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裁判例


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       主   文
 申立人の昭和四六年七月三〇日付集団示威運動許可申請に対し、被申立人が同年
八月三日付でなした右集団示威運動の終点を平和大橋東詰付近南側緑地帯と変更し
て、同所より平和公園正面入口までの部分につき不許可にした処分のうち、平和大
橋東詰から平和公園正面入口手前までの部分(別紙図面赤線部分)につき、その効
力を停止する。
 申立人のその余の申立を却下する。申立費用は被申立人の負担とする。
       理   由
一、申立の趣旨および理由
別紙(一)に記載のとおり
二、被申立人の意見
別紙(二)に記載のとおり
三、当裁判所の判断
1、本件疎明によれば、申立人は昭和四五年八月頃往時広島において原子爆弾の惨
禍を蒙つた被爆者及びその子らを中心に結成された被爆者青年同盟(以下被青同と
いう)の代表者であるところ、昭和四六年八月六日広島市主催の原爆死没者慰霊式
と平和祈念式(以下祈念式という)が広島市平和記念公園内で行われることになつ
た(なお同祈念式には佐藤首相も出席の予定である)のを機会に、佐藤首相の右祈
念式への出席に反対する。被爆者団体協議会の行つている被爆者援護法制定要求活
動を支持する旨の意思を表示するため、同日午前七時から同八時半までにわたつて
広島大学→たかのばし→白神社→平和大橋→平和公園正面入口で流れ解散のコース
で集団示威運動を行うことを決定し、同年七月三〇日昭和三六年広島県条例第一三
号「集団示威運動、集団行進及び集会に関する条例」(以下県条例という)四条五
条に基づき、その許可申請をしたところ、被申立人は同年八月三日県条例四条六条
二項に基づき右申請にかかる集団示威運動の進路のうち終点を平和大橋東詰付近南
側緑地帯とし、流れ解散することに変更して申請を許可としたこと(但し別に県条
例第七条に基づく若干の許可条件が附されている)が認められる。
 申立人は被申立人のなした右進路変更処分が違法のものであると主張し、その処
分の取消を訴求するとともにその処分の執行を停止することを求めたのであるが、
およそ集団示威行進の本質にかんがみ、進路の変更に関する本件申立については、
回復の困難な損害を避けるため緊急の必要あるものと認めるのが相当である。
2、ところで県条例六条二項は公安委員会が集団運動の実施場所を変更するについ
て「公共の安全と秩序に対して直接危険が及ぶおそれがあることが明らかであると
認められるとき」に「必要な最小限度において」のみこれをなしうると規定してい
るのであつて、およそ憲法の保障する表現の自由は民主政治の基調として最大の尊
重を必要とするからかかる基本的人権の制限に関する右県条例の運用にあたつて
は、いやしくも公安委員会がその権限を濫用し、公共の安寧の保持を口実にして、
平穏で秩序ある集団行動まで抑圧することのないよう戒心すべきことはあらためて
言うまでもない(申立人は右県条例の規定自体憲法に反する無効のものであると主
張するが、この点については、同種の条例の規定についていちおう違憲でないとの
最高裁判決もあることではあり、本件の如き仮の判断を示す執行停止申請事件にお
いてかかる違憲審査の問題に立ちいることは時間的その他の制約上相当でないと思
料するので、いちおう右県条例の規定が合憲であるとの推定のもとに論を進めるこ
ととし、この点の判断は差し控える)。
3、さて、前記の如く被申立人が右進路変更の処分をしたのは被申立人の主張によ
ると別紙(二)記載のような理由に出たものというのであるが、本件疎明資料より
みると、本件集団示威行進の主牽団体たる被青同が過去において特段の暴力行為に
走つたというような資料も別に見当らない。(尤もその代表者及び構成員の一部に
若干逮捕歴等を有するものがあることが窺われるが、これを以つて直ちに団体全員
の性格を速断するを得ないことはいうまでもない。)又、本件集団行進の参加予定
者数も僅か四〇名に過ぎないこと、本件集団行進につき公安委員会が付した他の許
可条件をみても一般交通の危険妨害となる行為等について別に相当の制限の付され
ていること、その他当日の平和記念公園付近は相当厳重な警備体制が占かれている
であろうこと等を考慮すると、本件全疎明をもつてするも被申立人の主張は必ずし
もその全部について十分な疎明あるものとは断じがたい。けれども、一方当日は午
前八時から同八時四〇分まで平和記念公園内において祈念式が行われる予定になつ
ていて五万人を上まわる人出があるものと予想されているからそうすると本件申請
にかかるデモの終点たる平和公園入口北側附近も平和記念公園への出入者で相当混
雑するものと考えられるのであり、この点からすると被申立人が、右祈念式の行わ
れている時間に右平和公園入口まで申請人らのデモが進行してくるのを避けようと
したことはやはり十分理由があるものと認められる。したがつてこの限度で必要最
小限度の範囲で本件申請にかかるデモの終点の変更をやむを得ないものとして容認
すべきところ、疎明資料よりみると本件申請にかかるデモの進路のうち特に右平和
記念公園入口を避けただけでその目的はいちおう達しうるものと考えられるから、
当裁判所は被申立人のした前記進路変更処分のうち平和記念公園入口を避けた点は
正当であるが、被申立人が該部分以上にデモを制限したのは右必要最小限度の範囲
をこえたものと考える(もつとも、平和大橋においても、一般交通の支障は若干あ
りうるかもしれないが、本件申請にかかるデモの前記参加予定人員数からすれば、
この部分まであえて制限する必要をみないであろう。)そうして右部分については
申立人の申立をいれて被申立人のした処分の執行を停止しても公共の福祉に重大な
影響を及ぼすとは、疏明上認めがたい。
4、以上の理由により本件申立は主文掲記の範囲内においては本案について理由が
ないとはいえないので正当としてこれを認容し、その余は本案について理由がない
と一応判断されるので却下すべきものとし、申立費用については民事訴訟法八九
条、九二条但書を適用して主文のとおり決定する。
別紙(図面省略)
別紙(一)
     行政処分執行停止申立書
        申立の趣旨
 申立人らが被申立人に対してなした昭和四六年七月三〇日付申請の集団行動(名
称‥佐藤来広、式典出席反対、被団協の援護法制定要求支持行動、実施‥四六年八
月六曰、七時から、実施場所‥広大正門前~白神社交差点~平和公園正面入口)の
許可申請につき、被申立人が四六年八月三日付でなした申請の進路の終点を平和大
橋東詰付近南側緑地帯とし流れ解散とするとの変更処令の効力を取消訴訟の第一審
判決が終了するまで停止する。
        申立の原因
本件不許可処分の違憲違法性
一、違憲性について
(1) 広島県公安委員会は八月三日不当にも被爆者青年同盟申請の集団行進のコ
ースを変更した。公安委員会は被爆者、被爆二世を断じて平和公園の中には一歩も
踏み入れさせないと宣言したのである。公安委員会という行政部によつて、国民の
反戦平和、核兵器反対という人間の存在に関する要求がへし折られたのである。権
力によつて、国民の表現への絶対的要求は一顧だにされず秩序を乱す不逞のやから
の行動とみなされたのである。
 表現の自由は人間の尊厳と民主政維持の不可欠の条件なのである。公安委員会の
決定には当然のことながら、全くこの基本的観点が欠落している。「われわれが嫌
悪する思想についてさえも完全にして自由な討諭を行なうことは我々の偏見と予断
をためすのを励ますことになる。完全にして自由な討論は、社会が沈滞し、全文明
を引きさく怒濤と緊迫に対して無準備になつてしまうことから、これを防ぐのであ
る。」(デニス事件のグラス判事の意見)日本の裁判官の多くが、「表現の自由は
尊重すべきだ」と言う時、リツプサービス以上の何物が一体あつたろうか。この言
葉は「しかし、無制限ではなく公共の福祉に反しない限り尊重される」という結論
を導き出す口当りのよい導入部にすぎない。しかし、いまこそ民主政にとつて表現
の自由とは何かと真険に検討する必要がある。公安委員会はともかく、裁判官は更
に現代社会における表現の自由の意味を充分に考える必要があるのである。まさし
く京都地裁のいわゆる橋本判決のいうごとく「近代民主々義国家において、国民は
通常その主権を選挙を通じて行使するが、選挙には政治的、思想的意見の存在を前
提とする。ところが現代社会において、大部分の民衆にとつては印刷(新聞・雑誌
等)電波(テレビ・ラジオ等)など大規模かつ最も有効な思想伝達の手段であるマ
スコミは実際上これを駆使することが出来ず、従つて、これらの者にとつては、自
らの思想を主体的に表明する手段として集会、集団行進、集団示威運動は極めて重
要な役割を果すものであり、また代議政治のもとではその正常な運営上、選挙権を
補う参政権的要素を有する。」のである。
「……ありきたりの請願方法は、我々市民の多くにとつてはなきに等しいといえる
かもしれないし、実際しばしばなきに等しいものであつた。議員は全く聞く耳をも
たず、形式上の不服は官僚機構の迷路の中で行方不明になつてしまうかもしれな
い。テレビとラジオを支配しないもの、新聞紙の広告面を買つたり……する余裕の
ないものは公務従事者に近づくのに、もつと限られたタイプしかもたない。彼等の
方法たる集会や請願が平和的なものである限りは防害とか迷惑だと非難すべきでは
ない。」(Adderly V Floridaでのダグラスの意見)この現代社
会における集団行動の意味を理解しなければいけない。このことを理解した判決
は、暁の星の如く少ないのである。我々は、いつまでもかかる主張を幾分かの怒り
と期待とそれにあきらめの伴つた感情で行ない続けなければならないのは、実に残
念なことである。
 憲法二一条は「表現の自由」を保障し、「検閲」を禁止している。「事前の抑
制」は憲法からみて禁止されているのである。事前の抑制は思想を画一化し、社会
の進歩を全く否定する権力が行使する最も安価な手段なのである。しかし、事前の
抑制こそ自由な社会の完全な敵対物であり、民主政には全く無関係なものである。
検閲を否定するのはブラツクストーンでさえも認めている。或いは集団行動につい
ては場所を必要とし、又集団であることから特別の規制が必要であるとの見解があ
るかもしれない。仮りにそうであるとしても、本件、集団行動についてのみそう主
張するのは全く不平等である。交通妨害を行なう可能性はデモだけでなく、スポー
ツやその他直接的には政治的でないパレードでもそうである。ところが、そのよう
なものについて交通の妨害になるということで公安委員会は、それを禁止したこと
があるであろうか。否、それ以上に、交通を禁止してそれらの催しのために便宜を
はかつているのである。
 いうまでもないことであるが、集団行進は単にそれが行なわれればいいというも
のではない。それは自らの目的のため他の人々に強い影響を及ぼすことの出来る場
所と日時が保障されなければならない。申立人らの本件集団示威行進の曰時は、被
爆者、被爆二世の人々が今日までいかに政府権力によつて無視抹殺され、又政府の
被爆者「見殺し」政策に無自覚にも加担した多くの非被爆者によつて差別・分断・
抑圧されてきたか、いかに無責任にその肉体的危機を放置されてきたかを訴ると共
に、そうした屈辱と危機の戦後二六年間を「人間をかえせ!」という戦争責任の徹
底的追求をもつて生き抜いてきた父母兄弟のその闘いを継承し、被爆者解放運動の
新たな推進を自らの手で行なうことを、平和を希い核に反対する人々に訴えること
にある。
 佐藤首相に「あなたは一体今まで何をしてきた。そして今またあなたは一体何を
しにヒロシマにやつて来たのだ?あなたは核アレルギーという国民の正当な感覚を
奪い去り、被爆者を英霊にまつりあげ、二六年前のあの地獄を博物館用の骨とう品
に変えてしまおうというのだ。あなたは原爆病院を訪れることはない。被爆者との
対話も一切拒否した。あなたは被爆者の対立物であり、被爆者と共に進む道などあ
なたにはない」と告発し、糾弾することにある。
 その目的からみて、最小限の効果をあげるには、せん越にも佐藤首相が参列する
平和祈念式典の行なわれる平和公園正門前を出発点とする他ないのである。一体平
和公園とは何か?被爆者や被爆二世が足を一歩たりとも入れることが出来ない平和
公園は何なのか。政府権力に責任をとれと要求することの一体どこを押せば公共の
秩序が乱されるというのであろうか。申立人らが申請した平和公園正門前から、公
安委員会が変更した平和大橋東詰めまでは距離にして約二〇〇メートル以上ある。
そして変更場所は何よりも平和公園の外なのである。当日は不当にも権力は機動隊
を動員し、部厚い楯で申立人らを包囲し、平和祈念式典に参加している人々から遮
断し、申立人らを無意味な集団に化してしまうことが充分に予想される。かかる場
所状態では申立人らの集団行進は全く無価値になつてしまうことは明白である。申
立人らの集団行進は平和公園で行なわれることが最低の条件なのである。
 このように国有財産たる公園は全く国民のためのものから政府のために利用され
るものへと転化したのである。同じ公園といっても、その法的性質は天皇主権の旧
憲法下と、国民主権の新憲法下では異なるのである。この点に関して、東京地裁昭
和二七年四月六日判決が充分参考にされなければならない。即ち皇居外苑の性質の
変化について「皇居外苑は……旧憲法時代においては統治権者たる天皇のお住い
(宮城)の前庭を兼ねた皇室苑地になつていたが、終戦時は……国有財産の一つと
して、直接公共の用に供する公共福祉用財産になつたということである。即ち、終
戦後は国家の根本構造の変化に応じて皇居外苑の性格は変つたのである。……この
外苑は何か侵すべからざる聖域であるかのように扱うことは相当でないといわなけ
ればならない」と言つているのである。だが、広島県、広島市、公安委員会の言動
を見ると、「平和公園」全体が「被爆者から、何か侵すべからざる聖域であるかの
如く扱われている」と言わざるを得ないのである。
 この点につき昭和二九年二月二四日最高裁大法廷判決が示した原則は厳格に維持
されるべきものと考える。
 本件処分の根拠となつた集団示威運動、集団行進及び集会に関する条例いわゆる
広島県公安条例第六条第二項は、許可基準について集団示威運動等の実施が「公共
の安全と秩序に対して直接危険を及ぼすことが明らかであると認められる場合」は
コースを変更出来ると規定するが、これが右最高裁判決のいう合理的でかつ明確な
基準といえるだろうか。もとより、右文言は抽象的には極めて妥当である。しかし
公安委員会という一行政機関が事前に許否を決定するうえでの明確な基準となりう
るには余りに具体性に乏しいといわざるをえない。そもそも「直接危険を及ぼすと
明らかに認められる」という規定は英米法における「明白かつ現在の危険」の理諭
にならつたものと考えられ、当事者主義の下における厳格な訴訟手続に従つた事後
の刑事司法手続において用いる基準としてはそのままでも権利保障の機能を果し得
るものといえよう。しかし、このような手続的保障のない事前の行政的取締の基準
としては、右理諭適用の指針が具体的に示されることが必要であり、治安維持を任
とし、その観点からの取締にのみ走りやすい公安委員会警察官がなす許否の判断基
準としては、そのままではあまりに抽象的で濫用されている余地が充分ある。
 全ての公安条例には本条例の如くに「公共の安全と秩序に対して直接危険を及ぼ
すことが明らかであると認められる場合」にはコースを変更できるという文言があ
る。この思考の原型はステロタイプと呼んでいいような「公共の福祉」=「秩序・
公安]の優先である。個人の自由の上に公安を置いていることは明白である。そし
てこれらの基本観念が極めて抽象的一般的に用いられていることである。
法が一定社会の秩序を守ることを主要目的とする手段であることはいうまでもな
い。しかし、他面で「秩序」であればどんな秩序でも絶対にそうではない。「秩序
そのものを主張することは国家を警察国家たらしめることであり、それは動物園の
秩序と秩大差ない」(マツキーバー)のである。公安条例や警察によつて維持され
なければならない秩序とはまさに動物園の秩序でしかない。裁判所が守るべき秩序
は民主的秩序でなければならない。この民主的秩序は精神の自由を保障し、この自
由の活用を通じてみずからダイナミツクに維持していく建前にたつ秩序である。こ
の意味ではラスキが適切に言つたように「同意の通路は広ければ広いほどいい」の
である。
 個人の目由の上位におく「秩序」に現実に誰がどのような意味を付与するかが問
題になる。もし仮りに裁判所が「秩序」の論理を認めればこの理念は政治社会の現
実の場ではまちがいなく時の権力の都合のよいように意味付与されるであろう。現
に佐藤首相もいわゆる杉本決定に対する「異議申立」についての国会答弁で公言し
ている。即ち、首相によると、行政事件訴訟法二七条の規定を発動した「事の起こ
りは、公共の福祉、それは一体どういうことか。政府におきましては当然、公共の
福祉の解釈権をもつておる。そのことをひとつ御了承願いたい」(第五五国会衆会
議録二号)ということになる。このように裁判官は支配の現実を常に追認するだけ
の道具になりかねない危険性をもつているのである。
 以上述べたように広島県公安条例第六条第二項は憲法二一条に違反する無効なも
のである。
(2) 全ての日本国民が国政に参加し、国政のあらゆる領域を監視する必要があ
るのである。民主々義者・自由主義者・コミユニスト・左翼・フアミストも天皇制
を支持するものもそれに反対するものも同じように国民としてその主権を行使す
る。かの日中一五年戦争においては共産主義者・社会民主々義者・自由主義者等を
非国民として迫害弾圧することを通して忌わしい侵略戦争を遂行していつたのであ
る。しかして今再び被申立人は佐藤来広に反対し反戦平和を願い核兵器に反対する
人々を非国民として取扱い基本的人権の保障から除外されると主張しているのであ
る。行政権力は、濫用によつて市民的権利を封殺してはならない。憲法一四条は、
法の下の平等を保障し、思想による差別を禁止している。本件変更処分は、全くこ
の平等条項に違反することは明らかである。
 従つて、本件変更処分は集団行進自体を禁止するものであり、思想によつて差別
を行なうものであり、憲法二一条、憲法一四条に明らかに反するものである。
二、本件処分の違法性
 仮に右規定が合憲であるとしても本件処分は広島県公安条例第六条第二項にいう
「公共の安全と秩序に対して直接危険を及ぼすことが明らかであると認められる場
合」になされたものとは到底いい得ない。
 即ち、本件集団示威運動の主催団体は被爆者青年同盟である。
 即ち、被爆者青年同盟は被爆者及び被爆二世の団体であり、日本国憲法擁護、反
戦平和、核の禁止を目的とする民主的かつ平和的団体であつて、従来より違法行為
がなく逮捕者を出したこども殆んどない。
 しかも当日の参加予定者数は約五〇名程度であり、人数の点よりみても「公共の
安全と秩序に対しで直接危険を及ぼすことが明らかであると認められる場合」に当
たらないことも明白である。
 更に市民との間の混乱についても何ら問題ない。それは申請団体の性格、規模、
過去の実績からみても明白である。
 もう一つの理由は、本件集団行進は右翼団体を刺激し、相当激しい衝突等不測の
事態が発生することが明らかであるということである。しかし本件集団行進の性格
からみてかかる事態が発生することはありえない。そしてこのことは本年四月の天
皇来広の場合に、右翼団体はデモの執行停止が認められたにもかかわらずデモを行
なわなかつたことからも明らかである。更に集会の自由を保障するために右翼団体
を規制することこそ公権力の任務である。更にいわゆる内ゲバということも問題に
はならない。
 以上、述べたように本件集団行進は公安条例第六条第二項に該当しないことが明
らかである。しかるに、本件集団示威行進は前記制限によつて、右行動が制約さ
れ、これによつて受ける損害は回復しがたいものといわざるをえない。申立人が本
件集団示威行進の責任者として又、自らも右行動に参加するものとして、本執行停
止の申立に及ぶ次第である。
別紙(二)
        意  見  書
 申立の趣旨に対する意見
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
との裁判をすべきものと思料する。
        理   由
第一 申立人の申請にかかる集団示威運動について一部変更許可処分を行なつた理

一 例年の如く、八月六曰午前八時から同八時四〇分までの間、広島市主催の原爆
死没者慰霊式と平和祈念式(以下「祈念式典」という。)が平和記念公園内の原爆
慰霊碑を中心として行なわれる。祈念式典の参加人員は、昭和四四年が約四九、〇
〇〇人、昭和四五年が約五万人であつたが、今年は佐藤首相が祈念式典に出席され
ることもあつて五万人を上回る人が参加するものと予想されている。平和記念公園
に五万人を上回る参加者が一時にに集合すると、殆んど立錐の余地もないと言つて
もよい程の混雑を呈することになる。そして、五万人以上の参加者のうち、多く
は、婦女子を含めた一般市民であり、その中には年老いた被爆者も相当数含まれて
いるものと考えられる。これらの参加者は、祈念式典が始まる午前八に間に合うよ
うに、遅くとも、午前六時頃から三々五々元安橋、平和大橋等を通つて平和記念公
園に集つて来る(疎乙第一号証乃至四号証)。平和記念公園の地形上、そこでの祈
念式典に参集するには、相生橋(幅七・二米、長六三・六米)、本川橋(幅八・八
米、長七四・三米)、西平和大橋(幅一五米、長一〇九・八米)、平和大橋(幅一
三・四米、長八六・二米)、元安橋(幅七・九米、長一五一・九米)と平和大橋と
西平和大橋間の平和大通(幅一六・四米、長三五〇米)のいずれかを渡つて、公園
内の通路を通り、原爆慰霊碑附近に参集することになる(疎乙第五号証)。従つ
て、五万人を上回る参加者が、ぜいぜい二、三時間の間にこの六つの進入路を通つ
て祈念式典に出席すべく、平和記念公園に集つて来れば右各進入路および公園内の
通路は相当の混雑を呈する。このことは、祈念式典終了後参加者が帰路につく時も
同様である。すなわち、午前八時四〇分に祈念式典が終了した後参加者の多くは平
和記念公園内にある原爆慰霊碑、納骨塔や供養塔などに参拝してから帰路につくた
め、例年、式典終了後約二時間位は、公園内の通路や前記六つの進入路は混雑する
状況にある(疎乙第三号証)。さらに、本年は、佐藤首相には、祈念式典後約三〇
分位平和資料館等を見学され、その後、広島市舟入幸町にある広島原爆養護ホーム
を訪問される予定になつているので(疎乙第六・七号証)、例年以上に、祈念式典
後も公園内の通路や前記の進入路は混雑するものと予想されている。(疎乙第三号
証)
二 他方、佐藤首相の来広が報道されると、被爆者青年同盟や、八・六反戦集会広
島県統一実行委員会(広大全共斗や広島県反戦青年委員会などの新左翼系各種団体
で組織されている)の呼びかけで、本年六月二六日に広島市へ東京から九州までの
各地より一〇九団体、約二〇〇名を集めて、被爆二六周年八・六広島反戦集会全国
統一実行委員会(以下、「全国委員会」という。)が結成された。そして、八月六
日前後に広島市に全国から学生、反戦労働者など約五、〇〇〇名を動員し、八月四
日から六日まで三波にわたる佐藤首相の来広および祈念式典出席の実力阻止斗争を
行ない、八月六日は午前中のデモの後、午後、平和記念公園で反戦集会を開き、七
日も討論集会をもつこと等の方針を決めた。(疎乙第八、九号証)
 全国委員会およびその傘下の諸団体は、佐藤首相来広および祈念式典出席の実力
阻止斗争の一環として、各種の街頭活動を行なつた(疎乙第一〇号証)ほか、別紙
(一)のように、八月六日午前中に平和記念公園周辺を目指す多数のデモ行進の許
可申請を被申立人に対してなしてきた。そのデモ行進の進路を仔細に検討すると、
同日午前七時頃より午前一〇時乃至一一時頃までの間平和記念公園へ通づる前記六
つの進入路および同公園内の通路を数千名の者がデモ行進によつて制圧する結果に
なる(別紙(二)参照、疎乙第一一号証乃至一九号証の各一)。
 このようなデモ行進の進路と全国実行委員会およびその傘下諸団体の佐藤首相の
来広および祈念式典出席の実力阻止というデモ行進の目的とを併せ考えると、佐藤
首相が同日午前八時より午前八時四〇分まで行なわれる祈念式典へ出席するため平
和記念公園に到着する際および祈念式典終了後同公園を退出する際をとらえて、全
国委員会およびその傘下の諸団体は、統一の意志のもとに、集団示威運動という実
力に訴えて佐藤首相の行動を阻止し、或いは佐藤首相に対する抗議の行為に出るこ
とを意図していることが明らかである。
 ところで、前記のとおり八月六日の午前七時頃より午前一〇時半頃までの間、平
和記念公園内の通路およびそれへの六つの進入路は祈念式典に出席する五万名以上
の人々の往来で充満しており、そこへ全国委員会およびその傘下の諸団体によるデ
モ行進が行なわれると、交通が混乱することは必至であり、婦女子や老人の生命・
身体が損われる危険が大である。また、新聞社の世論調査によると、市民の約七〇
%の者は佐藤首相の祈念式典への出席を歓迎しており(疎乙第二〇号証)、ともに
静かに原爆死没者の慰霊と平和を祈念しようと集まつている市民にとつて、前記各
団体による佐藤首相の来広および祈念式典出席の実力阻止という行為は、深い反感
を与え、不測の衝突を惹起することが十分に懸念される。更に、これらの各種団体
の中核をなすのはデモ行進の許可申請書の記載からも明らかなように(疎乙第一一
号証乃至一九号証の各一)広島大学を始めとする中国、四国の全共斗系の学生や反
戦労働者であり、従前から違法なデモ行進や違法行為を度々繰り返してきたところ
である。(疎乙二一号証乃至二四号証)そして、最近においては、これらの諸団体
は、佐藤首相の来広および祈念式典出席の実力阻止行動により、広島に第二のコザ
暴動を起すことを公然と表明している。(疎乙第二五、二六号証)したがつて、こ
れらの各種団体のデモ行進が佐藤首相一行と遭遇した場合は重大な衝突が生ずるこ
とは必至であり、そして、その衝突は周辺の一般市民をも捲き込んで、警察の警備
力をもつてしても、拾収のつかない暴動へと発展していくことが十分に予想され
る。(疎乙第二七号証乃至二九号証)
 なお、本件デモ行進の主催者とされている被爆者青年同盟は、広島県反戦青年委
員会および広島大学全学共闘会議等の左翼集団の主催によつて昭和四五年八月六日
被爆者二世を結集し被爆者の人間的解放をめざす目的のもとに結成されたものであ
る。その役員は、いずれも広島県反戦青年委員会ないし広大全共闘の活動家で従前
から左翼系の各種闘争に参加し公務執行妨害、兇器準備集合などで数回の逮捕歴を
有する者であり、本件デモ行進の申請人代表のAも広大全学共闘会議の活動家で各
種闘争に参加しこれまで公務執行妨害、兇器準備集合、放火、爆発物取締罰則など
で四回逮捕され、現在も公判審理中の者である。被爆者青年同盟の最近の行動につ
いていえば、七月五日、七日、二六日に広島市役所におしかけB広島市長に面会を
強要して市長室前に坐り込んだり、佐藤首相の祈念式典出席を阻止する目的で、七
月二六日から七月三〇日まで管理者である広島市の再三の立ち退き要求を無視して
平和記念公園内の原爆慰霊碑西側にテントや横断幕を設置して坐り込みを続けた
り、更に八月二日、三日の両日に亘り広島市役所に押しかけ広島市長に面会を強要
するなど、数々の違法行為を重ね、その程度は次第と強くなってきている。(疎乙
第三〇、三一、三二号証)
 また、本件デモ参加予定者は広島県反戦青年委員会および広大全学共闘会議等に
属する者でそれが従前違法行為を繰り返して来たことは衆知の事実といえよう。
(疎乙第二二号証乃至二五号証)
 このように違法行為による逮捕歴を有する者に率いられかつ参加者も従前よりし
ばしば違法行為を繰り返した者であり、今回の闘争で実力阻止を標榜していること
も併せ考えると、必ずや本件デモ行為においても違法な行為に及ぶことが予想され
るところである。
三 そこで、被申立人は、右のような事態を防止するため、必要最少限の措置とし
て、集団示威運動、集団行進及び集会に関する条例第四条、第六条第二項により、
これら各種団体の申請にかかるデモ行進の進路のうち、平和記念公園内の通路およ
び同公園ヘの六つの進入路を行進する部分については、行進を許さないものとし
て、その部分について実施場所を変更してデモ行進を許可したものである。(疎乙
第一二号証乃至一九号証の各二)
 申立人らの集団は全国委員会傘下の団体であり、その許可申請について被申立人
が申立人の主張のような進路の一部変更許可を行なつたのも(別紙(三)参照)、
前述の理由によるものである。(疎乙第一七号証の一)
第二 本件執行停止の申立が失当である理由
 以上述べたとおり、本件一部変更許可処分は適法であり、申立人の本案の訴は理
由がないので、本案について理由がないとみえるときに該当する。
 また、もし本件一部変更許可処分の執行停止が認められると、前述のとおり一般
交通を著しく阻害するとともに、一般大衆に危害を及ぼすことが明らかであり、こ
のことは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときに該当するものであ
ることもいうまでもない。
 以上、いずれの点からみても、本件申立はすみやかに却下されるべきである。
(但し別紙(二)、(三)は省略)。
別紙(一)(「総理大臣来広に関する集団運動申請一覧表」は、本書一二七二頁の
表と同一につき省略。)

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