弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人の上告理由は末尾添附別紙記載のとおりである。
 論旨第一、六及七点に対する判断
 論旨にもいつて居るとおり上告人の原審における主張は「D組合は解散し昭和二
〇年七月末頃組合員たりしEが右家屋を買受けたる為めF布帛有限会社は昭和二〇
年八月分家賃金を右Eに支払いたり」というのであるが、右Eが本件家屋を買つた
との事実は原審の認めない処である。原審は訴外Fが当時空家であつた本件家屋を
右組合から買つたという、右上告人の主張とは相容れない事実を認定して居るので
あるから、上告人の右主張はおのずから否定されたわけである。それ故E個人から
会社が借りたとの主張は原審の認定と相容れない事実を前提とするもので上告の理
由とならない。そして上告人の主張は初めから会社が借りて居たので、所論八月か
らも引続き会社が借りたというのであるが原審は会社が借りたという事実は終始全
く認めない趣旨であること判文上明であるし、なお原審は控訴人(上告人)は初め
本件家屋を訴外Gから借りて居たが、これは合意解除し、その後本件家屋を賃借し
た事実は認められない旨を判示して居るから右合意解除後は控訴人若しくは訴外会
社が本件家屋を賃借したとの事実は全然否定したものであること明である、そして
乙第一〇号証の存在だけで所論の様な賃貸借成立の事実を認めなければならないこ
とは無いから所論は畢竟原審の適法な証拠の取捨判断事実の認定を非難するに帰し
上告の理由とならない。
 同第二、及三点に対する判断。
 G証人の証言その他原審挙示の証拠によつて原審認定の事実は認められる、乙第
一〇号証で第一点所論の賃貸借を認めなければならないものではないことは前点説
示の如く又会社名義の小切手で家賃が支払われたからといつて、必ずしも会社が賃
借人と認めなければならないものでもない(後の説明参照)それ故論旨はいずれも
畢竟原審の適法に為した事実の認定を非難するもので上告適法の理由とならない。
 第四点に対する判断
 乙第一〇号証によつて所論賃貸借の事実を認めなければならないものでないこと
前説示のとおりである、所論は原審の認めない事実を前提とするもので上告適法の
理由とならない。
 同第五、八、九及一〇点に対する判断。
 家賃金が会社名義の小切手で支払われたからといつて必ずしも会社が賃借人であ
ると認めなければならないことはない。第三者の弁済ということもあるし、殊に本
件においては原審の認定した処によると所論会社は形式は会社になつて居るが実質
は上告人個人の経営の如きものだ(此の事実は原審挙示の資料で認められる)とい
うのであるから上告人個人が会社の預金を利用して会社の小切手で支払つて置いた
という様なことは十分考え得べき処だからである。そして原審はG証人の証言等で
上告人個人の賃貸借と認めたのであり賃貸人であるGが明にその旨証言して居るの
だから原審の右認定に法則違反(実験則違反その他)は少しもない。そして原審は
挙示の資料によつて所論会社は実質は上告人個人経営の様なものであり、本件家屋
に対する事実上の支配は(占有は事実上の支配である)主として上告人にあるもの
と認定したのであり、かかる認定は原審挙示の資料で為し得ないものではない。論
旨第九点所論の会社が使用を初めた時期の如きは原審認定の如くであつても論旨主
張の如くであつてもいずれにしても原判決主文に何等影響はない。それ故論旨は総
て上告の理由としては採用に値しない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり
判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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