弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士川畸力三、同大島正義の上告理由第一点について。
 しかし原審の採用した証拠を綜合すれば論旨摘録のような原判示の事実を認定す
ることができるのであつてこれによれば本件物件の所有権は訴外Dになかつたので
あるから上告人がDから右物件を買受けても民法一九二条による即時取得の場合を
除いてはその所有権を取得することはできないのである。論旨は被上告人BがDの
行為を追認していると主張するが上告人は原審で追認の点について何等主張してい
ないのであるから当審においてその主張をすることは許されない。従つて原判決に
は所論の如き違法なく論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし原審の採用した証拠によつて訴外Dが被上告人Bのために財産保全をはか
ると共に本件物件を自己の所有名義に移して自からの私利をはかる計画の下に訴外
Eとの間に原判示のような契約をした事実を認定できるのであるから論旨は採用で
きない。
 同第三点について。
 しかし上告人が本件物件を買受けた相手方である訴外Dに所有権がなかつたこと
は前に説明したとおり原審の確定したる事実であるから上告人はDが無権利者であ
ることにつき善意無過失であつて平穏公然に本件物件の占有を取得した場合にのみ
所有権を取得することができるのである。此の点につき原判決はDはF炭坑の事実
上の責任者のような立場に在つたとはいえ被上告人Bの使用者に過ぎないのであり
斥先権者はあくまでBであつてこの間の事情は同石炭鉱区の鉱業権者でありしかも
その大部分も自ら運営していた上告人においてよく知りぬいていたものであるから
F炭坑施設の重要物件である本件物件がはたしてDの所有であるかどうかにつき上
告人において何らの調査確認の方法をも講じないでその主張のようにDがさきにそ
の名義を以つて本件物件を担保に訴外Gから金借している事実のみに着眼しDの所
有と信じこれを同人から買受けてその引渡を受けたとしても上告人の占有が過失の
なかつたものとは到底いえないと判示し上告人の占有は善意につき過失あるものと
認めて上告人の即時取得の主張を排斥しているのである。そして原審の右判断には
何ら違法の点は認められないのであるから論旨は理由がない。
 よつて民訴四〇一条九五条八九条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官一致の意見である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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