弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人指定代理人石井良三同堀内恒雄同上田明信の上告理由は、後記書面のとお
りである。
 論旨は、原判決には国税徴収法二条の解釈を誤つた違法があるとし、同条一項及
び同法三条の規定を根拠として、国税に優先して取り立てうる債権は、国税の納期
限より一年前に設定されたことを公正証書で証明できる質権又は抵当権附債権に限
られ、一般の債権はすべて国税の徴収に後くれるのであるから、国税の滞納処分と
して納税人の債権が差し押えられた場合には、第三債務者は納税人に対する一般の
反対債権をもつて被差押債権と相殺することは許されない。もし第三債務者がその
反対債権をもつて被差押債権と相殺できるとすれば、一方において第三債務者は、
その反対債権について取立があり弁済があつたと同一の利益をうけ、他方被差押債
権は消滅するので国税の徴収は不可能になる、国税は滞納者に対するすべての債権
に先立つて徴収されるのであるから、一般の債権者は被差押債権について国税の有
するこの優先徴収権に拘束され、従つて弁済や相殺等の方法によつてこの優先徴収
権を害するような行為をしても、これをもつて国に対抗できないものと解すべきで
あると主張するのである。
 国税の徴収が国家財政の必要から確保されなければならないことは言うまでもな
いが、その徴収は納税人の財産よりなさるべきであつて、納税人以外の第三者に損
害を及ぼさないことを原則とすることも亦当然である。されば国税徴収確保の必要
上、その徴収につき納税人以外の第三者に損害を及ぼさざるを得ないような場合は
例外に属し法律に明らかな規定があるときに限られるのであつて、みだりにその場
合を拡張すべきものではない。ところで、所論の国税徴収法二条には、国税は総て
の他の公課及債権に先立ちてこれを徴収すると規定されているだけであり、同法三
条は、納税人の財産上に一定の担保権を有する債権者がある場合には、その担保物
の価額を限度としてその債権に対しては国税を先取しないと定めているに止る。そ
れゆえ、これらの規定によれば、国は国税を納税人の財産より徴収するに当つて、
一般の債権者に優先してこれを取り立て得ることを明らかにしたに過ぎない。従つ
て、国が国税徴収のために納税人の第三債務者に対する債権を差押えた場合におい
ても、国は差押によつて被差押債権の取立権を取得し、納税人に代つて債権者の立
場に立ちその権利を行使し得るだけであり、第三者たる第三債務者の有する相殺権
の行使までも制限するものでないと解すべきこと原判決の説示するとおりである。
されば、国が滞納処分として納税人の第三債務者に対する債権を差押えた場合に、
被差押債権の債務者は、差押前に取得した債権をもつて、差押後においても被差押
債権に対して相殺をすることができ、相殺の限度で国に対し被差押債権の消滅を主
張することができるとした原判示は正当であつて本件上告は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員の一致した意見により
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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