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平成27年3月5日判決言渡
平成24年(行ウ)第105号法人税更正処分等取消請求事件
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1鈴鹿税務署長が平成23年5月24日付けでした原告P1株式会社の平成2
0年4月1日から平成21年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分の
うち納付すべき税額1375万2800円を超える部分及び過少申告加算税の
賦課決定処分をいずれも取り消す。
2鈴鹿税務署長が平成23年5月24日付けでした原告P1株式会社の平成2
0年4月1日から平成21年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費
税の更正処分のうち消費税の納付すべき税額につきマイナス(還付金の額に相
当する税額)125万2218円を超える部分及び地方消費税の納付すべき税
額につきマイナス(還付金の額に相当する税額)31万3054円を超える部
分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
3鈴鹿税務署長が平成23年5月24日付けで原告株式会社P2に対してした
平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度の法人税の更正
処分のうち所得金額につきマイナス(欠損金額)1828万0409円を超え
る部分,納付すべき税額につきマイナス(還付金の額に相当する税額)83万
9431円を超える部分,翌期へ繰り越す欠損金につき1828万0409円
を下回る部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,①原告P1株式会社が,平成20年4月1日から平成21年3月3
1日までの事業年度(以下「平成21年3月期」といい,他の事業年度につい
ても同様とする。)の法人税及び平成20年4月1日から平成21年3月31
日までの課税期間(以下「平成21年3月課税期間」という。)の消費税・地
方消費税(以下「消費税等」という。)についてそれぞれ確定申告をしたとこ
ろ,鈴鹿税務署長から,これら確定申告には原告株式会社P2に対する寄附金
を営業権の対価であるなどとして過剰に損金算入した違法があることなどを理
由として,平成23年5月24日付けで,法人税の更正処分及び過少申告加算
税の賦課決定処分並びに消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処
分を受けたため,これらの処分(以下「本件原告P1各処分」という。)の各
取消し(ただし,各更正処分については,上記確定申告により自ら確定させた
納付すべき税額を超える部分に限る。)を求めた抗告訴訟(請求の趣旨1項及
び2項に係る訴え)と,②原告株式会社P2が,平成22年3月期の法人税に
ついて確定申告をしたところ,鈴鹿税務署長から,原告P1株式会社から受け
た寄附金に係る受贈益の計上漏れがあることなどを理由として,平成23年5
月24日付けで,法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受け
たため,これらの処分(以下「本件原告P2各処分」といい,本件原告P1各
処分と併せて,以下「本件各処分」という。)の各取消し(ただし,更正処分
については,上記確定申告により自ら確定させた納付すべき税額等を超える部
分に限る。)を求めた抗告訴訟(請求の趣旨3項に係る訴え)である。
2関係法令の定め
別紙1「関係法令の定め」記載のとおりである。
3前提事実(当事者間に争いがない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実。以下,書証番号は,特記しない限り枝番を含む。)
(1)原告ら
ア原告P1株式会社(以下「原告P1」という。)は,ゴルフ場,スポー
ツ施設の設計,施工及びその経営等を目的として昭和61年7月18日に
設立された株式会社(法人税法2条10号の同族会社)である。(甲19,
23,乙1,4,弁論の全趣旨)
イ原告株式会社P2は,生コンクリートの製造・販売等を目的として昭和
59年11月28日に設立された株式会社(法人税法2条10号の同族会
社)であり,平成12年11月15日,商号を旧商号(P3株式会社)か
ら現在の商号である「株式会社P2」に変更した(以下では,商号変更の
前後を問わず,「原告P2」という。)。(乙5,証人P4,弁論の全趣
旨)
ウ原告らの代表取締役は,現在,いずれもP5が務めている。
(2)P6(以下「本件ゴルフ場」という。)の概要等
ア本件ゴルフ場は,三重県鈴鹿市α内にある敷地総面積73万9490.
65㎡,18ホール(パー72)の預託金会員制のゴルフクラブである。
(甲23,47,51,52,乙29,45,51,証人P4,弁論の全
趣旨)
イ原告P2は,昭和60年頃,本件ゴルフ場を建設・運営するための初期
投資を始めた。その後,本件ゴルフ場の運営会社として原告P1が設立さ
れ,後記ウのとおり,本件ゴルフ場の会員(以下「本件会員」という。)
から原告P1に対して保証金(以下「預託金」という。)が払い込まれる
ようになると,原告P2は,原告P1に対して本件ゴルフ場の開発に係る
事業を承継し,事業承継後は,原告P1が本件ゴルフ場の開発を進めた。
(甲7,乙5,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
ウ三重県知事は,昭和62年10月30日,原告P1に対し,森林法に基
づく開発行為の許可をした。これを受けて,原告P1は,本件ゴルフ場の
建設予定地の開発行為を進め,併せて,昭和62年11月から平成2年1
1月までの間,本件会員の募集を行った。本件ゴルフ場は,平成元年10
月9日に完成し,平成2年5月12日から営業が開始された。本件ゴルフ
場の営業開始後,原告P2は,ゴルフコースの増設改良工事などを担当し,
平成4年10月頃からは本件ゴルフ場の管理業務を担った。(甲6,7,
23,24,26,乙21,35,45,証人P4,原告ら代表者,弁論
の全趣旨)
(3)原告らの間で締結された平成16年4月1日付けの契約の概要等
ア原告P1では,多くの会員について入会から10年の預託金償還期限が
到来する平成10年頃から,預託金の返還を求める会員が増加し,これに
応じるための資金繰りに追われるようになった。そこで,原告らは,原告
P1が原告P2に対して本件ゴルフ場の施設や設備を賃貸し,原告P2に
おいて,原告P1に代わって本件ゴルフ場を運営することによってこれに
対処することとし,平成11年4月1日付けで,本件ゴルフ場の建物,施
設及びその管理に関する契約(以下,「平成11年契約」といい,同契約
に係る契約書を「平成11年契約書」という。)を締結した。(甲1,7,
23,24,26,乙45,証人P4,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
イ原告P2は,平成11年契約締結後,これに基づき,本件ゴルフ場を運
営していたところ,平成12年12月14日,原告P1を被告とする預託
金返還請求訴訟に勝訴した本件会員から,原告P1に対する破産手続開始
の申立てがされた。そこで,原告P1は,民事再生法に基づく再生手続開
始の申立てをするため,平成13年5月17日付けで,平成11年契約を
合意解約した。(甲6,7,23ないし25,証人P4,原告ら代表者,
弁論の全趣旨)
ウ原告P1は,平成13年12月3日付けで,名古屋地方裁判所(以下「名
古屋地裁」という。)に対し,民事再生法21条1項に基づく再生手続開
始の申立てをした。(甲7,乙4の2,8,弁論の全趣旨)
エ原告P1は,平成14年1月21日午前10時,名古屋地裁から,民事
再生法33条1項に基づく再生手続開始の決定を受けた。次いで,原告P
1は,同法174条1項所定の再生計画認可決定を受け,同決定は,平成
15年2月4日に確定した。その後,同年3月31日には再生計画に基づ
く配当が実施され,平成16年11月26日,原告P1に対する再生手続
は終結した。(甲19,乙4の2,証人P4,弁論の全趣旨)
オ原告らは,平成16年4月1日付けの契約書(甲2。以下,「平成16
年契約書」といい,同契約書に基づく契約を「平成16年契約」という。)
を取り交わした。平成16年契約書の概要は,別紙2「平成16年契約書
の概要」記載のとおりであり,これを平成11年契約書と比較すると,①
平成11年契約書には,原告P1が,原告P2に対し,本件ゴルフ場の維
持管理及び運営に必要な全ての物(ただし,本件ゴルフ場内の土地及び建
物を除く。)を契約締結から1年後の簿価で売却し,契約締結から1年間
は有償貸与とする旨の条項があったのに対し,平成16年契約書には,こ
れに対応する条項が存在しないこと,②平成11年契約書では,契約期間
は5年とし,期間満了3か月前までに意思表示がなければ5年間延長する
とされていたのに対し,平成16年契約書では,契約期間は3年とし,期
間満了3か月前までに意思表示がなければ3年間延長するとされていたこ
と等の相違点はあったものの,そのほかは,平成11年契約書とほぼ同じ
内容であった。(甲1,2)
カ本件ゴルフ場は,平成16年契約が締結された平成16年4月1日以降,
原告P2によって運営され,同原告の決算書類上,本件ゴルフ場の利用者
が支払う利用料金等は,同原告の売上げとして計上されており,本件ゴル
フ場の維持・管理に必要な費用は,同原告によって支出された。本件訴訟
において,原告P2が,同日以降,本件ゴルフ場の運営を行っていたこと
は,当事者間に争いがない。(甲30ないし56,弁論の全趣旨)
(4)原告P1と株式会社P7(以下「P7」という。)との間で締結された契
約の概要等
ア原告P1は,平成19年10月頃,ゴルフ場の所有・運営等を目的とす
る株式会社であるP7に対し,本件ゴルフ場の買収を打診した。これを受
けて,P7は,本件ゴルフ場の立地条件などを考慮した上で,本件ゴルフ
場を買収することを決め,平成20年1月頃から,P5や原告P1の顧問
税理士であるP8(以下「P8税理士」という。)らとの間で買収交渉を
進めた。(甲8,14,24,26,乙28,50,証人P9,原告ら代
表者,弁論の全趣旨)
イ原告P1とP7は,平成20年3月18日付けで,本件ゴルフ場の譲渡
に関する基本合意(以下「平成20年基本合意」という。)をした。平成
20年基本合意では,原告P1が,新設分割の方法により設立する子会社
に対して本件ゴルフ場の運営に必要な全資産を承継した上で,新設分割の
際に当該子会社から割り当てられる同子会社の株式全てをP7に譲渡し,
P7が,同株式の対価として本件ゴルフ場の価値に相当する金額を支払う
方法により,本件ゴルフ場の買収を行うことなどが確認された。(甲3,
8,乙28,50,証人P9)
ウ平成20年基本合意を受けて,原告P1は,平成20年10月1日付け
で,新設分割の方法により株式会社P10(以下「P10社」という。)
を設立した。その際,P10社は,事前に定められた新設分割計画に基づ
いて発行された同社の普通株式200株(以下「本件株式」という。)全
部を原告P1に割り当てるとともに,同日,原告P1から,本件ゴルフ場
に係る土地,地上権,家屋・構築物,事業用資産を譲り受けた。(甲19,
証人P9,弁論の全趣旨)
エ原告P1とP7は,平成20年10月1日付けで,本件株式を譲渡の対
象とする株式譲渡契約(以下「本件株式譲渡契約」という。)を締結した。
本件株式譲渡契約では,原告P1がP7に対して本件株式を20億500
0万円(以下「本件株式譲渡代金」という。)で譲渡することとされ,原
告P1とP7の間では,同日,本件株式譲渡契約に基づき,本件株式の譲
渡と本件株式譲渡代金全額の授受が行われた。(甲5,乙29,原告ら代
表者,弁論の全趣旨)
(5)原告らの間で締結された平成20年9月1日付けの契約の内容等
ア原告らは,平成20年9月1日付けで,「P6営業譲渡契約書」(甲4。
以下,「平成20年9月1日付け契約書」といい,同契約書に基づく契約
を「平成20年9月1日付け契約」という。)を取り交わした。平成20
年9月1日付け契約書には,①営業譲渡の基準日を平成20年9月30日
として,原告P2が原告P1に対して本件ゴルフ場の営業権を譲渡するこ
と,②営業権の譲渡の対価(原告P2が所有していた営業用動産の価格を
含む。)は14億2000万円とすることなどが記載されていた。(甲4,
11,証人P4,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
イ原告P1は,平成20年10月1日,原告P2に対し,P7から支払を
受けた本件株式譲渡代金20億5000万円のうち10億円を平成20年
9月1日付け契約に基づく債務(総額14億2000万円)の履行として
支払った。その後,原告P1は,平成21年7月21日,原告P2に対し,
上記債務の残金として4億2000万円を支払った。(甲19,乙18,
弁論の全趣旨)
(6)原告らがした確定申告の内容等
ア原告P1は,法定の申告期限内である平成21年6月1日,鈴鹿税務署
長に対し,平成21年3月期の法人税及び平成21年3月課税期間の消費
税等に関して,別紙3「課税の経緯(原告P1)」の「確定申告」欄各記
載のとおり,納付すべき法人税額を188万0700円とし,納付すべき
消費税等は存在しないことなどを内容とする各確定申告(以下「本件原告
P1確定申告」という。)をした。本件原告P1確定申告の中で,原告P
1は,平成20年9月1日付け契約に基づいて原告P1が原告P2に支払
った14億2000万円から原告P2所有の営業用動産(以下「本件営業
用動産」という。)の対価に当たるものを控除した金額である13億59
12万6250円(以下「本件金員」という。)が本件ゴルフ場の営業権
の対価であるとして,法人税の所得金額の計算上,本件金員の消費税抜価
額である12億9440万5952円を同営業権の償却費(以下「本件営
業権償却費」という。)として損金の額に算入し,併せて,同額を消費税
等の差引納付税額の計算上,課税仕入れに係る支払対価の額として仕入税
額控除を計算した。(甲12,14の5,乙1,2,31,弁論の全趣旨)
イ原告P2は,法定の申告期限内である平成21年6月1日,鈴鹿税務署
長に対し,平成21年3月期の法人税に関して,本件金員の消費税抜価額
である12億9440万5952円を益金の額に算入して確定申告をした。
次いで,原告P2は,法定の申告期限内である平成22年5月27日,鈴
鹿税務署長に対し,平成22年3月期の法人税に関して,別紙4「課税の
経緯(原告P2)」の「確定申告」欄記載のとおり,欠損金額を1828
万0409円とし,納付すべき税額につきマイナス(還付金の額に相当す
る税額)83万9431円とする確定申告(以下「本件原告P2確定申告」
といい,本件原告P1確定申告と併せて,以下「本件各確定申告」という。
また,本件各確定申告の際に提出された各確定申告書につき,以下「本件
各確定申告書」という。)をした。(乙3,弁論の全趣旨)
(7)本件各処分の内容等
ア鈴鹿税務署長は,平成23年5月24日付けで,原告P2は本件ゴルフ
場の営業権を有していなかったから,本件原告P1確定申告の中で損金と
して算入されている本件営業権償却費は,原告P2に対する寄附金(法人
税法37条7項)に該当するとして,これを所得金額に加算し,また,本
件金員のうち消費税等相当額である6472万0298円は課税仕入れの
対象にならないなどとして,原告P1に対し,別紙3「課税の経緯(原告
P1)」の「更正等」欄各記載のとおり,本件原告P1各処分をした。(甲
16,17,19)
イ鈴鹿税務署長は,平成23年5月24日付けで,平成20年9月1日付
け契約に基づいて原告P1が原告P2に対して支払った本件金員は,原告
P2がその対価として譲渡したとする本件ゴルフ場の営業権自体が存在し
ないため,その全額が原告P1からの寄附金(法人税法37条7項)に該
当し,これは単なる金銭の贈与であるから,その金額のうち未収金となっ
ている金額は,原告P2が益金の額として計上した平成21年3月期では
なく,実際にその金銭の交付を受けた平成22年3月期の益金の額に算入
されるべきところ,本件原告P2確定申告ではその旨の益金の計上がされ
ていないから,受贈益の計上漏れがあるなどとして,原告P2に対し,別
紙4「課税の経緯(原告P2)」の「更正等」欄記載のとおり,本件原告
P2各処分をした。(甲18,弁論の全趣旨)
(8)原告らの不服申立て等
ア原告P1は,平成23年7月19日,本件原告P1各処分のうち法人税
に係る部分につき国税通則法75条4項1号に基づき直接審査請求をし,
次いで,同月22日,消費税等に係る部分につき異議申立てをした。(乙
6,7)
イ原告P2は,平成23年7月19日,本件原告P2各処分につき国税通
則法75条4項1号に基づき直接審査請求した。(甲20,乙10)
ウ鈴鹿税務署長は,平成23年9月22日付けで,原告P1がした前記ア
の異議申立てを棄却する旨の決定をした。これを受けて,原告P1は,同
年10月13日,本件原告P1各処分のうち消費税等に係る部分につき審
査請求した。(甲19,乙8,9)
エ国税不服審判所長は,平成24年6月18日付けで,原告らがした前記
アないしウの審査請求をいずれも棄却する旨の各裁決をした。(甲19,
20)
(9)本件訴えの提起等
ア原告らは,平成24年9月28日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
イ本件訴訟の中で,原告らは,平成20年9月1日付け契約に基づき,同
契約の基準日である同月30日(以下「本件基準日」という。)時点で原
告P2に帰属していた本件ゴルフ場の営業権が,原告P2から原告P1に
譲渡されたとして,本件金員には対価性があるから原告P1の原告P2に
対する寄附金には当たらない旨主張するとともに,仮に,原告P2に本件
ゴルフ場の営業権が帰属していなかったとしても,原告P1が原告P2に
対して本件金員の全部又は一部を支払ったことには経済的な合理性がある
旨主張している。(顕著な事実)
4被告が主張する本件各処分に係る税額等
被告が本件訴訟の中で主張する本件各処分に係る税額の算出根拠等は,別紙
5「被告主張額の根拠等」記載のとおりである。
5争点
(1)本件の主な争点は,原告P1が平成20年9月1日付け契約に基づいて原
告P2に支払った本件金員(合計13億5912万6250円。平成20年
9月1日付け契約の中で授受の対象とされた14億2000万円から本件営
業用動産の対価に相当する6087万3750円を控除したもの。)が法人
税法37条7項所定の寄附金に該当するか(被告の主張),あるいは,本件
ゴルフ場の営業権その他原告P2が有していた経済的利益に対する対価とし
て合理性を有するものであるか(原告らの主張)というものである。
具体的には,(1)平成20年9月1日付け契約で定められた本件基準日(平
成20年9月30日)の時点で,原告P2は,本件金員の対価に当たる本件
ゴルフ場の営業権を有していたか否か(①原告P2は,平成16年契約に基
づき,原告P1から,本件ゴルフ場の営業権を譲り受けていたか否か,②平
成16年契約に基づいて原告P2が本件ゴルフ場の運営を続けたことにより,
本件基準日の時点で,原告P2に本件ゴルフ場の営業権が生じていたか否
か。),(2)上記(1)において,本件基準日の時点で,原告P2が本件ゴルフ
場の営業権を有していなかった場合,本件金員の全部又は一部を原告P1で
はなく原告P2が取得することに合理的な理由があると認められるか否かで
ある。
(2)これら争点に関連する部分を除き,原告らは,別紙5「被告主張額の根拠
等」に記載した被告主張の本件各処分の根拠及びその計算関係を争っていな
い。
6争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)①(原告P2は,平成16年契約に基づき,原告P1から,本件ゴ
ルフ場の営業権を譲り受けていたか否か。)
【原告らの主張の要旨】
ア後記イないしエによれば,原告P2は,平成16年契約に基づき,原告
P1から,本件ゴルフ場の営業権を譲り受けており,平成20年9月1日
付け契約に基づき,原告P1が原告P2に対して本件ゴルフ場の営業権の
対価に相当する本件金員を支払ったことには合理的な理由がある。したが
って,本件金員は,法人税法37条7項所定の寄附金ではないから,その
全額につき損金算入が認められるべきである。
イ平成16年契約は,原告P1に対する民事再生手続が終結したことを踏
まえて,原告P2が本格的に本件ゴルフ場を再建することを目的として原
告らの間で締結されたものである。
原告P2は,平成16年契約の締結日である平成16年4月1日以降,
本件ゴルフ場を運営し,本件ゴルフ場の利用者等から支払を受けた利用料
その他の収入を取得する一方で,本件ゴルフ場の維持・管理や広報活動の
支出を行ったほか,ゴルフ場利用税の特別徴収義務者としての義務も果た
していた。平成16年契約書の文言上も,原告P2が本件ゴルフ場内にあ
る全ての建物・施設をその営業の目的のために使用し,自らの責任及び負
担において維持・管理するものとされていたところ,このことは,平成1
6年契約が,本件ゴルフ場の施設の賃貸借だけでなく,営業権の譲渡も目
的としたものであることを示すものである。以上によれば,平成16年契
約によって,原告P1から原告P2に対して本件ゴルフ場の営業権が譲渡
されていたことは明らかであり,平成16年契約を単なる賃貸借契約を定
めたものにすぎないとして,平成16年契約に基づき,本件ゴルフ場の営
業権が原告P1から原告P2に譲渡されたことを否定する被告の主張は失
当である。
ウ平成16年契約締結の際,原告らの間で本件ゴルフ場の営業権の対価の
支払としての現金の授受が行われていないことは被告が指摘するとおりで
ある。しかしながら,これは,原告らの間では,本件ゴルフ場の営業権の
対価は後払いとする旨の合意が成立していたからにすぎず,平成16年契
約書の中に,原告P2が原告P1に対して賃料のほかに純利益の15%を
支払う旨の規定があるのは,本件ゴルフ場の営業権の後払いの合意が成立
していたことを示している。
エ原告P2が,確定申告書に添付した決算書類の中で,本件ゴルフ場の営
業権の価額を計上していないことは被告が指摘するとおりである。しかし
ながら,これは,原告P2において,本件ゴルフ場の営業権の取得価額を
計算することができなかったからにすぎず,決算書類に本件ゴルフ場の営
業権に関する記載がないからといって,原告らの間で本件ゴルフ場の営業
権の譲渡がされていないと認定することは誤りである。
【被告の主張の要旨】
ア後記イないしカによれば,平成16年契約により,原告P2が原告P1
から本件ゴルフ場の営業権を譲り受けたということはできず,原告P2は,
原告P1から賃借した本件ゴルフ場に係る土地,建物及び施設を利用し,
原告P1の営業方針等に従うことを条件に,本件ゴルフ場の運営をしてい
たにすぎない。したがって,本件基準日の時点で,本件ゴルフ場の営業権
が原告P1から原告P2に移転していたわけではなく,原告P1が原告P
2に支払った本件金員は,本件ゴルフ場の営業権の対価としての性質を有
するものではないから,本件金員が原告P1から原告P2に対する寄附金
に当たるとの判断に基づいてされた本件各処分は適法である。
イ平成16年契約の際に原告らの間で取り交わされた平成16年契約書
の中には,譲渡の対象,譲渡価額及び譲渡期日の定めなど,営業権の譲渡
契約の本質的な要素となる内容を定めた規定は存在しない。
ウ原告P2は,平成16年契約締結後の事業年度に係る法人税等の確定申
告をした際,確定申告書に添付した貸借対照表において,資産の部に本件
ゴルフ場の営業権を計上しておらず,同じくこれら確定申告書に添付した
損益計算書の中でも,本件ゴルフ場の営業権の減価償却をしていない。こ
のことは,平成16年契約によって本件ゴルフ場の営業権が原告P2に移
転しておらず,原告P2自身,平成16年契約に基づいて,本件ゴルフ場
の営業権を譲り受けたという認識を有していなかったことを示している。
エ原告P2は,平成16年契約締結後,原告P1に対し,本件ゴルフ場の
営業権の対価を一切支払っていない。なお,原告P2は,平成17年3月
期ないし平成20年3月期の各事業年度において,原告P1に対し,それ
ぞれ5000万円を超える金員を支払っているが,原告P2は,これらの
金員を「地代家賃」勘定に計上し,原告P1も,「不動産賃貸料収入」に
計上しているから,これらの金銭は,本件ゴルフ場の営業権の対価として
支払われたものではない。
オ平成16年契約は,平成19年3月31日に契約期間の満了により終了
しているところ,原告P1は,平成16年契約の終了に当たって,三重県
鈴鹿県税事務所長(以下「鈴鹿県税事務所長」という。)に対し,原告P
2から原告P1に対する平成16年契約の終了通知を添付した上,本件ゴ
ルフ場の利用税の特別徴収義務者を原告P2から原告P1に変更する旨の
申請をしている。原告らが主張するように,本件ゴルフ場の営業権が平成
16年契約によって原告P1から原告P2に移転したのであるならば,契
約期間の満了に伴って本件ゴルフ場の利用税の特別徴収義務者を原告P2
から原告P1に変更する理由はない。
カ平成16年契約によれば,原告P2は,本件ゴルフ場の営業に当たり,
原告P1の営業方針や同社が定める規則を遵守すべき立場に置かれている。
仮に,本件ゴルフ場の営業権が,原告P1から原告P2に譲渡されていた
とするならば,原告P2が原告P1の営業方針等を遵守して本件ゴルフ場
の運営をする必要はないから,平成16年契約に上記のような定めが置か
れていたということは,平成16年契約の後も,本件ゴルフ場の営業権が,
依然として原告P1にあったことを示している。
(2)争点(1)②(平成16年契約に基づいて原告P2が本件ゴルフ場の運営を続
けたことにより,本件基準日の時点で,原告P2に本件ゴルフ場の営業権が
生じていたか否か。)
【原告らの主張の要旨】
ア仮に,本件ゴルフ場の営業権が平成16年契約によって原告P1から原
告P2に譲渡されたということができないとしても,後記イないしエによ
れば,原告P2が平成16年契約に基づいて本件ゴルフ場の運営を続けた
結果,本件基準日の時点では,原告P2に本件ゴルフ場の営業権が生じて
いたというべきであるから,原告P1が原告P2に対して平成20年9月
1日付け契約に基づいて本件ゴルフ場の営業権の対価に相当する本件金員
を支払ったことには合理的な理由がある。したがって,本件金員は,法人
税法37条7項所定の寄附金ではないから,その全額につき損金算入が認
められるべきである。
イ原告P2が本件ゴルフ場の運営を続け,本件ゴルフ場の財産を維持・管
理してきた結果,原告P1は,P7との間で本件株式譲渡契約を締結し,
20億5000万円という高値で本件ゴルフ場を売却することができた。
このことは,P7が外部機関に依頼して作成させた不動産評価報告書(乙
45)において,本件ゴルフ場のコース管理上の問題点は「特になし」と
記載されていることなどからも裏付けられる。このように,原告P2によ
る本件ゴルフ場の営業の継続という不断の努力によって,上記のとおり,
本件ゴルフ場を高額で譲渡する機会を掴むことができたのであるから,そ
の差益を本件ゴルフ場の営業主体であった原告P2が取得することには経
済的合理性があり,原告P2と原告P1との間の実質的公平を図る観点か
らも,本件各確定申告の取扱いには十分な合理性がある。これに対して,
被告の主張を前提とすると,本件ゴルフ場を売却したことによる利益を原
告P1のみに取得させる結果になるが,そのような被告の主張に立った場
合の結論が不合理なものであることは明らかである。
ウゴルフ場事業の価値(ゴルフ場ののれん代やゴルフコース)は,買手が
出現するかどうかという需給関係の変化に応じ,有利な売却時期まで営業
を繋ぐという努力によって生まれるものであるところ,本件では,平成1
6年4月から平成20年1月までの間,原告P2の下で本件ゴルフ場の事
業が継続され,その間,原告P2によってゴルフコースの整備等が行われ
たために,一旦消滅した本件ゴルフ場の価値が復活し,それを原告P2が
原告P1に譲渡したものととらえるべきである。したがって,原告P2が
原告P1に譲渡したのは,原告P2が平成16年契約に基づいて本件ゴル
フ場を運営する中で付加・復活させた価値を含む複合的な資産であったと
いうことができる。
エP7が採用した不動産評価報告書(乙45)には,DCF(ディスカウ
ントキャッシュフロー)法による評価額は15億4000万円と記載され
ており,P7が社内決裁用に作成した「【第2号議案】P6取得の件」と
題する文書(乙35・別紙1)の中にも「のれん概算額」は5億3100
万円との記載がある。そして,本件株式譲渡代金である20億5000万
円は,原告らが有していた土地建物などの所有権,借地権及び有体動産の
時価額を遥かに超えるものであるから,本件ゴルフ場の土地,建物及び有
体動産のみならず,原告P2が有していた経営基盤としての経済価値を含
む対価としてとらえられるべきものである。
【被告の主張の要旨】
ア赤字企業においては,過去に各種の試験研究や販路拡張等のために支出
した資金が個別に工業所有権等の具体的な権利に転化している場合は別と
して,超過収益力の要因となる多様な諸条件(企業の長年にわたる伝統と
社会的信用,立地条件,特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びに
それらの独占性等)が明確に認められ,かつ,既存の当該営業部門を譲り
受けることによる見積り収益と新たに同種営業部門を創設することによる
平均収益とを比較して,前者の見積り収益が後者の平均収益を上回り有利
であると合理的に予測できる場合に限って,この超過収益力を資本還元し
たものを営業権と解することになる。後記イ及びウによれば,原告P2に
上記の意味での営業権が生じていたということはできないから,本件金員
は,本件ゴルフ場の営業権の対価として支払われたものであるということ
はできない。
イ本件ゴルフ場の開業費用は,原告P1が支出したものであり,原告P2
が本件ゴルフ場の管理諸費,緑化管理費及び修繕費として一旦負担した費
用も,原告P1の未払金とされており,同社において負担する費用とされ
ていた上,平成17年3月期ないし平成20年3月期の確定申告書に添付
された原告P2の貸借対照表には,本件金員と同額又はこれに近い額の工
業所有権その他の具体的な権利は,一切計上されていない。
ウ原告P2は,平成16年4月1日以降,赤字経営が常態化していたから,
平成20年9月1日付け契約の中で営業譲渡の基準日とされた平成20年
9月30日までの間に,本件ゴルフ場について,前記アで指摘した「長年
にわたる伝統や社会的信用」が築かれていたとは到底認められない。また,
本件ゴルフ場は,原告P1の所有地又は同社が賃貸借契約に基づき賃借し
ている借地であって,原告P2が本件ゴルフ場の立地条件に関して独自の
利益を保有しているわけではない。さらに,本件ゴルフ場の最も主要かつ
重要な取引先である本件会員は,原告P1と契約関係にあり,原告P2と
の間に特別な取引関係が存在したわけではない。これらの事情に照らすと,
原告P2には,超過収益力の要因となる諸条件があるとはいえない。そし
て,原告P2から本件ゴルフ場を譲り受けることによる収益を見積もるこ
とは困難である上,当該見積り収益が新たに本件ゴルフ場を経営すること
によって得られる平均収益を上回るとの合理的な予測ができるものでもな
い。したがって,いずれにしても,原告P2に企業会計上の「のれん」に
当たる営業権は発生していなかったというほかはない。
(3)争点(2)(本件基準日の時点で,原告P2が本件ゴルフ場の営業権を有して
いなかった場合,本件金員の全部又は一部を原告P1ではなく原告P2が取
得することに合理的な理由があると認められるか否か。)
【原告らの主張の要旨】
ア本件ゴルフ場が売却された平成21年3月期の法人税の確定申告に際
して,原告P1が損金算入することのできる売上原価には,有体・無体財
産の取得対価だけではなく,合理的な理由のある支払も含まれるものと解
すべきところ,後記イないしオのとおり,原告P1が原告P2に本件金員
を支払ったことには合理的な理由があるということができるから,これを
看過してされた本件各処分はいずれも違法である。
イ平成20年9月1日付け契約が締結された平成20年9月1日時点で,
原告P2は,平成19年4月1日をもって契約期間が更新された平成16
年契約に基づいて本件ゴルフ場を構成する土地,建物,ゴルフコースに関
する賃借権ないし転借権を有していたところ,原告P1としては,原告P
2が有するこれら賃借権等を解消しなければ,P7に本件ゴルフ場を売却
することはできなかった。このような状況の下で,原告P1が原告P2に
対して,立退料的代償措置分として一定の経済的給付を行い,原告P2と
の間の賃貸借契約の解消を図ったことには合理性がある。そして,このよ
うな賃借人に対する立退料の支払は,社会において広く行われている現象
であって,賃貸借契約の解消の代償としての金銭の給付は,対価性のない
寄附行為ではなく,対価性のある支出というべきである。そして,原告P
1にとって,原告P2との間の賃貸借契約を解消することが本件ゴルフ場
をP7に売却するために必要不可欠な行為であったから,原告P2との間
の賃貸借契約を解消するために必要であった原告P2に対する経済的支出
は,原告P1が取得した本件ゴルフ場の売却による益金の売上原価と認定
されるべきである。
ウ原告P2は,平成16年4月1日から本件ゴルフ場が閉鎖された平成2
0年2月1日までの3年10か月間にわたり,月額700万円,総額で3
億2200万円の価値に相当する業務を負担した。これら総額3億円を超
える原告P2の本件ゴルフ場に対する貢献があったため,本件ゴルフ場は,
P7に対して売却することのできるゴルフ場としてその価値が維持されて
きたということができるのであって,仮に,原告P2の上記貢献がなけれ
ば,本件ゴルフ場は,ゴルフ場として機能することができない状態に陥り,
P7に売却することもできなかったことは明らかである。このような原告
P2の長年にわたる本件ゴルフ場の維持管理の結果として,本件基準日の
時点で,本件ゴルフ場の資産価値が維持・増進されていたのであるから,
それが被告のいう営業権に当たらないとしても,P7から原告P1に支払
われた本件株式譲渡代金のうち,その価値相当分については,原告P2に
取得させるべきである。
エ原告P2は,会員から払い込まれた預託金に頼っていた従来のゴルフ場
の経営スタイルから脱却し,当時のゴルフ場の利用料金としては破格の料
金体系を打ち出して集客を図るなどして,本件ゴルフ場に新たなビジネス
モデルを導入した。また,ゴルフコースの維持・管理を少数の従業員で自
ら行ったことも,低コストと高品質の両面の実現を可能とした。これら平
成16年契約締結以降の原告P2の独自の経営努力によって,原告P1が
経営していた当時とは異なる,新たな客層を対象としたゴルフ場サービス
が確立され,それは,一定の軌道に乗りつつあった。このように,平成1
6年契約締結以降の原告P2による本件ゴルフ場経営における不断の努力
により,本件基準日の時点において,顧客や従業員を抱えたゴルフ場とい
う社会的存在感に伴うのれん的な価値が生まれていたのであるから,それ
が被告のいう営業権に当たらないとしても,P7から原告P1に支払われ
た本件株式譲渡代金のうち,上記価値に相当する分について原告P2に取
得させることには経済的合理性がある。
オ原告P1に対して民事再生手続が開始された平成13年の時点では,本
件ゴルフ場につき,ゴルフコースの価値は認められなかったのに対し,P
7が本件ゴルフ場を買収した際に使用された不動産評価報告書(乙41)
においては,ゴルフコースの価値は8億4720万円と算定されており,
ゴルフコースについて経済的価値が生じるに至っている。原告P2が平成
16年契約に基づき原告P1から事業主体の移行を受けて本件ゴルフ場の
営業を継続したことにより,過去にはゴルフ場の底地としての価値しかな
かった本件ゴルフ場を高値で売却する機会をとらえることができたのであ
るから,それが被告のいう営業権に当たらないとしても,P7から原告P
1に支払われた本件株式譲渡代金のうち,その機会利益相当分について原
告P2に取得させることには経済的合理性がある。
【被告の主張の要旨】
ア後記イないしエによれば,原告P1がP7から支払を受けた本件株式譲
渡代金のうち,本件金員の全部又は一部を原告P2に取得させることに経
済的な合理性はなく,本件金員は,原告P1の原告P2に対する寄附金に
該当する。
イ原告P2は,平成16年契約に基づき,原告P1に対し,自己の負担で
本件ゴルフ場を使用及び維持管理する義務や,契約終了時には本件ゴルフ
場の原状を回復する義務を負っていたにすぎず,ゴルフコースを含む本件
ゴルフ場の資産価値が原告P2の維持管理によって増加したという事実も
ない。原告P2が本件ゴルフ場を維持管理することは当然の義務であるか
ら,本件ゴルフ場が20億5000万円でP7に売却されたからといって,
原告P1が原告P2に対して本件金員を支払う必要はないことは明らかで
ある。
ウ本件株式譲渡契約の締結交渉に関与したP7の担当者であるP9の供
述によれば,本件株式譲渡代金の金額は,P7が同社の有するゴルフ場運
営のノウハウの下で見込まれる収益性を根拠に算定したものであって,こ
れに含まれるものは,純粋に本件ゴルフ場の土地,建物及び備品といった
有形固定資産の価値であり,原告P2が保有していた経営基盤の経済価値
などというものは一切含まれていない。
エ本件各確定申告では,原告P1は,平成21年3月期において,本件金
員を営業権償却費として損金の額に算入し,一方,原告P2は,平成21
年3月期において本件金員を益金の額に算入したものの,同期に欠損金約
9億5000万円があったため,同欠損金全額に係る所得控除を受けるこ
とが可能となった。その結果,原告らは,原告P1が原告P2に対して本
件金員を支払わなかった場合と比較して約9億5000万円もの所得に係
る法人税額が減少するという恩恵を被ることになった。そうすると,原告
P1が原告P2に対して対価性のない本件金員を支払ったのは,原告ら全
体の法人税の圧縮を図るためであったと考えるほかはない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認
められる。
(1)原告ら
ア原告P1は,ゴルフ場,スポーツ施設の設計,施工及びその経営等を目
的として昭和61年7月18日に設立された株式会社(法人税法2条10
号の同族会社)である。(甲19,23,乙1,4,弁論の全趣旨)
イ原告P2は,生コンクリートの製造・販売等を目的として昭和59年1
1月28日に設立された株式会社(法人税法2条10号の同族会社)であ
り,平成12年11月に事業目的としてゴルフ場の設計・施工及びその経
営管理を追加し,同月15日に旧商号である「P3株式会社」から現商号
である「株式会社P2」に商号を変更した。(乙3,5,証人P4,弁論
の全趣旨)
ウ原告P1の代表取締役は,①昭和61年の設立時から平成15年6月3
日まではP5,②同日から平成16年12月15日まではP11,③同日
から平成18年1月17日まではP12が務め,その後,④同日から現在
まで,再びP5が務めている。(甲19,乙4,8,弁論の全趣旨)
エ原告P2の代表取締役は,①昭和59年の設立時から平成12年6月2
9日まではP5,②同日から平成21年3月21日まではP5の義妹であ
るP4,③同日から平成22年5月27日まではP12が務め,その後,
④同日から現在まで,再びP5が務めている。なお,P5は,平成20年
5月24日から平成21年3月21日までの間は,原告P2の取締役を務
めていた。(甲19,24,29,乙5,証人P4,弁論の全趣旨)
オ原告らは,平成21年3月期及び平成22年3月期の法人税の所得金額
の算定に当たり,取引によって生じる消費税等について,消費税等の額と
当該消費税等が生じる取引の対価の額とを区分して経理する税抜経理方式
を採用していた。(弁論の全趣旨)
(2)本件ゴルフ場等の開場に至る経緯等
ア本件ゴルフ場は,三重県鈴鹿市α内にある敷地総面積73万9490.
65㎡(原告P1所有地26万5591.79㎡及び原告P1を借地人と
する借地47万3898.86㎡を合計したもの),18ホール(パー7
2)の預託金会員制のゴルフ場であり,ゴルフコース,クラブハウス,管
理棟,スタートハウス,練習場,駐車場,社員寮及びコース売店などから
成る。本件ゴルフ場のゴルフコースの設計・監修には,著名なプロゴルフ
ァーであるP13が関与した。(甲23,24,47,50ないし52,
乙6,29,45,51,証人P4,弁論の全趣旨)
イ原告P2は,昭和60年頃,本件ゴルフ場の建設のための初期投資を開
始した。その後,昭和61年に本件ゴルフ場の運営会社となることを目的
として原告P1が設立され,後記エのとおり本件会員から原告P1に預託
金の払込みがされるようになった後は,原告P1に対して本件ゴルフ場の
開発事業を承継した。なお,原告P2が本件ゴルフ場の初期投資のために
支出した費用は,原告P1の原告P2に対する未払金や長期借入金として
計上され,本件会員から原告P1に払い込まれた預託金の中から弁済され
た。(甲7,乙5,8,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
ウ原告P1は,昭和62年10月30日,三重県知事から,森林法に基づ
く開発行為の許可を受けた。これを受けて,原告P1は,昭和63年2月
に本件ゴルフ場の造成工事等に着手し,本件ゴルフ場は平成2年5月12
日にオープンした。本件ゴルフ場のオープン後,原告P1が本件ゴルフ場
の運営を行い,原告P2がゴルフコースの増設改良工事等を担うなどして
いたが,平成4年10月からは,原告P2が本件ゴルフ場の管理業務を担
った。(甲6,7,23,24,26,乙8,21,35,45,証人P
4,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
エ原告P1は,昭和62年11月から平成2年11月までの間,本件ゴル
フ場の会員を新規に募集した。募集の結果,834名が会員となり,これ
ら会員から原告P1に対して払い込まれた預託金は総額で163億円に上
った。原告P1は,預託金を使用して本件ゴルフ場の開発を進め,前記ウ
のとおり,平成2年5月12日に本件ゴルフ場をオープンさせた。なお,
本件ゴルフ場の敷地は,原告P1の所有地と借地から成るところ,これら
借地の賃貸借契約の当事者(賃借人)は全て原告P1であり,本件基準日
時点でも,この状況に変わりはなかった。(甲7,乙23,原告ら代表者,
弁論の全趣旨)
(3)原告らの間で締結された平成11年契約の内容等
ア原告P1では,前記(2)エの会員募集から10年が経過して預託金の償
還時期を迎えた平成10年頃から,預託金の返還を求める会員が増加し,
これに応じるための資金繰りに追われるようになった。そこで,原告らは,
原告P1が原告P2に本件ゴルフ場の施設や設備等を賃貸し,原告P1に
代わって原告P2が主体となって本件ゴルフ場を運営することによって,
これに対処することとし,平成11年4月1日付けで,本件ゴルフ場の建
物,施設及びその管理に関する契約(平成11年契約)を締結した。(甲
1,7,23,24,26,乙45,証人P4,原告ら代表者,弁論の全
趣旨)
イ原告らが取り交わした平成11年契約書(甲1)は,当時の原告らの顧
問弁護士に作成を依頼したものであり,その中には概要,以下の記載があ
る。なお,前記(1)ウ及びエのとおり,平成11年契約が締結された平成1
1年4月1日当時,原告らの代表取締役はいずれもP5が務めており,平
成11年契約書にも,原告ら双方の代表取締役としてP5の名が記されて
いた。(甲1,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
1条(目的)
1項原告P1は,原告P2に対し,本件ゴルフ場内の全ての建物,施
設を賃貸し,原告P2は,これを賃借する。
2項原告P2は,本件ゴルフ場内の全ての建物,施設を営業の目的で
使用し,原告P2の責任・負担において維持管理するものとする。
2条(営業方針)
原告P2は,営業に当たっては,原告P1と相談し,原告P1の営業方
針に従うものとする。
3条(設備及び什器,備品,管理車両等)
1項原告P1は,本件ゴルフ場内の土地,建物(建物附属施設及び構
築物を含む。以下同じ。)を除く全ての設備,什器,備品,事務用
品,営業目的の車両等,ゴルフ場の維持管理及びゴルフ場の運営の
ために必要な全ての物を,原告P2の営業,コース維持管理の目的
のために使用することを条件に契約1年後その時点の簿価で売却す
る。また,契約時よりの1年間は,有償貸与とする。
2項原告P1は,平成11年3月時点において,既に償却済みの上記
の物については,原告P2に無償で譲渡する。
3項前記1項,2項の物品の維持管理及び新たな今後の補充について
は,原告P2の責任・負担において行うものとする。
4条(契約期間)
契約期間は平成11年4月1日から平成16年3月31日までの5年間
とする。ただし,期間満了3か月前までに,原告P1,原告P2のいずれ
かから意思表示がないときは,契約期間を更に5年間自動的に延長するも
のとし,以後も同様とする。
5条(賃料・施設使用料)
原告P2は,原告P1に対し,土地,建物,ゴルフコース施設の使用料
として,下記の合算金額を支払うものとする。
1号建物(建物附属設備及び構築物を含む。)の平成11年3月時点
の簿価を基準価格とし,法定耐用年数から経過後10年を差し引い
た年数の償却率(定額法)を乗じて算出した償却相当額。ただし,
契約時よりの1年間は設備,什器,備品,車両も同様とする。
2号土地,建物等にかかわる固定資産税相当額
3号コース借地にかかわる賃貸料実費相当額
4号毎年4月1日から翌年3月31日までを1年間として,ゴルフ場
の総売上高より諸経費を除いた純利益の15%
9条(費用負担)
1項原告P2が本施設内で使用する電気料金,水道料金,ガス料金及
び燃料については原告P2の負担とする。
2項本建物及び本施設に課せられる公租公課は原告P1の負担とする。
3項原告P2の営業及び維持管理に必要な人材,機材,部品,肥料,
薬品等の全ての諸費用は原告P2の負担とする。
10条(従業員の勤務)
1項原告P2は,本建物,施設で営業,維持管理に従事する従業員に
ついては,原告P1の定める規則を自己の責任において遵守させる
ものとする。
2項(略)
11条(保守,保全,点検,損害賠償)
1項原告P2は,本建物及び本施設を本契約の趣旨に則り善良なる管
理者の注意をもって使用及び維持管理しなければならない。
2項~4項(略)
14条(原状回復義務)
1項本契約が終了した場合,原告P2は,契約終了の日より30日以
内に自らの費用により設置した自己の所有物を自己の責任において
撤去し,建物を原状に回復して原告P1に明け渡さなければならな
い。
2項原告P2が前項規定の期間内に本物件及び本施設を原状に回復し
ない場合,原告P1は原告P2に代わって原告P2の費用によりこ
れを原状に回復することができる。この場合,撤去した原告P2の
所有物の保管については原告P1はその責めに任じないものとする。
15条(契約終了に伴う損害の補償)
期間満了,不可抗力による契約の終了等,原告P1又は原告P2の責め
に帰すことのできない事由により契約が終了したときは,原告P2は,原
告P1に対し,立退料,営業補償等,名目の如何を問わず,金銭の支払そ
の他の行為を請求することはできない。
ウ原告P2は,平成11年契約締結後,同契約に基づき,原告P1に代わ
って,本件ゴルフ場の運営を行った。(弁論の全趣旨)
(4)原告P1に対する再生手続の経緯等
ア原告P1は,前記(3)アのとおり,会員からの預託金返還請求の増加に
対応するため,平成12年1月16日に開催された本件会員を構成員とす
る臨時総会において,総会員の過半数の同意を得て預託金の償還時期を1
0年間延長する旨の決議をするという措置を講じたが,同年12月14日,
預託金返還請求訴訟で勝訴した会員から,破産手続開始の申立てがされる
に至った。そこで,原告P1は,当時の顧問弁護士とも相談の上,これに
対抗して民事再生法に基づく再生手続開始の申立てをすることにした。原
告らは,その前提として,本件ゴルフ場の運営主体を原告P1に戻すため,
顧問弁護士の指示の下,原告P2作成に係る平成13年5月17日付け「契
約解除通知書」と題する書面(甲25)を同原告から原告P1に宛てて内
容証明郵便として送付し,これによって平成11年契約を合意解約した。
(甲6,7,23ないし25,乙23,証人P4,原告ら代表者,弁論の
全趣旨)
イ原告P1は,平成13年12月3日付けで,名古屋地裁に対し,民事再
生法21条1項に基づく再生手続開始の申立てをした。これを受けて,名
古屋地裁は,同月6日,同法54条1項に基づき,監督委員による監督を
命ずる処分をし,監督委員としてP14弁護士を選任した。この原告P1
の再生手続開始の申立てには,かねてから同社の顧問弁護士を務めていた
P15弁護士が関与した。(甲7,乙4の2,8,39,弁論の全趣旨)
ウP14弁護士は,平成14年1月11日付けで,名古屋地裁に対し,原
告P1に対して再生手続を開始することの可否に関する意見等を記載した
報告書(乙21)を提出した。同報告書には,P16公認会計士作成に係
る調査報告書が添付された上,①原告P1では,平成3年3月期以降,営
業損失の状態が続いていたこと,②原告P1について,否認対象行為など
の違法行為は確認されなかったが,原告P2との関係では,平成11年3
月31日に簿外とされていた原告P2からの長期借入金25億円余が計上
されるといった不明瞭な会計処理がされており,原告P1に対してこれら
の処理の適否を判定するための資料の提出を求めたが,資料の積極的な開
示は行われなかったことなどが記載されていた。また,P16公認会計士
作成に係る調査報告書には,原告P1は,平成13年3月31日時点で,
原告P2に対して3億2569万1575円の債務を負っている旨が記載
されていた。(乙21,弁論の全趣旨)
エ原告P1は,平成14年1月21日午前10時,民事再生法33条1項
に基づく再生手続開始の決定を受けた。その後,原告P1は,同法174
条1項所定の再生計画認可の決定を受け,同決定は平成15年2月4日に
確定した。次いで,同年3月31日には,再生計画に基づく配当が実施さ
れた。(甲19,乙4の2,証人P4,弁論の全趣旨)
(5)原告らの間で取り交わされた平成16年契約書の内容等
ア原告らは,平成16年4月1日付けで,平成16年契約書(甲2)を取
り交わし,平成16年契約を締結した。平成16年契約書の概要は,別紙
2「平成16年契約書の概要」記載のとおりであり,これを平成11年契
約書と比較すると,①平成11年契約書には,原告P1が,原告P2に対
し,本件ゴルフ場の維持管理及び運営に必要な全ての物(ただし,本件ゴ
ルフ場内の土地及び建物を除く)を契約締結から1年後の簿価で売却し,
契約締結から1年間は有償貸与とする旨の条項(3条)があったのに対し,
平成16年契約書には,これに対応する条項が存在しないこと,②平成1
1年契約書では,契約期間は5年とし,期間満了3か月前までに意思表示
がなければ5年間延長するとされていたのに対し,平成16年契約書では,
契約期間は3年とし,期間満了3か月前までに意思表示がなければ3年間
延長するとされていたこと等の相違点はあったものの,そのほかは,平成
11年契約書とほぼ同じ内容であった。(甲1,2,24,26,証人P
4,原告ら代表者)
イ平成16年契約が締結された平成16年4月1日当時,原告P1の代表
取締役はP11が務めていたが,業務執行の実質的な決定権限はP5にあ
り,平成16年契約書の原告P1の代表取締役欄にはP5の名が記されて
いた。また,原告P2の代表取締役はP5の義妹であるP4が務めており,
平成16年契約書には,原告P2の代表取締役としてP4の名が記されて
いた。(甲2,証人P4,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
(6)平成16年契約締結後の状況等
ア本件ゴルフ場は,平成16年契約が締結された平成16年4月1日以降,
原告P2によって運営され,同原告の決算書類上,本件ゴルフ場のゴルフ
プレー代金等の営業収入は,同原告の売上げとして計上され,本件ゴルフ
場の維持管理のための各種の費用は,同原告によって支出された。また,
原告P2は,同年6月15日,鈴鹿県税事務所長に対して「経営開始又は
変更年月日」を「平成16年6月1日」と記載した「ゴルフ場利用税特別
徴収義務者登録(変更)申請書」(乙11)を提出し,本件ゴルフ場のゴ
ルフ場利用税特別徴収義務者を原告P1から原告P2に変更する旨の登録
申請をした。(甲13,30ないし56,乙11,弁論の全趣旨)
イ原告P1に対する民事再生手続は,平成16年契約が締結された平成1
6年4月1日から約8か月後の同年11月26日に終結した。(甲2,1
9,弁論の全趣旨)
ウ平成16年契約締結後における本件ゴルフ場の営業日数は,平成17年
3月期には283日であったが,平成18年3月期は132日,平成19
年3月期は204日にとどまる。年間来場者数についても,平成17年3
月期は3万0575人であったが,平成18年3月期は8744人,平成
19年3月期は1万0079人であった。平成18年3月期に営業日数と
来場者数が大幅に減少しているのは,平成18年3月期中に実施された営
業方針の転換の結果,原則として,土曜・日曜及び祝祭日のみ通常営業す
ることとし,平日については,事前の予約が6組以上ある場合にのみ営業
することになったことによるものである。(甲9,乙8,35,45,弁
論の全趣旨)
エ原告らの平成17年3月期ないし平成20年3月期の決算状況は,別紙
6「原告らの営業状況」記載のとおりである。このうち,原告P2は,平
成17年3月期には4868万9751円,平成18年3月期には728
8万5624円,平成19年3月期には1億1236万2197円,平成
20年3月期には4755万7352円の営業損失をそれぞれ計上してお
り,これら4事業年度の営業損失の合計は3億4319万9434円に上
る。なお,当該事業年度中に本件ゴルフ場が閉鎖された平成21年3月期
においては,原告P2の売上高は372万9214円,営業損失は593
8万5951円であった。(甲14,15,弁論の全趣旨)
オ平成16年契約の契約期間は,前記(5)アのとおり,平成16年4月1
日から平成19年3月31日までの3年間とされ,期間満了3か月前まで
に,原告らのいずれかからも意思表示がないときは,契約期間は更に3年
間自動的に延長されることになっていたところ,原告P2は,期間満了の
日(平成19年3月31日)より3か月以上前である平成18年12月3
0日付けで,原告P1に対して「P1株式会社と株式会社P2が,平成1
6年4月1日に締結したP6の賃貸借契約は,平成19年3月31日で契
約期間満了につき,契約を終了いたします。」と記載した代表者P4名義
の通知書(乙12・2枚目。以下「本件終了通知書」という。)を送付し,
平成16年契約を終了させる旨の意思表示をした。その後,原告P1は,
平成19年4月9日,鈴鹿県税事務所長に対し,本件終了通知書を添付し
た上で,「経営開始又は変更年月日」を「平成19年4月1日」と記載し
た「ゴルフ場利用税特別徴収義務者登録(変更)申請書」(乙12。以下
「本件登録変更申請書」という。)を提出し,本件ゴルフ場のゴルフ場利
用税特別徴収義務者について,原告P2から原告P1に変更する旨の登録
申請をした。(甲13,乙12,弁論の全趣旨)
(7)原告P1とP7との間でされた平成20年基本合意の内容等
アP5は,遅くとも平成19年頃から本件ゴルフ場の売却を検討するよう
になり,同年10月頃,本件ゴルフ場内にあるレストランの経営を委託し
ていたP17の仲介で,ゴルフ場の所有・運営を事業目的とするP7に対
し,本件ゴルフ場の買収を打診した。P7の担当者であるP9は,P17
から,本件ゴルフ場においては,入場者の減少を受けて,事前予約が5組
以下であると営業しない態勢が採られ,レストランも採算割れの状態であ
ること等を聞き,同月頃,実際に本件ゴルフ場を訪れた上で,平成20年
1月頃から,P5や原告P1の関与税理士であるP8税理士らと買収交渉
を進めた。その過程で,P9は,本件ゴルフ場の現状や原告P1の財務状
況等の調査を進めたが,本件ゴルフ場には,会則では設置されているはず
の理事会が存在せず,本件会員についてもゴルフクラブの会員としての活
動実績がないなど,ゴルフクラブとしての機能が低下した状況にあった。
また,原告P1は,P9から,決算書に記載されている負債について説明
を求められても,これに応じず,過去の売上げ,原価,人件費,経費等に
関する資料や,本件ゴルフ場の土地に関する資料等も一切提示しなかった。
そこで,P7は,原告P1の財務状況等の詳細が明らかでない状況下で,
不測のリスクを負うことを避けるため,原告P1が新設分割によって新会
社を設立し,本件ゴルフ場の運営に必要な全ての資産を新会社に承継させ
た上で,新会社の全株式を原告P1から取得するという方法で買収を行う
ことにした。(甲8,9,23,24,26,乙28,45,50,証人
P9,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
イ原告P1とP7は,平成20年3月18日付けで,本件ゴルフ場の買収
に関する方針等を定めた平成20年基本合意をした。平成20年基本合意
は,前記アの方針どおり,原告P1が新設分割により新会社を設立し,本
件ゴルフ場を運営する上で必要となる全ての資産を新会社に承継させた上
で,新会社の全株式をP7に譲渡し,P7から当該株式の対価の支払を受
けること等を内容とするものであり,平成20年基本合意に係る合意書(甲
3。以下「平成20年基本合意書」という。)の概要は,以下のとおりで
あった。(甲3,8,乙28,50,証人P9)
1条(定義)
1項「本件対象会社」とは,原告P1の完全子会社,原告P1が本件
ゴルフ場の事業を分社型新設分割により設立する完全子会社をいう。
2項~5項(略)
5条(株式の譲渡対価)
1項本件対象会社の発行済株式総数の全部の譲渡対価の総額は20億
5000万円とする。
2項前項の譲渡対価は,本件決裁時に全額を一括して支払うものとす
る。
3項・4項(略)
6条(本決裁時における開始条件)
1項本件決裁時における実行の開始条件は,原告P1が平成20年基
本合意上の譲渡人として次に定める事項の全義務の完全な履行をP
7が確認したときとする。
1号・2号(略)
3号本件対象会社が本件ゴルフ場を保有・運営するために必要不可
欠な諸権利(借地権・登記・登録の伴う不動産所有権など)の全
てについて分割する手続を了すること。なお,原告P1において
分割されない営業権が存在した場合であっても,原告P1はP7
に対して何らの請求権を有しないこと,第5条第1項に記載の金
額(中略)以外に一切の対価の請求はしないものとする。なお,
会社分割時において原告P1に営業権が残存していても同様とす
る。
4号・5号(略)
2項(略)
7条(本件ゴルフ場内のコースの管理及び運営委託)
1項原告P1は,P7に対し,平成20年基本合意に基づき,平成2
0年基本合意書締結日から本件決済時に至るまで本件ゴルフ場内の
コースの管理業務及び運営を委託する。
2項~4項(略)
5項原告P1は,P7に対し,平成20年基本合意の締結後,本件ゴ
ルフ場を占有使用して施設の改装,修繕工事を行うことに異議を留
めない。ただし,そのためにかかる経費はP7の負担とする。
6項・7項(略)
ウ本件ゴルフ場は,平成20年基本合意に至る前の平成20年2月1日に
は,既に閉鎖されており,プレー代収入等の売上げはない状態となってい
た。また,本件ゴルフ場は,前記アのとおり,P9が買収交渉開始前に現
地確認を行った時点で,既に芝が相当傷み,改修工事の必要な箇所が多数
存在する状態であったことから,P7は,平成20年基本合意に基づき改
修工事等の設備投資を実施したところ,P7が本件ゴルフ場のオープンま
でに投資した金額は,構築物につき約2800万円,機械装置につき約1
500万円,車両につき約1600万円,器具備品につき約800万円,
ゴルフコースの芝の張り替え等につき約7800万円に上った。(乙13,
32,35,36,47ないし50,証人P4,証人P9,弁論の全趣旨)
エ平成20年3月当時,本件ゴルフ場に勤務していた従業員は,正社員2
名及びパート社員のみであった。そのため,P7は,本件ゴルフ場を買収
した後,従業員の確保が必要となり,同年10月の本件ゴルフ場のオープ
ンまでに新たに15名の従業員を雇用した。(乙35)
オ原告P1は,平成20年5月15日,本件ゴルフ場の売却を進めるため,
臨時株主総会を開催した。総会では,①原告P1が新設分割の方法により
新たにP10社を設立し,本件ゴルフ場の事業をP10社に承継させるこ
と,②P10社は分割に際して普通株式200株を発行し,その全部を原
告P1に割り当てることなどを内容とする分割計画案が承認された。次い
で,原告P1は,平成20年6月9日,鈴鹿県税事務所長に対し,休業の
期間を「平成20年2月1日から」,休廃業の理由を「売却の為」と記載
した休業届(乙13)を提出した。(甲5,19,乙7,10,13)
(8)平成20年9月1日付け契約の内容等
ア原告らは,平成20年9月1日付けで,「P6営業譲渡契約書」と題す
る文書(平成20年9月1日付け契約書。甲4)を取り交わした。平成2
0年9月1日付け契約書の作成日付当時,原告P1の代表取締役はP5が,
原告P2の代表取締役はP4がそれぞれ務めていたところ,平成20年9
月1日付け契約書は,原告らの顧問弁護士であるP15弁護士から提示さ
れた契約書のひな形を参考にして,P4が自ら手書きで作成したものであ
った。(甲4,11,乙8,証人P4,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
イ平成20年9月1日付け契約書には,概要,以下の記載がある。なお,
平成20年9月1日付け契約書には40万円分の収入印紙が貼付されてい
たが,これらの収入印紙は,その作成日付である平成20年9月1日から
2か月以上経過した後の同年11月20日頃に購入されたものである。(甲
4,11,証人P4,弁論の全趣旨)
1条(営業譲渡の基準日)
本件営業譲渡の基準日を平成20年9月30日とする。
2条(動産の売買)
1項原告P2は,原告P1に対し,①機械装置,②車両運搬具及び③
工具器具備品を売り渡し,原告P1はこれを買い受ける。
2項原告P2は,原告P1に対し,営業譲渡基準日限り,上記動産を
引き渡して所有権を移転する。
3条(営業権)
1項原告P2と原告P1との間で,本件ゴルフ場の営業権の価額(動
産を含む。)が14億2000万円であることに合意する。
2項原告P2は,原告P1に対し,本件ゴルフ場の営業権を譲渡し,
原告P1は,これを引き受ける。
4条(債務の引受け)
原告P1は,原告P2の負担する債務を引き受けない。
5条(雇用の引継ぎ)
原告P1は,原告P2の従業員の雇用を引き継がない。
6条(営業権の譲渡の対価)
1項原告P2と原告P1との間で,第2条ないし第3条の営業譲渡の
対価を14億2000万円と定める。
2項原告P1は,原告P2に対し,前項の対価を平成21年9月30
日までに支払う。
ウ原告P1は,平成20年10月1日,新設分割の方法によりP10社を
設立した。P10社は,同日,新設分割の際に発行した本件株式全部を原
告P1に割り当てるとともに,原告P1から,本件ゴルフ場に係る土地,
地上権,家屋・構築物,事業用資産(機械・器具,農耕具等,車両運搬具,
器具・備品)を承継した。(甲19,乙37,38,証人P9)
エ原告P1とP7は,平成20年10月1日付けで,原告P1がP7に対
して本件株式を20億5000万円で譲渡すること等を内容とする平成2
0年9月1日付け契約を締結した。原告P1は,同日,P7に対して本件
株式を譲渡し,P7は,同日,原告P1に対してその対価である20億5
000万円を支払った。(甲5,乙29,原告ら代表者,弁論の全趣旨)
オP7は,DCF法を用いて,平成20年9月1日付け契約に基づく本件
ゴルフ場の購入価格を算出した。DCF法とは,ある資産が将来生み出す
ものと考えられるキャッシュフローの総合計額を現在価値に割り引くこと
によりその価格を算定するという資産の評価方法であるところ,P7は,
同社が本件ゴルフ場を経営した場合にどの程度の収益が見込まれるかとい
う観点から本件ゴルフ場の現在価値を20億5000万円と算定し,これ
を本件株式の対価とした。(甲8,乙28,35,50,証人P9,弁論
の全趣旨)
カ原告P1は,本件株式譲渡契約締結後である平成20年10月10日,
鈴鹿県税事務所長に対し,廃業年月日を「平成20年9月30日」,休廃
業の理由を「売却の為」と記載した「休廃業届」(乙14)を提出した。
他方,原告P2は,本件株式譲渡契約締結日以降,同様の休廃業届を提出
していない。(甲10,19,乙14,弁論の全趣旨)
(9)本件ゴルフ場に関する原告らの主な会計経理の内容等
ア法人税法22条4項は,法人の各事業年度の販売費及び一般管理費等の
額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるも
のとする旨規定し,その基準に該当する企業会計原則注解(昭和57年4
月20日大蔵省企業会計審議会)の注25は,営業権は,有償で譲受け又
は合併によって取得したものに限り貸借対照表に計上し,毎期均等額以上
を償却しなければならない旨を定めている。原告P2の平成17年3月期
ないし平成20年3月期の法人税の各確定申告書ないし修正申告書(以下
「確定申告書等」という。)に添付された貸借対照表には,本件ゴルフ場
の営業権は計上されておらず,同じく確定申告書等に添付された損益計算
書でも,本件ゴルフ場の営業権の額に係る減価償却費は計上されていない。
その一方で,原告P2の平成20年3月期の貸借対照表には,生コンクリ
ートの製造・販売に係る営業権の対価として支払ったとする1210万4
183円が営業権として計上されていた。(甲8,15,19,乙8,2
2,弁論の全趣旨)
イ原告P1は,平成16年契約に基づき,原告P2から,平成17年3月
期につき5453万3045円,平成18年3月期につき5755万76
49円,平成19年3月期につき5140万2532円を受領し,当該各
事業年度の法人税の確定申告書に添付された損益計算書の「不動産賃貸料
収入」勘定(ただし,平成17年3月期は「売上高」勘定)にそれぞれ計
上した。他方,原告P2は,上記各事業年度の法人税の確定申告書に添付
された損益計算書において,原告P1に支払った上記各金員につき「地代
家賃」勘定(ただし,平成19年3月期においては,金額の一部につき「租
税公課」勘定)にそれぞれ計上していずれも損金に算入し,地代家賃の内
訳書の「借地(借家)物件の用途」欄には「ゴルフ場施設一式」と記載し
た。また,原告P1の総勘定元帳によれば,原告P1は,本件ゴルフ場が
閉鎖された日以降の日を含む平成20年3月期にも,原告P2から526
3万3208円のゴルフ場賃料を受領したものとされているところ,その
多くは,原告P1が原告P2に対して有する仮払金と相殺する形が採られ
ていた。なお,平成16年契約締結後,原告P2が,原告P1に対し,本
件ゴルフ場の営業権の対価の名目で金銭その他の資産の譲渡又は経済的な
利益の供与をしたことはないことについては当事者間に争いがない。(甲1
9,乙15,16,弁論の全趣旨)
ウ原告P1は,平成20年10月1日,原告P2に対し,平成20年9月
1日付け契約に基づき,P7から支払を受けた本件株式譲渡代金(20億
5000万円)の中から,平成20年9月1日付け契約において本件ゴル
フ場の営業権の価額(動産を含む。)とされた14億2000万円のうち
の10億円を支払い,残りの4億2000万円については,平成21年3
月期の確定申告書に添付した貸借対照表の「未払金」勘定に計上した。ま
た,原告P1は,平成20年10月1日,上記14億2000万円から原
告P2所有に係る本件営業用動産の対価を控除した13億5912万62
50円(本件金員)のうち,消費税等相当額(6472万0298円)を
差し引いた残金12億9440万5952円を,一旦,総勘定元帳の「営
業権」勘定の借方に計上したが,同日,「営業権償却」勘定の借方に振り
替え,本件原告P1確定申告のうち,①法人税の確定申告においては「営
業権償却」勘定に計上して損金の額に算入するとともに,②消費税等の確
定申告においては同額を消費税等の差引納付税額の計算上,課税仕入れに
係る支払対価の額として仕入税額控除を計算した。(甲12,14の5,
19,乙1,2,8,17,31,弁論の全趣旨)
エ原告P2は,平成20年10月1日,前記ウの4億2000万円を平成
21年3月期の確定申告書に添付された貸借対照表上の「未収金」勘定に
計上し,本件金員のうち消費税等相当額(6472万0298円)を控除
した12億9440万5952円を,同損益計算書の「ゴルフ場営業権譲
渡収入」勘定に計上して益金の額に算入するとともに,上記消費税等相当
額を課税売上げの対象とした。なお,原告P2には,平成21年3月期に
おいて約9億5000万円の欠損金があったため,上記益金12億944
0万5952円のうち上記欠損金相当額が所得から控除された。(甲15,
19,乙19,弁論の全趣旨)
オ原告P1は,平成21年7月21日,原告P2に対し,前記ウの4億2
000万円を支払った。(甲19,乙8,18,弁論の全趣旨)
(10)本件各処分に至る経緯等
ア原告P1は,法定申告期限内である平成21年6月1日,鈴鹿税務署長
に対し,平成21年3月期の法人税及び平成21年3月課税期間の消費税
等に関して,別紙3の「課税の経緯(原告P1)」の「確定申告」欄各記
載のとおり,納付すべき法人税額を188万0700円,納付すべき消費
税等は存在しないこと等を内容とする確定申告(本件原告P1確定申告)
をした。(乙1,2)
イ本件原告P1確定申告の中で,原告P1は,原告P2に帰属する本件ゴ
ルフ場の営業権及び原告P2所有の本件営業用動産の譲受けの対価として
支払った合計14億2000万円から本件営業用動産価額相当分を控除し
た13億5912万6250円(本件金員)が本件ゴルフ場の営業権の対
価の額に当たるとして,法人税の所得の計算上,その消費税抜価額に当た
る12億9440万5952円を営業権償却費として損金の額に算入し,
併せて,消費税等の差引納付税額の計算上,課税仕入れの対象として仕入
税額控除を計算した。(乙1,2,弁論の全趣旨)
ウ原告P2は,法定申告期限内である平成22年5月27日,鈴鹿税務署
長に対し,平成22年3月期の法人税に関して,別紙4の「課税の経緯(原
告P2)」の「確定申告」欄記載のとおり,欠損金額を1828万040
9円とし,納付すべき税額につきマイナス(還付金の額に相当する税額)
83万9431円とすること等を内容とする確定申告(本件原告P2確定
申告)をした。(乙3)
エ本件各確定申告に関与したP18税理士法人のP19税理士は,平成2
3年2月15日,鈴鹿税務署の職員から質問を受けた際,①本件ゴルフ場
の営業権の譲渡対価を14億2000万円と算定したことについては,計
算上の根拠はなく,税務申告の委任を受けたP5から,原告P2が本件ゴ
ルフ場の経営をしていたことを根拠に14億2000万円が営業権の対価
になるといわれたにすぎないこと,②P5からは,原告P2が本件ゴルフ
場を経営していたのであるから,本件株式譲渡代金について,原告P1よ
り多くの利益を取って良いのだとの話がされ,税理士としては,その内訳
を明らかにしたいと考えて確認を試みたものの,原告P2が取得する部分
の内訳を明らかにすることはできなかったため,P5から言われるままの
金額で上記対価を計上することにしたことなどを回答した。
また,P19税理士は,同年3月2日,鈴鹿税務署の職員から質問を受
けた際にも,①P5から言われるままに決算を組んだこと,②P5からは,
税金を抑えたいとの話があり,税額の話をすると,何度も,もう少し少な
くならないのかという話をされたこと,③P5から,本件ゴルフ場の営業
権を14億2000万円と算定するよう指示され,数年営業しただけでこ
れだけの金額になることには疑問があったものの,P5に反論することは
できなかったことなどを回答した。(甲12,14の5,乙1,2,31,
弁論の全趣旨)
オ本件株式譲渡契約の締結交渉に関与していたP7の社員のP9は,平成
23年2月25日,鈴鹿税務署の職員から質問を受けた際,本件株式譲渡
代金の内訳は土地・建物・備品であり,飽くまで収益性を考慮しての金額
であるため総体の金額しか出すことができず,原告P1に対しては,本件
ゴルフ場にある土地・建物,備品に関する代金である旨説明したなどと回
答し,本件各処分後である平成25年4月15日に質問を受けた際にも,
①本件ゴルフ場の状態に照らし,P7としては,本件ゴルフ場の事業を引
き継いだとの認識はなく,土地・建物・備品等のゴルフ場の事業用資産を
引き継いだとの認識であること,②これまでP7が買収したゴルフ場につ
いて,買収先の営業権を引き継いだことはないことなどを回答した。(甲
8,乙28,35)
カP5は,平成23年3月25日,鈴鹿税務署の職員から質問を受けた際,
「本件ゴルフ場の営業権は原告P2にあると自分が決めたのであるから税
務署に言われる理由はない。営業権が原告P1と原告P2のいずれにある
かは,全て自分の判断である。」,「平成11年契約書については記憶に
ない。平成16年契約書を作成したかについても記憶がないが,原告らの
実質的な権限は全て自らにあるから,どちらの会社でも同じである。」旨
回答した。また,P5は,平成19年4月9日付けで本件ゴルフ場のゴル
フ場利用税特別徴収義務者を原告P2から原告P1に変更する旨の届出を
したことについて,「当時,本件ゴルフ場は余り営業しておらず,本件ゴ
ルフ場を売却する気になり始めた頃だから,原告P1に変更したのかもし
れないが,本件ゴルフ場の営業権は原告P2にあるものと考えている。」
旨回答した。
なお,P5は,原告ら代表者尋問の際にも,「P7から支払を受けた2
0億5000万円のうち,本件ゴルフ場の営業権の対価の金額を14億2
000万円とすることを決めたのは自らであり,その根拠は,本件ゴルフ
場に対する貢献度である。」,「20億5000万円のうち,原告P2の
取り分が14億2000万円,原告P1の取り分が残り6億3000万円
としたのは,両方とも自分が社長をしていたから,いくらでもよかった。」,
「原告P1の取り分を6億3000万円と決めたのには,全く理由はない。」
旨供述した。(乙30,原告ら代表者)
(11)本件各処分の内容及び原告らの不服申立て等
ア鈴鹿税務署長は,平成23年5月24日,原告P1が原告P2に対して
本件ゴルフ場の営業権の対価とした12億9440万5952円(ただし,
消費税抜価額)は,原告P2に営業権自体が存在しないことから,原告P
1から原告P2に対する寄附金と認められ,営業権の償却費として計上し
た12億9440万5952円は損金の額に算入されず,また,原告P1
が本件ゴルフ場の営業権及び原告P2所有の本件営業用動産の譲受けの対
価として支払った合計14億2000万円から本件営業用動産価額相当分
を控除した13億5912万6250円(本件金員)のうち消費税等の額
である6472万0298円は課税仕入れの対象にもならないなどとして,
原告P1に対し,別紙3「課税の経緯(原告P1)」の「更正等」欄各記
載のとおり,本件原告P1各処分をした。(甲16,17,19)
イ鈴鹿税務署長は,平成23年5月24日,原告P2は平成21年3月期
の法人税の申告において本件ゴルフ場の営業権の対価として本件金員全額
を損金の額に算入しているところ,本件金員は,本件ゴルフ場の営業権が
存在しないため,その全額が原告P1からの寄附金に該当し,これは単な
る金銭の贈与であるから,その金額のうち未収金となっている金額は,平
成21年3月期ではなく,実際にその金銭の交付を受けた平成22年3月
期の益金の額に算入することになるので,本件原告P2確定申告には受贈
益の計上漏れがあるなどとして,別紙4「課税の経緯(原告P2)」の「更
正等」欄記載のとおり,本件原告P2各処分をした。(甲18)
ウ原告P1は,平成23年7月19日,本件原告P1各処分のうち法人税
に係る部分につき審査請求をし,次いで,同月22日,消費税等に係る処
分につき異議申立てをした。また,原告P2は,同年7月19日,本件原
告P2各処分につき審査請求をした。これら不服申立ての中で,原告らは,
鈴鹿税務署長が原告らに対してした本件各処分には,本件基準日の時点で
原告P2に本件ゴルフ場の営業権が帰属していたにもかかわらず,事実を
誤認してそれが存在しないものとして損金として算入することを認めなか
った違法がある旨の主張をしていた。(甲19,20,乙6ないし10,
弁論の全趣旨)
2争点(1)①(原告P2は,平成16年契約に基づき,原告P1から,本件ゴ
ルフ場の営業権を譲り受けていたか否か。)について
(1)原告らは,本件ゴルフ場の営業権は平成16年契約によって原告P1から
原告P2に譲渡された旨主張し,証人P4作成の陳述書(甲24)及び同証
人の証言並びに原告ら代表者作成の陳述書(甲26)及び同代表者尋問の結
果中には,これに沿うかのような供述記載部分ないし供述部分が存在する。
(2)しかしながら,前記1で認定した事実によると,①平成16年契約の際に
原告らが取り交わした契約書(平成16年契約書)の中には,譲渡の対象と
なる営業権の内容,譲渡の価額及び譲渡の基準日など,営業権を譲渡した場
合であれば通常は取り決められるはずである事柄を定めた条項が一切存在せ
ず,むしろ「原告P1は,原告P2に対し,本件ゴルフ場内の全ての建物,
施設を賃貸し,原告P2は,これを賃借する。」(1条1項),「原告P2
は,営業に当たっては,原告P1と相談し,原告P1の営業方針に従うもの
とする。」(2条),「原告P2は,本件ゴルフ場の建物,施設で営業,維
持管理に従事する従業員については,原告P1の定める規則を自己の責任に
おいて遵守させるものとする。」(9条1項)など,本件ゴルフ場の営業権
譲渡が行われたという原告らの主張とはおよそ相容れない内容の条項が定め
られていたこと,②実際,原告P2は,平成16年契約の締結時に原告P1
に対して本件ゴルフ場の営業権の対価を支払っておらず,平成17年3月期
ないし平成20年3月期に原告P2が原告P1に対して支払ったものとされ
ている毎期5000万円程度の金員は,いずれも「地代家賃」勘定(原告P
2)ないし「不動産賃貸料収入」(原告P1)に計上されており,営業権の
後払いとしての決算処理もされていなかったこと,③平成16年契約締結後
の平成17年3月期ないし平成20年3月期における確定申告においても,
原告P2は,これら各事業年度の貸借対照表の中で,本件ゴルフ場の営業権
の価額を計上しておらず,損益計算書でも,当該営業権の額に係る減価償却
費を計上していなかったこと,④原告P1は,平成16年契約で定められた
契約期間の満了後に,鈴鹿県税事務所長に対し,原告P2から原告P1に対
する平成16年契約の終了通知を添付した上で,本件ゴルフ場の利用税の特
別徴収義務者を原告P2から原告P1に変更する旨の申請をしているところ,
原告らが主張するように,原告P2が平成16年契約によって原告P1から
本件ゴルフ場の営業権の譲渡を受けたというのであれば,契約期間の満了に
伴って上記変更申請をすることに合理的な理由は見い出し難いこと,⑤そも
そも,平成16年契約締結当時における原告P1の業務執行の実質的な決定
権限を有していたP5自身,本件各処分の前である平成23年3月25日に
実施された税務調査の際,「本件ゴルフ場の営業権が原告P1と原告P2の
いずれにあるかは全て自らの判断によるものであって,本件ゴルフ場の営業
権は原告P2にあると自ら決めたのであるから税務署に何か言われる理由は
ない。」,「平成16年契約書を作成したかについても記憶がないが,原告
らの実質的な権限は全て自らにあるから,どちらの会社でも同じである。」
旨回答し,原告ら代表者尋問の際にも,「原告P2の取り分が14億200
0万円,原告P1の取り分が残り6億3000万円としたのは,両方とも自
分が社長をしていたから,いくらでもよかった。」,「原告P1の取り分を
6億3000万円と決めたのには,全く理由はない。」旨供述したこと,⑥
本件各確定申告に関与したP19税理士も,鈴鹿税務署の職員に対し,本件
各確定申告書の作成の際,P5から,「本件ゴルフ場の営業権の価額を14
億2000万円とするように指示され,原告P2が数年間営業しただけでこ
のような金額になることには疑問があったものの,そのままの金額で損金と
して計上した。」,「原告P2が取得する部分の内訳を明らかにすることは
できなかったため,P5から言われるままの金額で営業権譲渡の対価を計上
することにした。」,「P5からは,税金を抑えたいとの話があり,税額の
話をすると,何度も,もう少し少なくならないのかという話をされた。」旨
供述したこと等を指摘することができる。
これら諸点に照らすと,前記(1)の証人P4及び原告ら代表者の供述記載部
分ないし供述部分をそのまま信用することはできず,他に,平成16年の時
点で本件ゴルフ場の営業権が原告P1から原告P2に対して譲渡されたとい
う原告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
かえって,上記諸点に加え,前記1で認定したとおり,本件各確定申告に
おいて,原告P1が本件金員(原告P1が平成20年9月1日付け契約に基
づいて原告P2に支払った14億2000万円から原告P2所有の本件営業
用動産の対価に当たるものを控除した金額である13億5912万6250
円)を本件営業権償却費として損金の額に算入し,原告P2が本件金員を益
金の額に算入した上で同事業年度に生じた欠損金を理由として所得控除を行
ったことにより,約9億5000万円の所得に係る法人税額を減少させたこ
とをも併せ考慮すると,平成20年9月1日付け契約は,原告らの法人税額
を減少させるために行われたものであると推認することができる。
そうすると,平成16年契約に基づいて原告P1から原告P2に譲渡され
た本件ゴルフ場の営業権を更に平成20年9月1日付け契約で譲渡したとい
う原告らの主張も,原告らの平成21年3月期の法人税額を減少させるため
の方便にすぎないとみるのが相当である。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(3)これに対し,原告らは,①平成16年契約は,原告P1に対して進められ
ていた民事再生手続が終結したことを踏まえ,原告P2が本格的に本件ゴル
フ場を再建していくことを目的として締結されたものであり,平成16年契
約締結後,原告P2は,本件ゴルフ場の運営による収入を取得する一方で,
本件ゴルフ場の整備や管理のための必要な支出を行ったり,広報活動のため
の支出を行ったりしていたところ,このことは,原告P2に本件ゴルフ場の
営業権が帰属していたことを示すものである,②平成16年契約の際に原告
らの間で営業権の対価の授受がされなかったのは,両社の間で後払いの合意
が成立していたからにすぎず,平成16年契約の中で,原告P2が原告P1
に対して本件ゴルフ場の施設の賃料に加えて本件ゴルフ場の運営によって生
じた純利益の15%を支払うことと定められていたのは,本件ゴルフ場の営
業権の後払いの趣旨を含むものである,③原告P2の貸借対照表の中に本件
ゴルフ場の営業権の価額が計上されていないのは,原告P2において,原告
P1から営業権を取得した際の価額を算定することができなかったためであ
るなどと弁明する。
しかしながら,上記①の点については,平成16年契約が締結された平成
16年4月1日以降,原告P2が本件ゴルフ場を運営し,本件会員等の利用
者から支払われるゴルフプレー代金等を収受する一方で,本件ゴルフ場の維
持・管理のための各種費用を負担していたことは原告らが指摘するとおりで
あるけれども,平成16年契約では,原告P2が本件ゴルフ場内にある全て
の施設をその営業のために使用し,原告P2の責任において維持・管理する
義務を負う旨が定められていたのであるから(1条2項),原告P2が,本
件ゴルフ場の運営によって生じる売上金を収受し,本件ゴルフ場の維持・管
理に必要な費用を支出していたことをもって,平成16年契約に基づき,本
件ゴルフ場の営業権が原告P1から原告P2に譲渡されていたというわけに
はいかない。
次に,上記②の点については,仮に,原告らが主張するように,本件ゴル
フ場の営業権の対価についての後払いの合意が成立していたというのであれ
ば,営業権の譲渡に関する契約の中で,譲渡の価額や支払時期などについて
具体的な定めを置いておくのが通常であるところ,既に認定・説示したとお
り,原告らが本件ゴルフ場の営業権の譲渡を定めた契約書であると主張する
平成16年契約書には,本件ゴルフ場の営業権の対価を後払いで支払うこと
や,譲渡の価額及び支払時期に関する定めは一切存在しない。また,原告ら
の平成17年3月期ないし平成20年3月期の決算書類の中には,本件ゴル
フ場の営業権が後払いとされたことを示す記載は全くなく,かえって,原告
P2は,これら各事業年度に原告P1に対して支払った5000万円を超え
る金員についていずれも「地代家賃」勘定に計上し,原告P1も「不動産賃
貸料収入」に計上するなどしており,原告らが主張するように,平成16年
契約に基づいて本件ゴルフ場の営業権が譲渡されたことを前提とする経理処
理が何らなされていないことは既に説示したとおりである。
さらに,上記③の点については,前記1で認定したとおり,平成16年契
約の締結以前から,原告らには弁護士や税理士が関与していたのであるから,
平成16年契約に基づいて本件ゴルフ場の営業権が譲渡されたのであれば,
これら弁護士等に依頼して本件ゴルフ場の営業権の価額を算定した上で,そ
の決算書類に反映することも十分可能であったはずである。それにもかかわ
らず,原告らの決算書類の中に本件ゴルフ場の営業権に関する記載が一切な
いのは,むしろ原告らの主張するような営業権譲渡の事実はなかったことを
示すものというほかはない。
以上によれば,原告らの上記各弁明は,いずれも採用することができない。
3争点(1)②(平成16年契約に基づいて原告P2が本件ゴルフ場の運営を続
けたことにより,本件基準日の時点で,原告P2に本件ゴルフ場の営業権が生
じていたか否か。)について
(1)原告らは,仮に,本件ゴルフ場の営業権が平成16年契約によって原告P
1から原告P2に譲渡されたということができないとしても,原告P2が平
成16年契約に基づいて本件ゴルフ場の運営を続けた結果,本件基準日(平
成20年9月30日)の時点では,原告P2に本件ゴルフ場の営業権が生じ
ていた旨主張するところ,確かに,前記第2の3(3)カの前提事実のとおり,
平成16年契約が締結された平成16年4月1日以降,同契約に基づいて原
告P2が本件ゴルフ場の運営を行っていたことは,当事者間に争いがない。
(2)しかしながら,前記1で認定した事実によると,①原告P2は,平成16
年契約に基づき本件ゴルフ場を運営していた平成17年3月期から平成20
年3月期の各事業年度のいずれにおいても多額の営業損失を計上し,これら
4事業年度で原告P2に生じた営業損失の総額は約2億8000万円に上る
こと,②本件ゴルフ場は,平成18年3月期中に実施された営業方針の転換
により,原則として土曜日,日曜日及び祝祭日のみ営業し,平日については
6組以上の予約がある場合にのみ営業していたこと,③P5は,鈴鹿税務署
の職員による調査の際,本件登録変更申請書を提出した平成19年4月9日
頃には,本件ゴルフ場は余り営業していなかったことを自認する旨の供述を
していること,④本件ゴルフ場は,平成20年2月1日までには閉鎖され,
その後,原告P2は,本件ゴルフ場の運営を行ってはいなかったこと,⑤本
件ゴルフ場は,P7のP9が現地の確認を行った平成19年10月の時点で
多数の改修を要する状態にあり,そのため,P7は,平成20年基本合意成
立後,総額1億円以上を掛けてゴルフコースの芝の張り替え工事その他の新
たな設備投資を実施したこと,⑥本件株式譲渡契約が締結された平成20年
10月1日当時,本件ゴルフ場には,通常のゴルフクラブであれば存在する
はずの理事会の実態はなく,ゴルフクラブの会員としての活動実績もないな
ど,ゴルフクラブとしての機能が低下した状態にあったこと等を指摘するこ
とができる。
これら諸点に加えて,前記1で認定したとおり,平成16年契約に基づい
て原告P2が本件ゴルフ場の運営を行ったのは,平成16年4月1日から平
成20年3月31日までのわずか4年にすぎない上,森林法に基づく開発行
為の許可を受けたのは原告P2ではなく原告P1であり,本件会員やゴルフ
コースの地権者との間で契約関係にあるのも原告P1であることなどをも併
せ考慮すると,平成16年4月1日以降,原告P2が本件ゴルフ場の運営を
行っていたからといって,それのみで,本件基準日当時,原告P2が,本件
ゴルフ場について,いわゆる営業権を取得するに至っていたということはで
きず,他に,これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(3)なお,原告らは,P7が採用した不動産評価報告書(乙45)には,DC
F法による評価額は15億4000万円と記載され,P7が社内決裁用に作
成した「【第2号議案】P6取得の件」と題する文書(乙35・別紙1)の
中にも「のれん概算額」として5億3100万円の記載があることを指摘し,
これらの事実は,本件基準日時点において原告P2に本件ゴルフ場の営業権
が帰属していたことを示すものである旨主張する。
しかしながら,証拠(乙35)によると,P7内部文書の「事業リスク」
欄には,「営業は,土曜,日曜の5組以上しか行っておらず,過去数値は参
考にならない」,「グリーンの張替えを必要とする状況で,既に2月からク
ローズしており(降雪ではなく,営業を行う気がない)3月の必要な時期か
ら工事を開始する必要がある」などと記載されていることが認められるから,
P7において,原告P2に本件ゴルフ場の営業権が帰属している旨の認識を
有していたとは考え難く,原告らが指摘するこれらの記載の存在をもって,
原告P2に営業権が帰属していたことを示すものであるということはできな
い。
4争点(2)(本件基準日の時点で,原告P2が本件ゴルフ場の営業権を有して
いなかった場合,本件金員の全部又は一部を原告P1ではなく原告P2が取得
することに合理的な理由があると認められるか否か。)について
(1)前記2及び3で説示したところによれば,本件基準日の時点で,本件ゴル
フ場の営業権が原告P2に帰属していたということはできないから,本件金
員(原告P1が平成20年9月1日付け契約に基づいて原告P2に支払った
14億2000万円から原告P2所有の本件営業用動産の対価に当たるもの
を控除した金額である13億5912万6250円)が本件ゴルフ場の営業
権の対価であるとは認められない。したがって,他に,原告P1が原告P2
に対して本件金員の全部又は一部を支払う合理的な理由があるということが
できない場合には,本件金員は,原告P1の原告P2に対する寄附金である
ということになる。
(2)この点に関して,原告らは,①原告P1にとって,平成16年契約を解消
することが本件ゴルフ場の売却を進める上で必要不可欠なものであったから,
原告P2に対してした本件金員の支払は,平成16年契約を解消するために
必要な立退料的代償措置に当たる,②原告P2は,本件ゴルフ場がオープン
していた平成16年4月1日から平成20年2月1日までの3年10か月間,
月額約700万円,総額約3億2200万円の価値に相当する業務を負担し
ており,これら多額の支出を伴う原告P2の本件ゴルフ場の維持・管理に係
る貢献があったために,本件ゴルフ場はその価値を維持してきたのであるか
ら,同貢献相当分である本件金員を取得する合理的な理由がある,③原告P
2が本件ゴルフ場を運営したことにより,営業権が生じていたということが
できないとしても,営業権に類似する経済的な価値が生じていたというべき
である,④平成16年契約に基づき原告P2が本件ゴルフ場の営業を続けた
ことにより,過去にはゴルフ場の底地の価値しか付かなかった本件ゴルフ場
を20億5000万円という高値で売却する機会を得ることができたのであ
るから,原告P2が上記機会利益相当分に当たる本件金員を取得する合理的
な理由があるなどとして,原告P1が原告P2に対して本件金員を支払うこ
とには経済的合理性がある旨主張する。
(3)しかしながら,上記①の点については,前記1で認定したとおり,平成1
6年契約書においては,期間満了,不可抗力による契約の終了等,原告P1
又は原告P2の責めに帰すことのできない事由により契約が終了したときは,
原告P2は,原告P1に対し,立退料,営業補償等,名目の如何を問わず,
金銭の支払その他の行為を請求することはできないものとされている(14
条)ところ,平成16年契約は,原告P2が原告P1に対して本件終了通知
書を送付したことにより平成19年3月31日の契約期間満了により終了し
ており,原告ら自身,鈴鹿県税事務所長に対し,同年4月9日付けで本件終
了通知書を添付した上で本件ゴルフ場のゴルフ場利用税特別徴収義務者の変
更登録申請をしているのであるから,上記契約終了を当然の前提としていた
ことは明らかである。そうすると,原告P2は,平成16年契約の規定上,
原告P1に対して立退料相当額の金員の支払を求めることができない筋合い
であったというほかはない。これに加えて,立退料ないし立退料的性格の金
員の支払は賃貸人と賃借人の間で合意が成立して初めて生じるものであると
ころ,原告らの間で取り交わされた平成20年9月1日付け契約書では,本
件金員の対価となる譲渡の対象物は,本件営業用動産と本件ゴルフ場の営業
権と記載されており(3条1項),原告P2に対して立退料ないし立退料的
性格を有する金員を支払う旨の条項は存在しないから,原告らの間で立退料
ないし立退料の性格を有する金員の支払に関する合意が成立していたという
ことはできない。したがって,平成20年9月1日付け契約に基づいて支払
われた本件金員の全部又は一部が立退料ないし立退料類似の代償措置に当た
るという原告らの主張は,いずれにしても採用することができない。
次に,上記②の点については,前記1で認定したとおり,平成16年契約
では,原告P2は,本件ゴルフ場内の全ての建物,施設等を営業の目的で使
用し,原告P2の責任・負担において維持・管理するものとされていたとこ
ろ(平成16年契約書1条2項),本件全証拠によっても,原告P2が平成
16年契約に基づき負担すべき義務を負う範囲を超える費用を支出したと認
めることはできない。したがって,原告P2が,平成16年契約期間中に,
本件ゴルフ場の維持・管理に係る費用を支出して本件ゴルフ場の価値を保っ
ていたことを理由として,原告P1が原告P2に対して本件金員の全部又は
一部を支払うことにつき合理的な理由があるということもできない。
また,上記③の点については,そもそも,原告らが主張する営業権に類似
する経済的価値の内実そのものが詳らかではないばかりか,平成16年契約
に基づいて原告P2が本件ゴルフ場を運営したのはわずか4年にすぎない上,
原告P2が本件ゴルフ場の運営を行った事業年度のいずれにおいても多額の
営業損失が生じており,しかも,本件ゴルフ場は,平成18年3月期中に実
施された営業方針の転換により,原則として土曜日,日曜日及び祝祭日のみ
営業することとし,平日は6組以上の予約がある場合に限って営業していた
ことなど,前記3で認定・説示した原告P2の下での本件ゴルフ場の運営状
況に照らすと,原告P2が本件ゴルフ場を運営していたことにより,本件ゴ
ルフ場について,前記3(2)で説示した意味での営業権に類似する経済的な価
値が生じていたということはできない。
さらに,上記④の点については,前記1で認定したとおり,本件株式の譲
渡に関与したP7のP9は,鈴鹿税務署の職員に対し,本件株式譲渡代金で
ある20億5000万円の内訳は土地,建物及び備品であり,これら資産に
ついてP7のノウハウの下に営業した場合にどの程度の利益が見込めるのか
をDCF法によって算定したものであって,原告P2による過去の実績は全
く考慮していない旨回答しているのであるから,本件株式譲渡代金の価額が,
過去に算定された本件ゴルフ場の底地の価格を上回っているからといって,
そのことから直ちに同底地との差額について原告P2が本件金員の全部ない
し一部を取得することに合理性があるということはできない。
以上によれば,原告らの上記各主張は,いずれも採用することができない。
そうすると,本件金員の支払には,原告らが主張するような合理的な理由が
あるということはできず,本件金員の支払は対価性のないものといわざるを
得ない。
5本件各処分の適法性について
以上によれば,平成20年9月1日付け契約に基づいて原告P1が原告P2
に対して支払った14億2000万円から原告P2所有に係る本件営業用動産
の価額を控除した金額に相当する13億5912万6250円(本件金員)は,
原告P1の原告P2に対する寄附金(原告P2にとっては,原告P1からの受
贈益)に当たるということになるところ,このことを前提に,原告P1の平成
21年3月期の法人税及び平成21年3月課税期間の消費税等並びに原告P2
の平成22年3月期の法人税の額を算定すると,いずれも別紙5「被告主張額
の根拠等」記載1及び2のとおりとなり,本件各処分における納付すべき税額
及び各過少申告加算税の額と同額であるから,本件各処分はいずれも適法であ
る。
第4結論
以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官福井章代
裁判官富澤賢一郎
裁判官西脇真由子
(別紙1)
関係法令の定め
1法人税法
(1)2条
1号~9号(略)
10号同族会社会社の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場
合のその会社を除く。)の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の
関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(その会社が
有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の100分の50
を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場
合におけるその会社をいう。
11号~22号(略)
23号減価償却資産建物,構築物,機械及び装置,船舶,車両及び運搬具,
工具,器具及び備品,鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政
令で定めるものをいう。
24号~44号(略)
(2)22条
1項内国法人の各事業年度の所得の金額は,当該事業年度の益金の額から当
該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2項内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に
算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,資産の販売,有償又は
無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受けその他の
取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3項内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に
算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,次に掲げる額とする。
1号当該事業年度の収益に係る売上原価,完成工事原価その他これらに準
ずる原価の額
2号前号に掲げるもののほか,当該事業年度の販売費,一般管理費その他
の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定し
ないものを除く。)の額
3号当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4項第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は,
一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとす
る。
5項第2項又は第3項に規定する資本等取引とは,法人の資本金等の額の増
加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(中略)
及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
(3)37条
1項内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用
を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち,その内国法人の当該事業
年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として
政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は,当該内国
法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない。
2項~6項(略)
7項前各項に規定する寄附金の額は,寄附金,拠出金,見舞金その他いずれ
の名義をもってするかを問わず,内国法人が金銭その他の資産又は経済的
な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに
類する費用並びに交際費,接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。
次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外
の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時
における価額によるものとする。
8項~12項(略)
(4)62条の8
1項内国法人が非適格合併等(適格合併に該当しない合併又は適格分割に該
当しない分割,適格現物出資に該当しない現物出資若しくは事業の譲受け
のうち,政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により当
該非適格合併等に係る被合併法人,分割法人,現物出資法人その他政令で
定める法人(以下この条において「被合併法人等」という。)から資産又
は負債の移転を受けた場合において,当該内国法人が当該非適格合併等に
より交付した金銭の額及び金銭以外の資産(適格合併に該当しない合併に
あっては,第62条第1項(合併及び分割による資産等の時価による譲渡)
に規定する新株等)の価額の合計額(当該非適格合併等において当該被合
併法人等から支出を受けた第37条第7項(寄附金の損金不算入)に規定
する寄附金の額に相当する金額を含み,当該被合併法人等に対して支出を
した同項に規定する寄附金の額に相当する金額を除く。第3項において「非
適格合併等対価額」という。)が当該移転を受けた資産及び負債の時価純
資産価額(当該資産(営業権にあっては,政令で定めるものに限る。以下
この項において同じ。)の取得価額(第61条の13第7項(完全支配関
係がある法人の間の取引の損益)の規定の適用がある場合には,同項の規
定の適用がないものとした場合の取得価額。以下この項において同じ。)
の合計額から当該負債の額(次項に規定する負債調整勘定の金額を含む。
以下この項において同じ。)の合計額を控除した金額をいう。第3項にお
いて同じ。)を超えるときは,その超える部分の金額(当該資産の取得価
額の合計額が当該負債の額の合計額に満たない場合には,その満たない部
分の金額を加算した金額)のうち政令で定める部分の金額は,資産調整勘
定の金額とする。
2項~12項(略)
2消費税法
(1)2条1項
この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるとこ
ろによる。
1号~11号(略)
12号課税仕入れ事業者が,事業として他の者から資産を譲り受け,若し
くは借り受け,又は役務の提供(中略)を受けること(当該他の者が事
業として当該資産を譲り渡し,若しくは貸し付け,又は当該役務の提供
をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので,第
7条第1項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第8条第1項
その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のもの
に限る。)をいう。
13号事業年度法人税法(昭和40年法律第34号)第13条及び第14
条(事業年度)に規定する事業年度(国,地方公共団体その他これらの
条の規定の適用を受けない法人については,政令で定める一定の期間)
をいう。
14号~20号(略)
(2)30条1項
事業者(中略)が,国内において行う課税仕入れ又は保税地域から引き取る
課税貨物については,次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日
の属する課税期間の第45条第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税
額(中略)から,当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費
税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に108分の6.3を乗じて算出した
金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域
からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除さ
れるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべ
き消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額
を控除する。
1号国内において課税仕入れを行った場合当該課税仕入れを行った日
2号・3号(略)
3国税通則法
75条
1項国税に関する法律に基づく処分で次の各号に掲げるものに不服がある者は,
当該各号に掲げる不服申立てをすることができる。
1号税務署長がした処分(次項に規定する処分を除く。)その処分をした
税務署長に対する異議申立て
2号~5号(略)
2項・3項(略)
4項第1項第1号若しくは第4号又は第2項第1号の規定により異議申立てを
することができる者は,次の各号のいずれかに該当するときは,その選択に
より,異議申立てをしないで,国税不服審判所長に対して審査請求をするこ
とができる。
1号所得税法若しくは法人税法に規定する青色申告書,同法第130条第1
項(青色申告書等に係る更正)に規定する連結確定申告書等又は地方法人
税法第27条第2項(青色申告)に規定する青色申告書に係る更正(その
更正に係る国税を基礎として課される加算税の賦課決定を含む。)に不服
があるとき。
2号・3号(略)
5項・6項(略)
4商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)
(1)245条1項
会社が左の行為を為すには第343条に定むる決議に依ることを要す。
1号営業の全部又は重要なる一部の譲渡
2号・3号(略)
(2)343条1項
前条第1項の決議は,総株主の議決権の過半数又は定款に定むる議決権の数
を有する株主出席しその議決権の3分の2以上に当たる多数を以って之を為す。
5法人税法施行令
(1)13条
法第2条第23号(減価償却資産の意義)に規定する政令で定める資産は,
棚卸資産,有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用
に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)
とする。
1号~7号(略)
8号次に掲げる無形固定資産
イ~ル(略)
ヲ営業権
ワ~ツ(略)
9号(略)
(2)48条1項
平成19年3月31日以前に取得をされた減価償却資産(第6号に掲げる減
価償却資産にあっては,当該減価償却資産についての同号に規定する改正前リ
ース取引に係る契約が平成20年3月31日までに締結されたもの)の償却限
度額(法第31条第1項(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
の規定による減価償却資産の償却費として損金の額に算入する金額の限度額を
いう。以下第7目までにおいて同じ。)の計算上選定をすることができる同項
に規定する政令で定める償却の方法は,次の各号に掲げる資産の区分に応じ当
該各号に定める方法とする。
1号~3号(略)
4号第13条第8号に掲げる無形固定資産(次号に掲げる鉱業権を除く。)
及び同条第9号に掲げる生物旧定額法
5号・6号(略)
(3)78条
法第37条第7項(寄附金の意義)に規定する寄附金の支出は,各事業年度
の所得の金額の計算については,その支払がされるまでの間,なかったものと
する。
(4)123条の10
1項・2項(略)
3項法第62条の8第1項に規定する政令で定める営業権は,営業権のうち
独立した資産として取引される慣習のあるものとする。
4項~15項(略)
6三重県県税条例(昭和25年三重県条例第37号)
(1)86条
1項ゴルフ場利用税の特別徴収義務者は,ゴルフ場の経営者その他ゴルフ
場利用税の徴収の便宜を有する者で規則で定めるものとする。
2項前項の特別徴収義務者は,当該ゴルフ場における利用に対して課され
るゴルフ場利用税を徴収しなければならない。
(2)88条1項
ゴルフ場利用税の特別徴収義務者として指定された者は,ゴルフ場の経営
を開始し,又は他のゴルフ場を借り受けようとする日前5日までに当該ゴル
フ場ごとの特別徴収義務者としての登録を知事に申請しなければならない。
登録をした事項に変更を生じた場合においては,その変更を生じた日から5
日以内に,登録の変更を申請しなければならない。
7三重県県税条例施行規則(昭和34年三重県規則第48号)
(1)43条
1項条例第86条のゴルフ場利用税の特別徴収義務者は,ゴルフ場の経営
者であって利用料金を徴収すべき者とする。ただし,ゴルフ場の経営者
が法人である場合においては,当該法人及びその法人の代表者とする。
2項県税事務所長は,必要があると認める場合においては前項の規定にか
かわらず,ゴルフ場利用税の徴収の便宜を有する者について別に特別徴
収義務者を指定することができる。
(2)45条1項
条例第88条第2項の規定により特別徴収義務者が提出すべき登録申請書
は,第51号様式(略)による。
8企業会計原則注解(昭和57年4月20日大蔵省企業会計審議会)
注25営業権は,有償で譲受け又は合併によって取得したものに限り貸借対
照表に計上し,毎期均等額以上を償却しなければならない。
(別紙2)
平成16年契約書の概要
1頭書
原告P1と原告P2とは,原告P1が三重県鈴鹿市α地内に所有する本件ゴ
ルフ場の建物,施設及びその管理に関し,次のとおり合意したので,これを証
するため本契約書2通を作成し,原告P1,原告P2記名捺印の上,各自1通
を保持する。
2目的(1条)
1項原告P1は,原告P2に対し,本件ゴルフ場内の全ての建物,施設を賃
貸し,原告P2は,これを賃借する。
2項原告P2は,本件ゴルフ場内の全ての建物,施設を営業の目的で使用し,
原告P2の責任・負担において維持管理するものとする。
3営業方針(2条)
原告P2は,営業に当たっては,原告P1と相談し,原告P1の営業方針に
従うものとする。
4契約期間(3条)
本契約期間は平成16年4月1日から平成19年3月31日までの3年間と
する。ただし,期間満了3か月前までに,原告P1,原告P2のいずれかから
意思表示がないときは,契約期間を更に3年間自動的に延長するものとし,以
後も同様とする。
5賃料・施設使用料(4条)
原告P2は,原告P1に対し,土地,建物,ゴルフコース施設の使用料とし
て,下記の合算金額を支払うものとする。
①建物(建物附属設備及び構築物を含む。)の平成16年3月時点での簿価
を基準価格とし,法定耐用年数の償却率(定額法)を乗じて算出した償却相
当額
②土地,建物等にかかわる固定資産税相当額
③コース借地にかかわる賃貸料実費相当額
④毎年4月1日から翌年3月31日までを1年間として,ゴルフ場の総売上
高より諸経費を除いた純利益の15%
6費用負担(8条)
1項原告P2が本施設内で使用する電気料金,水道料金,ガス料金及び燃料
については原告P2の負担とする。
2項本建物及び本施設に課せられる公租公課は原告P1の負担とする。
3項原告P2の営業及び維持管理に必要な人材,機材,部品,肥料,薬品等
の全ての諸費用は原告P2の負担とする。
7従業員の勤務(9条)
1項原告P2は,本建物,施設で営業,維持管理に従事する従業員(以下「本
従業員」という。)については,原告P1の定める規則を自己の責任にお
いて遵守させるものとする。
2項原告P1は,本従業員が第2条の原告P1の営業方針,前項の規則に反
する行為をしたときは,原告P2に対して当該本従業員に十分な指導を行
うことを要求することができる。さらに,その違反程度が著しいときは,
当該本従業員を原告P2の他の従業員と交替させることを,原告P2に要
求することができるものとする。
8保守,保全,点検,損害賠償(10条)
1項原告P2は,本建物及び本施設を本契約の趣旨に則り善良なる管理者の
注意をもって使用及び維持管理しなければならない。
2項~4項(略)
9原状回復義務(13条)
1項本契約が終了した場合,原告P2は,本契約の終了より30日以内に原
告P2の費用により設置した自己の所有物を自己の責任において撤去し,
本建物を原状に回復して原告P1に明け渡さなければならない。
2項原告P2が前項所定の期間内に本物件及び本施設を原状に回復しない場
合,原告P1は原告P2に代わって原告P2の費用によりこれを原状に回
復することができる。この場合,撤去した原告P2の所有物の保管につい
ては原告P1はその責めに任じないものとする。
10契約終了に伴う損害の補償(14条)
期間満了,不可抗力による契約の終了等,原告P1又は原告P2の責めに帰
すことのできない事由により本契約が終了したときは,原告P2は,原告P1に対
し,立退料,営業補償等,名目の如何を問わず,金銭の支払その他の行為を請求す
ることはできない。
(別紙5)
被告主張額の根拠等
1原告P1に対する各更正処分の根拠及びその適法性
(1)原告P1に対する法人税の更正処分の根拠(別表1参照)
被告が,本件訴訟において主張する原告P1が納付すべき平成21年
3月期の法人税の税額等は,以下のとおりである。
ア所得金額13億8605万6654円(別表1⑬)
上記金額は,原告P1が平成21年6月1日に鈴鹿税務署長に対して提
出した平成21年3月期の法人税の確定申告書(乙1。以下「本件原告P
1平成21年3月期確定申告書」という。)に記載された所得金額である
920万8673円に,以下の(ア)ないし(キ)及び(ケ)を加算し,(ク)を減算
した金額である。
(ア)営業権償却費の金額12億9440万5952円(別表1②)
上記金額は,原告P1が,平成21年3月期の法人税の所得金額の計
算上,本件ゴルフ場の営業権の償却費として損金の額に算入した金額で
ある。しかしながら,本件ゴルフ場の営業権は存在せず,本件金員は寄
附金に該当すると認められ,上記の営業権償却費は損金の額に算入する
ことができないため,所得金額に加算する。
(イ)未払寄附金の損金不算入額4億0199万5088円(別表1③)
上記金額は,本件営業譲渡契約に基づく原告らの取引金額のうち,原
告P1が平成21年3月期の未払金に計上した金額4億2000万円に,
上記取引金額のうち本件金員の占める割合を乗じて計算した金額である
が,本件ゴルフ場の営業権は存在せず,本件金員は寄附金に該当すると
認められることから,当該金額は未払寄附金に該当し,法人税法施行令
78条により,損金の額に算入されないため,所得金額に加算する。
(ウ)貸倒損失の過大計上額1829万0000円(別表1④)
上記金額は,原告P1が,貸倒損失として,平成21年3月期の法人
税の所得金額の計算上,損金の額に算入した金額であるが,貸倒れの事
実が認められないことから,当該貸倒損失の金額は,損金の額に算入す
ることができないため,所得金額に加算する。
(エ)租税公課の過大計上額2047万7454円(別表1⑤)
上記金額は,原告P1が,租税公課(特別土地保有税)として,平成
21年3月期の法人税の所得金額の計算上,損金の額に算入した金額で
あるが,当該租税公課(特別土地保有税)は,納税猶予の適用を受けて
いることが認められ,損金の額に算入することができないため,所得金
額に加算する。
(オ)雑損失の過大計上額6311万7308円(別表1⑥)
上記金額は,原告P1が,本件金員に係る仮払消費税等の金額647
2万0298円のうち,課税売上割合(乙2の2枚目の「課税売上割合
(④/⑦)」欄)により計算した控除対象外消費税額等の金額を雑損失
として,平成21年3月期の法人税の所得金額の計算上,損金の額に算
入した金額であるが,本件ゴルフ場の営業権は存在せず,本件金員は寄
附金に該当すると認められ,消費税法上の課税資産の譲渡等の対価の額
には該当しないことから,本件金員に係る仮払消費税等及び控除対象外
消費税等は発生せず,当該雑損失の金額は,損金の額に算入することが
できないため,所得金額に加算する。
(カ)雑収入の計上漏れの金額190円(別表1⑦)
上記金額は,本件原告P1法人税更正処分による未払消費税等の増加
額160万2990円と本件原告P1消費税等更正処分による消費税等
の納付税額の増加額160万2800円との差額であり,当該金額を雑
収入の計上漏れとして,所得金額に加算する。
(キ)交際費等の損金不算入額692円(別表1⑧)
交際費等の損金不算入額は,下記aの金額14万8909円から下記
bの金額13万4018円を控除した金額1万4891円となり,本件
原告P1平成21年3月期確定申告書の別表十五(交際費等の損金算入
に関する明細書)の「損金不算入額」欄に記載された金額1万4199
円から692円増加するため,当該増加する金額を所得金額に加算する。
a本件原告P1平成21年3月期確定申告書の別表十五(交際費等の
損金算入に関する明細書)の「支出交際費等の額」欄に記載された金
額(14万1986円)に,原告P1が支出した交際費等に係る消費
税等の額のうち控除対象外消費税等6923円を加算した金額
14万8909円
b前記aの金額に100分の90を乗じた金額
13万4018円(交際費等の損金算入限度額)
(ク)寄附金の損金の額に算入される額13億5912万6250円(別
表1⑪)
上記金額は,本件金員の金額であるが,本件ゴルフ場の営業権は存在
せず,本件金員は寄附金に該当すると認められ,損金の額に算入される
ため,所得金額から減算する。
(ケ)寄附金の損金不算入額9億3768万7547円(別表1⑨)
寄附金の損金不算入額は,法人税法37条1項及び同法施行令73条
により,下記bの金額9億5713万1162円から下記eの金額19
44万3615円を控除した9億3768万7547円となるため,当
該損金不算入額を所得金額に加算する。
a本件原告P1平成21年3月期確定申告書の別表四の「総額」欄の
「仮計」欄に記載された金額1億5119万7614円(乙1の別表
四の「①」欄の「22」欄)に,前記(ア)ないし(ク)の金額を加算又は
減算した金額5億9035万8048円
b前記(ク)の金額13億5912万6250円から前記(イ)の金額4億
0199万5088円を控除した金額9億5713万1162円(寄
附金として損金算入される金額)
c前記a及びbの合計額15億4748万9210円に100分の2.
5を乗じた金額3868万7230円
d原告P1の資本金の金額8000万円に1000分の2.5を乗じ
た金額20万円
e前記c及びdの合計額3888万7230円に2分の1を乗じた金
額1944万3615円(寄附金の損金算入限度額)
イ所得金額に対する法人税額4億1517万6800円(別表1⑭)
上記金額は,前記アの所得金額(国税通則法118条1項に基づき,1
000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に法人税法66条1項及び2
項に規定する税率を乗じた金額である。
ウ法人税額から控除される所得税額24万1631円(別表1⑮)
上記金額は,法人税法68条が規定する法人税額から控除される所得税
等の金額であり,本件原告P1平成21年3月期法人税確定申告書(乙1)
の1枚目「42」欄に記載された金額である。
エ納付すべき税額4億1493万5100円(別表1⑯)
上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を控除した金額(国税通則
法119条1項に基づき,100円未満の端数を切り捨てたもの)である。
オ確定申告に係る税額188万0700円(別表1⑰)
上記金額は,本件原告P1平成21年3月期法人税確定申告書(乙1)
の1枚目「13」欄に記載された差引所得に対する法人税額である。
カ差引納付すべき税額4億1305万4400円(別表1⑱)
上記金額は,前記エの金額から前記オの金額を差し引いた金額であり,
被告が主張する平成21年3月期の法人税として,原告P1が新たに納付
することとなる税額である。
(2)原告P1に対する法人税の更正処分の適法性
被告が,本件訴訟において主張する原告P1が納付すべき税額等は,前記
(1)のとおりであるところ,これらの金額は,原告P1に対してされた法人税
の更正処分の額と同額である。したがって,鈴鹿税務署長が原告P1に対し
てした法人税の更正処分は適法である。
(3)原告P1に対する消費税等の更正処分の根拠(別表2参照)
被告が,本件訴訟において主張する原告P1が納付すべき平成21年3月
課税期間の消費税等の税額等は,以下のとおりである。
ア消費税
(ア)課税標準額279万8000円(別表2①)
上記金額は,原告P1が平成21年6月1日に鈴鹿税務署長に対して
提出した消費税等の確定申告書(乙2。以下「本件原告P1平成21年
3月課税期間確定申告書」という。)の1枚目「⑮」欄に記載された課
税資産の譲渡等の対価の額(国税通則法118条1項に基づき,100
0円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(イ)課税標準額に対する消費税額11万1920円(別表2②)
上記金額は,消費税法29条に基づき,前記(ア)の課税標準額279万
8000円に100分の4を乗じた金額である。
(ウ)控除対象仕入税額8万1746円(別表2⑥)
上記金額は,下記aの金額から下記bの金額を減算した金額8663
万7622円に消費税法30条1項により105分の4を乗じた金額に,
消費税法30条2項2号により課税売上割合(乙2の2枚目の「課税売
上割合(④/⑦)」欄)を乗じて計算した金額である。
a確定申告された課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)
14億4576万3872円(別表2③)
上記金額は,本件原告P1平成21年3月課税期間確定申告書の付
表2(乙2の2枚目)「⑧」欄に記載された課税仕入れに係る支払対
価の額である。
b本件ゴルフ場の営業権に関する課税仕入れに係る支払対価の額
13億5912万6250円(別表2④)
上記金額は,本件金員の金額であるが,本件ゴルフ場の営業権は存
在せず,原告P2から原告P1に対する役務の提供又は資産の譲渡等
の事実は認められないことから,消費税法2条1項12号が規定する
課税仕入れには該当しない。
(エ)差引税額3万0100円(別表2⑧)
上記金額は,前記(イ)の金額から前記(ウ)の金額を減算した金額(国税
通則法119条1項に基づき,100円未満の端数を切り捨てた後のも
の)である。
(オ)差引納付すべき消費税額128万2300円(別表2⑩)
上記金額は,前記(エ)の差引税額3万0100円に,本件平成21年3
月期課税期間消費税確定申告書(乙2)の1枚目「⑧」欄に記載された
控除不足還付税額125万2218円を加算した金額(国税通則法11
9条1項に基づき,100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
イ地方消費税
(ア)地方消費税の課税標準となる消費税額3万0100円(別表2⑪)
上記金額は,前記ア(エ)の消費税の差引税額である。
(イ)譲渡割額納税額7500円(別表2⑫)
上記金額は,前記(ア)の地方消費税の課税標準となる消費税額3万01
00円に,地方税法72条の83により,100分の25を乗じた金額
(地方税法20条の4の2第3項に基づき,100円未満を切り捨てた
後のもの)である。
(ウ)差引納付すべき譲渡割額32万0500円(別表2⑭)
上記金額は,前記(イ)の譲渡割額納税額7500円に,本件原告P1平
成21年3月課税期間確定申告書(乙2)の1枚目「⑲」欄に記載され
た譲渡割還付額31万3054円を加算した金額(地方税法20条の4
の2第3項に基づき,100円未満を切り捨てた後のもの)である。
ウ差引納付すべき合計税額160万2800円(別表2⑮)
上記金額は,前記ア(オ)の金額と前記イ(ウ)の金額の合計額であり,被告
が主張する平成21年3月課税期間の消費税等として,原告P1が新
たに納付することとなる消費税等の税額である。
(4)原告P1に対する消費税等の更正処分の適法性
被告が,本件訴訟において主張する原告P1が納付すべき税額等は,前記
(3)のとおりであるところ,これらの金額は,原告P1に対してされた消費税
等更正処分の額と同額である。したがって,鈴鹿税務署長が原告P1に対し
てした消費税等の更正処分は適法である。
2原告P2に対する更正処分の根拠及びその適法性
(1)原告P2に対する更正処分の根拠(別表3参照)
被告が,本件訴訟において主張する原告P2が納付すべき平成22年3月
期の法人税の税額等は,以下のとおりである。
ア所得金額2億8044万1997円(別表3⑧)
上記金額は,原告P2が,平成22年5月27日に鈴鹿税務署長に提出
した平成22年3月期の法人税の確定申告書(乙3。以下「本件原告P2
平成22年3月期確定申告書」といい,「本件原告P1平成21年3月期
確定申告書」及び「本件原告P1平成21年3月課税期間確定申告書」と
併せて,「本件各確定申告書」という。)の1枚目「1」欄に記載された
欠損金額1828万0409円に,以下の(ア)を加算し,(イ)及び(ウ)を減算
した金額である。
(ア)受贈益の計上漏れ4億0199万5088円(別表3②)
上記金額は,原告P2が,本件取引金額のうち,平成21年3月期の
未収金に計上した金額4億2000万円に,本件取引金額のうち本件金
員の占める割合を乗じて計算した金額であるが,本件ゴルフ場の営業権
は存在せず,本件金員は寄附金であり,原告P1からの金銭の贈与に該
当することから,上記金額は,受贈益の計上漏れと認められるため,所
得金額に加算する。
(イ)事業税の損金算入額1970万4000円(別表3④)
上記金額は,原告P2が,平成22年3月期において納税充当金から
支出した事業税の金額であり,当該金額は,平成22年3月期の損金の
額に算入されるため,所得金額から減算する。
(ウ)欠損金又は災害損失等の当期控除額8356万8682円(別表3
⑦)
上記金額は,原告P2の前期(平成21年3月期)から繰り越された
欠損金の金額である。(甲20・27頁)
イ所得金額に対する法人税額8317万2300円(別表3⑨)
上記金額は,前記アの所得金額(国税通則法118条1項に基づき,10
00円未満の端数を切り捨てた後のもの)に法人税法66条1項及び2項
並びに租税特別措置法42条の3の2第1項が規定する税率を乗じた金額
である。
ウ法人税額から控除される所得税額83万9431円(別表3⑩)
上記金額は,法人税法68条が規定する法人税額から控除される所得税
等の金額であり,本件原告P2平成22年3月期確定申告書(乙3)の1
枚目「42」欄に記載された金額である。
エ納付すべき税額8233万2800円(別表3⑪)
上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を控除した金額(国税通則
法119条1項に基づき,100円未満の端数を切り捨てたもの)である。
オ確定申告に係る税額マイナス83万9431円(別表3⑫)
上記金額は,本来,本件原告P2平成22年3月期確定申告書(乙3)
1枚目「13」欄に記載されるべき金額であり,同申告書1枚目「16」
欄と同額である。
カ差引納付すべき税額8317万2200円(別表3⑬)
上記金額は,前記エの金額から前記オの金額を差し引いた金額(国税通
則法119条1項に基づき,100円未満の端数を切り捨てた後のもの)
であり,被告が主張する平成22年3月期の法人税として,原告P2が新
たに納付することとなる税額である。
(2)原告P2に対する更正処分の適法性
被告が,本件訴訟において主張する原告P2が納付すべき税額等は,前記
(1)のとおりであるところ,これらの金額は,原告P2に対してされた更正処
分の額と同額である。したがって,鈴鹿税務署長が原告P2に対してした法
人税の更正処分は適法である。
3原告らに対する各過少申告加算税賦課決定処分の根拠及びその適法性
前記1及び2で述べたとおり,原告らに対してされた各更正処分(以下「本件各
更正処分」という。)はいずれも適法であるところ,原告らは,本件各確定申告書
において,それぞれ所得金額及び納付すべき税額を過少に申告していた。また,原
告らには,本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が,本
件各更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて国税通則法65条
4項が規定する正当な理由があるとは認められない。そして,原告らに対する過少
申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)において原告ら
に課された過少申告加算税は,適法な本件各更正処分により新たに納付すべきこと
となった税額を基礎として,国税通則法65条1項及び2項の規定に基づき,それ
ぞれ正当に計算されたものである。したがって,鈴鹿税務署長が原告らに対してし
た本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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