに限られず,A成分とB+C成分について,それぞれ別個に製造し
てその後混合するような方法で得られるものも含むことになるものであり,
本件補正は,発明の内容を拡張するものとなる。
したがって,本件補正は審判請求書の請求の趣旨の要旨を変更するもので
ある。
()したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。5
2取消事由2(本件訂正の適法性についての判断の誤り)について
()原告は,本件訂正は特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたもの1
とは認められないとして不適法とした審決の判断を争う。
()審決は,上記1のとおり本件補正を認めず,本件訂正について,以下のと2
おり判断した(4頁第3段落∼6頁第4段落)。
ア「〔訂正拒絶理由に対する判断〕
訂正拒絶理由の一部を転記すると以下の通りである。」
イ審決は,訂正拒絶理由のうち,前記1()エ(ア)ないし(ウ)を転記した。2
ウ「訂正拒絶理由で示した上記判断を改めて検討するに,意見書をみても,
当該判断を覆すべき理由は見いだせない。したがって,訂正事項1は,特
許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。」
エ「[5]まとめ以上のとおりであるから,訂正事項1は,特許法等の
一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定
によりなお従前の例によるものとされた同法[第1条の規定]による改正
前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合しない。」
()上記()によれば,審決は,本件訂正が,平成6年法律第116号による32
改正前の特許法126条1項ただし書きの「ただし,その訂正は,願書に添
付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず,
・・・」との規定に違反していると判断しており,その理由は,転記した訂
正拒絶理由と示したものと同じとしている。
そして,審決は,前記1()エ(ア)ないし(ウ)を転記しているので,訂正発2
明が,「文章が日本語として明確でなく,かつ意味不明である。」から,
「それ自体意味不明な訂正発明は,特許明細書に記載がなく,また,特許明
細書の記載から自明なものとは認められない。」として,本件訂正が,明細
書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないと判断したものと認め
られる。そして,そのように認定判断した理由は,訂正拒絶理由通知書に記
載した(1)ないし(7)の理由であると認められる。
そこで,(1)ないし(7)の理由について検討する。
()ア審決は,(1)の理由として,「(1)訂正発明において,第二の共重4
合体は,『下記成分からなるもの』として記載されているが,この『下記
成分』とはどの記載をいうのか,文章上明りょうでない。」とする。
確かに,「B+C)エチレンープロピレン混合物・・・第二の共重合体
45∼100重量部であって,下記成分からなるもの:」の「下記成分」
に続くのは,「B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分
5∼20重量部,」,「C)エチレンとプロピレン・・・共重合体画分
(・・・)40∼80重量部を含み,全ポリオレフィン組成物に対する
(B)画分と(C)画分との和の重量%は50%∼90%であり且つ
(B)/(C)の重量比は0.4未満である,ポリオレフィン組成物であ
って,」との記載である。
ここで,「下記成分」については,「C)エチレンとプロピレン・・・
共重合体画分(・・・)40∼80重量部」までをいうとするか,「全ポ
リオレフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分との和の重量%は5
0%∼90%であり且つ(B)/(C)の重量比は0.4未満である,ポ
リオレフィン組成物であって,」までをいうとするかの二通りの理解が一
応問題となり得る。
しかし,「下記成分からなるもの」と記載されていれば,それに続いて,
複数の「成分」が記載されていると理解するのが通常であり,また,「B
+C)・・第二の共重合体であって,下記成分からなるもの」と記載され,
それに続いて,「B)」,「C)」として成分の説明があれば,「下記成
分」は,「B)」で説明される成分と,「C)」で説明される成分とから
なると通常理解するのであって,そうすると,「B+C)エチレンープロ
ピレン混合物・・・第二の共重合体45∼100重量部であって,下記成
分からなるもの:」の「下記成分」とは,それに続く,「B)室温のキシ
レンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,」と「C)エ
チレンとプロピレン・・・共重合体画分(・・・)40∼80重量部」を
指すと理解するのが自然といえる。
他方,特許請求の範囲の全体の記載をみると,これは,「A)80より
も大きいアイソタクチック指数を有するプロピレンの単独重合体・・・の
第一の共重合体(・・・)10∼50重量部,
および
B+C)エチレン−プロピレン混合物・・・第二の共重合体45∼10
0量部であって,下記成分からなるもの:
B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,
C)エチレンとプロピレン・・・との共重合体画分(・・・)40∼80
重量部を含み,全ポリオレフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分
との和の重量%は50%∼90%であり且つ(B)/(C)の重量比は0.
4未満である,ポリオレフィン組成物であって,
前記ポリオレフィン組成物が,・・・ポリオレフィン組成物。」という
ものである。
これは,「A)」で示される成分及び「B)+C)」で示される成分
「を含み」,「全ポリオレフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分
との和の重量%は50%∼90%であり且つ(B)/(C)の重量比は0.
4未満であるポリオレフィン組成物であって,」,「前記ポリオレフィン
組成物が,・・・ポリオレフィン組成物。」という構成を有するものであ
ると理解するのが自然であり,「B)+C)」で示される成分として,
「B)室温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量
部,C)エチレンとプロピレン・・・との共重合体画分(・・・)40∼
80重量部」が示されていると理解することは,上記に照らしても,合理
的である。
したがって,「下記成分」は,その後に続く部分のうち,「B)室温の
キシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分5∼20重量部,C)エチ
レンとプロピレン・・・との共重合体画分(・・・)40∼80重量部」
を指すものと理解でき,文章が日本語として,意味不明であるとまでは認
められないものである。
イ審決は,(2)の理由として,「(2)訂正発明は,一部省略して示す
と,『・・・第一の共重合体10∼50重量部,および・・・第二の共重
合体45∼100重量部であって,下記成分からなるもの:・・・ポリオ
レフィン組成物。』となるが,『下記成分からなるもの』は,次に,どの
用語に,意味の上でつながるのか,文章上不明である。」とする。
しかし,上記アのとおり,「下記成分」は,「C)エチレンとプロピレ
ン・・・共重合体画分(・・・)40∼80重量部」までを指し,「下記
成分からなるもの」は,「C)エチレンとプロピレン・・・共重合体画分
(・・・)40∼80重量部」の直後の,「を含み,」とつながって,そ
の後,「全ポリオレフィン組成物に対する(B)画分と(C)画分との和
の重量%は50%∼90%であり・・・」とつながっていくと自然に理解
でき,それが,どの用語に意味の上でつながるのか文章上不明であるとは
いえない。
また,審決は,(3)の理由として,「(3)ポリオレフィン組成物が,
第一の共重合体と,第二の共重合体のみからなるのか,それ以外の成分を
含みうるのか文章上不明である。」とするのであるが,上記アのとおり,
特許請求の範囲の記載は,「A)」で示される成分及び「B)+C)」で
示される成分「を含み」,「全ポリオレフィン組成物に対する(B)画分
と(C)画分との和の重量%は50%∼90%であり且つ(B)/(C)
の重量比は0.4未満であるポリオレフィン組成物であって,」,「前記
ポリオレフィン組成物が,・・・ポリオレフィン組成物。」と理解できる
のであり,ポリオレフィン組成物は,A)で示される第一の共重合体とB
+C)で示される第二の共重合体「を含む」ものであって,それ以外の成
分を含み得るものと理解できる。したがって,ポリオレフィン組成物が,
第一の共重合体と,第二の共重合体のみからなるのか,それ以外の成分を
含み得るのか文章上不明であるとはいえない。
さらに,審決は,(4)の理由として,「(4)第二の共重合体が『室
温のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分』と『エチレンとプロ
ピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは炭素数2∼8のアルキル基2
である)の別のα−オレフィンまたはそれらの組み合わせと場合によって
小割合のジエンとの共重合体画分(該画分はエチレン20∼38重量%を
含有し,室温のキシレンに可溶性であり且つ固有粘度1.5∼4dl/g
を有する)』のみからなるのか,他の画分をも含みうるのか文章上不明で
ある。」とするのであるが,上記アに照らしても,「B+C)」の第二の
共重合体は,「下記成分からなる」として,その成分として,「B)室温
のキシレンに不溶性のエチレン含有共重合体画分」と,「C)エチレンと
プロピレン・・・共重合体画分(・・・)」が挙げられているのであり,
下記成分から「なる」という文言からも,第二の共重合体は,上記の成分
のみからなり,他の画分を含まないことが規定されていると理解でき,他
の画分をも含み得るのか文章上不明ということはない。
ウ審決は,(5)の理由として,「(5)『成分(A)の製造工程とは異
なる重合工程で重合して得られる第二の共重合体』との記載があるが,
『成分(A)』が何か記載されていない。」とする。
確かに,(A)で示される成分の記載自体はないのであるが,その前に
「A)」として,成分の記載があるのであり,本件において,「成分
(A)」が,その「A)」の後に記載された成分を指すことに疑念を生じ
させるような類似の記載の存在等の事情が何もないことにも照らせば,
「成分(A)」は,「A)」の後に記載された成分であると理解すること
ができるのであって,特許請求の範囲に「成分(A)」の記載がないとま
ではいうことができない。
エ審決は,(6)の理由として,「(6)『ポリオレフィン組成物が,塩
化マグネシウム上に担持されたチタン化合物および電子供与体化合物を含
有する固体触媒成分とA1トリアルキル化合物および電子供与体化合物と
の反応生成物からなる触媒を用いた重合を用いることにより得られるもの
である』との記載があるが,触媒を用いた重合で得られるのは重合体であ
ることを考慮すると,この記載の意味が不明である。」とした。
しかし,前記1()のとおり,訂正明細書に,二段重合によってポリオ4
レフィン組成物を得ることが記載されていることに照らしても,本件にお
いて,最終的なポリオレフィン組成物が重合を用いることにより得られる
ものであるとの記載があれば,それは,重合である二段重合によってポリ
オレフィン組成物を得ることを規定するものであると理解できるのであり,
その記載の意味が不明となるものとは認められない。
なお,被告の主張中には,二段重合により生じるX成分であるA成分と
B成分は区別できるものではないので,このような区別できない成分から
なる「ポリオレフィン組成物」は不明りょうであるし,そうすると「前記
ポリオレフィン組成物・・・より得られるものである」の記載も不明りょ
うとなることをいう部分がある。
しかし,これは,記載自体の意味が不明確であることをいうものではな
いから,上記被告主張は,記載自体の意味が不明確であることを理由とし
て本件訂正が特許明細書に記載した事項の範囲内のものでないことを主張
するものとは解されない。また,被告主張によれば,X成分に係る事項の
明確性は本件訂正の前後で変わらないというのであるから(前記第4の2
()),X成分に係る被告の上記主張は,直ちに,本件訂正が,特許明細4
書に記載した事項の範囲内のものでないことをいうものではないと解され
る。そうすると,上記被告の主張は,本件訂正が特許明細書に記載した事
項の範囲内でないとした審決の判断の当否を扱う本件においては審理の対
象となるものではない。
なお,この点,原告の主張中には,本件の審決は,上記X成分に係る不
明確性が解消されたことを前提としていることをいう部分があるが,審決
は,本件訂正について,訂正が認められるための要件のうち,訂正が特許
明細書に記載した事項の範囲内のものであるか否かの要件のみを判断し,
他の要件については判断しておらず,別件異議訴訟でも争われた上記X成
分に係る不明確性については,判断をしていないと解される。
オ審決は,(7)の理由として,「(7)第二の共重合体の原料が『エチ
レン−プロピレン混合物,エチレン−別のα−オレフィン混合物,または
エチレン−プロピレン−別のα−オレフィン混合物』であるにも係わらず,
『C)』に,『エチレンとプロピレンまたは式CH=CHR(式中,2
Rは炭素数2∼8のアルキル基である)の別のα−オレフィンまたはそれ
らの組み合わせと場合によって小割合のジエンとの共重合体画分』と記載
され,該画分は,場合によって小割合のジエンを共重合成分とするから,
原料と生成物が不一致である。」とした。
仮に,審決が指摘する意味において,原料と生成物の記載に整合しない
点があるとしても,原料についての「エチレン−プロピレン混合物,エチ
レン−別のα−オレフィン混合物,またはエチレン−プロピレン−別のα
−オレフィン混合物」との記載,及び,生成物についての「エチレンとプ
ロピレンまたは式CH=CHR(式中,Rは炭素数2∼8のアルキル2
基である)の別のα−オレフィンまたはそれらの組み合わせと場合によっ
て小割合のジエンとの共重合体画分」との記載自体は明確であって,その
記載内容を理解でき,また,関係する記載が全体としておよそ意味不明な
ものであるとまではいえず,記載が不明確で意味が理解できないことを根
拠として,これらが特許明細書に記載した事項の範囲内のものでないとい
えるものではない。仮に,審決が指摘する意味において,原料と生成物の
記載に整合しない点があるのであれば,それは,記載内容は理解できるが,
発明の内容として明確であるといえるかなどの他の観点から扱われること
が相当であると解される。
したがって,上記(7)の理由も失当である。
()以上によれば,本件訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内においてし5
たものでないと判断した審決の判断は誤りであり,原告主張の取消事由2は
理由がある。
3よって,原告主張の取消事由2には理由があるので,審決を取り消すことと
して,主文のとおり,判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官塚原朋一
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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