弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京簡易裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は、介護人A提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここに
これを引用する。
 ところで、職権により本件記録を精査するに、本件起訴状の記載によると、公訴
事実として「被告人はB株式会社代表取締役で、東京都新宿区a町b番地所在の同
社印刷工場を管理していた者であるが、同印刷工場の一部が建築基準法に違反する
建築物であるとして、昭和三三年四月八日東京都知事Cから、同法第九条第一項に
基き、同年四月三〇日までに当該違反建築物の変更と除却をすることを命令された
のに拘わらず、同日までに同所において右同法違反建築物の変更と除却をなさず、
以て東京都知事の前記命令に違反したのである。」旨の記載と、罰条として建築基
準法第九八条第九条第一項が記載せられている。ところで、<要旨>建築基準法第九
条第一項によると、「特定行政庁は、この法律又はこれに基く命令若しくは条例の
規定に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主等
に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限をつけて、当該建
築物の除却等これらの規定に対する違反を是正するために必要な措置をとることを
命ずることができる。」旨規定しているから、同条による命令に違反することによ
つて成立する同法第九八条の罪の公訴事実の記載としては、単に抽象的に同法第九
条第一項に基く建築物の変更、除却等の命令に違反するとの記載を以ては足らず、
建築物の如何なる部分が、同法又は同法に基く命令、若しくは条例の如何なる規定
に違反し、その是正のため如何なる措置をとるべきことを命じたかにつき、特定行
政庁の命令の内容を具体的に記載し、以てこれに違反した行為の内容を具体的に認
識することの可能な程度に訴因を明確ならしめることを要するものと言わなければ
ならない。しかるに、本件起訴状の記載によつては、右特定行政庁たる東京都知事
の命令の内容が抽象的であつて、本件建築物の如何なる部分が建築基準法等の如何
なる規定に違反し、その是正のため本件建築物の如何なる部分につき具体的に如何
なる措置をとるべきことを命じたかが明確でなく、従つて右命令に違反したという
だけでは、当該の命令に違反した行為の内容が明らかでない。よつて原審は須ら
く、この点につき検察官の釈明を求め、訴因が特定した場合に初めて、被告事件の
実体につき審判すべきであるに拘らず、ことここに出でないで、漫然本件被告事件
について審理を遂げ、建築基準法第九八条第九条第一項に該当する罪の罪となるべ
き事実として起訴状記載の公訴事実と同趣旨の事実を認定していること本件記録及
び原判決によつて明らかである。然らば原審の訴訟手続には審理不尽の違法があ
り、その結果原判決の罪となるべき事実の判示をもつてしては、本件起訴状記載の
公訴事実につき説示したところと同様、本件建築物たる東京都新宿区a町b番地所
在のB株式会社の印刷工場の如何なる部分が建築基準法又は同法に基く命令若しく
は条例の如何なる規定に違反し、その是正のため東京都知事が被告人に対し本件建
築物の如何なる部分の除却と変更を命じたかが明らかでなく、従つてこの命令に違
反した被告人の行為の内容を具体的に認識し得ないのであつて、畢寛原判決の右の
判示は建築基準法第九八条、第九条第一項に該当する事実の判示としては理由不備
の違法があるものというべく、この点において原判決は破棄を免れない。よつて弁
護人の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七八条
第四号、第四〇〇条本文に則り、原判決を破棄した上本件を原裁判所に差し戻すこ
ととし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 山本謹吾 判事 渡辺好人 判事 目黒太郎)

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