弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役弐年に処する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人深井龍太郎、同古屋東、同高見之忠の控訴趣意は昭利二十八年一月十日受
理、弁護人小原正列の控訴趣意は同日付、各控訴趣意書記載の通りであるから、此
処にこれを引用する。
 弁護人小原正列の論旨第一点について。
 記録に依れば原審は、第三回公判以後に於ける証拠調の施行に先んじ、第二回公
判廷に於て、被告人に対する司法警察員並に検察官作成の各供述調書合計四通並に
被告人作成の供述書一通など、被告人の自白を録取した合計五通の文書について、
所論の如く、逸早く証拠調手続を履践していることを認め得るけれども、しかしな
がら、原審第一回、第二回各公判調書の記載によれば、右証拠調手続は、これより
先、証人A外九名に対する各証人尋問調書合計十通医師B作成の死体検案書一通、
司法警察員作成の実況見分調書一通、Cに対する検察官作成の供述調書一通及び証
人D外六名をその対象とする証拠調手続が完了した後に至つて、はじめて行われた
ものであることが明白であり、其の後なお多数の資料についてさらに証拠調が続行
されたとしても訴訟指揮の巧拙如何はさておき斯る方式に依る証拠調もまた適法で
あり、これを目して、刑事訴訟法第三百一条に違背するものと言うを得ない。ま
た、自白調書の成立の真否、供述に関する任意性の有無等については、裁判所は、
各種の方法に依り、弁論の終結に至る迄の間、自由にこれを審査し得べく、斯る審
査手続を履行した後でなければ当該資料について証拠調を為し得ないものでないか
ら、たとえ原審が証拠調手続の開始に当り、特に斯る審査手続を施行せず即時、該
資料について証拠調手続を履行したとしても、原審の措置は必ずしも違法でない。
 <要旨第一>なお、記録によれば、原審は昭和二十七年八月二十三日、所論の通り
「本件について弁護人の数を四名に制限する」旨の決定を為し同日該決
定を関係人に告知したこと及び該決定には理由が附されていないことをそれぞれ肯
認し得るけれども、かゝる決定は、その性質上独立して上訴の申立をすることが許
されない裁判に属し従つて刑事訴訟法第四十四条により、理由を附する必要がない
ものであることが明白であるから前記の決定に理由を附してないことそれ自体は何
等非難に値せず、また、当時弁護人の数を制限するについて、刑事訴訟規則第二十
六条に定める特別事情の認めるに足るものがあつたか否かについて審査するに、記
録に徴すれば
 <要旨第二>(一) 本件審理の当初より被告人に対しては四名の弁護人が選任さ
れて居り、防禦権の行使には遺憾の点が全くなかつたこと(二)第五回
公判終了後、さらに新に一名の弁護人より弁護届の提出があつたこと、(三)新な
弁護人の選任は、被告人の意思によるものでなく其の親族によつて為されたもので
あつたこと、(四)此の上弁護人を増加することに依り、記録の閲覧、謄写等のた
め訴訟手続の遅延するであろうことが予見されたこと等の諸事情を看取するに足
り、これ等各事情を綜合すれば、当時の状況は、叙上刑事訴訟規則に所謂弁護人の
数を制限すべき特別の事情ある場合に該当すると解し得るから叙上の如き原審の措
置は、被告人に対し特に不利益な取扱をしたものと言うを得ず、従つてその訴訟手
続は違法でない。そうして見れば、以上の諸点に関する論旨はいずれも理由がな
い。
 弁護人深井龍太郎、同古屋東、同高見之忠の論旨第二点について。
 記録を精査しても、被告人に対する司法警察員文は検察官作成の各供述調書、被
告人作成の供述書の各記載が、所論の如く捜査官憲の暴行、脅迫に依り其意に反し
て為されたものであることを肯認すべき資料がない。此の点に関する被告人の弁疏
は原審第二回公判調書中証人E同第三回公判調書中証人Fの各供述記載並に当審に
於ける証人Eの供述に照し到底措信し難い。さらに原審並びに当審各証拠調の結果
に徴すれば、叙上被告人の自白は、これ等の資料に依つて認め得る諸般の状況とよ
く符合し、ただ、わずかに、その中「本件犯行後被告人が自殺を図つてこれを果さ
なかつた」旨の供述部分のみが虚構であることを認め得る外、総て真実を吐露した
ものであることを看取し得るから、これ等諸点に関する論旨はいずれも理由がな
い。(尚被告人の供述の信憑力については後記第一点第四点に対する判示をも参照
のこと)
 同論旨第三点について。
 鑑定人が死体の解剖をするに当り、死者の親族の立会を得なかつたとしても、こ
れによつて鑑定の内容に何等影響するところがなく、従つて斯る鑑定の結果もその
証拠能力に欠けるところがないものであることは言う迄もないから、たとえ、医師
Gが死体を解剖するに際し、死者の親族の立会を待たずこれを為したとしても、同
人の作成に係る鑑定書の証拠能力に欠陥ありとするを得ず、従つて、該書面の記載
を証拠として採用した原判決は、証拠能力なき資料に基いて事実を認定たものでな
い。論旨は理由がない。
 弁護人小原正列の論旨第二点、弁護人深井龍太郎、同古屋東、同高見之忠の論旨
第一点に第四点について。
 しかしながら、原判決挙示の証拠により原判示の事実を肯認するに十分である。
まず原審証拠調の結果を概観すれば、(一)本件被害者H(当時生後九月)の失踪
当時、I方家族は被告人と右Hを除き、挙げて外出し不在中であつたこと、(二)
右Hは発育が稍遅れた子であつて、歩行することが出来ないのは勿論、いまだもつ
て這い歩き、又は其の他の方法により、身体を移動することも出来ない状態にあつ
たこと、(三)被告人方に他人の立入つた形跡がなかつたこと。(四)H失踪後に
於ける被告人の挙措に幾多の不審な点かあつたこと、すなわち、近隣の者に対し、
Hの失踪を告げた後、突如として、該事実を何人にも口外しない様申入れたり、H
の死体が水中から引揚げられたと聞いても、容易に其の現場へ行こうとしなかつた
り、子の失踪を嘆く肉親の母の振舞としては、斯る場合世の常の母親達が示すであ
ろう態度に比較し、その挙動にすこぶる異常なものがあつたこと等の諸点を容易に
看取することが出来、また、被告人に対する司法警察員及び検察官作成各供述調書
の記載、被告人作成の供述書の記載によれば、被告人の本件所為の動機が原判示通
りの事情によるものであつたこと、すなわち、被告人は夫及び家族の自己に対する
仕打ちに堪え難く、面当てに目殺をしようか、又は婚家を去つて新生活を開拓しよ
うか等と思い、迷つた挙句、いずれにもせよHの存在がその障碍となると考え、遂
にこれを亡きものにしようと決意し、その結果、原判示の所為に出たものであつた
ことを肯定するに足る。被告人の叙上自白は、原審第二回公判調書中証人Jの供述
記載、証人Kに対する原審証人尋問調書の記載、当審証人A、同L、同K等の各供
述によつて裏付けられて居り、措信すべき価値が十分にあると考えられる。なお、
関係人の供述及び鑑定の結果等によつて認め得るH死亡の時期及び死因は、被告人
の右自白によつて知り得た犯行の時刻、犯行の手段と一致していることもまた、前
示自白の信憑力を一層完全ならしめるものである。原審及び当審に於ける証人I、
同M等の各供述は、いずれも自家の内紛を隠蔽せんとする意図より、必ずしも真実
を述べていたいものであることが、該供述自体の裡より自ずと窺われ、従つて、こ
れ等の者の供述中、I方家庭内が平素円満であつた旨の部分は、信を措くに足らぬ
と言わねばならぬ。さらに当審は、被告人の犯行当時の心神の状況如何について調
査を遂げたが、記録によつて認め得る各種の徴候より、その性格に衝動的、且爆発
的な傾向を帯有していることを肯認し得たに止り、被告人が叙上犯行当時、心神喪
失乃至心神耗弱の状況にあつたものであることを認定するに至らたかつた。そうし
て見れば、原判決は事実を誤認したものでなく、論旨はその理由がないと言わぎる
を得ない。
 最後に職権をもつて原審量刑の当否を案ずるに、被告人の性格、境遇、犯罪の状
況、殊に其の動機に憫諒すべきものがあることなど諸般の状況を斟酌して案ずる
に、被告人に対し懲役四年の刑を言渡した原判決の科刑は重きに失し、相当でない
と考えられる。原判決は此の点に於て破棄を免れない。 よつて、刑事訴訟法第三
百九十七条第三百八十一条により原判決を破棄した上同法第四百条により次の通り
判決する。
 原審認定の事実に法律を適用すれば、被告人の判示所為は刑法第百九十九条に該
当するので、所定刑中有期懲役刑を選択し、犯罪の情状に憫諒すべきものがあるか
ら、同法第六十六条第七十一条第六十八条第三号により、酌量減軽した刑期範囲内
に於て、被告人を懲役弐年に処すべく、訴訟費用の負担につき、同法第百八十一条
を適用し被告人をして其の全部の負担を為さしむべきものとする。
 よつて、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)

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