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令和2年6月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成30年(ワ)第20111号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和2年2月18日
判決
原告株式会社九の里
同訴訟代理人弁護士大西洋一
村上雅彦
長嶺悠介10
金澤圭甫
同訴訟復代理人弁護士新沼奏之介
被告A
同訴訟代理人弁護士岡崎秀也15
荒木陽一
主文
1被告は,原告に対し,金50万3856円及びこれに対する平成28年
12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。20
3訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余を原告
の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求25
被告は,原告に対し,479万5252円及びこれに対する平成28年12
月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1争いのない事実等(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。ま
た,証拠番号の枝番の記載を省略することがある(以下同様)。)
(1)原告は,保険会社に代わって損害保険,生命保険の勧誘,契約等を行う保5
険代理店である。
(2)被告は,平成19年7月,AIU保険会社に研修生として入社し,同社の
保険商品を勧誘,販売していたが,平成21年9月までに同社を退職した。
(3)その後,被告は,AIU保険会社の紹介により同月24日に原告に入社し,
原告において,主に損害保険の勧誘,契約締結,顧客の管理,保全等の業務10
に携わってきた。
(4)被告は,AIU保険会社での研修時等において,別紙記載3ないし9及び
11ないし13の各顧客を開拓し,原告での在職時において同各顧客を担当
していた(乙4。以下,これらの各顧客についての契約者名,住所,電話番号,
加入している保険会社,保険種目,保険期間,銀行口座情報等を内容とする15
顧客情報を「本件顧客情報1」という。)。
(5)また,被告は,原告での在職時において,別紙記載1,2及び10の原告
の各顧客をも担当していた(以下,これらの原告の各顧客についての契約者
名,住所,電話番号,加入している保険会社,保険種目,保険期間,銀行口
座情報等を内容とする顧客情報を「本件顧客情報2」という。)。20
(6)被告は,平成27年7月31日付けで原告を退職した。
(7)被告が原告を退職した時点において,原告には,原告代表者,その妻及び
被告のほか,従業員が7名在籍していた。
(8)被告は,原告を退職した後まもなくして,損害保険,生命保険の募集等に
関する業務を行う訴外株式会社Doitプランニング(以下「訴外会社」25
という。)に就職した。
(9)被告が原告を退職した後,原告の従業員であったBは,LINEを通じて,
被告に対し,本件顧客情報1を写真で送付した(Bが本件顧客情報2につい
ても被告に送付したかどうかについては,争いがある。)。
(10)被告が訴外会社に就職して以降,別紙記載1ないし13の各顧客は,いず
れも,平成28年12月7日までの間に,保険契約の内容を変えることなく,5
保険代理店を原告から訴外会社に変更した(甲9,弁論の全趣旨)。
2事案の概要
本件は,被告において,①退職前に原告の営業秘密である本件顧客情報1,
2を不正に持ち出して取得し,又は転職先においてこれを利用して同情報に係
る各顧客に営業を行い(不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項4号),10
または,②原告から示された本件顧客情報1,2を不正の利益を得る目的又は
原告に損害を与える目的で使用し(法2条1項7号),または,③原告の従業員
から本件顧客情報1,2を不正開示行為であることを知りつつ取得し,又はこ
れを使用したが(法2条1項8号),かかる被告の行為により原告の営業上の利
益が侵害されたとして,予備的に,仮に被告の本件顧客情報1,2に係る行為15
につき上記のようにいえなかったとしても,被告の本件顧客情報1,2に係る
行為は,いずれもそれぞれ誓約書違反等の債務不履行又は不法行為に当たり,
原告が損害を被ったとして,原告が,被告に対し,主位的に,法4条による損
害賠償請求,予備的に,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求として,
保険契約解約による逸失利益(合計435万9320円)に弁護士費用相当額20
(合計43万5932円)を加えた総計479万5252円及びこれに対する
平成28年12月7日(被告の上記行為よりも後の日)から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
3争点
(1)本件顧客情報1の原告への帰属の有無(争点1)25
(2)営業秘密の不正使用の有無
ア本件顧客情報1,2は営業秘密(法2条4項)に該当するか(争点2)
イ被告の行為は,法2条1項4号,同項7号又は同項8号の不正競争に該
当するか(争点3)
(3)債務不履行に基づく損害賠償請求の可否(争点4)
(4)不法行為による損害賠償請求の可否(争点5)5
(5)損害の有無及びその額(争点6)
第3争点に対する当事者の主張
1争点1(本件顧客情報1の原告への帰属の有無)
【原告の主張】
本件顧客情報1は,原告の顧客に係る情報であり,これは原告に帰属する情10
報である。すなわち,本件顧客情報1に係る各顧客は,被告がAIU保険会社
に在籍していた当時に,一担当者として開拓したものであり,本件顧客情報1
はそもそもAIU保険会社の情報であった。しかして,被告がAIU保険会社
を退職し原告に就職する際,原告からAIU保険会社に金銭を支払い,原告が
上記顧客の契約の担当代理店となったことにより,本件顧客情報1は,原告の15
情報になったものである。このように,本件顧客情報1は,原告の一担当者に
すぎない被告の情報ではない。
【被告の主張】
本件顧客情報1の各顧客は,被告が自らの人脈で開拓した顧客であるから,
本件顧客情報1は被告に帰属するものであり,被告は,各顧客の了承の下,こ20
れを原告に提供したにすぎない。
2争点2(本件顧客情報1,2は営業秘密(法2条4項)に該当するか)
【原告の主張】
本件顧客情報1,2は,保険契約の募集等を行う事業者にとって,顧客の情
報の効率的な管理等に資するものであり,有用性が認められるほか,次のとお25
り,秘密管理性,非公知性の要件も満たすから,営業秘密に該当する。
(1)秘密管理性
原告は,本件顧客情報1,2を,保険契約の際に作成された申込書の代理
店控え(以下「本件申込書控え」という。)とこれを電子データ化したものの
2種類で管理していた。
まず原告は,本件申込書控えについては,ファイルに綴じた上で,鍵のか5
かるロッカーに保管していた。また原告は,電子データ化した本件顧客情報
1,2については,社内のデスクトップパソコン内のデータベースで一括管
理しており,これらを,原告の住所地にあるデスクトップパソコンでのみ閲
覧可能としていた。原告は,当該パソコンを利用するために,会社用と個人
用の2つのパスワードを入力する必要があるように設定していたほか,更に10
上記データベースにアクセスするために,別のパスワードを入力する必要が
あるように設定しており,このパスワードは,3か月に1回の頻度で変更し
ていた。そして,原告は,従業員に対し,パソコンの持出しや,USB等の
記録媒体による情報の持出しを禁止していた。
原告の従業員は,被告の退職時,合計7名であったところ,原告は,被告15
を含む従業員をして,その入社の際に,情報管理に係る「誓約書兼同意書」
を提出させた上で,月に1回の頻度で行われる保険会社主催の情報管理等に
関するミーティングに出席させており,退職時にも顧客情報の利用を一切禁
じる旨の誓約書を提出させるなど,徹底した情報管理を行っていた。
以上によれば,本件顧客情報1,2について,秘密管理性の要件を満たす。20
(2)非公知性
本件顧客情報1,2は,契約者の氏名,住所,電話番号などが一体となっ
た顧客情報及び加入保険会社,保険種目,保険期間などが一体となった保険
契約情報であり,原告及び原告の従業員に限り入手できるものである。そし
て,原告の従業員には,本件顧客情報1,2について守秘義務が課せられて25
いることからすれば,本件顧客情報1,2は公然と知られていないといえる。
【被告の主張】
本件顧客情報1,2に有用性があることは争わないが,本件顧客情報1,2
については,次のとおり,秘密管理性等の要件を満たさず,法2条4項に規定
する営業秘密には該当しない。
(1)秘密管理性5
本件顧客情報1,2については,秘密管理性の要件を満たさない。
すなわち,本件顧客情報1,2の電子データを見るためのパスワードは,
従業員共通のものであり,原告の従業員であれば誰でもそれを利用して閲覧
が可能であった。また,本件申込書控えが保管されたロッカーは施錠されて
おらず,原告の従業員であれば誰でも閲覧できたものである。10
(2)非公知性
本件顧客情報1については,被告が自らの人脈で開拓した顧客に係る情報
であり,被告に帰属するものであって,非公知性はない。
3争点3(被告の行為は,法2条1項4号,同項7号又は同項8号の不正競争
に該当するか)15
【原告の主張】
被告は,原告の営業秘密である本件顧客情報1,2を不正に持ち出し,又は
原告の従業員から本件顧客情報1,2を不正開示行為であることを知りつつ入
手し,これを利用して原告の顧客に営業を行ったものであって,このことは,
次のとおり,法2条1項4号,7号又は8号の不正競争に該当する(法2条120
項4号,7号又は8号の不正競争該当性の主張は,選択的な主張である。)。
(1)法2条1項4号
本件顧客情報1,2は,原告に帰属するものであるところ,被告は,原告
を退職する以前に,被告所有の携帯電話などに本件顧客情報1,2を移し,
これを訴外会社において利用し,本件顧客情報1,2に係る各顧客に営業を25
かけ,同各顧客につき原告から訴外会社へと保険代理店を変更する契約を取
り付けたものである。被告には,本件顧客情報1,2を手元に留保する権限
はないから,これを原告の許諾なく持ち出す行為(携帯電話の登録情報を削
除しないなどの行為)は,法2条1項4号の「不正の手段による取得」に当
たり,また,これを利用することは不正に取得した営業秘密を「使用した」
といえるから,これらの被告の行為は,法2条1項4号の不正競争に該当す5
る。
(2)法2条1項7号
本件顧客情報1,2は原告に帰属するものであるところ,まず,本件顧客
情報2の各顧客は,被告が開拓した顧客ではなく,本件顧客情報2は,被告
が同顧客の担当者として業務を行う上で,原告から被告に開示されたもので10
あるから,法2条1項7号が規定する保有者から示された営業秘密に当たる。
また,本件顧客情報1についても,同じく原告内で営業秘密として一括管理
され,被告には守秘義務等が課されていたことからすれば,実質的に,原告
から示されたものというべきであり,本件顧客情報1も,同号が規定する保
有者から示された営業秘密に当たる。15
被告は,訴外会社において,本件顧客情報1,2を使用してその各顧客に
対して営業活動を行ったものであるところ,被告が,原告を退職する際に,
被告が担当する契約が原告に帰属することを確認し,在職中に知り得た顧客
の情報等を基に競業的な行為をしない旨記載のある誓約書を提出しているこ
とからすれば,被告の行為が原告に損害を与え,不正な利益を得ることがで20
きることを理解していたといえ,不正の利益を得る目的又は原告に損害を与
える目的で,営業秘密である本件顧客情報1,2を使用したといえる。
以上によれば,被告の行為は,法2条1項7号に該当する。
(3)法2条1項8号
被告は,原告を退職した後,原告の従業員であるBからLINEを通じて,25
本件顧客情報1,2を写真で送ってもらい,これを,各顧客に対する営業活
動に使用したものである。そうすると,Bが被告に対して本件顧客情報1,
2を開示した行為は,法2条1項7号が規定する不正開示行為に該当し,被
告は,かかる漏洩行為が不正開示行為であることを認識した上で,本件顧客
情報1,2を取得し,これを使用したものであるから,被告の行為は同法2
条1項8号の不正競争に当たる。5
【被告の主張】
被告の行為は,次のとおり,法2条1項4号,7号,8号のいずれの不正競
争にも該当しない。
まず,本件顧客情報1については,そもそも被告に帰属する情報であるから,
不正取得行為に当たるとはいえない。本件顧客情報1の各顧客の契約が変更に10
なったのは,原告が十分にフォローできていなかったことが原因で,契約をと
り逃しただけである。
また,本件顧客情報2の各顧客は,被告が担当していたものであるところ,
被告以外に原告において同各顧客と面識のある者はおらず,被告が本件顧客情
報2を持ち出したものではない。上記各顧客については,いずれも契約満了時15
に同各顧客の方から被告に連絡があり,被告と契約したいと言われたものであ
り,不正取得行為もなければ,不正使用行為もない。Bも,本件顧客情報1,
2が被告に帰属するものであるから,親切心で被告に連絡したものであるにす
ぎない。
4争点4(債務不履行に基づく損害賠償請求の可否)20
【原告の主張】
被告は,原告への入社時に誓約書等に署名し,被告の行った全契約が原告に
帰属することを認め,在職中に知り得た原告及び顧客の一切の情報を不正に使
用したり,漏洩しないことを誓うとともに,原告からの退職時にも誓約書に署
名し,顧客情報に関する複製物を含む一切の資料を原告に返還し,被告におい25
てこれを保有していないこと,原告在職中に知り得た顧客情報及び職務遂行上
知り得た一切の情報を基に競業的な行為を行わないことを誓っている。また,
原告の就業規則には,退職者が原告のいかなる情報も利用し,運用してはなら
ない旨が定められている。
そうすると,被告は,原告の情報を不正使用しない義務,顧客情報に関する
複製物を含む一切の資料を返還する義務,顧客情報等を用いて競業行為を行わ5
ない義務を負っていたものであるところ,それにもかかわらず,本件顧客情報
1,2を持ち出し,これを使用して本件顧客情報の各顧客に対して営業を行い,
同各顧客と契約を締結したものであるから,被告のかかる行為は上記義務に違
反するものであり,被告は債務不履行責任を負う。
【被告の主張】10
原告の上記主張は争う。
被告は,自由競争の範囲内で保険契約者の意向に沿った行為をしたにすぎな
い。原告が契約を失ったのは,本件顧客情報1の各顧客については,被告の関
係者であるから当然であり,本件顧客情報2の各顧客については,原告の怠慢
からである。15
5争点5(不法行為による損害賠償請求の可否)
【原告の主張】
被告が,原告に帰属する本件顧客情報1,2を使用する行為は,自由競争の
範疇を超える悪質性の高い行為であり,不法行為に該当する。
【被告の主張】20
原告の上記主張は争う。
被告は,自由競争の範囲内で保険契約者の意向に沿った行為をしたにすぎな
い。原告が契約を失ったのは,本件顧客情報1の各顧客については,被告の関
係者であるから当然であり,本件顧客情報2の各顧客については,原告の怠慢
からである。25
6争点6(損害の有無及びその額)について
【原告の主張】
(1)原告の逸失利益
被告の不正取得行為,不正使用行為のようなものが介在しなければ,通常
は,顧客において一度選んだ保険代理店を変更することはないことにも鑑み
ると,本件顧客情報1,2の各顧客のいずれについても,被告の行為がなけ5
れば,原告を保険代理店とする契約の更新が行われていたはずである。その
場合,同各顧客の契約は,少なくとも5年間は延長されていたといえる。そ
して,同各顧客に係る1年間の保険料収入の合計額は,本件顧客情報1,2
の各顧客を併せて435万9320円であり,このうち原告の取得する手数
料は,保険料収入の20%である。10
そうすると,原告の逸失利益は,次のとおり,合計435万9320円で
ある。
(計算式)435万9320円×0.2×5=435万9320円
(2)弁護士費用
本訴訟に係る弁護士費用の合計額としては,上記(1)の金額の1割に当たる15
43万5932円が相当である。
(3)損害額合計
原告の被った損害額の総計は,上記(1)及び(2)の合計額である479万5
252円である。
【被告の主張】20
原告の上記主張は争う。
そもそも原告に損害は発生していない。原告が問題とする本件顧客情報1,
2に係る顧客のうち,被告の関係者である10名(本件顧客情報1に係る顧客)
はもとより,その他の3名(本件顧客情報2に係る顧客)についても,その契
約は被告に委ねられていたものであるから,これらの顧客が原告と契約を継続25
する選択肢はなかったものである。
第4当裁判所の判断
1前記前提となる事実に,各項末尾の証拠等を併せれば,次の各事実を認める
ことができる。
(1)被告は,平成19年7月,AIU保険会社に研修生として入社し,同社の
保険商品を勧誘,販売していたところ,被告がAIU保険会社の研修生時代5
に獲得した保険契約に係る各顧客については,被告が原告に入社するに当た
り,原告が,AIU保険会社に対して20万3505円を支払うことにより,
保険代理店として同各顧客を担当することとなった(甲4,弁論の全趣旨)。
(2)被告は,原告に対し,平成21年9月24日付け「誓約書兼同意書」を提
出し,①原告に在籍中及び退職後,在籍中に知り得た原告及び原告の取引先10
(顧客)の一切の情報を業務外の目的に使用するなどの不正使用や,当該情
報を知る必要がある会社の従業員以外の者への開示をしないこと,及びこれ
らの情報の取扱いに関する原告の指示を守り,秘密を保持すること,②在職
中,原告から使用を許可されるパソコン等の機器,顧客の情報が含まれた書
類,CD-ROM・フロッピーディスク等の記録媒体その他一切の資料を会15
社の指示に従って管理し,退職する場合には,その一切(複製物を含む)を
原告に返還することを誓約した(甲2)。
(3)原告においては,本件顧客情報1,2につき,保険契約者の契約者名,住
所,電話番号,加入している保険会社名,保険種目,保険期間,銀行口座情
報等の顧客情報を電子データ化して,社内のデータベースにおいて一括管理20
するとともに,同様の情報が記載されている保険契約の際に作成された本件
申込書控えを,ファイルに綴じた上で鍵のかかるロッカーで保管していた
(甲5,6,14,15,証人B,原告代表者,弁論の全趣旨)。
(4)原告においては,本件申込書控えが保管されていたロッカーにつき,執務
の都合により就業時間中は施錠していなかったが,就業時間外はこれを施錠25
し,その鍵は原告代表者ないし営業部長のBにおいて管理しており,原告の
従業員であっても自由にアクセスできなかった(証人B,原告代表者,弁論
の全趣旨)。
(5)原告においては,本件顧客情報1,2が管理されているデータベースは,
原告住所地にあるデスクトップパソコンにおいてのみ閲覧可能としており,
また,パソコンを起動するためには,会社用のパスワードと個人用のパスワ5
ードをそれぞれ入力する必要がある設定としており,さらに,データベース
にアクセスするためには,更に別のパスワードを入力する必要がある設定と
していた。さらに,データベースにアクセスするためのパスワードは,3か
月に1回の頻度で変更されており,また,パソコン等の社外持ち出しは禁止
していた(甲14,15,16,証人B,原告代表者)。10
(6)原告の従業員は,月に1回行われる保険会社主催の情報管理等に関するミ
ーティングに交代で参加しており,被告もこれに参加していた(甲14,1
5,弁論の全趣旨)。
(7)被告は,原告に在籍していた当時,本件顧客情報1の各顧客の連絡先を被
告の所有する携帯電話に登録し,同各顧客にはこの携帯電話の番号を教えて15
連絡をとっており,本件顧客情報1の顧客(株式会社C)が,保険契約の満
期に際し,同社の方から被告に連絡をとったことがあった(乙4の1,被告
本人,弁論の全趣旨)。
(8)被告は,原告に在籍していた当時,本件顧客情報2の各顧客の連絡先を原
告から支給された携帯電話に登録し,同各顧客にはこの携帯電話の番号を教20
えて連絡をとっていた。同各顧客には,被告の所有する携帯電話の番号は教
えていなかった(被告本人)。
(9)被告は,原告を退社するに当たり,平成27年7月31日付け「誓約書」
を提出し,①原告に在職中に知り得た原告及び原告の取引先(顧客)の一切
の情報を退職後も秘密として保持すること,②原告から使用を許可されたパ25
ソコン等の機器,顧客の情報が含まれた書類,CD-ROM・フロッピーデ
ィスク等の記録媒体その他一切の資料を原告に返還し,被告においてこれら
の一切の情報を保有していないこと,③在職中に知り得た原告及び顧客の情
報並びに職務遂行上知り得た一切の情報を基に競業的な行為を行わないこ
とを誓約した(甲8)。
(10)被告は,原告を退職する際,原告に対し,原告から支給された携帯電話を5
返却した(被告本人)。
2争点1(本件顧客情報1の原告への帰属の有無)について
上記1(1)のとおり,被告がAIU保険会社の研修生時代に獲得した保険契
約に係る各顧客(本件顧客情報1の各顧客)については,被告が原告に入社す
るに当たり,原告が,AIU保険会社に対して20万3505円を支払うこと10
により,保険代理店として同各顧客を担当することとなったものであり,その
情報の具体的内容は,原告を担当代理店とする保険契約を締結していた顧客の
契約者名,住所,電話番号,加入している保険会社名,保険種目,保険期間,
銀行口座情報等である。
すなわち,本件顧客情報1は,契約者名,住所,電話番号などの顧客の個人15
情報と,保険会社名,保険種目,保険期間などの保険契約に係る情報とから構
成されるものである。そうすると,本件顧客情報1は,その各顧客に係る契約
を取り扱う主体である原告に帰属するものであると認めるのが相当というべ
きである。
この点,被告は,本件顧客情報1の各顧客は,被告が自らの人脈で開拓した20
顧客であるから,本件顧客情報1は被告に帰属するものであると主張する。し
かし,上述のとおり,本件顧客情報1は,あくまで保険契約に係る情報を含む
ものであり,私的に管理している情報とは区別されるべきものであるから,原
告が取り扱う保険契約に係る情報をも含む本件顧客情報1が,原告の一従業員
であった被告個人に帰属するものとはおよそ認めることができない。25
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
3争点2(本件顧客情報1,2は営業秘密(法2条4項)に該当するか)
法2条4項にいう「秘密として管理されている」といえるためには,当該情
報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるような措
置が講じられ,当該情報に接した者が,これが秘密として管理されていること
を認識し得る程度に秘密として管理している実体があったことを要するとい5
うべきである。
そこで検討するに,まず,原告の規模についてみると,前記第2の1(7)のと
おり,原告は,原告代表者,その妻及び被告のほか,従業員が7名在籍してい
るという,10名程度の小規模な会社(保険代理店)であり,保険代理店であ
る原告の従業員らにおいて,本件顧客情報1,2の内容に照らし,これが営業10
秘密であることは十分認識できたというべきところ,前記1(3)及び(4)のとお
り,本件申込書控えはファイルに綴じた上で鍵のかかるロッカーで保管し,勤
務時間外は原告代表者ないし営業部長において鍵を管理しており,また,本件
顧客情報1,2のデータは,アクセスするためのパスワード(3か月に1回更
新)を必要とする設定としていたというのである。加えて,パソコン等の社外15
持ち出しの禁止(前記1(5)),被告を含む原告の従業員の,保険会社主催の情
報管理等に関する月1回のミーティングへの参加(前記1(6)),入社時や退職
時の誓約書等の提出(前記1(2),(9))などを併せ総合考慮すれば,原告にお
いては,本件顧客情報1,2にアクセスした者に,当該情報が営業秘密である
ことが認識できるような措置が講じられ,当該情報に接した者が,これが秘密20
として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体
があったというべきである。
この点,被告は,本件顧客情報1,2の秘密管理性について,電子データは
従業員であれば誰でも見られたこと,本件申込書控えが保管されていたロッカ
ーは,鍵がかかっていなかったことを指摘する。25
しかし,本件顧客情報1,2に係る電子データが,原告の社内にあるデスク
トップパソコンからのみアクセスが可能なデータベースにおいて,3か月に1
回の頻度で変更されるパスワードを含む複数のパスワードを用いて管理され
ている状況の下,原告代表者,その妻及び被告を除けば,従業員は7名という
人数が,その電子データを見ることができたからといって,本件顧客情報1,
2に係る秘密管理性が否定されるものとはいえない。また,前記のとおり,本5
件申込書控えが保管されていたロッカーは,就業時間中は施錠されていなかっ
たものの,このこと自体は,原告の規模に照らし執務の都合によるものとして
営業秘密の取扱いとしても首肯できる範疇にあるといえ,さらに,就業時間外
は上記ロッカーを施錠し,その鍵を原告代表者ないし営業部長において管理し
ており,原告の従業員であっても自由にアクセスできなかったことが認められ10
ることも併せれば,営業秘密性を否定できるまでの事情に当たるものとはいえ
ない。
そして,前記2のとおり,本件顧客情報1,2は原告に帰属するものである
といえ,その内容自体に照らし,有用性が認められる(当事者間で争いもない。)。
また,本件顧客情報1,2の性質・内容に基づき,前記1の各事実に照らして15
検討すれば,その非公知性も肯定できるというべきである(被告は,本件顧客
情報1,2が被告に帰属することを前提に,その非公知性を争うが,上記説示
に照らし,被告の同主張はその前提を欠くものであって,採用の限りでない。)。
以上によれば,本件顧客情報1,2は,原告の営業秘密(法2条4項)に該
当することが認められる。20
4争点3(被告の行為は,法2条1項4号,同項7号又は同項8号の不正競争
に該当するか)
(1)原告は,本件顧客情報1,2に係る被告の行為は,法2条1項4号,同項
7号又は同項8号の不正競争に該当する旨を選択的に主張するところ,本件
事案に鑑み,法2条1項8号の不正競争該当性から検討する。25
アBから被告に対する本件顧客情報1,2の送付について
原告は,被告が,原告を退職した後に,原告の従業員であったBから,
LINEを通じて,本件顧客情報1,2を写真で送ってもらった旨主張す
るところ,Bから被告に本件顧客情報1が送付されたことは,当事者間で
争いがない。そして,本件顧客情報2についても,証拠(甲15,証人B)
によれば,Bが被告に対して顧客情報を送った趣旨は,被告が原告在籍時5
に担当していた顧客について,保険契約の満期が迫っていたにもかかわら
ず,連絡がとれないことから,被告を問い詰めるためであったことが認め
られ,Bは,原告において開拓した顧客(本件顧客情報2記載の各顧客)
を含め,被告が原告在籍時に担当していた全顧客について,問合せをした
とみるのが自然であって,これに照らせば,Bから被告に対し,本件顧客10
情報1のみが送付されたというのは不自然であり,本件顧客情報2につい
ても,Bから被告に対して送付されたものと認めるのが相当である。
イ被告による本件顧客情報1,2の使用について
(ア)本件顧客情報2の各顧客に対する営業行為について
本件顧客情報2の各顧客はもともと原告の顧客であって被告が開拓し15
た顧客ではなく,本件顧客情報1の各顧客と比べ,被告との結び付きは
さほど強いとはいえない。しかして,前記1(7)及び(9)のとおり,被告
は,原告在籍時,被告が担当していた原告の顧客である本件顧客情報2
の各顧客の連絡先を原告から支給された携帯電話に登録し,同各顧客に
対してはこの原告支給の携帯電話の番号を教えており,被告の所有する20
携帯電話の番号は教えていなかったものであるところ,被告は,原告を
退職する際に,同携帯電話を原告に返却しており,Bから送られた本件
顧客情報2以外に,被告が本件顧客情報2の各顧客の情報を保有してい
たことを客観的,具体的に認めるに足りる証拠はない。
そうすると,Bから被告に対する本件顧客情報2の送付は,原告の従25
業員であるBにおいて,秘密を守る法律上の義務に違反して,原告の営
業秘密を,原告からの退職後,当該営業秘密を保有していなかった被告
に対して改めて示したものであるから,法2条1項8号にいう不正開示
行為であるといわざるを得ない。そして,本件顧客情報2は,各顧客の
保険期間(満期)など,保険代理店変更を勧誘するのに必要な情報が含
まれており,これに,前記第2の1(9),前記1(2)の各事実を併せれば,5
被告は,原告からの退職後等において,Bから送られた本件顧客情報2
について,その送付が不正開示行為であることを知りながら,これを取
得し,その取得した本件顧客情報2を使用して,同各顧客に対して営業
を行ったものというべきである。
この点,被告は,本件顧客情報2の各顧客につき,同各顧客の聴取書10
等(乙4,5)を基に,同各顧客の方から被告に連絡がきて契約に至っ
た旨を主張する。
しかし,上記説示のとおり,被告は,原告を退職する際に,原告から
支給された上記携帯電話を返却しているものである。そして,被告が指
摘する上記聴取書等(乙4,5)の体裁や内容に照らしても,顧客の方15
から被告に連絡がきた経緯を客観的,具体的に認めるには至らず,上記
説示を覆すには至らないというべきである。この点,被告は,本件顧客
情報2の顧客の1人である別紙記載10の顧客(D)について,同顧客
の方から被告に対しFacebookのメッセージが来たとして,これ
を聴取書中に引用しているが,同顧客の原告を担当代理店とする保険契20
約の保険期間は,平成27年8月5日から平成28年8月5日であり,
同年12月7日に担当代理店を変更したことが認められるところ(甲6
(32頁),弁論の全趣旨),上記メッセージは,平成27年9月2日の
ものであるから,このような時期の連絡をもって,訴外会社との契約に
至る契機となったものと認めるのは相当とはいえない。25
(イ)本件顧客情報1の各顧客に対する営業行為等について
本件顧客情報1の各顧客はもともと被告がAIU時代に開拓した顧客
であり,本件顧客情報2の各顧客と比べ,被告との結び付きは弱いとは
いえないものであり,また,被告は,原告在籍時,本件顧客情報1の各
顧客の連絡先を,原告から支給された携帯電話ではなく,被告の所有す
る携帯電話に登録し,同各顧客にはこの携帯電話の番号を教えて連絡を5
とり,通常の業務を行っていたものである。このことに,本件顧客情報
1の顧客(株式会社C)が,保険契約の満期に際し,同社の方から被告
に連絡をとっていることが認められること(被告の所有する携帯電話に
連絡があったとしても不自然とはいえない。)などを併せ考慮すれば,本
件顧客情報1の各顧客については,本件顧客情報2の各顧客と異なり,10
被告が,原告からの退職後も,本件顧客情報1の各顧客から直接連絡を
受けるなどして本件顧客情報1記載の情報を把握し,同各顧客への営業
を行ったことが合理的に推認され,被告が,本件顧客情報1を使用して
各顧客に対して営業を行ったとは認めるに足りないというほかない。
また,前記のとおり,Bが被告に対して顧客情報を送った趣旨は,被15
告が原告在籍時に担当していた顧客について,保険契約の満期が迫って
いたにもかかわらず,連絡がとれないことから,被告を問い詰めるため
であったものである。そして,本件顧客情報1の各顧客はもともと被告
がAIU時代に開拓した顧客であり,本件顧客情報1の各顧客の連絡先
も,被告の原告在籍時から,被告が退職時に返還した原告支給の携帯電20
話(これには本件顧客情報2の各顧客の連絡先が登録されていた。)では
なく,被告の所有する携帯電話に登録されて通常の業務が行われていた
ものである。これらを併せ考慮すれば,Bから被告に対する本件顧客情
報1の送付については,本件顧客情報2の送付とは異なり,原告からの
退職後,当該営業秘密を保有していなかった被告に対して改めて示した25
ものでもなく,その違法性は必ずしも高いものとまではいえず,上記を
もって,法2条1項7号に規定する目的での秘密開示行為や,秘密を守
る法律上の義務に違反した秘密開示行為とまでは評価されないというほ
かなく,これらに係る被告の悪意重過失も認められない。
そうすると,被告において,原告からの退職後等において,Bから送
られた本件顧客情報1については,その送付が不正開示行為であること5
を知りながら,これを取得し,その取得した本件顧客情報1を使用して,
同各顧客に対して営業を行ったものということはできない。
ウ以上によれば,被告においては,本件顧客情報2に関し,Bからの取得,
使用行為につき,法2条1項8号の不正競争に該当するものとして法的責
任が生ずるものであるが,本件顧客情報1に関しては,同号所定の取得,10
使用行為が認められず,これに基づく法的責任が生ずるものではないとい
うべきである。
(2)法2条1項4号又は同項7号の不正競争該当性
ア本件顧客情報2に係る不正競争該当性については,上記(1)のとおり,本
件顧客情報2の各顧客に対する営業行為につき法2条1項8号の不正競争15
に該当するものというべきであり,そうすると,選択的主張と解される法
2条1項4号又は同項7号該当性については,検討する必要がないことと
なる。
イ他方,本件顧客情報1に係る不正競争該当性については,上記(1)の説示
内容に照らせば,被告が,原告からの退職後において,本件顧客情報1を20
使用してその各顧客に対する営業行為を行ったとは認められないものであ
るから,その余の点につき検討するまでもなく,法2条1項7号の不正競
争に該当しないものというべきである。
また,原告は,被告が本件顧客情報1を持ち出した行為が,法2条1項
4号の「不正の手段により営業秘密を取得する行為」に該当すると主張す25
る。しかし,被告が具体的に行った行為は,本件顧客情報1の各顧客の連
絡先を,もともと被告所有の携帯電話に登録していたところ,これを消去
せずに保持して使用し,同顧客に連絡をとったという行為が認められるも
のの,これにとどまり,本件顧客情報1の積極的な持ち出し行為に及んだ
ことを認めるに足りる的確な証拠はない。さらに,上記の被告の行為につ
いて「不正の手段により営業秘密を取得する行為」に当たるかを検討する5
としても,同号の「不正の手段」については,「窃取,詐欺,強迫その他の
不正の手段」と規定されており,刑罰法規に抵触するような行為及び社会
通念上これと同視し得る程度の高度の違法性が認められるような行為をい
うものであると解されるところ,被告は,上記のとおり,同人が開拓した
本件顧客情報1の各顧客の連絡先を,原告支給の携帯電話ではなく被告所10
有の携帯電話に登録し,これを消去せずに保持して使用し,同各顧客に連
絡をとったにとどまるものである。このような被告の行為内容やその態様
に照らすと,これをもって,上記のような高度の違法性が認められるよう
な行為であるということは困難であり,被告の上記行為は上記「不正の手
段により営業秘密を取得する行為」に当たるとはいえないというほかない。15
そうすると,原告の上記主張は採用することができない。
5争点4(債務不履行に基づく損害賠償請求の可否)
本件顧客情報2に係る不正競争該当性については,上記4(1)のとおり,本件
顧客情報2の各顧客に対する営業行為につき法2条1項8号の不正競争に該
当するものというべきであり,これに基づく請求を認容すべきであるから,こ20
れについての予備的請求と解される債務不履行に基づく損害賠償請求につい
ては,検討する必要がないこととなる。
そこで,本件顧客情報1に係る被告の行為につき,債務不履行に基づく損害
賠償請求が認められるかにつきみるに,原告は,被告が,本件顧客情報1を持
ち出し,これを使用して本件顧客情報1に係る各顧客に対して営業を行い,同25
各顧客と契約を締結したことが,原告の情報を不正使用しない義務,顧客情報
に関する複製物を含む一切の資料を返還する義務,顧客情報等を用いて競業行
為を行わない義務に違反する旨主張する。
しかし,上記4で説示したとおり,本件顧客情報1の各顧客については,本
件顧客情報2の各顧客と異なり,そもそも被告が,原告からの退職後,Bから
送られた本件顧客情報1を使用して各顧客に対して営業を行ったとまではい5
えないものであって,そうである以上,被告が各顧客に対して営業を行ったこ
とを前提とする債務不履行に係る原告の上記主張は,その前提を欠き,理由が
ないというべきである。
6争点5(不法行為による損害賠償請求の可否)
本件顧客情報2に係る不正競争該当性については,前記4(1)のとおり,本件10
顧客情報2の各顧客に対する営業行為につき法2条1項8号の不正競争に該
当するものというべきであり,これに基づく請求を認容すべきであるから,こ
れについての予備的請求と解される不法行為に基づく損害賠償請求について
は,検討する必要がないこととなる。
そこで,本件顧客情報1に係る被告の行為につき,不法行為に基づく損害賠15
償請求が認められるかにつきみるに,原告は,被告が本件顧客情報1を使用し
た行為は,自由競争の範疇を超える悪質性の高い行為であるとして,被告が不
法行為責任を負う旨主張する。
しかし,前記4で説示したとおり,本件顧客情報1の各顧客については,本
件顧客情報2の各顧客と異なり,そもそも被告が,原告からの退職後,Bから20
送られた本件顧客情報1を使用して各顧客に対して営業を行ったとまではい
えないものであって,そうである以上,被告が各顧客に対して営業を行ったこ
とを前提とする不法行為に係る原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がな
いというべきである。
7争点6(損害の有無及びその額)25
(1)以上によれば,原告は,被告の本件顧客情報2の各顧客に対する営業行為
(法2条1項8号の不正競争に該当)に因り損害を被ったというべきである
ところ,原告は,被告の営業行為がなければ,各顧客のいずれについても,
原告を保険代理店とする契約の更新が行われ,その場合,契約は,少なくと
も5年間は延長されていたといえるとして,その間の手数料を,原告の逸失
利益として主張する。5
そこで検討するに,前記認定事実に証拠(甲15,証人B)を併せれば,
本件顧客情報2の各顧客につき,原告の従業員であったBが,保険契約の満
了が迫っていたため連絡をとることを試みていたこと,同各顧客においては,
保険契約の内容自体は変えることなく,訴外会社との間で各契約を継続して
いることがそれぞれ認められ,これらからすれば,被告の営業行為がなけれ10
ば,本件顧客情報2の各顧客は,担当代理店を原告としたまま,保険契約を
更新していたものというべきである。
もっとも,実際に担当代理店を変更している上記各顧客について,本件全
証拠をみても,被告の営業行為(法2条1項8号の不正競争に該当)がなか
った場合に契約の担当代理店としての原告との関係が,原告が主張するよう15
な5年間もの間継続したことを客観的に裏付けるものは見当たらないところ
であって,本件顧客情報2の各顧客の保険契約の保険期間が1年間であるこ
となど本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば,被告の営業行為(法2条1項
8号の不正競争に該当)がなかった場合に契約の担当代理店としての原告と
の関係が継続した期間は,長くとも2年程度と認めるのが相当である。20
(2)そうすると,本件顧客情報2の各顧客に係る年間保険料は,別紙記載1の
顧客(株式会社E)が33万9840円,別紙記載2の顧客(株式会社F)
が40万1760円,別紙記載10の顧客(D)が14万3040円である
こと,これらの保険料収入により原告が得られる手数料は20%であること
がそれぞれ認められるから(甲10,弁論の全趣旨),原告の逸失利益は,上25
記保険料の合計額の2年分である176万9280円の20%である,35
万3856円と認められる。
(計算式)176万9280円×20%=35万3856円
(3)そして,本件事案の性質や内容,本件訴訟の審理経過など,本件に顕れた
一切の諸般の事情を総合すると,被告の行為と相当因果関係のある弁護士費
用は,15万円と認めるのが相当である。5
(4)以上によれば,被告の不正競争による原告の損害額は,上記(2)及び(3)の
合計額である50万3856円であると認められる。
8小括
その他,当事者双方は,縷々主張するが,上記説示を左右するに足りるもの
はない。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,被告は,本件10
顧客情報2の各顧客につき,法2条1項8号に規定する不正競争に当たる行為
を行い,同各顧客の保険契約に係る保険代理店を,原告から訴外会社に変更さ
せ,原告の営業上の利益を侵害し,弁護士費用相当額を含めて50万3856
円の損害を与えたものというべきであるが,本件顧客情報1の各顧客について
は,被告において不正競争を行ったとはいえず,これらの各顧客に係る債務不15
履行又は不法行為についても認められないというべきである。
9結論
以上によれば,原告は,被告に対し,法4条に基づく損害賠償請求として,
損害金50万3856円及びこれに対する被告の不正競争に当たる行為より
も後の日である平成28年12月7日から支払済みまで民法所定の年5分の20
割合による金員の支払を求めることができる。
よって,原告の請求は,この限度で理由があるからこれを認容し,その余は
理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部25
裁判長裁判官田中孝一
裁判官奥俊彦
裁判官本井修平は,てん補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官田中孝一
(別紙)省略

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