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平成年(ワ)第号損害賠償請求事件H19.2.13京都地方裁判所161837
平成年(ワ)第号事件番号:161837
H19.2.13裁判年月日:
部:第民事部4
結果:棄却
判示事項の要旨:
介護用ベッドに設計上及び指示・警告上の欠陥があることなどを理由とする,介護用ベ
ッドの製造会社等に対する損害賠償請求が棄却された事例
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告Aに対し,各自6908万3577円及びこれに対する平成13年
12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対し,各自172
9万1577円及びこれに対する平成13年12月2日から支払済みまで年5分の割
合による金員をそれぞれ支払え。
第2事案の概要
本件は,被告パラマウントベッド株式会社(以下「被告パラマウント」という)。
の製造したギャッチベッド(在宅ケアベッドの一種で,背上げと膝上げの角度を調整
することができるベッド)を使用していた亡Cが死亡したことについて,亡Cの相続
人(子)である原告らが,同ベッドに設計上及び指示・警告上の欠陥があり,これに
より亡Cが呼吸不全に陥り死亡したと主張し,被告らに対し,製造物責任,不法行為
及び債務不履行に基づき(被告パラマウントに対しては製造物責任〔設計上の欠陥,
指示・警告上の欠陥〕及び不法行為〔説明義務違反,被告株式会社ニチイ学館に対〕
しては製造物責任〔設計上の欠陥,指示・警告上の欠陥〕及び不法行為〔安全配慮義
務違反・ギャッチベッドの選択義務違反・説明義務違反,被告石黒メディカルシス〕
テム株式会社に対しては債務不履行及び不法行為〔いずれも安全配慮義務違反,説明
義務違反,同ベッドを使用したことにより生じた損害の賠償及びこれに対する亡〕)
Cの死亡した日である平成13年12月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払を求めた事件である。
1争いのない事実等
()当事者等(甲2の1,2,甲23の1,2,甲98,弁論の全趣旨)1
ア被告パラマウントは,金属製及び木製各種ベッド並びにこれに付帯する什器備
品の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ株式会社アイタック(旧商号は「株式会社サンルーム,以下,商号変更の前」
「」。),,後を問わずアイタックというは寝たきり老人・身体障害者用のベット
車椅子等の福祉用具のレンタル,販売並びに研究開発,製造,介護保険法に基づ
く居宅介護支援事業等を目的とする株式会社である。
被告株式会社ニチイ学館(以下「被告ニチイ」という)は,介護保険法に基。
づく福祉用具貸与等の居宅サービス事業等を目的とする株式会社である。被告ニ
チイは,平成14年4月1日,アイタックを吸収合併した。
ウ被告石黒メディカルシステム株式会社(旧商号は「石黒医科器械株式会社,」
以下商号変更の前後を問わず「被告石黒」という)は,医療機械,器具の販売。
及び修理,介護用機器・介護用品の販売及びレンタル等を目的とする株式会社で
ある。
エ亡Cは,明治44年3月31日生まれ,平成6年6月10日現在身長約165
㎝,体重50.7キログラム(ただし,腹囲は,平成12年当時には約115㎝
となり,平成13年6月5日当時は約120㎝となっていた)の女性であり(甲
31,甲98−18,22頁,平成13年12月2日,90歳で死亡した。)
原告A及び同Bはいずれも亡Cの子であり,亡Cの死亡により,原告らは,亡
Cが生前有していた権利義務を法定相続分(各2分の1)に従い相続した。
(,,,,,,()亡Cの入通院状況等甲3467甲8の1ないし3甲10ないし122
甲13の1,2,甲14,15,18,19,37,甲40の1ないし81,甲8
8,89,93,103,原告A)
ア亡Cは,昭和58年12月19日,脳梗塞,ガス中毒(疑)の診断名でD病院
に入院して治療を受け,その後も入院と退院を繰り返し,昭和63年ころからは
原告Aの介護を受けながら自宅(原告Aの肩書地)で療養生活を送っていた。
イ亡Cは,上記自宅介護が始まった後も,①パーキンソン症候群,②甲状腺機能
低下症,③脳梗塞(左中大脳動脈領域,③骨粗鬆症,④バセドウ氏病,⑤高血)
圧症,⑥心房細動,⑦慢性心不全,⑧狭心症,⑨肺炎等の診断名で入院と退院を
繰り返しており,また入院していない間も,E病院に通院し又は同病院のF医師
の往診を受け,同医師の診察,治療を受けていた。
ウ亡Cは,①呼吸不全,②多発性脳梗塞,③バセドウ氏病の診断名で,平成13
年11月16日G病院に救急搬送され,翌17日入院し,治療を受けたが,同年
12月2日午後6時53分ころ,心不全により死亡した。
()亡Cの介護及びギャッチベッドのレンタル(甲20−2頁,甲22の1,56,3
甲24ないし26,甲33の1ないし4,甲34の1ないし5,甲90,98−1
頁,101,118,119,弁論の全趣旨)
ア亡Cは,平成12年6月1日付けで,被告ニチイとの間で,居宅介護支援契約
(以下「本件支援契約」という)を締結し,同日から,被告ニチイが開設する。
指定居宅介護支援事業所「アイリスケアセンター二条」による居宅サービス計画
,(),作成の支援等を受けることとなり被告ニチイアイリスケアセンター二条は
本件支援契約に基づき,本件ベッドの使用を前提とする介護サービス計画書を作
成した。なお,本件支援契約は,平成13年3月31日をもって解約により終了
している。
イ亡Cは,平成8年6月25日,京都市から日常生活用具として特殊寝台(介護
用ベッド)の給付を受けることとなり,同月26日に納品された被告パラマウン
ト製造のギャッチベッド商品名ハイローアウラベッドKQ165以下旧(「」,「
ベッド」という)を同年7月3日から使用していた。その後旧ベッドのボルト。
が破損し修理を受けたが,原告Aは,これを機会に新しいギャッチベッドを使用
しようと考えた。亡Cは,平成12年5月31日,原告Aを代理人として,被告
石黒との間で,被告パラマウント製造のギャッチベッド(商品名「楽匠KQ−8
03,製造番号MHL・803・・0095−7〔平成7年製造,以下,商」〕F
品名「楽匠KQ−803」のベッドを「本件ベッド」という)のレンタル契約。
を締結した(以下「本件レンタル契約」という。被告石黒は,本件レンタル。)
契約に基づき,アイタックから本件ベッドの提供を受けた上で,亡Cにこれを貸
与し,亡Cは,平成12年6月14日,本件ベッドの納品を受け,同日から本件
ベッドの使用を始めた。なお,亡Cの自宅における本件ベッドの組み立ては,ア
イタックの従業員が行ったものである。なお,亡Cは,上記のとおり修理済みの
旧ベッドを自宅(原告Aの肩書地)に置いていたが,平成12年12月26日に
は,原告Aが修理済みとはいえ不安をぬぐいきれなかったことから,同じ型の新
しい製品と交換してもらい,引き続き自宅に置いていた。
ウなお,亡Cは,平成12年3月28日,京都市から介護保険制度における要介
護5(最重度の介護を要する状態にある)の認定をうけ,同年4月1日から平成
13年12月2日に死亡するまでの間,要介護5を前提とする介護保険の給付を
受けていた。
()本件ベッド及び一般的なギャッチベッドの構造(甲1,39,証人I,弁論の全4
趣旨)
ア本件ベッドの構造及び各部分の名称は別紙1〔甲39−2頁〕に記載のとおり
であり,本件ベッドの床割り(平面図)は別紙2〔乙8〕に記載のとおりである
(なお,以下,本件ベッドのヘッドボード側を「頭側,フットボード側を「足」
側」という。。)
イギャッチベッドは,主な機能として,①背上げ機能,②膝上げ機能を有してい
る。①背上げ機能とは,利用者の背中にあたる部分が電動で起きあがり,利用者
の背中を押し上げ,利用者の上半身を起こす機能である。②膝上げ機能とは,利
用者の脚部にあたる部分が電動で盛り上がり,利用者の脚部を押し上げ上昇させ
る機能である。
ウ旧ベッドをはじめとする従来型のギャッチベッド(以下「従来型ベッド」とい
う。なお,以下,ギャッチベッドを単に「ベッド」ということもある)は,背。
湾曲ボトム(蛇腹状の連結部分)が設けられておらず,背ボトムと腰ボトムが直
結していて,背上げを行う際には,背ボトムが単に屈折する構造となっているの
に対し,本件ベッドは,背ボトムと腰ボトムとの間に,蛇腹状の背湾曲ボトムが
設けられていて,背ボトムが屈折するとともに,背湾曲ボトムが屈曲し,背ボト
ムと背湾曲ボトムの動きにより背上げを行う構造となっている(別紙1参照。)
なお,本件ベッドは,旧ベッドとは異なり,背上げと膝上げを同時に行うこと
はできない構造となっている。
2争点
()本件ベッドに設計上の欠陥があったか(被告パラマウント・被告ニチイに対する1
請求原因事実)
()本件ベッドに指示・警告上の欠陥があったか(被告パラマウント・被告ニチイに2
対する請求原因事実)
()被告パラマウントの説明義務違反の有無(被告パラマウントに対する請求原因事3
実)
()被告ニチイの製造物責任の成否(本件ベッドを組み立てることは「加工」にあた4
るか(被告ニチイに対する請求原因事実))
()被告ニチイの安全配慮義務違反・在宅ケアベッドの選択義務違反の有無(被告ニ5
チイに対する請求原因事実)
()被告ニチイの説明義務違反の有無(被告ニチイに対する請求原因事実)6
()被告石黒の安全配慮義務違反・説明義務違反の有無(被告石黒に対する請求原因7
事実)
()因果関係8
()損害9
3争点に関する当事者の主張
()争点()について11
(原告らの主張)
ア本件ベッドは,背上げ,膝上げの支点位置が人体が本来曲がるべき位置と一致
・適合していない等,背上げ時及び膝上げ時に利用者の胸部及び腹部を圧迫する
構造となっている。具体的には,
(ア)背上げの際,ギャッチベッドの背ボトムが折れ曲がる支点は,利用者の坐骨
結節の位置にあるべきであるところ,本件ベッドの場合,背ボトムが折れ曲が
る支点の位置は,背板(背ボトム)の長さが他社製造の同種のベッドと比べ短
いため,背ボトムと背湾曲ボトムの境界線,すなわち背ボトムの上端から約6
,。,1㎝の位置にありこれは利用者の背中部分に位置することとなるそのため
本件ベッドを使用し背上げを行うと,利用者の背中が途中から曲げられてしま
う。
また,本件ベッドの背ボトムの回転中心は,背上げとともに徐々に足側へ移
動し,その後再度頭側に移動するが,常に利用者の坐骨結節及び大転子より頭
側にある。その結果,背上げの角度が大きくなると,背ボトムの回転中心軸が
背中の上の方に位置することとなり,回転中心軸より足側の部分の利用者の身
体は固定され,回転中心軸より頭側の部分だけが曲げられて背上げが行われる
,,。ことになりさらにこれは背上げ角度が最大に近づくにつれ急激に行われる
このように,本件ベッドは,背上げ時に利用者の背中を途中から曲げてしまう
,,,構造をもっており本件ベッドによる背上げを行うと利用者の背骨が前傾し
胸部及び腹部を圧迫することになる。
(イ)膝上げの際,ギャッチベッドにおける膝上げの支点は,利用者の膝裏の位置
にあるべきであるところ,本件ベッドの場合,ふくらはぎ部分にある。そのた
,,,め本件ベッドにより膝上げを行うと利用者の下肢全体が挙上されてしまい
自らの大腿部により腹部が圧迫されることになる。
(ウ)背上げが完了した時点において,本件ベッドは,背湾曲ボトムが円弧を描く
ように丸くなっているために,利用者の臀部がどこに乗っても骨盤が起きず,
自然な座位姿勢を保ち得ず,利用者の背中が途中から曲げられた状態(猫背の
姿勢)が維持される構造を持っている。その結果,背上げが完了して静止して
いる際にも,利用者の胸部及び腹部が圧迫されることになる。
イ以上のように,本件ベッドは,背上げの際,膝上げの際,背上げが完了して静
止している際のいずれにおいても,従来型ベッドより,利用者の腹部及び胸部を
圧迫する構造となっており,利用者の呼吸器,循環器に悪影響を及ぼすものであ
るから,設計上,通常有すべき安全性を欠いている。
ウよって,本件ベッドを製造した被告パラマウント及び,本件ベッドを加工した
アイタックの権利義務を承継した被告ニチイは,製造物責任に基づき,本件ベッ
ドを亡Cが使用したことにより生じた損害を賠償する責任を負う。
(被告パラマウントの主張)
ア原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
イ本件ベッドの背板の長さは,背ボトムだけでなく背湾曲ボトムを合わせて計測
すべきであり,約86㎝ある。本件ベッドの床割りは,他社製品の床割りと乖離
しておらず,本件ベッドの背上げの支点位置には欠陥はない。背上げの回転中心
軸の移動は,体のずれを軽減するためのものであるが,これが利用者の腹部及び
胸部に圧迫感をもたらすことはない。むしろ,本件ベッドは,背上げに伴い背湾
曲ボトムが伸びて曲がることにより背ボトムが上方に移動して,背ボトムと背湾
曲ボトムを緩やかな曲線で接続するものであり,人間の自然な動きに合わせて背
上げを行う構造となっているから,従来型ベッドと比較して,利用者の腹部及び
胸部に与える圧迫は小さい。
ウ本件ベッドの床割りは,他社製品の床割りと乖離しておらず,膝上げの支点位
。,,置に欠陥はないむしろ本件ベッドは膝ボトム部分も蛇腹状になっているから
膝上げ時に不自然な圧力がかからず,従来型ベッドと比較して,利用者の腹部及
び胸部に与える圧迫は小さい。
エ本件ベッドは,従来型ベッドよりも,より自然な形で骨盤が起きるような背上
げを可能にしているものであり,従来型ベッドと比較して,背上げが完了して静
止している際に,利用者の胸部及び腹部に与える圧迫は小さい。
(被告ニチイの主張)
ア原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
イアイタックは,いわゆる「加工者」にあたらない。本件ベッドに欠陥があると
の主張は否認する。
()争点()について22
(原告らの主張)
アおよそギャッチベッドは,背上げと同時に膝から先の下腿を下に垂らし,ごく
短時間の治療用具として使用することが予定された製造物である。身体の柔軟性
を失った高齢者及び重度の障害者で自らは自由に体位を変えられない者が在宅で
長時間介護者の負担を軽減するためにギャッチベッドを使用すると,日常生活に
存在しない無理のある特殊な姿勢を強いられることになり,呼吸器や循環器に種
々の問題が発生し,利用者の生命,身体に被害が及ぶことが想定される。したが
,,ってギャッチベッドを製造する業者である被告パラマウント及び被告ニチイは
ギャッチベッドの取扱説明書,指示書等に明記するなどして,身体の柔軟性を失
った,あるいは重度の障害を持っているなどの理由により,自らは自由に体位を
変えられない者については,ギャッチベッドの利用に適さないことを説明する義
務を負っていた。
イそれにもかかわらず,被告パラマウントは,本件ベッドの取扱説明書,指示書
等にそのような事故を防止するための指示・警告等の表示を記載せず,説明を怠
った。
ウまた,被告ニチイも,同様に,本件ベッドの取扱説明書,指示書等にそのよう
な事故を防止するため指示・警告等の表示を記載せず,説明を怠った。
エよって,本件ベッドを製造した被告パラマウント及び,本件ベッドを加工した
アイタックの権利義務を承継した被告ニチイは,製造物責任(指示・警告上の欠
陥)に基づき,本件ベッドを亡Cが使用したことにより生じた損害を賠償する責
任を負う。
(被告パラマウントの主張)
ア原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
イギャッチベッドは,自ら自由に体位を変えられないような重篤な患者でも,介
護者の力を借りることなく,背上げ機能を利用することによって,ベッドに横た
わったまま上半身を起こすことを可能にし,起きあがりに伴う身体的負担を軽減
するものであり,自ら自由に体位を変えられない者がギャッチベッドの利用に適
さないとはいえない。
ウなお,ギャッチベッドが利用者の身体に与える影響については,ケースバイケ
ースで変わるものであり,主治医,介護者等が判断すべき事柄であるから,被告
パラマウントは,本件ベッドの取扱説明書に「治療中の方は医師に相談してくだ
さい」と記載しており,十分な指示・警告を行っている。
(被告ニチイの主張)
ア原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
イアイタックは,いわゆる「加工者」にあたらない。本件ベッドに欠陥があると
の主張は否認する。仮に,本件ベッドに欠陥があったとしても,機械工学,人間
工学,医学の専門家の間で意見が対立している状況にあるのであるから,一流通
事業者,介護支援事業者である被告ニチイには過失がない。
()争点()について33
(原告らの主張)
ア争点()に関する原告らの主張ア,イ,ウと同じ。2
イよって,本件ベッドを製造した被告パラマウントは,不法行為に基づき,本件
ベッドを亡Cが使用したことにより生じた損害を賠償する責任を負う。
(被告パラマウントの主張)
ア原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
イ争点()に関する被告パラマウントの主張イ,ウと同じ。2
()争点()について44
(原告らの主張)
アアイタックは,本件ベッドを組み立て加工したものであるところ,本件ベッド
には,上記のとおり設計上及び指示・警告上の欠陥があった。
イ被告ニチイは,アイタックを吸収合併したことにより,アイタックが同合併前
に有していた権利義務を承継したのであるから,製造物責任に基づき,本件ベッ
ドを亡Cが使用したことにより生じた損害を賠償する責任を負う。
(被告ニチイの主張)
ア原告らの主張する事実のうち,アイタックが本件ベッドを組み立てたこと及び
被告ニチイがアイタックを吸収合併した事実は認めるが,本件ベッドに欠陥が存
在することは否認する。
イ被告パラマウントが作成した取扱説明書に従って本件ベッドを組み立てたこと
が「加工」にあたるという主張は争う。
()争点()について55
(原告らの主張)
アアイタックは,被告石黒に本件ベッドを提供するにあたって,取扱商品により
利用者の生命・身体を害することがないように提供商品を選択すべき注意義務を
負っていたところ,これを怠り,上記のとおり設計上の欠陥がある本件ベッドを
提供した。
イ被告ニチイは,本件支援契約に基づき居宅サービス計画作成の支援を行ってお
り,亡Cが使用する介護用ベッドとして適切なものを選択する義務を負っていた
にもかかわらずこれを怠り,上記のとおり設計上の欠陥がある本件ベッドを選定
した。
ウよって,被告ニチイは,不法行為に基づき,本件ベッドを亡Cが使用したこと
により生じた損害を賠償する責任を負う。
(被告ニチイの主張)
ア原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
イアイタック及び被告ニチイは,本件ベッドの選択に関与していない。
()争点()について66
(原告らの主張)
ア原告Aは,亡Cが本件ベッドを被告石黒からレンタルするに際し,被告ニチイ
の従業員であるケアマネージャーに相談したのであるから,同人は,亡Cのよう
に自らは自由に体位を変えられない者は本件ベッドの利用に適さないと説明すべ
き義務を負っていたにもかかわらず,そのような説明をしなかった。その結果,
本件ベッドが選定された。
イよって,被告ニチイは,不法行為に基づき,本件ベッドを亡Cが使用したこと
により生じた損害を賠償する責任を負う。
(被告ニチイの主張)
ア原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
イ本件ベッドに欠陥があるとの主張は否認する。仮に,本件ベッドに欠陥があっ
たとしても,機械工学,人間工学,医学の専門家の間で意見が対立している状況
にあるのであるから,一流通事業者,介護支援事業者である被告ニチイには過失
がない。
()争点()について77
(原告らの主張)
ア被告石黒は,本件レンタル契約締結にあたり,亡Cの心身の状況等を踏まえた
適切なベッド(具体的には,腹部を圧迫しないベッド)を選定し提供すべき義務
を負っていたにもかかわらずこれを怠り,上記のとおり,設計上欠陥がある本件
ベッドを貸与した(安全配慮義務違反。)
イ原告Aは,被告石黒の従業員に対し「母(亡C)は,おなかが大きいので,,
おなかを圧迫しないような母の体に合うベッドを探してほしい」と申し入れたの
であるから,同人は,亡Cのように自らは自由に体位を変えられない者について
は,本件ベッドの利用に適さないことを説明すべき義務を負っていたにもかかわ
らず,その旨説明しなかった(説明義務違反。)
ウよって,被告石黒は,不法行為及び債務不履行に基づき,本件ベッドを亡Cが
使用したことによる損害を賠償する責任を負う。
(被告石黒の主張)
ア原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
イなお,本件ベッドに欠陥がないことについては,被告パラマウントの主張を援
用する。
()争点()について88
(原告らの主張)
ア亡Cは,平成12年6月14日から平成13年11月16日まで,本件ベッド
を使用していた。
イ亡Cは,本件ベッドの使用後,本件ベッドの背上げをすると胸部と腹部が圧迫
されて,血圧が上昇し酸素飽和度が低下するという症状が現れるようになり,平
成13年11月16日にG病院に入院した際には,呼吸不全と診断され,呼吸器
の疾患が直接の死因となって死亡した。
(被告らの主張)
ア原告らの主張する事実のうちアを認め,その余の事実は否認する。原告らの主
張は争う。
イ亡Cは,そもそも心不全で死亡したものであるし,本件ベッドを使用する前で
ある平成8年の5月及び同年10月に,肺炎が原因で2度も入院し,平成9年5
月には在宅酸素療法の施療指示を受けていたのであるから,このころから亡Cの
呼吸障害が始まっていたと考えるのが自然である。また,亡Cは,平成13年1
1月16日に肺繊維症と診断されており,G病院入院前から罹患していた肺繊維
症によって呼吸障害が起こったという可能性もある。高血圧症についても,平成
3年に既に高血圧症と診断されているから,本件ベッドの使用により高血圧症と
なったわけではない。
()争点()について99
(原告らの主張)
ア亡Cの損害2673万0868円
(ア)死亡慰謝料2400万円
(イ)葬儀関係費用150万円
(ウ)本件ベッドの使用により発生した諸経費(別紙3記載のとおり)
123万0868円
イ原告Aの固有損害5179万2000円
説明・亡Cは,本件ベッドを利用したことにより,酸素飽和度が低下し,酸素
飽和度の回復のために長時間にわたる鼻腔吸引が必要になるなど,本件ベッド使
用前と比較し原告Aによる介護が必要な時間が1日あたり12時間増加した。訪
問介護を利用すると1時間あたり8300円の支出が必要となるところ,上記介
護増加分は原告Aが一人で介護を行った。この介護負担増加分を金銭に評価する

8300円×12時間×520日(ベッド使用開始から入院するまで)
=5179万2000円
となる。
ウ小計7852万2868円
エ弁護士費用785万2287円
説明・上記小計の1割である。原告らについて各2分の1にあたる392万6
143円(1円未満切り捨て)となる。
オ以上により,原告らの被った損害は,次のとおりとなる。
(ア)原告Aにつき,
2673万0868円×1/2+5179万2000円+392万6143
円=6908万3577円
(イ)原告Bにつき,
2673万0868円×1/2+392万6143円=1729万1577

となる。
(被告らの主張)
原告らの主張する事実は否認し,主張は争う。
第3争点に対する判断
1争点()(本件ベッドに設計上の欠陥があったか)について1
()前記争いのない事実等,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事1
実が認められる。
(,,,,,,ア亡Cの入通院状況甲3467甲8の1ないし3甲10ないし12
甲13の1,2,甲14,15,18,19,37,甲40の1ないし81,甲
88,89,91,93,103,117,乙11,12,16)
(ア)亡Cは,昭和58年10月26日当時,愛知県内で独居していた。同日,原
告Aが亡Cに電話をかけたところ,亡Cは「アーアー」と言うのみであり,同
じく愛知県内に居住していた原告Bが亡Cの自宅に駆けつけたところ,亡Cは
意識朦朧の状態であり,ガスがつけっぱなしの状況であった。亡Cは,D病院
において診療を受け,右上下肢麻痺,失語症,見当識障害でガス中毒の可能性
。,,,(),もあると診断されたその後亡Cは脳梗塞ガス中毒疑との診断名で
昭和58年12月19日から昭和59年4月20日以降(退院日は不明であ
る)までD病院に入院して治療及びリハビリテーションを受け,同年9月1。
9日から昭和60年2月7日まで,同病院に再度入院し治療を受けた(甲3,
4。)
(イ)昭和63年ころから,亡Cには,認知症の症状が認められるようになり,同
年4月からは,原告Aの介護を受けながら,自宅(原告Aの肩書地)で療養生
活を送るようになった(甲103。)
(ウ)亡Cは,平成2年9月25日から同年10月6日まで,①パーキンソン症候
群,②甲状腺機能低下症,③心肥大,④陳旧性脳梗塞,⑤第11胸椎圧迫骨折
の診断名で,H病院に入院して治療を受けた(甲6。)
その後,亡Cは,F医師の往診を受けていたが,寝たきりの状態となってき
たことから,平成3年6月21日から同年10月20日まで,①脳梗塞(左中
大脳動脈領域,②パーキンソン症候群,③骨粗鬆症(第12胸椎圧迫骨折,))
④バセドウ氏病,⑤高血圧症の診断名で,J病院に入院して治療を受けた(甲
7,甲8の1ないし3。)
(エ)亡Cは,平成8年5月21日ころ,カロリーメイトを飲んだ後,喘鳴,チア
ノーゼの症状を生じ,呼吸停止に陥った。原告Aは,マウストゥーマウスの方
法による人工呼吸を実施するとともに,F医師に往診を求め,亡Cの状態はい
ったんは改善したが,同月23日,原告Aが誤嚥を危惧してF医師に相談した
ところ,同医師がG病院を受診することを勧めたことから,亡CはG病院を受
診した。亡Cは,同日,呼吸困難が著明に認められ,同日から同年7月3日ま
で,肺炎の診断名で,同病院に入院して治療を受けた(甲10,11。)
なお,このころから,亡Cの栄養補給には,鼻腔経管栄養の方法が取られる
ようになった(甲91,103,117。)
亡Cは,平成8年10月13日夜,呼吸困難の症状が現れたため,G病院を
受診し,肺炎の診断名で,翌14日から同月25日まで,G病院に入院して治
療を受けたが,退院後は,ほぼ寝たきりの状態が続いた(甲12。)
(オ)亡Cは,平成9年2月10日ころから嚥下状態が悪化し,同月13日唾液が
飲み込めなくなるとともに心窩部痛を訴えるようになり,同日,G病院を受診
し,ニトロの服用により症状が改善した(甲13の2,甲103。)
平成9年2月18日,亡Cの意識レベルが低下し,F医師が往診した。それ
以後,亡Cは寝たきりの状態で,胸部不快感を訴えるようになっており,2日
に1回の頻度でニトロを服用している状態であった(甲103。)
亡Cは,平成9年3月1日から同月10日までの間,①心房細動,②慢性心
不全,③脳梗塞,④狭心症の診断名で,G病院に入院して治療を受けた(甲1
3の1,2,甲103。)
亡Cは,平成9年5月7日,F医師から在宅酸素療法の指示(使用時間は1
日あたり6時間使用流量は1分あたり2リットルを受け実施していた甲,),(
14,15。)
原告Aは,G病院の主治医から繰り返し「経口摂取は嚥下性肺炎,窒息につ
ながるおそれがあるとの説明を受けていたが(なお,平成8年6月5日時点で
,「,」),は水分摂取アイスクリーム・プリン摂取は家人介助で可とされていた
平成9年3月23日,イチゴをつぶして亡Cに食べさせようとしたところ,亡
Cはこれを誤嚥し,原告Aが背中を叩き状態が改善したものの,念のためG病
院を受診し,翌24日まで同病院に入院した。受診時,原告Aは,亡Cの状態
,,()につき普段は寝たきりの状態であり平常時の血圧は収縮期血圧最高血圧
が160,拡張期血圧(最低血圧)が60ないし70であると説明した(甲8
9,乙16。)
平成9年12月1日,亡Cの酸素飽和度は一時74%にまで低下したが,ニ
トロの服用及び酸素流入量の増量により改善した(乙16。)
平成9年12月3日午前11時30分ころ,亡Cの顔色が悪いため,原告A
がパルスオキシメーターを使用して酸素飽和度を測定したところ84%であ
り,G病院を救急受診した。同受診の際の測定では,体温36.6度,心拍数
77/分,血圧148/69,酸素飽和度94.6%であり,胸部レントゲン
,,()。検査の結果心拡大が認められ肺炎又はうっ血性心不全が疑われた乙16
(カ)亡Cは,平成13年11月16日,呼吸状態の悪化や意識レベルの低下が認
,,,,められたことから①呼吸不全②多発性脳梗塞③バセドウ氏病の診断名で
G病院に入院し,酸素投与や抗生剤の投与等の治療を受けたが,同年12月2
日午後6時53分ころ,心不全により死亡した(甲18,19,37,甲40
の1ないし81。)
(キ)亡Cは,上記のとおり入院し治療を受けていたが,入院していない間は,自
宅において,原告Aによる介護を受け,その間しばしばE病院に通院し又はF
医師の往診を受けていたなお通院及び往診の回数は次のとおりであった乙。,(
11,12。すなわち,平成12年1月(4回,同年2月(4回,同年3)))
月(5回,同年4月(5回,同年5月(6回,同年6月(5回,同年7))))
月(4回,同年8月(5回,同年9月(5回,同年10月(6回,同年))))
11月(5回,同年12月(8回,平成13年1月(5回,同年2月(5)))
回,同年3月(4回,同年4月(4回,同年5月(6回,同年6月(5))))
回,同年7月(6回,同年8月(6回,同年9月(5回,同年10月(6))))
回,同年11月(4回。))
(ク)平成12年9月までの通院又は往診時における亡Cの酸素飽和度は次のとお
りであった(乙11,12。)
平成12年2月7日(通院)89ないし98%
平成12年3月6日(往診)89ないし98%
平成12年3月28日(往診)89ないし98%
平成12年4月24日(往診)80%
平成12年5月27日(通院)89ないし98%
平成12年6月24日(通院)85%
平成12年7月24日(通院)81ないし98%
平成12年9月30日(通院)60ないし98%
イ本件ベッドの使用状況(原告A,弁論の全趣旨)
(ア)前判示のとおり,平成8年7月3日にG病院を退院したころから,亡Cの栄
養補給には,鼻腔経管栄養の方法が取られるようになった。
(イ)亡Cは,平成11年12月28日まで,自宅2階に置かれていた旧ベッドで
,,,起居していたが原告Aは亡Cに鼻腔経管栄養の方法で栄養補給を行う際は
ほとんどの場合,亡Cを抱きかかえて旧ベッド横の車椅子又はリクライニング
チェアに移し,亡Cが座った状態で行っていた。
(ウ)原告Aは,いわゆる2000年問題を気遣い,平成11年12月29日,旧
ベッドを自宅1階に移したが,手狭のため,旧ベッド横にあった車椅子及びリ
クライニングチェアを1階に移すことができなかったことから,その後は,旧
ベッド上で亡Cに鼻腔経管栄養の方法で栄養補給を行うようになった。
(エ)原告Aは,平成12年6月14日からは,本件ベッド上で亡Cに鼻腔経管栄
養の方法で栄養補給を行うようになった。鼻腔経管栄養の方法による栄養補給
は,当初は,流通開始から終了後1時間(誤嚥を防止するため)経過するまで
で1日合計6時間位行っていたが,同年7月22日からは下痢を防止するため
。,溶液を希釈し1日合計15時間ないし16時間位かけて行っていたその間は
本件ベッドを背上げした状態であり,膝上げもしていた。
(オ)原告Aは,当初,本件ベッドの背上げの角度を,G病院で指示されたとおり
60度ないし90度(甲91)にしていたが,亡Cが苦しむことから,平成1
3年6月14日から少しずつ高さを下げ,18度位とした。なお,原告Aは,
少なくともそのころまで,亡Cと意思疎通をすることができた。また,原告A
は,F医師から,亡Cが苦しむのであれば胃ろうによる栄養補給をしてはどう
かとの助言を受けたが,亡Cを背負うのに支障が出ること等を考慮し,鼻腔経
管栄養の方法を続けた。さらに,原告Aは,前判示のとおり,自宅には,平成
12年12月26日に交換してもらった旧ベッドを置いていたが,亡Cを旧ベ
ッドに移さなかった。
ウ背上げによる身体への圧迫の原理(乙13,20,27,証人I,弁論の全趣
旨)
(ア)背ボトムからの圧力
ギャッチベッドにより背上げを行うと,背ボトムが屈曲する支点と利用者の
身体の上半身が起きる支点(大転子辺り)の二つの回転中心が一致しないため
(,),ベッド上にマットレスが置いてある場合にはこのずれはさらに大きくなる
利用者の下半身は足側に移動することになるが,ベッド(ないしマットレス)
と利用者の下半身との間に摩擦が生じることから,この摩擦がないと仮定した
場合ほどには足側に移動しない。このことにより,利用者の身体には,背ボト
。,ムに対してほぼ垂直方向に摩擦力に対応する圧力がかかることになる同様に
背上げを行うと利用者の上半身は頭側に移動することになるが,ベッド(ない
しマットレス)と利用者の上半身との間に摩擦が生じることから,この摩擦が
ないと仮定した場合ほどには頭側に移動しない。このことにより,利用者の身
体には,背ボトムに対してほぼ水平方向に摩擦力に対応する圧力がかかること
になる。利用者は,背上げにより,背ボトムからこの2つの圧力を受ける。
(イ)上半身が起こされることによる圧迫
ギャッチベッドを利用する(ギャッチベッドによる背上げ)としない(介助
者の手によるによる背上げ)とにかかわらず,利用者は,上半身を起こされれ
ば,胸部及び腹部の圧迫を受けることになる。
エ本件ベッドの構造(甲74の1,2,甲76の1ないし3,甲77の1ないし
4,乙8,13,20,26,27,証人I,弁論の全趣旨)
(ア)本件ベッドの構造は,別紙1記載のとおりであり,床割りは,別紙2記載の
とおりである。従来型ベッドで背上げを行うと,背板がその下端を支点にして
上方に上がることによりベッドが屈折するという構造となっているのに対し,
本件ベッドで背上げを行うと,まず,背ボトムのみが上方に屈折し,ついで,
背湾曲ボトム部分が伸びながら屈曲することにより,利用者の腹部を,従来型
ベッドで背上げを行った場合と比べ,足側に押し出さない構造となっている。
(イ)本件ベッドの背ボトムの長さは約61㎝,背湾曲ボトムの長さは約25㎝,
腰ボトムの長さは2つ合わせて約42㎝,膝ボトムの長さは約22㎝である。
(ウ)本件ベッドは,背上げを行う際に,背ボトムが屈曲する支点と利用者の身体
の上半身が起きる支点(大転子辺り)の二つの回転中心のずれを小さくするこ
とにより,利用者が背ボトムから受ける圧力を軽減する機能を有する。
(エ)本件ベッドの床割りと被告パラマウント以外の業者が製造した同種のギャッ
チベッドの床割りとの間には大きな差異は認められない。
オK専門理学療法士作成の意見書の骨子(甲21,56)
K専門理学療法士(以下「K理学療法士」という)は「ギャッジアップが。,
呼吸循環反応に与える影響について」と題する意見書(甲21,以下「K意見書
①」という「ベッドギャッジアップが呼吸循環反応に与える影響についての。),
計測報告書」と題する意見書(甲56,以下「K意見書②」という)を作成し。
ているが,これらのうち,本件ベッドの欠陥について記載されている部分の骨子
は次のとおりである。なお,K意見書②を作成するにあたり実施された実験で使
用された被告パラマウント以外の製造業者が製造したベッドは,平成14年から
製造,販売されたものである(乙14,15,弁論の全趣旨。)
(ア)K意見書①
本件ベッドのみを用いて,健常な若年者9名(男性6名,女性3名)及び5
5歳の女性1名を被験者として,背上げにより,酸素飽和度,血圧及び脈拍,
呼吸数等の客観的数値並びに被験者の主観的不快感の変化につき実験以下K(「
実験①」という)を行った。。
その結果,若年者9名については,背上げを行っても,一部の被験者の呼吸
数が若干増加したほかは客観的数値の変化は認められなかったが,胸部及び腹
部の圧迫感や,呼吸困難を訴えた者がいた。
55歳の女性については,背上げに伴い,酸素飽和度の低下は認められなか
ったが,脈拍数や血圧の上昇が認められた。
本件ベッドの構造上の問題を挙げると,①背ボトム及び背湾曲ボトムの曲が
る位置が,人体の脊柱の湾曲に合っておらず,無理な姿勢で背上げが行われて
しまうこと,及び②膝上げの位置が人体の膝下の位置にないため,膝上げを行
うと利用者の下肢全体が挙上されてしまうことが考えられる。
(イ)K意見書②
(「」。),本件ベッド及び他社製造のベッド以下他社ベッドというを利用し
60ないし78歳(平均68歳)の男女4名(男性1名,女性3名)及び28
歳の男性1名を被験者として,背上げに伴う,酸素飽和度,血圧及び脈拍,呼
吸数等の客観的数値並びに被験者の主観的不快感の変化につき実験(以下「K
実験②」という)を行った。。
その結果,被験者5名中3名が主観的不快感を訴えた。主観的不快感を訴え
なかった2名については,各測定項目で大差は認められなかったが,主観的不
快感を訴えた3名については,本件ベッド使用時の方が,他社ベッド使用時と
比べ,背上げ時の数値(酸素飽和度及び収縮期血圧〔最高血圧)が悪く,う〕
ち1名については,換気状態を示す数値が悪かった。
本件ベッドと他社ベッドとで実験結果が相違した原因として,①本件ベッド
は,背ボトム及び背湾曲ボトムの曲がる位置が,人体の脊柱の湾曲に合ってお
らず,無理な姿勢で背上げが行われてしまうこと,及び②膝上げの位置が人体
の膝下の位置にないため,膝上げを行うと利用者の下肢全体が挙上されてしま
うことが考えられる。
カL医師作成の意見書の骨子(甲20,78,79,126)
L医師は,平成16年1月28日付の「鑑定書」と題する意見書(甲20,以
下「L意見書①」という,平成17年10月26日付意見書(甲78,以下。)
「L意見書②」という,平成17年11月22日付「鑑定書(甲第20号証)。)
の趣旨」と題する意見書(甲79,平成18年11月13日付けの「乙27号)
証I氏の陳述書P5∼6の内容について」と題する意見書(甲126)を作成.
しているが,そのうち,本件ベッドの設計上の欠陥について記載されている部分
の骨子は,次のとおりである。
(ア)本件ベッドでは,背上げ時に背ボトム部分にかかる圧力は従来型ベッドに比
して小さい。この圧力の小ささは,上半身の体重を背ボトムによって支えきれ
ていないことを示す。すなわち,従来型ベッドでは,背ボトムに上半身の体重
がかかることにより,体重による圧力を分散することができるのに対し,本件
ベッドでは,それができないため,利用者は,上半身の体重を自らの力により
支えなければならないこととなる。
(イ)高齢などの理由により筋力が衰えた者が,本件ベッドを使用し背上げを行え
ば,上記のように背ボトムにより体重が支えきれず,また,自らの筋力によっ
ても,上半身を支えきれないため,背骨が前傾し,肺や心臓の重さが横隔膜に
かかり,胸部及び腹部に大きな圧迫感が生ずることになる。
()原告らは,本件ベッドは,背上げ,膝上げの支点位置が人体が本来曲がるべき位2
置と一致・適合していないため,背上げの際,膝上げの際,背上げが完了して静止
している際のいずれにおいても,従来型ベッドより,利用者の腹部及び胸部を圧迫
,,,する構造となっており利用者の呼吸器循環器に悪影響を及ぼすものであるから
設計上,通常有すべき安全性を欠いていると主張するが,これを認めるに足りる証
拠は全くない。
まず,背上げの支点位置について検討するに,証拠(甲95)によれば,本件ベ
ッドによって背上げを行う場合,背ボトムの回転中心(支点)は,背上げ開始直後
,,,,は背ボトムの下端付近にありその後徐々に背湾曲ボトムの下端付近へ移動し
再度徐々に背ボトムの下端付近へと移動することが認められる。しかしながら,背
ボトムの動きに対応して利用者の上半身が具体的にどのような動きをするかを的確
に示す証拠は提出されておらず,背ボトムの回転中心が上記のように動くことによ
り,原告らが主張するように,利用者の背中が途中から曲げられるものとは認める
ことができない。また,前判示のとおり,本件ベッドは,背上げ時に背湾曲ボトム
部分が伸びて屈曲する構造となっていて,長さ61㎝の背ボトムのみが屈曲する構
造にはなっていないから,背ボトムが,その上端から約61㎝の位置で屈折するこ
とから直ちに,利用者の背中を途中から前傾させることになるものと認めることは
できない。以上によれば,背上げの支点位置が人体が本来曲がるべき位置と適合し
ていないとの原告らの主張を採用することはできず,本件ベッドが,背上げ時に,
従来型ベッドと比較してより大きな圧迫を利用者の胸部及び腹部に与えるものとも
認めることができないから,この観点から本件ベッドが通常有すべき安全性を欠く
ものとはいえない。
次に,膝上げの支点位置について検討するに,前判示のとおり,本件ベッドの腰
ボトムの長さは約42㎝であり,日本人の平均身長を踏まえ想定される本件ベッド
の利用者の体格を考えると,この長さは若干長く,利用者の膝下に膝ボトムの中央
が位置するものとは考えにくい。しかしながら,前判示のとおり,本件ベッドの設
計上,膝上げを背上げと同時に行うことはできず,また,膝上げの高さは利用者が
調節することが可能であるから,膝下に膝ボトムの中央部分(膝上げを行った場合
に頂点となる部分)が存在しなくても,背上げを行った後に,膝上げの高さを適切
な高さに調節することにより,胸部及び腹部に圧迫を感じない形で本件ベッドの機
能を活用することができ,膝ボトムの中央が利用者の膝裏の位置にないことが利用
者の身体に及ぼす影響は軽微であると考えられる上,前判示のとおり,本件ベッド
の床割りと被告パラマウント以外の業者が製造した同種のギャッチベッドの床割り
との間には大きな差異は認められないから,膝上げの支点位置の観点から,本件ベ
ッドが通常有すべき安全性を欠くものとはいえない。
さらに,背上げが完了して静止している際における利用者の姿勢について検討す
るに,原告らは,本件ベッドでは,背上げが完了した際利用者の骨盤が起きず自然
な座位姿勢を保ち得ないと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。かえっ
て,背上げを行う際の背ボトム及び背湾曲ボトムの動きからすれば,利用者の身体
が適切な位置にあれば,背上げが完了したときには,利用者の骨盤はある程度起き
るものと考えられる。これを具体的にみるに,原告らは「I作成の陳述書(乙2,
0)の別紙1の実験結果から,背上げが完了したときには,利用者の重心が坐骨結
節ではなく仙骨にあることが認められ,これは,利用者の骨盤が起きていないこと
を意味する」と主張するが,上記実験結果は,本件ベッドで背上げを行った場合。
の利用者の身体にかかる圧力の総和及び分布と,従来型ベッドで背上げを行った場
合の利用者の身体にかかる圧力の総和及び分布との比較を示したものであり,この
実験結果から直ちに原告ら主張の解釈を導き出すことはできないものというべきで
ある。また,原告らは,亡Cと同程度の身長(165㎝)を有する者が本件ベッド
を使用する場合には,利用者の骨盤が起きるような位置に横臥することは不可能で
あるとも主張するが,これを認めるに足りる証拠もない(もっとも,前判示のとお
り,本件ベッドの床割りと被告パラマウント以外の業者が製造した同種のギャッチ
ベッドの床割りとの間には大きな差異は認められないとはいえ,若干の差異はある
から,利用者は,自分の体格により適合するギャッチベットを選択することができ
るけれども,そのことから直ちに,本件ベッドが通常有すべき安全性を欠くことに
なる訳ではない。。)
以上の次第で,本件ベッドが,従来型ベッドより,利用者の腹部及び胸部を圧迫
,,。する構造となっていて設計上通常有すべき安全性を欠くものとは認められない
()なお,原告らが提出する意見書(K理学療法士作成の各意見書,L医師作成の各3
意見書)は,前記認定・判断を左右しない。その理由は,次のとおりである。
アK理学療法士作成の各意見書について
(ア)前判示のとおり,ギャッチベッドの性質上,ギャッチベッドによる背上げに
よって利用者の腹部及び胸部に生じる圧迫感は避けられないものであるから,
本件ベッドが通常有すべき安全性を欠くか否かを検討するにあたっては,本件
ベッドを,本件ベッドと同時期に他の業者が製造,販売していた同種のギャッ
チベッドと比較して,背上げ及び膝上げを行った際等の利用者の腹部及び胸部
に対する圧迫等に有意な差があるか否かを検討すべきことになる。
(イ)しかるに,K実験①では,本件ベッドのみを使用し,他のギャッチベッドと
の比較が行われていないから,K実験①の結果を元にして,本件ベッドに構造
上の問題があるとするK意見書①を採用することはできない。
(ウ)また,K実験②でも,前判示のとおり,平成14年から製造,販売されたギ
ャッチベッドと本件ベッドとを比較検討していて,比較対象が適切でないから
(後により優れた品質のギャッチベッドが開発されたからといって,過去に遡
って本件ベッドに欠陥があったことになる訳ではない,K実験②の結果を。)
元にして,本件ベッドに構造上の問題があるとするK意見書②を採用すること
もできない。加えて,K実験②の結果(甲57ないし62)をみると,本件ベ
ッド使用時と他のギャッチベッド使用時の血圧及び酸素飽和度の変化に有意な
差があるとまで認めることもできない(背上げによる人体に対する影響を判断
するにあたっては,背上げ前の数値と背上げ後の数値の差を比較するか,又は
背上げ前の数値を本件ベッド使用時と比較対象となるギャッチベッド使用時と
で統一した上で背上げ時の数値を比較すべきところ,K実験②では,本件ベッ
ド使用時と他のギャッチベッド使用時とで背上げ前の数値を統一していないた
め,前者の方法によるしかないが,前者の方法による限り,本件ベッド使用時
と他のギャッチベッド使用時との間で測定値の変化の違いに有意な差があると
までは認めることができない。。)
(エ)なお,K意見書①,②では,前判示のとおり,本件ベッドの問題点として,
<ア>背ボトム及び背湾曲ボトムの曲がる位置が,人体の脊柱の湾曲に合ってお
らず,無理な姿勢で背上げが行われてしまうこと,<イ>膝上げの位置が人体の
膝下の位置にないため,膝上げを行うと利用者の下肢全体が挙上されてしまう
ことを記載した箇所があるが,<ア>については,具体的な理由の記載がないた
め,にわかに採用することができないし,<イ>については,膝上げの支点が利
用者の膝裏の位置にないことをもって設計上の欠陥とは評価できないことは前
判示のとおりである。
イL医師作成の各意見書について
L医師作成の各意見書は,本件ベッドで背上げを行った際背ボトムにかかる圧
力が全て体重によるものであることを前提にしている。しかしながら,前判示の
とおり,背ボトムには摩擦力に対応する圧力がかかるから,上記各意見書は,誤
った事実を前提にしており,採用することができない。
()原告らは,本件ベッドの設計上の欠陥につき縷々主張するが,製造物責任法にい4
う「欠陥」とは,通常有すべき安全性を欠いていることを意味し,競合して製造・
販売される同種の製造物にはそれぞれ特徴(言い換えれば長所と短所)があるのが
一般である上,前判示のとおり,ギャッチベッドで背上げを行えば,多かれ少なか
れ利用者の胸部及び腹部に対する圧迫が生じることは避けられないから,本件ベッ
ドに欠陥があるというためには,単に,本件ベッドで背上げをした場合に利用者の
胸部及び腹部に対する圧迫が生じることを主張立証するだけではなく,同時期に製
造・販売されていた同種のギャッチベッドと比較して,看過しがたい程度に,胸部
及び腹部に対する圧迫が生じることを主張立証することを要するものというべきで
あるところ,そのような主張立証はされていないものというほかない。なお,原告
らは,亡Cの容態が本件ベッドを使用し始めてから急激に悪化したかのような主張
をするが,前判示の亡Cの入通院状況が示すとおり,そのような事実関係は認めら
れないところである。
()以上によれば,本件ベッドに設計上の欠陥があることを前提とする原告らの被告5
パラマウント及び被告ニチイに対する製造物責任(ただし設計上の欠陥を理由とす
るもの)を原因とする損害賠償請求,被告ニチイに対する不法行為(ただし安全配
慮義務違反及び在宅ケアベッドの選択義務違反を理由とするもの)を原因とする損
害賠償請求,被告石黒に対する債務不履行及び不法行為(ただし安全配慮義務違反
を理由とするもの)を原因とする損害賠償請求は,その余の点について判断するま
でもなく,いずれも理由がないこととなる。
2争点()(本件ベッドに指示・警告上の欠陥があったか,(),(),()(説明義2367)
務違反の有無)について
()原告らは,①およそギャッチベッドは,背上げと同時に膝から先の下腿を下に垂1
らし,ごく短時間の治療用具として使用することが予定された製造物である,②身
体の柔軟性を失った高齢者及び重度の障害者で自らは自由に体位を変えられない者
は,ギャッチベッドの利用に適さないと主張するが,これを認めるに足りる証拠は
ない。
,,,,確かに前判示のとおりギャッチベッドで背上げを行った場合には利用者が
ある程度,胸部及び腹部に対する圧迫を受けるし,また,背上げを行ったままの状
態で長時間その姿勢を保つとすれば,利用者がその身体にある程度の負担を受ける
ことは見やすい道理である。しかしながら,ギャッチベッドで背上げを行った場合
に利用者が胸部及び腹部に受ける圧迫の程度,背上げを行ったままの状態で長時間
その姿勢を保った場合に利用者がその身体,殊に,循環器及び呼吸器に受ける負担
ないし具体的な影響の程度については,本件全証拠によっても明らかではないのに
対し,わが国において,ギャッチベッドが自宅介護用として広く使用され,介護に
あたる家族等が介護により負わなければならない負担をギャッチベッドを使用する
ことにより軽減することができているという現実をふまえると,自分で自由に体位
を変えることのできない者を自宅で介護するにあたりギャッチベッドを使用するこ
とが適切でないとまでいうことは相当ではない。加えて,ギャッチベッドで背上げ
を行った際に利用者が胸部及び腹部に圧迫を受け,また,背上げを行ったままの状
態で長時間その姿勢を保った場合に利用者がその身体に負担を受けることは明白な
事実であるから(介護者は自分で試してみることにより容易に理解することができ
る,介護者が,たとえば,背上げを完了した後に利用者の座る姿勢,位置等を。)
,,直したり背上げをした状態で使用する時間を利用者の容体に応じて調整するなど
適宜工夫することにより,上記圧迫ないし負担を軽減することができるところであ
る。以上の次第で,原告らの上記主張を採用することはできない。
()原告らは,ギャッチベッドを製造する業者である被告パラマウント及び被告ニチ2
イは,ギャッチベッドの取扱説明書,指示書等に明記するなどして,身体の柔軟性
を失った,あるいは重度の障害を持っているなどの理由により,自らは自由に体位
を変えられない者については,ギャッチベッドの利用に適さないことを説明する義
務を負っていたと主張するが,被告ニチイが本件ベッドの組み立てをしたことによ
り「加工者」にあたると評価されるか否かはともかく,原告らの主張は,前判示の
とおり「身体の柔軟性を失った,あるいは重度の障害を持っているなどの理由に,
より,自らは自由に体位を変えられない者は,およそギャッチベッドの利用に適さ
ない」とする点において,前提を欠くから,採用することができない。
()以上によれば,本件ベッドに指示・警告上の欠陥があることを前提とする,原告3
らの被告パラマウント及び被告ニチイに対する製造物責任(ただし指示・警告上の
欠陥を理由とするもの)を原因とする損害賠償請求,被告パラマウント及び被告ニ
チイに対する不法行為(ただし説明義務違反を理由とするもの)を原因とする損害
賠償請求,被告石黒に対する債務不履行及び不法行為(ただし説明義務違反を理由
とするもの)を原因とする損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもな
く,いずれも理由がないこととなる。
第4結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも
理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官池田光宏
裁判官関根規夫
裁判官中嶋謙英
(別紙省略)

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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛