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平成一〇年(ワ)第一七〇一八号 著作隣接権侵害差止等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成一二年一月二五日)
        判     決
   原       告           ビクターエンタテ
インメント株式会社
     右代表者代表取締役           【A】
    原       告           キングレコード株
式会社
     右代表者代表取締役           【B】
    原       告           東芝イーエムアイ
株式会社
     右代表者代表取締役           【C】
   原       告           日本クラウン株式
会社
     右代表者代表取締役           【D】
    原       告           株式会社ワーナー
ミュージック・ジャパン
     右代表者代表取締役              【E】
      原       告           株式会社ビーエム
ジーファンハウス(旧商号株式会社ファンハウス。株式会社ビーエムジージャパン
承継人)
      右代表者代表取締役           【F】
      原       告           ユニバーサル・ビ
クター株式会社
      右代表者代表取締役           【G】
      原       告           エイベックス株式
会社
      右代表者代表取締役           【H】
      原告ら補助参加人           社団法人日本レコ
ード協会
      右代表者理事           【B】
      原告ら及び原告ら補助参加人訴訟代理人弁護士  山 本 隆 司
           前 田 哲 男
           足 立 佳 丈
    被       告           株式会社第一興商
     右代表者代表取締役           【I】
     右訴訟代理人弁護士              原   秋 彦
                            上 野 達 夫
                            原   若 葉
                            宇佐神   順
    被       告           日本デジタル放送
サービス株式会社
     右代表者代表取締役           【J】
     右訴訟代理人弁護士              野 口 祐 子
                            渋 谷 治 香
                            内 田 晴 康
                            飯 塚 卓 也
 主     文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用のうち、補助参加によって生じた部分は補助参加人の負担とし、そ
の余の部分は原告らの負担とする。
        事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告らは、被告日本デジタル放送サービス株式会社の衛星放送サービス「ス
カイパーフェクTV」の一つとして被告株式会社第一興商が「スターデジオ10
0」(第四〇〇チャンネルないし第四九九チャンネル)の営業名で行っている公衆
送信サービスにおいて、別紙音源目録記載の各音源をデジタル信号にて公衆送信し
てはならない。
 二 被告株式会社第一興商は、別紙音源目録記載の各音源を収録した媒体を作成
してはならない。
 三 被告株式会社第一興商は、別紙音源目録記載の各音源を収録した媒体を廃棄
せよ。
 四 被告らは、連帯して、原告らに対しそれぞれ金一五〇〇万円及びこれに対す
る平成一〇年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 基礎となる事実(末尾の括弧内に証拠番号等が表示されている事実は当該証
拠等により認められ、右表示がない事実は当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 原告らは、いずれも、レコードの原盤の企画、製作及び販売などを
目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(二) 被告株式会社第一興商(以下「被告第一興商」という。)は、電気
通信設備による音響、影像、符号等の送信事業及び同設備の運営などを目的とする
株式会社である。
(三) 被告日本デジタル放送サービス株式会社(以下「被告日本デジタ
ル」という。)は、放送法による委託放送業務などを目的とする株式会社である。
2 原告らの権利
 原告らは、それぞれ、別紙音源目録記載の各レコード(以下「本件各レコ
ード」という。)にそれぞれ固定されている同目録記載の各楽曲の実演(以下「本
件各音源」という。)を最初に固定した者であり、本件各レコードにつき、著作隣
接権(レコード製作者の権利)を有する(甲第四〇号証、第四一号証の一ないし
九、弁論の全趣旨)。
3 被告らの行為
(一) 被告第一興商は、放送法上の委託放送事業者(同法二条三号の五)
として(放送法上の受託放送事業者(同法二条三号の四)は訴外株式会社日本サテ
ライトシステムズ(以下「訴外日本サテライト」という。)である。)、通信衛星
放送サービス「スカイパーフェクTV」の第四〇〇チャンネルないし第四九九チャ
ンネルにおいて、音楽を中心としたラジオ番組(番組名「第一興商スターデジオ一
〇〇」。以下「本件番組」という。)を、デジタル信号により有料で公衆に送信し
ており、本件各音源も本件番組において公衆に送信されている。
(二) 被告日本デジタルは、本件番組の公衆への送信に関し、委託放送事
業者である被告第一興商又は受託放送事業者である訴外日本サテライトの委託を受
けて、後記(四)記載の業務を行っている。
(三) 本件番組において、本件各音源を含む商業用レコードに収録された
音楽が公衆に送信されるに当たっては、次のような処理が行われる。
(1) アナログ再生及びデジタル変換
 音楽CDをアナログ再生し、その信号をデジタル信号に変換する。
(2) 圧縮
 右デジタル信号を、コンピュータ上で、所定の規格に従い圧縮(デー
タをまとめてサイズを小さくすること)する。
(3) 保有サーバへの蓄積
 右圧縮されたデジタル信号を、保有サーバに蓄積する。
 右保有サーバは、被告第一興商がリース会社からリースを受けて(乙
第一六号証)、自己の設備として管理・利用している。
(4) 番組編成及び編成サーバへの入力
 各チャンネル毎に番組を編成した上、その内容をプログラムデータ形
式で編成サーバに入力する。
(5) 送出サーバへの送信及び蓄積
 編成サーバは、保有サーバにアクセスし、入力された番組編成データ
に従って、必要な音楽データを保有サーバから複数の送出サーバに送出させる。送
出サーバは、保有サーバから送られた右音楽データを蓄積する。
(6) 多重化
 送出サーバから送出される音楽データを多重化する。すなわち、チャ
ンネルごとに一本のデータの流れになっているもの(エレメンタリー・ストリー
ム)を、一三本ごとに一本のデータの流れ(トランスポート・ストリーム)にまと
める。
 これによって、限られた電波の範囲内において、より多くのデータを
公衆に送信することが可能となる。
(7) スクランブル加工
 右多重化された音楽データにスクランブル加工を行う。
(8) 誤り訂正符号付加・インターリーブ処理
 右スクランブル加工された音楽データに、誤り訂正符号を付加すると
ともに、インターリーブ処理を加える。
 誤り訂正符号とは、デジタル・データが転送中にノイズなどで欠落し
た場合に、それを自動的に修復できるように付加される符号であり、また、インタ
ーリーブとは、右の誤り訂正符号を用いたデータの修復の精度を高めるために、あ
らかじめデータの順序を入れ替える技術である。
(9) 変調
 右音楽データを変調する。すなわち、デジタル・データを電波に変換
する。
(10) 衛星への放出(アップリンク)
 変調によって形成された電波を、地球局アンテナから通信衛星に向け
て送信する。
(11) 衛星による増幅と公衆への送信
 地球局アンテナから送信された電波は、通信衛星の受信アンテナによ
って受信され、通信衛星に搭載された中継器によって増幅されて、地上に送信され
る。
(四) 前記(三)記載の処理手順のうち、(1)ないし(5)及び(7)
は、委託放送事業者たる被告第一興商の所掌業務であるところ、被告第一興商が、
自ら(1)ないし(5)の処理を行い、被告日本デジタルが、被告第一興商の委託
を受けて、(3)ないし(5)の処理における機材に関する監視業務及び(7)の
処理を行っている。
 また、前記(三)(6)及び(8)ないし(11)の処理手順は、受託
放送事業者たる訴外日本サテライトの所掌業務であるところ、被告日本デジタル
が、訴外日本サテライトの委託を受けて、(6)及び(8)ないし(10)の処理
を行い、訴外日本サテライトが、自ら(11)の処理を行っている。
4 受信チューナーにおける信号処理
(一) 本件番組において、前記(三)記載の処理手順を経て地上に送信さ
れた音楽データは、各受信者が保有する受信アンテナによって受信された後、同じ
く各受信者が保有する受信チューナーにおいて、次のような処理がなされた上で、
音楽としてスピーカー等から出力される。
(1) 電波からデジタル・データに復調される。
(2) 誤り補正符号及びインターリーブに基づいて、誤りが検出、訂正
される。
(3) スクランブルが解除される。
(4) 多重化が解除されて、各チャンネルごとの信号が取り出される。
(5) 圧縮が解除される。
(6) デジタル信号からアナログ信号に変換される。
(二) 受信チューナーにおける右(一)記載の処理のうち、(2)ないし
(5)の処理が行われる間は、音楽データが、受信チューナーに設けられたランダ
ム・アクセス・メモリー(以下「RAM」という。)に蓄積されることになる(甲
第三九号証の一及び二、弁論の全趣旨)。
二 原告らの請求とその根拠
1 原告らが主張する被告らによる著作隣接権の侵害
(一) 保有サーバにおける複製権侵害
 被告第一興商は、本件番組において本件各音源を公衆に送信するに当た
って、本件各音源についてのデジタル信号を保有サーバに蓄積しているところ(前
記一3(三)(3))、右行為は、原告らがそれぞれ本件各レコードについて有し
ているレコード製作者としての複製権(著作権法九六条)を侵害する。
(二) 違法な私的複製の教唆・幇助による複製権侵害
 被告らは、共同して、本件番組において本件各音源を公衆に送信するこ
とにより、受信者が本件各音源をMDに録音することを教唆・幇助しているとこ
ろ、右行為は、原告らがそれぞれ本件各レコードについて有しているレコード製作
者としての複製権(著作権法九六条)を侵害する。
(三) 受信チューナーにおける複製権侵害
 被告らは、共同して、本件番組において本件各音源を公衆に送信するこ
とにより、受信者が保有する受信チューナー内のRAMに、本件各音源についての
デジタル信号を蓄積しているところ(前記一4(二))、右行為は、原告らがそれ
ぞれ本件各レコードについて有しているレコード製作者としての複製権(著作権法
九六条)を侵害する。
2 原告らの請求
 原告らは、被告らに対し、次のような根拠により、請求の趣旨各項の請求
をする。
(一) 請求の趣旨第一項の請求
 被告らに対し、前記1(二)及び(三)記載の各複製権侵害について、
侵害の停止請求(著作権法一一二条一項)として、右各侵害行為を構成する請求の
趣旨第一項記載の公衆送信の禁止を求める。
(二) 請求の趣旨第二項の請求
 被告第一興商に対し、
(1) 前記1(一)記載の複製権侵害について、侵害の停止又は予防請
求(著作権法一一二条一項)として、右侵害行為を構成する請求の趣旨第二項記載
の媒体の作成の禁止を求めるとともに、
(2) 前記1(二)及び(三)記載の各複製権侵害について、侵害の停
止又は予防に必要な措置の請求(同法一一二条二項)として、右各侵害行為に供さ
れる請求の趣旨第二項記載の媒体の作成の禁止を求める。
(三) 請求の趣旨第三項の請求
 被告第一興商に対し、
(1) 前記1(一)記載の複製権侵害について、侵害行為によって作成
された物の廃棄請求(著作権法一一二条二項)として、請求の趣旨第三項記載の媒
体の廃棄を求めるとともに、
(2) 前記1(二)及び(三)記載の各複製権侵害について、もっぱら
右各侵害行為に供された物の廃棄請求(同法一一二条二項)として、請求の趣旨第
三項記載の媒体の廃棄を求める。
(四) 請求の趣旨第四項の請求
(1) 被告第一興商に対し、前記1(一)ないし(三)記載の各複製権
侵害による損害賠償として、原告らそれぞれに対する一五〇〇万円及びこれに対す
る平成一〇年八月七日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分
の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告日本デジタルに対し、前記1(二)及び(三)記載の各複製
権侵害による損害賠償として、原告らそれぞれに対する一五〇〇万円及びこれに対
する平成一〇年八月七日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五
分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 争点
1 被告日本デジタルが本件番組の公衆への送信行為の主体か否か。
2 被告第一興商による保有サーバにおける複製権侵害の成否(著作権法一〇
二条一項により準用される同法四四条一項の適用の可否)
(一) 本件番組の公衆への送信が「放送」に当たるか否か。
(二) 被告第一興商が「放送事業者」に当たるか否か。
(三) 本件番組において音楽データを保有サーバに蓄積することが「一時
的に録音」することに当たるか否か。
3 被告らによる違法な私的複製の教唆・幇助による複製権侵害の成否
(一) 本件番組において送信された本件各音源を受信者がMDに録音する
ことが著作権法三〇条一項によって許容される私的使用のための複製に当たるか否
か。
(二) 被告らが本件番組の受信者に対し本件各音源をMDに録音すること
を教唆又は幇助しているか否か。
(三) 複製の教唆者・幇助者に対する差止請求の可否
4 被告らによる受信チューナーにおける複製権侵害の成否(受信チューナー
のRAMにおける音楽データの蓄積が「複製」に当たるか否か。)
5 原告が受けた損害の額
四 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(一) 被告日本デジタルの主張
(1) 被告日本デジタルは、次に述べるとおり、本件番組の公衆送信行
為の主体ではないから、被告日本デジタルに対して、右公衆送信の差止めを求める
請求の趣旨第一項の請求は、およそ理由がない。
① 本件番組の送信媒体である通信衛星放送に関与する放送事業者に
は、委託放送事業者と受託放送事業者とが存在する。すなわち、平成元年に改正さ
れた現行放送法は、人工衛星を利用した放送について、放送局の管理運用主体(ハ
ード運営主体)と放送番組の編集主体(ソフト事業者)を分離する制度を創設した
ものであり、前者が受託放送事業者、後者が委託放送事業者である。
 このようにソフト事業者とハード運営主体とが分離された通信衛星
放送においては、委託放送事業者のみを著作権法上の放送主体と解すべきである。
公法たる放送法の制度目的が、放送の公共の福祉に適合した規律と健全な発達(放
送法一条)にあるのに対し、私法たる著作権法は、著作物などの文化的所産の公正
な利用と著作者などの権利の保護を図ることによる文化の発展を目的とするのであ
り、法制度の趣旨が異なる以上、両法における放送行為の主体のとらえ方につい
て、解釈を同一にする必然性はなく、むしろ、両法それぞれの制度目的に照らし
て、それぞれの放送について行為主体のとらえ方を定めるべきである。そして、著
作権法により差止請求を受けるべき公衆送信の主体を理解するに当たっては、著作
権法の保護対象である著作物等のコンテンツとの関係を重視すべきところ、現行放
送法の下では、放送事業者が、番組編集主体(委託放送事業者)と放送局運営主体
(受託放送事業者)とに分離され、受託放送事業者に対し委託放送事業者への役務
の提供義務を課し、正当な理由なく放送の委託を拒絶してはならないと規定してい
ること(放送法五二条の九)、受託放送事業者は放送番組の編集責任に関する規定
の適用を受けないこととされていること(放送法五二条の一二)等に照らせば、コ
ンテンツを利用し編集して放送を行う委託放送事業者だけが著作権法上の放送行為
者であり、受託放送事業者のようにコンテンツを利用し編集することなく放送法上
の放送を行うにすぎない者は著作権法上の放送行為の主体とはいえないと解すべき
である。
② 本件番組の公衆送信については、被告第一興商が委託放送事業者、
訴外日本サテライトが受託放送事業者であり、被告日本デジタルは、いわゆる「プ
ラットフォーム」と呼ばれる存在として、前記第二、一3(四)記載の各業務を、
それぞれ委託放送事業者たる被告第一興商又は受託放送事業者たる訴外日本サテラ
イトから受託しているだけの存在であり、著作隣接権の対象となるコンテンツを利
用し編集する者ではないから、右公衆送信行為の主体とは認められない。
 この点に関し、原告らは被告日本デジタルが地上から電波を衛星に
送信する、いわゆるアップリンクを行っていることをとらえて、同被告もまた公衆
送信の差止請求の対象主体となる旨主張する。しかしながら、アップリンク業務
は、受託放送事業者からの受託業務であること、受託放送事業者は放送番組の編集
責任に関する規定の適用を受けないこと(放送法五二条の一二)に鑑みれば、アッ
プリンク業務を受託している事実をもって、被告日本デジタルが公衆送信行為の主
体であると解することは許されない。
(2) また、被告日本デジタルは、被告第一興商の番組内容について指
示したり、放送の禁止を行う権限もないないから、仮に放送内容が他人の権利を侵
害する場合でも、それを回避する能力がなく、したがって、過失の構成要件である
回避可能性がない。
 さらに、被告日本デジタルは、本件番組について、受託放送事業者た
る訴外日本サテライトから地球局の運用の業務委託を受けているところ、放送法五
二条の九によると、受託放送事業者は委託放送事業者から放送番組の放送委託があ
った場合にはこれを拒んではならないものとされているから、訴外日本サテライト
は、被告第一興商からの本件番組に関する放送委託を拒否できないのであり、訴外
日本サテライトから受託放送事業者の地球局業務を受託している被告日本デジタル
もまた、訴外日本サテライトの右のような放送法上の義務を遵守しなくてはならな
い。したがって、被告日本デジタルも、本件番組の放送委託を拒否できないのであ
るから、放送行為を行わないという回避可能性がなく、過失はない。
 以上によれば、仮に、本件番組における本件各音源の公衆送信が、原
告らの著作隣接権を侵害するとしても、被告日本デジタルには、右公衆送信につい
て過失が認められないから、損害賠償の責任を負わない。
(二) 原告らの主張
(1) 被告日本デジタルは、被告第一興商の委託を受けて、プラットフ
ォームとして、本件番組に関して課金などの顧客管理や放送設備を持たない被告第
一興商への放送用設備の提供を行うのみならず、本件番組のデータを地上から衛星
に送信するサービス(アップリンク)を提供している。
 被告日本デジタルの右行為のうち、少なくともアップリンクは公衆送
信行為に当たるから、被告日本デジタルは、本件番組の公衆送信行為の主体といえ
る。
 そして、被告日本デジタルは、本件番組のアップリンクを中止するこ
とによって、その公衆送信を差し止めることができるから、被告日本デジタルに対
し本件番組の公衆送信の差止めを求める請求の趣旨第一項の請求におよそ理由がな
いとの被告日本デジタルの主張には、理由がない。
(2) 被告日本デジタルは、本件番組の番組内容について、被告第一興
商とともに、ファックスサービスを受信者に提供しており、右番組に本件各レコー
ドが使用されていることを熟知していた。また、被告日本デジタルは、被告第一興
商との委託契約に基づいて、後記3及び4の著作隣接権侵害行為を行っているもの
であるが、委託契約の存在が著作隣接権を侵害する違法な受託行為の継続を免責す
るものではない。さらに、仮に、受託放送事業者の受託者として法律上番組内容に
関与しないことを義務付けられているとしても、それによって、違法な受託行為の
継続が免責されるものではない。
 したがって、被告日本デジタルには、後記3及び4の著作隣接権侵害
行為の回避可能性がないとはいえず、過失の存在は明白であるので、被告日本デジ
タルは、右侵害行為に関して、損害賠償の責任を負う。
2 争点2について
(一) 被告第一興商の主張
(1) 本件番組の公衆への送信は、公衆送信のうち、公衆によって同一
の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信であるから、著作
権法二条一項八号の「放送」に該当し、同法四四条一項にいう「放送」にも当然該
当する。平成九年法律第八六号による著作権法の改正の際にも、アナログ放送とデ
ジタル放送とを区別する制度が検討されながら、結果的にそのような制度が創設さ
れるには至らず、「放送」の定義において、アナログ放送とデジタル放送を区別す
る取扱いがされなかったという経緯に照らせば、本件番組がデジタル信号により送
信されているという理由で、「放送」に当たらないということはできない。
(2) 被告第一興商は、本件番組の公衆送信について、放送法上の「委
託放送事業者」として、郵政大臣の認定を受けており、また、前記(1)記載のと
おり著作権法上の「放送」に当たる本件番組の公衆送信を業として行う者であるか
ら、著作権法二条一項九号の「放送事業者」に該当し、同法四四条一項にいう「放
送事業者」にも該当する。
(3) 著作権法四四条一項における「一時的」とは、永続的でないこと
を意味するものと解すべきところ、本件番組における音楽データの保有サーバへの
蓄積は、次のような実態に照らし、永続的なものとはいえないから、同条項の「一
時的な録音」に当たるというべきである。
① 本件番組に使用される保有サーバのハードディスク容量は一テラバ
イトで、一曲五分とすると最大約一〇万曲分の音楽データを蓄積できるものにすぎ
ず、現実には、ハードディスクの容量を限界まで使用することはなく、四万曲ない
し七万曲程度の蓄積にとどまる。
② 保有サーバへの音楽データの蓄積は、具体的な放送予定のある楽曲
のみについて、その放送日程に合わせて行われるものである。
③ 保有サーバへの蓄積は、放送予定終了後消去されることを当然の前
提としている。すなわち、前述のとおり、保有サーバの容量には限界があるとこ
ろ、基本的に毎週、各チャンネルの番組内容が変更されることから、新番組のため
の新たな大量の音楽データの蓄積を要し、それに応じた既存音楽データの消去が不
可避的に必要となり、具体的には、放送予定に挙がっているもの及び現に放送中の
ものを除き、最後に放送された日が古いものから順に消去されることになる。
④ 本件訴訟提起後の平成一〇年八月末ころからは、少なくとも三週間
おきに保有サーバをチェックし、最終の放送から三か月を超えて放送に供されてい
ない音楽データは消去するという運用を実施しており、その結果、ほとんどの音楽
データが蓄積日以後六か月以内に消去されている。
(4) 以上によれば、被告第一興商が、本件番組において本件各音源に
ついての音楽データを保有サーバに蓄積する行為は、放送事業者による放送のため
の一時的固定として、著作権法一〇二条一項によって準用される同法四四条一項に
より許されるものであるから、原告らの本件各レコードについてのレコード製作者
としての複製権を侵害しない。
(二) 原告らの主張
(1) 本件番組の公衆への送信は、次に述べるとおり、著作権法上の
「放送」には当たらない。
① 著作権法がその制定に当たって、「放送」として想定していたの
は、昭和四五年及びそれに先立つ立法過程段階において実際に放送事業を行ってい
たNHK及び民放テレビ局・ラジオ局による放送であった。これらの放送事業はい
ずれも、放送法が元来予定した公共性と同報性とを強く有する放送(事実・言論の
中立的な報道を通じて世論の形成に寄与して民主主義の発達に資し、かつ災害予防
等に寄与するものであって、人々に広く共通する関心事が同時に視聴・聴取される
ことを前提としているもの)であり、しかも、これらの放送事業では、番組編成の
一部としてレコードを利用するにすぎず(レコードを利用する場合にも、音楽の一
部を利用したり、あるいは音にトークをかぶせることが行われることが多い。)、
また、アナログ放送であるためにレコードの購入に代替するような音質のものでは
なく、その場で「かげろう」のように消えゆくという性質のレコードの利用方法を
行うものであって、かえって放送により消費者の需要を喚起しレコード購入を促進
するという側面をも持つものであった。
 そして、著作権法は、右のような放送事業者及び放送を想定して、
放送事業者に、他人の著作物、実演及びレコードを一定範囲で自由に利用すること
を認めた(著作権法四四条、九二条二項、九三条、九四条、九五条、九七条、一〇
二条一項)ものであり、これは、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者
等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という著作権法の目的に照
らし、著作隣接権制度の趣旨である「著作物の解釈者としての実演家と著作物の解
釈の伝達者としてのレコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者との関係の合
理的な調整」を行った結果なのであるから、その価値判断の際に想定された「放
送」と大きく性格を異にする通信事業については、たとえそれが無線通信の送信で
あっても、右各規定によるレコードや実演の利用が認められるものではない。
 さらに、平成九年の著作権法改正においては、「放送」「有線放
送」「公衆送信」「自動公衆送信」「送信可能化」の定義規定が改正ないし新設さ
れるとともに(著作権法二条一項七号の二、八号、九号の二、九号の四、九号の
五)、レコード製作者には、新たに「送信可能化権」が付与された(著作権法九六
条の二)。右改正では、「放送」は「公衆送信」の一部であるとされ、「公衆送
信」のうち「放送」に限って、著作権法四四条一項の特権が維持されることになっ
たが、他方において、「公衆送信」のうち「自動公衆送信」については、レコード
製作者に「送信可能化権」が認められ、かつ、「放送」のように公衆送信に当たっ
て一時的固定を行う特権は認められていない。ところで、右「自動公衆送信」に
は、インターネット放送(インターネットを利用して同じ内容の映像や音声を多数
の者に配信する番組提供サービス)も含まれるが、このインターネット放送のうち
でもプッシュ型(インターネットで情報を配信するに当たって、ユーザーがその都
度コンピュータを操作してWEBサイトから情報をダウンロードする「プル型」に
対し、ユーザーがその都度コンピュータを操作することなく、ユーザーが設定した
スケジュールに従ってコンピュータが自動的にWEBサイトから情報をダウンロー
ドするものを「プッシュ型」という。)のものは、視聴者が同一のジャンル等を選
択する限りにおいて、同一の内容がほぼ同時に公衆に送信され、サーバーにアクセ
スする作業は自動的に行われ、視聴者がその都度自分の手で操作を行わないもので
あるが、このようなプッシュ型のインターネット放送についても、レコード製作者
は、著作権法上の許諾権を与えられたことになる。
 このように、同じ「公衆送信」の一部でありながら、「放送」には
レコード製作者の許諾権が及ばず、かつ、放送事業者による一時的固定が許容され
るのに対し、インターネット放送などの「自動公衆送信」については、プッシュ型
のものであっても、送信可能化にはレコード製作者の許諾権が及び、かつ、インタ
ーネット放送事業者による一時的固定が許容されていない(また、それ以外の公衆
送信についても、「放送」とは異なり、送信事業者による一時的固定の特権は認め
られていない)のは、「放送」がインターネット放送その他の公衆送信とは明確に
区別され、それを超えて、他人の文化的所産の自由利用が許容されるだけの強い理
由があるからであり、したがって、右のような理由が当てはまるものだけが、著作
権法上の「放送」に当たると解釈すべきである。
② そこで、以上の観点から、本件番組の公衆への送信が、著作権法上
の「放送」に該当する否かを、その実情に照らして検討すると、以下のとおりであ
る。
ア 本件番組は、営利を目的とし、個人の嗜好と選択に応じて、商業
用レコードの購入に代替する使用価値を公衆に有償で配信するという内容のサービ
スを行うものであり、しかも、その送信は、特に本件番組の聴取を希望して被告日
本デジタルとの間で契約を締結した者にのみ聴取させるものであるから、「民主主
義の発達」や「災害予防等への寄与」と無関係であるのみならず、商業用レコード
の販売やリクエスト送信等の一般のエンタテインメントビジネスと何ら異ならない
サービスを行っているものである。
イ また、本件番組は、他人が製作した商業用レコードに番組制作上
何らの編成を加えずフルサイズで送信し(楽曲のイントロダクションをカットした
り、それにトークをかぶせることなく、しかも楽曲の途中で送信を切ることなく、
最後までそのまま送信する。)、番組の大部分は商業用レコードを漫然と繰り返し
送信しているのみである。
ウ しかも、本件番組は、このような送信を、デジタル方式により行
うものである。デジタル方式による送信は音質の劣化がなく、商業用レコードの購
入に代替する「CD並みの音声放送」を聴取者に受信させるものであり、従来のア
ナログ放送が音質面でレコードの購入に代替せず、かえってレコードの購入を促進
するという面もあるのとは全く異なる。
エ さらに、本件番組では、一〇〇に及ぶチャンネルを設け、音楽を
一〇〇のジャンルに細分化した上、視聴者の選択により、その嗜好にあったジャン
ルの楽曲を聴取できるようにしており、それぞれのチャンネルにおいて同じ曲目の
セット(番組)が二時間、三時間又は四時間ごとに一日一二回、八回又は六回、一
週間で八四回、五六回又は四二回もの多数回にわたり、同一周期をもってほぼ間断
なく送信される。そして、聴取者は、被告第一興商の行っているファックスサービ
スにより曲目、アーティスト名、曲目の送信順序、番組開始時刻等の情報を得て、
自分の聴きたい(あるいは録音したい)曲について、右八四回、五六回又は四二回
のうち好きな時を選択することができ、聴取者がMDその他の媒体に録音すること
も容易ならしめている。
オ 以上によると、本件番組の公衆への送信は、たまたま公衆にコン
テンツを有償配信する手段として「無線通信」を採用したという点においてのみ著
作権法の予定している「放送」と一致しているにすぎず、その実態は契約者に対し
て好みの音楽CDコンテンツを有償で配信するサービスというべきであり、本件番
組は、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、も
って文化の発展に寄与する」観点からの「著作権者、実演家、レコード製作者及び
放送事業者の利益の合理的な調整」を行う場合の利益状況としては、著作権法が予
定している「放送」の場合とはおよそ似ても似つかぬものとなる。
 さらに、本件番組の公衆への送信は、一般の放送とは異なり、そ
の場でかげろうのように消えゆくものとしてのレコードの利用という側面を全く有
しておらず、レコード製作者が送信可能化について許諾権が及ぶ「自動公衆送信」
(視聴者が自らの手でサーバーにアクセスする操作を必要としないプッシュ型のイ
ンターネット放送を含む。)そのものであるか、仮にそうでないとしても、プッシ
ュ型のインターネット放送とは区別され、これを超えて、商業レコードを自由に送
信することができる(しかも一時的固定の特権までをも享受できる)ことを正当化
する著作権法上の根拠は存在しないから、少なくとも、レコードや著作物を一時的
に固定できる特権を享受するところの著作権法上の「放送」には該当しないもので
ある。
③ また、著作権法二条一項八号は、「公衆によって同一の内容の送信
が同時に受信されること」を放送の要件として定義しているところ、本件番組の公
衆への送信は、右要件を満たさない。
 すなわち、本件番組では、前述のとおり、一〇〇に及ぶチャンネル
を設け、音楽を一〇〇のジャンルに細分化した上、視聴者の選択により、その嗜好
にあったジャンルの楽曲を聴取できるようにしており、かつ、それぞれのチャンネ
ルにおいて同じ曲目のセットが二時間、三時間又は四時間ごとに一日一二回、八回
又は六回、一週間では八四回、五六回又は四二回もの多数回にわたり、同一周期を
もってほぼ間断なく送信されていることから、聴取者は、被告第一興商の行ってい
るファックスサービスにより曲目、アーティスト名、曲目の送信順序、番組開始時
刻等の情報を得て、自分の聴きたい(あるいは録音したい)曲を、右八四回、五六
回又は四二回のうち好きな時を選択して聴取することができるところ、このような
本件番組の公衆への送信は、聴取者の趣味ないし嗜好により一〇〇ものジャンルの
中から選択がなされるから、聴取者にとって「同一の内容の送信」ではなく、ま
た、同一内容が八四回、五六回又は四二回連続して繰り返し送信され、聴取者はこ
のうち自分の都合に合わせて好きな時に受信することができるのであり、聴取者の
都合に合わせて分散して聴取させているのであるから、「同時に受信される」もの
でもない。
 つまり、本件番組は、聴取者の嗜好・好みに応じ、また聴取者の都
合のよい時に好きな楽曲を受信させるものであって、レコード製作者の許諾権が送
信可能化に及ぶリクエスト送信そのものであるか、又は実態においてそれと異なら
ないものであるから、「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されること」
との要件を満たさず、「放送」の定義規定には該当しないものである。
(2) 被告第一興商は、本件番組についての「放送事業者」には当たら
ない。
① 前述のとおり、本件番組の公衆への送信が「放送」に当たらない以
上、これを行う被告第一興商が「放送事業者」に当たらないことは明らかである。
② また、CS(通信衛星)放送では多数の専門チャンネルが設けら
れ、それぞれのチャンネルの番組製作を行う者と現実に電波を送信する放送事業者
とが一致しないため、現実に電波を送信する放送事業者を「受託放送事業者」と
し、「受託放送事業者」に委託して番組送信を行う者を「委託放送事業者」と定義
して、両者をともに放送法による規制対象とする放送法改正が平成元年に行われた
ところ、放送事業者として現実に電波の送信事業を行うのは「受託放送事業者」で
あり、「委託放送事業者」ではないから、本来の放送事業者とは「受託放送事業
者」であるというべきところ、右の「受託放送事業者」「委託放送事業者」の概念
は、平成元年の放送法改正によって初めて設けられたものであって著作権法が制定
された昭和四五年にはそのような概念は存在していなかったから、著作権法にいう
「放送事業者」には、本来的な放送事業者である「受託放送事業者」のみが含ま
れ、「委託放送事業者」は含まれないというべきである。
 したがって、放送法上の「委託放送事業者」にすぎない被告第一興
商は、著作権法上の「放送事業者」には当たらない。
(3) 本件番組における音楽データの保有サーバへの蓄積は、次に述べ
るとおり、著作権法四四条一項における「放送のための一時的な録音」とはいえな
い。
① 著作権法四四条一項は、「文学的及び美術的著作物の保護に関する
ベルヌ条約パリ改正条約」(以下「ベルヌ条約」という。)一一条の二(3)を受
けて設けられた条文であり、同法四四条一項にいう「一時的」な録音又は録画と
は、同条約一一条の二第(3)にある「ephemeralrecordings」の訳語である。そ
して、ここでいう「ephemeral」とは、本来、「かげろうのような、一日の命の、一
日限りの、つかの間の、はかない。」という意味を有する。
 また、著作権法四四条一項が放送事業者による「放送のための一時
的固定」を許容しているのは、
ア 放送を実施するために行われる一時的な録音・録画については、
放送の許諾とは別に、そのための録音・録画に関し著作権者の許諾を得べきものと
することは適当でなく(実質的にみて黙示的許諾があること)、
イ 生放送よりも、事前にビデオ撮り、テープ取りをした番組の放送
が通常であるという実態があり、これに適合するように、放送に不可欠な一時的固
定を認める必要があり(生放送の技術的代替の必要)、
ウ かげろうのごときかりそめの存在で、まもなく消えていく運命に
あるエフェメラル・レコーディングについては、録音権侵害や録画権侵害を問題に
するまでもない(複製利用の軽微性・複製権への影響の微小性)
といった理由から、生の放送にかわって放送の事前に作成した録音
物、録画物による放送を行い得ることにするという趣旨によるものである。
 したがって、その許容範囲は、生放送の代替手段としての「放送に
不可欠な一時的固定」に限られるというべきであり、一般的な放送用として、複数
の異なる番組において汎用することを前提に録音・録画物を作成することは、右の
ような趣旨に基づき複製権の制限として認められた「放送のための一時的固定」と
はいえない。
② 本件番組において音楽データを保有サーバに蓄積するのは、音楽デ
ータの蓄積を放送番組編成プログラムと切り離し、番組編成プログラムに採用され
た音楽を、保有サーバーの蓄積データから呼び出して送信することによって、一つ
の音楽データを異なる番組で共有・汎用することができるようにし、効率的に多チ
ャンネル放送を実施することを目的とするものである。
 このように、音楽データを複数の番組で汎用することを当初より目
的としている蓄積は、個々の番組の放送予定終了とともに消去されることを前提と
する「エフェメラル」な性格のものと評価することはできず、蓄積目的において、
生放送の技術的代替を認めるという制度趣旨による「放送のための一時的固定」と
はいえない。
 現実にも、本件番組において保有サーバに蓄積された音楽データ
は、一つの番組において一週間のうちに八四回、五六回又は四二回にわたる繰り返
し送信が終了しても直ちに消去されることはなく、さらに多数の異なる番組及びチ
ャンネルにおいて採用され、送信されているのであって、このような蓄積をもっ
て、「放送のための一時的固定」ということはできない。
 また、本件番組において保有サーバに蓄積された音楽データが削除
されることがあるとしても、それは記憶容量が約一〇万曲分に限定されており、蓄
積楽曲の一部の消去が技術的に必要となるため、蓄積時とは無関係に、いわば商品
寿命が終了した作品を消去しているにすぎない。当該楽曲の人気・需要が継続して
いる期間中は楽曲データの蓄積が継続され、現実にも長期間にわたり保有されるも
のも少なからず存在しているのであり、保有サーバに蓄積されている音楽データ
は、再び番組編成に採用された場合には、これを別番組に再利用することを前提と
して、蓄積が継続されているのであるから、このような保有サーバへの蓄積は、放
送上の必要が消滅したことにより破棄することを前提とするところの「生放送の技
術的代替手段」としての固定には該当しない。
 さらにいえば、本件番組における保有サーバには、約一〇万曲(最
低でも四万曲)もの膨大な音楽データが常に蓄積されており、しかもそのような膨
大な音楽データは、音楽ごとの識別データを付与され、番組編成プログラムに、あ
る音楽が採用された場合には、当該音楽のデータを瞬時に検索し、呼び出すことが
可能な状態で蓄積・保存されているのであって、その実態は、音楽の「データベー
ス」にほかならないから、右のような保有サーバへの蓄積は、「かげろうのごとき
かりそめの存在で、まもなく消えていく運命にあるエフェメラル・レコーディング
については、録音権侵害や録画権侵害を問題にするまでもない」という法四四条一
項の立法理由(複製利用の軽微性・複製権への影響の微小性)が妥当する性質のも
のではなく、同条項にいう「放送のための一時的固定」には該当しない。
(4) 以上によれば、被告第一興商が、本件番組において本件各音源に
ついての音楽データを保有サーバに蓄積する行為は、「放送事業者による放送のた
めの一時的固定」には当たらず、著作権法四四条一項によって許されるものではな
いから、原告らの本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害
する。
3 争点3について
(一) 原告らの主張
(1) 本件番組の受信者が本件各音源をMDに録音する行為は、次に述
べるとおり、著作権法三〇条一項により許容される私的複製には該当せず、原告ら
の本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害する。
① 著作権法三〇条一項は、ベルヌ条約九条(2)本文の「特別の場合
について(1)の著作物の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される。」と
の条項に基づく規定であるところ、著作権法三〇条一項が「同盟国の立法に留保」
されたものとして効力を有するためには、ベルヌ条約九条(2)ただし書の「ただ
し、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当
な利益を害しないことを条件とする。」との条件に従う必要があるから、右条件を
満たさない複製行為は、著作権法三〇条一項が許容する私的複製には該当しないと
いうべきである。
② 本件番組の公衆への送信は、次に述べるような事情に照らし、営利
を目的として受信者に私的複製をさせるための営業的レコード配信サービスとして
の実態を有する。
ア 市販CDのフルサイズ送信
 送信素材のほとんどは商業用レコードが使用されている。従来の
アナログ地上波放送では、フルサイズの放送をしない、あるいは音にトークをかぶ
せるなど権利者に対する番組編成上の配慮がなされているが、本件番組では、番組
制作上何ら編成を加えずフルサイズで送信されている。したがって、受信者は、こ
れを複製することによって、市販CDと同じものを入手することができる。
イ 市販アルバムCDの丸ごと送信
 市販アルバムCDも、二週に分けて送信するなど偽装されている
が、丸ごと送信されている。したがって、受信者は、これを複製することによっ
て、市販アルバムCDと同じものを入手することができる。
ウ デジタル送信
 本件番組は、デジタル送信であって、繰り返し録音しても音質が
劣化しない。受信者がMDに録音すればCDなみの高音質の複製物を作ることがで
きる。
エ ニア・オンデマンド送信
 本件番組の一〇〇チャンネルの内七〇チャンネルについては、受
信者が録音チャンスを逃すことがないよう、数十曲をワンサイクルとして繰り返し
送信がされている。
オ プログラム予告送信
 繰り返し送信される七〇チャンネルについて、予約録音および編
集録音を容易にするよう、どのアーティストのどの曲が何時何分何秒に送信される
かという送信の詳細をファックスで受信者に送信するサービスを行っている。
カ 六〇分送信
 MD等一般的な録音媒体において最も標準的な録音可能時間は六
〇分であるところ、本件番組は、これに対応して、六〇分ごとにポーズを入れて、
六〇分ごとの録音が可能なようにしている。
キ 新譜送信
 レコード製作者には、著作権法上一年間の貸与権と四九年間の報
酬請求権が付与されている。そして、一年間の貸与権存続期間については、現在、
邦楽シングルが最長三日間、邦楽アルバムが最長三週間、洋楽は一年間のレンタル
禁止期間が設定されている。
 一方、本件番組では、新譜発売後すぐにその曲が利用されてお
り、このようなサービスは、レコードの売り上げが新譜発売後一定期間に大きく依
存していることから、レコード販売そのものと直接的に競合し、レコード販売に甚
大な影響を与えている。
③ さらに、本件番組の公衆への送信は、次に述べるような事情に照ら
し、レコード製作者の制作したレコードにただ乗りするものといえる。
ア 市販CDの販売機会の奪取
 本件番組は、前述のとおり、私的録音を奨励することにより聴取
者を獲得しているものである。
 本件番組のサービス形態及びデジタル端子を標準装備する受信チ
ューナーの組み合わせは、私的録音とみなされない「テープダビングサービス」と
同様である。
 本件番組の月額聴取料が一二〇〇円であるのに対し、シングルC
Dの標準的な小売価格が一枚当たり一〇〇〇円であることを考えれば、レコードの
販売に甚大な影響を与えていることは明白である。
イ 二次使用料制度の限界
 二次使用料制度においては、レコード製作者に許諾権がないた
め、アナログ放送並に二次使用料の金額は低い額にならざるを得ず、これが市販C
Dの販売機会喪失によるレコード製作者の損失を補填するに足りないことは明らか
である。
ウ 私的録音補償金制度の限界
 本件番組が前述のとおり私的録音を奨励する営業的レコード配信
サービスであること及び録音媒体としての生MDの販売が急激に拡大していること
(一九九七年における生産枚数が八〇〇〇万枚、国内需要だけで五三〇〇万枚)か
らすれば、実際の私的録音補償金の額(一九九七年において、社団法人私的録音補
償金管理協会からレコード製作者が受領した金額は、四億四〇〇〇万円程度)が、
市販CDの販売機会喪失によるレコード製作者の損失を補填するに足りないことは
明らかである。
④ レコードにおける「通常の利用」は、レコードを公衆に販売するこ
とであるところ、本件番組の公衆への送信に関する前記②及び③の実情に照らせ
ば、本件番組において送信された本件各音源を受信者がMDに録音する行為は、市
販のCDに代替する交換価値を有する物をCDの購入価格よりもはるかに安価で作
成するものであり、レコード製作者による「著作物の通常の利用を妨げ」ることは
明らかであるから、著作権法三〇条一項が許容する私的複製には該当しない。した
がって、受信者による右録音行為は、本件各レコードの違法な複製行為である。
(2) 本件番組の公衆への送信は、前記(1)②記載のとおり、受信者
による違法な私的複製を誘発する営業的レコード配信サービスとしての実態を有す
るものであり、加えて、被告第一興商は、①受信者に配布しているカタログにおい
て受信チューナーをMD等のオーディオ機器に接続し録音することを勧め、②受信
者による録音の便宜のために、どのアーティストのどの曲が何時何分何秒から放送
されるかという秒単位の番組予告をファックスで受信者に送信するサービスを行っ
ており、また、被告日本デジタルは、①受信者に配布しているマニュアルにおい
て、「MDにつなげれば楽しさは更に広がる」と、受信チューナーをMD等のオー
ディオ機器に接続し録音することを勧め、②受信者による録音の便宜のために、ど
のアーティストのどの曲が何時何分何秒から放送されるかという秒単位の番組予告
をファックスで受信者に送信するサービスを行っている。
 したがって、被告らは、本件番組において本件各音源を公衆に送信す
ることなどにより、受信者に対して、本件各音源をMDに違法に複製することを教
唆又は幇助している。
(3) 著作隣接権の侵害行為を教唆又は幇助する者も、その侵害行為を
停止又は防止できる立場にある限り、著作権法一一二条一項の「著作隣接権を侵害
する者又は侵害するおそれのある者」に該当し、著作隣接権者は、右教唆者又は幇
助者に対して、同条項に基づく差止請求をなし得るものと解すべきである。
 被告らは、共同して本件番組において本件各音源を公衆に送信するこ
とによって、受信者による本件各音源の違法な複製行為を教唆又は幇助する者であ
るところ、受信者による右複製行為は、被告らによる本件番組における本件各音源
の公衆送信がなければ成り立たないものであり、被告らは、右公衆送信を中止する
ことによって、受信者による右複製行為を「停止又は予防できる立場」にあるもの
といえる。
 したがって、原告は、被告らに対し、本件各レコードについてのレコ
ード製作者としての複製権に基づき、本件番組における本件各音源の公衆送信の差
止めを求めることができる。
(二) 被告らの主張
(1) 著作権法三〇条一項は、著作物の種類・性質を限定することな
く、「私的使用」、すなわち「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範
囲内において使用すること」を目的とする場合には、公衆の使用に供することを目
的として設置されている自動複製機器を用いて複製するときを除き、その使用する
者が複製することを適法なものとして認めているところ、同条項の立法趣旨は、家
庭のような閉鎖的な私的領域における零細な複製を許容するというものである。
 本件番組の受信者が公衆送信された本件各音源をMDに録音するの
は、一般に個人的な範囲において使用することを目的とするものと考えられるか
ら、右のような受信者の複製行為が、著作権法三〇条一項によって認められる私的
使用のための複製に当たることは、自明である。
 原告らの主張は、複製を行う受信者の利用目的が私的なものであって
も、複製行為の方法・態様、複製源(何から複製するのか)の種類・性質及び作成
される複製物の品質等によっては、「著作物の通常の利用」を妨げ、違法な複製に
なり得ることを前提とするが、このような主張は、あまりに著作権法三〇条一項の
文理から離れた解釈であって、独自の解釈というほかはない。前述のとおり、同条
では、適法な複製と違法な複製は、複製を行う目的によって、すなわち、「個人的
に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とす
る」か否かによって区別されていることは明らかである。
 また、原告らは、受信者による本件番組における本件各音源の録音が
デジタル録音であることを、右録音が本件各レコードの「通常の利用を妨げる」こ
との一つの論拠としているが、この点については、私的録音補償金制度(著作権法
三〇条二項)によって既に手当てがなされている問題であるから、この点を受信者
による録音が私的複製の範囲外であるという主張の根拠とすることはできない。
(2) 右のとおり、本件番組の受信者による私的使用目的での本件各音
源のMDへの録音は、著作権法三〇条一項により適法であるから、被告らが本件番
組において本件各音源を公衆に送信することにより、違法な私的複製の教唆又は幇
助を行っている旨の原告らの主張は、教唆又は幇助行為の有無を論ずるまでもなく
失当である。(なお、本件番組を公衆に送信するに当たっての被告らの行為が、教
唆又は幇助行為に当たることについても争う。)
(3) 著作権法一一二条一項による差止請求は、直接の侵害行為者に対
してのみ行使し得るものであり、侵害行為の教唆者又は幇助者に対しては行使し得
ないものと解すべきであるから、被告らに対し、受信者による違法な複製について
の教唆者又は幇助者であるとの理由により、請求の趣旨第一項の差止めを求める原
告らの請求は、この点からも失当である。
(三) 被告日本デジタルの個別主張
 原告らは、被告日本デジタルが、①受信者に配布しているマニュアルに
おいて「MDにつなげれば楽しさは更に広がる」と受信チューナーをMD等のオー
ディオ機器に接続し録音することを勧め、②受信者による録音の便宜のために秒単
位の番組予告をファックスで受信者に送信するサービスを行った上で、本件番組の
公衆送信を行うことによって、受信者の違法な私的複製を教唆又は幇助している旨
主張する。
 しかしながら、右①において原告らの主張する「MDにつなげれば楽し
さは更に広がる」との表現は単に複製の可能性を示唆する記述にすぎず、「私的録
音を強く勧めている」表現とは到底認められず、また、被告日本デジタルは②のフ
ァックスサービスの内容に全く関与していない。しかも、前記1(一)記載のとお
り、被告日本デジタルは本件公衆送信の主体ではない。
 したがって、被告日本デジタルは、原告らが違法な私的複製の教唆又は
幇助行為として主張する行為をいずれも行っていないから、原告らの主張に理由が
ないことは明らかである。
4 争点4について
(一) 原告らの主張
(1) 本件番組において、公衆に送信された本件各音源に係る音楽デー
タは、受信者が保有する受信チューナーにおいて所定の信号処理を行う際に、受信
チューナーに設けられたRAMに蓄積される(以下「本件RAMへの蓄積」とい
う。)ことになるところ、右RAMへの蓄積は、著作権法上の「複製」(同法二条
一項一五号)に該当する。
 現行の著作権法二条一項一五号は、「複製」を「印刷、写真、複写、
録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」をいうと定義するところ、
旧著作権法の下では、「複製」の概念は「直接又は機械を使って著作物を感知させ
得る一切」を意味するものと解釈されており、現行法においては、この解釈を前提
としつつ、旧法下の「複製」を有形的複製と無形的複製に分け、「複製」を有形的
なものに限定することとしたものである。したがって、現行法上の「複製」は、
「直接または機械を使って著作物を感知させ得る有形的な一切」を意味すると解釈
される。
 そして、RAMは、情報を電子的に記憶する有形的媒体であるから、
本件RAMへの蓄積が著作権法上の「複製」に該当することは明らかである。この
ことは、同じく情報を電子的に記憶する有形的媒体であるリード・オンリー・メモ
リー(以下「ROM」という。)、ハードディスク又はフロッピーディスクと変わ
りがない。RAMがROM等と異なるのは、電源を切れば情報が消滅するという点
のみであるが、著作権法では、「複製」の概念につき、著作物を感知させ得る状態
の継続時間について何ら制限を設けておらず、前記のとおり、現行著作権法上の
「複製」は、「直接又は機械を使って著作物を感知させ得る有形的な一切」を意味
すると解釈すべきであるから、RAMに蓄積された情報が電源の停止によって消滅
することは、RAMへの蓄積を「複製」と解する妨げとはならない。
 また、我が国は、ベルヌ条約、万国著作権条約パリ改正条約(以下
「万国著作権条約」という。)に加盟しており、著作権法は、これらの条約に適合
するように解釈されなければならないところ、次に述べるとおり、これらの条約に
おいては、「複製」の概念につき、複製の方法や形式を問わないものと規定され、
かつ、RAMへの電子的蓄積も「複製」に当たると解釈されている。
① ベルヌ条約九条(1)は、「文学的及び美術的著作物の著作者でこ
の条約によって保護されるものは、それらの著作物の複製(その方法及び形式のい
かんを問わない。)を許諾する排他的権利を享有する。」と規定する。
② 万国著作権条約四条の二第一項は、「第一条に規定する権利は、著
作者の財産的利益を確保する基本的な権利、特に、複製(方法のいかんを問わな
い。)、公の上演及び演奏並びに放送を許諾する排他的権利を含む。」と規定す
る。
③ ベルヌ条約を管理するWIPOと万国著作権条約を管理するユネス
コが一九八二年六月に共同で開催した「コンピュータの著作権問題に関する第二回
政府専門家委員会」(我が国も参加)は、RAMへの電子的蓄積が複製の概念に含
まれるかなどの問題を審議し、各国に対する指針として「著作物の利用または創作
のためのコンピュータ・システムの使用から生ずる著作権問題の解決のための勧
告」を採択したが、右勧告においては、保護著作物のコンピュータ・システムへの
インプットの行為、すなわちRAMへの電子的蓄積が、ベルヌ条約および万国著作
権条約における「複製」に含まれるべきものとされている。
④ 一九九六年一二月に採択されたWIPO著作権条約及びWIPO実
演・レコード条約の解釈に関して、我が国も参加して採択された「WIPO著作権
条約に関する合意声明」及び「WIPO実演・レコード条約に関する合意声明」に
おいて、保護著作物をデジタル形式により電子媒体に蓄積することがベルヌ条約に
おける「複製」に当たることが合意されている。
(2) 右のとおり、本件番組において公衆送信された本件各音源の複製
が行われる受信チューナーは、各受信者が所有するものであるが、被告らは、受信
者との間で有償の放送サービス契約及び番組供給契約を締結し、契約を締結した受
信者のみが受信できる権利を有することとし、また、契約締結者に「パーフェクト
カード」を貸与して、事実上契約締結者のみが受信できるようにコントロールする
(パーフェクトカードがなければ暗号化された信号を復号できない。)ことによ
り、営利行為として受信者による右複製行為を管理支配している。
 したがって、被告らは、受信チューナーにおける複製行為の主体とい
える。
(3) 以上によれば、被告らは、本件番組において本件各音源に係る音
楽データを公衆に送信し、これを各受信者の保有する受信チューナーのRAMに蓄
積させることにより、原告らの本件各レコードについてのレコード製作者としての
複製権を侵害している。
(二) 被告らの主張
 次に述べるとおり、著作権法の解釈として、受信チューナーにおける瞬
間的な信号の蓄積が「複製」に当たると解する余地はない。
(1) 我が国の著作権法の解釈においては、従来からコンピュータプロ
グラムをコンピュータ上で使用する際に生じるプログラムのRAMへの一時的蓄積
は同法上の「複製」には該当しないと一般に解されている。なぜなら、このような
一時的蓄積(ローディング)は、コンピュータ上でプログラムを使用する際に必然
的に伴うものであるから、このような行為を著作権法上の「複製」と解し、著作権
者に独占権を認めてしまうと、著作権法上本来は認められないはずの、著作物の
「使用権」を認めるに等しい結果となってしまうからである。
 また、著作権法がプログラム著作物という概念を導入した昭和六三年
改正において、一一三条二項(違法ソフト使用のみなし侵害規定)が新設された
が、この規定は、プログラム著作物の一時的蓄積が同法上の複製には当たらないと
いう立法者の意思を明確に反映したものにほかならない。すなわち、仮に、立法者
がプログラム著作物のRAMへのローディングが「複製」に該当すると考えていた
とすれば、プログラムの使用には常に複製が伴うことになる以上、このようなみな
し侵害規定を設ける必要はないからである。したがって、現行著作権法は、プログ
ラム著作物の使用に当たって通常付随するRAMへの一時的蓄積を「複製」に当た
るとすることによって、事実上ソフトウェアに「使用権」を認めるような帰結が生
ずることを敢えて避けるという立法者意思に基づいていると解される。
 そして、この理はプログラム著作物に至らない電子データについても
全く同様にあてはまる。すなわち、データ形式で複製された著作物をコンピュータ
上で使用するためにRAMへの一時的蓄積を必然的に伴うという場合には、かかる
一時的蓄積をもって複製と解することは、事実上その電子データからなる著作物に
ついて「使用権」を認めるに等しく、右のプログラム著作物における問題状況と何
ら違いはないからである。
(2) ベルヌ条約およびWIPO著作権条約に照らしても、我が国の著
作権法上、RAMへの一時的蓄積を「複製」に当たると解しなければならないもの
ではない。
 ベルヌ条約やWIPO著作権条約等で我が国が拘束され得る国家間契
約等においても、「一時的蓄積」をもって「複製」と解することを義務付けられて
いるという事実は認められない。
(3) 右に述べたとおり、著作権法の解釈としては、RAMへの一時的
蓄積は「複製」に当たらないというべきであるから、この点をもって既に原告らの
主張が失当であることは明らかであるが、さらに、本件の受信チューナーにおいて
生じる蓄積は、音楽信号の受信および再生に付随する技術的かつ瞬間的な蓄積にす
ぎず、これは右に述べた「一時的蓄積」にすら及ばないものであるから、なおさら
「複製」とはいえない。
 すなわち、被告日本デジタルが行った実測結果によれば、ソニー社製
受信チューナー(DST―D900)を用いて放送用電波を受信した場合、受信側
アンテナで電波を受信してから受信チューナー内でのデコードなどを施して出力に
至るまで、信号の受信チューナー内での滞留時間は、わずかに約〇・六九五秒にす
ぎないという事実が確認されたのであり、このような瞬間的蓄積は、CDプレーヤ
ーで音楽CDを演奏する場合やファックスで著作物を送信する場合などにみられる
瞬間的・技術的な蓄積と同様であり、かかる蓄積にまで複製権を及ぼそうとする見
解は、我が国はもとより、諸外国においても見られない。
(4) また、仮に、原告らが主張するように、電子機器の使用において
行われるRAMへの瞬間的・技術的蓄積までもが、複製権侵害行為として違法にな
るということになれば、電子メディア機器の氾濫する現代社会においては、電子機
器を使用して他人の著作物を使用することは不可能となってしまい、その弊害は極
めて大きい。
 すなわち、仮に、原告らの主張するようにRAMにおけるいかなる蓄
積も違法な複製に該当すると解するならば、右に述べたCDプレイヤーで音楽CD
を使用することやファックス送信機で著作物を送信する行為はもとより、音声・画
像処理用のRAMを搭載するテレビで放送を受信することすらもすべてが違法にな
ってしまうことになり、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、権利の保護を図
り、もって文化の発展に寄与する」という著作権法一条の目的に照らしても、許さ
れないものである。
(三) 被告日本デジタルの個別主張
 原告らが主張するように、被告日本デジタルが受信者の受信チューナー
における蓄積行為を管理支配している関係は存在しない。
 原告らは、受信チューナーにおける信号蓄積が被告日本デジタル自身の
行為であると主張する根拠として、被告日本デジタルが受信者との間で放送サービ
ス契約を締結し、受信に必要な「パーフェクトカード」を貸与することによって、
受信者の受信チューナーによる複製行為を管理支配していると主張するが、受信者
が持つパーフェクトカードの所有権は確かに被告日本デジタルに帰属するものの、
被告日本デジタルが受信者に対して同カードを貸与しているという法律関係は存在
せず、また、被告日本デジタルと受信者との間には他に何らの契約関係も存在しな
い。すなわち、「パーフェクトカード」を受信者に貸与するのは、その受信者にと
っての最初となる有料放送の委託放送事業者であって、被告日本デジタルではな
く、また、放送を受信するに当たっての有料放送契約も、被告日本デジタルと受信
者との間で締結されることはなく、各委託放送事業者(本件では被告第一興商)と
受信者との間で締結される。
 したがって、被告日本デジタルと受信者との間には、原告らの主張する
ような管理支配関係を基礎付けるような法律的事実的な関係は存在せず、この点か
らも原告らの主張は失当である。
(四) 被告第一興商の個別主張
 仮に、受信チューナーのRAMにおける蓄積が「複製」に当たるとして
も、受信を予定しない放送があり得ないことからすると、放送について著作権者等
の許諾があれば、衛星デジタル放送における受信チューナーのRAMへの蓄積につ
いても、当然に黙示の許諾があるものと考えられる。
 他方、原告らは、元来、放送についての許諾権を有しないレコード製作
者であるから、原告らとの関係では、本件番組の公衆送信が当然に適法とされるの
であり、このような場合に、送信と裏腹の関係に立つ受信について、複製許諾権の
行使を認めるとすれば、放送許諾権を有しないレコード製作者に、放送許諾権を与
えるに等しいこととなり、不当な結果となる。 してみると、原告らは、放送許諾
権を有しない以上送信についての許諾はしないにせよ、送信について放送使用料を
徴収するという行為によって、受信についても当然に黙示の許諾をしているものと
解するの相当であり、したがって、受信チューナーにおける複製権の侵害は認めら
れない。
(五) 被告らの前記(二)(1)の主張に対する原告らの反論
 著作権法一一三条二項の規定については、RAMへの蓄積行為が本来的
に「複製」に該当するとの前提に立ったとしても、あえてプログラムのユーザー保
護のために、プログラムの使用及びそれに伴うプログラムのRAMへの蓄積が違法
となる場合を所定の場合に限定する趣旨であると解釈することができるから、同条
項によって、RAMへのへの蓄積が「複製」に当たらないとの立法者の意思が明ら
かにされているとはいえない。
5 争点5について
(一) 原告らの主張
 被告らが、本件番組において本件各音源を公衆送信するなどして、原告
らの本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害したこと(被
告日本デジタルについては前記3及び4、同第一興商については前記2ないし4)
によって、受信者のうちの相当数が本件各音源をMDに録音し、その結果、原告ら
は、本件各レコードについて、それぞれ少なくとも三万枚(平成一〇年三月末時点
における本件番組についての加入者数六万五〇〇〇件の半分弱)のシングルCDの
販売機会を失った。
 これによって、原告らが喪失した利益は、それぞれ一五〇〇万円(シン
グルCD一枚当たりの利益五〇〇円×三万枚)であるから、原告らは、被告らの前
記複製権侵害によって、それぞれ右同額の損害を受けた。
(二) 被告らの主張
 原告らの主張を争う。
第三 当裁判所の判断
 争点1ないし5を判断するに当たっては、このうち争点1については、争点
3、4の判断の結果いかんによって判断が不要となることから、まず、争点2ない
し4について判断する。
一 争点2(保有サーバにおける複製権侵害の成否)について
1 被告第一興商が、本件番組において本件各音源を公衆に送信するに当たっ
て、本件各音源に係る音楽データを保有サーバに蓄積する行為が、本件各レコード
の「複製」に当たることは明らかである。
2 著作権法一〇二条一項により準用される同法四四条一項の適用の可否
(一) 本件番組の送信が著作権法上の「放送」に当たるか否かについて
(1) 著作権法は、二条一項七号の二において「公衆によって直接受信
されることを目的として無線通信又は有線電気通信(有線電気通信設備で、その一
の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者
の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる
送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)の送信を行うこと」をもっ
て「公衆送信」とした上で、同項八号において「放送」を「公衆送信のうち、公衆
によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送
信」と定義しているところ、本件番組の各チャンネルにおける送信が、その態様
(前記第二、一3)に照らし、公衆によって直接同一の内容の送信が同時に受信さ
れることを目的として行う無線通信の送信であることは明らかであるから、本件番
組の送信は、著作権法二条一項八号の「放送」の定義に当てはまるものであり、し
たがって、同法四四条一項所定の「放送」にも当然該当するものというべきであ
る。
 この点、原告らは、前記第二、四2(二)(1)③のとおり、本件番
組が多数のチャンネルを設けて音楽をジャンル分けした上で各チャンネルにおいて
同一の曲目のセットを多数回繰り返し送信するという点をとらえて、聴取者の嗜好
に応じて都合のよい時に好きな楽曲を受信させるものであり、その実態はリクエス
ト送信(聴取者からの個別のリクエストに応じて楽曲を個別に配信すること)と異
ならないから、「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信される」ものとはい
えない旨主張する。しかしながら、原告らの右主張は、本件番組の右のような実態
を挙げて、聴取者が番組プログラムの範囲内において、都合のよい時間帯に好きな
楽曲を受信・聴取することができ、聴取者にとってみれば、結果的にリクエスト送
信に近い利便性が得られるという事情を指摘するものにすぎず、そのことが、本件
番組において、各チャンネルごとに同一の内容の送信が行われ、それが公衆によっ
て同時に受信されているという、送受信の態様に影響を及ぼすものではないから、
原告らの右主張は採用できない。
(2) 原告らの前記第二、四2(二)(1)①及び②の主張の当否につ
いて
 原告らの主張の要旨は、著作権法において、放送との関係でレコード
製作者の複製権を制限する規定(一〇二条一項、四四条一項)が設けられたのは、
当時現に存在していたNHKや民放テレビ局・ラジオ局による「放送」を想定した
上で、これらにおいては、①公共性と同報性とを強く有すること、②番組編成の一
部としてレコードを利用するにすぎないこと、③アナログ放送であり、レコード購
入に代替する音質のものを提供するものではないこと、④放送により消費者の需要
を喚起しレコード購入を促進する側面を持つことなどの事情があることに照らし、
レコード製作者と放送事業者との関係の合理的調整の観点から、右のような制限を
認めることが妥当であるとの価値判断を行った結果であるから、右価値判断の前提
となった利益状況が妥当しない通信事業については、たとえそれが無線通信の送信
であっても、レコード製作者の複製権の制限が認められる「放送」には当たらない
というべきところ、本件番組の送信は、その実態(前記第二、四2(二)(1)②
アないしエ)からみて、右のような利益状況が妥当しないものであるから、著作権
法上の「放送」とはいえない、というものである。
 そこで、右主張の当否について検討するに、著作権法は、昭和四五年
の制定時から、「放送」について、「公衆によって直接受信されることを目的とし
て無線通信の送信を行うこと」との定義規定を置き(平成九年法律第八六号による
改正前の著作権法二条一項八号)、右のような「放送」との関係でレコード製作者
の複製権を制限する規定(著作権法一〇二条一項、四四条一項)を設けており、そ
の後、平成九年法律第八六号による改正において、自動公衆送信に関する送信可能
化権の新設に伴って、「自動公衆送信」、「放送」、「有線放送」及びこれらの上
位概念である「公衆送信」についての定義規定が改めて整備されるに当たっても、
「放送」については、前記(1)記載のとおりの定義規定を置き、右のような「放
送」との関係でレコード製作者の複製権を制限する前記規定をそのまま維持してい
るのである。このような著作権法の「放送」についての規定形式からすると、仮
に、立法に当たって、原告らが主張するような立法当時における放送事業者とレコ
ード製作者との間の利益状況が考慮された事実があるとしても、結局のところ、著
作権法は、「放送」に当たるか否かについての基準を、その定義規定に明示された
送受信の態様の点のみに求める立場を採ったものというべきであるから、原告らが
主張する前記①ないし④のような事情の有無によって、「放送」に当たるか否かの
結論が左右されると解するのは相当でない。著作権法における「放送」に当たるか
否かついては、前記のような規定形式からして、その定義規定に明示された送受信
の態様のみによって判断すべきものとされていることが一義的に明確であるといえ
るから、これに当てはまるものは、著作権法上の「放送」に当たるといわざるを得
ない。そして、本件番組の送信が右定義規定に当てはまることは前記(1)のとお
りであるから、原告らが主張する本件番組の実態(前記第二、四2(二)(1)②
アないしエ)にかかわらず、本件番組の送信は著作権法上の「放送」に当たるとい
うべきであり、原告らの前記主張は理由がない。
 なお、原告らは、本件番組の送信は、その実態(前記第二、四2
(二)(1)②アないしエ)からみて、レコード製作者に送信可能化権が認められ
る自動公衆送信のうちのプッシュ型インターネット放送と実質的に異ならないか
ら、これと区別され、レコード製作者との関係で、自由な送信が認められかつ一時
的固定も認められる「放送」に該当するとはいえない旨も主張するが、「自動公衆
送信」(著作権法二条一項九号の四)と「放送」とは、著作権法上明確に区別され
た定義規定が置かれているているところ、前記のとおり「放送」の定義規定に該当
し、「自動公衆送信」の定義規定に該当しないことが一義的に明らかな本件番組の
送信について、右のような実質論のみから「放送」に該当しないということができ
ないことは、前記の説示が同様に当てはまるところであって、原告らの右主張も理
由がない。
(二) 被告第一興商が著作権法上の「放送事業者」に当たるか否かについ

 被告第一興商は、放送法上の委託放送事業者(同法二条三号の五、五二
条の一三第一項)の地位に基づき、その委託放送業務として、前記(一)記載のと
おり著作権法上の「放送」に該当する本件番組の送信に、前記第二、一3記載のと
おり主体的に関与しているものといえるから、「放送を業として行う者」、すなわ
ち著作権法二条一項九号の「放送事業者」に当たるものであり、したがって、同法
四四条一項の「放送事業者」にも当然該当する。
 原告らは、放送法における「受託放送事業者」(現実に電波を送信する
放送事業者)、「委託放送事業者」(受託放送事業者に委託して番組送信を行う
者)の概念は、平成元年の同法改正によって設けられたものであり、著作権法が制
定された昭和四五年当時にはそのような概念はなく、現実に電波の送信を行う放送
事業者しか想定されていなかったのであるから、著作権法上の「放送事業者」に
は、現実に電波の送信を行う「受託放送事業者」のみが含まれ、被告第一興商のよ
うな「委託放送事業者」は含まれない旨主張する。しかしながら、一定の概念につ
いて法律に定義規定がある場合に、その法律の制定時に存在せず、また右当時具体
的に想定されていなかったものであっても、当該定義規定に当てはまれば、右概念
に当たるものとして法規の適用の対象となると解するのが当然であり、当該法律の
制定時に存在せず、右当時具体的に想定されていなかったというだけの理由で、そ
れが右概念に当たらないということはできない。被告第一興商は、本件番組の送信
に当たって、前記第二、一3記載のとおり、送信される素材の収集や番組の編成な
ど番組の送信過程の主要部分を自ら行っており、本件番組の送信の主体ということ
ができる者であるから(なお、原告らにおいても、被告第一興商が本件番組の送信
の主体であるとの前提に立って、同被告に対し、本件各音源の公衆送信の差止めを
求めているのであるから、被告第一興商が本件番組の送信主体であること自体は、
当事者間に争いがないものといえる。)、電波の送信行為を自ら行っていないから
といって、「放送を業として行う者」というを妨げないというべきである。したが
って、原告らの前記主張は採用できない。
(三) 本件番組において音楽データを保有サーバに蓄積することが「放送
のための一時的な録音」に当たるか否かについて
(1) 著作権法一〇二条一項によって準用される同法四四条一項におけ
る「放送のために」「一時的に録音」するとの要件がいかなる場合を意味するかに
ついては、とりわけ「一時的」なる文言に多義的な解釈の可能性があることからす
ると、右文言自体から一義的に明確であるとはいえないから、その解釈に当たって
は、同条項が設けられた趣旨を考慮する必要があるというべきある。そこで考察す
るに、同条項が放送事業者による放送のためのレコードの一時的な録音をレコード
製作者の複製権を侵害しないものとして認めた趣旨は、本来レコードを用いた放送
はレコード製作者の許諾を要せず自由に行い得るものとされるところ(ただし、商
業用レコードを用いた放送については、レコード製作者への二次使用料支払義務が
生じる。)、他方において、放送が一般的に放送対象物の録音物・録画物によって
行われることが通常であることから、具体的な放送に通常必要とされる範囲内での
レコードの録音は、その放送自体が自由に行い得るのと同様の意味において、これ
を自由なものとして認めることにあるものと解される。したがって、同条項におけ
るレコードの「放送のための一時的な録音」に当たるか否かを判断するに当たって
は、当該録音が、その目的とされる放送の実態に照らし、具体的な放送に通常必要
とされる範囲内のものか否かという観点から考察すべきものである。
(2) 乙第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、被告第一興商が本件番
組における音楽データを保有サーバに蓄積するに当たっては、次のような運用がな
されていることが認められる。
① 本件番組で放送される曲目は、放送予定週のおおむね一か月ないし
一か月半前に決定し(ただし、新譜については、直前に放送予定を決める場合もあ
る。)、現に保有サーバに蓄積されている曲でないものについては、右のように放
送予定を具体的に決定した後に、放送予定週の直前の金曜日までに、保有サーバへ
の蓄積を行う。
② 保有サーバの容量は、一テラバイトであり、一曲五分とすると約一
〇万曲分に相当する音楽データを蓄積することができるが、実際には、右容量を限
界まで使用することはなく、四万曲から七万曲程度の蓄積にとどめている。
③ 保有サーバにリンクされたコンピュータには、削除する曲を検索す
るためのプログラムが設定されており、一定の日付けを入力することによって、最
終放送日がその日以前である曲を検索し、これらを一括して消去できるシステムと
なっている。
④ 毎週の番組内容の変更のため、保有サーバに新たな曲の音楽データ
を蓄積するに当たっては、前記②の容量との関係で、既存の音楽データを消去する
必要があり、前記③のシステムによって、現にその週に放送中の曲と具体的な放送
予定が決まっている曲を除いて、最後に放送された日が古い曲から順に、必要な曲
数分を消去する。
⑤ 平成一〇年八月末からは、少なくとも三週間おきに保有サーバをチ
ェックし、前記③のシステムによって、最後に放送された日が三か月より前の曲を
検索し、これらを一括して消去している。
(3)① 右のような運用の実態からすると、本件番組における音楽デー
タの保有サーバへの蓄積は、特定の具体的な放送予定を前提として初めて行われる
ものであり、また、保有サーバに蓄積される総曲数が限定され、放送されない曲は
いずれは消去されるという運用システムの下で行われるものであるから、具体的な
放送上の必要に応じ、その必要性の範囲内において行われているものということが
できる。
 右システムの下においても、頻繁に放送されることになる曲につい
ては、特定の放送が終了しても消去されないまま次の放送のために蓄積が継続する
事態も生じ得るが、それは具体的な放送予定が反復して入ることによって結果的に
生じる事態にすぎないのであるから、これも具体的な放送上の必要性の範囲内のも
のにほかならないのであり、また、このような事態が結果的に生じるからといっ
て、運用システム自体が音楽データを長期間継続的に蓄積することを本来的に予定
したものということはできない(なお、前記のとおり、結果的に蓄積が継続し、そ
の期間が録音又は最後の放送の日から六か月を超えることになれば、著作権法四四
条三項の適用により、当該録音が事後的に違法とされることになるが、本件におけ
る本件各音源の録音に関し、原告らは、右条項の適用を主張するものではないか
ら、この点は、本件では問題とならない。)。
 したがって、本件番組における音楽データの保有サーバへの蓄積
は、その運用の実態に照らし、それがいずれ消去されることが予定されたシステム
の下における蓄積であるという意味において「一時的」なものといえるものであ
り、また、具体的な放送に通常必要とされる範囲内において行われるものであるか
ら、著作権法一〇二条一項によって準用される同法四四条一項における「放送のた
めの一時的な録音」に当たるものと認められる。
② 原告らは、本件番組における音楽データの保有サーバへの蓄積は、
一般的な放送用として、複数の異なる番組において汎用することを当初から目的と
した蓄積であるから、「放送のための一時的な録音」とはいえない旨主張する。
 しかしながら、本件番組における音楽データの保有サーバへの蓄積
が、具体的な放送予定を前提としたものであって、一般的な放送用に行われるもの
でないことは前記のとおりである。
 また、右蓄積は、前記のとおり、具体的な放送上の必要性がなけれ
ばいずれは消去されるという運用システムの下で行われるものであるから、汎用す
ることを当初から目的とした蓄積であるともいえない。この点、本件番組におい
て、複数のチャンネルで繰り返し放送されることになり、その間蓄積が継続する曲
もあることは否定できないが、そのような事態は、その後の放送予定次第によって
結果的に生じることであり、蓄積時に確定していることではない。そして、曲によ
っては、そのような事態が蓄積の当初から予想される場合も考えられるが、だから
といって、一般的に音楽データの保有サーバへの蓄積が、汎用することを当初から
目的としたものであるとまではいえない。
 さらに、複数回の放送に使用することを予定したものであることを
理由に、直ちに当該蓄積が「放送のための一時的録音」に当たらないものと解すべ
き根拠はなく、むしろ、著作権法四四条三項が、同条一項の「一時的録音又は録
画」がその後の保存の継続によって違法となる場合を規定するに当たって、録音又
は録画から六か月以内に当該録音物又は録画物を用いた放送があった場合には、そ
の放送の時からさらに六か月以内は、右録音物又は録画物をなお放送のために保存
することも違法にならないものとして認めていることからすれば、むしろ、著作権
法四四条は、一度の放送によって消去されることなく、その後の放送において再び
使用されることを予定した録音又は録画であっても、「放送のための一時的な録音
又は録画」として許容され得ることを前提にしているものということができる。加
えて、仮に、複数回の放送に使用することを予定した蓄積が「放送のための一時的
録音」に当たらないとの立場に立つとすると、本件番組のような音楽放送を行う放
送事業者としては、レコードの違法な複製となることを回避するために、複数回の
放送に使用することが具体的に予定されている曲であっても、個々の放送予定が終
了する都度これを消去し、次の放送のために再びこれを蓄積することを繰り返さざ
るを得ないことになるが、このような事態は、放送事業者に極めて煩雑な事務負担
を強いることになる反面、これによって、レコード製作者に格別の利益をもたらす
という関係も認められないのであって、社会的・経済的にみて不合理な結果を招来
させるだけである。したがって、本件番組における音楽データの蓄積が複数回の放
送に使用されることを予定したものであるとしても、それが「放送のための一時的
録音」であることを否定する理由にはならないというべきである(なお、原告ら
は、本件番組において、複数回の放送が同一チャンネル内に止まらず、異なるチャ
ンネルにも及ぶことを、特に「放送のための一時的録音」に当たらないことの根拠
として主張するが、本件番組のように、同一の放送主体が音楽のジャンルごとに多
数のチャンネルを設定してこれらを一体的に運用している音楽放送において、録音
された曲が一つのチャンネル内で複数回放送される場合と異なるチャンネルにわた
って複数回放送される場合とで、前記の解釈を別異とすべき理由は見当たらな
い。)。
 以上によれば、原告らの前記主張は理由がない。
(四) 以上を総合すれば、被告第一興商が本件番組において本件各音源を
公衆に送信するに当たって、本件各音源に係る音楽データを保有サーバに蓄積する
行為は、放送事業者が、本件各レコードを、自己の放送のために、自己の手段によ
り(前記第二、一3(三)(3))、一時的に録音する行為であるといえるから、
著作権法一〇二条一項によって準用される同法四四条一項が適用され、原告らの本
件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害するものとはいえな
い。
二 争点3(違法な私的複製の教唆・幇助による複製権侵害の成否)
1 弁論の全趣旨によれば、本件番組において送信された本件各音源を受信し
た受信者の中に、これを受信チューナーに接続した録音機器によってデジタル方式
のMDに録音する者が相当数存在することが推認されるところ、右のような録音が
当該受信者による本件各レコードの「複製」行為に当たることは明らかである。
2 著作権法一〇二条一項によって準用される同法三〇条一項の適用の可否
(一) 右のような受信者による本件各音源のMD録音が、一般的に、個々
の受信者にとって、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内にお
いて使用すること」を目的として行われていることは明らかであり(右の事実自体
については当事者間に実質的な争いがないといえる。)、また、右録音が公衆の使
用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて行われるもので
ないことも明らかであるから、個々の受信者による右録音行為は、著作権法一〇二
条一項によって準用される同法三〇条一項が規定する「私的使用のための複製」に
当たるものといえる(個々の受信者の中には、右のような使用を超えた使用を目的
として、本件各音源をMDに録音する者がいることも考えられるが、被告らがその
ような録音を具体的に教唆・幇助しているという事情はおよそ認められないから、
本件では、右の点は考慮しない。)。
(二) 原告らの主張(第二、四3(一)(1))の当否について
 原告らは、著作権法三〇条一項は、ベルヌ条約九条(2)本文に基づく
規定であるから、同法三〇条一項の「私的使用のための複製」に当たるというため
には、同条約九条(2)ただし書が規定する「ただし、そのような複製が当該著作
物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を害しないことを条件と
する。」との条件を満たす必要があるとの前提に立った上で、本件番組の公衆送信
に関する前記第二、四3(一)(1)②及び③記載のような実情からすれば、本件
番組の受信者が本件各音源をMDに録音する行為は、レコード製作者によるレコー
ドの通常の利用を妨げるものといえるから、同法三〇条一項の「私的使用のための
複製」には当たらない旨主張するので、右主張の当否につき検討する。
 まず、ベルヌ条約九条(2)の規定と著作権法三〇条一項との関係をみ
ると、同法三〇条一項は、同条約九条(2)本文が特別の場合に著作者等の複製権
を制限することを同盟国の立法に留保していることを受け、右複製権の制限が認め
られる一態様を規定したものということができるから、同条約九条(2)との関係
においては、同法三〇条一項が同条約九条(2)ただし書の条件を満たすものであ
ることが必要である。しかしながら、具体的にどのような態様が右条件を満たすも
のといえるかについては、同条約がこれを明示するものではないから、結局のとこ
ろ、各同盟国の立法に委ねられた問題であるといわざるを得ない。そして、右のよ
うな同条約九条(2)を具体化するものとして規定されている同法三〇条一項は、
それが同条約九条(2)ただし書の条件に沿うものであるとの前提の下で、前記
(一)のような要件の下における複製を複製権に対する制限として認めることを規
定しているというべきである。したがって、著作権法によって認められる私的使用
のための複製であるか否かを論じるに当たっては、同法三〇条一項の規定に当たる
か否かを問題とすれば足りるものであって、同条項の背景となるベルヌ条約の規定
を持ち出して、その規定に当たるか否かを直接問題とするまでもないというべきで
ある。したがって、原告らの前記主張は、その立論の前提において誤りがあるとい
わざるを得ない。
 そして、本件番組の個々の受信者による本件各音源のMDへの録音が、
一般的に、前記(一)記載のような目的・態様のものであり、それが著作権法三〇
条一項の規定に当たるものであることは前記のとおりなのであって、原告らが主張
する前記第二、四3(一)(1)②及び③記載のような本件番組の公衆送信の実情
を考慮したとしても、それが個々の受信者による録音の目的・態様自体に影響を及
ぼすものではないから、右の結論を左右するものではない。しかも、原告らが主張
する「レコード製作者によるレコードの通常の利用を妨げる」という状態は、本件
番組の公衆送信が前記第二、四3(一)(1)②及び③のような実態のものである
が故に初めて生じ得るものであるが、単に本件番組を受信するにすぎない聴取者に
対して、右のような公衆送信の実態に関する責任を問うことはできないはずである
ところ、その目的・態様において著作権法三〇条一項の「私的使用のための複製」
に本来該当すべき個々の受信者による録音行為について、右のような公衆送信の実
態を理由として、著作権法三〇条一項の「私的使用のための複製」に該当しない違
法な行為であると結論付けることは、結局のところ、個々の受信者に、自己の責任
領域に属しない他人の行為についての責任を負わせるに等しい結果となるのであっ
て、実質的にみても不当というべきである。
 したがって、原告らの前記主張は理由がない。
(三) 以上によれば、本件番組において送信された本件各音源についての
音楽データを受信した個々の受信者がこれを受信チューナーに接続したオーディオ
機器によってMDに録音する行為は、一般的に、著作権法一〇二条一項によって準
用される同法三〇条一項で許容される「私的使用のための複製」に当たるから、原
告らの本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害するものと
はいえない。
3 原告らの主張は、個々の受信者による本件各音源のMDへの録音が本件各
レコードの違法な複製であることを前提とした上で、被告らによる本件番組におけ
る本件各音源の公衆送信が、右ような個々の受信者による違法な複製を教唆又は幇
助する行為として違法であるという構成によるものであるところ、前記2で述べた
とおり、個々の受信者による本件各音源のMDへの録音は、本件各レコードの違法
な複製とはいえないのであるから、原告らの主張は、その前提を欠くものというべ
きである。
 したがって、原告らの違法な私的複製の教唆・幇助による複製権侵害の主
張は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
三 争点4(受信チューナーにおける複製権侵害の成否)
1 RAMへのデータ等の蓄積が著作権法上の「複製」に当たるか否かについ

(一) 著作権法における「複製」とは、「印刷、写真、複写、録音、録画
その他の方法により有形的に再製すること」を意味し(同法二条一項一五号)、プ
ログラムやデータを磁気ディスクやCD-ROMに電子的に記録し、コンピュータの
出力装置等を介して再生することが可能な状態にすることも、右「複製」に含まれ
ることは明らかである。
 ところで、RAM(ランダム・アクセス・メモリー)とは、コンピュー
タにおける作業データ等を保存する集積回路であり、一般に「メモリー」と称され
るものである。通常、コンピュータ上でデータ等を処理する際には、ハードディス
ク等のファイルからデータ等がRAMに移され、作業時にはコンピュータの中央演
算処理ユニット(CPU)によってRAM上のデータ等が処理され、処理が終了し
てファイルが閉じられると右データ等はRAMから元のハードディスク等に再び移
されることになる。このように、RAMにおけるデータ等の蓄積は、一般に、コン
ピュータ上での処理作業のためその間に限って行われるものであり、また、RAM
におけるデータ等の保持には通電状態にあることが必要とされ、コンピュータの電
源が切れるとRAM内のデータはすべて失われることになる。右のような意味にお
いて、RAMにおけるデータ等の蓄積は、一時的・過渡的なものということがで
き、通電状態になくてもデータ等が失われることのない磁気ディスクやCD-ROM
への格納とは異なった特徴を有するものといえる。
 そこで、RAMにおけるデータ等の蓄積について、右のような特徴を踏
まえた上で、著作権法上の「複製」に当たるか否かについて検討することとする。
(二) 著作権法は、著作物を利用する行為のうち、無形的な利用行為につ
いては、公になされるものに限って、著作者が右行為を行う権利を専有するものと
し(同法二二条ないし二六条の二)、他方、有形的な再製行為(複製)について
は、それが公になされるか否かにかかわらず、著作者が右行為を行う権利を専有す
るものとしている(同法二一条)。すなわち、著作権法は、著作物の有形的な再製
行為については、たとえそれがコピーを一部作成するのみで公の利用を予定しない
ものであっても、原則として著作者の排他的権利を侵害するものとしているのであ
り、前記のような著作物の無形的な利用行為の場合にはみられない広範な権利を著
作者に認めていることになるが、これは、いったん著作物の有形的な再製物が作成
されると、それが将来反復して使用される可能性が生じることになるから、右再製
自体が公のものでなくとも、右のように反復して使用される可能性のある再製物の
作成自体に対して、予防的に著作者の権利を及ぼすことが相当であるとの判断に基
づくものと解される。
 そして、右のような複製権に関する著作権法の規定の趣旨からすれば、
著作権法上の「複製」、すなわち「有形的な再製」に当たるというためには、将来
反復して使用される可能性のある形態の再製物を作成するものであることが必要で
あると解すべきところ、RAMにおけるデータ等の蓄積は、前記(一)記載のとお
り一時的・過渡的な性質を有するものであるから、RAM上の蓄積物が将来反復し
て使用される可能性のある形態の再製物といえないことは、社会通念に照らし明ら
かというべきであり、したがって、RAMにおけるデータ等の蓄積は、著作権法上
の「複製」には当たらないものといえる。
(三) 右のような結論は、次に述べるとおり、プログラム(著作権法二条
一項一〇号の二)に係る著作者の権利に関する著作権法の規定との関係からも裏付
けられる。
 すなわち、プログラムをコンピュータ上で使用するに当たっては、これ
をいったんコンピュータ内のRAMに蓄積すること(ローディング)が不可欠であ
るから、プログラムの使用行為とそのRAMへの蓄積行為とは、不可分一体の関係
にあるといえるところ、著作権法は、プログラム著作物に関して、著作者がこれを
使用する権利を専有する旨の規定を置いていない。しかも、同法一一三条二項は、
「プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物を業務上
電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時
に情を知っていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。」と規定して
いるところ、同条項は、プログラムを使用する行為のうち、一定の要件を満たすも
のに限って、プログラムに係る著作権を侵害する行為とみなすというものであるか
ら、プログラムを使用する行為一般が著作権法上本来的には著作権侵害にならない
ことを当然の前提としているということになる。してみると、著作権法は、プログ
ラムの使用行為及びこれと不可分一体の関係にあるプログラムのRAMへの蓄積行
為については、同法一一三条二項の場合を除いて、違法でないとの前提に立ってい
るものと解されるところ、その理由は、RAMへの蓄積行為が前記のような一時
的・過渡的な性質であるため、著作権法上の「複製」に当たらないことにあると解
するのが相当である。
 原告らは、著作権法一一三条二項の規定について、RAMへの蓄積行為
が本来的に「複製」に該当するとの前提に立った上で、あえてプログラムのユーザ
ー保護のために、プログラムの使用及びそれに伴うプログラムのRAMへの蓄積が
違法となる場合を限定する趣旨の規定と解すべき旨を主張するが、同条項の規定形
式、すなわち、本来異なるものを同一のものとして扱う場合に用いるところの「み
なす」という法令用語を使用していることからしても、同条項は、本来著作権に触
れる行為とはいえないものを、特に著作権侵害行為と認める趣旨の規定であって、
原告らが主張するように、本来著作権に触れる行為であるものについて、それが違
法となる場合を限定する趣旨の規定でないことは明らかというべきである。したが
って、原告らの右主張は失当である。
(四) また、原告らは、著作権法が「複製」の定義について、「有形的に
再製すること」と規定するのみで、著作物を感知させる状態の継続時間については
何ら制限を設けていないから、RAMへの蓄積が電源の停止によって消滅するもの
であるからといって、これを「複製」に当たらないと解することはできない旨主張
する。しかしながら、「有形的な再製」という概念と、これと対置し得る「無形的
な再製」という概念とを区別する基準は、必ずしも一義的に明確とはいい難いもの
というべきであり、前記(二)及び(三)のような事情を考慮すれば、RAMへの
蓄積については、前記のような一時的・過渡的な性質故に、著作権法にいう「有形
的な再製」というに至らないものと解すべきである。著作権法が「複製」の定義規
定において著作物を感知させる状態の継続時間について何ら制限を設けていないか
らといって、RAMへの蓄積が「複製」に当たらないと解する妨げとなるものでは
ない。原告らの右主張は、採用できない。
 さらに、原告らは、ベルヌ条約及び万国著作権条約の複製権に関する規
定においては、「複製」について「その方法や形式のいかんを問わない」(万国著
作権条約においては「方法のいかんを問わない」)ことが規定されているから、こ
れと適合するように著作権法上の「複製」の概念を解釈すれば、RAMへの蓄積も
「複製」に当たると解釈しなければならない旨主張する。しかしながら、右各条約
の複製権に関する規定(ベルヌ条約九条(1)、万国著作権条約四条の二第一項)
は、「複製」の概念自体について規定するものではなく、所与の概念とされている
「複製」に当たる行為について、その「複製」行為の方法や形式がいかなるもので
あるかにかかわらず、著作者がこれを許諾する排他的権利を有することを規定する
ものにすぎないのであり、他方、右各条約において、他に「複製」の概念を定義付
ける規定もないのであるから、結局のところ、RAMへの蓄積が我が国の著作権法
における「複製」に当たるか否かという点についての解釈が、右各条約によって覊
束されるという関係は認められないというべきである。また、原告らが主張する国
際会議における勧告や合意声明(前記第二、四4(一)(1)③及び④)によって
も、我が国の著作権法に関する右の点の解釈が覊束されるという関係は、やはり認
められない。原告らの右主張も、また、採用できない。
2 受信チューナーのRAMにおける蓄積について
 本件番組における音楽データが受信チューナーのRAMに蓄積される過程
は、前記第二、一4記載のとおりであり、右蓄積が前記のような一般的なコンピュ
ータのRAMにおけるデータ等の蓄積と同様に一時的・過渡的なものであることは
明らかであるから、本件番組において受信された本件各音源を受信チューナーのR
AMに蓄積する行為は、著作権法上の「複製」には該当せず、したがって、原告ら
が有する本件各レコードについてのレコード製作者としての複製権を侵害するもの
ではない。
四 なお、本件の特質にかんがみ特に付言するに、本件における原告らの主張
(とりわけ、争点2における著作権法四四条一項の「放送」に関する主張及び争点
3における同法三〇条一項の「私的使用のための複製」に関する主張)の趣旨は、
本件番組の公衆送信がその実態からみて、著作権法がおよそ想定していない新しい
形態のものであるが故に、これに著作権法の規定をそのまま当てはめると、レコー
ド製作者である原告らの利益を不当に侵害し、その犠牲の下で本件番組を運営する
被告らに不当な利益をもたらすという実質的な利益の不均衡を生じさせることにな
るから、このような結果を生じさせないように、著作権法を実質的に解釈すべきで
あるというものであると思われる。
 しかしながら、当裁判所としては、著作権法の解釈論としては、前記のとお
りの結論を採るのが相当であると考える。なるほど、原告らが主張するような本件
番組の公衆送信の実態を前提とすれば、現状において、原告らと被告第一興商との
間に、実質的な利益の不均衡が生じているとの原告らの主張も理解できないではな
いが、この点を前記のような著作権法の解釈に反映させようとする原告らの本件に
おける主張は、法律の解釈論の枠を超えるものといわざる得ない。あえていえば、
右のような実質的利益の不均衡を問題とする議論は、立法論として、あるいは、著
作権法九七条に基づく二次使用料の額の決定のための協議を行う際や文化庁長官に
よる裁定を求める際に、主張されるべきことというほかはない。
 五 結論
 以上によれば、被告らが原告らの著作隣接権(レコード製作者としての複製
権)を侵害している旨の原告らの主張は、いずれもこれを認めることができないか
ら、争点1をはじめ、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求は理由
がない。
 よって、主文のとおり判決する。
   東京地方裁判所民事第四六部
   裁判長裁判官  三  村  量  一
裁判官 中  吉  徹  郎
 裁判官大西勝滋は、転任のため署名押印できない。
   裁判長裁判官  三  村  量  一

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