弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中有罪の部分を破棄する。
     本件を岡崎簡易裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人野田底司の控訴趣意書記載の通りであるからこれを引
用する。
 同控訴趣意第一について。
 本件訴訟記録によつて考察するに、本件は検察官より昭和二十六年六月二十六日
附起訴状によつて被告人に対し、被告人が昭和二十五年十一月上旬頃、愛知県東加
茂郡a町大字b字c町d番地の当時の居宅において、Aに対し、「B発電所の電線
を盗つて来れば、一万円位になるから盗つて来てくれ、後は俺が責任を持つ」と申
し向け、同人をして窃盗の決意をなさしめ、C、Dの両名と共謀の上、その頃、同
郡e村大字f字g地内E株式会社B発電所の北方約百五十米の地点の県道の電柱に
架設してあつた同発電所責任者F管理の第二種絶縁五粍硬銅線約二百米(価格八千
円相当)を窃取せしめて教唆したという窃盗教唆の事実について起訴し、原審にお
いてこの事実について審理したのであるが、その後昭和二十六年八月二十二日附追
起訴状によつて検察官より被告人が盗品である情を知りながらC等が前記B発電所
附近において窃取したE株式会社所有の第二種絶縁五粍硬鋼線長さ約二百米重量約
十貫匁を、昭和二十五年十一月上旬頃前記e村大字h地内県道より挙母市大字i字
jk番地G方まで運搬したという贓物運搬の事実について追起訴をなし、原審にお
いて、この事実について審理を進め、その審理中、検察官は、更に昭和二十六年十
月十三日附訴因の変更請求書により、追起訴の贓物運搬の事実を被告人が贓物であ
る情を知りながら、昭和二十五年十一月上旬頃、前記e村大字h地内においてAよ
り同人等が前記B発電所の北方約百五十米の県道上の電柱より窃取した第二種絶縁
五粍硬銅線長さ約二百米重量約十貫匁の買受契約をなし、同日同人の代人Cより、
同村大字f地内山林においてこれが引渡を受け、以て故買をしたという贓物故買の
事実に訴因を変更したのであるが、原審は右贓物故買の事実について、有罪の判決
をなし、前記窃盗教唆の事実については無罪の判決をなしたものである。論旨は、
前記窃盗教唆の事実と右贓物運搬及び故買の事実とは、同一性を失わないのである
から、右贓物運搬及び故買の事実について<要旨第一>の追起訴は、二重起訴であり
これに対しては公訴棄却の裁判をなすべきものであるというにある。然し、前記 要旨第一>窃盗教唆の事実と右贓物運搬又は故買の事実との間には犯罪の対象である
物が、E株式会社B発電所附近の県道の電柱に架設してあつた同発電所責任者F管
理の第二種絶縁五粍硬銅線約二百米である点においては全く同一であるが、その犯
行の日時については、いずれも昭和二十五年十一月上旬頃となつていても両者の犯
行日時は接着した時期ではなく、その犯行場所については、前者は愛知県東加茂郡
a町大字b字c町d番地の当時の被告人の居宅であり、後者は同郡e村地内又は挙
母市内であるから、相当な距離を距てた場所であり、その基本たる事実も全く異つ
たものであるから、その間に同一性があるとはいわれないのでその同一性のあるこ
とを前提とする論旨は、採用することができない。論旨摘示の最高裁判所の決定
は、犯行の日時場所、対象たる物が同一である窃盗と贓物運搬との事実関係に関す
るものであつて、本件には適切ではない。論旨は理由がない。
 然し、職権を以て調査するに、
 <要旨第二>(一) 原判決は被告人に対し、贓物故買の事実について、有罪の認
定をして懲役六月及び罰金五百円に処し、未決勾留日数中百二十日を右
懲役刑に算入する旨を言い渡している。被告人は、前説示のように先づ窃盗教唆の
事実について、起訴されたのであるが、記録中の勾留状によれば、被告人は前記窃
盗本犯であるA等との共同正犯として勾留状を発付され、その執行を受けて引き続
き勾留されていたもので、原判決言渡後の昭和二十六年十月十六日勾留を取り消さ
れたものである。そして追起訴にかかる贓物運搬の事実又はその後訴因変更された
贓物故買の事実について、新たに別個の勾留状が発付された形跡の認められない本
件においては、その未決勾留は、前記窃盗教唆の事実についてなされたものと認め
るの外なく、而も前記窃盗教唆の事実については前説示のように原判決において無
罪の言渡をしているのであるから、右の未決勾留の日数を、原判決において有罪の
認定した贓物故買の事実について言い渡した懲役刑の中に算入することはできない
ものといわなければならない。そうであるから、原判決が右の未決勾留日数中百二
十日を右懲役刑に算入する旨を言い渡した点は、法令の適用に誤があり、その誤は
判決に影響を及ぼすことが明らかであるというべきである。
 (二) 叉原判決は、訴訟費用中証人Hに支給した旅費日当を、被告人の負担と
する旨を言い渡しているが、原審においては、Hを証人として尋問しているけれど
も、同証人に旅費日当を支給した形跡は、記録中に全く見当らない。そうだとすれ
ば、原判決はこの点においても、法令の適用に誤があり、その誤は判決に影響を及
ぼすことが明らかであるといわなければならない。
 <要旨第三>(三) 次に原判決は、判示贓物故買の事実を認定する証拠として他
の証拠とともに、Fの被害上申書の記載及び証人A、Cの原審公廷にお
ける供述を採用している。訴訟記録を調査するに、右の被害上申書及び証人の供述
は、原審において、当初の起訴にかかる窃盗教唆の事実について審理している間
に、取り調べられたものであり、原判決において有罪の認定を受けた贓物故買の事
実について審理している間に、(訴因変更前の贓物運搬の事実について審理を始め
た時より以後を含めて)適法な証拠調がなされたものでないことは、原審第七回乃
至第十回公判調書の記載に徴して明らかであるから、右の被害上申書及び証人の供
述は、判示贓物故買の事実を認定する証拠となり得ないものであるといわなければ
ならない。この点において、原審の訴訟手続には法令違反があるというべきてあ
る。(もつとも原判決は右の被害上申書及び証人の供述の外に、原審における検証
の結果、原審における証人A、C、I、J、Kの各尋問調書の記載、被告人の検察
官に対する供述調書の記載を証拠として援用してあり、前記の不適法な証拠を除外
しても、判示事実を認定し得ないこともない。従つて、この違背の点のみであれ
ば、判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいわれないとして、原判決を破棄
するに至らなかつたかも知れない。)
 (四) 更に、原判決は、累犯加重の原因である前科を認定する証拠として、被
告人の原審公庭における供述と前科調書を採用しているが右(三)と同趣旨の訴訟
手続違反があるということができる。
 もつとも、累犯加重の原因たる前科を認定するには、厳格な証明を必要としない
とする見解もあり、仮りにこの見解に従うとするも、原判決において有罪と認定し
た贓物故買の事実についての審理をする以前に取り調べた証拠によることは、適法
であるとはいわれないというのが相当であると思料する。
 (五) なお、原審第七回公判調書を検するに、検察官より、C及びAの検察官
に対する各供述調書の取調を請求したのに対し、被告人及び弁護人がこれを証拠と
することに同意しなかつたのに拘らず、原裁判所において、その証拠調をしたこと
が認められる右の各供述調書は、刑事訴訟法第三百二十一条の被告人以外の者の供
述を録取した書面であるから、被告人においてこれを証拠とすることに同意しない
限り、同条第一項第二号の条件を具備する場合においてのみ証拠能力を認められる
ものである。原審公判調書を査閲するに、右各供述調書が同条項の規定により証拠
能力を有する場合であるとは認めることができないので、原審がこれについて証拠
調をしたのは、訴訟手続に違反があるというべきである。(もつとも原判決は、こ
れを証拠として採用していないので判決に影響を及ぼすことはないと認めることが
できる。)
 以上説示の理由により、原判決は到底破棄を免がれないので、弁護人のその余の
控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条第三百七
十九条に則り、原判決中有罪の部分を破棄し、同法第四百条本文に従い、本件を原
裁判所である岡崎簡易裁判所に差し戻すこととし、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 高橋嘉平 判事 柳沢節夫 判事 山口正章)

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