弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由第一点について。
 原判決は、昭和二二年一二月一九日、上告人の父Dが上告人の代理人として、被
上告人との間に本件売買契約を締結したこと、及び当時Dは上告人より右売買につ
きその代理権を付与されていたことを認定しているのであつて、右認定は原審挙示
の証拠資料から十分首肯し得るところである。而して右代理権の付与がなされた具
体的な日時、形式等は、右売買の法律効果になんらの影響もないから原審はかかる
点を一々判示する必要のないことはいうまでもない。されば原判決には所論の如き
違法はなく論旨は理由がない。
 同第二点について。
 所論の「被上告人は、上告人と折衝して了承を得た」という被上告人の主張は、
昭和二二年一二月一九日上告人の代理人Dと被上告人との間に本件売買契約が締結
されたことの単なる経過的事情を述べたものにすぎない。而して右の如き経過的事
情は、請求を理由あらしめる事実自体ではないから、本来当事者としては必ずしも
これを主張する必要はなく、したがつて、たといこの点に関する主張が具体性を欠
いているとしても、原審としてはこれにつき所論の如き詳細なる釈明をする必要の
ないことは当然である。またかゝる経過的事情にすぎない事実については裁判所が、
当事者の主張と多少異なる事実を認定しても違法ではない。それ故原判決には所論
の如き釈明権不行使ないし当事者の主張なき事実を認定した違法はなく論旨は理由
がない。
 同第三点について。
 原審挙示の証拠を綜合すれば所論原審認定の事実を認めることができる。所論は
結局原審の適法になした事実の認定を非難するもので上告適法の理由にならない。
 同第四点及第五点について。
 原判決は、上告人の父Dが上告人の代理人として被上告人との間に本件売買契約
を締結した事実を認定しているのであつて、これは右売買契約をDが上告人のため
にすることを示してなしたという趣旨であることが原判文上自ら明白である。(少
くとも原審認定の事実によれば、Dが上告人の代理人として契約するものであるこ
とを相手方において十分知つていたことは明白である)。甲第一号証は契約が成立
したことの証拠に過ぎず、契約の意思表示そのものではない。それ故甲第一号証に
D名義の記載があつても他の証拠によつてDが上告人の代理人として契約したもの
であることが認められる以上、原審の認定を違法とすることは出来ない。そして原
審挙示の証拠によれば、右認定は十分出来るのであるから、原判決には所論の如き
違法はなく、論旨はいずれも採用し難いものである。
 同第六点について。
 所論控訴費用の点は、原判決の主文第二項に記載されて居り、主文第一項には記
載されていない。したがつて原判決が事実摘示において「被控訴(被上告)代理人
は、主文第一項同旨の判決を求めた」と記載しているのは、なんら原審口頭弁論調
書の記載と異なるところはなく、論旨は採用の限りではない。
 同第七点について。
 原判決には、論旨摘録の如く「控訴人(上告人)の父D及び控訴人に対して……
懇請したところ、同人等はこれを諒承……売渡すことを内諾した……」とあり、上
告人とD両人が内諾した事実を認定したのであつて、「Dが独自の資格において本
件売買につき内諾を与え、若しくはDが本件売買につき実質的権限を有していた」
というような事実を認定している訳ではない。それ故原審の前記認定は、所論後段
に掲げる原審の認定と毫も矛盾する点はなく、論旨は原判決の趣旨を誤解し、これ
を前提とするもので理由がない。
 同第八点について。
 上告人の父Dが、上告人より本件売買についての代理権を付与されていたとの原
審の認定が十分首肯し得ることは前記第一点に述べたとおりである。所論は結局原
審の適法になした事実の認定を非難するに帰し、上告適法の理由とならない。
 同第九点について。
 所論の「被上告人は、本件売買当時Dにおいて上告人を代理すべき権限ありと信
ずべき正当の理由を有した」との事実は、被上告人において予備的に主張したもの
にすぎず、又「さきに上告人が被上告人から本件建物を買受けた時、Dが上告人を
代理して買受けた」という事実は、右予備的主張の間接の事情として主張したもの
にすぎないことは記録上明白である。而して原審はすでに右Dは本件売買につき上
告人を代理すべき権限があつたという被上告人の第一次の主張を採用し、被上告人
の本件請求を認容したのであるから、前記の如き被上告人の予備的主張については、
もはや判断の要はなく、且これが判断の要なき理由を特に判示する必要のないこと
は言を俟たない。されば原判決には毫も所論の如き違法はなく、本論旨も理由なき
ものである。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見により主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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