弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件再抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の理由は、別紙のとおりである。
 刑訴法第二九条は、訴訟を遅延せしむる目的のみを以てなしたことの明白な忌避
の申立を却下すべきことを規定し、この場合においては、忌避せられた裁判官も、
その裁判に関与し得ることを明らかに定めている。元来一般に忌避せられた裁判官
をして、その忌避の裁判に関与せしめない所以のものは、かかる裁判官が自らその
忌避申立の理由があるか否かの裁判に関与するのでは、その裁判の公正を疑わしめ
る虞があるばかりでなく、殊にその申立を却下する場合には、たとい当該裁判官が
客観的に公正な判断をしたとしても、忌避の理由あることを主観的に信ずる申立人
の立場からは、その裁判の公正を疑うべき十分な理由が存在し得るからである。し
かるに、これに反し前記刑訴法第二九条の場合は、忌避の申立が、本来の使命を全
く逸脱して、ただ訴訟遅延の目的のみを以てなされたことの明白なときにかかる権
利の濫用ともいうべき忌避の申立を却下するのであつて、その実質においては忌避
申立そのものの理由があるか否かについての裁判をするというよりは、むしろ単に
訴訟の進行を阻害する事由が存するか否について裁判をするに過ぎないのである。
かかるが故に、この場合においては、忌避せられた裁判官をしてその裁判に関与せ
しめたとしても、前述のような裁判の公正を疑わしむべき虞は、甚だ乏しいと言わ
なければならぬ。しかのみならず、かかる方法に出ずる訴訟進行の妨害に対しては、
即時にすなわち裁判所の構成を改めるまでもなく直ちにこれを排除して迅速なる訴
訟の進行を図ることが、公益上要請せられていると言うべきである。言葉を換えれ
ば、該規定は、本来裁判所が訴訟指揮権の作用として負担している訴訟の進行を妨
げる一切の障碍を除去すべき職責の遂行に対して、これを制限すべき事由のない場
合に、ただ制限を加えなかつたまでのものであるとも言い得るのである。もとより、
該規定は、所論のように裁判官が公務員として全体の奉仕者であるべき性格を無視
して、官僚の横暴を敢てなし得る権限を付与したものと解すべき余地はない。再抗
告人は、該規定は、裁判所が訴訟遅延の目的を以てなされたとの理由を仮装して、
正当な忌避の申立を却下することを可能ならしめるものであつて、これによつて官
僚の横暴を招来し、結局憲法第一五条第二項の精神に違反すると主張するものの如
くである。しかし、該規定は、忌避の申立を却下するには、それが訴訟遅延の目的
のみを以てなされたことが明白であることを前提要件としているので、その明白で
ない場合には、却下し得ないのであるから、所論のように理由を仮装して却下の裁
判をするというがごときことは、峻厳な世論の批判を前にして、殆んどなし得ない
ところである。のみならず、仮りにかかる違法な裁判が観念上あり得るとしても、
それはかかる違法を敢てする当該裁判所の責に帰すべきところであり、しかもそれ
に対しては不服申立による是正手段(刑訴法第三一条)も存するのであるから、こ
れがために、前示立法趣旨の下に規定された刑訴法第二九条そのものを所論のよう
に憲法第一五条第二項の精神ないし憲法前文の精神に違反するものと論じ去ること
はできない。されば本件再抗告は理由なきものである。
 よつて、刑訴法第四六六条第一項に従い主文のとおり決定する。
 この決定は裁判官全員の一致した意見である。
  昭和二三年一二月二四日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官島保は差し支えにつき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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