弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告補助参加代理人本山亨、同岩瀬三郎、同四橋善美、同那須国宏の上告理由第
一点一及び第二点について
 第一審判決と付加訂正のうえこれを引用した原判決の判示によれば、本件の争点
に関する原審の判断内容は十分理解することができ、所論の指摘する用語の不統一
等は、いずれも明白な誤記と認められる。また、原判決が上告補助参加人の原審に
おける主張について判断していることは、その判文上明らかである。それゆえ、原
判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第一点二、第三点及び第四点について
 論旨は、要するに、本件自由出演契約のもとにおける上告補助参加人会社(以下
「会社」という。)の放送管弦楽団員(以下「楽団員」という。)は独立の事業者
とみるべきであるにもかかわらず、原判決が、これを会社の雇用する労働者にあた
るとして、楽団員の組織する被上告人組合と会社との間に労働組合法七条二号の不
当労働行為が成立しうると判断したのは、同条及び憲法二八条の解釈適用を誤り、
かつ、理由不備、理由齟齬、審理不尽の違法をおかしたものである、というのであ
る。
 ところで、会社と楽団員との関係について原審の認定するところは、大要次のと
おりである。
 (一) 放送事業を目的とする会社は、昭和二六年、会社の放送及び放送付帯業務
に出演させるためにD管弦楽団をつくり、楽団員と放送出演契約を締結した。その
契約は、当初は、「専属出演契約」といわれるものであつて、これによると、(1)
 契約期間(一年。ただし更新される。)中、楽団員は、会社が指定する日時、場
所、番組内容等に従つて会社の放送及び放送付帯業務に出演する義務を負うととも
に、会社以外の放送及び放送関係業務に出演すること(以下「他社出演」という。)
を禁止され、(2) その出演報酬として、会社から楽団員に対し、毎月、保障出演
料(会社が月間の標準出演時間を指定し、現実の出演時間がこれに達すると否とを
問わずに支払われる出演料)と超過出演料(右標準出演時間を超えて出演したとき
に一時間単位で支払われる出演料)が支払われるが、(3) 契約期間中であつても、
正当な理由があるときは一か月の予告期間をおき、また契約違反があるときは直ち
に、両当事者において契約を解除することができるものとされていた(ただし、右
正当理由による解除の規定は当初はなかつた。)。そして、楽団員には芸能員就業
規則が適用され、保健衛生や災害補償等について会社の一般従業員に準ずる取扱が
されていた。
 (二) 右契約は一年ごとに更新されていたところ、昭和三九年に至り、「優先出
演契約」なるものに改められ、これによつて、(1) 楽団員の他社出演等は自由と
なつたが、会社から出演発注があつたときは、楽団員は指定された番組に優先的に
出演する義務を負うものとされ、(2) 出演報酬及び契約解除については従前と変
らず、また、(3) 楽団員に対する芸能員就業規則の適用はないことになつた。
 (三) その後間もなく、会社は、楽団員との関係を更に「自由出演契約」なるも
のに切り替えることとし、昭和四〇年一〇月までの間に楽団員全員と右契約を結ん
だ。この契約においては、(1) 楽団員の他社出演等は自由であり、楽団員が会社
からの出演発注を断わることも文言上は禁止されておらず、(2) その出演報酬と
しては、年額・月割払で楽団員が会社の出演発注に応じないことがあつても減額さ
れない契約金と一時間一〇〇円の割合による出演料を支払うものとされ、(3) 契
約解除については従前と同様であり、(4) 楽団員に対する芸能員就業規則の適用
もないこととなつていた。右自由出演契約の締結にあたつては、専属性を弱めるも
のであるとして楽団員側が難色を示したが、会社からは、同契約のもとにおいても
専属出演契約の重要な契約部分は実体としては残すから安心するようにとの説明が
され、会社も楽団員も、右契約によつて出演発注に対する楽団員の諾否が文字どお
り自由になるのではなく、出演発注があれば原則としてはやはりこれを拒否できず、
いつも発注に応じないときは、契約解除の理由となり更には次年度の契約更新を拒
絶されることもありうるものと考えていた。また、昭和四〇年当時は、会社が出演
を求める番組そのものが少なくなつたため、楽団員の出演時間が以前より著しく減
少し、月平均九時間程度となつていたが、このような事態は楽団員の予想していた
ところではなく、もともとその将来の生活を保障するからということで契約した楽
団員としては、会社からの出演発注があることを常時期待していたものであり、こ
のため、現実の発注が少なかつたとはいえ、楽団員が他社出演をした例は一、二を
数えるにとどまり、多くの者は夜間キヤバレー等でいわゆるアルバイト程度のこと
をして会社からの出演報酬の不足分を補つていた。
 以上の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、すべて是認することができ、そ
の過程に所論の違法はない。
 そこで、右事実に基づいて考えるのに、本件の自由出演契約が、会社において放
送の都度演奏者と出演条件等を交渉して個別的に契約を締結することの困難さと煩
雑さとを回避し、楽団員をあらかじめ会社の事業組織のなかに組み入れておくこと
によつて、放送事業の遂行上不可欠な演奏労働力を恒常的に確保しようとするもの
であることは明らかであり、この点においては専属出演契約及び優先出演契約と異
なるところがない。このことと、自由出演契約締結の際における会社及び楽団員の
前記のような認識とを合わせ考慮すれば、右契約の文言上は楽団員が会社の出演発
注を断わることが禁止されていなかつたとはいえ、そのことから直ちに、右契約が
所論のいうように出演について楽団員になんらの義務も負わせず、単にその任意の
協力のみを期待したものであるとは解されず、むしろ、原則としては発注に応じて
出演すべき義務のあることを前提としつつ、ただ個々の場合に他社出演等を理由に
出演しないことがあつても、当然には契約違反等の責任を問わないという趣旨の契
約であるとみるのが相当である。楽団員は、演奏という特殊な労務を提供する者で
あるため、必ずしも会社から日日一定の時間的拘束を受けるものではなく、出演に
要する時間以外の時間は事実上その自由に委ねられているが、右のように、会社に
おいて必要とするときは随時その一方的に指定するところによつて楽団員に出演を
求めることができ、楽団員が原則としてこれに従うべき基本的関係がある以上、た
とえ会社の都合によつて現実の出演時間がいかに減少したとしても、楽団員の演奏
労働力の処分につき会社が指揮命令の権能を有しないものということはできない。
また、自由出演契約に基づき楽団員に支払われる出演報酬のうち契約金が不出演に
よつて減額されないことは前記のとおりであるが、楽団員は、いわゆる有名芸術家
とは異なり、演出についてなんら裁量を与えられていないのであるから、その出演
報酬は、演奏によつてもたらされる芸術的価値を評価したものというよりは、むし
ろ、演奏という労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当であつて、その一
部たる契約金は、楽団員に生活の資として一応の安定した収入を与えるための最低
保障給たる性質を有するものと認めるべきである。
 以上の諸点からすれば、楽団員は、自由出演契約のもとにおいてもなお、会社に
対する関係において労働組合法の適用を受けるべき労働者にあたると解すべきであ
る。したがつて、楽団員の組織する被上告人組合と会社との間に同法七条二号の不
当労働行為が成立しうるとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法は
なく、所論違憲の主張は、右違法のあることを前提とするものであるから、その前
提を欠く。論旨は、すべて採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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