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平成一〇年(ワ)第一九五六六号 放送差止等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成一二年三月一四日)
        判     決
    原       告             日本コロムビア株式会

    右代表者代表取締役             【A】
    原       告              テイチク株式会社
    右代表者代表取締役             【B】
    原       告             ポリドール株式会社
    右代表者代表取締役             【C】
    原       告             株式会社徳間ジャパン
コミュニケーションズ
    右代表者代表取締役             【D】
    原       告             株式会社ソニー・ミュ
ージックエンタテインメント
    右代表者代表取締役             【E】
    原       告             株式会社ポニーキャニ
オン
    右代表者代表取締役             【F】
    原       告             株式会社フォーライフ
レコード
    右代表者代表取締役             【G】
    原       告             パイオニアエル・ディ
ー・シー株式会社
    右代表者代表取締役             【H】
    原告ら補助参加人              社団法人日本レコード
協会
    右代表者理事                【I】
    原告ら及び原告ら補助参加人訴訟代理人弁護士 中 村   稔
                          熊 倉 禎 男
                          富 岡 英 次
                          辻 居 幸 一
                          田 中 伸一郎
                          飯 田   圭
    被       告             株式会社第一興商
    右代表者代表取締役             【J】
    右訴訟代理人弁護士             原   秋 彦
                          上 野 達 夫
                          原   若 葉
                          宇佐神   順
 主     文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用のうち、補助参加によって生じた部分は補助参加人の負担とし、そ
の余の部分は原告らの負担とする。
        事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は、別紙音源目録記載の各音源を収録している各原告の発売に係る各商
業用レコードを使用して、同音源を、そのまま全部、受信者に対し、ファックスサ
ービスによりワンサイクルとして放送される順に音源の実演家名、タイトル及びワ
ンサイクルの開示時間を事前に了知することができるようにし、又は、テレビ受像
機の画面表示により放送中の音源に係る実演家名、タイトル及び演奏時間を同時に
了知することができるようにした上で、反復継続してデジタル方式で放送してはな
らない。
 二 被告は、第一項記載の音源を第一項記載の放送のためにデジタル方式の記憶
媒体に収録してはならない。
 三 被告は、第一項記載の放送のために第二項記載の記憶媒体に収録した第一項
記載の音源を消去せよ。
 四 被告は、原告らに対しそれぞれ金二〇九〇万円及びこれに対する平成一〇年
九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 基礎となる事実(末尾の括弧内に証拠番号等が表示されている事実は当該証
拠等により認められ、右表示がない事実は当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 原告らは、いずれも、レコード等の製作、販売などを業務とする株
式会社である(弁論の全趣旨)。
(二) 被告は、音響機器の製造、販売、賃貸及びリース、電気通信設備に
よる音響の送信事業及び同設備の運営などを業務とする株式会社である。
2 原告らの権利
 原告らは、それぞれ、別紙音源目録記載の各レコード(以下「本件各レコ
ード」という。)にそれぞれ固定されている同目録記載の各楽曲の実演(以下「本
件各音源」という。)を最初に固定した者であり、本件各レコードにつき、著作隣
接権(レコード製作者の権利)を有する(甲第三六号証ないし第四三号証、第七六
号証ないし第八三号証、弁論の全趣旨)。
3 被告による放送
(一) 被告は、放送法上の番組編集の責任主体である委託放送事業者(同
法二条三号の五)として(放送法上の受託放送事業者(同法二条三号の四)は訴外
株式会社日本サテライトシステムズである。)、通信衛星放送サービス「スカイパ
ーフェクTV」の第四〇〇チャンネルないし第四九九チャンネルにおいて、音楽を
中心としたラジオ番組(番組名「第一興商スターデジオ一〇〇」。以下「本件番
組」という。)を、デジタル信号により、有料(受信料月額一二〇〇円)で公衆に
無線送信しており、本件各音源も、本件番組において、公衆に無線送信されてい
る。
(二) 本件番組においては、次のような処理、過程を経て、本件各音源を
含む、商業用レコードに収録された音楽が送信され、公衆に受信されることになる
(乙第一八号証、弁論の全趣旨)。
(1) アナログ再生及びデジタル変換
 音楽CDをアナログ再生し、その信号をデジタル信号に変換する。
(2) 圧縮
 右デジタル信号を、コンピュータ上で、所定の規格に従い圧縮(デー
タをまとめてサイズを小さくすること)する。
(3) 保有サーバへの収録
 右圧縮されたデジタル信号を、保有サーバに収録する。
 右保有サーバは、被告第一興商がリース会社からリースを受けて(乙
第二二号証)、自己の設備として管理・利用している。
(4) 番組編成及び編成サーバへの入力
 各チャンネル毎に番組を編成した上、その内容をプログラムデータ形
式で編成サーバに入力する。
(5) 送出サーバへの送信及び収録
 編成サーバは、保有サーバにアクセスし、入力された番組編成データ
に従って、必要な音楽データを保有サーバから複数の送出サーバに送出させる。送
出サーバは、保有サーバから送られた右音楽データを収録する。
(6) 衛星への放出(アップリンク)及び衛星から地上への送信
 送出サーバから送出される音楽データは、所定の処理を経て、電波に
変換され、地球局アンテナから通信衛星に向けて送信される。右電波を受信した通
信衛星は、これを増幅した上で、地上に送信する。
(7) 公衆による受信
 右のようにして地上に送信された音楽データは、各受信者が保有する
受信アンテナによって受信された後、同じく各受信者が保有するデジタル受信チュ
ーナーにおいて所定の処理がされた上で、音楽としてスピーカー等から出力され
る。
二 原告らの請求とその根拠
1 原告らが主張する被告による著作隣接権の侵害
(一) 被告は、本件番組において本件各音源を請求の趣旨第一項記載の態
様で公衆に送信することにより、受信者による本件各音源のMDへの録音を惹起さ
せているところ、右行為は、原告らがそれぞれ本件各レコードについて有している
レコード製作者としての複製権(著作権法九六条)を侵害する。
(二) 被告は、本件番組において本件各音源を公衆に送信するにためにこ
れをデジタル方式の保有サーバに収録しているところ、右行為は、原告らがそれぞ
れ本件各レコードについて有しているレコード製作者としての複製権(著作権法九
六条)を侵害する。
2 原告らの請求
(一) 請求の趣旨第一項の請求
 原告らは、被告に対し、前記1(一)の複製権侵害について、侵害の停
止請求又は予防請求(著作権法一一二条一項)として、請求の趣旨第一項記載の放
送の禁止を求める。
(二) 請求の趣旨第二項の請求
 原告らは、被告に対し、前記1(二)の複製権侵害について、侵害の停
止又は予防請求(同法一一二条一項)として、請求の趣旨第二項記載の収録の禁止
を求める。
(三) 請求の趣旨第三項の請求
 原告らは、被告に対し、前記1(二)の複製権侵害について、侵害行為
を組成した物の廃棄請求(同法一一二条二項)として、請求の趣旨第三項記載の音
源の消去を求める。
(四) 請求の趣旨第四項の請求
 原告らは、被告に対し、前記1(一)及び(二)の各複製権侵害による
損害賠償請求として、原告らそれぞれに対する二〇九〇万円(損害の内金)及びこ
れに対する平成一〇年九月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定
の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 争点
1 受信者による本件各音源のMDへの録音と複製権侵害の成否
2 本件各音源の保有サーバへの収録と複製権侵害の成否(著作権法一〇二条
一項により準用される同法四四条一項の適用の可否)
3 原告の被った損害の額
四 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(一) 原告らの主張
(1) レコード製作者の複製権の趣旨
 レコード製作者は、「文化の発展に寄与することを目的とする」著作
権法上(同法一条参照)、「レコードを複製する権利を専有する」(同法九六条)
ものとされているところ、これらの規定の趣旨は、レコード製作者の音源製作活動
に作詞家及び作曲家の音楽創作活動並びに歌手及び演奏家の実演活動に準じた創作
性を認め、レコード製作者に対し自己が製作した音源の複製に関する排他的支配権
を保障し、レコード製作者が当該音源の独占的販売による経済的利益を確保できる
こととし、これにより、性質上リスク回避が不可能なレコード製作者の音源製作活
動を奨励し、作詞家及び作曲家の音楽創作活動並びに歌手及び演奏家の実演活動の
活動環境及び経済的基盤を確保せしめ、ひいては、音楽文化の発展のサイクルを安
定させるところにある。
(2) レコード製作者の複製権の効力が及ぶ範囲
① (a)多数の第三者がレコード製作者の製作に係る音源の同等品を
取得するに至ることを認識、認容しながら、(b)これらの第三者による当該音源
の同等品の取得行為の惹起により営業上の利益を得ることを意図して、これらの第
三者に対し、(c)当該音源の同等品の取得行為を容易にする手段を講じた上で、
(d)当該音源と同等の音を提供し、もって、(e)これらの第三者による当該音
源の同等品の取得行為を惹起し、かつ、(f)これにより営業上の利益を得ている
場合には、権利の性質上、あるいは、権利の目的からみて、レコード製作者の複製
権を侵害(著作権法一一二条一項)するものと解すべきであることは、以下に述べ
るとおりである。
② まず、一般論として、著作権等を侵害する者又は著作物等の利用行
為の主体が、自ら物理的に著作物等の利用行為を行う者に限定されるものではな
く、著作権法上著作権等を侵害する者と実質的に評価される者も含まれることは、
判例及び学説上確立された見解であり(最高裁第三小法廷昭和六三年三月一五日判
決、東京地裁平成一〇年八月二七日判決など)、また、自ら物理的に著作物等の利
用行為を行なっていない者が、著作権法上著作権等を侵害する者又は著作物等の利
用行為の主体と実質的に評価されるか否かは、具体的な事案に応じて検討されるべ
きことである。
③ そこで、本件の具体的な事案に応じて音源の録音行為に関与する行
為がいかなる場合にレコード製作者の複製権を侵害するものであるかを検討するこ
ととした場合、その前提として、近時のデジタル技術の進展の下でのレコード製作
者の製作及び販売に係る商業用レコード並びにこれに収録された音源の利用状況を
認識、理解することが必要というべきところ、右利用状況については、次の事実が
認められる。
ア 近年、高性能で低価格の録音機器及び録音用記録媒体の目覚まし
い開発及び普及に伴って、レコード製作者が製作した音源の私的使用のための録音
が、容易かつ頻繁に行なわれるようになっている。特に、近時におけるMD等に係
るデジタル方式の録音機器及び録音用記録媒体の開発及び普及によって、オリジナ
ルと品質がほとんど変化せず、ほとんど劣化しない録音を簡単に行うことができる
ようになり、レコード製作者が製作した音源の私的使用のための録音が、ますます
容易かつ頻繁に行なわれるようになっている。
イ 他方、近年、レコード製作者が製作及び販売した商業用レコード
を使用して高品質の音源を無形的又は有形的に無償又は低価格で公衆に供与するF
Mラジオ局、貸レコード業等のサービスが発達してきた。
ウ さらに、近時におけるデジタル化の進展に伴い、レコード製作者
が製作及び販売したCD等を使用してデジタル方式によりオリジナルと品質がほと
んど変化せず、ほとんど劣化しない音源を無形的に低価格で公衆に供与するサービ
スが発達してきている。すなわち、インターネット等のネットワークにおいては、
受信者のリクエストを受けて、レコード製作者が製作及び販売したCD等に収録さ
れた音源をそのまま全部送信するデジタル方式のサービスが普及しており、また、
デジタル衛星放送等においても、本件番組のように、レコード製作者が製作及び販
売したCD等に収録された音源を、多数のチャンネルを音楽ジャンル毎に細分化し
た上で、そのまま全部反復継続して送信するデジタル方式のサービスが発達しつつ
ある。
 そして、これらのサービスは、レコード製作者が製作及び販売し
たCD等を使用してデジタル方式によりオリジナルと品質がほとんど変化せず、ほ
とんど劣化しない音源を無形的に低価格で公衆に供与して、右アにおいて述べた私
的録音に関する需要に応じることにより、発達してきているものである。
④ レコード製作者の複製権が及ぶ範囲の解釈その一
 そもそも、著作権法は、「複製」につき「有形的に再製することを
い(う)」と定義した上(同法二条一項一五号柱書)、レコード製作者の複製権に
ついて、「レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する」と規定し
(著作権法九六条)、著作権者等は、著作権等を「侵害する者又は侵害するおそれ
がある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」と規定してい
る(同法一一二条一項)。この「専有」権が具体的に何を意味するか、また、この
専有権の「侵害」が具体的に何を意味するかについては、何らの規定もないので、
これらをいかに解釈するかはすべて法解釈の問題であるところ、これに際しては、
著作権法の目的、趣旨等に沿って解釈しなければならないものである。そして、レ
コード製作者の複製権は、前記①記載のとおりの趣旨によるものであるところ、こ
のようなレコード製作者の複製権の性質・目的からすると、レコード製作者による
自己が製作した音源の複製に関する排他的支配(すなわち、第三者に対し音源の複
製を許諾するかどうかを他人の妨害行為の介入を受けることなく自由に決定するこ
と)の状態を妨害し、レコード製作者による当該音源の独占的販売による経済的利
益の確保を阻害する行為は、それが著作物等に関する直接的な複製行為以外の行為
であっても、著作権法の規律の観点からは、特段の除外規定がない限り、レコード
製作者の複製権を侵害するものというべきである。
 しかして、前記②で述べたようなレコード製作者の製作及び販売に
係る商業用レコード並びにこれに収録された音源の近時の利用状況の下において
は、多数の第三者がレコード製作者の製作に係る音源の同等品を取得するに至るこ
とを認識、認容しながら、これらの第三者による当該音源の同等品の取得により営
業上の利益を得ることを意図して、これらの第三者に対し、当該音源の同等品の取
得を容易にする手段を講じた上で、当該音源と同等の音を提供し、もって、これら
の第三者による当該音源の同等品の取得行為を惹起し、かつ、これにより営業上の
利益を得ている場合には、まさに、このような他人の行為の介入により、レコード
製作者は、第三者に対し音源の複製を許諾するかどうかを決定し、これにより音源
の複製に関する経済的利益を享受することができる状態を実質的に妨害されている
のであるから、レコード製作者による当該音源の複製に関する排他的支配の状態が
妨害され、レコード製作者による当該音源の独占的販売による経済的利益の確保が
阻害されているものということができる。したがって、右のような行為は、レコー
ド製作者の複製権を侵害する行為というべきである(ここで問題なのは、他人の行
為の介入自体により、レコード製作者が、第三者に対し音源の複製を許諾するかど
うかを決定し、これにより音源の複製に関する経済的利益を享受することができる
状態を実質的に妨害されたかどうかであるので、他人が第三者による音源の複製行
為そのものを管理ないし支配しているか否か、他人が音源の複製による直接的な利
益を得ているか否か等は、いずれもここで直接問題とする必要はない。)。
⑤ レコード製作者の複製権が及ぶ範囲の解釈その二
 仮に、著作権法が、レコード製作者の複製権について、特に「複
製」行為のみの禁止を求めることができる権利として規定しているものと解釈した
としても、何がその「複製」行為であるかについては、行為の具体的な態様及びそ
こにおいていかなる具体的な行為が重要であるのかという観点から、実質的に解釈
されるべきである。
 すなわち、「複製」行為とは、「有形的に再製する」行為であり
(著作権法二条一項一五号柱書)、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を
覚知させるに足りるものを(有形的に)再製する」行為であるが、このように定義
される「複製」行為を具体的な態様の側面から分析すると、本質的に、
ア 既存の著作物等に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足り
るものの有形的な再製により、利益を享受しようとする意思に基づき、
イ 既存の著作物等へアクセスし、
ウ アクセスした既存の著作物等の内容及び形式を知覚し、
エ 知覚された既存の著作物等の内容及び形式を記憶ないし記録し、
オ 記憶ないし記録された既存の著作物等の内容及び形式を伝達し、
カ 伝達された既存の著作物等の内容及び形式を有体物に物理的に固
定する、
という全体として一連の行為からなり得るものである。
 そして、技術が進展し、メディア、機器等が発達した今日において
は、例えば、送信技術の進展により、右イないしオの各行為と右カの行為とが別の
場所で行われることが可能になっているところ、このような場合、右イないしオの
各行為と右カの行為とが送受信を介して別の場所で行われているからといって、そ
のことにより右イないしオの各行為が、全体として一連の「複製」行為の一部を構
成しなくなるものではなく、依然として、右アの意思に基づく右イないしカの各行
為からなる全体として一連の「複製」行為の一部を構成するものであることには、
何ら変わりがないはずである。しかも、このように技術の進展により複雑化・細分
化された全体として一連の「複製」行為においては、右カの行為に利用される機器
等が発達すればするほど、右カの行為における有体物への物理的な固定作業自体
は、単に機器のボタン等を押すなどするだけの簡単な作業にすぎなくなり、右カの
行為の実行は、単に全体として一連の「複製」行為における手段の役割を果たすに
すぎないものとなるのであり、これと比較して、右イないしオの各行為における作
業こそが、実質的な意味を持つに至るのである。
 したがって、右イないしオの各行為を物理的に行う者と右カの行為
を物理的に行う者とが別である場合でも、右イないしオの各行為を物理的に行う者
が、右アの意思に基づき、右カの行為を物理的に行う者を自己の手足として利用し
ているときには、著作権法の規律の観点から、全体として一連の「複製」行為を行
っているものと実質的に評価すべきものであり、しかも、右アの意思に基づき、右
カの行為を物理的に行う者を自己の手足として利用していると言うためには、その
者による右カの行為の物理的な実行そのものを支配ないし管理し、右カの行為の物
理的な実行による直接的な利益を得ていることは必要不可欠ではなく、その者に対
し、積極的に援助、誘引、助長等して、その者をして右カの行為を物理的に実行さ
せ、そのことにより営業上の利益を得ていれば足りるものというべきである。
 しかして、前記③で述べたようなレコード製作者の製作及び販売に
係る商業用レコード並びにこれに収録された音源の近時の利用状況からすると、多
数の第三者がレコード製作者の製作に係る音源の同等品を取得するに至ることを認
識、認容しながら、これらの第三者による当該音源の同等品の取得行為の惹起によ
り営業上の利益を得ることを意図して、これらの第三者に対し、当該音源の同等品
の取得行為を容易にする手段を講じた上で、当該音源と同等な音を提供し、もっ
て、これらの第三者による当該音源の同等品の取得行為を惹起し、かつ、これによ
り営業上の利益を得ている場合には、具体的な態様の側面から様々な物理的な行為
に分析される「複製」行為中の実質的な部分を実行しながら、第三者の欲望を殊更
にかき立て、自己の手足として利用して、当該「複製」行為中の当該音源の物理的
な録音行為を実行させ、当該音源の販売による経済的利益をレコード製作者から奪
い取っているものということができる。したがって、右のような場合には、レコー
ド製作者に、自己が製作した音源の複製に関する排他的支配権を保障し、当該音源
の独占的販売による経済的利益を確保させるというレコード製作者の複製権の目的
からみて、著作権法の規律の観点からは、全体として一連の「複製」行為を行って
いるものと実質的に評価することができるものである。
⑥ 以上で述べたとおり、レコード製作者の複製権の効力が及ぶ範囲に
ついて、前記「解釈その一」によっても、「同その二」によっても、前記①の
(a)ないし(f)の要件を満たす場合には、権利の性質上、あるいは、権利の目
的からみて、レコード製作者の複製権を侵害(著作権法一一二条一項)するものと
解するのが相当である。
(3) 本件番組における本件各音源の公衆への送信が原告らの複製権を
侵害することについて
① 被告は、本件番組において、極めて多くの契約受信者に対し、同時
に直接受信させるために、番組編集の責任主体として、多数のチャンネルを音楽ジ
ャンル毎に細分化し、本件各レコードを使用して本件各音源をデジタル方式のサー
バに収録し、このサーバを使用して本件各音源を、その間に解説やトークを入れる
こともその冒頭や末尾に実演家名やタイトル等の紹介をかぶせることもなく、フル
サイズで、数十曲をワンサイクルとして一日六回ないし一二回、一週間にわたり、
繰り返しデジタル方式で無線送信し、契約受信者から受信料の支払を受けている。
また、被告は、本件番組の一部のチャンネル(チャンネル四〇一ないし四一七、四
一九、四二一ないし四二九等)について、契約受信者に対し、パンフレットやホー
ムページ等により「FAX BOXサービス」を宣伝広告した上で、この「FAX
 BOXサービス」として、平成一〇年八月中旬ころまでは、ワンサイクルとして
送信される順に数十曲の音源に係るすべての実演家名、タイトル及び送信時間を事
前に了知することができるようにし、右の時期以降は、ワンサイクルとして送信さ
れる順に数十曲の音源に係るすべての実演家名及びタイトル並びにワンサイクルの
開始時間を事前に了知することができるようにしている。さらに、被告は、本件番
組について、契約受信者に対し、パンフレットや雑誌等により「サウンドナビ機
能」を宣伝広告した上で、この「サウンドナビ機能」として、テレビ受像機の画面
表示により放送中の音源に係る実演家名、タイトル及び演奏時間を同時に了知する
ことができるようにしている。
 他方、近時における録音用MD及びその録音機器を含むオーディオ
機器の開発及び普及の状況の下において、本件番組の契約受信者中の多数の者が、
録音用MDの録音機器を含むオーディオ機器を保有し、このようなオーディオ機器
をデジタル受信チューナーに接続して、単に被告により送信された音源の無形的な
再製を享受するにとどまらず、同音源を録音用MDにデジタル方式で容易かつ頻繁
に録音し、自己の所有物として利用していることは明白である。
② 右のような本件番組のサービス形態及び受信者による利用の実態か
らすれば、被告は、本件番組において本件各音源を送信することにより、(a)契
約受信者の多数が本件各音源の同等品を取得するに至ることを認識、認容しなが
ら、(b)これらの契約受信者による本件各音源の同等品の取得行為の惹起により
営業上の利益を得ることを意図して、これらの契約受信者に対し、(c)本件各音
源の同等品の取得行為を容易にする手段を講じた上で、(d)本件各音源と同等の
音を提供し、もって、(e)これらの契約受信者による本件音源の同等品の取得行
為を惹起し、かつ、(f)営業上の利益を得ているものということができる。
 すなわち、本件番組において、被告は、本件各音源を収録した本件
各レコードを使用して、本件各音源をデジタル方式のサーバに収録し、このサーバ
を使用して、受信者に対し、本件各音源をそのまま全部デジタル方式で無線送信し
ており、受信者は、被告により送信された本件各音源をデジタル方式の受信チュー
ナーにより受信し、MD等にデジタル方式で録音しているのであるから、本件番組
において受信者により録音されたものが本件各レコードに収録された本件各音源の
同等品であることは、明らかである。また、被告は、「FAX BOXサービス」
及び「サウンドナビ機能」を提供した上で、多数のチャンネルを音楽ジャンルごと
に細分化して、右のような送信を行うことにより、受信者に、送信された本件各音
源をデジタル方式の受信チューナーにより受信させ、MD等にデジタル方式で容易
かつ頻繁に録音させ、自己の所有物として利用させているのであるから、本件番組
において、被告が、多数の受信者が本件各音源の同等品を取得するに至ることを認
識、認容しながら、受信者に対し、本件各音源の同等品の取得行為を容易にする手
段を講じた上で、本件各音源と同等の音を提供し、これにより、受信者の欲望を殊
更にかき立て、もって、受信者による本件音源の同等品の取得行為を惹起している
ことは、明らかである。さらに、被告は、右のような受信者による本件各音源の録
音行為の惹起を自己の営業政策の一環として取り入れて、その特徴的なサービス形
態を積極的に宣伝広告し、これにより、極めて多くの契約受信者を獲得して、本件
番組を番組として成り立たせ、これらの契約受信者から料金の支払いを受けている
のであるから、被告が受信者による録音を惹起することにより営業上の利益を得て
いること及びそのような営業上の利益を得ることを意図していることは、明らかで
ある。
 したがって、前記のようなサービス形態により被告が本件番組にお
いて本件各音源を送信する行為は、前記(2)①の要件を満たすものであり、原告
らの本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害する行為とい
える。
③ さらに、前記(2)④において述べた「レコード製作者の複製権の
効力が及ぶ範囲の解釈その一」の観点から述べれば、右のようなサービス形態の本
件番組が放置されれば、原告らは、本件各音源の複製に関する排他的支配権が空洞
化して、本件各音源の独占的販売による経済的利益を確保することができなくなる
ことが必至である。
 すなわち、右のようなサービス形態の本件番組は、まさに原告らの
製作に係る本件各音源そのものの無断販売にほかならず、その意味において、原告
ら自身による本件各レコードの販売と競業関係にあるものであるが、特に、本件番
組のように、(ア)デジタル方式であるため、受信者により録音された音源の品質
が商業用レコードのそれと比較してほとんど変化せず、ほとんど劣化しないこと、
(イ)被告により送信された音源を多数の契約受信者が同時に自宅において、実演
家名、タイトル、送信時間等を確認して、MD等に極めて容易に録音することがで
きること、(ウ)その料金が、シングルCDの標準小売価格が一枚当たり約一〇〇
〇円であるのに対し、何曲録音しようとも定額で、しかも月額一二〇〇円と極めて
低廉であること、を特徴とするサービス形態の場合には、多くの消費者が、原告ら
の製作及び販売に係る本件各レコードの顧客として本件各音源を取得することをや
め、本件番組の契約受信者として本件各音源を取得するに至ることは容易に理解し
得るところである。
 しかも、このようなサービス形態の本件番組は、原告らの成果にた
だ乗りしながら、原告らと不正競業しているものである。すなわち、レコード製作
者は、多大な時間、費用及び労力を投下して、極めて多くの種類の音源を製作し、
宣伝広告等の上、これを収録した商業用レコードを販売しており、これらの中でヒ
ットするものはごくわずかであるので、これらの音源製作等に関し、甚大なリスク
を冒しているが、性質上このようなリスクを回避することができない。これに対
し、被告は、このような商業用レコードのうち、レコード製作者の努力が実を結
び、消費者に受け入れられ、ヒットしているものを適宜選択して、一般市場におい
て一般小売価格で一枚のみ購入しさえすれば、自ら音源を製作することも宣伝広告
等することもなく、その商業用レコード自体を使用して、多数の受信者に対し、音
源そのものを無制限に販売できてしまう結果、音源製作等のための多大な投資の必
要がなく、不成功のリスクを負担するおそれもないのであり、レコード製作者に対
し、競争上不当に有利な地位を得ているものである。
④ また、前記(2)⑤において述べた「レコード製作者の複製権の効
力が及ぶ範囲の解釈その二」の観点から述べれば、右のようなサービス形態の本件
番組は、本件各音源を収録した本件各レコードを使用して(前記(2)⑤イ及び
ウ)、本件各音源をサーバに収録し(同エ)、このサーバを使用して本件音源を無
線送信する(同オ)という原告らの製作に係る本件各音源の「複製」行為の実質的
な部分を実行しながら、「FAX BOXサービス」及び「サウンドナビ機能」を
提供した上で、多数のチャンネルを音楽ジャンル毎に細分化し、本件音源をそのま
ま全部反復継続してデジタル方式で無線送信して、もって、多数の契約受信者の欲
望を殊更にかき立て、自己の手足として利用して、本件各音源自体の物理的な録音
行為を実行させ(同カ)、本件各レコードの販売による経済的利益を原告らからか
すめ取っている(同ア)ものである。
⑤ 右③及び④によれば、本件番組は、本件各音源の複製に関する原告
らの排他的支配権を空洞化するものであるという意味でも、また、本件各音源の
「複製」行為の実質的な部分を実行しながら、受信者を自己の手足として利用し
て、全体として一連の「複製」行為を行っているという意味でも、本件各レコード
に係る原告らの複製権を侵害するものである。
(4) 以上によれば、被告による本件番組における本件各音源の送信
は、原告らの本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害す
る。
(二) 被告の反論
一 原告らの「レコード製作者の複製権の効力が及ぶ範囲」に関する主張
について
1 原告らの「近時の音源の利用状況」に係る主張(前記(一)(2)
③)は、独自の実質的評価論に基づく独自の侵害行為構成要件論を導くための単な
る事情を述べるものであって、全体として不知であるか、又は争う。
2 原告らの「解釈その一」に係る主張(前記(一)(2)④)は、そ
の主張する法的根拠や要件論がいずれも正当な根拠に基づくものではない。
3 原告らの「解釈その二」に係る主張(前記(一)(2)⑤)につい

 原告らが独自に主張する、技術の進展により細分化された全体とし
て一連の複製行為という概念に基づく複製権侵害論は、次に述べるとおり失当であ
る。
(一) 原告らの右主張は、技術の進展により複雑化・細分化された
全体として一連の複製行為においては、有体物への物理的な固定作業(すなわち録
音行為)自体は、単に機器のボタンを押す等の簡単な作業として手段の役割を果た
すにすぎなくなり、それ以前の行為こそ実質的な意味を持つ、という価値判断に基
づくものである。
 しかしながら、有体物への物理的固定こそ著作権法上の「複製」
そのものであり(著作権法二条一項一五号)、これなくして「複製」行為はあり得
ないのであるから、仮に、原告らが主張するように、「複製」行為を物理的な行為
として分析すれば、最終段階の有体物への物理的固定が複製機器のボタンを押すだ
けの作業であったとしても、これを第三者が行う場合において、なお被告による一
連の「複製」行為であると評価するためには、第三者による物理的固定行為が被告
によるものと同視されるに足りるだけのものであることが必要なはずである。原告
らの主張は、これを必要としないとする点で失当である。
(二) 原告らは、どのような場合に第三者の行為を自己の行為と同
視しうるか、という複製行為の実質的主体についての要件に関し、①録音行為を
「物理的に行う者を自己の手足として利用している」ことが必要とした上で、②
「自己の手足として利用している」というためには、当該物理的録音行為そのもの
を支配ないし管理していることは必要ではなく、積極的に援助、誘引、助長等して
物理的録音行為に至らしめれば足りると主張する。
 なるほど、「自己の手足として利用」するとは、第三者による物
理的行為が自己の行為と同視さるべき場合の評価を示す表現であるが、これは、一
般に第三者が自己の管理・支配下にあることを意味するものというべきである。と
ころが、原告らは、「援助、誘引、助長等」という、実行行為に対する幇助若しく
は教唆行為の行為類型に属する概念、あるいはそれよりもさらに加担の度合が弱い
概念に、これを特段の理由もなしに置き換えてしまい、後は録音行為との事実的因
果関係さえあれば足りると主張している。要するに、原告らは、レコード製作者が
「音源の複製に関する経済的利益を享受することができる状態を、実質的に妨害さ
れたかどうか」を複製権侵害の判断基準として主張するため、そのような意味での
漠然とした加担をするにすぎない実質的妨害の主体でありさえすれば、「複製」の
実質的行為主体として評価するに足りるとしているものであるが、これは、何らか
の意味で結果の遠因となる行為があれば、結果についての行為主体であると主張す
るに等しいものであり、失当である。
二 仮に、原告らが主張するレコード製作者の複製権が及ぶ範囲に関する
具体的要件によったとしても、被告による本件番組の送信行為は、その具体的要件
に該当するものではない。すなわち、本件番組の送信に当たり、被告には、「多数
の第三者によるレコード製作者の製作に係る音源の同等品の取得により営業上の利
益を得る意図」は認められないし、受信者による複製の有無は受信者が支払う受信
料の金額には関係がないから「それによる営業上の利益」もない。また、本件番組
につき受信者による私的録音がなされたとしても、それは「第三者による当該音源
の同等品の取得行為」とはいえず、被告はかかる私的録音につき「認識ないし認
容」することがあったとしても、これを「惹起」することが必然的でもなければ、
積極的に誘導しているのでもない。
2 争点2について
(一) 原告らの主張
(1) 被告は、本件番組において本件各音源を送信するに当たって、本
件各レコードを使用して、本件各音源を、約三五〇〇時間分の音源を収録すること
ができるデジタル方式の保有サーバに収録しているところ、右収録行為は、本件各
レコードの「複製」に当たる。
(2) 被告による右複製は、以下に述べるとおり、著作権法一〇二条一
項によって準用される同法四四条一項により許容されるものではない。
① 「放送」のための一時的な録音は、本来複製に該当するものである
が、専ら「放送」のための技術的手段として録音される場合には、その録音物が
「放送」のためにのみ使用され、使用後一定期間内に破棄される一時的な性質のも
のである限り、複製権者から許諾を得べきものとする必要がないので許容されたも
のであり、レコード製作者と共存共栄関係にある公共的性格を有する「放送」事業
者がアナログ方式により付随的に商業用レコードの「放送」を行なうことを前提と
しているものである。
 しかるに、本件番組は、そのサービス形態からみて、前記1(一)
(3)③で述べたとおり、まさにレコード製作者の製作に係る音源そのものの無断
販売にほかならず、商業用レコードの売行きを低下させるものであり、しかも、純
粋に営利を追求して、レコード製作者の成果にただ乗りしながら、これと不正競業
しているものである。
 したがって、このようなサービス形態の本件番組のために本件各音
源をデジタル方式のサーバに収録する被告による本件各音源の複製行為は、「放
送」のための一時的な録音として著作権法一〇二条一項によって準用される同法四
四条一項により免責されるべきものではない。 このことを著作権法二条一項八号
における「放送」の定義との関係で改めて述べると、著作権法の規律の観点から
は、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを「目的として行う」
(著作権法二条一項八号)とは、単に公衆によって同一の内容の送信が同時に受信
される(更には送信内容が視聴される)ことのみを目的として行うことを意味して
いるものと解すべきであり、本件番組のように、多数の契約受信者が本件各音源の
同等品を取得するに至ることを認識、認容しながら、これにより営業上の利益を得
ることを意図して、これらの契約受信者による本件各音源の同等品の取得行為を惹
起し、かつ、営業上の利益を得ている場合には、公衆によって同一の内容の送信が
同時に受信されることを「目的として行う」ものとはいえないというべきである。
 したがって、被告による本件番組における保有サーバーへの本件各
音源の収録は、著作権法四四条一項にいう「放送」のための録音に該当するもので
はない。
② 著作権法四四条一項の前記①記載のような趣旨によれば、同条項に
いう放送「のための」録音とは、録音物を専ら具体的に特定された放送番組のため
にのみ使用することを目的として録音を行うことを意味しているものと解すべきで
ある。
 そして、このような解釈の下では、様々な放送番組のために一般的
に使用することを目的として音源を録音する場合は勿論、具体的に特定された放送
番組を契機に、そのために使用することを一応の目的として音源を録音するもの
の、当該録音物を他の放送番組のために将来再度使用することをも目的として併有
しているような場合も、著作権法四四条一項にいう放送「のための」録音に該当す
るものではない。
 他方、本件番組は、現在の運用としては、具体的に特定された放送
番組を契機に、そのために使用することを一応の目的として保有サーバーに音源を
収録しているものであると考えられるが、このような現在の運用自体は、将来どの
ように変更することも可能かつ容易なものである。また、いずれにしても、本件番
組は、システム構成上、送出サーバーと切り離された保有サーバーに極めて多数の
音源を一括して収録し、これらの音源の中から各々の放送番組編成プログラムに基
づき適当な音源を保有サーバーから送出サーバーへ送信して利用するものであるの
で、保有サーバーに収録された音源を他の放送番組のために将来再度使用すること
をも目的として併有していることが明らかである。
 したがって、被告による本件番組における保有サーバーへの本件各
音源の収録は、著作権法四四条一項にいう放送「のための」録音に該当するもので
はない。
③ 著作権法四四条一項の前記①記載のような趣旨によれば、同条項に
いう放送のための「一時的」な録音とは、録音物を具体的に特定された放送番組の
ために使用した後に、当該放送における使用の実態に即して、必要かつ相当な期間
内に廃棄すること予定して録音を行うことを意味しており、右期間が六か月を超え
得ないことが、著作権法第四四条三項において明らかにされているものと解すべき
である。
 他方、本件番組においては、保有サーバーに収録された音源は、単
に保有サーバーの容量に限界があるために、新たな音源を収録する都合上最後に放
送された日が古いものから順に消去されているにすぎず、保有サーバーは、システ
ム構成上、これに収録された音源を収録ないし放送後六か月以内の一定の期間内に
消去するようには、何ら設計されていない(さらにいえば、保有サーバーは、シス
テム構成上、これに収録された音源の収録年月日や消去年月日の履歴が残るように
すら、設計されていない。また、実際上も、保有サーバーに収録された音源の中に
は、収録後六か月を経過しても、依然として、消去されていないものが相当数存在
している。)。
 したがって、被告による本件番組における保有サーバーへの本件各
音源の収録は、著作権法四四条一項にいう放送のための「一時的」な録音に該当す
るものではない。
④ 以上に述べたとおり、被告による本件番組における保有サーバーへ
の本件各音源の収録には、著作権法四四条一項が適用されるものではない。
(3) したがって、被告が本件番組において本件各音源を送信するに当
たって、本件各レコードを使用して、本件各音源を保有サーバに収録する行為は、
原告らの本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害する。
(二) 被告の主張
 被告が本件番組において本件各音源を送信するに当たって、本件各音源
を保有サーバに収録する行為は、以下に述べるとおり、著作権法一〇二条一項によ
って準用される同法四四条一項により、著作権法上許容されるものであるから、原
告らの本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害するもので
はない。
(1) 本件番組の公衆への送信は、公衆送信のうち、公衆によって同一
の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信であるから、著作
権法二条一項八号の「放送」に該当し、同法四四条一項にいう「放送」にも該当す
る。平成九年法律第八六号による著作権法の改正の際にも、アナログ放送とデジタ
ル放送とを区別する制度が検討されながら、結果的にそのような制度が創設される
には至らず、「放送」の定義において、アナログ放送とデジタル放送を区別する取
扱いがされなかったという経緯に照らせば、本件番組がデジタル信号により送信さ
れているという理由で、「放送」に当たらないということはできない。
(2) 被告は、本件番組の送信について、放送法上の「委託放送事業
者」として、郵政大臣の認定を受けており、また、前記(1)記載のとおり著作権
法上の「放送」に当たる本件番組の送信を業として行う者であるから、著作権法二
条一項九号の「放送事業者」に該当し、同法四四条一項にいう「放送事業者」にも
該当する。
(3) 被告による本件各音源の保有サーバへの収録は、放送を予定して
いる番組の放送日程に合わせて、放送予定の特定の楽曲のみについて行なわれるも
のであるから、被告が「自己の放送のために」行っているものといえる。
(4) 本件番組における保有サーバのハードディスクには、毎週各チャ
ンネルの番組内容が変更されるのに応じ、新番組のための新たな楽曲データの収録
と、それに応じた既存データの消去が絶えず行なわれており、消去にあたっては、
具体的に放送予定にあがっているものと現に放送中のものとを除き、最後に放送さ
れた日が古いものから順に時系列的に消去されているのであるから、本件番組にお
ける音源の保有サーバへの収録は、放送予定終了後消去されることを当然の前提と
しているものといえ、実際にも、少なくとも三週間おきに保有サーバーをチェック
し、最終放送日から三か月間を超えて放送に供されていないものは消去するという
運用が行われている。
 著作権法四四条一項における「一時的」とは、永続的でないことを意
味するものと解すべきところ、本件番組における音源の保有サーバへの収録は、右
のような実態に照らし、永続的なものとはいえないから、同条項の「一時的な録
音」に当たるというべきである。
3 争点3について
(一) 原告らの主張
(1) 前記第二、二1(一)の複製権侵害による損害額
 本件番組の受信者の多くが本件各音源をデジタル方式で録音してお
り、その結果、原告らは、それぞれ、本件各音源を収録しているシングルCD等に
ついて、その製造販売の機会を喪失し、多大な損害を被った。
 右損害のうち、差し当たり、左記のタイトルの各音源のみを問題とす
れば、原告らは、それぞれ、少なくとも、同音源を収録しているシングルCDにつ
いて、三万八〇〇〇枚の製造販売の機会を喪失し、これにより、少なくとも金一九
〇〇万円の損害を被った。
① 原告日本コロムビア株式会社 「モナムール東京」
② 原告テイチク株式会社 「二輪草」
③ 原告ポリドール株式会社 「楓」
④ 原告株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ 「星空の散歩
道」
⑤ 原告株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 「ミュー
ジックファイター」
⑥ 原告株式会社ポニーキャニオン 「きらら」
⑦ 原告株式会社フォーライフレコード 「となりの町のお嬢さん」
⑧ 原告パイオニアエル・ディー・シー株式会社 「Yes,Ido」
 よって、原告らは、それぞれ、被告に対し、民法七〇九条に基づき、
逸失利益に係る損害賠償の一部として、一九〇〇万円の支払を求めることができ
る。
(2) 前記第二、二1(二)の複製権侵害による損害額
 この場合も、差し当たり、右(1)において述べた音源のみを問題と
すれば、原告らは、それぞれ、被告に対し、著作権法一一四条二項に基づく複製許
諾料相当額に係る損害賠償の一部として、少なくとも右(1)において述べた逸失
利益に係る損害賠償金一九〇〇万円の一〇パーセントに相当する一九〇万円の支払
を求めることができる。
(3) 原告らは、原告ら補助参加人を通じて、被告に対し、被告の送信
行為及び送信のための収録行為を中止するよう申し入れ、誠実に交渉してきたが、
被告はこれを継続し、結局、原告らは、被告に対し、本訴の提起を余儀なくされ、
事案の内容等から、これを弁護士である原告代理人らに依頼せざるを得なかった。
その結果、原告らは、原告代理人らに対し弁護士費用の支払を約し、それぞれ、少
なくとも一九〇万円の弁護士費用相当の損害を被った。
 よって、原告らは、それぞれ、被告に対し、民法七〇九条に基づき、
弁護士費用相当の損害金一九〇万円の支払を求めることができる。
(二) 被告の主張
 原告らの主張を争う。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(受信者による本件各音源のMDへの録音に係る複製権侵害の成否)
について
1 弁論の全趣旨によれば、本件番組において送信された本件各音源を受信し
た受信者の中に、これを受信チューナーに接続した録音機器によってデジタル方式
のMDに録音する者が相当数存在することが推認されるところ、右のような録音が
当該受信者による本件各レコードの「複製」行為に当たることは明らかである。
2 原告らは、本件において、右のような受信者による本件各レコードの複製
の直接的な行為主体が当該受信者であることを前提としながらも、本件番組のサー
ビス形態や受信者による利用実態からすれば、本件番組を送信することによって右
のような受信者による本件各レコードの複製を生じさせるに至る被告の行為は、そ
れ自体原告らの本件各レコードについての複製権を侵害する行為と評価し得る旨主
張し、右主張を根拠付けるための理論構成として、前記「レコード製作者の複製権
が及ぶ範囲の解釈その一」(第二、四1(一)(2)④)及び「同その二」(同
⑤)を主張するので、原告らが主張する右二つの解釈及びその本件番組へのあては
めの当否について検討することとする。
3 原告らが主張する「解釈その一」について
(一) 原告らが主張する「解釈その一」の要旨は、著作権法九六条は「レ
コード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する」ことを規定するとこ
ろ、ここにおける「専有」権という概念が著作権法上明らかでなく、また、いかな
る場合に右専有権が「侵害」(同法一一二条一項)されたといえるかも著作権法上
明らかではないから、これらの解釈に当たっては著作権法の目的、趣旨に沿って解
釈すべきであるとの前提に立った上で、著作権法がレコード製作者にレコードの複
製権を認めた趣旨は「レコード製作者の音源制作活動に作詞家・作曲家の音楽創作
活動等に準じた創作性を認め、レコード製作者に対し自己が製作した音源の複製に
関する排他的支配権を保障し、レコード製作者が当該音源の独占的販売による経済
的利益を確保できるようにすること」にあるから、レコード製作者の音源の複製に
対する排他的支配の状態を妨害し、レコード製作者による当該音源の独占的販売に
よる経済的利益の確保を阻害することとなる行為は、それが同法二条一項一五号が
規定する「複製」に直接当たらない行為であっても、レコード製作者の複製権を
「侵害」するものといえる、というものである。
(二) そこで検討するに、著作権法九六条は「レコード製作者は、そのレ
コードを複製する権利を専有する。」と規定するところ、ここにいう「レコードを
複製する権利」とは、レコードを「有形的に再製する」(同法二条一項一五号)権
利であり、また、「専有する」とは、文字通り「専ら有する」ことを意味すること
が明らかであるから、結局のところ、著作権法九六条は、レコード製作者が、自ら
の製作に係るレコードを有形的に再製する権利を専ら有していることを規定するに
すぎないのであり、したがって、ここから導き出されるレコード製作者の権利と
は、その製作にかかるレコードを自ら自由に有形的に再製することができるととも
に、その意思に基づかずに他人が右レコードを有形的に再製することを禁止し得る
という権利であるといえる。してみると、右のようなレコード製作者の複製権を
「侵害」する行為として、同法一一二条一項による差止請求等が認められる行為と
は、レコード製作者の意思に基づかずにその製作に係るレコードを有形的に再製す
る行為にほかならないものというべきである。
(三) 他方、原告らの主張は、著作権法九六条の規定を根拠に、レコード
製作者がそのレコードの複製に関して「専有権」なるものを有するとの前提に立っ
た上で、その専有権の内容をレコードの複製を排他的に支配しその独占的販売によ
る経済的利益を確保する権利として位置付け、かつ、右のような専有権との関係で
「侵害」の成否を論じるものといえる。しかしながら、前記(二)のとおり、著作
権法九六条がレコード製作者に認めている権利は、レコードを「複製する権利」、
すなわちレコードを「有形的に再製する権利」にすぎないのであり、同条における
「専有する」との文言は、右のような権利が当該レコードの製作者に排他的に帰属
することを規定したものにすぎないことは、その文言上明らかというべきである。
原告らの主張は、権利の帰属態様が排他的であることを表す「専有する」との文言
を、あたかも権利の内容が複製に係る利益を排他的に支配するものであることを表
すかのごとく理解することを前提とするものであり、その前提において誤りがある
といわざるを得ない。
 また、原告らは、レコード製作者に複製権が認められた趣旨が「レコー
ド製作者の音源制作活動に作詞家・作曲家の音楽創作活動等に準じた創作性を認
め、レコード製作者に対し自己が製作した音源の複製に関する排他的支配権を保障
し、レコード製作者が当該音源の独占的販売による経済的利益を確保できるように
すること」にあると解されるとした上で、実質的にみて、レコード製作者の音源の
複製に関する排他的支配の状態を妨害し、その独占的販売による経済的利益の確保
を阻害する行為については、それが「複製」行為に当たらないものであっても、レ
コード製作者の複製権を侵害する行為と評価すべきである旨を主張するものである
ところ、仮に、著作権法がレコード製作者の複製権を認めた趣旨が原告らの主張す
るようなものであるとしても、著作権法がそのような趣旨を具体化するものとして
現にレコード製作者に認めたのは、あくまでも同法九六条が規定する「レコードを
複製する権利」を「専有する」ことにすぎないのであるから、右権利を侵害する行
為であるか否かは、前記のとおり、それがレコードを「複製」する行為であるか否
かによるものとするのが著作権法の採る立場なのであって、これを離れて、同条の
実質的趣旨のみを根拠に、複製権侵害行為の範囲を拡張するがごとき解釈は、法律
解釈の限界を超えるものといわざるを得ない。
(四) 以上によれば、原告らの「レコード製作者の複製権が及ぶ範囲の解
釈その一」に基づく主張は採用できない。
4 原告らが主張する「解釈その二」について
(一) 原告らが主張する「解釈その二」の要旨は、著作物等を複製する行
為を具体的な態様の側面から分析すると前記第二、四1(一)(2)⑤のアないし
カ記載の一連の行為からなるとの前提に立った上で、右一連の行為のうち、前記イ
ないしオの行為を行う者と前記カの行為を行う者とが異なる場合であっても、前者
が前記アの意思に基づいて、後者を自己の手足として利用していると認められる場
合には、前者が、自ら複製行為の実質的部分を実行しながら、後者を自己の手足と
して利用することによって、全体として一連の「複製」行為を行っていると実質的
に評価できるというものである。
 その上で、原告らは、これを被告が本件番組において本件各音源を送信
しこれを受信者がMDに録音する場合に当てはめると、被告が本件各レコードを使
用して本件各音源をサーバに収録する行為は前記イないしエの行為に、右サーバを
使用して本件各音源を無線送信する行為は前記オの行為にそれぞれ当たるから、被
告は自ら本件各音源の複製行為の実質的な部分を実行しているものといえ、また、
被告は、受信者を積極的に援助、誘引、助長等することにより、その者を自己の手
足として利用して本件各音源の物理的な録音行為を行わせているといえるから、全
体として一連の複製行為を自ら行っているものと実質的に評価できる旨を主張す
る。
(二) そこで検討するに、原告らの右主張のうち、前段の一般論を述べる
部分は首肯し得るものの、これを本件の場合に当てはめる点については、以下に述
べるとおり、是認することができない。
(1) 原告らは、被告が本件各レコードを使用して本件各音源をサーバ
に収録し、さらに右サーバを使用して本件各音源を無線送信する行為が、前記イな
いしオの行為に当たるもので、本件各音源の複製行為の実質的部分である旨主張す
るので、まず、この点につき検討する。
 前記アないしカのような一連の行為に分析される「複製」行為のう
ち、その本質的な部分が、最終的に著作物等を有体物に物理的に固定する前記カの
部分であることは明らかであり、これに対して、前記イないしオの部分は、それ自
体を独立してみれば本来的に複製行為としての性質を持つものではなく(ただし、
前記エの記録行為がそれ自体「複製」となり得る場合も考えられるが、この点はこ
こでの論点とは別個の問題である。)、これが複製行為の一部として観念され得る
のは、それが専ら前記カの有体物への固定に向けて行われるものであり、これに至
る一連の段階的な経過として評価し得るからであるといえる。しかるところ、本件
番組において、被告が本件各レコードを使用して本件各音源をサーバに収録し、さ
らに右サーバを使用して本件各音源を無線送信する行為は、本来、放送事業者がレ
コード製作者との関係においてその許諾を要せずに自由に行い得る放送行為又はこ
れに付随する準備行為として行われるものにほかならないのであって、他方、右送
信を受信した受信者がこれを録音するに至るか否かは右受信者個々人の自由意思に
係る不確定の事項なのであるから(しかも、本件においては、右送信にかかる音源
の大部分が受信者によって現に録音されているという具体的な事実を認めることも
できない。)、結局のところ、被告の右行為は、専ら受信者による本件各音源の録
音に向けて行われるものとはいえず、これに至る一連の段階的な経過として評価し
得るものではない。なるほど、受信者による録音が現に行われた場合のみを前提と
すれば、被告による前記のような行為が受信者による録音を招来させたという関係
が認められるものといえるが、前記のとおり、右のような事態は、被告の右行為に
よる必然的な経過として生じるものではなく、受信者個々人の自由意思に基づく選
択によって結果的に生じるものにすぎないのであるから、このことによって、被告
の右行為が一般的に専ら受信者による録音に向けられたものであるといえないこと
は明らかである。
 したがって、被告による前記の行為が本件各音源の複製行為の実質的
部分である旨の原告らの主張は失当である。
(2) さらに、原告らは、被告が受信者を自己の手足として利用して、
本件各音源の物理的な録音行為を行わせている旨主張するので、この点につき検討
する。
 一般に、ある行為の直接的な行為主体でない者であっても、その者
が、当該行為の直接的な行為主体を「自己の手足として利用して右行為を行わせて
いる」と評価し得る程度に、その行為を管理・支配しているという関係が認められ
る場合には、その直接的な行為主体でない者を当該行為の実質的な行為主体である
と法的に評価し、当該行為についての責任を負担させることも認め得るものという
ことができるところ、原告らの前記(一)前段の主張も、右のような一般論を著作
権法の「複製」行為の場合に当てはめるものとして理解する限りにおいて、これを
是認することができる。
 そして、被告が本件番組において本件各音源を送信しこれを受信者が
MDに録音する場合における、被告と受信者との間の関係をみると、被告と受信者
との間には、被告がその送信に係る本件番組の受信を受信者に許諾し、これに対し
て受信者が一定の受信料を支払うという契約関係が存するのみで、受信された音源
の録音に関しては何らの合意もなく、受信者が録音を行うか否かは、専ら当該受信
者がその自由意思に基づいて決定し、自ら任意に録音のための機器を準備した上で
行われるものであって、被告が受信者の右決定をコントロールし得るものではない
ことからすれば、被告が受信者を自己の手足として利用して本件各音源のMDへの
録音を行わせていると評価しうる程度に、被告が受信者による録音行為を管理・支
配しているという関係が認められないことは明らかである。
 原告らは、被告が本件番組における本件各音源の送信に当たって、①
「FAX BOXサービス」及び「サウンドナビ機能」(前記第二、四1(一)
(3)①)を提供し、②多数のチャンネルを音楽ジャンルごとに細分化し、③解説
やトーク等を入れることなくそのままフルサイズで、④反復継続して、⑤デジタル
方式で送信していることをとらえ、受信者の欲望を殊更にかき立て、自己の手足と
して利用して本件各音源の録音行為を実行させている旨主張するが、原告らが指摘
する右のような本件番組のサービスの形態は、受信者による音源の録音に便宜を与
えることになるという意味において、原告らが主張するとおり右録音を誘引、助長
する面があることは否定できないものの、これによって、右録音を行うか否かにつ
いての受信者の自由意思が排除されるものではないから、被告が受信者を自己の手
足として利用しているといえるだけの管理・支配の関係をもたらすものとはいえな
い。
 そもそも、原告らの主張の趣旨は、被告と受信者との間に右のような
管理・支配の関係がないとしても、被告が、受信者による録音を右のように積極的
に誘引、助長しながら本件番組の送信を行い、その結果受信者による本件各音源の
録音を招来させ、これによって自己の営業上の利益を図り、他方で原告らのレコー
ド販売による経済的利益を害しているという事情からすれば、実質的にみて、受信
者を自己の手足として利用して本件各音源の録音を行わせていると評価できる、と
いうところにあると思われる。しかしながら、原告らが指摘する右のような事情
は、本件番組のサービスの実情に照らし、商業用レコードの利用をめぐって原告ら
と被告との間に実質的な利益の不均衡が生じていることを示すものとして理解し得
るとしても、そのことによって、被告が受信者を自己の手足として利用していると
して、録音の直接的な行為主体ではない被告をその行為主体であると擬制するとい
う結論を導き出す原告らの立論には、論理の飛躍があるというべきであり、法理論
的な裏付けを欠く主張というほかはない。
 したがって、被告が受信者を自己の手足として利用して、本件各音源
の物理的な録音行為を行わせている旨の原告らの主張も理由がない。
(三) 以上によれば、原告らの「レコード製作者の複製権が及ぶ範囲の解
釈その二」に基づく主張も採用できない。
5 以上のとおり、原告らの「レコード製作者の複製権が及ぶ範囲の解釈その
一」及び「同その二」のいずれの主張によっても、受信者による本件各音源のMD
への録音に関し、被告が原告らの本件各レコードについての複製権を侵害している
ことを認めることはできない。
二 争点2(本件各音源の保有サーバへの収録に係る複製権侵害の成否)につい

1 被告が、本件番組において本件各音源を送信するに当たって、本件各音源
についての音楽データを保有サーバに収録する行為が、本件各レコードの「複製」
に当たることは明らかである。
2 著作権法一〇二条一項により準用される同法四四条一項の適用の可否
(一) 本件番組の送信が著作権法上の「放送」に当たるか否かについて
(1) 著作権法は、二条一項七号の二において「公衆によって直接受信
されることを目的として無線通信又は有線電気通信(有線電気通信設備で、その一
の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者
の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる
送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)の送信を行うこと」をもっ
て「公衆送信」とした上で、同項八号において「放送」を「公衆送信のうち、公衆
によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送
信」と定義しているところ、本件番組の各チャンネルにおける送信が、その態様
(前記第二、一3(二))に照らし、公衆によって直接同一の内容の送信が同時に
受信されることを目的として行う無線通信の送信であることは明らかであるから、
本件番組の送信は、著作権法二条一項八号の「放送」の定義に当てはまるものであ
り、したがって、同法四四条一項所定の「放送」にも当然該当するものというべき
である。
(2) 原告らは、著作権法一〇二条一項によって準用される同法四四条
一項が本来複製に該当する「放送」のための一時的な録音を許容しているのは、レ
コード製作者と共存共栄関係にある公共的性格を有する放送事業者がアナログ方式
により付随的に商業用レコードを使用して放送を行う場合を前提としているのであ
るから、そのサービス形態からみて右のような前提が妥当しない本件番組について
は、同法四四条一項にいう「放送」とはいえない旨主張する。
 しかしながら、著作権法は、昭和四五年の制定時から、「放送」につ
いて、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行うこ
と」との定義規定を置き(平成九年法律第八六号による改正前の著作権法二条一項
八号)、右のような「放送」との関係でレコード製作者の複製権を制限する規定
(著作権法一〇二条一項、四四条一項)を設けており、その後、平成九年法律第八
六号による改正において、自動公衆送信に関する送信可能化権の新設に伴って、
「自動公衆送信」、「放送」、「有線放送」及びこれらの上位概念である「公衆送
信」についての定義規定が改めて整備されるに当たっても、「放送」については、
前記(1)記載のとおりの定義規定を置き、右のような「放送」との関係でレコー
ド製作者の複製権を制限する前記規定をそのまま維持しているのである。このよう
な著作権法の「放送」についての規定形式からすると、仮に、立法に当たって、原
告らが主張するような態様の放送が想定されていた事実があるとしても、結局のと
ころ、著作権法は、「放送」に当たるか否かについての基準を、その定義規定に明
示された送受信の態様の点のみに求める立場を採ったものというべきであるから、
原告らが主張するような事情が妥当するか否かによって、「放送」に当たるか否か
の結論が左右されると解するのは相当でない。著作権法における「放送」に当たる
か否かついては、前記のような規定形式からして、その定義規定に明示された送受
信の態様のみによって判断すべきものとされていることが一義的に明確であるとい
えるから、これに当てはまるものは著作権法上の「放送」に当たるといわざるを得
ない。そして、本件番組の送信が右定義規定に当てはまることは前記(1)のとお
りであるから、原告らが主張する本件番組におけるサービスの実態(前記第二、四
1(一)(3)①)にかかわらず、本件番組の送信は著作権法上の「放送」に当た
るというべきであり、原告らの前記主張は理由がない。
(3) また、原告らは、著作権法二条一項八号の「放送」の定義規定と
の関係について、同号における「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信され
ることを目的として行う」とは、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信され
ることのみを目的として行うことを意味するとの前提に立ち、本件番組のように、
多数の契約受信者が本件各音源の同等品を取得するに至ることを認識、認容しなが
ら、これにより営業上の利益を得ることを意図して、これらの契約受信者による本
件各音源の同等品の取得行為を惹起し、かつ、営業上の利益を得ている場合には、
公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることのみを目的としているとは
いえないから、本件番組は右「放送」の定義規定に該当しない旨主張する。
 しかしながら、前記(2)記載のとおり、著作権法の「放送」につい
ての規定形式からすると、著作権法が「放送」に当たるか否かの判断基準をその定
義規定(同法二条一項八号)に明示された送受信の態様のみに求めていることは一
義的に明らかである。右送受信の態様とは無関係な、放送行為者の意図やサービス
の実態によって「放送」の範囲を限定する原告らの主張は、明らかに文理解釈の限
界を超えるものであって、採用できない。
(二) 本件番組における音楽データの保有サーバへの収録が「放送のため
の一時的な録音」に当たるか否かについて
(1) 著作権法一〇二条一項によって準用される同法四四条一項におけ
る「放送のために」「一時的に録音」するとの要件がいかなる場合を意味するかに
ついては、とりわけ「一時的」なる文言に多義的な解釈の可能性があることからす
ると、右文言自体から一義的に明確であるとはいえないから、その解釈に当たって
は、同条項が設けられた趣旨を考慮する必要があるというべきある。そこで考察す
るに、同条項が放送事業者による放送のためのレコードの一時的な録音をレコード
製作者の複製権を侵害しないものとして認めた趣旨は、本来レコードを用いた放送
はレコード製作者の許諾を要せず自由に行い得るものとされるところ(ただし、商
業用レコードを用いた放送については、レコード製作者への二次使用料支払義務が
生じる。)、他方において、放送が一般的に放送対象物の録音物・録画物によって
行われることが通常であることから、具体的な放送に通常必要とされる範囲内での
レコードの録音行為は、その放送自体が自由に行い得るのと同様の意味において、
これを自由なものとして認めることにあるものと解される。したがって、同条項に
おけるレコードの「放送のための一時的な録音」に当たるか否かを判断するに当た
っては、当該録音が、その目的とされる放送の実態に照らし、具体的な放送に通常
必要とされる範囲内のものか否かという観点から考察すべきものである。
(2) 乙第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が本件番組におけ
る音楽データを保有サーバに収録するに当たっては、次のような運用がなされてい
ることが認められる。
① 本件番組で放送される曲目は、放送予定週のおおむね一か月ないし
一か月半前に決定し(ただし、新譜については、直前に放送予定を決める場合もあ
る。)、現に保有サーバに収録されている曲でないものについては、右のように放
送予定を具体的に決定した後に、放送予定週の直前の金曜日までに、保有サーバへ
の収録を行う。
② 保有サーバの容量は、一テラバイトであり、一曲五分とすると約一
〇万曲分に相当する音楽データを収録することができるが、実際には、右容量を限
界まで使用することはなく、四万曲から七万曲程度の収録にとどめている。
③ 保有サーバにリンクされたコンピュータには、削除する曲を検索す
るためのプログラムが設定されており、一定の日付けを入力することによって、最
終放送日がその日以前である曲を検索し、これらを一括して消去できるシステムと
なっている。
④ 毎週の番組内容の変更のため、保有サーバに新たな曲の音楽データ
を収録するに当たっては、前記②の容量との関係で、既存の音楽データを消去する
必要があり、前記③のシステムによって、現にその週に放送中の曲と具体的な放送
予定が決まっている曲を除いて、最後に放送された日が古い曲から順に、必要な曲
数分を消去する。
⑤ 平成一〇年八月末からは、少なくとも三週間おきに保有サーバをチ
ェックし、前記③のシステムによって、最後に放送された日が三か月より前の曲を
検索し、これらを一括して消去している。
(3)① 右のような運用の実態からすると、本件番組における音楽デー
タの保有サーバへの収録は、特定の具体的な放送予定を前提として初めて行われる
ものであり、また、保有サーバに収録される総曲数が限定され、放送されない曲は
いずれは消去されるという運用システムの下で行われるものであるから、具体的な
放送上の必要に応じ、その必要性の範囲内において行われているものということが
できる。
 右システムの下においても、頻繁に放送されることになる曲につい
ては、特定の放送が終了しても消去されないまま次の放送のために蓄積が継続する
事態も生じ得るが、それは具体的な放送予定が反復して入ることによって結果的に
生じる事態にすぎないのであるから、これも具体的な放送上の必要性の範囲内のも
のにほかならないのであり、また、このような事態が結果的に生じるからといっ
て、運用システム自体が音楽データを長期間継続的に蓄積することを本来的に予定
したものということはできない。
 したがって、本件番組における音楽データの保有サーバへの収録
は、その運用の実態に照らし、それがいずれ消去されることが予定されたシステム
の下における収録であるという意味において「一時的」なものといえるものであ
り、また、具体的な放送に通常必要とされる範囲内において行われるものであるか
ら、著作権法一〇二条一項によって準用される同法四四条一項における「放送のた
めの一時的な録音」に当たると認められる。
② 原告らは、著作権法四四条一項にいう「放送のための」録音とは、
具体的に特定された放送番組のためにのみ使用することを目的とする録音を意味す
ると解すべきところ、本件番組における音楽データの保有サーバへの収録は、具体
的に特定された放送番組を契機にそのために使用することを一応の目的として行わ
れるものの、右録音物を他の放送番組のために将来再度使用することをも目的とし
て併有するものであるから、「放送のための」録音とはいえない旨主張する。
 しかしながら、前記のとおり、本件番組における音楽データの保有
サーバへの蓄積は、具体的な放送予定を前提として初めて行われるもので、かつ、
具体的な放送上の必要性がなければ消去されることを本来的に予定したものという
べきであり、複数のチャンネルで繰り返し放送されることになり、その間蓄積が継
続する曲があるにしても、そのような事態は、その後の放送予定次第によって結果
的に生じることであり、蓄積時に確定していることではない。そして、曲によって
は、そのような事態が収録の当初から予想される場合も考えられるが、だからとい
って、一般的に音楽データの保有サーバへの収録が、他の放送番組のために将来再
度使用することを目的としているとまではいえない。
 また、複数回の放送に使用することを予定したものであることを理
由に、直ちに当該収録が「放送のための」録音に当たらないものと解すべき根拠は
なく、むしろ、著作権法四四条三項が、同法四四条一項の録音又は録画がその後の
保存の継続によって違法となる場合を規定するに当たって、録音又は録画から六か
月以内に当該録音物又は録画物を用いた放送があった場合には、その放送の時から
さらに六か月以内は、右録音物又は録画物をなお放送のために保存することも結果
的に違法にならないものとして認めていることからすれば、著作権法四四条は、一
度の放送によって消去されることなく、その後の放送において再び使用されること
を予定した録音又は録画であっても、「放送のための一時的な録音又は録画」とし
て許容され得ることを前提にしているものということができる。加えて、仮に、複
数回の放送に使用することを予定した蓄積が「放送のための」録音に当たらないと
の立場に立つとすると、本件番組のような音楽放送を行う放送事業者としては、レ
コードの違法な複製となることを回避するために、複数回の放送に使用することが
具体的に予定されている曲であっても、個々の放送予定が終了する都度これを消去
し、次の放送のために再びこれを収録することを繰り返さざるを得ないことになる
が、このような事態は、放送事業者に煩雑な事務負担を強いることになる反面、こ
れによって、レコード製作者に格別の利益をもたらすという関係も認められないの
であって、社会的・経済的にみて不合理な結果を招来させるだけである。したがっ
て、本件番組における音楽データの収録が複数回の放送に使用されることを予定し
たものであるとしても、それが「放送のための」録音であることを否定する理由に
はならないというべきである。
 以上によれば、原告らの前記主張は理由がない。
③ さらに、原告らは、著作権法四四条一項にいう「一時的」な録音と
は、録音物を具体的に特定された放送番組のために使用した後に、当該放送におけ
る使用の実態に即して必要かつ相当な期間内に廃棄することを予定して録音を行う
ことを意味し、かつ、右期間については同条三項で六か月を超えないことが明らか
にされているところ、本件番組における音楽データの保有サーバへの収録は、その
システム構成上収録した音源がその収録ないし放送後六か月以内に消去されるよう
には設計されていないから、「一時的」な録音には当たらない旨主張する。
 しかしながら、著作権法四四条三項は、同条一項の「一時的」な録
音に当たるものが、その後の蓄積の継続によって事後的に違法となる場合を規定し
たものであるから、録音物が同法四四条三項の期間内に消去されるシステムを採用
することが、同条一項の「一時的」な録音に当たるための要件になるという必然的
な関係は認められない。かえって、同条三項が具体的な蓄積期間を明示して、違法
となる場合を規定するのに対し、同条一項が具体的な蓄積期間を明示することな
く、単に録音が「一時的」なものであることのみを規定していることからすれば、
同条一項においては、予定される具体的な蓄積期間が想定されていないというべき
であり、前記のとおり、いずれ消去されることが予定されたシステムの下における
収録であるという意味において「一時的」なものと評価することができ、かつ、具
体的な放送に通常必要とされる範囲内において行われるものであれば、同条一項に
いう「一時的」な録音に当たると解することができるというべきである。そして、
このように解したとしても、結果的に同条三項の期間を超える長期の録音に当たる
ものであれば、同条項の適用によって違法とされることになるのであるから、レコ
ード製作者の権利保護に欠けるものとはいえない。
 したがって、本件番組における音楽データの保有サーバへの収録
が、前記のようなシステム設計になっていないとの理由によって、同条一項の「一
時的」な録音に当たらないとする原告らの主張は理由がない。
 なお、当然のことながら、原告らが複製権侵害として具体的に主張
する本件各音源の保有サーバへの蓄積期間が結果的に録音又は最後の放送の日から
六か月を超えるものであれば、同法四四条三項の適用により、当該録音が事後的に
違法とされることになるが、本件各音源の保有サーバへの収録に関し、原告らは、
右条項の適用を具体的に主張するものではなく、また、これらの蓄積期間が右条項
の期間を超えていることを認めるに足りる証拠もないから、本件において、右条項
が適用されるものではない。
(三) 以上を総合すれば、被告が本件番組において本件各音源を公衆に送
信するに当たって、本件各音源に係る音楽データを保有サーバに蓄積する行為は、
放送事業者が、本件各レコードを、自己の放送のために、自己の手段により(前記
第二、一3(二)(3))、一時的に録音する行為であるといえるから、著作権法
一〇二条一項によって準用される同法四四条一項が適用され、原告らの本件各レコ
ードについてのレコード製作者としての複製権を侵害するものとはいえない。
三 なお、本件の特質にかんがみ特に付言するに、本件における原告らの主張
(とりわけ、争点1における主張)の趣旨は、本件番組の公衆送信がその実態から
みて、著作権法がおよそ想定していない新しい形態のものであるが故に、これに著
作権法の規定をそのまま当てはめると、レコード製作者である原告らの利益を不当
に侵害し、その犠牲の下で本件番組を運営する被告に不当な利益をもたらすという
実質的な利益の不均衡を生じさせることになるから、このような結果を生じさせな
いように、著作権法を実質的に解釈すべきであるというものであると思われる。
 しかしながら、当裁判所としては、著作権法の解釈論としては、前記のとお
りの結論を採るのが相当であると考える。なるほど、原告らが主張するような本件
番組の公衆送信の実態を前提とすれば、現状において、原告らと被告との間に、実
質的な利益の不均衡が生じているとの原告らの主張も理解し得ないではないが、こ
の点を著作権法の解釈に反映させようとする原告らの本件における主張は、法律の
解釈論の枠を超えるものといわざる得ない。あえていえば、右のような実質的利益
の不均衡を問題とする議論は、立法論として、又は、著作権法九七条に基づく二次
使用料の額の決定のための協議を行う際や文化庁長官による裁定を求める際に、主
張されるべきことというほかはない。
 四 結論
   以上によれば、被告が原告らの著作隣接権(レコード製作者としての複製
権)を侵害している旨の原告らの主張は、いずれもこれを認めることができないか
ら、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求は理由がない。
   よって、主文のとおり判決する。
   東京地方裁判所民事第四六部
   裁判長裁判官  三  村  量  一
裁判官 中  吉  徹  郎
 裁判官大西勝滋は、転任のため署名押印できない。
   裁判長裁判官  三  村  量  一

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