弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人田之上虎雄の上告理由一について。
 本件土地区画整理事業(以下単に「本件事業」という。)は、当初は特別都市計
画法に基づいて東京都知事の施行するものであつたため、従前の土地の一部につい
て未登記の賃借権を有する者の右東京都知事に対する賃借権届出の期間は、同法施
行令四五条によつて、土地区画整理施行地区の告示があつた日から一ケ月以内であ
つたが、その後、本件事業は、土地区画整理法施行法五条によつて、昭和三〇年四
月一日からは、土地区画整理法三条四項に基づいて東京都知事の施行する土地区画
整理事業となり、したがつて、従前の土地の一部について未登記の賃借権を有する
者は、同法八五条によつて、換地処分の終了するまでの間、本件事業の施行者であ
る東京都知事に対し、右賃借権の申告をすることができ、この申告によつて、原則
として、本件事業の施行者である東京都知事から従前の土地について指定された仮
換地(特別都市計画法上の換地予定地である。土地区画整理施行法六条参照)につ
いて仮りに右賃借権の目的となるべき部分の指定をうけて、換地処分の公告がある
までの間は、右部分について、従前の土地の一部について有する賃借権と同一内容
の使用収益をすることができ、さらにまた、本件事業の施行者である東京都知事の
する換地処分においては、換地について定められた右賃借権の目的となるべき部分
の通知を受けて、右換地処分の公告のあつた日の翌日からは、右部分について従前
の賃借権を有するものとみなされることとなるのである。されば、従前の土地の一
部について賃借権を有する者が、特別都市計画法一三条による使用収益をすること
のできる換地予定地の範囲の指定をうけなかつたことによつて、当然に右賃借権を
失うことを前提とする憲法二九条違反の所論は、その前提を欠き、採用できない。
 また、従前の土地の一部について賃借権を有する者は、土地区画整理事業の施工
者から、特別都市計画法の下においては換地予定地について使用収益をすることの
できる範囲の指定を、また、土地区画整理法の下においては仮換地について仮りに
賃借権の目的となるべき宅地またはその部分の指定をうけなければ、土地所有者と
の関係においても、換地予定地または仮換地を使用収益できないことは、当裁判所
の判例とするところである(昭和三元年(オ)第六二三号・同三三年七月三日第一
小法廷判決、民集一二巻一一号一六六一頁、昭和三四年(オ)第三二六号・同三六
年三月七日第三小法廷判決、民集一五巻三号三六五頁、昭和三四年(オ)第八四二
号・同四〇年三月一〇日大法廷判決、民集一九巻二号三九七頁)から、右と異なる
見解をとる所論は、採用できない。
 論旨は、すべて、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するに帰し、
採用するに由ない。
 同二について。
 所論引用の当裁判所の判決は、原判決の所論の判示と矛盾するものではなく、原
判決の右判示が当裁判所の判例とするところであることは、すでに上告理由一につ
いて説示したとおりである。
 されば、判例違反の所論は、採用できない。
 同三について。
 所論の点に関し原判決の確定した事実の要旨は、訴外Dは、昭和一四年四月一五
日以来、被上告人らの先代Eから、その所有にかかる東京都新宿区ab丁目c番の
d宅地四四〇坪二合九勺のうちの一三二坪三合八勺(以下「旧地B」という。)を、
建物所有の目的で賃借していたが、本件事業の施行者である東京都知事は、右Eに
対しては、昭和二四年一二月一五日旧地Bの土地所有者として、訴外Dに対しては、
昭和二六年四月二〇日(原判決理由中「昭和二五年三月二八日」とあるのは誤記で
ある。)旧地Bの借地権者として、いずれも換地予定地乙部分(七八坪三勺)を指
定したところ、右各換地予定地の指定より以前に、いずれも、右訴外Dから、同人
の有する旧地Bの借地権のうち、上告人A1は一五坪の借地権を、上告人A2は一
六坪の借地権を、上告人A3両名のり先代Fは一五坪の借地権を、それぞれ譲渡さ
れた、というのである。されば、上告人A1、同A2および同A3両名の先代は、
いずれも、換地予定地指定後において、訴外Dから賃借権を取得したものではない
から、同人に対する換地予定地指定(土地区画整理法上の仮換地について仮りに賃
借権の目的となる宅地またはその部分の指定である。土地区画整理施行法六条参照)
の効力は、上告人らに及ぶに由ないものである(特別都市計画法一条一項、都市計
画法一二条二項、耕地整理法四条、土地区画整理法一二九条参昭)。
 されば、訴外Dに対する換地予定地指定の効力が上告人らに及ぶことを前提とす
る所論は、採るを得ない。
 同四について。
 かりに、所論のように、上告人ら(上告人A3両名については、その先代Fを含
む。以下同様とする。)が建物の移転命令をうけたとしても、上告人らは、原判決
判示のように、本件事業の施行者である東京都知事から、本件換地予定地(土地区
画整理法上の仮換地である。土地区画整理施行法六条参照)乙部分(七八坪三勺)
について、特別都市計画法一三条および一四条による使用収益をすることのできる
範囲の指定または土地区画整理法九八条による仮に賃借権の目的となるべき部分の
指定をうけていない以上、右乙部分の占有権限はない。
 されば、上告人らに対する建物の移転命令を認めなかつた原判決の判断に違法が
あるとする所論は、民訴法三九四条にいわゆる判決に影響を及ぼすことが明らかな
法令の違背の主張にあたらないから、採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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