弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決並びに第一審判決を破棄する。
     本件を福島地方裁判所に差戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士片岡政雄の上告理由第一点について。
 原判決は、その理由が同じであるといつて引用した第一審判決の理由中で、「証
人Dの証言並びに原告本人の尋問の結果(第一回)によれば、原告がその主張する
期間中(昭和二四年九月七日から同月二六日まで)不在であつたことが認められる。」
と認定しながら、「自作農特別措置法四七条の二にいう処分のあつたことを知つた
日とは、訴願につき裁決のあつたことが、裁決書の送達その他の方法により、社会
通念上関係者の了知することができる状態におかれたときと解すべきであり、関係
者が処分の存在を現実に知得したか否かを問わないと解すべきである。」旨説示し
たことは所論のとおりである。そして、同条の一項は、「この法律による行政庁の
処分で違法なものの取消又は変更を求める訴は……当事者がその処分のあつたこと
を知つた日から一箇月以内にこれを提起しなければならない。但し、処分の日から
二箇月を経過したときは……訴を提起することはできない。」と規定し、その但書
において同条項所定の訴は、処分の日から二箇月を経過したときは、当事者が処分
のあつたことを知らなくともこれを提起することができないものとして、処分の不
確定な状態を処分の日から二箇月に限定したところからこれを見ると、同条にいう
「処分のあつたことを知つた日」とは、当事者が書類の交付、口頭の告知その他の
方法により処分の存在を現実に知つた日を指すものであつて、抽象的な知り得べか
りし日を意味するものでないと解するを相当とする。尤も処分を記載した書類が当
事者の住所に送達される等のことがあつて、社会通念上処分のあつたことを当事者
の知り得べき状態に置かれたときは、反証のない限り、その処分のあつたことを知
つたものと推定することはできる(当裁判所第二小法廷昭和二七年四月二五日判決
民事判例集六巻四号四六二頁以下参照)。しかし、原判決は本件については前述の
ごとく証拠に基き上告人である原告がその主張する期間不在であつたことを認定し
たのであるから、その不在の期間本件裁決のあつたことを原告自身は(証人Dが処
分の対象物につき原告に代り一切を処理する代理権を有し、従つて、当事者と見る
べき者であつたことは、原判決並びに第一審判決の認めなかつたところであること
はいうまでもない。東京高等裁判所昭和二五年一一月二一日判決行政事件裁判例集
一巻一一号一六五二頁以下参照。)現実には知らなかつたことをも認定した趣旨で
あるとしなければならない。しかるに、第一審判決は、前述のごとく法文上処分の
あつたことを現実に知つたか否かを問わないものと解し、その法律解釈の下に、本
案に入ることなく、本訴の提起は一ヶ月の出訴期間を経過し不適法なものとして原
告の請求を却下し、原判決も同一見解の下にその控訴を棄却したのは、法令の重要
な解釈を誤つた違法があつて、本論旨は、その理由があるものといわなければなら
ない。
 よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し民訴四〇七条、三九六条、三八八条に
則り裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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