弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、右猶予の期間中被告人
を保護観察に付する。
     原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、旭川区検察庁検察官事務取扱検事鎌田亘作成名義の控訴趣意
書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人藤田和夫提出の答弁書記載の
とおりであるから、いずれもここに引用する。
 控訴趣意第一点(法令適用の誤の主張)について
 <要旨>よつて按ずるに、刑法第二四四条第一項の規定は、窃盗犯人と財物の所有
者及び占有者との間に同条項所定の親族関係が存する場合にのみ適用があ
り、単に窃盗犯人と財物の所有者との間または窃盗犯人と財物の占有者との間にの
み右親族関係が存するにすぎない場合には適用がないと解するのが正当である。然
るに、原判決は、検察官の指摘するように、被告人は昭和三六年八月一九日午前一
一時頃旭川市a町の自宅においてその実弟AがBより借り受け保管中のタロンカメ
ラ一台を窃取したとの公訴事実について、「その盗品たるカメラは被告人から見れ
ば他人のBの所有」であつたと認定しながら、同カメラは、「Aが所持し同人の占
有下に在り、同人と被告人とは親族で且つ又右両名間には犯行時同居の関係にあつ
た」として、刑法第二四四条第一項により被告人に対し刑の免除の言渡をしたので
あるから、これは法令の解釈適用を誤つたものというべく、その誤は明らかに判決
に影響を及ぼす場合にあたるといわなければならない。
 もつとも、原判決も、親族相盗に関する右法条の解釈については種々論議がある
とし、同一の見解をとつたと見られる数個の先例を引用している。とくにそこに掲
げられた最高裁判所昭和二四年五月二一日第二小法廷判決は、「刑法第二四四条親
族相盗に関する規定は、窃盗罪の直接被害者たる占有者と犯人との関係についてい
うものであつて、所論のごとくその物件の所有権者と犯人との関係について規定し
たものではない」と判示しているのであるが、同判決は、検察官指摘のような上告
理由に対して答えたものであること、事案が犯人と盗品の占有者との間に親族関係
の存しなかつたものであること等にかんがみると、本件の如き場合にも妥当するも
のであるかは甚だ疑わしく、むしろ同事案の全体から推して考えると、右判決のい
うところは、窃盗罪の直接の被害者たる財物の占有者と犯人との間に親族関係がな
いならば、その所有関係がどうあろうとも刑法第二四四条第一項の適用は問題とな
らない、との趣旨に理解することも可能ではないかと考えられる。もし、原判決の
結論ないし最高裁判所判決の字義どおりの文言にしたがうとすれば、窃盗罪の法益
には、少なくとも二次的にせよ、所有権等の本権も含まれている(このことは原判
決もまた承認しているところである。)にもかかわらず、その本権を有する者の被
害者たる地位を全く無視する結果となるのであつて、かくては、財物の所有者はそ
の物の占有を他人に移すかぎり、その他人と親族関係にあるすべての者によつて財
物がいかに移動・処分されても刑法上の保護を受け難い立場におかれ、右親族とし
ては平俗にいえば全く「盗み放題」とさえいうことができることとなる。しかし、
これはおそらく現実にそぐわず、健全な社会の法意識の容認するところではないで
あろう。刑法第二四四条第一項は親族間の特殊性を考慮して立法されたものの一で
あるが、所有者たる他人が自己の権利をおかされた者としてその間に入りこんでく
るかぎり、もはや親族相盗行為とはいえず、「法は家庭に入らず」とか、「親族間
の財物の移動は可罰的違法にまで達しない」とか、あるいはまた「近親間の物を盗
むなかれという期待をかけることができない」とか、同法条(とくに刑を免除して
いる点)の法意として通常挙げられる説明の埓をはるかにこえるものといわなけれ
ばならない。要するに、刑法第二四四条第一項は、旧大審院(たとえば、昭和一二
年四月八日判決、刑集一六巻四八五頁)及び当庁(昭和二八年九月一五日判決、高
裁刑集六巻八号一〇八八頁)の判例並びに学説多数の認める如く、親族占有の財物
であつてもそれが親族関係にない他人の所有にかかる場合にこれを窃取したときは
その適用を見るべきてはないと解するのを正当とする。検察官の倫旨は理由があ
り、弁護人の答弁は理由がない。
 以上説示のとおり、原判決が刑の免除の言渡をした部分については破棄理由の存
することを認みざるを得ないところ、この部分について刑の言渡をすべきときは原
判決の認定した他の事実と併合罪の関係にあたるわけであるから、結局刑事訴訟法
第三九七条第一項、第三八〇条により原判決の全部を破棄すべきものとし、同法第
四〇〇条但書にしたがい、当裁判所において次のとおりさらに判決する(控訴趣意
中量刑不当を主張する点に対する判断は、以下自判することによつておのすがら明
らかになるので、これを省略する)。
 (罪となるべき事実及び証拠)
 本件の罪となるべき事実及びこれに対する証拠は、原判決摘示にかかるもののほ
か、次のとおりである。(原判決は、前述のようにその主文第四項掲記の公訴事実
について刑の免除の言渡をしたが、有罪判決として刑事訴訟法第三三五条の要件を
整えているとは必ずしも認め難いので、右に関し、当裁判所においてあらためて摘
示するものとする。)
 第三 被告人は、昭和三六年八月一九日午前一一時頃、旭川市a町の自宅におい
て、その実弟であるAがBより借り受けて保管中のタロンカメラ一台(時価一万二
千円相当)を窃取したものである。
 右の事実は
 一、 被告人の原審公判廷における供述
 一、 被告人の司法警察員(昭和三六年九月一日付)及び検察官(同月一〇日
付)に対する各供述調書
 一、 Aの司法巡査に対する供述調書
 一、 B作成の被害てんまつ書
 一、 株式会社C商事代表取締役D作成の顛末書によつて認める。
(法令の適用)
 被告人の本件各所為はいずれも刑法第二三五条に該当するところ、以上は同法第
四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により犯情の重い原
判示第一の罪の刑に法定の加重をなし、その刑期範囲内で被告人を懲役一年に処
し、同法第二五条第一項、第二五条ノ二第一項前段を適用して本裁判確定の日から
三年間右刑の執行を猶予し、右猶予の期間中被告人を保護観察に付すべきものとす
る。なお、原審及び当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に
したがい、原審において生じた分のみを被告人の負担と定める。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 矢部孝 裁判官 中村義正 裁判官 萩原太郎)

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