弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士渡辺八左衛門、同佐々木日出男の上告理由第一点について。
 原判決は上告人A1が被上告人の承諾をえずに本件家屋の一部を自己と共同で上
告人A2をして店舗として使用せしめている事実を確定し、右は被上告人とA1と
の間の賃貸借上の特約即ち被上告人の承諾なくして賃借権の譲渡転貸をしない約旨
に違反する旨判示しているのであるが右原判決の確定した事実関係はこれを家屋使
用の面からみれば転貸と認めることができるのであるから原判決には所論のような
違法なく論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は本件賃貸借契約について事情変更の原則の適用があると主張するけれども
上告人等は原審においてその原則の適用を主張しなかつたのであるから、原審がこ
の点につき判断をしなかつたのは、もとより違法とはいえないのみならず原判決の
認定するところによれば、上告人A1が被上告人から本件家屋を賃借したのは昭和
二〇年六月四日で終戦まぎわのことであり、戦争による事態の逼迫は当時すでにそ
の頂点に達しており、A1がDに家屋の一部を転貸したのは昭和二〇年八月一五日
のことであつて、その間事情の変更のあつたことは到底認めることができないので
あるから、この点に関する論旨は採用できない。また論旨は上告人A1の本件債務
の履行については期待可能性がないと主張するのであるが元来期待可能性の理論は
刑事責任に関する理論であつて民事責任に導入する必要があるか否やは一の問題で
ある。しかしそれはとも角として債務の履行に期待可能性のない場合があるとすれ
ば、その不履行は、すなわち債務者の責に帰すべからざる不履行であつて契約解除
の原因とはならないのである。そして本件において上告人は原審において本件債務
の履行に期待可能性のないことを主張しないのみならず原判決が認定した事実関係
の下にあつては上告人A1の債務不履行即ちA1が本件家屋の一部をD、A2等に
転貸したことをもつて同人の責に帰すべからざる事由に基くものとは到底認め難い
のであるからこの点に関する論旨も理由がない。
 同第三点について。
 原判決の判示するところによると被上告人はもと本件家屋で呉服商を営み、ここ
で営業をしなければ生計を維持し難い状況にあつたが為め本件賃貸借の当初上告人
A1に対して店舗の使用を禁じ、特に住居用として建物の使用を許諾し、かつその
転貸を禁止したのに拘らず上告人A1がその禁止に違反し被上告人の信頼を裏切つ
たのであるから、このような場合に被上告人が解除権を行使したのは正当で権利の
濫用と目することはできないというのであつて、被上告人が解除権を行使するにつ
いて正当な事情があることが十分に示されており被上告人の解除権の行使が単に上
告人等に損害を加える目的でなされたものでないことは自ら明かであるのみならず
その権利の行使が信義誠実の原則または公の秩序善良の風俗に反するものであると
は到底認められないのであるから原判決が権利濫用の抗弁を排斥したのは正当で論
旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし所論証人申請が唯一の証拠方法であることは記録上これを認めることがで
きないから原審がこれを却下したことはもとより違法とはいえない。従つて論旨は
採用の限りでない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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