弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が建築基準法四二条二項に基づき昭和五二年五月二一日にした別紙図面
一、二記載の道の指定処分(赤斜線部分)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 1本案前の答弁
(一) 本件訴えを却下する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は磐田市長の申請により、昭和五二年五月二一日、建築基準法四二条二項
に基づき、別紙図面一、二記載の赤斜線部分及び青斜線部分に道の指定処分(以下
「本件道指定処分」という。)をした。
2 本件道指定処分は以下の点で違法である。
(一) 建築基準法四二条二項所定の道指定の要件の欠如
(1) 右条項所定の指定要件の存否は、右条項のある同法第三章の規定が適用さ
れた際(以下「基準時」という。)の状況で判断すべきところ、本件道指定地は大
正九年五月に都市計画区域に指定されているから、本件道指定地についての基準時
は昭和二五年一一月二三日建築基準法が施行されたときであつて、道指定要件の存
否は右時点の現況で判断すべきであるのに、被告は当時の状況を調査せず、本件道
指定処分のなされた時点の状態で判断している。
(2) 右条項所定の「道」というためには、一般通行の用に供されていたことを
要するところ、本件道指定地の一画はAの屋敷跡で、昭和二五年当時は竹材の置き
場として利用されていたのであつて、当時の居住者達は特定した通路を通つていた
のではなく、随時空地を通行していたにすぎず、その通行も昭和三七年頃には一般
人の通行を禁止するように門扉が設けられたことからみても、一般人が通行しうる
状態からは程遠いといえる。
また、「道」というためには、道としての形態が整い、道としての敷地が確定して
いるだけでなく、中心線が明確でなければならないところ、本件道指定地はこれら
の要件を満たしておらず、到底「道」とはいえない。
(3) 仮に「道」といえるものが存在したとしても、B宅前の道は基準時当時畔
道程度の道で、幅員が一・八メートルを満たしていないし、建築審査会の同意も得
ていないから、右部分についての指定は無効である。
(4) 基準時に、本件道指定地付近に存在した建築物はC宅とB宅のみであると
ころ、本件道指定時にはCは他に引越しており、このような場合C宅は考慮に入れ
るべきでないと解されるから、結局、基準時における建築物はB宅のみとなるし、
仮に、C宅を考慮に入れたとしても、本件道指定地の一画が前記のようにAの屋敷
内であつたことを考慮すれば、「立ち並んでいる」とはいえない。
(二) 振り分け(道路の境界線の引き方)の瑕疵
建築基準法四二条二項の道指定がなされた場合、中心線からそれぞれ水平距離二メ
ートルの線がみなし道路の境界線となるべきところ、別紙図面一の原告所有の駐車
場の東側部分においては、原告所有の土地側にのみ境界線が引かれており、このよ
うな振り分けは同項但書に該当するような特段の事由の存しない本件道については
違法である。
(三) 本件道指定処分の公告の瑕疵
本件道指定処分は建築基準法四二条二項としての処分であるにもかかわらず、静岡
県公報(昭和五二年七月一二日第八九七一号)に登載の公告の標題は「建築基準法
(昭和二五年法律二〇一号)第四二条第一項第五号の規定により、道路の位置を次
のとおり指定した。」となつているし、道路位置の記載に磐田市<地名略>が欠落
しており、また道指定部分を特定するに足りる記載がない。
3 原告は本件道指定処分を受けた土地のうち、磐田市<地名略>(以下、同字の
土地については地番のみをもつて表示する。) 宅地一八二・一四平方メートル、
<地名略> 宅地三二・六一平方メートル、<地名略> 宅地三二・八六平方メー
トルを所有しているが、本件道指定処分により別紙図面一の緑色部分につき建築物
等の建築を制限される。
4 原告は昭和五二年八月三〇日静岡県建築審査会に対し、審査請求の申立てをし
たが、昭和五四年二月九日本件道指定処分のうち<地名略>にかかる部分は取り消
し、その余の部分は棄却するとの裁決をした。
5 よつて、原告は被告に対し、本件道指定処分の取消しを求める。
二 本案前の抗弁
1 建築基準法四二条二項に基づく道の指定は、特定行政庁が一方的に行なう確認
行為であり、右指定によるみなし道路の範囲内の土地についてその所有者は、将
来、建物を建築する際に建築制限を受けるけれども、右制限については建物建築段
階において事件としての成熟性を生ずるものとして争わせれば足りるのであつて、
現段階で抗告訴訟の対象とする必要はない。
2 また、仮に、原告の請求どおり本件道指定処分を取り消せば、原告は本件道に
沿つた土地を建築物の敷地として利用することができない(建築基準法四三条)こ
とになるのであるから、本件道指定処分により原告所有の土地の一部に建築物の建
築制限を受けることを理由とする訴えの利益に関する原告の主張は矛盾しており、
結局、訴えの利益はないものというベきである。
三 本案前の抗弁に対する原告の反論
1 建築基準法四二条二項による道指定は大都市においては一括指定が行なわれて
いるが、静岡県においては申請に基づく個別指定を認めており、本件道指定処分も
磐田市長の申請による個別指定である。
2 同法四二条二項による道指定を受けると、建築物の建築や擁壁の築造が禁止さ
れ(同法四四条一項本文)、その変更、廃止も制限され(同法四五条一項)、所有
権に対する重要な制限を受けることとなり、しかも土地所有者の受ける右不利益は
具体的現実的なものであるから、原告は本件道指定処分の取消しを求める訴えの利
益を有する。
四 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1項の事実は認める。但し、指定した道は正確には、原告主張の部分
のうち幅員四メートル未満の部分に限るというべきである。
2 同2項冒頭の主張は争う。本件道指定処分は、請求原因4項記載の裁決によつ
て取り消された<地名略>以外の部分については、道指定の要件にすべて合致して
おり適法である。すなわち、建築基準法施行日当時、<地名略>、<地名略>、<
地名略>、<地名略>及び<地名略>には建築物が立ち並んだ一般通行の用に供さ
れている幅員一・八メートル以上の道が存在したものである。
(一) 同項(一)(1)の事実中、建築基準法四二条二項の道指定要件の存否は
原告主張の基準時の現況で判断すべきであることは認めるか、その余は否認する。
同項(一)(2)の事実中、建築基準法四二条二項の「道」というためには一般通
行の用に供されていたことが必要であること、昭和二五年当時<地名略>、<地名
略>、<地名略>にまたがつて竹置場があつたこと及びその後、<地名略>の県道
に接する地点に門扉が設けられたことは認めるが、その余は否認する。右竹置場に
沿つて垣根、溝又は草花によつて区分され、
一般通行の用に供されている幅員一・八メートル以上の道が存在した。道の中心線
が明確であることは必要でなく、道としての形態が存在すれば自ら中心線があるこ
とになるのである。同項(一)(3)の事実は否認する。同項(一)(4)の事実
は否認する。基準時に、本件道指定地の北側にB、C及びDの少くとも三戸の建築
物があつたので、現に建築物が立ち並んでいる状況にあつたといえる。
(二) 同項(二)の主張は争う。道の指定によつて指定するのは道そのものであ
つて、その境界線まで定めるものではない。道の指定をすればその境界線とみなさ
れるものは中心線から二メートルのところに自ら定まるもので、境界線の表示が誤
つていても道の指定の違法とはならない。
(三) 同項(三)の事実中、被告が原告主張のような公告をしたこと及び公告に
<地名略>が記載されていないことは認める。しかしながら、本件道指定処分は昭
和五二年五月二一日付の申請者磐田市長に対する指定通知書により外部的に表示さ
れ成立しているのであつて、公告上の不備は取消理由とはならない。また、<地名
略>が記載されていないのは道の指定がなされていないからである。
3 同3項の事実中、原告が主張の三筆の土地を所有していること、本件道指定処
分により建築制限の生ずることは認めるが、建築制限を受ける範囲は否認する。
4 同4項の事実は認める。但し、裁決の日は昭和五四年二月九日である。<地名
略>の部分の道は幅員一メートル未満の畔道としてその部分にかかる指定が取り消
されたのである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。
二 まず、本案前の抗弁について検討する。
被告は、本件道指定処分によつて建築制限が生ずるが、それは将来建物を建築する
段階において争わせれば足り、現段階で抗告訴訟の対象とする必要がないと主張す
るけれども、建築基準法四二条二項のいわゆるみなし道路指定であつても、一定の
基準にある道路を一括して指定する方式による場合には、一般処分として事件とし
ての成熟性を欠くといえるとしても、本件のように個別具体的に対象道路を特定し
てなされた場合には、
これによつてみなし道路の中心線から水平距離二メートルの範囲内の土地に生ずる
建築制限の効果(同法四四条一項本文)は特定の土地所有者に対して具体的に生ず
るものといえるから、事件としての成熟性に欠けるとはいえず、抗告訴訟の対象た
り得るものというべきである。
被告はまた、原告が右建築制限を受けることをもつて本件訴えの利益としているけ
れども、仮に本件道指定処分が取り消されれば建築基準法四三条により原告所有土
地には全面的に建物を建築し得なくなるのであるから、結局本件訴えは訴えの利益
を欠くと主張する。
しかしながら、確かに、本件道指定処分を取り消せば、その状態のままでは同法四
三条により原告所有土地には建物を建築することができなくなるけれども、原告に
は改めて適法な道路指定(同法四二条一項五号もしくは同条二項)を受ける等の方
法により所有土地に建物を建築しうる状態を作り出す途が残されているのであるか
ら、被告主張の右事情をもつて本件訴えが訴えの利益を欠くということはできな
い。
したがつて、被告の本案前の抗弁はいずれも採用することができない。
三 本件道指定処分の適否について検討する。
1 建築基準法四二条二項所定の道指定の要件の存否
(一) 同条項所定の道指定の要件の存否は同法三章の規定が適用されるに至つた
際(基準時)の状況で判断すべきことは右条項から明らかであり、本件道指定地に
ついての基準時が原告主張の時点(昭和二五年一一月二三日建築基準法が施行され
た時点)であることは当事者間に争いがない。
(二) 成立に争いのない甲第一号証の一、二、同第二号証の一ないし一五、乙第
四号証、同第五号証の一のうちEの陳述聴取部分、同第九号証の一ないし九、被告
主張のような写真であることに争いのない同第七号証、証人Eの証言により真正に
成立したものと認められる同第五号証の二、同証言により被告主張のような写真で
あると認められる同第三号証、証人F、同E、同G、同H(後記措信しない部分を
除く。)の各証言を総合すれば、
(1) 本件道指定地一帯は戦前から訴外Iが自己の屋敷の敷地として所有してお
り、一部宅地もあつたがほとんどは畑や竹置場となつていたところ、昭和二四年
頃、当時畑の状態であつた別紙図面一の現在J宅の存する土地な訴外Cに貸し与
え、
Cはその直後に家を建てて同年中に居住し、またIは昭和二五年一、二月頃にはや
はり畑であつたその西側の土地(同図面のB宅の存する土地)を訴外Bに貸し与
え、Bもその直後に家を建て同年七月頃には居住していた。また当時既に(昭和二
一年三月頃には)同図面のD宅の存する土地には右角田の家が存していた。
(2) そして当時Aが竹販売業を営んでいたため、同図面の駐車場と記載された
部分は一部畑もあつたがほとんどが竹置場となつており、同図面のK宅の南側及び
時節によつては同人宅の西側にも竹材を立てかけてあつたけれども、竹材を運搬す
るために通路が存しており、その通路はB宅とC宅の前(南側)を東西に走り、C
宅と角田宅の中程で南に曲がり、K宅の西側を通り、更には同人宅の南側を通つて
県道磐田天竜線に至つており、C家やB家の各家人はいずれもこの道を通行して公
道に出ていた。その道は、B宅前の中程から西の部分(<地名略>、<地名略>)
は畑の畔道で道幅は一メートルにも満たないものであつたが、B宅前の中程から東
の部分及びC宅前の部分(<地名略>、<地名略>)は当時竹屋の使用人であつた
Bの父が竹を積んで幅の広いリヤカーを引いて十分に通れる程度で道幅は約一・八
メートル存し、K宅の西側の部分(<地名略>、<地名略>、<地名略>)は自動
車が一台十分に通れる程度で道幅は約四メートル存していた。
以上のとおり認められ、前掲乙第五号証の一のうちHの陳述聴取部分及び証人Hの
証言中右認定に抵触する部分は前掲各証拠に照らしてたやすく措信できず、他に右
認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) そうすると、本件道指定地の基準時である昭和二五年一一月二三日当時、
<地名略>を除く本件道指定地には少くとも三戸の建築物が立ち並んでおり、幅員
が一・八メートル以上の一般の通行に供されていた道が存在していたものと認めら
れるから、建築基準法四二条二項所定の指定要件を満たしていたものというべく、
本件道指定処分にはこの点について違法とすべき瑕疵はない。
原告はこの点につき、昭和三七年の県道人口の門扉の設置を捉えて一般人の通行し
うる状態でないとか、本件道指定時にはCが引越していることから基準時の際の立
ち並びの建築物として考慮すべきでないと主張しているが、
基準時後の事情を基準時の状況として考慮するという右主張は到底採用の限りでな
い。
2 振り分け(道路の境界線の引き方)及び本件道指定処分の公告の瑕疵
まず、振り分けの瑕疵の点については、道の指定がなされればこれにより自動的、
客観的にその中心線から水平距離二メートルの線をもつてみなし道路の境界線と定
められるのであるから、被告のした境界線の表示がこれと異つていたとしても、そ
れは表示の誤りにすぎず、これによつて本件道指定処分が違法となるものではな
い。
また、公告の瑕疵の点については、原告主張のような公告がなされていることは当
事者間に争いがないけれども、成立に争いのない乙第二号証の一ないし四によれ
ば、本件道指定処分の申請者である磐田市長に対しては建築基準法四二条二項によ
る道の指定として通知されており、本件道指定処分は右通知により有効に成立して
いるのであつて、静岡県公報による公告の記載に不備があつたことによつて本件道
指定処分自体が違法となるものではないし、右公告の道路位置の記載から<地名略
>が欠けているのは右土地部分の幅員が四メートル以上ある(この事実は前掲乙第
二号証の四から明らかである。)から本件道指定処分o対象にならなかつたためで
あつて何ら違法の点はなく、また道指定部分の特定としても欠けるところはない。
そうすると、本件道指定処分には何ら違法とすべき点はなく、適法な処分といわざ
るを得ない。
四 よつて、本件道指定処分を違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は理
由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七
条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高瀬秀雄 松丸伸一郎 荒井 勉)
図面一、二(省略)

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