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平成15年(行ケ)第463号 審決取消請求事件
平成16年6月28日判決言渡,平成16年6月14日口頭弁論終結
     判    決
 原      告 サン-ゴバンアブレイシブズ,インコーポレイティド
          変更前の表示(特許公報における表示)ノートンカンパニ

 訴訟代理人弁護士 上谷清,宇井正一,笹本摂,山口健司,弁理士 岩出昌利,
古賀哲次
 被      告 特許庁長官 小川洋
 指定代理人    西川惠雄,高木進,大橋信彦
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
     事実及び理由
 以下の文献などの引用箇所において,公用文の表記に従った箇所がある。
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が訂正2003-39003号事件について平成15年9月24日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は,本件特許第3099965号「改良されたコーナー保持性を有するアル
ミナ砥石車」の特許権者である。本件特許は,平成8年4月25日の出願(優先権
主張日・1995年(平成7年)5月25日,米国)に係る特許出願であって,平
成12年8月18日その設定登録がされている。本件特許公報及び下記決定上の表
示はノートンカンパニーであるが,平成14年11月21日,現在の原告の表示に
変更する旨の登録がされた。
 本件特許については,特許異議の申立てがあり(異議2001-71193
号),平成14年8月1日に,平成14年3月11日付けの訂正請求を認めた上
で,本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消す,との決定があった。
 原告は,その決定の取消訴訟(当庁平成14年(行ケ)第620号)係属中である
平成15年1月9日,明細書を訂正2003-39003号の審判請求書に添付の
全文訂正明細書のとおり訂正するための審判を請求したが,平成15年9月24
日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり,その謄本は平成15年
10月5日原告に送付された。
 2 本件発明の要旨(訂正審判請求に係る訂正発明の要旨。設定登録時の特許請
求の範囲の請求項1ないし5を削除し,その請求項6を次の請求項1に訂正。下線
部分が訂正箇所)
 【請求項1】研磨材が溶融アルミナ砥粒単独から成る砥石車に用いるガラス質結
合剤であり,1000℃の温度での焼成後に,2.0~10.0重量%のLi2
O,7~11重量%のNa2O,0.05~2.5重量%のK2O,52~62重量
%のSiO2,12~16重量%のAl2O3及び9~16重量%のBO3を含んで
成る溶融アルミナ砥粒含有砥石車のガラス質結合剤。
 3 審決の理由の要点
 (1) 訂正拒絶の理由
 訂正の拒絶の理由の概要は,次のとおりである。
「訂正後における請求項1に係る発明は,本件特許に係る出願の優先権主張の日前
に米国において頒布された米国特許第5401284号明細書(翻訳文として当該
明細書の出願を優先権主張の基礎として日本国に出願した特願平6-175250
号の出願公開である特開平7-164324号公報を参照する。以下「引用刊行
物」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないも
のである。したがって,この審判請求は,特許法126条4項の規定に適合しな
い。」
 (2) 独立特許要件について
 特許請求の範囲の記載に係る訂正事項のうち,訂正事項aは,特許請求の範囲の
請求項1~5を削除し,訂正事項bは,請求項6に係る発明における溶融アルミナ
砥粒含有砥石車のガラス質結合剤の用途を,「研磨材が溶融アルミナ砥粒単独から
成る砥石車」に限定するものであって,ともに特許請求の範囲の減縮を目的とする
ものに該当する。
 そこで,訂正拒絶の理由で通知した独立特許要件について,以下検討する。
 (3) 引用刊行物記載の発明
 引用刊行物には,以下の事項が記載されている。
 (イ)「ゾルゲルアルミナ研磨材とガラス質結合剤を含んで成る研削砥石であっ
て,焼成後のガラス質結合剤が47重量%より多いSiO2,約16重量%より少
ないAl2O3,約2.5重量%より少ないK2O,約2.0重量%より多いLi2
O,及び約18重量%より少ないB2O3を含む研削砥石。」(特許請求の範囲の請
求項1),
 (ロ)「焼成後のガラス質結合剤が約1.0~約3.4重量%のLi2O,約7
~約11重量%のNa2O,約0.5~約2.5重量%のK2O,及び約9~約16
重量%のB2O3を含む請求項1に記載の研削砥石。」(特許請求の範囲の請求項
5),
 (ハ)「焼成後のガラス質結合剤が約52~約62重量%のSiO2,約12~
約16重量%のAl2O3を含む請求項5に記載の研削砥石。」(特許請求の範囲の
請求項6),
 (ニ)「約2.0~約3.4重量%のLi2O,約7~約11重量%のNa2O,
約0.5~約2.5重量%のK2O,約52~約62重量%のSiO2,約12~約
16重量%のAl2O3,及び約9~約16重量%のB2O3を含んで成るゾルゲル
アルミナ研削砥石用のガラス質結合剤。」(特許請求の範囲の請求項7),
 (ホ)「第2研磨材(複数種のこともある)は,好ましくは砥石の中の全研磨材
の約0~約95体積%を提供し,より好ましくは砥石の中の全研磨材の約30~約
70体積%を提供する。使用可能な研磨材には融解アルミナ,炭化ケイ素,立方晶
窒化ホウ素,ダイヤモンド,フリント,ガーネット,及び発泡アルミナがある。」
(第4欄15行~20行),
 (ヘ)「焼成後の結合剤は約47重量%より多いSiO2を含み,好ましくは約
52~約62重量%のSiO2,より好ましくは約54~約60重量%のSiO2,
最も好ましくは約57重量%のSiO2を含み,約16重量%未満のAl2O3,好
ましくは約12~約16重量%のAl2O3,より好ましくは約13~約15重量%
のAl2O3,最も好ましくは約14.4重量%のAl2O3を含み,好ましくは約
7~約11重量%のNa2O,より好ましくは約8~約10重量%のNa2O,最も
好ましくは約8.9重量%のNa2Oを含み,約2.5重量%未満のK2O,好まし
くは約0.5~約2.5重量%のK2O,より好ましくは約1~約2重量%のK2
O,最も好ましくは約1.6重量%のK2Oを含み,約2.0重量%より多いLi2
O,好ましくは約2.0~約3.4重量%のLi2O,より好ましくは約2.0~
約2.7重量%のLi2O,最も好ましくは約2.2重量%のLi2Oを含み,約1
8重量%未満のB2O3,好ましくは約9~約16重量%のB2O3,より好ましく
は約11~約14重量%のB2O3,最も好ましくは約12.6重量%のB2O3を
含み,好ましくは約0~約2重量%のCoO,より好ましくは約0.5~約1.3
重量%のCoO,最も好ましくは約0.9重量%のCoOを含む。酸化コバルトは
本発明の目的には必要でなく,着色剤としてのみ含ませる。ガラス質結合剤中に存
在する他の酸化物,例えばFe2O3,Ti2O,CaO,MgOは,結合剤の製造
に必須ではない原料中の不純物である。また,結合剤はゾルゲルアルミナ研磨材で
作成した砥石に高い機械的強度を与える。」(第4欄46行~第5欄24行),
 (ト)「【実施例】例1 種晶ゾルゲル研磨材を用いてサンプルを作成し,新規
な結合剤とノートン社の標準的な市販品の結合剤の破壊係数を比較した。新規な結
合剤は,予備焼成組成で30.3重量%の粉末ガラスフリット(フリットの組成は
41.2重量%のSiO2,39.9重量%のB2O3,5.1重量%のAl2O3,
10.3重量%のNa2O,1.3重量%のLi2O,2.1重量%のMgO/Ca
O,及び微量のK2O),27.7重量%のカスミ石セン長岩,20重量%のケン
タッキーNo.6ボールクレー,10重量%のケイ酸ナトリウム粉末,4.7重量
%のフリント(石英),4.3重量%の炭酸リチウム,1重量%のケイ灰石,及び
2重量%の高純度コバルトアルミネートスピネルを有した。カスミ石セン長岩,ケ
ンタッキーNo.6ボールクレー,ケイ酸ナトリウム,フリント,炭酸リチウム,
ケイ灰石の化学組成を表1に示す。・・・
【表1】
・・・結合剤は原料をSweco振動ミルで3時間乾式混合して調製した。結合剤に,種
晶ゾルゲルアルミナと高純度ホワイト酸化アルミニウム研磨材の1:1混合物から
成る60グリットの研磨材を混合した。さらにこれらに,粉末デキストリンバイン
ダー,液体にかわ,及び保湿剤として0.1%エチレングリコールを低速の
Hobart N-50ドウミキサー(混合物2Kgの容量)中で混合した。混合物を14メ
ッシュの篩にかけ,すべての塊を壊した。次いで混合物を3つのキャビティ棒の型
セットアップの中で,寸法4″×1″×1/2″の棒状試験片に加圧成形した。次
いで棒状試験片を,周期(periodic)キルン中で室温から1000℃まで40℃/
hで昇温し,その温度に8時間保持し,次いで室温まで冷やした。また,上記の方
法により,ノートン社の標準的な市販品の結合剤を用いて棒状試験片を作成し
た。・・・4ポイント曲げジグを備えたインストロン4202型試験機を用い,ノッチ
を入れていない棒状試験片を支持スパン3″,荷重スパン1″,クロスヘッド速度
0.050/分の荷重速度で試験した。サンプルの焼成した結合剤含有率は研磨材
棒状試験片の10~30重量%であった。結果を表2と,図2に示す。」(第6欄
48行~第8欄31行),
 (チ)「例2 種晶ゾルゲル研磨材を用いてサンプルを作成し,新規な結合剤と
ノートン社の標準的な市販品の結合剤のサンプルの摩耗面積と摩耗径を比較テスト
した。新規な結合剤は例1の新規な結合剤と同じ組成を有した。結合剤は原料を
Sweco振動ミルで3時間乾式混合して調製した。結合剤を混合して研磨材混合物を得
た。研磨材混合物は76.56重量%の研磨材(種晶ゾルゲルの120グリッドフ
ィラメントの50重量%,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムが
43.54重量%,36メッシュより小さい発泡アルミナが6.46重量%から成
る),18.47重量%の結合剤,1.38重量%のデキストリン,3.06重量
%のにかわ,0.34重量%の水,及び0.18重量%のエチレングリコールから
なった。混合物を2.190グラム/ccの生密度を有する10″-3/16″×
0.580″×5.025″の砥石に成形した。生の状態の砥石を周期キルンの中
で室温から1000℃まで40℃/hで昇温し,1000℃に8時間保持し,次い
で室温まで冷やした。」(第7欄45行~第9欄7行),及び,
 (リ)「また,標準的な製造プロセスを用いたノートン社の製造装置により原料
を乾式混合して製造したノートン社の標準的な市販の結合剤を用いて砥石を作成し
た。・・・砥石は900℃の焼成浸漬温度での製造サイクルを用いて焼成し
た。・・・結果は表3と表4に示しており,コーナー保持性の改良が見られる。」
(第9欄8行~第10欄12行)
 例2に示された砥石は,明らかに砥石車であり,例2に示された砥石の結合剤
は,1000℃まで昇温する前の組成からみて,1000℃に昇温した後において
も,Li2O,Na2O,K2O,SiO2,Al2O3,及びB2O3を含んで成るも
のであることは,明らかである。
 してみると,引用刊行物には,例2として,
「研磨材が種晶ゾルゲルの120グリッドフィラメントの50重量%,70グリッ
ドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムが43.54重量%,36メッシュより
小さい発泡アルミナが6.46重量%から成る砥石車に用いられる,1000℃ま
で昇温するガラス質結合剤であって,予備焼成組成で30.3重量%の粉末ガラス
フリット(フリットの組成は41.2重量%のSiO2,39.9重量%のB2O3
,5.1重量%のAl2O3,10.3重量%のNa2O,1.3重量%のLi2
O,2.1重量%のMgO/CaO,及び微量のK2O),27.7重量%のカス
ミ石セン長岩,20重量%のケンタッキーNo.6ボールクレー,10重量%のケ
イ酸ナトリウム粉末,4.7重量%のフリント(石英),4.3重量%の炭酸リチ
ウム,1重量%のケイ灰石,及び2重量%の高純度コバルトアルミネートスピネル
を有する,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムを含有する砥石車
のガラス質結合剤。」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると
認める。
 (4) 対比
 訂正発明と引用発明とを対比すると,後者の「高純度ホワイト融解酸化アルミニ
ウム」は前者の「溶融アルミナ」に,後者の「1000℃まで昇温する」は前者の
「1000℃での焼成」に,それぞれ相当するものであるから,両者は,「砥石車
に用いるガラス質結合剤であり,1000℃での焼成後に,Li2O,Na2O,K
2O,SiO2,Al2O3,及びB2O3を含んで成る溶融アルミナ砥粒含有砥石車
のガラス質結合剤」の点で一致し,訂正発明が,1000℃での焼成後に結合剤
が,2.0~10.0重量%のLi2O,7~11重量%のNa2O,0.05~
2.5重量%のK2O,52~62重量%のSiO2,12~16重量%のAl2O
3及び9~16重量%のB2O3を含んで成るのに対して,引用発明は,1000℃
での焼成後における,Li2O,Na2O,K2O,SiO2,Al2O3,及びB2
O3の含有割合が明らかではない点(相違点1),及び訂正発明が,研磨材が溶融
アルミナ砥粒単独から成るものであるのに対し,引用発明は,溶融アルミナとゾル
ゲルアルミナが含まれるものである点(相違点2)で相違する。
 (5) 審決の判断
〈相違点1について〉
 本件審判請求書に添付された全文訂正明細書の発明の詳細な説明の実施例の欄に
記載された新規の結合剤の焼成前の組成は,引用刊行物の実施例の欄に記載された
焼成前の結合剤の組成と異なるところはないから,同じ1000℃で焼成した引用
刊行物記載の例2の砥石の結合剤の組成は,訂正発明の焼成後の結合剤の組成と一
致するはずである。
 したがって,相違点1は,審判請求人(原告)自らも認めるように,実質的なも
のではない。
〈相違点2について〉
 次に相違点2についてみると,引用発明においても,研磨材の一部として溶融ア
ルミナ砥粒を使用するのであるから,引用発明の結合剤が,溶融アルミナ砥粒の使
用に適さないということはできず,また,溶融アルミナ砥粒を研磨材とするものに
対しても,所望の効果を予測し得るものと認められる。そうすると,引用発明が,
ゾルゲルアルミナ砥粒を必須の構成とするものであるとしても,引用発明の結合剤
を,溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石車に使用することは,そうすること
を妨げる事情を見出せないことも考慮に入れると,格別の困難性があるとは認めら
れない。
 なお,審判請求人は,相違点2に関して,「(i)ゾルゲルアルミナ砥粒は,溶融ア
ルミナ砥粒と比較して,微細かつ多結晶質のものであって,単結晶の溶融アルミナ
とは,研磨砥粒としては,全く異なるものである。・・・(ii)本件発明で使用する
溶融アルミナ砥粒は,実質的に単結晶砥粒であって,焼成に際し結合剤と反応し吸
収されることはほとんどなく,したがって,より高い温度で焼成すれば,一般によ
り強度の高い砥石が得られるので,溶融アルミナ砥粒砥石車を製造するのには12
00℃以上という高温で焼成し,強度を上げる砥石を製造するようにしてい
る。(iii)引用発明は,ゾルゲルアルミナ研磨材とガラス質結合剤を含んだ研削砥石
に関するもので,この発明はあくまでも研磨材としてゾルゲルアルミナを使用する
発明である。・・・(iv)訂正発明は,研磨材として単独で溶融アルミナ砥粒を用い
るもので,これに対し,引用発明のゾルゲルアルミナを研磨材の対象とした技術
は,焼成温度に限ってみても,ゾルゲルアルミナ砥石であるから1000℃で焼成
する必要があり,明らかに別個のものである。したがって,ゾルゲルアルミナを用
いる技術分野において,この一部に第2の研磨材として溶融アルミナが使用できる
という記載があるからといって,溶融アルミナについては,1200℃以上で焼成
することが一般的であることから,直ちにいえることではないし,しかも所望の効
果も予測し得るものと認定することも,実施してみて始めて分かることである。」
と主張する。
 ところで,ゾルゲルアルミナ砥粒と溶融アルミナ砥粒とが,結晶構造及び結合剤
との反応性の点で相違があるとしても,両者はともにアルミナ砥粒に属するもので
あって,しかも,引用発明において,溶融アルミナ砥粒は研磨材全体の約95体積
%まで使用し得るのであるから(上記の摘記事項(ホ)を参照),上記砥粒の相違
が,引用発明の結合剤を溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石車に使用するこ
とを当業者に断念させるほどのものとは認められない。また,焼成温度についてみ
ると,従前,溶融アルミナ砥粒は,1200℃の焼成温度に耐えられるために,1
200℃の焼成温度に適した結合剤が選択されていたものであって,溶融アルミナ
砥粒を用いた砥石が必ず1200℃で焼成されなければならないというものではな
い。そうすると,ゾルゲルアルミナ砥粒と溶融アルミナ砥粒を研磨材とする砥石車
を1000℃で焼成していた引用発明の結合剤を溶融アルミナ砥粒のみを研磨材と
する砥石の結合剤に用いたときに,焼成温度を1000℃としたことが,当業者に
とって予想し得ないというものではない。そして,従前,溶融アルミナ砥粒は,1
200℃の焼成温度に耐えられるために,1200℃の焼成温度に適した結合剤が
選択されていたものであって,溶融アルミナ砥粒を用いた砥石が必ず1200℃で
焼成されなければならないというものではない。そうすると,ゾルゲルアルミナ砥
粒と溶融アルミナ砥粒を研磨材とする砥石車を1000℃で焼成していた引用発明
の結合剤を溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石の結合剤に用いたときに,焼
成温度を1000℃としたときの効果が全く予想し得ないというものではない。
〈作用効果について〉
 審判請求人は,訂正発明の奏する効果について,「この得られた砥石車を,使用
されている標準的なものから得られた砥石車とではあるが,両者の研削性能を比較
し,このことから訂正発明のものは,目直し補正において半分,目直し周期におい
て3倍,したがってその性能は6倍に改良されたことが明らかにされている。」と
主張する。
 ところで,引用発明も,訂正発明と同じく,改良された機械強度特性及びコーナ
ー保持性を可能にするとの作用効果を奏するものであって(上記の摘記事項
(ヘ),(リ)を参照),しかも,標準的な市販品との対比において優れているも
のであり(上記の摘記事項(チ),(リ)を参照),また,上記の審判請求人の効
果に関する主張は,訂正発明が従来使用の標準品よりも優れているというにとどま
るものであることからみると,訂正発明の作用効果は引用発明から当業者が予測可
能な範囲内のものであって,格別のものではないといわざるをえない。
 (6) 審決のむすび
 以上のとおりであるから,訂正発明は,前記引用刊行物に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,当該発明は,特許法
29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないもので
ある。
 したがって,この審判請求は,特許法126条4項の規定に適合しない。
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は,訂正発明と引用発明との「相違点2」の判断を誤ったものである。
 1 審決は,「引用発明においても,研磨剤の一部として溶融アルミナを使用し
ているものであるから,引用発明の結合剤が,溶融アルミナ砥粒の使用に適さない
ということはでき(ない)」との認定から,「引用発明の結合剤を,溶融アルミナ
砥粒のみを研磨剤とする砥石車に使用することに格別の困難性があるとは認められ
ない」と認定判断したが,「溶融アルミナ砥粒に使用することもできる」との命題
から「溶融アルミナ砥粒に使用するのに適している」との結論を直ちに導ける論理
関係はない。
 引用発明は,ゾルゲルアルミナ研磨材の含有量を「砥石の中の全研磨材の約5~
95体積%」とし,残りの部分に使用できる研磨材の一つとして溶融アルミナ砥粒
を例示しているだけで,積極的に引用発明の結合剤が溶融アルミナ砥粒単独の砥石
車にも適合できるとは述べていない。引用発明は,その結合剤を,必ずゾルゲルア
ルミナ砥粒を「砥石の全研磨材の約5~95体積%」含んだ研磨材に使用すべきこ
とを要求しており,少なくとも,引用発明の結合剤を100%溶融アルミナ砥粒の
砥石車に使用することは示唆していない。
 加えて,砥石のコーナー保持性は焼成温度が高い結合剤を用いるほど高くなると
いうのが当業者の技術常識であるから,当業者が溶融アルミナ砥石車のコーナー保
持性の向上を目指すに当たって,焼成温度が従来の溶融アルミナ砥石車用の結合剤
より低温で焼成されるゾルゲルアルミナ砥粒用の結合剤をわざわざ用いる理由・動
機がない。
 このように,引用発明に示唆すらない状況の下,適用を困難にする阻害要因を越
えて,引用発明の結合剤を溶融アルミナ砥粒単独の砥石車に適用するという原告独
自の創作活動の結果である訂正発明が,単なる「当業者の創作活動の一環」であろ
うはずがない。
 2 審決は,「また,溶融アルミナ砥粒を研磨剤とするものに対しても,所望の
効果を予測し得るものと認められる」とも認定したが,証拠や技術常識による裏付
けのない独断である。
 焼成温度が高いほどコーナー保持性も高くなることが当業者の技術常識であった
ことからすれば,従来の溶融アルミナ砥石車の焼成温度(1200~1350℃)
より低い(1000℃)焼成温度の(ゾルゲルアルミナ砥石車用の)結合剤で焼成
することで溶融アルミナ砥石車のコーナー保持性が飛躍的に向上するという訂正発
明の効果は,当業者が予測できるものではない。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由の1項について
 (1) 引用刊行物(甲第5号証)には,以下の事項が記載されている。
 「ゾルゲルアルミナ研磨材は,好ましくは砥石の中の全研磨材の約5~約100
体積%を提供し,...第2研磨材(複数種のこともある)は,好ましくは砥石の
中の全研磨材の約0~95体積%を提供し,..使用可能な研磨材には融解アルミ
ナ,...発泡アルミナがある。」(【0015】)
 また,寺田召二他3名著「低温焼成ビトリファイド研削トイシ(第1報)ガラス
結合材を使用するための基礎的考察」名古屋工業技術試験所報告第7巻第9号(昭
和33年9月)66~72頁(乙第1号証)には,
 「...最も多く使用されているのはビトリファイド研削トイシであって,これ
は結合材にケイ酸塩鉱物を使用したものである。この種のトイシは普通の場合13
50℃前後の温度に焼成されたときに所要のカタサを持つトイシとなる。この焼成
温度を引下げることができれば,従来よりも大幅にトイシの生産コストを引下げ,
安価なトイシができるはずである。....普通のビトリファイド研削トイシは,
通常は焼成温度が高くなるに従い強度も大きくなるが,ガラスを結合材とする場合
には一定の温度以上に焼成すると逆に強度が低下した.」(66頁「1.まえが
き」の項)
 「図1に抗張力の測定結果を示す.この結果によると940℃まではトイシの抗
張力は増加しているが,それ以上の温度範囲では逆に抗張力は低下してゆく傾向が
みられる.」(67頁「3.実験結果とその考察」の項)
 引用刊行物の上記【0015】の記載によれば,確かに原告主張のように,引用
発明においては,最低でもゾルゲルアルミナ砥粒約5体積%を含んでおり,残部約
95体積%までが溶融アルミナ砥粒で構成されてもよいとのことが開示されてい
る。
 (2) しかしながら,ここで,溶融アルミナ砥粒95体積%とゾルゲルアルミナ砥
粒5体積%との砥粒混合物をガラス質結合剤で焼成した場合を考察すると,該結合
剤の大部分は,溶融アルミナ砥粒同士の結合に費やされるであろうことは,当業者
ならずとも容易に想到し得る事項である。
 ちなみに,上記混合物をモデル化して考察してみる。
 溶融アルミナ砥粒も,ゾルゲルアルミナ砥粒も組成的には同じアルミナであっ
て,砥粒単体を構成する結晶粒子数が異なるのみであるから,両者はその比重にお
いて大差はないものと考えられ,また,砥石は被研削物表面を平滑に研磨すること
を目的とするものであることから,砥石を構成する各砥粒は,全体として粒度の揃
った状態であると認定することができる。
 すなわち,例えば上記混合物の砥粒100個を採った場合,95個が溶融アルミ
ナ砥粒,残り5個がゾルゲルアルミナ砥粒であり,それらは,略同一粒径で,均一
に分散していることとなる。
 この100個を10×10個の桝目の中に配置して,上下左右の隣接粒子との間
に結合剤が供給され,全体が一体物として結合して砥石を構成すると仮定すると,
外縁部の粒子は,隣接粒子との結合箇所が2~3個であるのに対し,内部の粒子は
上下左右の4個の結合箇所を持つことになる。
 5個のゾルゲルアルミナ粒子のすべてが内部に位置すると仮定すると(このよう
に仮定することは,溶融アルミナ砥粒同士の結合部分を最も少なく見積もることに
なる。),ゾルゲルアルミナ砥粒と溶融アルミナ砥粒との間の結合箇所は上下左右
の4箇所×5個=20箇所である。一方10×10個の桝目における結合箇所の総
数は,9×9=81箇所である。100個中に5個しかないゾルゲルアルミナ砥粒
同士が隣接して配置される可能性はほとんどないと考えられるので,81-20=
61箇所は溶融アルミナ砥粒同士の結合箇所ということになる。
 すなわち,結合剤による結合箇所をモデル化してみた場合には,溶融アルミナ同
士の結合箇所は,最も少なく見積もった場合においてさえ,61/81=75.3
%を占めることとなり,結合剤の大部分は,溶融アルミナ砥粒同士の結合に費やさ
れるであろうことが明らかである。
 そして,これらの溶融アルミナ砥粒同士の結合部分についても,強力に結合しな
い限りは,全体として高性能の砥石たり得ないことは明らかであるから,引用発明
における結合剤は,溶融アルミナ砥粒単独の砥石に関しても,優れた結合剤であろ
うことは容易に想到し得る事柄である。
 そして,乙第1号証に関する上記摘記事項にも記載されるとおり,溶融アルミナ
砥粒から成る砥石に関しても,コスト低減等の面から焼成温度の低温化が図られて
いたことを併せて考慮すれば,引用発明における結合剤を溶融アルミナ砥粒100
%から成る砥石に適用してみようとすることは,当業者であれば容易に想到し得る
ものと認めることができる。
 したがって,原告の主張は採用することができない。
 2 取消事由の2項について
 取消事由2項における訂正発明の効果に関する主張は,訂正明細書の例2を根拠
にしている。要するに,
 (イ)溶融アルミナ砥粒100%の砥石車同士で比較した例2において,訂正発
明のガラス結合剤を用いて製造した溶融アルミナ砥石車(1000℃焼成)は,従
来のガラス結合剤を用いて製造した溶融アルミナ砥石車(標準製法;1225℃焼
成)と比べて,目直し補正が半分に軽減され,目直し間隔当りの部品数が3倍にな
り,性能は6倍になっていること,
 (ロ)焼成温度が高いほどコーナー保持性も高くなることが当業者の技術常識で
あったことからすれば,従来の溶融アルミナ砥石車の焼成温度(1200~135
0℃)より低い焼成温度(1000℃)の結合剤で焼成することによって溶融アル
ミナ砥石車のコーナー保持性が飛躍的に向上するということは,当業者が予測でき
るものではないこと,
 というものである。
 しかしながら,原告が主張している性能が6倍である旨の比較対象は,従来のガ
ラス結合剤を用いて製造した溶融アルミナ砥粒100%の砥石車であるのに対し,
引用発明は,従来のガラス結合剤を用いて製造した溶融アルミナ砥粒100%の砥
石車ではない。本件明細書には,引用発明と訂正発明とを対比した結果は記載され
ていないし,原告も,両者の性能についての比較結果を主張しているものではな
い。
 したがって,訂正発明の作用効果が予測できないとする原告の主張は,理由がな
い。
第5 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
  東京高等裁判所知的財産第4部
         裁判長裁判官   塚  原  朋  一
            裁判官   塩  月  秀  平
裁判官   髙  野  輝  久

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