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裁判例


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平成14年(行ケ)第620号 特許取消決定取消請求事件
平成16年6月28日判決言渡,平成16年6月14日口頭弁論終結
     判    決
 原      告  サン-ゴバンアブレイシブズ,インコーポレイティド
          変更前の表示(特許取消決定における表示)ノートンカン
パニー
 訴訟代理人弁護士  上谷清,宇井正一,笹本摂,山口健司,弁理士 岩出昌
利,古賀哲次
 被      告  特許庁長官 小川洋
 指定代理人     鈴木孝幸,西川惠雄,高木進,大橋信彦
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
     事実及び理由
 以下の文献などの引用箇所において,公用文の表記に従った箇所がある。
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が異議2001-71193号事件について平成14年8月1日にした
決定中,請求項6に関する部分を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は,本件特許第3099965号「改良されたコーナー保持性を有するアル
ミナ砥石車」の特許権者である。本件特許は,平成8年4月25日の出願(優先権
主張日・1995年(平成7年)5月25日,米国)に係る特許出願であって,平
成12年8月18日にその設定登録がされている。本件特許公報及び下記決定上の
表示はノートンカンパニーであるが,平成14年11月21日,現在の原告の表示
に変更する旨の登録がされた。
 本件特許について特許異議の申立てがあり(異議2001-71193号),平
成14年8月1日に,平成14年3月11日付けの訂正請求を認めた上で,本件特
許の請求項1ないし6に係る特許を取り消す,との決定があり,その謄本は同年8
月17日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨(上記訂正請求によって訂正された明細書の請求項6に係る
発明の特許請求の範囲の記載。以下「本件発明」というときは,原告が本訴で取消
しを求めている請求項6に係る発明を指す。)
【請求項6】研磨材が溶融アルミナ砥粒単独から成るか又は溶融アルミナ砥粒と二
次研磨材とから成り,含まれる場合二次研磨材は炭化ケイ素,立方晶窒化ホウ素,
ダイヤモンド,フリント,ガーネット及び気泡アルミナから成る群から選択される
砥石車に用いるガラス質結合剤であり,1000℃の温度での焼成後に,2.0~
10.0重量%のLi2O,7~11重量%のNa2O,0.05~2.5重量%の
K2O,52~62重量%のSiO2,12~16重量%のAl2O3,及び9~1
6重量%のB2O3を含んで成る溶融アルミナ砥粒含有砥石車のガラス質結合剤。
 3 決定の理由の要点(請求項6に係る発明に関する部分のみ)
 上記訂正請求は,特許法120条の4第2項並びに同条3項で準用する126条
2項及び3項の規定に適合するので,当該訂正を認める。次に,特許異議の申立て
について判断する。
 (1)異議申立人が提示した異議甲第1号証(米国特許第5401284号明細
書(1995年3月28日発行,翻訳文として提出された異議甲第2号証(特開平
7-164324号公報)を参照する),異議甲第4号証(昭和55年3月1日に
改正されたJIS R 6210-1980「ビトリファイド研削砥石」)及び異
議甲第5号証(特公昭50-13991号公報)には,以下の事項が記載されてい
る。
 異議甲第1号証;「ゾルゲルアルミナ研磨材とガラス質結合剤を含んで成る研削
砥石であって,焼成後のガラス質結合剤が47重量%より多いSiO2,約16重
量%より少ないAl2O3,約2.5重量%より少ないK2O,約2.0重量%より
多いLi2O,及び約18重量%より少ないB2O3を含む研削砥石。」(特許請求
の範囲第1項),「焼成後のガラス質結合剤が約1.0~約3.4重量%のLi2
O,約7~約11重量%のNa2O,約0.5~約2.5重量%のK2O,,及び約
9~約16重量%のB2O3を含む請求項1に記載の研削砥石。」(特許請求の範囲
第5項),「焼成後のガラス質結合剤が約52~約62重量%のSiO2,約12
~約16重量%のAl2O3を含む請求項5に記載の研磨砥石。」(特許請求の範囲
第6項),「約2.0~約3.4重量%のLi2O,約7~約11重量%のNa2
O,約0.5~約2.5重量%のK2O,約52~約62重量%のSiO2,約12
~約16重量%のAl2O3,約9~約16重量%のB2O3を含んで成るゾルゲル
アルミナ研削砥石用のガラス質結合剤。」(特許請求の範囲第7項)「第2研磨材
(複数種のこともある)は,好ましくは砥石の中の全研磨材の約0~約95体積%
を提供し,より好ましくは砥石の中の全研磨材の約30~約70体積%を提供す
る。使用可能な研磨材には融解アルミナ,炭化ケイ素,立方晶窒化ホウ素,ダイヤ
モンド,フリント,ガーネット,及び発泡アルミナがある。ここで,これらの第2
研磨材の例は単なる例示であり,本発明を限定するものではない。」(第4欄15
~22行目),「焼成後の結合剤は約47重量%より多いSiO2を含み,好まし
くは約52~約62重量%のSiO2,より好ましくは約54~約60重量%のS
iO2,最も好ましくは約57重量%のSiO2を含み,約16重量%未満のAl2
O3,好ましくは約12~約16重量%のAl2O3,より好ましくは約13~約1
5重量%のAl2O3,最も好ましくは約14.4重量%のAl2O3を含み,好ま
しくは約7~約11重量%のNa2O,より好ましくは約8~約10重量%のNa2
O,最も好ましくは約8.9重量%のNa2Oを含み,約2.5重量%未満のK2
O,好ましくは約0.5~約2.5重量%のK2O,より好ましくは約1~約2重
量%のK2O,最も好ましくは約1.6重量%のK2Oを含み,約2.0重量%より
多いLi2O,好ましくは約2.0~約3.4重量%のLi2O,より好ましくは約
2.0~約2.7重量%のLi2O,最も好ましくは約2.2重量%のLi2Oを含
み,約18重量%未満のB2O3,好ましくは約9~約16重量%のB2O3,より
好ましくは約11~約14重量%のB2O3,最も好ましくは約12.6重量%のB
2O3を含み,好ましくは約0~約2重量%のCoO,より好ましくは約0.5~約
1.3重量%のCoO,最も好ましくは約0.9重量%のCoOを含む。酸化コバ
ルトは本発明の目的には必要でなく,着色剤としてのみ含ませる。ガラス質結合剤
中に存在する他の酸化物,例えばFe2O3,Ti2O,CaO,MgOは,結合剤
の製造に必須ではない原料中の不純物である。また,結合剤はゾルゲルアルミナ研
磨材で作成した砥石に高い機械的強度を与える。」(第4欄46行目~第5欄24
行目),「【実施例】例1 種晶ゾルゲル研磨材を用いてサンプルを作成し,新規
な結合剤とノートン社の標準的な市販品の結合剤の破壊係数を比較した。新規な結
合剤は,予備焼成組成で30.3重量%の粉末ガラスフリット(フリットの組成は
41.2重量%のSiO2,39.9重量%のB2O3,5.1重量%のAl2O3,
10.3重量%のNa2O,1.3重量%のLiO,2.1重量%のMgO/Ca
O,及び微量のK2O),27.7重量%のカスミ石セン長岩,20重量%のケン
タッキーNo.6ボールクレー,10重量%のケイ酸ナトリウム粉末,4.7重量
%のフリント(石英),4.3重量%の炭酸リチウム,1重量%のケイ灰石,及び
2重量%の高純度コバルトアルミネートスピネルを有した。カスミ石セン長岩,ケ
ンタッキーNo.6ボールクレー,ケイ酸ナトリウム,フリント,炭酸リチウム,
ケイ灰石の化学組成を表1に示す。
【表1】
 結合剤は材料をSweco振動ミルで3時間乾式混合して調整した。結合剤に,種晶ゾ
ルゲルアルミナと高純度ホワイト酸化アルミニウムの研磨材の1:1混合物から成
る60グリットの研磨材を混合した。さらにこれらに,粉末デキストリンバインダ
ー,液体にかわ,及び保湿剤として0.1%エチレングリコールを低速のHobart 
N-50ドウミキサー(混合物2Kgの容量)中で混合した。混合物を14メッシュの
篩にかけ,すべての塊を壊した。次いで混合物を3つのキャビティ棒の型セットア
ップの中で,寸法4”×1”×1/2”の棒状試験片に加圧成形した。次いで棒状
試験片を,周期キルン中で室温から1000℃まで40℃/hで昇温し,その時間
に8時間保持し,次いで室温まで冷やした。また,上記の方法により,ノートン社
の標準的な市販品の結合剤を用いて棒状試験片を作成した。4ポイント曲げジグを
備えたインストロン4202型試験機を用い,ノッチを入れていない棒状試験片を支持
スパン3”,荷重スパン1”,クロスヘッド速度0.050/分の荷重速度で試験
した。サンプルの焼成した結合剤含有率は研磨材棒状試験片の10~30重量%で
あった。結果を表2と,図2に示す。」(第6欄48行目~第8欄31行目)及び
「例2 種晶ゾルゲル研磨材を用いてサンプルを作成し,新規な結合剤とノートン
社の標準的な市販品の結合剤のサンプルの摩耗面積と摩耗径を比較テストした。新
規な結合剤は例1の新規な結合剤と同じ組成を有した。結合剤は原料をSweco振動ミ
ルで3時間乾式混合して調整した。結合剤を混合して研磨材混合物を得た。研磨材
混合物は76.56重量%の研磨材(種晶ゾルゲルの120グリッドフィラメント
の50重量%,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウムが43.54
重量%,36メッシュより小さい発泡アルミナが6.46重量%から成る),1
8.47重量%の結合剤,1.38重量%のデキストリン,3.06重量のにか
わ,0.34重量%の水,及び0.18重量%のエチレングリコールからなった。
混合物を2.190グラム/ccの生密度を有する10”-3/16”×0.58
0”×5.025”の砥石に成形した。生の状態の砥石を周期キルンの中で室温か
ら1000℃まで40℃/hで昇温し,1000℃に8時間保持し,次いで室温ま
で冷やした。」(第7欄46行目~第9欄7行目)と記載されている。
 例2に示された砥石は,明らかに砥石車であるから,請求項1,請求項5及び請
求項6の記載並びに例2に示された砥石の構成からみると,異議甲第1号証には,
「70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミニウム及びガラス質結合剤を含ん
で成る研削砥石車であって,焼成後のガラス質結合剤が約52~約62重量%のS
iO2,約12~約16重量%のAl2O3,約0.5~約2.5重量%のK2O,
約2.0~約3.4重量%のLi2O,及び約9~約16重量%のB2O3を含み,
研磨材が種晶ゾルゲルの120グリッドフィラメントの50重量%,70グリッド
の高純度ホワイト融解酸化アルミニウムが43.54重量%,36メッシュより小
さい発泡アルミナが6.46重量%から成る砥石車。」の発明(引用発明1)が記
載されていると認める。
 また,例2に示された砥石は,明らかに砥石車であるから,請求項7の記載及び
例2に示された砥石の構成からみて,異議甲第1号証には,「研磨材が種晶ゾルゲ
ルの120グリッドフィラメントの50重量%,70グリッドの高純度ホワイト融
解酸化アルミニウムが43.54重量%,36メッシュより小さい発泡アルミナが
6.46重量%から成る砥石車に用いられるガラス質結合剤であって,約2.0~
約3.4重量%のLi2O,約7~約11重量%のNa2O,約0.5~約2.5重
量%のK2O,約52~約62重量%のSiO2,約12~約16重量%のAl2O
3,及び約9~約16重量%のB2O3を含んで成る,70グリッドの高純度ホワイ
ト融解酸化アルミニウムを含有する砥石車のガラス質結合剤。」の発明(引用発明
2)が記載されていると認める。
 異議甲第4号証;表1に「と粒の材質による種類」が掲載されており,A,W
A,PA,HA(アルミナ系)とあり,備考として「同一系統のと粒を混合したも
のを使用することができ,この場合は,使用したと粒の記号を併せて呼ぶ。これを
混合と粒という。混合と粒の例:A/WA,C/CG」と記載されている。
 (2)請求項6に係る発明(本件発明)と引用発明2とを対比すると,引用発明
2の「高純度ホワイト融解酸化アルミニウム」は,溶融アルミナであるから,両者
は,「砥石車に用いるガラス質結合剤であり,焼成後に,約2.0~約3.4重量
%のLi2O,約7~約11重量%のNa2O,約0.5~約2.5重量%のK2
O,約52~約62重量%のSiO2,約12~約16重量%のAl2O3,及び約
9~約16重量%のB2O3を含んで成る溶融アルミナ砥粒含有砥石車のガラス質結
合剤」の点で一致し,本件発明が,結合剤の組成が1000℃の焼成温度のもので
あるとしているのに対し,引用発明2は,焼成温度が1000℃とされているが,
結合剤の組成がどのような焼成温度のときのものであるかが明確とされていない点
(相違点4),及び本件発明が,研磨材が溶融アルミナ砥粒単独から成るのである
のに対し,引用発明2は,溶融アルミナとゾルゲルアルミナが含まれるものである
点(相違点5)で相違する。
 そこで相違点4についてみると,本件明細書の発明の詳細な説明の実施例の欄に
記載された新規の結合剤の焼結前の組成は,異議甲第1号証の実施例の欄に記載さ
れた焼成前の結合剤の組成と異なるところはないから,同じ1000℃で焼成した
異議甲第1号証記載の例2の砥石の結合剤の組成は,請求項1に係る発明の焼成後
の結合剤の組成と一致するはずである。したがって,相違点4は実質的なものでは
ない。
 相違点5についてみると,引用発明2においても,研磨材の一部として溶融アル
ミナ砥粒を使用しているものであるから,引用発明2の結合剤が,溶融アルミナ砥
粒の使用に適さないということはなく,また,溶融アルミナ砥粒を研磨材とするも
のに対しても,所望の効果を予測し得るものと認められる。そうすると,引用発明
2が,ゾルゲルアルミナ砥粒を必須の構成とするものであるとしても,引用発明2
の結合剤を,溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石車に使用することに格別の
困難性があるとは認められない。
 なお,特許権者(原告)は,意見書において,「溶融アルミナ砥粒砥石車では,
1200℃で焼成されるため,親出願のように1000℃という低温で焼成する結
合剤(しかも砥粒の種類も異なる)が,溶融アルミナ砥粒砥石車に1000℃焼成
で使用して,1200℃で焼成された溶融アルミナ砥粒砥石車よりも高い砥石車の
コーナー保持性を持つと予想する理由は全くありません。」と主張するが,従前,
溶融アルミナ砥粒は,1200℃の焼成温度に耐えるために,1200℃の焼成温
度に適した結合剤が選択されていたものであって,溶融アルミナ砥粒を用いた砥石
が必ず1200℃で焼成されなければならないというものではない。そうすると,
ゾルゲルアルミナ砥粒と溶融アルミナ砥粒を研磨材とする砥石車を1000℃で焼
成していた引用発明2の結合剤を溶融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石の結合
剤に用いたときに,焼成温度を1000℃としたときの効果が全く予想し得ないと
いうものではない。さらに,特許権者は,「実際,親出願の際には発明者(当業
者)はそのように考えたが故に親出願ではゾルゲルアルミナ砥粒砥石車に用いる発
明として出願しました。また,本発明者が親出願の結合剤が溶融アルミナ砥粒砥石
に使用すると1000℃焼成して,従来の1200℃で焼成された溶融アルミナ砥
粒砥石車よりも高い砥石車のコーナー保持性を持つことを見出すまでに時間がかか
ったために親出願が公開されたものです。本件発明は本発明者の創作的営為によっ
て初めてなされ得たものであり。それなしでは開示されることのなかった発明で
す。」(意見書)と主張する。しかし,本件明細書においては,例2及び例3の実
施例について,それぞれ,Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石との効果の
比較を行っているが,Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石の焼成温度につ
いては,例2については記載がなく,例3のものが900℃とされており,120
0℃で焼成された砥石車に対する効果を確認したものではない。
 したがって,本件発明は,引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
 (3) 以上のとおりであるから,本件発明は,本件出願前に米国において頒布
された異議甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違
反してされたものである。
第3 決定取消事由
 決定は,本件発明と引用発明2との間の相違点5の容易想到性判断を誤り,本件
発明の顕著な効果についての認定判断も誤ったものである。
 1 決定は,引用発明2との間の相違点5の容易想到性に関し,「引用発明2に
おいても,研磨材の一部として溶融アルミナを使用しているものであるから,引用
発明2の結合剤が,溶融アルミナ砥粒の使用に適さないということはなく,また,
溶融アルミナ砥粒を研磨材とするものに対しても,所望の効果を予測し得るものと
認められる。そうすると,引用発明2が,ゾルゲルアルミナ砥粒を必須の構成とす
るものであるとしても,引用発明2の結合剤を,溶融アルミナ砥粒のみを研磨材と
する砥石車に使用することに格別の困難性があるとは認められない。」と判断した
が,誤りである。
 「溶融アルミナ砥粒の使用に適さないことはない」ということは,「溶融アルミ
ナ砥粒に使用できる」ということと同義であるが,「溶融アルミナに使用できる」
ということと,「溶融アルミナに使用することを当業者が想到する」ということと
は,別の意味である。
 溶融アルミナ砥粒には,ゾルゲルアルミナ砥粒のような「焼成温度が高いと,砥
粒と結合剤との間で不所望な反応が起こる」という問題がないため,ゾルゲルアル
ミナ砥粒用の焼成温度の低い結合剤をわざわざ用いる意味がない。特に,本件発明
が課題とするコーナー保持性の向上を目指す場合には,砥石のコーナー保持性を向
上させるためには焼成温度が高いほうが望ましい(少なくとも当業者はそのように
考える)から,焼成温度が従来の溶融アルミナ砥石車用の結合剤より低いゾルゲル
アルミナ砥石車用の結合剤を使うことを想到することは通常あり得ないからであ
る。
 2 決定は続けて,「溶融アルミナ砥粒を研磨材とするものに対しても,所望の
効果を予測し得るものと認められる。」と認定するが,証拠による裏付けも,また
技術常識による裏付けもない独断であり,本件発明の効果は当業者にとって予想の
できないものである。
 決定は,「引用発明2は研磨材の一部として溶融アルミナ砥粒を使用している」
との一事をもって上記結論を導いていると思われるが,引用発明2における溶融ア
ルミナ砥粒は,二次的な役割,ないし希釈材(コスト低減目的の増量材)として使用
されているにすぎず,ゾルゲルアルミナ砥粒を必須の構成とする以上,そこで用い
られる結合剤もゾルゲルアルミナ砥粒用の結合剤として捉えられる。そうであれ
ば,たとえ引用発明2において溶融アルミナ砥粒が使用されていたとしても,そこ
に用いられた結合剤はあくまでゾルゲルアルミナ砥粒用の結合剤として認識される
から,これを,ゾルゲルアルミナ砥粒とは性質の異なる溶融アルミナ砥粒単独(な
いしゾルゲルアルミナ砥粒以外の二次研磨材との混合)に用いた際の効果を当業者
が予測し得るとは直ちにいえない。
 3 決定は,原告の意見書の主張について,「従前,アルミナ砥粒は,1200
℃の焼成温度に耐えるために,1200℃の焼成に適した結合剤が選択されていた
ものであって,溶融アルミナ砥粒を用いた砥石が必ず1200℃で焼成されなけれ
ばならないというものではない。そうすると,ゾルゲルアルミナ砥粒と溶融アルミ
ナ砥粒を研磨材とする砥石車を1000℃で焼成していた引用発明2の結合剤を溶
融アルミナ砥粒のみを研磨材とする砥石の結合剤に用いたときに,焼成温度を10
00℃としたときの効果が全く予想し得ないというものでもない」と認定判断する
が,誤りである。
 「溶融アルミナ砥粒を用いた砥石が必ず1200℃で焼成されなければならない
というものではない」という認定から,「溶融アルミナ砥粒を用いた砥石は,10
00℃の焼成温度でも焼成できる」との結論までは導けるが,1000℃で焼成し
た場合の効果(本件発明の効果)まで上記認定のみから導くことは不可能である。
 本件発明では,アルミナ砥粒という点で共通性があるとはいっても,ガラス結合
剤と砥粒の間の反応性に顕著な相違があり,また焼成温度にも顕著な相違があるの
で,当業者にすれば,ゾルゲルアルミナ砥石車と溶融アルミナ砥石車とは異なる砥
石車と観念されるものである。
 一方,1000℃で焼成する引用発明2のガラス結合剤は,ゾルゲルアルミナ砥
石車用途のガラス結合剤という範疇を外れるものではないので,これが溶融アルミ
ナ砥石車において上述のような効果(1200~1350℃の温度で焼成される従
来の溶融アルミナ砥石車よりも優れた性能)を奏することは,当業者が予想できる
ものではない。
 4 「焼成温度が高いほど,砥石車の強度(コーナー保持性)は高くなる」とい
う当業者の技術常識の下では,溶融アルミナ砥石車のコーナー保持性の向上を目指
すに当たって,わざわざ「従来の溶融アルミナ砥石車用結合剤(焼成温度:1200
~1350℃)より焼成温度の低い引用発明2の結合剤(焼成温度:1000℃)
を用いよう」と発想すること自体困難であるから,当業者には,「引用発明2の結
合剤を溶融アルミナ砥石車に用いた際の効果(本発明の効果)」を確認する実験を行
う動機がない。したがって,本件発明の効果を確認する実験それ自体に困難性がな
いことは,本件発明の進歩性判断において何ら影響しない。
 「焼成温度が高いほど,砥石車の強度(コーナー保持性)は高くなる」という当業
者の技術常識を前提とすれば,「従来の溶融アルミナ砥石車用結合剤(焼成温度:1
200~1350℃)より,焼成温度の低い,引用発明2の結合剤(焼成温度:10
00℃)を用いた方が,溶融アルミナ砥石車のコーナー保持性が向上する」という
効果が当業者に予測困難であったことは明らかであるから,本件発明は進歩性を有
する。
 5 決定は,「本件明細書においては,例2及び例3の実施例について,それぞ
れNorton標準市販結合剤を用いて製造した砥石との効果の比較を行っている
が,Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石の焼成温度については,例2につ
いては記載がなく,例3のものが900℃とされており,1200℃で焼成された
砥石車に対する効果を確認したものではない。」と認定判断するが,これも誤りで
ある。
 本件明細書における例2の比較例が,実際に1225℃の焼成温度で焼成された
溶融アルミナ砥石車であり,そのことが翻訳の過程で欠落してしまったことは,本
件PCT出願原本の公開パンフレットであるWO96/37342号パンフレット
(甲第12号証の1)より明らかである。
 決定は,「Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石の焼成温度については,
例2に記載がない」ことを,「1200℃で焼成された砥石車に対する効果を確認
したものでない」と認定する理由の一つとして挙げる。しかし,本件明細書に例2
の比較例の焼成温度の記載がないとしても,溶融アルミナ砥石車の通常の焼成温度
が1200~1350℃であることは,当業者にとって周知の技術常識であるこ
と,及び明細書の「標準製法でNorton社の製造設備で原料を乾燥配合して生成され
たNorton標準市販結合剤を用いて製造」との記載からすれば,当業者であれば,例
2において比較されているのは,焼成温度が1200~1350℃となる通常の溶
融アルミナ砥石車用結合剤を用いた溶融アルミナ砥石車であることは,当然理解し
得るものである。
 6 決定は,「(Norton標準市販結合剤を用いて製造した砥石の焼成温度が,)例
3のものが900℃とされて(いること)」も,「1200℃で焼成された砥石車
に対する効果を確認したものでない。」と認定する理由の一つとする。
 しかし,原告は,例3に記載されていることを本件発明の効果としているわけで
はない。本件発明の効果は,例2において開示されている事項である。よって,例
3の記載は,そもそも本件発明の効果を認定するに当たって考慮されるべきもので
はない。
 例3における比較例が900℃で焼成されているのは,従来のゾルゲルアルミナ
砥石車用の標準結合剤を用いたからである。例3は,本件発明に係る結合剤が,従
来のゾルゲルアルミナ砥石車用結合剤と比較しても有利であることを示すための記
載である。また,900℃という焼成温度は,従来のゾルゲルアルミナ砥石車の最
適焼成温度であることは当業者に周知であるから,当該焼成温度のみからでも,当
業者であれば,ゾルゲルアルミナ砥石車用の標準結合剤を用いたものであること
は,容易に認識できることである。
第4 当裁判所の判断
 1 異議甲第1号証(甲第5号証の1。訳文は,異議甲第1号証の米国出願を優
先権主張とした特開平7-164324号公報(甲第5号証の2)による。)に
は,以下の記載がある。
 (1-1)「約2.0~約3.4重量%のLi2O,約7~約11重量%のNa2
O,約0.5~約2.5重量%のK2O,約52~約62重量%のSiO2,約12
~約16重量%のAl2O3,及び約9~約16重量%のB2O3を含んで成るゾル
ゲルアルミナ研削砥石用のガラス質結合剤。」(【特許請求の範囲 請求項7】)
 (1-2)「本発明は砥石に関係し,具体的には優れたコーナー保持性を有する
ゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石に関係する。さらに本発明は,優れた機械強度と
優れたコーナー保持性を可能にする結合剤組成物に関係する。」(【0001】)
 (1-3)「ゾルゲルアルミナ研磨材は,好ましくは砥石の中の全研磨材の約5
~約100体積%を提供し,...第2研磨材(複数種のこともある)は,好まし
くは砥石の中の全研磨材の約0~95体積%を提供し,...使用可能な研磨材に
は融解アルミナ,...及び発泡アルミナがある。」(【0015】)
 (1-4)「研磨材混合物は76.56重量%の研磨材(種晶ゾルゲルの120
グリッドフィラメントが50重量%,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アル
ミニウムが43.54重量%,36メッシュより小さい発泡アルミナが6.46重
量%からなる)」(【0029】例2)
 2 また,寺田召二他3名著「低温焼成ビトリファイド研削トイシ(第1報)ガラ
ス結合材を使用するための基礎的考察」名古屋工業技術試験所報告第7巻第9号
(昭和33年9月)66~72頁(乙第1号証)には,
 (2-1)「...最も多く使用されているのはビトリファイド研削トイシであ
って,これは結合材にケイ酸塩鉱物を使用したものである.この種のトイシは普通
の場合1350℃前後の温度に焼成されたときに所要のカタサを持つトイシとな
る.この焼成温度を引下げることができれば,従来よりも大幅にトイシの生産コス
トを引下げ,安価なトイシができるはずである....普通のビトリファイド研削
トイシは,通常は焼成温度が高くなるに従い強度も大きくなるが,ガラスを結合材
とする場合には一定の温度以上に焼成すると逆に強度が低下した.」(66頁
「1.まえがき」の項)
 (2-2)「この実験ではト粒にホワイト・アランダム(以下WAで示す)を用
いた.粒度は#60である....」(66頁「2.試料の調製及び実験方法」の
項)
 (2-3)「図1に抗張力の測定結果を示す.この結果によると940℃までは
トイシの抗張力は増加しているが,それ以上の温度では逆に抗張力は低下してゆく
傾向がみられる.」(67頁「3.実験結果とその考察」の項)
 3 上記(1-1)及び(1-4)の記載から,異議甲第1号証には,決定が認定
した引用発明2が記載されていることは明らかであるが,さらに,(1-3)の記
載に合わせ,「融解アルミナ」が「溶融アルミナ」と同義であることにかんがみる
と,異議甲第1号証には,研磨材混合物として,ゾルゲルアルミナ約5体積%と溶
融アルミナ約95体積%との混合物も好ましい範囲として推奨されているというこ
とができる。
 そして,上記(1-2)に示された目的をも併せて勘案すると,異議甲第1号証
には,
「優れたコーナー保持性を有するゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石に関係し,さら
には,優れた機械強度と優れたコーナー保持性を可能にする結合剤組成物に関係す
るものであって,
 研磨材がゾルゲルアルミナ約5体積%と溶融アルミナ約95体積%との混合物か
ら成る砥石車に用いられるガラス質結合剤であって,約2.0~約3.4重量%の
Li2O,約7~約11重量%のNa2O,約0.5~約2.5重量%のK2O,約
52~約62重量%のSiO2,約12~約16重量%のAl2O3,及び約9~約
16重量%のB2O3を含んで成る,70グリッドの高純度ホワイト融解酸化アルミ
ニウムを含有する砥石車のガラス質結合剤。」(「引用発明2′)が開示されてい
るものと認めることができる。この引用発明2′は,溶融アルミナが95体積%で
あり,ゾルゲルアルミナ5体積%である点で,決定が認定した引用発明2をより具
体的に認定したものである。
 そして,乙第1号証の(2-1)の記載によれば,ガラスなどに代表されるケイ酸
塩鉱物を結合剤とするビトリファイド砥石において,生産コスト等の面から焼成温
度低下の試みがなされていたことが明らかであるとともに,(2-2)及び(2-
3)の記載によれば,研磨剤として,溶融アルミナの一種であるホワイト・アラン
ダムを採用し,ガラスを結合剤とした砥石を作って,抗張力を測定したところ,9
40℃まではトイシの抗張力は増加しているが,それ以上の温度では逆に抗張力は
低下していく傾向がみられたことが報告されている。
 4 引用発明2′と本件発明とを比較すると,両者は,優れた機械強度とコーナ
ー保持性を可能にする砥石のガラス質結合剤を提供するという目的において一致
し,さらにその結合剤組成と成分範囲においても一致するが,本件発明は,研磨剤
として溶融アルミナ単独か,若しくはこれに二次研磨剤(ただし特定成分であっ
て,ゾルゲルアルミナは含まない。)を含むものから成るのに対して,引用発明2
′は,ゾルゲルアルミナを約5体積%含み,残部約95体積%は溶融アルミナから
成る点でのみ相違するものである。つまり両者は研磨材のうち,約95体積%は共
に溶融アルミナ砥粒であるものの,残部約5体積%がゾルゲルアルミナ砥粒である
か,あるいは溶融アルミナ砥粒であるかの違いしかない。
 原告は,「たとえ少量でもゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石車は,仮に二次研磨
材として溶融アルミナ砥粒を多量に含むとしても,全体としてはゾルゲルアルミナ
砥石車として把握されるべきものであり,砥石の性能はゾルゲルアルミナ砥粒によ
って決まるものであり,溶融アルミナ砥粒などの二次研磨材は二次的な役割,特に
溶融アルミナ砥粒では希釈材(コスト低減目的の増量材)として使用されているにす
ぎないものである。そして,ゾルゲルアルミナ砥粒を併せて含むとしても,ゾルゲ
ルアルミナ砥粒の性能を失わないようにするために,ゾルゲルアルミナ砥石車に開
発されている上述の製造条件が採用されなければならないものである。」と主張す
る。
 しかしながら,「たとえ少量でもゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石車は,全体と
してはゾルゲルアルミナ砥石車として把握されるべき」という原告の主張は,少量
の含有量の極限,すなわち限りなく0に近い含有量を考えた場合,首肯することは
できないし,溶融アルミナ砥粒に関しても,砥粒である以上は研磨材としての作用
を具備することは否定できないから,単なる増量材であるとの主張も採用すること
はできない。
 5 加えて,引用発明2′が開示する約95体積%が溶融アルミナ砥粒であっ
て,残部約5体積%がゾルゲルアルミナ砥粒である砥石をモデル化して考察してみ
る。
 この種の砥石において,各砥粒はほぼ均一な粒径を有していると考えられるか
ら,体積%の比率はそのまま砥粒数の比率を表すものと理解できる。
 そこで,上述した引用発明2′においては,100個の砥粒を任意に採取した場
合,溶融アルミナ砥粒95個とゾルゲルアルミナ砥粒5個とが得られる。
 これら100個の砥粒を10×10個の正方形をなす桝目の中に各1個ずつ配置
し,上下左右の砥粒同士が結合剤によって結合されるとすると,結合部分の総数は
9×9=81箇所となる。外縁部の砥粒は結合箇所が2又は3箇所であるのに対
し,それ以外の内部に位置する砥粒は上下左右4箇所の結合箇所を有するから,ゾ
ルゲルアルミナ砥粒がすべて内部に位置したと仮定しても(このように仮定するこ
とは,後述の溶融アルミナ砥粒同士の結合箇所を最も少なくなるように見積もるこ
とにほかならない。),それらの結合箇所は全体で4箇所×5個=20箇所であ
る。100個のうち,5個しかないゾルゲルアルミナ砥粒同士が隣接して位置する
可能性はほとんど0であるから,結合箇所全体の81箇所のうち,ゾルゲルアルミ
ナ砥粒と溶融アルミナ砥粒との結合箇所は20/81=24.7%,溶融アルミナ
同士の結合箇所は61/81=75.3%となり,引用発明2′における結合箇所
の約3/4は溶融アルミナ砥粒同士の結合箇所ということになる。
 すなわち,溶融アルミナ砥粒を約95体積%含み,残部約5体積%がゾルゲルア
ルミナ砥粒から成る砥石は,少なく見積もっても結合剤の約3/4が,溶融アルミ
ナ砥粒同士の結合に費やされることになる。そして,これらの部分についても,強
力に結合しない限りは,性能の優れた砥石とはなり得ないことは明らかであるか
ら,引用発明2′における結合剤が溶融アルミナ砥粒同士の結合剤としても優れた
ものであることは,当業者であれば当然に想到し得る事項にすぎない。
 6 そして,乙第1号証に記載されるとおり,溶融アルミナ砥粒から成る砥石に
関しても,コスト低減等の面から焼成温度の低温化が図られていたことを併せて考
慮すれば,引用発明2′が開示する研磨材のうち約95体積%が溶融アルミナ砥粒
であって,残部約5体積%がゾルゲルアルミナ砥粒である砥石のための結合剤を溶
融アルミナ砥粒100%の砥石に適用してみようとすることは,当業者であれば容
易に想到し得るものと判断せざるを得ない。
 7(1) 本件明細書では,①「アルミナ研磨材を用いた実験用結合剤(注:本件発
明に係る結合剤)は,目直し補正が半分に軽減され,目直し間隔当たりの部品数が
3倍になったことで,。」(甲第3号証の9欄45~4
7行参照)(傍点付与)と説明するとともに,原告準備書面には,②「...ゾル
ゲルアルミナ砥粒は,原告が開発した比較的新しい砥粒である。...溶融アルミ
ナ砥粒とゾルゲルアルミナ砥粒はアルミナという点では共通するが,製法,結晶組
織,性質及び物性が全く異なり,砥粒として全く異なる,全く別種の砥粒である。
ゾルゲルアルミナ砥粒は溶融アルミナ砥粒を凌駕するものとして開発され,潜在的
にものであるが,生産量とも関係
するが,コストが高いという問題点があった。」(原告準備書面(1)6頁14行~7
頁1行)(傍点付与)との主張がある。
 他方,異議甲第1号証(甲第5号証の2)には,③「【産業上の利用分野】本発
明は砥石に関係し,...さらに本発明は,優れた機械強度と優れたコーナー保持
性を可能にする結合剤組成物に関係する。」(【0001】)と記載されている。
 そして,前記乙第1号証には,④「この種のトイシは普通の場合1350℃前後
の温度に焼成されたときに所要のカタサを持つトイシとなる.この焼成温度を引下
げることができれば,従来よりも大幅にトイシの生産コストを引下げ,安価なトイ
シができるはずである.」及び「普通のビトリファイド研削トイシは,通常は焼成
温度が高くなるに従い強度も大きくなるが,ガラスを結合材とする場合には一定の
温度以上に焼成すると逆に強度が低下した.」との記載がある。
  (2) 原告は,本件発明の効果の比較対象として,専ら「溶融アルミナ砥石車
(ゾルゲルアルミナ砥粒を含まない)に,従来の溶融アルミナ砥粒用の標準結合剤
(焼成温度:1200~1350℃)を用いたもの」を挙げて,その優位性を主張
しているが,引用発明2′は,「溶融アルミナ砥粒を95体積%含み,残部5体積
%がゾルゲルアルミナ砥粒から構成される砥石車に,本件発明と同じ結合剤を使用
して1000℃で焼成したもの」である。
 そして上記①の明細書記載によれば,本件発明は,従来の溶融アルミナ砥粒を従
来の結合剤にて焼成したものと比較して,6倍の性能を発揮するようになったのに
対し,上記②の原告主張によると,引用発明2′においては,ゾルゲルアルミナ砥
粒は,潜在的には,溶融アルミナ砥粒の数倍の性能を発揮できるもの,としてい
る。
 本件発明の実施例における性能倍率の6倍と,引用発明2′における性能倍率の
数倍との主張は一致する範囲であるとともに,両者を比較した場合の性能倍率の優
劣は不明である。
 すなわち,仮に原告主張の,「たとえ少量でもゾルゲルアルミナ砥粒を含む砥石
車は,仮に二次研磨材として溶融アルミナ砥粒を多量に含むとしても,全体として
はゾルゲルアルミナ砥石車として把握されるべき」との立場をとって,ゾルゲルア
ルミナ砥粒を極少量とした場合の極限を考えれば,本件発明は当該極限において,
その構成が引用発明2′と一致するものである。
 また,乙第1号証によれば,生産コストの面等から研削砥石の焼成温度を低温化
しようとする動機が本願出願前からあったこと,及びそのための研究の過程で,
「通常は焼成温度が高くなるに従い強度も大きくなるが,ガラスを結合材とする場
合には,一定の温度以上に焼成すると逆に強度が低下した」ことが報告されている
ことが明らかである。
  (3) そうだとすると,1200~1350℃で焼成することが機械強度やコー
ナー保持性の面で当然とされてきた溶融アルミナ砥粒砥石(車)に関して,異議甲
第1号証に開示された機械強度とコーナー保持性に優れた,1000℃で焼成する
ガラス質結合剤を適用してみようとする動機は,当業者であれば当然に想到するも
のと認められ,かつその作用効果に関して,研磨材が溶融アルミナ95体積%とゾ
ルゲルアルミナ5体積%との混合物から成るゾルゲルアルミナ砥石(車)におい
て,ゾルゲルアルミナ砥粒を極少量に減少したものと同等程度,あるいはそれを外
挿した延長線上の性能を発揮するであろうことは,当業者が当然に予測し得ること
にすぎないものと認められる。
 8 決定は,溶融アルミナとゾルゲルアルミナの体積%を具体的に特定していな
い引用発明2と本件発明との間の構成の相違点を認定して,本件発明の構成の容易
想到性を判断しているが,以上に判断したところによると,本件発明の効果に関す
る部分も含め,本件発明は異議甲第1号証に記載の発明に基づいて容易に想到する
ことができるとした決定の判断に誤りはないことに帰する。
第5 結論
 以上のとおり,原告主張の決定取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
  
  東京高等裁判所知的財産第4部
         裁判長裁判官塚  原  朋  一
            裁判官塩  月  秀  平
裁判官髙  野  輝  久

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