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平成20年3月27日判決言渡
平成19年(ネ)第10097号損害賠償請求控訴事件
(原審・新潟地方裁判所三条支部平成18年(ワ)第78号)
口頭弁論終結日平成20年2月19日
判決
控訴人株式会社小林工具製作所
訴訟代理人弁護士片桐敏栄
被控訴人株式会社井澤
被控訴人株式会社総通
被控訴人株式会社ウイングツーワン
被控訴人ら訴訟代理人弁護士藤田邦彦
同補佐人弁理士藤田典彦
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人株式会社井澤は,控訴人に対し,116万8266円及びこれに
対する平成18年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
3被控訴人株式会社総通は,控訴人に対し,71万9460円及びこれに対
する平成18年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
4被控訴人株式会社ウイングツーワンは,控訴人に対し,30万2630円
及びこれに対する平成18年9月21日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,意匠に係る物品を「やすり」とする原判決別紙登録意匠目録記載
の登録意匠(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権(以下「本件意匠
権」という。)を有する控訴人が,原判決別紙物件目録記載のやすり(商品
名「ダイヤモンドマルチシャープナー」。以下「被告商品」といい,その意
匠を「被告意匠」という。)を販売した被控訴人らに対し,被控訴人らの行
為が本件意匠権の侵害に当たると主張して,不法行為に基づく損害賠償を請
求した事案である。
原判決は,被告意匠は本件登録意匠と類似しないから,被控訴人らの行為
は,控訴人の本件意匠権を侵害しないとして,控訴人の請求をいずれも棄却
した。これに対して控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。
2当事者間に争いがない事実,争点及びこれに関する当事者の主張
次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1,2及
び第3(原判決2頁14行目から4頁13行目まで)に記載のとおりである
から,これを引用する。
(1)当審における控訴人の主張
ア本件登録意匠のやすりの曲がりに関し,控訴人は,本件意匠権の実施
品である控訴人の商品(商品名「ダイヤモンドシャープナー」。以下「
控訴人商品」という。)の広告において,「柄が曲がっているので使い
やすく,どんな品物にも対応出来ます。」,「柄を曲げる事により,安
全で使い易い形になっています。」(甲17)等と宣伝している。
他方,被控訴人らは,被告商品(イ号物件)の取扱説明書(甲3の
1)に,「本体の根元を曲げる位置を深くすることにより,より少ない
力で使用することができ,疲れにくく,使いやすいように改良致しまし
た。」との記載があるように,被告商品は,やすりを根元で曲げてある
ことを特徴とし,曲げる位置を深くすることにより,より使い易くした
ものである旨説明し,控訴人の上記商品を前提として,これを改良した
ものであることを認めている。
そして,本件登録意匠のやすりの柄部の折曲げは,「やすり」という
物品の性質,目的,用途,使用形態に照らして,被告商品の柄部の折曲
げと共通の特徴を有する。本件登録意匠のように「へ」の字に折曲する
か,被告商品(被告意匠)のにように2点で折曲するかに形状の違い(
原判決認定の相違点ク)はあるとしても,その違いは設計上の微差にす
ぎない。
また,意匠は斬新なものほど類似の範囲が広いというべきであるか
ら,原判決が本件登録意匠の斬新性を強調しながら,相違点クに係る形
状の相違のみをもって,被告意匠と本件登録意匠とは類似しないと判断
したのは妥当でない。
イ控訴人は,被控訴人らによる被告商品の販売の事実に気づいて,被控
訴人らに対し,被告商品は本件意匠権を侵害する違反物件である旨警告
したところ,被控訴人らは,控訴人に対し,異議を唱えることなく,違
反の事実を認めて謝罪し,以後販売しないことを誓い,被告商品の販売
を中止した(甲3の4,5,甲4,甲5の3)。そして,被控訴人ら
は,いずれも,控訴人の発売した控訴人商品を熟知した取引業者である
ことに照らすならば,被控訴人らが控訴人の警告を受けて被告商品の販
売を中止したことは,「やすり」の取引業者において,本件登録意匠と
被告商品(被告意匠)が同一又は類似するとの理解があったというべき
である。さらに,一般の需要者においては,両意匠の形状は同一である
と解し,その違いに気づかないというべきである。
ウ以上の諸点によれば,被告意匠は本件登録意匠と類似する。
(2)被控訴人らの反論
ア「ヘ」字状折曲部(相違点クに係る本件登録意匠の構成態様)は,従
来にない斬新な特徴であり,本件登録意匠の特徴をよく表し,公知意匠
にはない新規な創作部分であるから,「ヘ」字状折曲部が本件登録意匠
の要部であり,要部において相違する本件登録意匠と被告意匠は類似し
ない。
また,本件登録意匠と被告意匠は,形態の違いだけでなく,形態の違
いに起因して,機能,使用形態においても相違する。
すなわち,本件登録意匠は,「ヘ」字状の折曲であるため,柄部を把
持してやすりを前方に押し出した際,被加工物とやすりとの接点が柄部
の延長線から大きく離れ,被加工物に対する押圧力の反力が,柄部に大
きな回転モーメントとして作用する。そのため,作業者は,回転モーメ
ントに打ち勝つように先方を下に押し下げるように柄部に力を入れなが
ら,前方に押し出す必要がある。これに対し被告意匠は,「クランク状
の折曲」形状であり,被加工物とやすりの接点が柄部の延長線に近いた
め,本件登録意匠のように大きな回転モーメントが作用せず,作業者は
やすりを前後方向に移動させる作業に注意を集中させることができる。
被告意匠は,第2の折曲によってやすりの先方がわずかに上方を向いて
いるため,柄部の延長線上で被加工物とやすりを接触させ,より少ない
力で使用することができ,疲れにくく,使い易いものとすることができ
る。
以上のとおり,本件登録意匠と被告意匠は,意匠上の要部において相
違し,また,要部である形状の違いによって機能的にも相違するから,
両意匠は類似しない。
イなお,控訴人は,当初被控訴人らが,控訴人の警告に異議を唱えず,
被告商品の販売を中止した点を,本件意匠権侵害の根拠として主張する
が,被控訴人らの行動は,単に専門的な知識がなかったためであり,控
訴人の非難は失当である。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,被告意匠は本件登録意匠と類似せず,控訴人の本訴請求は理
由がないと判断する。
その理由は,次のとおり,訂正付加するほか,原判決の「事実及び理由」
欄の「第4当裁判所の判断」の1(原判決4頁15行目から8頁9行目ま
で)に記載のとおりであるから,これを引用する。
1原判決の訂正
(1)原判決4頁17行目の「証拠(鑑定,検甲1,2)及び争いのない事
実」を「証拠(甲1の2,甲10,検甲2)」と改める。
(2)原判決4頁22行目から25行目までを削る。
(3)原判決7頁11行目の「差異点ク」を「相違点ク」と改め,同11行
の「,証拠(鑑定)によれば」を削除する。
(4)原判決8頁2行目の「,証拠(鑑定)によれば」を削除し,同2行の「
差異点ケ,コ」を「相違点ケ,コ」と改める。
2当審における控訴人の主張に対する判断
(1)控訴人は,本件登録意匠のやすりの柄部の折曲げは,「やすり」という
物品の性質,目的,用途,使用形態に照らして,被告商品の柄部の折曲げ
と共通の特徴を有し,本件登録意匠のように「へ」の字に折曲するか,被
告商品(被告意匠)のように2点で折曲するかに形状の違い(原判決認定
の相違点ク)はあるとしても,その違いは設計上の微差にすぎず,それの
みをもって両意匠は類似しないと判断することは妥当でない旨主張する。
しかし,控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。
ア本件登録意匠(甲1の2)と被告意匠(甲10)とを対比すると,前
記引用に係る原判決認定のとおり,本件登録意匠のやすり部は,柄の前
端部近くで折曲され,全体として平面視略「へ」字状を形成しているの
に対し,被告意匠のやすり部は,柄の前端部近くと柄からやや離れた位
置の2か所で折曲され,平面視略クランク状を呈する態様に形成されて
いる点で差異(相違点ク)がある。
そして,被加工物の表面を平らに削ったり,角落しなどに用いる工具
である「やすり」において,需要者は,やすり部の形状に着目すること
に照らすならば,両意匠のやすり部の折曲部の上記構成態様は,需要者
が最も注目を引く意匠の構成部分(要部)であるといえる。
本件登録意匠において,全体として平面視略「へ」字状の折曲部を備
えた構成態様は,創作的工夫がされた斬新な形態であり,需要者に対し
て視覚を通じて独自の美感を与える,本件登録意匠の特徴的部分である
といえる。これに対して,被告意匠において,折曲部の構成態様は,2
か所で折曲され,平面視略クランク状の形態を有するものであり,本件
登録意匠の上記特徴的部分を有しない点において大きく異なり,需要者
の視覚を通じて与える美感(印象)も異なる。
確かに,両意匠においては,基本的な構成態様における共通点(「ア
全体がやすり部と柄からなる。」点及び「イやすり部について,正
面視を略細長二等辺三角形状とし,柄の前端部近くで折曲され,やすり
部が柄に対して傾斜して設けられている。」点),及び具体的態様にお
ける共通点(「ウやすり部の二等辺三角形状について,高さを底辺の
略6倍としている。」点,「エやすり部の先端にわずかな丸みを持た
せている。」点,「オやすり部の形状について,正面側を弧状曲面と
し,背面側を平面としている。」点,「カやすり部と柄との間には歯
付けのない部分が形成されている。」点,「キ柄については,後端部
の幅を漸次狭くするとともに,後端部を略半円状に形成したものであ
り,やすり部からの延長部分を2枚の板状体で挟み,2か所でかしめ,
後端部付近に貫通孔を形成した。」点)が存在するが,それらの共通点
はいずれも,需要者に対して与える美感の点では,さほど強い印象を与
える要素ということはできない。
そうすると,両意匠は,最も強い印象を与える,相違点クによって,
全体として類似しないというべきである。
イ上記アの認定事実に照らすならば,両意匠のやすり部の折曲部の構成
態様に係る相違点クは,設計上の微差にすぎないとの控訴人の主張は,
採用することができない。また,相違点クに係る形状の相違のみをもっ
て,被告意匠と本件登録意匠と類似しないと判断することは妥当でない
とする控訴人の主張も採用することができない。
(2)控訴人は,「やすり」の取引業者である被控訴人らが,控訴人の警告を
受けて被告商品の販売を中止したことは,取引業者において,被告意匠と
本件登録意匠が同一又は類似するとの理解があったことにほかならず,ま
して,一般の需要者であれば,両意匠の形状は同一であると解し,その違
いに気づかないから,両意匠は類似する旨主張する。
しかし,被控訴人らは本訴において両意匠が類似するとの控訴人の主張
を一貫して争っていることに照らしても,被控訴人らが控訴人の警告を受
けて被告商品の販売を中止した経緯があるからといって,取引者におい
て,両意匠が類似するとの共通した理解があるということはできない。ま
た,本件登録意匠(甲1の2)と被告意匠(甲10)とを対比すると,両
意匠に相違点クがあり,両意匠の形状が異なることは一見して明らかであ
り,一般の需要者は,両意匠の形状の違いに気づかないとの控訴人の主張
も採用することができない。
以上のとおり,被告意匠は本件登録意匠とは類似しない。
3結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本訴請
求はいずれも理由がない。
よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄
却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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