弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人(A)を懲役15年に,被告人(B)を懲役14年に,被告人(C)を懲役
12年に各処する。
被告人らに対し,未決勾留日数中110日をそれぞれの刑に算入する。
理由
(第1の犯行に至る経緯)
 被告人(A)は,平成12年10月中旬ころ,茨城県鹿島郡神栖町所在のぱちん
こ店駐車場の電話ボックス内に大切にしていたブランド物の財布を置き忘れ,その
財布と在中の現金等を紛失したため,滞納していた携帯電話料金の支払いなどに困
ることとなった。そこで,被告人(A)は,ともに売春をするなどしていた被害者
に売春の客を紹介してもらったところ,その客から何らかの薬物を注射されて体調
を崩した。被告人(A)及びその親しい友人である(D)がこれらの事情について
被害者を追及すると,同女は,覚せい剤の密売人である客に対し,金さえ出せば何
をしてもいいと述べて被告人(A)を紹介したこと,同被告人の財布を盗み,現金
を抜いて財布を捨てたことなどを話した。これに怒った被告人(A)と(D)は,
2人で被害者の顔面
を平手で数回殴打し,財布を捨てたという場所に同女を連れて行って財布を探した
がこれを発見することができず,さらに金の使いみちについて同女を追及したとこ
ろ,同女から被告人(C)に対する借金の返済に遣ったと説明があったので,これ
を確認するため同被告人を呼び出した。
 呼び出された被告人(C)は,内縁関係にあった(E)とともに,被害者から金
を受け取った記憶がない旨を被告人(A)及び(D)に説明する一方,被害者が無
責任な嘘を付いているとして強い怒りを覚えた。被告人(C)の説明を受けて,被
告人(A)及び(D)は,これまで食事をおごるなど面倒を見てきた被害者に裏切
られたと感じて同女に腹を立て,これをきっかけに,上記被告人ら4名において,
被害者に対して私的制裁としての集団暴行(リンチ)を加えることとなった。
 その後,被告人(A)及び(D)は,被害者の親に弁償させるため,当時(D)
と同棲していた(F)をその交渉役として誘い,ともに被害者の実家に赴いたが,
同女の実母から門前払いに遭ったことから,さらに(F)が被害者へのリンチに加
わることになった。
 そして,被告人(A)と(D)は,被害者を連れ回し,時折被告人(C),
(E)及び(F)らが仲間に加わりながら,茨城県内各所で被害者に対しリンチを
加えたものの,同女が金の使いみちについて納得できる説明をしないとしていら立
ちを募らせ,(D)において,交際相手の被告人(B)であれば,金の使いみちを
白状させることができると考え,同被告人に事情を話して相談した。被告人(B)
は,(D)から金銭的な世話を受けていたことなどから,同女に協力することにし
て,同女らに合流した。
 その後,被告人(B)においても(D)らとともに被害者に対してリンチを加え
たものの,同女から満足できる答えがなく,被告人らの同女に対するうっぷんを晴
らすために,被告人3名,(D)及び(E)は,同月28日ころ,同県鹿嶋市内の
海岸等に被害者を連れて行き,同女を海中に転落させるなどのリンチを加え,さら
に,同日深夜,同女を同市内所在の魚釣り園緑地公園に連れて行き,同公園内の展
望台において,被告人(B)が多数回にわたって同女の顔面や腹部をサンドバッグ
のように激しく殴打するなどした。
 上記の一連の暴行により,被害者は,目の辺りにあざができたほか,口元から出
血し,さらに顔面が原形をとどめないほどふくれあがり,歩行もままならないほど
衰弱してしまい,一見して激しい暴行を受けたことが明らかな状態になった。これ
を目の当たりにした上記被告人ら5名は,被害者の姿を誰かに見られると,警察に
通報されて検挙されることになりかねないと不安になり,特に,当時いずれも執行
猶予期間中であった被告人(B)及び被告人(C)においては,検挙されれば刑務
所に行くのは確実であると思い,そのような事態を強く恐れた。そこで,被告人ら
は,上記公園の駐車場において,正座させた被害者を取り囲むようにして座り,同
女の処置について話し合ったが,適当な方法が思い浮かばず,そのうち,被告人
(B)及び被告人(A
)において,検挙を免れるためには被害者を殺害するしかないと考え,同女の殺害
を他の者に提案した。これに対し,被告人(C)及び(D)は,すでに同様の考え
を思い浮かべていたことなどから,この提案に賛成し,(E)においても,上記提
案を聞いて検挙を免れるためには殺害もやむを得ないと思い,また,以前被害者が
被告人(C)と肉体関係を持ったことや同被告人といわゆる「美人局」を行ってい
た事実を他に漏らしたことなどがあって被害者に恨みを抱いていたことから,この
提案に賛成した。
 さらに,被告人(B)は,前に観た映画等から地中に生き埋めにする殺害方法を
思い付き,生き埋めであれば,直接手を下さなくても済む上,親から見放されてい
て捜索願いも出ないであろうし,被害者が骨だけになってその身元がわからなくな
り,犯行が発覚する危険は少ないなどと考え,同方法を被告人(A)ら4名に提案
したところ,同被告人らはこれを了承し,被告人3名,(D)及び(E)の間でそ
の旨の共謀が成立した。
 上記被告人ら5名は,同駐車場から出た後も,引き続き,生き埋めの場所につい
て相談したが,結論が出ず,(D)において,被害者の姿を誰かに見られてしまう
という不安に駆られて同女をできるだけ早く殺したいと考え,その日のうちに殺害
することを提案し,被告人3名及び(E)もこれに賛成した。その後,被告人
(B)が所用のために一旦別行動をとることになり,他の被告人2名,(D)及び
(E)は(D)の当時の住居である(F)方へ向かった。
 被告人(B)を除く上記4名が(F)方に到着すると,(D)は,(F)に対
し,被害者を生き埋めにより殺害することに決めたが,適当な場所がない旨を伝え
たところ,(F)から,同人の実家の近くで以前虫取りに行ったことのある人目に
付かない場所を提案され,同場所で被害者を生き埋めにすることを決意し,同場所
について被告人(B)を除く他の被告人2名及び(E)の了承を得た。
 そして,被告人(A),被告人(C),(D)及び(E)は,被害者を車のトラ
ンクに押し込み,(F)から教示された場所に向けて車2台で同人方を出た。その
途中で被告人(B)が合流し,同被告人は,(D)から,生き埋めの場所が決まっ
たと聞いてこれを了承し,穴を掘るためのスコップと軍手を稼働先の倉庫内から調
達した。上記被告人3名,(D)及び(E)は,被害者を連れて,(D)の案内に
より(F)から教示された場所に向かった。
(罪となるべき事実)
第1 被告人ら3名,(D)及び(E)は,前記の経緯から,被害者をいわゆる生
き埋めの方法により殺害することを決意し,共謀の上,平成12年10月下旬こ
ろ,茨城県鹿嶋市所在の畑地に接した無耕作地において,同所の地面にスコップで
縦約1.6メートル,横約0.7メートル,深さ約0.3メートルの穴を掘り下
げ,その穴に同女(当時20歳)を仰向けに横たわらせた上,こもごも同女の頭部
等を手で押さえつけるなどしながら,その身体の上に土砂をかぶせて踏み固め,同
女を生き埋めにし,よって,そのころ,同所において,同女を窒息死させて殺害
し,
第2 被告人(A)は,法定の除外事由がないのに,平成16年10月3日ころ,
同県石岡市所在の被告人(A)方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノ
プロパンを含有する水溶液を自己の左腕部に注射し,もって覚せい剤を使用し
たものである。
(証拠の標目)省略
(確定裁判)
 被告人(B)は,平成13年12月3日釧路簡易裁判所で窃盗罪により懲役8月
に処せられ,その裁判は同年12月18日確定したものであって,この事実は検察
事務官作成の前科調書によって認める。
(法令の適用)
 被告人3名の判示第1の所為は,いずれも刑法60条のほか,行為時においては
平成16年法律第156号による改正前の刑法199条に,裁判時においてはその
改正後の刑法199条に該当するが,これは犯罪後の法令による刑の変更があった
ときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,被告
人(A)の判示第2の所為は覚せい剤取締法41条の3第1項第1号,19条に該
当し,判示第1の罪について所定刑中いずれも有期懲役刑を選択し,判示第2の罪
について所定刑中懲役刑を選択し,被告人(A)について以上は刑法45条前段の
併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の
加重(加重をした刑は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前
の刑法14条により
処断した刑によるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たる
から刑法6条,10条により軽い行為時法の刑であるその改正前の刑法14条によ
り処断した刑による。)をした刑期の範囲内で被告人(A)を懲役15年に,被告
人(B)について判示第1の罪は前記確定裁判があった窃盗罪と刑法45条後段の
併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示第1の罪につ
いて更に処断することとし,所定刑期の範囲内で,被告人(B)を懲役14年に,
被告人(C)について所定刑期の範囲内で被告人(C)を懲役12年に処し,同法
21条を適用して未決勾留日数中110日をそれぞれの刑に算入することとし,訴
訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人らに負担させないこ
ととする。
(量刑の事情)
 本件は,(1)被告人3名が,ほか2名と共謀の上,判示の経緯から被害者を生き埋
めにして窒息死させた殺人の事実,(2)被告人(A)が覚せい剤を自己使用した事実
からなる事案である。
 殺人の動機・経緯についてみると,被告人(A)の財布を盗んだのは被害者であ
るとの疑いを抱いたことをきっかけとして,被告人ら3名及び(D)らにおいて,
数日間にわたって,被害者に対し,凄惨かつ陰湿で,執拗な暴行を加え,大きな苦
痛と恐怖を与えた挙げ句に,被害者の顔面が大きくふくれあがるなどの手酷い暴行
の痕跡が明らかになってしまったことから,その処置に困り,リンチの犯跡を隠滅
して検挙を免れるために生き埋めという方法による被害者の殺害を決意したもので
あって,甚だ身勝手かつ短絡的であることはもとより,卑劣で冷酷極まる考えに基
づく犯行というほかなく,同情できる点は全く見当たらない。
 そして,被告人らは,被害者の殺害が発覚しないように完全犯罪を企図して,人
が立ち入らない場所で生き埋めにするという方法を選択し,(F)の教示により判
示場所を選んだ上,被害者を同所まで連行し,被害者に対して生き埋めにして殺す
旨を直接告げ,その面前で生き埋めのための穴を掘ってことさらその恐怖心を煽
り,また,地中から這い出す体力を奪うために,被害者に命じて,腕立て伏せや足
踏み,さらには穴掘りまでさせたほか,必死に暴れて抵抗する被害者を無理矢理穴
に入れ,穴の中から助けを求めて手を伸ばした被害者を足蹴にしたり,スコップの
先で突き刺す姿勢を示すなどして脅し,その身体の上に乗るなどして抵抗を排除し
ながら土砂をかけて被害者を生きたまま地中に埋め,被害者が地中で声を上げる
や,その声が聞こえなく
なるまで被害者の上にかけた土砂を踏み固めるなどしているのであり,その犯行の
態様は,強固な確定的殺意に基づく計画的かつ残忍,非情なものであって,強い非
難を免れない。
 被害者は,凄惨なリンチを加えられた後に,その面前で生き埋めにされる穴を掘
られ,必死に抵抗したものの,人数や体力等に勝る被告人ら5名によって無理矢理
穴の中に押さえ付けられ,生きたまま地中に埋められたのであるから,その恐怖や
肉体的苦痛には想像を絶するものがある。また,20歳という若さで,自分の子供
の行く末を見ることもなく,突然その生命を絶たれた被害者本人の無念さは計り知
れない。当時の被害者の生活態度は必ずしも芳しいものではなかったものの,家族
を生き埋めという残忍な方法で殺害された遺族の精神的衝撃等は大きく,被害者の
父親が,被害者の幼い長男から母親を奪った被告人ら犯人に対して厳しい刑を望む
旨の意見陳述書を検察官に提出するなど,遺族らの処罰感情が厳しいのも十分理解
できるところである

 そして,集団で被害者を生き埋めにして殺害するという本件犯行が,社会や地域
住民に与えた衝撃及び不安は深刻であり,その社会的影響は大きい。
 各被告人の個別的事情をみると,被告人(A)は,(D)とともに本件殺人のき
っかけとなるリンチを開始しているほか,自分の財布が盗まれたことが被害者に対
する一連のリンチの口実となっていたのであるから,これを止めようと思えば率先
して止めることができる立場にあったものであり,また,殺害の決定や殺害方法の
選択に際して終始積極的な姿勢を示し,殺害の現場においても,自ら生き埋めのた
めの穴をスコップで掘ったり,素手で土砂をかき出したり,埋め戻した土砂を踏み
固めるなどしており,本件殺人の犯行に際して,(D)とともに主導的な役割を果
たしたものである。
 被告人(B)は,本件殺人の直接の契機となった被害者に対する強烈な暴行を加
えただけではなく,被害者の処置に悩んだ際には,執行猶予期間中であったことか
ら,率先してその殺害を共犯者に持ちかけた上,生き埋めという方法を提案し,さ
らに生き埋めのためにスコップ等の道具を調達したり,犯行現場で自ら穴の大部分
を掘るなど重要な行為について中心的な役割を分担したものである。加えて,同被
告人は,平成11年7月1日に水戸地方裁判所において道路交通法違反,有印私文
書偽造・同行使の罪で懲役2年,4年間執行猶予の判決の言渡しを受けており,社
会内での更生の機会を与えられていながら,その執行猶予期間中に本件殺人の犯行
に及んでいるのであって,その規範意識の欠如は甚だしい。
 被告人(C)は,被告人(A)と(D)に呼び出されて被害者へのリンチに断続
的に関わるようになり,また,生き埋めの実行の際にも,被害者の体力を消耗させ
るため足踏みをさせ,穴に入った被害者の頭部及び胴体付近に上から乗って押さえ
付けて被害者の抵抗を封じるなどしており,その果たした役割も大きいものがあ
る。また,被告人(C)も,平成12年5月26日に千葉地方裁判所において建造
物侵入,窃盗の罪で懲役1年,3年間執行猶予の判決の言渡しを受けたほか,同年
10月4日には千葉簡易裁判所において暴行罪で罰金20万円の略式命令を受けて
おり,上記の執行猶予期間中に,かつ,上記略式命令後1か月を経ないで判示殺人
の犯行に及んでおり,同被告人の規範意識の欠如も甚だしいということができる。
 被告人(A)の覚せい剤取締法違反の事案については,犯行の動機に酌量の余地
がないことはもちろん,相当期間にわたって覚せい剤の使用を繰り返していたこと
がうかがわれ,その覚せい剤に対する親和性,依存性には看過できないものがあ
る。
 以上のとおり,犯情は悪質,重大であって,被告人らが厳しくその刑事責任を問
われるのはやむを得ないところである。
 他方,被告人らが素直に事実を認めて,それぞれ反省の態度を示していること,
被告人(A)には前科がないこと,被告人(C)の母親が同被告人に代わって遺族
の下へ謝罪に訪れており,また,同被告人において内妻の(E)とやり直したい旨
を述べていることなど各被告人に有利な情状も認められる。
 以上を総合考慮して,それぞれ主文掲記の刑をもって臨むのが相当と判断した。
(求刑 被告人(A)につき懲役16年,被告人(B)につき懲役15年,被告人
(C)につき懲役13年)
水戸地方裁判所刑事部
裁判長裁判官    林       正   彦
   裁判官    江   口   和   伸
   裁判官   諸   井   明   仁

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