弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人伊藤敬寿及び被告本人の上告趣意は、いずれも、末尾添付の別紙書面記載
のとおりである。
 弁護人伊藤敬寿の上告趣意第一点について。
 所論は、判例違反を主張するけれども、その実質は、原審で控訴趣意として主張
判断のなかつた第一審判決の法令違反を新に当審で主張するに外ならないから、す
べて、上告適法の理由にならない。のみならず、第一審判決は、その主文と法令の
適用とを照合して判断すれば、主文で執行猶予を言渡している被告人A及び同Bの
両名に対してのみ刑法二五条を適用した趣旨であることが明らかであるから、同判
決には所論一の(一)のような違法はなく、同論旨判例違反の主張は既にその前提
を欠き、採用することができない。次ぎに、第一審判決が判示第二の(一)別表第
二の9の事実につき刑法二五三条六〇条を適用したのみで、刑法六五条二五二条を
適用していないことは所論が(二)の(イ)において主張しているとおりであるが、
被告人には外にも同判決の認定するが如き数多くの業務上横領の事実があつて、刑
法二五三条の適用を免れるものではなく、また被告人に科せられた刑は刑法二五二
条の刑期範囲内であるから、たとい同判決に所論のような違法があつても、それが
刑訴四一一条を適用すべき事由とならないことは多言を要しない。又、第一審判決
が判示第二の(二)及び第七の(一)の各事実につき所論が(二)の(ロ)におい
て問題としているような擬律をしていることは論旨のいうとおりであるが、右事実
摘示と同判決が刑法二五三条の次ぎに刑法四五条前段四七条一〇条を挙示していな
いこととを綜合して考えると、右擬律も判示第七の(一)等についての擬律と同様、
敢えて私文書偽造同行使と業務上横領、有価証券偽造行使と業務上横領の間に、そ
れぞれ順次牽連犯の関係があることを否定した趣旨ではないと解するのが相当であ
るから、同判決には必らずしも所論のような違法があるものではなく、同論旨判例
違反の主張は既にその前提において採用することができない。更らに、第一審判決
判示第二の(一)及び別表第二並びに昭和二六年五月一五日附起訴状の公訴事実第
一の(一)及び別表第一の記載がそれぞれ所論が二において指摘するとおりになつ
ていることは所論のとおりであるが、第一審判決は判示第二の(一)において「昭
和二五年九月四日頃から同月二二日頃迄の間に」とは判示しているけれども、直ぐ
それに続けて「別表第二記載の如く一一回に亘り」と判示し、同別表第二を見ると、
昭和二五年九月四日頃より同月二二日頃に至る一〇回の事実と同二四年七月二三日
の事実と合計一一回の事実が記載してあり、特に右昭和二四年七月二三日の事実に
つき無罪の言渡をした事跡も認められないことよりすれば、同判決は唯だ判文中に
該事実を遺脱したに止まり、同判決は右事実を含む前記一一個の事実を認定した趣
旨であると解するのが相当であるから、同判決には所論のような違法があることな
く、同論旨引用の判例は本件には適切でない。なお、刑訴三九二条二項がいわゆる
任意職権調査に関する規定であることは既に当裁判所に屡次の判例が存するところ
であるから、たとい原判決が所論のような各事実について職権による調査をしなか
つたからといつて、これを違法とすることはできないものである。所論はすべて採
用できない。
 同第二点について。
 所論は、単なる法令違反と量刑不当の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五
条の上告理由に当らない。
 被告本人の上告趣意について。
 所論は、結局、量刑非難に帰するので、適法な上告理由ということができない。
 その他、記録を調べても、本件につき、刑訴四一一条を適用すべき事由ありとは
認められない。
 よつて、同四〇八条、一八一条に則り、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判
決する。
  昭和二八年一二月一五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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