弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A、同B、同C、同D、同E、同F及び弁護人今村俊一連名の上告趣意の
うち、犯罪の謀議に加わつたのみで実行行為をしなかつた者をも刑法六〇条の共同
正犯として処罰しようとするいわゆる共謀共同正犯論は右規定を不当に拡張し不明
確にするものであるなどとして、憲法三一条のほか、一三条、一九条、二一条、三
七条の違反をいう点は、いわゆる共謀共同正犯の成立に必要な共謀に参加した事実
が認められる以上、直接実行行為に関与していない者であつても、他人の行為をい
わば自己の手段として犯罪を行つたものとして共同正犯としての刑事責任を負うも
のと解すべきであり、このように解し、本件各犯行につき実行行為者らとも意思を
相通じ共謀したものと認められる被告人らについて共謀による共同正犯として刑事
責任を問うたとしても、憲法三一条のみならず一三条、一九条、二一条、三七条に
違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第一〇五六号同三
三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一七一八頁)及びその趣旨に徴し明ら
かであるから、所論は理由がなく、その余は、憲法三一条、七六条三項違反をいう
点をも含め、実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑
訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 なお、所論にかんがみ、第一審東京地方裁判所が本件各被告事件について土地管
轄があるものとして審理判決した点の適否につき、職権で判断する。
 一 記録によれば、次のような事実を認めることができる。
 1 被告人らは、いずれも昭和五三年四月一六日本件各被告事件について犯罪地
及び被告人らの現在地として土地管轄を有する千葉地方裁判所に勾留中起訴された
ものであるが、検察官は、同年六月一九日同裁判所に対し、右各被告事件を、同じ
く同裁判所に起訴されており、東京都内に住所を有するGらに対する兇器準備集合
等被告事件に関連するとして、刑訴法九条一項三号、六条、八条一項を根拠として、
同法一九条一項により、右Gらに対する前記各被告事件につき土地管轄を有する東
京地方裁判所に移送すべき旨の請求をした。これを受けた右千葉地方裁判所は、同
月三〇日、本件各被告事件については、右検察官指摘のとおり、東京地方裁判所も
管轄権を有するものとして、いずれも同法一九条一項により、同裁判所へ移送する
旨の決定(以下「本件各移送決定」という。)をした(なお、右Gらに対する各被
告事件についても、そのころ東京地方裁判所に移送する旨の決定がされていること
がうかがわれる。)。本件各移送決定に対し、弁護人らは、東京地方裁判所には本
件各被告事件についての土地管轄があるとはいえないなどとして、右各移送決定の
違法不当を理由に同条三項により即時抗告を申し立てたが、東京高等裁判所は、同
年八月一五日右各移送決定に違法不当はないとして各即時抗告棄却の決定をし、右
各決定については、特別抗告の申立もなく、いずれも確定した。
 2 本件各被告事件について審理を担当することとなつた東京地方裁判所刑事第
二部は、その後被告人Eについては、東京都内に住所があること及び少年であるこ
とが判明したため、同年九月一二日公訴棄却の判決を言い渡したが、同被告人が少
年法所定の手続を経て改めて同年一〇月六日本件被告事件につき東京地方裁判所に
起訴されたので、同年一二月二二日被告人らに対する本件各被告事件を併合して審
判する旨の決定をし、同五四年一月一一日に第一回公判を開いたところ、弁護人及
び被告人らから、同裁判所には土地管轄がない旨の管轄違の申立がされたが、本件
各移送決定が確定していること等を理由に審理を進め、同五五年三月三一日被告人
らに対し、有罪判決を言い渡し、その理由中で管轄違の申立を排斥する旨の判示を
し、原判決も、右第一審裁判所の措置を是認した。
 二 然るところ、本件記録による限り、第一審判決及び原判決の判示するとおり、
本件各被告事件と前記Gらに対する被告事件とが刑訴法九条一項三号に該当する関
連事件であるかどうか明らかではなく、かつ、本件各移送決定当時、被告人らのい
ずれについても東京都内に住居を有することが明らかな者はいなかつたのであるか
ら、右時点においては東京地方裁判所が本件各被告事件について土地管轄を有する
ものとはいえず、その段階でこれを理由に管轄違の申立がされたならば、同裁判所
としては同法三二九条により管轄違の判決をせざるをえなかつたものと考えられる。
 三 しかしながら、本件においては、前示のとおり、本件各移送決定が確定し、
東京地方裁判所に本件各被告事件の訴訟係属が生じた後、被告人Eについて、東京
都内に住所を有することが判明し、前示の経過で、一たんは公訴棄却の判決がされ
たものの、同五三年一〇月六日に改めて右住所地を管轄する東京地方裁判所に本件
被告事件につき公訴が提起されたのであるから、同被告人に関しては土地管轄の存
否を問題とする余地はなく、また、同被告人に対する本件被告事件とその余の被告
人らに対する本件各被告事件とが同法九条一項二号該当の関連事件であることには
争いがなく、したがつて、同裁判所は被告人E以外の被告人らに対する本件各被告
事件についても同法六条により土地管轄を有することが明らかになつたものであつ
て、このように、本件各被告事件について、本件各移送測定が確定し東京地方裁判
所に訴訟係属が生じた時点以後、仮に一時期同裁判所に土地管轄があることが明ら
かでなかつたとしても、刑訴法の定める土地管轄制度及び刑訴法三三一条の規定の
趣旨に照らせば、その後土地管轄が具備されるに至つた場合には、土地管轄につい
ての右瑕疵は治癒されたものというべきである。
 第一審東京地方裁判所が本件各被告事件について管轄違の言渡しをすることなく
実体について審理し判決したことを是認した原判決は、結論において相当である。
 よつて、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官Hの意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものであ
る。
 裁判官Hの意見は、次のとおりである。
 共謀共同正犯に関するわたくしの見解は、昭和五七年七月一六日第一小法廷決定
(刑集三六巻六号六九五頁)におけるわたくしの意見中に述べたとおりであつて、
本件多数意見中当該説示部分とは趣を異にする点がある。
 しかし、原判決の是認する第一審判決が本件当日の本件現場付近における状況と
して詳細に認定しているところによると、「共謀」に焦点を合わせた形の認定にな
つているために、私見とのあいだに若干のずれがあることはまぬかれないが、被告
人らが現場において一体となつた行動によつて共同してそれぞれの構成要件該当事
実を実現していることが、実質的に認定されているものといつてよいとおもわれる。
このようなばあいには、前記意見中に述べたような行為支配理論による正犯性の見
地を持ち出すまでもなく、私見においても、ほぼ共同正犯の成立がみとめられるの
である。
 なお、土地管轄についての瑕疵の治癒に関する判旨は、もちろん、わたくしの全
面的に同調するところである。
  昭和五八年一〇月一三日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一

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