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平成27年7月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(行ケ)第10135号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年5月21日
判決
原告渡邊機開工業株式会社
訴訟代理人弁理士涌井謙一
同山本典弘
同鈴木一永
同工藤貴宏
同三井直人
被告フルタ電機株式会社
訴訟代理人弁護士小南明也
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2013-800173号事件について平成26年5月2日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,発明の名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り
防止装置」とする特許第3966527号(平成10年6月12日出願,平
成19年6月8日設定登録。請求項の数5。以下「本件特許」という。)の
特許権者である(甲18)。
被告は,平成22年1月18日,本件特許につき訂正審判を請求し(訂正
2010-390006号),同年3月9日,訂正を認める旨の審決が確定
した(請求項の数5。甲19)。
(2)原告は,平成25年9月18日,特許庁に対し,本件特許の請求項3及び
4に係る発明についての特許を無効にすることを求めて審判請求(無効20
13-800173号)をし,特許庁は,審理の上,平成26年5月2日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」とい
う。)をし,その謄本は,同月12日,原告に送達された。
(3)原告は,平成26年5月27日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2特許請求の範囲
請求項3及び4の記載は,次のとおりである(甲19)。以下,本件特許に
係る発明を請求項の番号に従って「本件発明3」,「本件発明4」といい,本
件発明3及び4を併せて「本件発明」という。また,明細書(甲19)を,図
面を含め,「本件明細書」という。
【請求項3】
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,この回転板の回転とと
もに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異物排出口をそれぞれ設
けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離
除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を回転板及び/又は
選別ケーシングの円周面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における
生海苔の共回り防止装置。
【請求項4】
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,この回転板の回転とと
もに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異物排出口をそれぞれ設
けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離
除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケーシングと
回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした生海苔異物分離除去装置
における生海苔の共回り防止装置。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,
①本件発明3は,本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲1に記載
された発明(以下「甲1発明」という。)に,ⅰ)甲2に記載された発明
(以下「甲2発明」という。)を適用することにより,ⅱ)甲3に記載され
た発明(以下「甲3発明」という。)を適用することにより,ⅲ)甲8に記
載された発明(以下「甲8発明」という。)を適用することにより,ⅳ)甲
9に記載された発明(以下「甲9発明」という。)を適用することにより,
ⅴ)甲10に記載された発明(以下「甲10発明」という。)を適用するこ
とにより,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,②本件発
明4は,甲1発明に,ⅰ)甲2発明を適用することにより,ⅱ)甲3発明を
適用することにより,ⅲ)甲8発明を適用することにより,ⅳ)甲9発明を
適用することにより,ⅴ)甲10発明を適用することにより,当業者が容易
に発明をすることができたものではないから,本件発明は,特許法29条2
項の規定に違反して特許されたものではなく,その特許は同法123条1項
2号に該当しないから,無効とすべきものではない,というものである(甲
1ないし3,甲8ないし10は,下記のとおりである。)。

ア甲1:特開平8-140637号公報
イ甲2:特開平6-121660号公報
ウ甲3:A作成に係る陳述書(平成25年8月27日付け)
エ甲8:特開平5-71027号公報
オ甲9:実開平7-40644号公報
カ甲10:実願平1-152938号の願書に最初に添付した明細書及び
図面の内容を撮影したマイクロフィルム(実開平3-9142
3号)
(2)本件審決が認定した甲1発明の内容,並びに,本件発明3と甲1発明,本
件発明4と甲1発明との各一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア甲1発明の内容
「第一分離除去具(70)は,
i)第一回転板(81),
ii)第一回転板(81)との間にクリアランスSを形成する環状固定板(74)と環
状枠板73で構成される環状枠板部,
iii)環状枠板(73)を連設するための周筒部(72),
iv)クリアランスSを通過した海苔混合液を連接主タンク(61)に排出するガ
イド筒(77),及び,
v)異物を排出するための管状の排出路(75)及びそれに続く排出管(76)とで
構成されており,
筒状混合液タンク(90)の底部周端縁に環状枠板部(73,74)の外周縁を連設
し,この環状枠板部(73,74)の内周縁内に第一回転板(81)を略面一の状態で
僅かなクリアランスSを介して内嵌めし,この第一回転板(81)を軸心を中
心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンク(90)の
底隅部に異物排出口(75,76)を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除
去装置。」
イ本件発明3と甲1発明との一致点及び相違点
(一致点)
「生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,並びに異物排出
口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有
する生海苔異物分離除去装置」である点。
(相違点1)
本件発明3が「防止手段を,突起・板体の突起物とし,突起物を回転板
及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」「回転板の回転
とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を具備するのに対して,
甲1発明はかかる防止手段を具備していない点。
ウ本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点
(一致点)
「生海苔排出口31を有する選別ケーシング33,及び回転板34,並
びに異物排出口4をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海
苔混合液槽2を有する生海苔異物分離除去装置」である点。
(相違点2)
本件発明4が「突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケーシング
と回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした」「回転板34の
回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を具備するのに対
して,甲1発明はかかる防止手段を具備していない点。
4取消事由
(1)本件発明3と甲1発明との相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事
由1)
ア甲1発明への甲2発明の適用容易性についての判断の誤り(取消事由1
-1)
イ甲1発明への甲3発明の適用容易性についての判断の誤り(取消事由1
-2)
ウ甲1発明への甲8ないし甲10発明の適用容易性についての判断の誤り
(取消事由1-3)
(2)本件発明4と甲1発明との相違点2に係る容易想到性判断の誤り(取消事
由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件発明3と甲1発明との相違点1に係る容易想到性判断の誤
り)について
〔原告の主張〕
(1)取消事由1-1(甲1発明への甲2発明の適用容易性についての判断の誤
り)について
ア本件審決は,甲1発明の「クリアランスS」の詰まりを解消するため,
甲1発明のクリアランスSと構造及び形状が異なる甲2記載の「分離孔2
1e」の清掃技術を適用することは困難であり,仮に適用できるとしても
甲2に記載のものは,「分離孔21e」に「摺接」する「清掃ブラシ4
4」であるから,せいぜい甲1発明の「クリアランスS」の外側から清掃
ブラシを摺接するように構成する程度であって,このように構成しても,
甲1発明の「環状枠板部(73)」の円周面や,「第一回転板(81)」の円周面
の位置に清掃ブラシを設けるものとはならず,当業者といえども,本件発
明3のごとく「回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成」
とすることは困難であるし,甲2記載の清掃ブラシは,突起や板体の突起
物を想起するようなものではなく,本件発明3の「防止手段を,突起・板
体の突起物」のごとく構成することも困難である旨判断した。
イしかしながら,本件審決における前記アの判断は,発明が「技術的思想
の創作」(特許法2条1項)であることを没却し,また,当業者の技術常
識を誤り,甲2発明の甲1発明への適用容易性を,両者の構造・形状に基
づいて判断するものであって,誤りである。
すなわち,甲1発明は,第一回転板(81)と,環状固定板(74)との間に
クリアランスSを形成し,当該クリアランスSに海苔混合液を通過させる
生海苔異物分離除去装置であり,なお異物及び生海苔によるクリアランス
の詰まりという課題が完全には解消せず残されていると理解されるもので
ある。
これに対し,甲2には,「清掃ブラシ44は分離ドラム15eの回転に
よりブラシ部材47が周壁17eを摺接し,異物や生海苔による各分離孔
21eの詰まりを清掃する装置」が記載されているのであって,そこには,
「海苔が通過する隙間が形成されている周壁にブラシ部材を摺接させて海
苔が通過する隙間の詰まりを清掃する」という技術的思想が記載されてい
る。
確かに,「隙間」が,甲1発明では,「環状枠板部(73,74)の内周縁内
に第一回転板(81)を略面一の状態」で「内嵌め」して「僅かなクリアラン
スS」を形成したものであって,環状であるのに対して,甲2記載の「分
離孔21e」は,「分離ドラム15」の周囲全体に多数形成されたスリッ
ト状の孔であり,両者は構造,形状が全く異なるが,甲1発明において
「異物及び生海苔によるクリアランスの詰まりという課題」を解決するに
当たり,甲2に記載されている「海苔が通過する隙間が形成されている周
壁にブラシ部材を摺接させて海苔が通過する隙間の詰まりを清掃する」と
いう技術的思想を適用する場合,当業者であれば,回転板と環状固定板と
の間に形成されている環状のクリアランスを清掃するために,甲2に具体
的に記載されている「清掃ブラシ44は分離ドラム15eの回転によりブ
ラシ部材47が周壁17eを摺接し,異物や生海苔による各分離孔21e
の詰まりを清掃する装置」の構造をどのように変更すればよいか検討する
のが一般的である。
したがって,甲1発明において,甲2発明を適用し,相違点1に係る本
件発明3の構成,すなわち「突起・板体の突起物」を,「回転板及び/又
は選別ケーシングの円周面に設ける」構成を備えるようにすることは,当
業者が容易に想到し得たことであるというべきである。
(2)取消事由1-2(甲1発明への甲3発明の適用容易性についての判断の誤
り)について
ア本件審決は,甲1発明の「環状枠板部(73,74)の内周縁内」に「第一回転
板(81)」を「内嵌め」することで形成される「クリアランスS」の詰まり
を解消するため,甲3発明を適用するに際しては,「L型金具」とそれを
回転させる「回転ブラシ筒」を併せて適用する必要があるが,甲3発明の
回転ブラシ筒のブラシの動きは,生海苔混合液を隙間に向かって下から上
に持ち上げるものであるから,海苔混合液がクリアランスSから下に流れ
る甲1発明とは,その流れ方が逆であって,甲1発明に甲3発明を適用す
ることは困難であり,仮に,甲1発明に甲3発明の「L型金具」を設けた
「回転ブラシ筒」を適用し得るとしても,甲1発明の「クリアランスS」
と甲3発明の「隙間」は方向が違うから,甲1発明に甲3発明を単に適用
しても,本件発明3の構成にはならず,あえて,甲3発明の「L型金具」
を甲1発明の「クリアランスS」内で移動するように設けようとすれば,
垂直方向に先端を曲げなくてはならず,しかも,甲1の【図1】の第一回
転板(81)のように下部が水平方向に外側に向かって曲がっているような
ものでは,さらに複雑な形状に曲げる必要があり,このように構成するこ
とは,当業者といえども困難である旨判断した。
イしかしながら,本件審決における前記アの判断は,甲3発明の甲1発明
への適用容易性を,甲1に具体的に例示されている実施形態に,甲3の実
施形態をそのまま適用することができるかどうかに基づき判断するもので
あり,誤りである。
すなわち,甲1発明は,第一回転板(81)と,環状固定板(74)との間
にクリアランスSを形成し,当該クリアランスSに海苔混合液を通過させ
る生海苔異物分離除去装置であり,なお異物及び生海苔によるクリアラン
スの詰まりという課題が完全には解消せず残されていると理解されるもの
である。
これに対し,甲3発明は,「回転ブラシ筒に設けたL型金具の刃部が,
該隙間を移動することで,隙間に異物が詰まって,当該隙間を通過する生
海苔混合液の量が少なくなることを防止する」ものである(甲3発明にお
いては,「L型金具」だけでは,隙間に異物が詰まることを防止できず,
それを動かす「回転ブラシ筒」と併せて隙間に異物が詰まることを防止す
ることになっているが,これは,平面視で環状に形成されている隙間から
生海苔混合液が流出していく際に,L型金具の刃部を,当該隙間で,円周
方向に移動させることにより,当該隙間を通過する生海苔混合液の量が少
なくなることを防止するという技術的思想の一実施形態であり,発明とし
ては,より抽象的な概念,技術的思想として,上記のとおり認定されるべ
きものである。)。
そして,甲3発明において,環状鍔と濾筒の上端縁とが対向して形成さ
れる隙間は,平面視で環状の隙間であり,静止している部材である「環状
鍔」と,静止している部材である「濾筒の上端縁」との間に形成される。
これに対し,甲1発明において,隙間(クリアランスS)は,回転中心軸
を中心にして,外縁が円周方向に回転する「第一回転板」と,静止してい
る部材である「環状固定板」との間に形成されているから,平面視で環状
の隙間であることは自明である。
したがって,「異物及び生海苔によるクリアランスの詰まり」という甲
1発明における課題を解決するべく,甲1発明に,「回転ブラシ筒に設け
たL型金具の刃部が,該隙間を移動することで,隙間に異物が詰まって,
当該隙間を通過する生海苔混合液の量が少なくなることを防止する」もの
である甲3発明の適用を検討することには,困難性はない。
その際,甲3発明においては,静止している部材同士の間に平面視で環
状の隙間が形成されているのに対し,甲1発明においては,回転中心軸を
中心にして外縁が円周方向に回転する部材(回転板)と,静止している部材
(環状固定板)との間で平面視で環状の隙間が形成されているが,回転中
心軸を中心にして外縁が円周方向に回転する「第一回転板」と,静止して
いる部材である「環状固定板」との間に形成されている平面視で環状の隙
間を生海苔混合液が通過する甲1発明において,「平面視で環状に形成さ
れている隙間から生海苔混合液が流出していく際に,L型金具の刃部を,
当該隙間で,円周方向に移動させることにより,当該隙間を通過する生海
苔混合液の量が少なくなることを防止する」という甲3発明の技術的思想
を適用し,平面視で環状の隙間を円周方向に移動していく「刃部」に替え
て,「突起・板体の突起物を,回転板及び/又は環状固定板の円周面に設
ける構造」,すなわち,本件発明3に係る構成を備えるようにすることは,
当業者において容易に想到し得たことである。
ウ以上によれば,甲1発明において,甲3発明を適用し,相違点1に係る
本件発明3の構成,すなわち「突起・板体の突起物」を,「回転板及び/
又は選別ケーシングの円周面に設ける」構成を備えるようにすることは,
当業者において,容易に想到し得たことであるというべきである。
(3)取消事由1-3(甲1発明への甲8ないし甲10発明の適用容易性につい
ての判断の誤り)について
ア本件審決は,甲8ないし甲10に記載のものは,甲1発明の属する技術
分野と全く異なり,甲1発明に適用する動機といえるものがない旨判断し
た。
しかしながら,異なる技術分野の引用発明に基づいて進歩性を否定する
論理付けが可能である場合もあるのであって,技術分野の相違から甲1発
明に甲8ないし甲10発明を適用する動機付けがないとする,本件審決に
おける上記判断は誤りである。
イさらに,本件審決は,甲8ないし甲10発明の具体的な構造の相違から,
甲8ないし甲10発明を甲1発明に適用する動機がないし,適用すること
は困難である旨判断した。
しかしながら,本件審決における上記判断は誤りである。
(ア)甲8によれば,回転体の回転に伴って処理対象物の共回りが発生す
ることを防止するため,回転体の外周面に微小隙間を保って近接してい
る固定体の内周面に,回転体の方に向かって突出する突条(共回り防止
バー11)を設けることが公知であった。
甲9によれば,回転体の回転に伴って処理対象物の共回りが発生する
ことを防止するため,底板の上に処理対象物の方に向かって突出する板
体(抵抗板13)を設けることが公知であった。
甲10によれば,固定体の内側で回転する回転体の回転に伴って処理
対象物の共回りが発生することを防止するため,固定体の内周面に,処
理対象物の方に向かって突出する突起(突起12)を設けることが公知
であった。
したがって,甲8ないし甲10によれば,「回転体の回転に伴って生
じる共回りの発生を防止するため,突起物を,共回りの発生を防止する
上で好適な個所に配備すること」は公知であったといえる。
(イ)そして,「回転体の回転に伴って生じる共回りの発生を防止する」
という広い意味において,本件発明3と,甲8ないし甲10発明との間
には,技術分野の関連性,作用機能の共通性が認められる。
また,本件発明3と甲1発明とは,回転板と選別ケーシングとの間に
形成されるクリアランスを介して生海苔混合液を通過させる生海苔異物
分離除去装置である点で共通し,甲1発明は,異物及び生海苔によるク
リアランスの詰まりという課題が完全には解消せず残されていると理解
されるものである。
(ウ)本件発明3との間に上記のような共通点を有する甲1発明と甲8な
いし甲10発明に接した当業者が,甲1発明の第一回転板(81)の回転
に伴って生じる共回りの発生を防止するため,突起物を,共回りの発生
を防止する上で好適な個所に配備することを検討し,甲1発明において,
甲8ないし甲10発明を適用し,相違点1に係る本件発明3の構成,す
なわち「突起・板体の突起物」を,「回転板及び/又は選別ケーシング
の円周面に設ける」構成を備えるようにすることは容易に想到し得たこ
とであるというべきである。
(4)小括
以上によれば,本件審決における本件発明3と甲1発明との相違点1に係
る容易想到性の判断は誤りであり,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1)取消事由1-1(甲1発明への甲2発明の適用容易性についての判断の誤
り)について
ア甲1発明では,「隙間」が,「環状枠板部(73,74)の内周縁内に第一回転
板(81)を略面一の状態」で「内嵌め」して「僅かなクリアランスS」を形
成したものであって,環状であるのに対して,甲2記載の「分離孔21
e」は,「分離ドラム15」の周囲全体に多数形成されたスリット状の孔
であり,両者は構造,形状が全く異なる。
すなわち,甲1発明は,「回転板方式」(遠心分離方式及び隙間の相対
移動という方式の組合せを前提とする,回転板とクリアランスを利用する
生海苔異物分離除去装置)に関するものであるのに対し,甲2発明は「従
来型」(生海苔を固定サイズの隙間に通過させ,異物と分離するものであ
って濾過と同じ原理に基づく装置)に関するものであるから,前提となる
技術的思想が異なる。
したがって,甲1発明の課題解決に際して,甲2発明を適用する動機付
けがない。
イそもそも,本件発明3は,従来型の固定隙間に関する目詰まり防止や,
清掃装置とは異なり,回転板方式における「共回り防止」に関するもので
あるが,この「共回り」,「共回り防止」という技術的課題は,甲2はも
ちろん甲1にも,示唆すらされていない。
本件発明3の作用効果として,目詰まり防止効果があるとしても,これ
に尽きるものではないから,生海苔のクリアランスへの詰まり防止効果が
あることをもって,安易に甲1発明への甲2発明の適用を肯定することは
できない。
ウ以上のとおり,本件審決における判断に誤りはない。
(2)取消事由1-2(甲1発明への甲3発明の適用容易性についての判断の誤
り)について
ア原告は,本件審決が,甲1発明への甲3発明の適用容易性を,甲1に具
体的に例示されている実施形態に,甲3の実施形態をそのまま適用するこ
とができるかどうかに基づき判断したものである旨主張するが,以下のと
おり失当である。
(ア)本件審決は,「WK-3型用大荒ゴミ取り機」(甲3)について,
その公然実施性,構造について争いがあり,その構造が正確に特定でき
ないことを前提とし,これらの判断を留保した上で,甲3発明を,
「上部が開放されてる外槽には,下部に第2排水パイプが接続され,
外槽の底部には送水筒が接続され,
外槽の底部中央には回転軸が貫通しており,
外槽内側には,回転軸が中心となるような配置で濾筒が設けられ,
濾筒は側壁に無数の微小通水孔が形成され,濾筒の上端縁に,鍔状の
フランジ部があり,
回転ブラシ筒を前記回転軸に貫通させて濾筒の内側に回転可能に装入
させ,
回転ブラシ筒の周壁には,途中で数カ所切れて連続していないらせん
状のブラシが設けられ,らせん状のブラシ先端は,濾筒の内周壁に当接
するように形成されており,
回転ブラシ筒の上端より所定間隔下であって,回転ブラシ筒の周壁に
らせん状に取り付けられているブラシの最上部より少し低い高さ位置に
L型金具を設け,
赤い囲み部材の上方の開放部を覆う帽状キャップの下面中央には,前
記回転軸を受ける軸受孔が設けられ,短い筒状部材が帽状キャップの下
面に突設され,短い筒状部材の端面には環状鍔が設けられ,帽状キャッ
プを赤い囲み部材に取り付けた際に,該環状鍔は前記濾筒の上端縁と対
向し隙間を形成するようになっており,
L型金具は,濾筒の上端縁に当接するようにされ,水平方向に延びる
該隙間に挿入されているL型金具の刃部が,該隙間を移動し,該隙間に
異物が詰まって,該隙間を通過する生海苔混合液の量が少なくなること
がない,
WK-3型用大荒ゴミ取り装置であって,
回転ブラシ筒の回転につれて濾筒内を上昇した生海苔混合液は,帽状
キャップの環状鍔の下面と,濾筒の上端縁との間に形成される隙間を介
して押し出され,排出樋を介して出されるWK-3型用大荒ゴミ取り装
置。」と認定した。
そして,本件審決は,甲3発明は,「回転ブラシ筒」に設けた「L型
金具の刃部が,該隙間を移動」することで,「隙間に異物が詰まって,
当該隙間を通過する生海苔混合液の量が少なくなること」を防止するも
のであり,甲3発明においては,「L型金具」だけでは,隙間に異物が
詰まることを防止することができず,それを動かす「回転ブラシ筒」と
併せて隙間に異物が詰まることを防止するものであると認定した。
(イ)甲3発明として認定できるのは,せいぜい本件審決が認定した前記
(ア)記載の範囲のものであって,甲3に記載された具体的装置を上位概
念化させた発明が認定できるわけではない。
すなわち,甲3発明は,上位概念化させた発明の「実施形態」として
認定されたものではない。
甲3発明は,前記(ア)記載のとおり,「回転ブラシ筒」と「L型金
具」が不可分一体であって,両者が相俟って作用効果を奏するというも
のである(甲3発明は,「回転ブラシ筒」を必須とする発明である)か
ら,両者を一体として理解した上で,これを甲1発明に適用することが
できるか否かを判断することは,甲3発明そのものの適用可能性を検討
するものであり,「実施形態」にすぎないものの適用可能性を判断した
ことにはならない。
(ウ)以上のとおり,原告の上記主張は理由がない。
イ原告は,甲1発明に甲3発明を適用することは容易に想到し得たことで
あり,かつ,甲3発明を適用するに当たり,甲1発明の構成に対応させて,
「L型金具の刃部」に相当する部材が隙間の中を移動することにより,隙
間に異物が詰まることを防止する構成を考えることは,当業者の通常の創
作能力の発揮であるなどと主張する。
しかしながら,原告は,甲3発明を「甲1発明の構成に対応させるこ
と」及び「隙間に異物が詰まることを防止する構成を考えること」のいず
れもが容易であること,並びに,本件特許の出願当時の「当業者の通常の
創作能力」の程度について,何ら具体的な主張立証をしない。
ウ甲1発明において,甲3発明を適用することにより,本件発明3と甲1
発明との相違点1に係る構成を備えるようにすることが容易に想到し得た
ことであるとは認められないから,本件審決における判断に誤りはない。
(3)取消事由1-3(甲1発明への甲8ないし甲10発明の適用容易性につい
ての判断の誤り)について
原告は,甲1発明と甲8ないし甲10発明に接した当業者が,甲1発明の
第一回転板(81)の回転に伴って生じる共回りの発生を防止するため,突起
物を,共回りの発生を防止する上で好適な個所に配備することを検討し,甲
1発明において,甲8ないし甲10発明を適用し,相違点1に係る本件発明
3の構成を備えるようにすることは容易に想到し得たことである旨主張する。
しかしながら,本件発明における「共回り」と甲8ないし甲10発明に記
載された「共回り」とは,技術的意義が全く異なるものであるから,原告の
上記主張は理由がない。
(4)小括
本件審決における,本件発明3と甲1発明との相違点1に係る容易想到性
の判断に誤りはないから,取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
2取消事由2(本件発明4と甲1発明との相違点2に係る容易想到性判断の誤
り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,相違点2について,前記相違点1に関する判断と同様の理由に
より,甲1発明に,甲2,甲3,甲8ないし甲10各発明を適用することは困
難であるから,本件発明4に係る特許を無効とすることはできないと判断した。
しかしながら,本件審決における,①甲1発明への甲2発明の適用容易性に
ついての判断,②甲1発明への甲3発明の適用容易性についての判断,③甲1
発明への甲8ないし甲10発明の適用容易性についての判断は,前記1〔原告
の主張〕に記載したとおり,誤りであるから,本件発明4と甲1発明との相違
点2に係る容易想到性の判断は誤りである。
したがって,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
本件審決における,本件発明4と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の
判断に誤りはないから,取消事由2に係る原告の主張は理由がない。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
(1)本件明細書の記載等
本件発明3及び4の特許請求の範囲(請求項3,4)の記載は,前記第2
の2に記載のとおりであるところ,本件明細書(甲19)の「発明の詳細な
説明」には,次のとおりの記載がある(下記記載中に引用する図面について
は,別紙1の本件明細書図面目録を参照。)。
ア発明の属する技術分野
「本発明は,生海苔・海水混合液(生海苔混合液)から異物を分離除去
する生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置に関す
る。」(段落【0001】)
イ従来の技術
「この異物分離機構を備えた生海苔異物分離除去装置としては,特開平
8-140637号(判決注・甲1)の生海苔の異物分離除去装置がある。
その構成は,筒状混合液タンクの環状枠板部の内周縁内に回転板を略面一
の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この回転板を軸心を中心
として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに,前記筒状混合液タ
ンクに異物排出口を設けたことにある。この発明は,比重差と遠心力を利
用して効率よく異物を分離除去できること,回転板が常時回転するので目
詰まりが少ないこと,又は仮りに目詰まりしても,当該目詰まりの解消を
簡易に行えること,等の特徴があると開示されている。」(段落【000
2】)
ウ発明が解決しようとする課題
「前記生海苔の異物分離除去装置,又は回転板とクリアランスを利用す
る生海苔異物分離除去装置においては,この回転板を高速回転することか
ら,生海苔及び異物が,回転板とともに回り(回転し),クリアランスに
吸い込まれない現象,又は生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状態で回
転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象であり,究極的
には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する状況等
である。この状況を共回りとする。この共回りが発生すると,回転板の停
止,又は作業の停止となって,結果的に異物分離作業の能率低下,当該装
置の停止,海苔加工システム全体の停止等の如く,最悪の状況となること
も考えられる。」(段落【0003】)
「前記共回りの発生のメカニズムは,本発明者の経験則では,1.生海
苔(原藻)に根,スケール等の原藻異物が存在し,生海苔の厚みが不均等
のとき,2.生海苔が束状,捩じれ,絡み付き等の異常な状態で,生海苔
が展開した状態でない,所謂,生海苔の動きが正常でないとき,3.生海
苔が異物を取り込んでいる状態,生海苔に異物が付着する等の状態であっ
て,生海苔の厚みが不均等であるとき,等の生海苔の状態と考えられ
る。」(段落【0004】)
エ課題を解決するための手段
「請求項1の発明は,共回りの発生を無くし,かつクリアランスの目詰
まりを無くすこと,又は効率的・連続的な異物分離(異物分離作業の能率
低下,当該装置の停止,海苔加工システム全体の停止等の回避)を図るこ
とにある。またこの防止手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置するこ
とを意図する。」(段落【0005】)
「請求項1は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,こ
の回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに
異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合
液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケ
ーシングの円周端面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における
生海苔の共回り防止装置である。」(段落【0006】)
「請求項3の発明は,請求項1の目的を達成することと,またこの防止
手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置することを意図する。」(段落
【0009】)
「請求項3は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,こ
の回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに
異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合
液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を回転板及び/
又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置
における生海苔の共回り防止装置である。」(段落【0010】)
「請求項4の発明は,請求項1の目的を達成することと,またこの防止
手段を,クリアランスへの容易な設置を図ることを意図する。」(段落
【0011】)
「請求項4は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,こ
の回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに
異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合
液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケーシン
グと回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした生海苔異物分離
除去装置における生海苔の共回り防止装置である。」(段落【001
2】)
オ発明の実施の形態
「本発明の生海苔混合液槽には,生海苔タンクから順次生海苔混合液が
導入される。この導入された生海苔混合液の生海苔は,回転板とともに回
転しつつ,順次吸込用ポンプにより回転板と選別ケーシングで形成される
異物分離機構のクリアランスに導かれる。この生海苔は,このクリアラン
スを通過して分離処理される。この分離処理された生海苔及び海水は,選
別ケーシングのケーシング内底面より連結口を経由して良質タンクに導か
れる。」(段落【0019】)
「このクリアランスに導かれる際に,生海苔の共回りが発生しても,本
発明では,防止手段に達した段階で解消される(防止効果)。尚,前記防
止手段は,単なる解消に留まらず,生海苔の動きを矯正し,効率的にクリ
アランスに導く働きも備えている(矯正効果)。」(段落【0020】)
「以上のような操作により,生海苔の分離が,極めて効率的にかつトラ
ブルもなく行われることと,当該回転板,又は当該装置の停止等は未然に
防止できる特徴がある。」(段落【0021】)
カ実施例
「1は異物分離除去装置で,この異物分離除去装置1は,生海苔混合液
をプールする生海苔混合液槽2と,この生海苔混合液槽2の内底面21に
設けた異物分離機構3と,異物排出口4と,前記異物分離機構3の回転板
34を回転する駆動装置5と,防止手段6を主構成要素とする。」(段落
【0023】)
「生海苔混合液槽2には,生海苔・海水を溜める生海苔タンク10と連
通する生海苔供給管11が開口しており,この生海苔供給管11には供給
用のポンプ12が設けられている。また分離処理された生海苔・海水をプ
ールする良質タンク13を設ける。」(段落【0024】)
「異物分離機構3は,分離した生海苔・海水を吸い込む連結口31,及
び逆洗用の噴射口32を有する選別ケーシング33と,この選別ケーシン
グ33に寸法差部Aを設けるにようにして当該選別ケーシング33の噴射
口32の上方に設けられた回転板34と,この回転板34の円周面34a
と前記選別ケーシング33の円周面33aとで形成されるクリアランスS
と,で構成されている。前記寸法差部Aは,選別ケーシング33の円周端
面33bと回転板34の円周端面34bとの間で形成する。」(段落【0
025】)
「防止手段6は,一例として寸法差部Aに設ける。図3,図4の例では,
選別ケーシング33の円周端面33bに突起・板体・ナイフ等の突起物を
1ケ所又は数ヶ所設ける。また図5の例は,生海苔混合液槽2の内底面2
1に1ケ所又は数ヶ所設ける。さらに他の図6の例は,回転板34の円周
面34a及び/又は選別ケーシング33の円周面33a(一点鎖線で示
す。)に切り溝,凹凸,ローレット等の突起物を1ケ所又は数ヶ所,或い
は全周に設ける。また図7の例は,選別ケーシング33(枠板)の円周面
33a(内周端面)に回転板34の円周端面34bが内嵌めされた構成の
クリアランスSでは,このクリアランスSに突起・板体・ナイフ等の突起
物の防止手段6を設ける。また図8の例では,回転板34の回転方向に傾
斜した突起・板体・ナイフ等の突起物の防止手段6を1ケ所又は数ヶ所設
ける。」(段落【0026】)
「尚,前記回転板34は,駆動装置5のモーター51に設けた回転軸5
2に昇降自在に設けられている。従って,逆洗槽14内の海水を,ホース
15及び逆洗用ポンプ16を介して噴射口32より噴射して,この回転板
34を押上げ,この押上げによりクリアランスSの寸法を拡げる構成とな
っている。」(段落【0027】)
「図中17は連結口31に設けた分離された生海苔・海水を良質タンク
13に導くホース,18はホース17に設けた吸込用ポンプをそれぞれ示
す。」(段落【0028】)
キ発明の効果
「請求項1の発明は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転
板,回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並び
に異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混
合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,防止手段を,突起・板
体の突起物とし,突起物を,選別ケーシングの円周端面に設ける生海苔異
物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置である。従って,この請
求項1は,共回りの発生を無くし,かつクリアランスの目詰まりを無くす
こと,又は効率的・連続的な異物分離(異物分離作業の能率低下,当該装
置の停止,海苔加工システム全体の停止等の回避)が図れること,またこ
の防止手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置できること等の特徴があ
る。」(段落【0029】)
「請求項3の発明は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転
板,回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並び
に異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混
合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,防止手段を,突起・板
体の突起物とし,突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設
ける生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置である。従
って,請求項1の目的を達成できることと,またこの防止手段を,簡易か
つ確実に適切な場所に設置できること等の特徴を有する。」(段落【00
31】)
「請求項4の発明は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転
板,回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並び
に異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混
合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,防止手段を,突起・板
体の突起物とし,突起物を選別ケーシングと回転板で形成されるクリアラ
ンスに設ける生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置で
ある。従って,請求項1の目的を達成できることと,またこの防止手段を,
クリアランスへの容易な設置が図れること等の特徴を有する。」(段落
【0032】)
(2)前記(1)の記載によれば,本件発明の概要は以下のとおりであると認めら
れる。
ア本件発明は,生海苔・海水混合液(生海苔混合液)から異物を分離除去
する生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置に関する。
従来,筒状混合液タンクの環状枠板部の内周縁内に回転板を略面一の状
態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この回転板を軸心を中心とし
て適宜駆動手段によって回転可能とするとともに,前記筒状混合液タンク
に異物排出口を設けた生海苔異物分離除去装置(甲1発明)がある。
この生海苔異物分離除去装置(又は,回転板とクリアランスを利用する
生海苔異物分離除去装置)においては,この回転板を高速回転することか
ら,生海苔及び異物が回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれ
ない現象,又は,生海苔等がクリアランスに喰込んだ状態で回転板ととも
に回転し,クリアランスに吸い込まれない現象が生じ,究極的には,クリ
アランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する。
このような「共回り」が発生すると,回転板の停止又は作業の停止とな
って,結果的に異物分離作業の能率低下,当該装置の停止,海苔加工シス
テム全体の停止等のごとく,最悪の状況となることも考えられる。
イ本件発明は,従来の生海苔異物分離除去装置(甲1発明)の有する前記
アの問題に鑑み,共回りの発生を無くし,かつクリアランスの目詰まりを
無くすこと,又は効率的・連続的な異物分離を図ること等を目的に,「生
海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,この回転板の回転とと
もに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異物排出口をそれぞ
れ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔
異物分離除去装置」において,請求項1の発明では,前記防止手段を,突
起・板体の突起物とし,これを前記選別ケーシングの円周端面に設ける構
成とし,請求項3の発明(本件発明3)では,前記防止手段を,突起・板
体の突起物とし,これを回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設け
る構成とし,請求項4の発明(本件発明4)では,前記防止手段を,突起
・板体の突起物とし,これを選別ケーシングと回転板で形成されるクリア
ランスに設ける構成とした。
ウ本件発明によれば,共回りの発生を無くし,かつクリアランスの目詰ま
りを無くすこと,又は,効率的・連続的な異物分離(異物分離作業の能率
低下,当該装置の停止,海苔加工システム全体の停止等の回避)が図れる
こと,この防止手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置できること,こ
の防止手段を,クリアランスへの容易な設置が図れること等の効果を奏す
る。
2甲1発明について
(1)甲1には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については,
別紙2の甲1図面目録を参照。)。
ア特許請求の範囲
「【請求項1】筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を
連設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かな
クリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜
駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出
口を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。」
「【請求項3】筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を
連設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かな
クリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜
駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出
口を設け,更に,前記第一回転板の下方に第二回転板を軸心を同じくして
回転可能に設置し,この第二回転板の周縁部を前記第一回転板と前記環状
枠板部内周縁との間のクリアランスの下方に配置し,この第二回転板を前
記クリアランスを通過する生海苔と水との混合液の通過速度以上の周速度
で回転させることを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。」
イ産業上の利用分野
「この発明は生海苔の異物(ゴミ,エビ,アミ糸等,以下同じ)分離除
去装置に関し,生海苔混合液(生海苔と塩水とを適宜濃度に調合したも
の)から異物を分離する際に使用されるものである。」(段落【000
1】)
ウ従来の技術
「従来におけるこの種の異物分離除去装置は,分離ドラムの周壁に所要
数の分離孔を設け,前記分離ドラムを軸心を中心として回転させながらこ
のドラム内に生海苔混合液を供給し,前記分離孔を通過させることによっ
て,前記生海苔混合液中の異物を分離除去していた(特開平6-1216
60号(判決注・甲2))。」(段落【0002】)
エ発明が解決しようとする課題
「しかしながら,かかる従来の異物分離除去装置にあっては,生海苔混
合液中の異物をこの分離孔の周縁に引っ掛けて排出口に流れるのを防止す
るものであるため,当該分離孔の周縁に異物が蓄積し,目詰まりが発生す
る結果,当該分離除去を能率良く行うためには,目詰まり噴射水によって
洗浄するという洗浄装置を別途に設けなければならないという不都合を有
した(特開平6-121660号)。」(段落【0003】)
「この発明の課題はかかる不都合を解消することである。」(段落【0
004】)
オ課題を解決するための手段
「前記課題を達成するために,この発明に係る生海苔の異物分離除去装
置においては,筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連
設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなク
リアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆
動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口
を設けたものである。」(段落【0005】)
「また,前記第一回転板の下方に第二回転板を軸心を同じくして回転可
能に設置し,この第二回転板の周縁部を前記第一回転板と前記環状枠板部
内周縁との間のクリアランスの下方に配置し,この第二回転板を前記クリ
アランスを通過する生海苔と水との混合液の通過速度以上の周速度で回転
させることもできる。」(段落【0007】)
カ作用
「この発明に係る生海苔の異物分離除去装置は上記のように構成されて
いるため,第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔
よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部と
のクリアランスよりも環状枠板部側,即ち,タンクの底隅部に集積する結
果,生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるも
のである。このとき,第一回転板は回転しているため,前記クリアランス
には生海苔が詰まりにくいものである。」(段落【0009】)
「また,前記第一回転板の下方に第二回転板を軸心を同じくして回転可
能に設置し,この第二回転板の周縁部を前記第一回転板と前記環状枠板部
内周縁との間のクリアランスの下方に配置し,この第二回転板を前記クリ
アランスを通過する生海苔と水との混合液の通過速度以上の周速度で回転
させれば,前記クリアランスにおける前記生海苔と水との混合液の通過を
促進させることができる。」(段落【0011】)
キ実施例
「図1~図3において,Dは生海苔の異物分離除去装置,10はこの装置
Dのバッチ水槽,20はこのバッチ水槽10にフレーム30を介して設置され
た異物を分離除去するための第二分離除去具である。バッチ水槽10は選別
された生海苔及び水を収容するためのものであり,その底部にはキャスタ
101,101,…が設置されている。なお,102は液面レベルセンサであり,こ
の異物分離除去装置Dの自動運転をコントロールするためのものである
(バッチ水槽10内において異物の分離された混合液が所定量に達したとき
に異物分離除去装置Dの作動を停止させる)。」(段落【0013】)
「次に,11は第一モータ,12は第二モータであり,各々ブラケット13
を介して前記バッチ水槽10の外側面に設置されている。」(段落【001
4】)
「次に,前記第二分離除去具20は,前記フレーム30に螺子止めされた
円板状の底板部21とこの底板部21の周縁に立設された周筒部22とこの周
筒部22の上端内周縁に連設された環状枠板23とから構成されている。24
は環状固定板であり,前記環状枠板23の内周縁に螺子止めされている。こ
の環状固定板24は前記環状枠板23の内周側に延出し,後記第一回転板51
の外周縁とのクリアランスCを調節する(図4を参照のこと)。なお,こ
の環状枠板23と環状固定板24とがこの発明の「環状枠板部」を構成する。
又,25は第二分離除去具20内に設置された管状の排出路であり,その上端
は前記環状枠板23に開口するとともにその下端は前記周筒部22に開口し
ている。この周筒部22の開口にはコック261を有する排出管26が連設さ
れている。更に,27は第二分離除去具20内に設置された管状の連通路であ
り,その上端は前記環状枠板23に開口するとともにその下端は前記周筒部
22に開口している。この周筒部22の開口には上方に延びる連通管28が連
設されている。この連通管28の機能については後記する。29は流出口であ
り(図2参照のこと),前記周筒部22に設置され,異物を除去された混合
液を前記バッチ水槽11に流れ落とす。」(段落【0015】)
「42は第二回転軸であり,前記底板部21(第二分離除去具20の)の中
心に軸受31を介して垂直状態に設置されている。421は第二プーリであり,
前記第二回転軸42の下端部に設置されている。この第二プーリ421と前記
第二モータ12のプーリ121との間には第二伝達ベルト422が巻き掛けら
れている。このため,前記第二モータ12の駆動に従って第二回転軸42は
軸心を中心として回転する。」(段落【0016】)
「一方,41は第一回転軸であり,第二回転軸42の軸心に回転可能に設置
されている。この第一回転軸41は前記第二回転軸42の上端から突出し,
上方に延びている。411は第一プーリであり,前記第一回転軸41の下端部
に設置されている。この第一プーリ411と前記第一モータ11のプーリ111
との間には第一伝達ベルト412が巻き掛けられている。このため,前記第
一モータ11の駆動に従って第一回転軸41は軸心を中心として回転す
る。」(段落【0017】)
「次に,51は第一回転板であり,前記第一回転軸41に固定され,軸心を
中心として回転する。この第一回転板51は真円状であり,前記環状固定板
24の内周内に面一の状態で適宜クリアランスCを介して配置されている
(図4参照のこと)。このクリアランスCは生海苔と水との混合液が通過
する個所である。なお,この第一回転板51の表面は回転中心から周縁に向
かうに従って下がり傾斜になっている。」(段落【0018】)
「次に,52は第二回転板であり,前記第二回転軸42に固定され,軸心を
中心として回転する。この第二回転板52は真円状であり,前記第一回転板
51の下方に配置され,その周縁部を前記第一回転板51と前記環状固定板
24との間のクリアランスCの下方に延びている。この第二回転板52を前記
クリアランスCを通過する生海苔と水との混合液の通過速度以上の周速度
で回転させれば,クリアランスCに対する生海苔と水との混合液の通過速
度は促進される。なお,第二回転板52の周縁部の表面を回転中心から周縁
に向かうに従って下がり傾斜にすれば,クリアランスCに対する生海苔と
水との混合液の通過速度は更に促進させることができる。」(段落【00
19】)
「また,61は円筒状の混合液連設タンクであり,前記第二分離除去具20
の環状枠板23の外周縁に外嵌めされている。また,この連設タンク61の
上端縁には前記第二分離除去具20と同じ構成の第一分離除去具70が配置
されている。但し,環状固定板74と第一回転板81とのクリアランスSは
前記第二分離除去具20よりも大であり,また,分離した生海苔と水との混
合液を第二分離除去具20上に落下させる必要上,第二分離除去具20にお
ける底板部21の代わりにガイド筒77が設けられている。なお,第二分離
除去具20における第二回転板52に相当するものは図示されていないが設
置しても構わない。第一分離除去具70において,72は周筒部,73は環状
枠板,75は管状の排出路,76はコック761を有する排出管である。」(段
落【0020】)
「90は円筒状の混合液主タンクであり,前記第一分離除去具70の環状枠
板73の外周縁に外嵌めされている。なお,この主タンク90及び/又は前
記連設タンク61はこの発明の「混合液タンク」に相当する。91は原料供給
管であり,前記主タンク90の上端縁に設置されている。この原料供給管91
を介して原料液(原生海苔と水との混合物)を前記主タンク90内に供給す
る。また,図示はしないが,水供給管も前記主タンク90の上端縁に設置さ
れている。なお,92は液面レベルセンサであり,前記主タンク90の上端縁
に設置されている。この液面レベルセンサ92はタンク(主タンク90及び
前記連設タンク61)内への混合液および水の供給をコントロールする(タ
ンク内において混合液が所定量に達したときに混合液又は水の供給を停止
する)。」(段落【0021】)
「次にこの異物分離除去装置Dの作動を説明する。」(段落【002
2】)
「まず,原料供給管91を介して生海苔混合液(生海苔と塩水とを適宜濃
度に調合したもの)を主タンク90内に供給する。そして,第一モータ11
を駆動させることによって第一分離除去具70の第一回転板81および第二
分離除去具20の第一回転板51を回転させるとともに第二モータ12を駆動
させることによって第二分離除去具20の第二回転板52を回転させる。す
ると,第一分離除去具70において主タンク90内の混合液が渦を発生し,
混合液中の大異物は第一回転板81の遠心力によってクリアランスSを越え
て環状枠板73側に集積する。このため,生海苔のみが水とともに前記クリ
アランスSを通過して下方に流れる。このとき,第一回転板81は回転して
いるため,前記クリアランスSに生海苔は詰まりにくいものである。また,
小異物は生海苔および水とともに前記クリアランスSを通過して下方に流
れ,連設タンク61内に混合液として供給される。」(段落【0023】)
「すると,第二分離除去具20において連設主タンク61内の混合液が渦
を発生し,混合液中の小異物は第一回転板51の遠心力によってクリアラン
スCを越えて環状枠板23側に集積する。このため,生海苔のみが水ととも
に前記クリアランスCを通過して下方に流れる。このとき,第一回転板51
は回転しているため,前記クリアランスCに生海苔は詰まりにくいもので
ある。また,同時に,第二回転板52も前記クリアランスCを通過する生海
苔と水との混合液の通過速度以上の周速度で回転しているため,前記クリ
アランスCを通過する生海苔と水との混合液の通過は促進される。」(段
落【0024】)
「異物の除去された混合液は第二分離除去具20の流出口29をバッチ水
槽11に流れ落とされる。また,除去された異物を排出する場合は,主タン
ク61へ混合液を供給するのを停止して,水のみを供給してタンク(主タン
ク90及び前記連設タンク61)内の混合液比率を薄くしてタンク(主タンク
90及び前記連設タンク61)内に生海苔が存在していないことを確認した後,
コック261,761を開いて排出管26,76から大小の異物をそれぞれ排出す
る。」(段落【0025】)
ク発明の効果
「この発明に係る生海苔の異物分離除去装置においては,筒状混合液タ
ンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠板部の内周
縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,
この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とする
とともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたため,第一回転板を回
転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は
遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアランスよりも環状
枠板部側,即ち,タンクの底隅部に集積する結果,生海苔のみが水ととも
に前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。このとき,第一
回転板は回転しているため,前記クリアランスには生海苔が詰まりにくい
ものである。」(段落【0028】)
「よって,この異物分離除去装置を使用すれば,異物が前記クリアラン
スに詰まりにくいため,従来のように目詰まり洗浄装置等を別途に設ける
必要がない結果,装置の維持がしやすいとともに取扱いが簡易になり,こ
の結果,生海苔の異物分離除去作業の作業能率を向上させることができ
る。」(段落【0029】)
「また,前記第一回転板の下方に第二回転板を軸心を同じくして回転可
能に設置し,この第二回転板の周縁部を前記第一回転板と前記環状枠板部
内周縁との間のクリアランスの下方に配置し,この第二回転板を前記クリ
アランスを通過する生海苔と水との混合液の通過速度以上の周速度で回転
させれば,前記クリアランスにおける前記生海苔と水との混合液の通過を
促進させることができる。」(段落【0031】)
(2)甲1に前記第2の3(2)ア記載の発明(甲1発明)が記載されていること
は,当事者間に争いがなく,前記(1)の記載によれば,甲1発明の概要は以下
のとおりであると認められる。
ア甲1発明は,生海苔の異物分離除去装置に関し,生海苔混合液から異物
を分離する際に使用されるものである。
従来の異物分離除去装置は,分離ドラムの周壁に所要数の分離孔を設け,
前記分離ドラムを軸心を中心として回転させながらこのドラム内に生海苔
混合液を供給し,前記分離孔を通過させることによって,前記生海苔混合
液中の異物を分離除去するというものであった(甲2発明)。
この従来の異物分離除去装置では,生海苔混合液中の異物を前記分離孔
の周縁に引っ掛けて排出口に流れるのを防止するものであるため,当該分
離孔の周縁に異物が蓄積し,目詰まりが発生する結果,当該分離除去を能
率良く行うためには,目詰まり噴射水によって洗浄するという洗浄装置を
別途に設けなければならないという不都合があった。
イ甲1発明は,従来の異物分離除去装置(甲2発明)の前記アの不都合を
解消することを課題とし,当該課題を達成するために,生海苔異物分離除
去装置において,筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を
連設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かな
クリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜
駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出
口を設けたものである。
ウ甲1発明によれば,第一回転板を回転させると,混合液に渦が形成され
るため,生海苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前
記環状枠板部とのクリアランスよりも環状枠板部側,即ち,タンクの底隅
部に集積する結果,生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して
下方に流れ,このとき,第一回転板が回転しているため,前記クリアラン
スには生海苔が詰まりにくいものであって,甲1発明を使用すれば,異物
が前記クリアランスに詰まりにくいため,従来のように目詰まり洗浄装置
等を別途に設ける必要がなく,装置の維持がしやすい。また,取扱いが簡
易になり,生海苔の異物分離除去作業の作業能率を向上させることができ
る。
3取消事由1(本件発明3と甲1発明との相違点1に係る容易想到性判断の誤
り)について
(1)取消事由1-1(甲1発明への甲2発明の適用容易性についての判断の誤
り)について
ア原告は,本件発明3と甲1発明とは,前記第2の3(2)イ記載の相違点1
(本件発明3が「防止手段を,突起・板体の突起物とし,突起物を回転板
及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」「回転板の回転
とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を具備するのに対して,
甲1発明はかかる防止手段を具備していない点)において相違するが,甲
1発明において,甲2発明を適用し,相違点1に係る本件発明3の構成を
備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである旨主張す
るので,以下において判断する。
イ甲2発明について
(ア)甲2には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面につ
いては,別紙3の刊行物図面目録中の「1甲2」を参照。)。
a特許請求の範囲
「【請求項1】海苔原藻を切断した生海苔を水に混入して成る海苔
混合液から小エビや小貝等の異物を分離除去する海苔異物分離除去装
置において,海苔混合液を供給する供給口と,海苔混合液を排出する
排出口と,供給口から排出口へ海苔混合液を流す流路を備え,その流
路の途中に海苔混合液の流れを横切る分離壁を設け,その分離壁に生
海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細長い分離孔を設け,その分離孔
の詰まりを清掃する清掃装置を備えて成ることを特徴とする海苔異物
分離除去装置。」
「【請求項2】海苔原藻を切断した生海苔を水に混入して成る海苔
混合液から小エビや小貝等の異物を分離除去する海苔異物分離除去装
置において,分離タンク内に分離ドラムを回転可能に内装し,その分
離ドラムの周壁に生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細長い分離孔
を設け,分離タンク内における分離ドラムの内部と外部の一方に海苔
混合液を供給する供給手段及び内部と外部の他方から海苔混合液を排
出する排出手段を夫々配設し,更に上記周壁の分離孔の詰まりを清掃
する清掃装置を備えて成ることを特徴とする海苔異物分離除去装
置。」
b産業上の利用分野
「この発明は,海苔抄き作業の前工程において海苔混合液(海苔原
藻を切断した生海苔を水に混入したもの)から小エビや小貝等の異物
を分離除去する海苔異物分離除去装置に関する。」(段落【000
1】)
c従来の技術
「味付け海苔や板海苔等の製品になる乾燥海苔は,一般に近海にて
養殖した海苔原藻を切断採取して水にて洗浄し,その海苔原藻を脱水
した後細かく切断すると共に水に混合して海苔混合液とし,その海苔
混合液を洗浄,脱水した後再び水に混入して熟生し,その海苔混合液
を脱水した後適当な水と調合して海苔原料液(海苔混合液でもある)
とし,その海苔原料液を抄造,脱水,乾燥して製造している。この場
合海苔原料液の中に小エビや小貝等の異物が含まれていると,その異
物が乾燥海苔に含まれることになり,その異物が肉眼で気になる程度
以上の大きさ例えば2mm程度以上の場合にはその乾燥海苔の品質を悪
くしたり商品価値を無くすることになるので,海苔製造業者からこれ
らの0.5mm~2mm程度以上の大きさの異物を分離除去する装置が要
望されており,これまでにも種々の海苔異物分離装置が提案されてい
る。従来の海苔異物分離装置としては,分離タンクを上縁の高さが順
に低くなっている区画板にて区画して複数の沈殿槽を設け,その最上
位の沈殿槽に海苔混合液を供給し,各沈殿槽において生海苔より重い
異物を沈殿させて除去するようにしたものや,乾燥海苔を電気的に検
査し,異物の混入している乾燥海苔を分離排除するようにしたものが
知られている。」(段落【0002】)
d発明が解決しようとする課題
「前者の従来装置にあっては,海苔混合液が生海苔より重い異物を
沈殿槽にて沈殿させて除去するようになっているので,小エビや小貝
等が生海苔にもぐり込んでいるときには沈殿することなく生海苔と共
に浮遊するので,小エビや小貝等の異物を確実に分離除去することが
できず,相当数の異物が乾燥海苔に混じり込んで商品価値を無くした
り低下させたりしているのが実状である。特に寒さが厳しくなる12
月末から2月ごろには,生きている小エビや小貝等が海苔原藻にもぐ
り込む習性があるので,特にこのシーズンに製造する乾燥海苔に多く
の異物が混入する問題があった。また後者の従来装置にあっては,電
気的に小さな異物を検出することが困難であり,その検出感度を高く
すると良質の乾燥海苔までも分離除去してしまう問題があり,検出感
度を低くすると除去すべき異物を検出できなくなって乾燥海苔の中に
異物が混入する問題があった。」(段落【0003】)
e課題を解決するための手段
「この発明は,上記課題を解決するために,海苔混合液の生海苔が
0.1~0.5mm程度の薄くて柔らかい小さな葉状体であることに着
目し,その生海苔のみを孔幅の小さい細長い分離孔に流通させて生海
苔の厚みより僅かに大きな寸法例えば0.5mm~2mm程度以上の異物
を分離するようにしたもので,海苔混合液を供給する供給口と,海苔
混合液を排出する排出口と,供給口から排出口へ海苔混合液を流す流
路を備え,その流路の途中に海苔混合液の流れを横切る分離壁を設け,
その分離壁に生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細長い分離孔を設
け,その分離孔の詰まりを清掃する清掃装置を備えて成ることを特徴
とする。」(段落【0004】)
f作用
「上記によれば,海苔混合液を供給口から供給すると,その海苔混
合液が流路を排出口に向けて流れるが,その流路の途中で海苔混合液
が分離壁によって受け止められる。ところが,分離壁には孔幅が生海
苔の厚みより僅かに大きい大きさの細長い分離孔を設けてあるので,
その海苔混合液の小さな薄い生海苔は分離壁の細長い分離孔を水と共
に通り抜け,その通り抜けた生海苔と水との海苔混合液が排出口から
排出される。この分離壁の分離孔は孔幅が生海苔の厚み(0.1~0.
5mm程度)より僅かに大きい大きさ(例えば0.5mm~2mm程度)に
形成してあるので,海苔混合液に混入している分離孔の孔幅より大き
な小エビや小貝等の異物は分離孔を通り抜けることができず,分離壁
によって滞留されて排出口へ流れない。従って,排出口から排出され
る海苔混合液の中には生海苔の厚みより僅かに大きな寸法以上の異物
が無くなり,その海苔混合液によって抄造した乾燥海苔には肉眼で気
になる程度の大きな異物が無くなり,乾燥海苔の品質が良くなる。異
物や生海苔による分離孔の詰まりは清掃装置により清掃される。」
(段落【0005】)
g実施例
「図1,図2は海苔異物分離除去装置の第1実施例を示し,1は上
方が開放している直方体形状のタンクで,対向する一対の側壁1aの
中間部に夫々軸挿通孔(符号省略)を設けてある。3はタンク1の底
壁1bに設けてある排出口で,この排出口3の外側に連結管4を固着
し,この連結管4にホース5を連結することによって排出手段を構成
してある。6は一方の側壁1aの内面に固着した軸受,7は他方の側
壁1aの外面に固着した軸支持体で,夫々軸挿通孔と同心に位置され
ている。8は軸挿通孔に挿通した供給パイプで,一端部は軸支持体7
の孔に嵌着され,両者間がオイルシール9によって水密にシールされ
ている。この供給パイプ8の他端部は後述の軸受18を介して上記軸
受6に支承されている。供給パイプ8の一端にはパイプ孔を閉鎖する
栓10を嵌着し,供給パイプ8の他端には海苔混合液を供給する為の
ホース11を連結して供給手段を構成してある。このホース11は図
示しない供給ポンプの吐出口に連結されている。供給パイプ8の中間
部にはタンク1内に位置する領域に多数の供給口13を設けてあり,
タンク1内の供給口13と排出口3との間の空間は海苔混合液の流路
を構成している。」(段落【0006】)
「15は供給パイプ8に回転自在に取付けた分離ドラムで,左右一
対の円板状の側壁16と筒状の周壁17とで分離室を形成し,両側壁
16には供給パイプ8に嵌合した軸受18が夫々固着されている。こ
の一方の軸受18は上記軸受6に嵌合され,両者間がオイルシール2
0によって水密にシールされている。この分離ドラム15の周壁17
は供給口13から排出口3へ流れる海苔混合液の流れを横切る分離壁
(分離壁17とも記す)を構成し,その分離壁17には生海苔の厚み
より僅かに大きい孔幅の細長い分離孔21を全面に亘って多数設けて
ある。この分離孔21の大きさは,生海苔が一般に0.1mm~0.5
mm程度の厚みで一辺が5~10mm程度の平面形状であるので,一例と
して孔幅Dを約0.5mm~2mm,長さLを10mm~20mm程度にして
ある。なおこの分離孔21の大きさは上記の数値に限定されるもので
はなく,孔幅を2mmより僅かに大きくしたり,長さを20mm以上にし
ても良い。また分離孔21の形状は直線状に限定されるものではなく,
波形に湾曲していても良い。分離孔21の数はそれらの開口面積の合
計が供給パイプ8のパイプ孔の断面積になるように多数設けることが
好ましい。」(段落【0007】)
「23は一方の軸受18に固着したスプロケットで,駆動モータ2
4の駆動軸24aに固着したスプロケット25との間にチェーン26
が懸回され,駆動モータ24の作動によって分離ドラム15を一方向
へ低速回転させるようにしてある。28は分離孔21の詰まりを掃除
する清掃装置で,分離タンク1の側壁1aの上部に清掃パイプ30を
分離ドラム15の回転軸線と平行に配設して構成してある。この清掃
パイプ30の一端部はホース31を介して水道等の水供給源に連結さ
れ,他端部は閉塞されている。この清掃パイプ30にはタンク1内に
位置する部分に分離壁17に向かう噴出孔32を多数設けてあり,噴
出孔32から給水される水によって各分離孔21が順次洗浄され,そ
の分離孔21の詰まりが除去されるようになっている。なお上記清掃
パイプ30の一端部をブロア等の空気供給源に連結し,噴出孔32か
ら圧縮空気を噴出させて分離孔21の詰まりを清掃するようにしても
良い。99は液面を示し,フロートスイッチ等を用いて高さ位置を維
持するようにしても良い。」(段落【0008】)
「使用に際しては,駆動モータ24を駆動させて分離ドラム15を
回転させると共に清掃パイプ30に水を供給して噴出孔32から水を
噴出させる。また供給ポンプを作動させて海苔切断洗浄後の海苔混合
液を供給パイプ8に供給して海苔混合液を供給口13から分離ドラム
15内に供給すると,分離ドラム15の分離壁17に生海苔の厚みよ
り僅かに大きな寸法の孔幅を有する細長い分離孔21を設けてあるの
で,海苔混合液の生海苔は水と共に分離孔21から分離ドラム15外
に流出するが,分離孔21の孔幅より大きな寸法の小エビや小貝等の
異物は分離孔21の孔縁によって係止されて分離ドラム15内に残さ
れる。分離孔21の孔幅は生海苔の厚み0.1~0.5mm程度より僅
かに大きい大きさ例えば0.5mm~2mm程度に形成してあるので,排
出口3から排出される海苔混合液の中には分離孔21の孔幅である0.
5mm~2mm程度以上の異物が無くなる。従って,排出口3から排出さ
れた海苔混合液によって抄造した乾燥海苔には肉眼で気になる程度の
大きな異物が無くなり,乾燥海苔の品質が良くなる。」(段落【00
10】)
「分離ドラム15内には分離孔21の孔幅より大きな寸法の異物が
残るので,分離孔21がこの異物によって詰まる恐れがあるが,分離
ドラム15が回転することによって清掃パイプ30の噴出孔32から
噴出する水が各分離孔21に当接するので,常に各分離孔21の詰ま
りが防止され,海苔混合液の生海苔は分離孔21から排出口3へスム
ーズに流れることができる。なお分離ドラム15ないに溜った異物は
側壁16に設けた図示しない取出口の蓋を開放して行う。」(段落
【0011】)
「図4は第2実施例を示すもので,分離タンク1eに排出パイプ4
0を固定的に配設し,その排出パイプ40に分離ドラム15eを回転
自在に支持させ,排出パイプ40の分離ドラム15e内に位置する部
分に排出口3eを設けてある。排出パイプ40の一端部はホース5e
を介して図示しない排出ポンプの吸引口に連結され,他端部は栓10
eによって閉塞されている。また分離タンク1eの底壁1beには海
苔混合液を供給する供給パイプ43の供給口13eが設けられている。
また清掃装置28eとして清掃ブラシ44を示してあり,その清掃ブ
ラシ44は分離タンク1eに固定的に配設した支持棒45に分離ドラ
ム15eの周壁17eに摺接するブラシ部材47を植設して構成して
ある。清掃ブラシ44は分離ドラム15eの周囲を多数に分割する位
置に夫々配設しても良い。なお第一実施例と実質的に同一な部分には
同じ符号にアルファベットのeを付して重複説明を省略する。以後の
実施例についても同様にアルファベットのf,g,h,k,mを付し
て重複説明を省略する。」(段落【0012】)
「この実施例では,分離ドラム15eの外側の分離室に海苔混合液
が供給され,この海苔混合液の生海苔と水が分離孔21eから分離ド
ラム15e内に流れ,この分離ドラム15e内に流入した異物分離除
去後の海苔混合液が排出口3eから排出される。清掃ブラシ44は分
離ドラム15eの回転によりブラシ部材47が周壁17eを摺接し,
異物や生海苔による各分離孔21eの詰まりを清掃する。」(段落
【0013】)
h発明の効果
「以上のように本発明においては,供給口と排出口の間に設けた分
離壁に生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細長い形状の分離孔を設
け,供給口から供給した海苔混合液をその分離孔に通して排出口に流
すようにしたので,小さくて柔らかい薄い生海苔は水と共に分離孔を
通して排出口に流すことができるが分離孔の孔幅より大きな小エビや
小貝等の異物は分離孔の孔縁に引っ掛けて排出口に流れるのを阻止で
き,その結果海苔混合液から小エビや小貝等の異物を確実に分離除去
できて後工程における乾燥海苔の品質を良くできる。また,海苔混合
液を分離壁の孔幅の小さい細長い分離孔に通して異物を分離するよう
にしたので,装置の構成を極めて簡単にできて製造コストを低くし得
ると共に保守を容易にできる。」
(イ)前記(ア)の記載によれば,甲2発明の概要は以下のとおりであると
認められる。
a甲2発明は,海苔抄き作業の前工程において海苔混合液から小エビ
や小貝等の異物を分離除去する海苔異物分離除去装置に関する。
従来の海苔異物分離装置として,分離タンクを上縁の高さが順に低
くなっている区画板にて区画して複数の沈殿槽を設け,その最上位の
沈殿槽に海苔混合液を供給し,各沈殿槽において生海苔より重い異物
を沈殿させて除去するようにしたものや,乾燥海苔を電気的に検査し,
異物の混入している乾燥海苔を分離排除するようにしたものが知られ
ているが,前者の従来装置では,海苔混合液が生海苔より重い異物を
沈殿槽にて沈殿させて除去するようになっているので,小エビや小貝
等が生海苔にもぐり込んでいるときには,沈殿することなく生海苔と
共に浮遊してしまい,小エビや小貝等の異物を確実に分離除去するこ
とができないという問題が,後者の従来装置では,電気的に小さな異
物を検出することが困難であり,その検出感度を高くすると,良質の
乾燥海苔までも分離除去してしまうが,検出感度を低くすると,除去
すべき異物を検出できなくなって乾燥海苔の中に異物が混入するとい
う問題があった。
b甲2発明は,従来の海苔異物分離装置が有する前記aの問題を解決
することを課題とし,生海苔のみを孔幅の小さい細長い分離孔に流通
させて生海苔の厚みより僅かに大きな寸法以上の異物を分離するよう
にしたもので,海苔異物分離除去装置において,分離タンク内に分離
ドラムを回転可能に内装し,その分離ドラムの周壁に生海苔の厚みよ
り僅かに大きい孔幅の細長い分離孔を設け,分離タンク内における分
離ドラムの内部と外部の一方に海苔混合液を供給する供給手段及び内
部と外部の他方から海苔混合液を排出する排出手段をそれぞれ配設し,
更に上記周壁の分離孔の詰まりを清掃する清掃装置を備えて成るもの
である。具体的には,図4に示されるように,分離タンク1eに排出
パイプ40を固定的に配設し,その排出パイプ40に分離ドラム15
eを回転自在に支持させ,清掃ブラシ44は分離タンク1eに固定的
に配設した支持棒45に分離ドラム15eの周壁17eに摺接するブ
ラシ部材47を植設して構成し,分離ドラム15eの外側の分離室に
海苔混合液が供給され,この海苔混合液の生海苔と水が分離孔21e
から分離ドラム15e内に流れ,この分離ドラム15e内に流入した
異物分離除去後の海苔混合液が排出口3eから排出され,清掃ブラシ
44が,分離ドラム15eの回転によりブラシ部材47が周壁17e
を摺接し,異物や生海苔による各分離孔21eの詰まりを清掃するも
のである。
c甲2発明によれば,海苔混合液の小さな薄い生海苔は分離壁の細長
い分離孔を水と共に通り抜け,その通り抜けた生海苔と水との海苔混
合液が排出口から排出されるが,海苔混合液に混入している分離孔の
孔幅より大きな小エビや小貝等の異物は分離孔を通り抜けることがで
きず,分離壁によって滞留されて排出口へ流れないので,排出口から
排出される海苔混合液の中には生海苔の厚みより僅かに大きな寸法以
上の異物が無くなり,乾燥海苔の品質が良くなるとともに,異物や生
海苔による分離孔の詰まりを清掃装置により清掃することができると
いう作用効果を奏する。
ウ相違点1の容易想到性について
(ア)甲1発明は,前記2(2)記載のとおり,従来の異物分離除去装置であ
る甲2発明が,分離ドラムの周壁に所要数の分離孔を設け,生海苔混合
液を回転する分離ドラム内に供給し,分離孔を通過させることによって,
生海苔混合液中の異物を分離ドラムの分離孔の周縁に引っ掛けて排出口
に流れるのを防止するという方式(以下「従来方式」という。)であっ
たため,分離孔の周縁に異物が蓄積し,目詰まりが発生するという課題
を有するものであったことから,かかる課題を解決することを目的とし,
甲2発明における異物分離除去の方式を変更して,固定部材(環状枠板
部)とこの内周縁内に内嵌めされた回転部材(第一回転板)との間のク
リアランスに生海苔を導入しつつ,異物を,回転部材(第一回転板)の
回転による遠心力によって,円周方向(クリアランスよりも環状枠板部
側)に追いやり,生海苔のみを水とともにクリアランスを通過させるよ
うにしたもの(以下「回転板方式」という。)であり,かかる方式を採
用したことにより,異物がクリアランスに詰まりにくく,従来の異物分
離除去装置のように,目詰まり洗浄装置等を別途設けることを不要とし
たものであると認められる。
これに対し,甲2発明は,前記イ(イ)記載のとおり,従来の異物分離
装置が,生海苔より重い異物を沈殿槽に沈殿させて除去するという方式
や乾燥海苔を電気的に検査して異物の混入している乾燥海苔を分離排除
するという方式であり,異物除去が不十分であったため,前記従来方式
を用いて,分離ドラムの周壁に生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細
長い形状の分離孔を設け,海苔混合液をその分離孔を通過させて排出口
に流すことにより,生海苔は分離孔を通し,分離孔の孔幅より大きな異
物は分離孔の孔縁に引っ掛けて排出口に流れるのを阻止するようにした
ものであり,清掃ブラシ44が分離ドラム15eの回転によりブラシ部
材47が周壁17eを摺接し,異物や生海苔による各分離孔21eの詰
まりを清掃するようにしたものであると認められる。
(イ)ところで,本件発明は,前記1(2)記載のとおり,甲1発明を従来技
術とし,その有する課題の解決を目的として発明されたものであって,
回転板方式による異物分離除去装置である甲1発明には,「共回り」の
課題があることを見い出し,これを克服するために,回転板方式による
異物分離除去装置において,回転板の回転とともに回る生海苔の共回り
を防止する防止手段を設けたものである。
そうすると,甲1発明は,回転板方式を前提とする発明である点で本
件発明と共通するものであるが,甲1には,本件発明の課題である「共
回り」,すなわち,「回転板を高速回転することから,生海苔及び異物
が,回転板とともに回り(回転し),クリアランスに吸い込まれない現
象,又は生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回
転し,クリアランスに吸い込まれない現象であり,究極的には,クリア
ランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する状況等」(本件明
細書の段落【0003】)についての記載はない。
他方,甲1発明は,前記(ア)記載のとおり,従来方式では,分離孔の
周縁に異物が蓄積し,目詰まりが発生するという問題があったことから,
この問題を解決することを目的とし,回転板方式を採用することにより,
異物がクリアランスに詰まりにくく,従来の異物分離除去装置のように,
目詰まり洗浄装置等を別途設けることを不要としたものであって,甲1
には,その効果として,「第一回転板は回転しているため,前記クリア
ランスには生海苔が詰まりにくいものである。」(段落【0028】),
「よって,この異物分離除去装置を使用すれば,異物が前記クリアラン
スに詰まりにくいため,従来のように目詰まり洗浄装置等を別途に設け
る必要がない結果,装置の維持がしやすいとともに取扱いが簡易になり,
この結果,生海苔の異物分離除去作業の作業能率を向上させることがで
きる。」(段落【0029】)などと記載されており,甲1においては,
回転板方式を採用したことにより,クリアランスには生海苔や異物が詰
まりにくいことが記載されている。
そして,回転板方式を採用した異物分離除去装置において,前記「共
回り」の現象が生じることが自明であることを認めるに足りる証拠はな
い。原告が「回転体の回転に伴って生じる共回り」の課題及びその解決
手段を開示した文献であるとして挙げる甲8ないし甲10には,「共回
り」についての記載はあるが,後記(3)ウ(イ)記載のとおり,「共回り」
を防止しようとする対象物は,甲8発明では繊維屑,甲9発明では粉流
体,甲10発明では,カーボンファイバーのミルド粉などの原料であり,
本件発明の生海苔混合液のような液体を主流体としたものではなく,ま
た,本件発明のように,回転部材と固定部材のクリアランス部分におい
て生じる「共回り」を対象としたものでもないから,本件発明における
「共回り」の防止と,甲8ないし甲10発明における「共回り」の防止
は,技術的意義が相違する。
したがって,甲1に接した当業者において,回転板方式による異物分
離除去装置である甲1発明に前記「共回り」の課題があることを想起し
得たと認めることはできない。
(ウ)加えて,本件発明及び甲1発明は,固定部材と回転部材との間のク
リアランスに生海苔を導入しつつ,異物を回転部材による遠心力により
円周方向に追いやり,生海苔のみがクリアランスを通過するようにした
回転板方式を前提とするものであるのに対し,甲2発明は,これとは異
なり,生海苔混合液を分離ドラムの周壁に設けられた分離孔を通過させ
ることによって,生海苔混合液中の異物を分離ドラムの分離孔の周縁に
引っ掛けて分離除去するという従来方式を前提とするものであって,甲
1発明と甲2発明とでは,前提とする異物分離除去に係る技術思想(方
式)が異なるから,仮に,甲1に接した当業者において,甲1に「前記
クリアランスには生海苔が詰まりにくい」(段落【0028】),「異
物が前記クリアランスに詰まりにくい」(段落【0029】)との記載
から,甲1発明には,なお,クリアランスに異物や生海苔の詰まりが生
じるという問題があるという課題を想起し得たとしても,甲1発明に,
それとは前提とする異物分離除去に係る技術思想の異なる甲2発明を適
用する動機付けがあったとは認められない。
さらに,甲2発明において,分離ドラム15は,本件発明の「回転
板」には相当せず,また,清掃ブラシ44は,前記従来方式の異物分離
除去過程において生じた分離孔21の詰まりを,単に清掃するための手
段にすぎず,回転板方式の異物分離除去過程において生じる「回転板の
回転とともに回る生海苔の共回り」を防止する手段でもないから,仮に,
当業者において,甲1発明に甲2発明を適用することを試みたとしても,
甲1発明において,相違点1に係る本件発明3の構成を備えるようにす
ることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
(エ)原告の主張について
原告は,甲1の記載によれば,甲1発明によっても,なお異物及び生
海苔によるクリアランスの詰まりという課題が完全には解消せず残され
ていることが理解され,甲1発明において,「異物及び生海苔によるク
リアランスの詰まり」という課題を解決するに当たり,甲2発明を適用
することは容易である旨主張する。
しかしながら,甲1に接した当業者において,回転板方式による異物
分離除去装置である甲1発明に前記「共回り」の課題があることを想起
し得たと認めることができないことは,前記(イ)記載のとおりであり,
仮に,当業者において,甲1発明には,なお,クリアランスに異物や生
海苔の詰まりが生じるという問題があるという課題を想起し得たとして
も,甲1発明に,前提とする異物分離除去に係る技術思想の異なる甲2
発明を適用する動機付けがあったとは認められないこと,及び,仮に,
当業者において,甲1発明に甲2発明を適用することを試みたとしても,
甲1発明に,それとは前提とする異物分離除去に係る技術思想の異なる
甲2発明を適用し,甲1発明において,相違点1に係る本件発明3の構
成を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められ
ないことは,前記(ウ)記載のとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ以上によれば,甲1発明において,甲2発明を適用し,相違点1に係る
本件発明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得た
ことであるとは認められないから,取消事由1-1に係る原告の主張は理
由がない。
(2)取消事由1-2(甲1発明への甲3発明の適用容易性についての判断の誤
り)について
ア原告は,甲1発明において,甲3発明を適用し,相違点1に係る本件発
明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得たことで
ある旨主張する。
甲3(A作成に係る陳述書)に記載された発明が,本件特許の出願前に
公然と知られ,また公然と実施をされた発明であること及びその構造につ
いては,当事者間に争いがあるものの,これらの点は措き,原告が認める
本件審決の認定した甲3発明の内容を前提として,原告の上記主張につい
て,以下判断する。
イ本件審決の認定した甲3発明の内容について
(ア)本件審決が認定した甲3発明の構成は以下のとおりである(別紙4
に,原告が,甲3装置の断面図であるとして,本件審判手続において提
出した書面に添付した図面を掲記する。)。
「上部が開放されてる外槽には,下部に第2排水パイプが接続され,
外槽の底部には送水筒が接続され,
外槽の底部中央には回転軸が貫通しており,
外槽内側には,回転軸が中心となるような配置で濾筒が設けられ,
濾筒は側壁に無数の微小通水孔が形成され,濾筒の上端縁に,鍔状の
フランジ部があり,
回転ブラシ筒を前記回転軸に貫通させて濾筒の内側に回転可能に装入
させ,
回転ブラシ筒の周壁には,途中で数カ所切れて連続していないらせん
状のブラシが設けられ,らせん状のブラシ先端は,濾筒の内周壁に当接
するように形成されており,
回転ブラシ筒の上端より所定間隔下であって,回転ブラシ筒の周壁に
らせん状に取り付けられているブラシの最上部より少し低い高さ位置に
L型金具を設け,
赤い囲み部材の上方の開放部を覆う帽状キャップの下面中央には,前
記回転軸を受ける軸受孔が設けられ,短い筒状部材が帽状キャップの下
面に突設され,短い筒状部材の端面には環状鍔が設けられ,帽状キャッ
プを赤い囲み部材に取り付けた際に,該環状鍔は前記濾筒の上端縁と対
向し隙間を形成するようになっており,
L型金具は,濾筒の上端縁に当接するようにされ,水平方向に延びる
該隙間に挿入されているL型金具の刃部が,該隙間を移動し,該隙間に
異物が詰まって,該隙間を通過する生海苔混合液の量が少なくなること
がない,
WK-3型用大荒ゴミ取り装置であって,
回転ブラシ筒の回転につれて濾筒内を上昇した生海苔混合液は,帽状
キャップの環状鍔の下面と,濾筒の上端縁との間に形成される隙間を介
して押し出され,排出樋を介して出されるWK-3型用大荒ゴミ取り装
置。」
(イ)上記構成,甲3及び甲16(口頭審理陳述要領書(二))の記載に
よれば,甲3発明における異物分離除去の方式は,生海苔混合液が,濾
筒内を回転ブラシ筒の周壁にらせん状に設けられたブラシのスクリュ回
転により下部から上部に上げられ,環状鍔の下面と濾筒の上端縁との間
に形成される隙間を通過できない大異物は,吸引により第一排水パイプ
を介して外部へ排出除去され,大異物以外を含んだ生海苔混合液は,上
記隙間から排出樋を介して排出され,次工程(より小さな異物を除去す
る工程)に送られるというものである。
ウ相違点1の容易想到性について
(ア)甲1に接した当業者において,回転板方式による異物分離除去装置
である甲1発明に前記「共回り」の課題があることを想起し得たとは認
められないことは,前記(1)ウ(イ)記載のとおりである。
(イ)加えて,本件発明及び甲1発明は,固定部材と回転部材との間のク
リアランスに生海苔を導入しつつ,異物を回転部材による遠心力により
円周方向に追いやり,生海苔のみがクリアランスを通過するようにした
回転板方式を前提とするものであるのに対し,甲3発明は,これとは異
なり,異物を吸引により第一排水パイプを介して外部へ排出除去すると
いう方式によるものであって,甲1発明と甲3発明とでは,その前提と
する異物分離除去に係る技術思想(方式)が異なるから,仮に,甲1に
接した当業者において,甲1発明には,なお,クリアランスに異物や生
海苔の詰まりが生じるという問題があるという課題を想起し得たとして
も,甲1発明に,それとは前提とする異物分離除去に係る技術思想の異
なる甲3発明を適用する動機付けがあったとは認められない。
さらに,甲3発明において,回転ブラシ筒,その周壁に設けられたブ
ラシは,本件発明の「回転板」には相当せず,環状鍔と濾筒の上端縁と
で形成される隙間は,固定部材と回転板との間に形成されるものでもな
い。
そして,該隙間内を回転する「L型金具」は,大異物以外を含んだ生
海苔混合液の通路である「隙間」に詰まった異物を単に除去するための
手段にすぎず,回転板方式の異物分離除去過程において生じる「回転板
の回転とともに回る生海苔の共回り」を防止する手段でもないから,仮
に,当業者において,甲1発明に甲3発明を適用することを試みたとし
ても,甲1発明において,相違点1に係る本件発明3の構成を備えるよ
うにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
エ以上によれば,甲1発明において,甲3発明を適用し,相違点1に係る
本件発明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得た
ことであるとは認められないから,取消事由1-2に係る原告の主張は理
由がない。
(3)取消事由1-3(甲1発明への甲8ないし甲10発明の適用容易性につい
ての判断の誤り)について
ア原告は,甲1発明において,甲8ないし甲10発明を適用し,相違点1
に係る本件発明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到
し得たことである旨主張するので,以下において判断する。
イ甲8ないし甲10発明について
(ア)甲8発明
a甲8には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面につ
いては,別紙3の刊行物図面目録中の「2甲8」を参照。)。
⒜特許請求の範囲
「【請求項1】下部を小径とし,かつ開口した円錐状のケージと,
該ケージ内に収納されるスクリュー羽根を備え,搬送気流と共に送
り込まれる繊維屑をケージ内に上方から供給し,ケージを介して搬
送気流を排出し,回転するスクリュー羽根によりケージに付着する
繊維屑を掻落し,順次下方に押し下げ,下部開口部から圧縮して排
出する繊維屑圧縮排出装置において,ケージ内面下方にはスクリュ
ー羽根と共廻りする繊維屑に対する共廻り防止バーを上下方向に取
り付け,スクリュー羽根の上方はケージ内面に,下方は上記共廻り
防止バー内面に可及的に近接する形状としたことを特徴とする繊維
屑圧縮排出装置。」
「【請求項2】下部を小径とし,かつ開口した円錐状のケージと,
該ケージ内に収納されるスクリュー羽根を備え,搬送気流と共に送
り込まれる繊維屑をケージ内に上方から供給し,ケージを介して搬
送気流を排出し,回転するスクリュー羽根によりケージに付着する
繊維屑を掻落し,順次下方に押し下げ,下部開口部から圧縮して排
出する繊維屑圧縮排出装置において,スクリュー羽根は円錐状とし,
ケージは上下に区分し,上部ケージはスクリュー羽根との間隙を微
小とし,ケージに付着する繊維屑をスクリュー羽根により掻き取る
と共に,下部ケージはスクリュー羽根と共廻りする繊維屑に対する
共廻り防止バーを上下方向に取り付け,該共廻り防止バーがスクリ
ュー羽根に近接する大きさに形成したことを特徴とする繊維屑圧縮
排出装置。」
「【請求項3】下部を小径とし,かつ開口した円錐状のケージと,
該ケージ内に収納されるスクリュー羽根を備え,搬送気流と共に送
り込まれる繊維屑をケージ内に上方から供給し,ケージを介して搬
送気流を排出し,回転するスクリュー羽根によりケージに付着する
繊維屑を掻落し,順次下方に押し下げ,下部開口部から圧縮して排
出する繊維屑圧縮排出装置において,円錐状のケージの下半分にス
クリュー羽根と共廻りする繊維屑に対する共廻り防止バーを取り付
け,スクリュー羽根は上半部はケージ内面に沿った大型の円錐形と
し,下半部は共廻り防止バーの内面に沿った小径の円錐形としたこ
とを特徴とする繊維屑圧縮排出装置。」
「【請求項4】下部を小径とし,かつ開口した円錐状のケージと,
該ケージ内に収納されるスクリュー羽根を備え,搬送気流と共に送
り込まれる繊維屑をケージ内に上方から供給し,ケージを介して搬
送気流を排出し,回転するスクリュー羽根によりケージに付着する
繊維屑を掻落し,順次下方に押し下げ,下部開口部から圧縮して排
出する繊維屑圧縮排出装置において,ケージ内面には縦方向にスク
リュー羽根と共廻りする繊維屑に対する共廻り防止バーを取り付け,
スクリュー羽根は上記共廻りバー内面に可及的に近接すると共に,
ケージ上方には繊維屑供給ダクトを接続する繊維屑供給室を形成し,
スクリュー羽根の上端は繊維屑供給ダクトより上方にまで延長され
ていることを特徴とする繊維屑圧縮排出装置。」
「【請求項5】下部を小径とし,かつ開口した円錐状のケージと,
該ケージ内に収納されるスクリュー羽根を備え,搬送気流と共に送
り込まれる繊維屑をケージ内に上方から供給し,ケージを介して搬
送気流を排出し,回転するスクリュー羽根によりケージに付着する
繊維屑を掻落し,順次下方に押し下げ,下部開口部から圧縮して排
出する繊維屑圧縮排出装置において,ケージ内面には縦方向にスク
リュー羽根と共廻りする繊維屑に対する共廻り防止バーを取り付け,
スクリュー羽根は上記共廻りバー内面に可及的に近接すると共に,
繊維屑供給ダクトはケージ上方部に連結したことを特徴とする繊維
屑圧縮排出装置。」
「【請求項6】共廻り防止バーは回転するスクリユー羽根により
掻き取られ,ケージ内面に残存する繊維屑の厚さが所定圧損以下と
なる厚さとしたことを特徴とする請求項1,2,3,4または5記
載の繊維屑圧縮排出装置。」
⒝産業上の利用分野
「本発明は紡績工場においてコーマ,カード精紡機その他各種繊
維機械から発生する落綿吸引蒐集綿,あるいはシャーリング加工機
から発生する切断されたシャーリング屑,起毛機において発生する
起毛屑,その他浮遊綿(以下これらを総称して繊維屑という)を蒐
集し,圧縮して排出する繊維屑圧縮排出装置に関する。」(段落
【0001】)
⒞従来の技術
「上記繊維屑を蒐集し,これを圧縮し排出する装置としては,例
えば図8及び9に示す装置がある。この繊維屑圧縮排出装置50は
筺体51内に上方を大径とし,下方を小径としたケージ52を設け,
このケージ52内に回転するスクリュー羽根53を収納し,かつケ
ージ52の上方に形成された繊維屑供給室54の一側には繊維屑供
給ダクト55を取り付け,またケージ52の外周と筺体51間には
浄化空気室56を形成し,該空気室56には適宜の吸気装置(寿司
省略(判決注・図示省略の誤記と認める。))に連結される排気ダ
クト57を取り付ける。59はスクリュー羽根53を回転する駆動
モータである。」(段落【0002】)
「スクリュー羽根53はケージ52の内面に付着する繊維屑を掻
き取り,順次下方に押し下げるべくケージ52とは微小間隙を有す
る円錐状に形成されている。58はケージ52の下方に取り付けら
れるレジユーサで下方を絞り,スクリュー羽根53により押下げら
れる繊維屑に抵抗を与え,圧縮してから排出するようにしたもので
ある。」(段落【0003】)
「これにより搬送気流と共に供給ダクト55から供給された繊維
屑は,排気ダクトからの吸引作用によりケージ52の内面に付着し,
所定圧損になった時スクリュー羽根53の回転によりこれを掻き落
し,下方に押し込み,レジユーサ58の抵抗により繊維屑を圧縮し
つつ下方に排出する。」(段落【0004】)
⒟発明が解決しようとする課題
「上記従来の繊維屑圧縮排出装置において繊維屑が細かく且つ多
量に送り込まれる場合は,スクリュー羽根の回転で掻き落してもケ
ージ内面に繊維屑が付着残留し,目詰りを起し圧力損失が異常に高
くなる。また嵩高い繊維屑の場合では上記スクリュー羽根53によ
る掻き落しに際し,該スクリュー羽根に繊維屑が付着蓄積し,スク
リュー羽根と共に回転する,いわゆる共廻りを生ずるおそれがある。
この共廻りを生じたときは繊維屑は下方に移行せず,スクリュー羽
根内に充満し,綿詰まりを生じる等の問題がある。」(段落【00
05】)
「また上記スクリュー羽根53はケージ52に付着する繊維屑を
掻き落とすことを目的とするもので,従ってスクリュー羽根の上端
特にスクリューの起点がケージ上端とほぼ同一高さに設定されてい
る。このため繊維屑中に糸屑や比較的長繊維のものや紐状のものが
混入するときは,図に示す如く繊維屑Wはスクリュー羽根の上端お
よび軸に又状に引掛り,これが原因として綿詰まりを発生したり,
排出される繊維屑が圧縮されない原因となる場合がある。本発明は
これらの点に鑑みてなされたもので,ケージ内面に付着する繊維屑
のスクリュー羽根の回転による掻き落としを良好ならしめると共に
繊維屑がスクリュー羽根および軸に跨がり付着することの防止とス
クリュー羽根の回転と共にケージ内面から掻き取られた繊維屑が共
廻りするのを防止することを目的とする。」(段落【0006】)
⒠課題を解決するための手段
「上記目的を達成するための第1の発明は下部を小径とし,かつ
開口し円錐状のケージと,該ケージ内に収納されるスクリュー羽根
を備え,搬送気流と共に送り込まれる繊維屑をケージ内に上方から
供給し,ケージを介して搬送気流を排出し,回転するスクリュー羽
根によりケージに付着する繊維屑を掻き落とし,順次下方に押下げ,
下部開口部から圧縮して排出する繊維屑排出圧縮装置において,ケ
ージ内面下方にはスクリュー羽根と共廻りする繊維屑に対する共廻
り防止バーを上下方向に取り付け,スクリュー羽根の上方はケージ
内面に,下方は上記共廻り防止バー内面に可及的に近接する形状と
したものである。」(段落【0007】)
⒡作用
「ケージ内面に付着する繊維屑は回転するスクリュー羽根により
掻き落とされる。この際スクリュー羽根に付着した繊維屑はケージ
に取り付けた共廻り防止バーにより共廻りを阻止され,スクリュー
羽根の回転に伴い,下方に押し下げられ,繊維屑は圧縮する。また
スクリュー羽根および軸に繊維屑が跨り付着することがないので綿
詰まりの発生が防止される。」(段落【0013】)
⒢実施例
「図1及び2は第1実施例を示す。繊維屑圧縮排出装置1は筺体
2内に周知の如く下部を小径とし,かつ開口した円錐状のケージ3
と,このケージ3内に回転するスクリュー羽根4を収納する。スク
リュー羽根4の上方4bとケージ3の上方内面3aとの隙間は極小
とし,スクリュー羽根4で付着繊維屑を掻き落とす。6はケージ3
の上方に形成した繊維屑供給室5の一側に設けられた繊維屑供給口,
また8はケージ3の外周と筺体2との間に形成された浄化空気室に
開口する排気ダクト,9は周知のレジユーサ,10は所定圧損値に
なった時回転するスクリュー羽根駆動モータである。」(段落【0
014】)
「本発明の繊維屑圧縮排出装置1は上記ケージ3の内面にスクリ
ュー羽根4の回転に伴われて繊維屑が共廻りするのを阻止する共廻
り防止バー11を取り付ける。この共廻り防止バー11はケージ3
の上方を除き,略々中央部より下方に複数個,例えば4個を対象に
上下方向に取り付けてなるもので,スクリュー羽根4はこの共廻り
防止バー11を設けたことによりケージ3とスクリュー羽根4との
間隙には繊維屑層が残存する。従ってこの残存繊維屑層の空気抵抗
が許容範囲内とすることが好ましく,共廻り防止バー11の厚みは
これを考慮して可及的に薄く形成する。例えばケージ3の大きさ等
にもよるが,実験結果ではその厚みは3mm程度が好ましい。」
(段落【0015】)
「これによりケージ3には共廻り防止バー11の厚さ以上の繊維
屑が形成されず,かつスクリュー羽根4の回転によりケージ3に付
着した繊維屑は纏絡作用で剥離することができる。」(段落【00
16】)
「なお,スクリュー羽根4の上端即ち起点4aは繊維屑供給室5
の上方まで延長する。これにより供給ダクト6から供給された繊維
屑は排気ダクト8を介しての吸引作用によりケージ3内方に向かっ
て流れるもので,従ってスクリュー羽根4の上端4aに跨ったり引
っかかるおそれはない。」(段落【0017】)
⒣発明の効果
「以上の如く本発明によるときは,搬送気流と共に送られる繊維
屑はケージに付着し,スクリュー羽根の回転により掻落され,下方
に押し進め圧縮しつつ下方に取り付けたレジユーサから排出される
からケージの目詰まりを防止すると共に,ケージの内面下方に共廻
り防止バーを設けたから,スクリュー羽根の回転に伴われる繊維屑
の共廻りによる綿詰まりを防止することができる。また上記共廻り
防止バーの厚みはスクリュー羽根とケージとの間に生ずる繊維屑層
の厚さが所定圧損以下となるようにその厚さを決定したから,ケー
ジによる濾過能力の低下を生ずることがない。またスクリュー羽根
の起点より下に供給ダクトを接続したからスクリュー羽根や軸に繊
維屑が跨り付着することが無くなり綿詰まりトラブル発生を防止す
ることができた。」(段落【0022】)
b前記aの記載によれば,甲8発明の概要は以下のとおりであると認
められる。
⒜甲8発明は,紡績工場においてコーマ,カード精紡機その他各種
繊維機械から発生する落綿吸引蒐集綿,あるいはシャーリング加工
機から発生する切断されたシャーリング屑,起毛機において発生す
る起毛屑,その他浮遊綿(これらを総称して「繊維屑」という。)
を蒐集し,圧縮して排出する「繊維屑圧縮排出装置」に関する。
⒝従来の繊維屑圧縮排出装置において,嵩高い繊維屑の場合では,
スクリュー羽根53による掻き落しに際し,該スクリュー羽根に繊
維屑が付着蓄積し,スクリュー羽根と共に回転する,いわゆる共回
りを生ずるおそれがあり,この共回りを生じたときは繊維屑は下方
に移行せず,スクリュー羽根内に充満し,綿詰まりを生じるなどの
問題があったことから,スクリュー羽根の回転と共にケージ内面か
ら掻き取られた繊維屑が共回りするのを防止することなどを目的と
し,甲8発明は,下部を小径とし,かつ開口した円錐状のケージと,
該ケージ内に収納されるスクリュー羽根を備え,搬送気流と共に送
り込まれる繊維屑をケージ内に上方から供給し,ケージを介して搬
送気流を排出し,回転するスクリュー羽根によりケージに付着する
繊維屑を掻落し,順次下方に押し下げ,下部開口部から圧縮して排
出する繊維屑圧縮排出装置において,「ケージ内面下方にはスクリ
ュー羽根と共廻りする繊維屑に対する共廻り防止バーを上下方向に
取り付け,スクリュー羽根の上方はケージ内面に,下方は上記共廻
り防止バー内面に可及的に近接する形状とした」ものである。
⒞甲8発明によれば,スクリュー羽根の回転に伴われる繊維屑の共
回りによる綿詰まりを防止することができるという作用効果を奏す
る。
(イ)甲9発明
a甲9には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面につ
いては,別紙3の刊行物図面目録中の「3甲9」を参照。)。
⒜実用新案登録請求の範囲
「【請求項1】底板上に間隙を介して粉粒体供給用の内筒が設け
られ,該内筒と中心線を共有する外筒の下端を底板上に接続し,内
外筒間に上記間隙から排出される粉粒体の円環状通路を形成し,該
通路に排出口を設け,かつ底板の中心部に突設した直立回転体に中
央回転羽根を設け,該回転羽根の先端に外筒の内周面に沿う外周回
転リングを設け,該回転リングに設けた複数の外周回転羽根を内側
に向わせてなる粉粒体フィーダにおいて,上記底板上面に開き角均
等な複数の半径線にそれぞれ均等角度で同一方向に交差する等長抵
抗板を設け,該抵抗板の直上に上記中央回転羽根を配設してなる粉
粒体フィーダにおける粉粒体の共回り防止用抵抗板。」
⒝産業上の利用分野
「本考案は粉粒体フィーダの共回り防止に関するものである。」
(段落【0001】)
⒞従来の技術
「従来の粉粒体フィーダには,粉粒体の共回り防止機構として内
筒部内面に二角柱状の突起を垂直に設けたものがあるが,粉粒体に
よっては突起部で圧密を起こすことがあった。」(段落【000
2】)
⒟考案が解決しようとする課題
「本考案は回転羽根と共回りしようとする粉粒体を圧密を起こす
ことなく安定して排出させることを目的とする。」(段落【000
3】)
⒠課題を解決するための手段
「上記の目的を達成するため本考案は底板上に間隙を介して粉粒
体供給用の内筒が設けられ,該内筒と中心線を共有する外筒の下端
を底板上に接続し,内外筒間に上記間隙から排出される粉粒体の円
環状通路を形成し,該通路に排出口を設け,かつ底板の中心部に突
設した直立回転体に中央回転羽根を設け,該回転羽根の先端に外筒
の内周面に沿う外周回転リングを設け,該回転リングに設けた複数
の外周回転羽根を内側に向わせてなる粉粒体フィーダにおいて,上
記底板上面に開き角均等な複数の半径線にそれぞれ均等角度で同一
方向に交差する等長抵抗板を設け,該抵抗板の直上に上記中央回転
羽根を配設してなる粉粒体フィーダにおける粉粒体の共回り防止用
抵抗板によって構成される。」(段落【0004】)
⒡作用
「回転羽根と共回り(矢印A方向)を始めた粉粒体は,抵抗板ま
で運ばれる。抵抗板は斜めに取り付けてあるので粉粒体には外周部
方向(矢印B)へ力が作用するため安定した排出が可能となる。」
(段落【0005】)
⒢実施例
「底板7上に間隙tを介して粉粒体供給用の内筒2が設けられ,
該内筒2と中心線を共有する外筒1の下端を底板7上に接続し,内
外筒1,2間に上記間隙tから排出される粉粒体の円環状通路pを
形成し,該通路pに排出口8を設けられる。」(段落【000
6】)
「上記底板7の中心部には上端円錐形の直立回転体cを突設し,
これに車輻状の中央回転羽根4を設け,該回転羽根4の先端に外筒
1の内周面に沿う外周回転リング6を設け,該回転リング6に複数
の外周回転羽根5を内側に向わせて粉粒体フィーダが形成され
る。」(段落【0007】)
「上記底板7上面に開き角αが均等な(60度で6条)複数の半
径線d上にそれぞれ均等角度α’で同一方向に交差する等長抵抗板
13を設け,該抵抗板13の直上に上記中央回転羽根4を配設して
なるものである。」(段落【0008】)
「尚,図中3で示すものは流量調節リング,9は排出シュート,
10は減速機,11は電動機,12は安全カバーである。」(段落
【0009】)
⒣考案の効果
「本考案は上述のように構成したので,圧密を起こすことなく安
定した排出が可能となる。」(段落【0010】)
b前記aの記載によれば,甲9発明の概要は以下のとおりであると認
められる。
⒜甲9発明は,粉粒体フィーダの共回り防止に関する。
⒝甲9発明は,回転羽根と共回りしようとする粉粒体を圧密を起こ
すことなく安定して排出させることを目的とし,底板上に間隙を介
して粉粒体供給用の内筒が設けられ,該内筒と中心線を共有する外
筒の下端を底板上に接続し,内外筒間に上記間隙から排出される粉
粒体の円環状通路を形成し,該通路に排出口を設け,かつ底板の中
心部に突設した直立回転体に中央回転羽根を設け,該回転羽根の先
端に外筒の内周面に沿う外周回転リングを設け,該回転リングに設
けた複数の外周回転羽根を内側に向わせてなる粉粒体フィーダにお
いて,「上記底板上面に開き角均等な複数の半径線にそれぞれ均等
角度で同一方向に交差する等長抵抗板を設け,該抵抗板の直上に上
記中央回転羽根を配設してなる粉粒体フィーダにおける粉粒体の共
回り防止用抵抗板」によって構成したものである。
⒞甲9発明によれば,回転羽根と共回りを始めた粉粒体は,抵抗板
まで運ばれ,抵抗板は斜めに取り付けてあるので粉粒体には外周部
方向へ力が作用し,安定した排出が可能となるので,圧密を起こす
ことなく安定した排出が可能となる,という作用効果を奏する。
(ウ)甲10発明
a甲10には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面に
ついては,別紙3の刊行物図面目録中の「4甲10」を参照。)。
⒜実用新案登録請求の範囲
「1.貯槽の底部に横送り用のフィーダを取り付け,貯槽の内部
でブリッジ防止用のアジテータを貯槽の内周面に沿って回転させな
がら原料の切り出しを実施するように構成するとともに,貯槽の内
周面に内側に向かって延びる突起を,貯槽の周方向に設定位置を変
更自在に取り付けた原料供給装置。」
⒝産業上の利用分野
「本考案は貯槽に溜められた原料を横送り用のフィーダで切り出
す形式の原料供給装置に関するものである。」(1頁14行ないし
16行)
⒞考案が解決しようとする課題
「このような従来の構成では,アジテータ4が貯槽1の内周面9
に沿って回転することによって,貯槽1の内部での原料7のブリッ
ジ現象を防止できる。しかし,原料7の性状によっては原料7がア
ジテータ4と一緒に貯槽1の内周面9に沿って回転する共回り現象
が発生し,充分な攪拌ができなくなって,開口6からスクリュー部
10へ原料7が流れていかない。このように共回り現象が発生する
原料7としては,カーボンファイバーのミルド粉などを例に挙げる
ことができる。本考案はアジテータ4を運転しても原料7の共回り
現象を回避できる原料供給装置を提供することを目的とする。」
(2頁6行ないし19行)
⒟課題を解決するための手段
「本考案の原料供給装置は,貯槽の底部に横送り用のフィーダを
取り付け,貯槽の内部でブリッジ防止用のアジテータを貯槽の内周
面に沿って回転させながら原料の切り出しを実施するように構成す
るとともに,貯槽の内周面に内側に向かって延びる突起を,貯槽の
周方向に設定位置を変更自在に取り付けたことを特徴とする。」
(3頁1行ないし7行)
⒠作用
「この構成によると,アジテータに伴われて共回りしようとした
原料は,貯槽の内周面から内側に向かって延設された突起に衝突し
て原料の回転速度が低下する。突起の設定位置は原料の性状に応じ
て設定する。」(3頁9行ないし13行)
⒡実施例
「第1図は本考案の原料供給装置を示し,アジテータ4の上部翼
llaと下部翼llbの間の位置に貯槽1の内周面9から貯槽1の
内側に向かって突起12が設けられている。
この突起12は,第2図に示すように貯槽1の下端のフランジ部
Aとフィーダ2の上端のフランジ部Bとの間に介装された環状体1
3の内周の一部に形成されている。環状体13はフランジ部A,B
とともにボルトとナットからなる締め付け金具14によって共締め
されている。環状体13には締め付け金具14が通るようにフラン
ジ部A,Bと同じピッチで挿通穴15が穿設されている。
このように構成したため,アジテータ4に伴われて共回りしよう
とした原料7は,貯槽1の内周面9から内側に向かって延設された
突起12に衝突して抵抗が発生して,原料7の回転速度が低下し,
原料7はアジテータ4によって充分に攪拌される。攪拌された原料
7は,開口6からスクリュー部10に流れ込み,払出口8から次々
に放出される。」(3頁19行ないし4頁17行)
⒢考案の効果
「以上のように本考案によれば,貯槽の内周面に内側に向かって
延びる突起を設けたため,貯槽の内部でブリッジ防止用のアジテー
タを貯槽の内周面に沿って回転させた場合であっても,原料の共回
り現象を防止することができ,貯槽内でのブリッジ現象を防止する
とともに貯槽からこの貯槽の底部に取り付けられた横送り用のフィ
ーダに原料がスムーズに流すことができるものである。」(5頁7
行ないし14行)
b前記aの記載によれば,甲10発明の概要は以下のとおりであると
認められる。
⒜甲10発明は,貯槽に溜められた原料を横送り用のフィーダで切
り出す形式の原料供給装置に関する。
⒝甲10発明は,従来の装置では,原料の性状によっては,原料が
アジテータと一緒に貯槽の内周面に沿って回転する共回り現象が発
生し,充分な攪拌ができなくなって,開口からスクリュー部へ原料
が流れていかないという現象を回避できる原料供給装置を提供する
ことを目的とし(共回り現象が発生する原料としては,カーボンフ
ァイバーのミルド粉などを挙げることができる。),貯槽の底部に
横送り用のフィーダを取り付け,貯槽の内部でブリッジ防止用のア
ジテータを貯槽の内周面に沿って回転させながら原料の切り出しを
実施するように構成するとともに,貯槽の内周面に内側に向かって
延びる突起を,貯槽の周方向に設定位置を変更自在に取り付けたも
のである。
⒞甲10発明によれば,アジテータに伴われて共回りしようとした
原料は,貯槽の内周面から内側に向かって延設された突起に衝突し
て原料の回転速度が低下し,貯槽の内部でブリッジ防止用のアジテ
ータを貯槽の内周面に沿って回転させた場合であっても,原料の共
回り現象を防止することができ,貯槽内でのブリッジ現象を防止す
るとともに貯槽からこの貯槽の底部に取り付けられた横送り用のフ
ィーダに原料をスムーズに流すことができる,という作用効果を奏
する。
ウ相違点1の容易想到性について
(ア)甲1に接した当業者において,回転板方式による異物分離除去装置
である甲1発明に前記「共回り」の課題があることを想起し得たとは認
められないことは,前記(1)ウ(イ)記載のとおりである。
(イ)ところで,本件発明における「共回り」は,本件明細書の段落【0
003】の記載によれば,「生海苔及び異物が,回転板とともに回り
(回転し),クリアランスに吸い込まれない現象」,又は「生海苔等が,
クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに
吸い込まれない現象」であり,「究極的には,クリアランスの目詰まり
(クリアランスの閉塞)が発生する状況等」である。
これに対し,甲8ないし甲10発明は,いずれも「共回り」の防止に
係る技術ではあるが,「共回り」を防止しようとする対象物は,甲8発
明では繊維屑,甲9発明では粉流体,甲10発明では,カーボンファイ
バーのミルド粉などの原料であり,本件発明の生海苔混合液のような液
体を主流体としたものではなく,また,本件発明のように,回転部材と
固定部材のクリアランス部分において生じる「共回り」を対象としたも
のでもないから,本件発明における「共回り」の防止と,甲8ないし甲
10発明における「共回り」の防止は,技術的意義が相違する。
さらに,甲8ないし甲10発明は,いずれも,本件発明のように,異
物が混入しているものを対象とした発明ではないから,そもそも,異物
分離除去装置ではなく,まして,本件発明のように,固定部材と回転部
材とのクリアランスから異物を除去した対象物を通過させるという異物
分離除去に係る回転板方式を前提とするものではないから,本件発明に
おける「選別ケーシング」や「回転板」を有するものでもない。
したがって,仮に,甲1に接した当業者において,甲1発明には,な
お,クリアランスに異物や生海苔の詰まりが生じるという問題があると
いう課題を想起し得たとしても,甲1発明に,そもそも異物分離除去装
置ではなく,固定部材と回転部材とのクリアランスから異物を除去した
対象物を通過させるという異物分離除去に係る回転板方式を前提とする
ものでもない,甲8ないし甲10発明を適用する動機付けがあったとは
認められない。
さらに,仮に,当業者において,甲1発明に甲8ないし甲10発明を
適用することを試みたとしても,甲1発明において,甲1発明の構成部
材である「回転板」,「選別ケーシング」を有さない甲8ないし甲10
発明をどのように適用するのか想定することはできず,相違点1に係る
本件発明3の構成とすることが容易に想到し得たことであるとは認めら
れない。
エ以上によれば,甲1発明において,甲8ないし甲10発明を適用し,相
違点1に係る本件発明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易
に想到し得たことであるとは認められないから,取消事由1-3に係る原
告の主張は理由がない。
(4)小括
以上のとおり,甲1発明において,相違点1に係る本件発明3の構成を備
えるようにすることは,当業者において容易に想到し得たものであるとは認
められないから,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には,
結論において誤りはない。
したがって,取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
4取消事由2(本件発明4と甲1発明との相違点2に係る容易想到性判断の誤
り)について
(1)原告は,本件発明4と甲1発明とは,前記第2の3(2)ウ記載の相違点2
(本件発明4が「突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケーシングと
回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした」「回転板34の回転
とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を具備するのに対して,
甲1発明はかかる防止手段を具備していない点)において相違するが,①甲
1発明において,甲2発明を適用し,相違点2に係る本件発明4の構成を備
えるようにすること,②甲1発明において,甲3発明を適用し,相違点2に
係る本件発明4の構成を備えるようにすること,③甲1発明において,甲8
ないし甲10発明を適用し,相違点2に係る本件発明4の構成を備えるよう
にすることは,いずれも当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
(2)しかしながら,前記3で述べたところと同様の理由により,前記(1)の①
ないし③については,いずれも当業者が容易に想到し得たことであるとは認
められない。
(3)以上のとおり,甲1発明において,相違点2に係る本件発明4の構成を備
えるようにすることは,当業者において容易に想到し得たものであるとは認
められないから,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断には,
結論において誤りはない。
したがって,取消事由2に係る原告の主張は理由がない。
5結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求
を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官富田善範
裁判官田中芳樹
裁判官柵木澄子
(別紙1)
本件明細書図面目録
【図1】
【図2】
【図3】【図4】
【図5】【図6】
【図7】【図8】
(別紙2)
甲1図面目録
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
(別紙3)
刊行物図面目録
1甲2
【図1】
【図2】
【図4】
2甲8
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
3甲9
【図1】
【図2】
4甲10
(別紙4)
甲3装置の断面図(甲16に添付)

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