弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が,原告に対する公正取引委員会平成○年(判)第○号審判事件について
平成22年11月10日付けでした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,指名競争入札等の方法により地方公共団体の発注するごみ焼却施設
の新設,更新及び増設工事について不当な取引制限をしたとして,被告が原告
に対してした別紙課徴金算定対象物件一覧記載の各工事(以下「本件各工事」
といい,それぞれの工事は「工事名」欄の(略称)に基づき「「横浜市(α工
場)」工事」等という。)を課徴金算定の対象として課徴金の納付を命ずる審
決の取消しを求める事案である。
1本件審決に至る経緯
被告は,原告が,a株式会社(以下「a」という。),株式会社b(以下「b」
という。),c株式会社(以下「c」という。)及びd株式会社(以下「d」
という。)の4社(以下「4社」という。)と共同して,地方公共団体が指名
競争入札等の方法により発注するごみ焼却施設の新設,更新及び増設工事につ
いて,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,
公共の利益に反して,上記工事の取引分野における競争を実質的に制限してい
たものであって,これは私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一
部を改正する法律(平成17年法律第35号,以下「改正法」という。)附則
2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独
占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2
条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するもので
あるとして,原告及び4社に対し,平成18年6月27日審判審決により排除
措置(以下「本件排除措置」という。)を命じた(以下,この審判審決を「本
案審決」という。)。
原告は,本案審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起し,同裁判
所は,平成20年9月26日,原告の請求を棄却する判決をし,最高裁判所は,
平成21年10月6日,上記判決に対する原告の上告を棄却し,上告受理の申
立てについて上告不受理の決定をし,本件排除措置は確定した。
被告は,平成19年3月23日,原告に対し,本件各工事を課徴金算定の対
象として課徴金の納付を命じた(以下「本件課徴金納付命令」という。)とこ
ろ,原告が審判手続の開始を請求し,本件課徴金納付命令に係る審判(以下「本
件審判」という。)が開始された(これにより,本件課徴金納付命令はその効
力を失った(独占禁止法49条3項)。)。被告は,平成22年11月10日,
原告に対し,課徴金として57億3251万円の納付を命ずる審決(以下「本
件審決」という。)をした。
2前提事実(争いのない事実及び被告が本件審決で認定した事実で原告が実質
的な証拠の欠缺を主張していない事実)
(1)原告及び4社の概要
原告は,平成15年4月1日,旧商号「e株式会社」から商号変更し,ス
トーカ式燃焼装置を採用する全連続燃焼式及び准連続燃焼式ゴミ焼却施設
(当該ゴミ焼却施設と一体として発注されるその他のごみ処理施設を含む。
以下「全連及び准連ストーカ炉」という。)を構成する機械及び装置の製造
業並びに清掃施設工事業を営む者であり,4社も上記と同様の業務を営む者
である(以下,原告及び4社を合わせて「5社」という。)。
ごみ焼却施設は,焼却処理設備,電気・計装設備,建築物及び建築設備並
びに外構施設から構成され,5社は,全連及び准連ストーカ炉を構成する機
械及び装置を製造し,これらを有機的に機能させるための据付工事を行うと
ともに,設備機器を収容する工場棟その他の土木建築工事も行い,ごみ焼却
施設の建設を行う者であり,プラントメーカーといわれる。
(2)ごみ処理施設の概要及び発注方法等
アごみは,家庭生活の営みに伴って排出される一般廃棄物と,事業者の事
業活動に伴って排出される産業廃棄物とに区分され,廃棄物の処理及び清
掃に関する法律により,一般廃棄物は市町村が処理することとなっている。
そのため,市町村は,その区域内で排出される一般廃棄物を処理するため,
単独で又は他の市町村とともに「一部事務組合」(地方自治法(平成11
年法律87号による改正前のもの。以下においても同様とする。)284
条2項)若しくは「広域連合」(地方自治法284条3項)を設けてごみ
処理施設を整備しており,国は,市町村,一部事務組合及び広域連合(以
下「地方公共団体」という。)が一般廃棄物を円滑かつ適正に処理するた
めに行うごみ処理施設の整備事業について,補助金を交付している。
イ地方公共団体が整備するごみ処理施設はごみの処理方法により区分され
るが,そのうちごみ焼却施設は,燃焼装置である焼却炉を中心に,ごみ供
給装置,灰出し装置,排ガス処理装置等の焼却処理設備を配置し,ごみの
焼却処理を行う施設であり,上記各設備に加えて,灰溶融設備,余熱利用
設備が設置され,また,粗大ごみ処理施設,廃棄物再生利用施設が併設さ
れることがある。
ごみ焼却施設は,1日当たりの稼働時間により,24時間連続稼働する
全連続燃焼式(全連),16時間稼働する准連続燃焼式(准連)及び8時
間稼働するバッチ燃焼式に区分される。また,ごみ焼却施設は,採用され
る燃焼装置の燃焼方式により,ごみをストーカ上で乾燥して焔燃焼させ,
次に,おき燃焼させて灰にする装置を採用する焼却施設(ストーカ炉),
流動床式燃焼装置を採用する焼却施設(流動床炉),ガス化溶融式焼却施
設(ガス化溶融炉)がある。
ウ地方公共団体は,全連及び准連ストーカ炉の新設,更新及び増設工事(以
下「ストーカ炉の建設工事」という。)を,「指名競争入札」,「一般競
争入札」,「指名見積り合わせ」又は「特命随意契約」のいずれかの方法
により発注する(以下「指名競争入札等」という。)。
地方公共団体がごみ焼却施設建設に際して,粗大ごみ処理施設及び廃棄
物再生利用施設を併設する場合には,これらの施設をごみ焼却施設と一体
として一括発注することがある。
地方公共団体は,競争入札参加の資格要件を満たす者として登録してい
る者の中から指名競争入札の参加者を指名している。また,一般競争入札
に当たっても,資格要件を定め,一般競争入札に参加しようとする者が当
該資格要件を満たすかどうかを審査し,資格要件を有する者だけを一般競
争入札の参加者としているため,プラントメーカーといえども容易に入札
に参加できるものではない。
(3)5社の実績等
平成6年度から平成10年度までの間に,5社のほかに,ストーカ炉の建
設工事のプラントメーカーとしては,株式会社f(平成6年10月,g株式
会社を吸収合併,以下「f」という。),株式会社h(以下「h」という。),
i株式会社(以下「i」という。),j株式会社(現商号株式会社k,以下
「j」という。),l株式会社(以下「l」という。)等が存在していた(以
下,5社以外のプラントメーカーを「アウトサイダー」という。)。
5社は,ストーカ炉の建設工事の施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工
技術の高さからストーカ炉の建設工事について,プラントメーカーの中にあ
って「大手5社」と称されており,地方公共団体が実施するストーカ炉の建
設工事の指名競争入札等において指名を受ける機会が多く,指名競争入札等
に数多く参加していた。
平成6年度から平成10年度までの間に,地方公共団体が指名競争入札等
の方法により発注したストーカ炉の建設工事の契約件数は87件,発注トン
数(1日当たりのごみ処理能力トン数。以下同じ。)は2万3529トンで
あり,発注金額(受注業者の落札金額)は約1兆1031億円である。この
うち5社のいずれかの者が受注した件数は66件である。
(4)違反行為
5社は,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方
法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図る
ため,以下の合意(以下「本件合意」という。)の下に,受注予定者を決定
し,受注予定者が受注できるようにしていた(以下「本件違反行為」という。)。
ア地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について各社が
受注希望の表明を行い,受注希望者が1社の工事についてはその者を当該
工事の受注予定者とする。
受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予
定者を決定する。
イ5社の間で受注予定者を決定した工事について,アウトサイダーが指名
競争入札等に参加する場合には,受注予定者は自社が受注できるようにア
ウトサイダーに協力を求める。
ウ受注すべき価格は受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定
者がその定めた価格で受注できるように協力する。
(5)違反行為の実施方法
本件違反行為の実施方法は,以下のとおりである。
ア5社は,平成6年4月以降,随時,5社の営業責任者クラスの者が集ま
る会合で,地方公共団体が建設を計画しているストーカ炉の建設工事につ
いて各社が把握している情報を,その1日当たりの処理能力の規模別等に
区分してリストを作成した上で,その情報を交換し,その情報を共通化す
るようにする。5社は,この情報交換により得られた情報をもとに,受注
希望表明の対象となる工事を確定する。
イ5社は,随時,5社の営業責任者の会合で,処理能力の規模別(大型,
中型,小型)により3種に区分された工事ごとに,各社が受注を希望する
工事を表明する。各社が受注希望を表明した工事について,希望者が重複
しなかった工事はその希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は
希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。
ウ受注予定者は各社の受注の均等を念頭に置いて決定する。この受注の均
衡は,各社が受注する工事のトン数を目安とする。なお,これに関して,
c及びdの営業担当社員の中には,5社又は5社にf及びhを加えた7社
の受注に関して,工事のトン数を加算した数値を算出していた者もあった。
エアウトサイダーが入札に参加した場合,受注予定者等は,自社が受注す
ることができるよう協力を求め,その協力を得るようにする。
オ受注予定者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格をも定めて
各社に連絡する。受注予定者以外の者は,受注予定者から連絡を受けた価
格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注することができるように
協力する。
(6)競争の実質的制限
5社は,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間において,
地方公共団体の発注するストーカ炉の建設工事の過半について,受注予定者
を決定し,これを受注することにより,地方公共団体が指名競争入札等の方
法により発注するストーカ炉の建設工事の取引分野における競争を実質的に
制限していた。
(7)違反行為の終了
5社は,平成10年9月17日被告が独占禁止法の規定に基づき審査を開
始したところ,同日以降,5社の会合を実施しておらず,本件合意に基づき
受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を行っていな
い。
3本件審決の要旨
(1)本件各工事の「当該役務」該当性
ア独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品又は役務」とは,原則とし
て,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべ
きであるが,本件合意のような入札談合の場合にあっては,基本合意の対
象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において基本合意の成立
により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものと解すべきで
ある。そして,個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定さ
れたことが認められれば,当該入札の対象工事には,自由な競争を行わな
いという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるもの
と認められるから,当該個別の入札に係る工事は,「当該役務」に該当す
るものと認められる。
イ①5社は,ストーカ炉の建設工事について,施工実績の多さ,施工経歴
の長さ,施工技術の高さから,プラントメーカーの中にあって大手5社と
称されていること,②本件違反行為が実施された期間において地方公共団
体が発注したストーカ炉建設工事は87件(発注金額は約1兆1031億
円)であるところ,すべての入札において5社のうち大半のものが指名さ
れて参加しており,このうち5社のいずれかの者が受注した工事は66件
にも上ること,③5社は,随時,5社の営業責任者クラスの者が集まる会
合を開催し,当該会合で地方公共団体が計画するストーカ炉の建設工事の
情報を共通化した上で,各社が受注する工事のトン数を目安に各社が均衡
して受注することができるように発注トン数の規模別に受注予定者を決定
していたこと,④5社の営業社員の中には,5社の受注状況を指数化して
把握していた者もいたこと,⑤5社は,アウトサイダーが入札に参加した
場合には,当該アウトサイダーに協力を求めるようにしていたことが認め
られる。加えて,本件合意に参加し,本件合意の詳細を最もよく知り得る
立場にある原告が,未だに本件合意及び本件違反行為の存在を否定し,本
件合意の詳細を明らかにしないことをも総合考慮すると,本件合意は,地
方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象と
するものであったと推認するほかない。そうすると,地方公共団体が発注
するストーカ炉の建設工事で,5社のいずれかが入札に参加し受注した工
事については,何らかの特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社
間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した自由な競争をしな
いという競争制限効果が個別の工事に及んでいたものと推認するのが相当
である。この推認を覆すに足りる特段の事情があるというためには,本件
合意が存在していたにもかかわらず,何らかの事情があって個別の工事に
おいて受注予定者が決定されなかったこと,当該工事の入札実施前に本件
合意の対象から除外されたこと(以下「本件特段の事情」という。)をう
かがわせるに足りるだけの反証をする必要がある。
なお,入札参加者の中にアウトサイダーが存在した場合であっても,入
札制度は,本来,すべての入札参加者が当該入札の条件に従って公正な競
争を行うことを予定するものであり,入札参加者間における競争回避を内
容とする合意の介入は一切許されていないのであるから,入札参加者全員
の間で行われるべき競争が行われないということになって,独立して意思
決定を行う競争者が減少するということ自体に競争制限効果が認められ
る。そうすると,入札参加者にアウトサイダーが存在した場合においても,
一部とはいえ同じく入札参加者である5社の間で本件合意が実施され受注
予定者が決定されているのであれば,本件の具体的事情の下では競争制限
効果は発生しているのであって,実際の入札において,上記受注予定者と
アウトサイダーとが価格競争を行ったとしても,既に発生した競争制限効
果を消滅させるような影響はない。
ウ本件各工事について,本件特段の事情をうかがわせるに足りる事情は認
められない。
エ(ア)「苫小牧市」工事は,「苫小牧市新ごみ処理施設(焼却・破砕)建
設工事」として,苫小牧市が指名競争入札の方法により発注した処理ト
ン数210トンの全連ストーカ炉の更新工事であり,平成8年6月24
日に入札が行われ,原告を構成員とするe・m・n共同企業体が120
億6000万円で落札(落札率99.75パーセント)した(査1,2,
35)。
dのリスト(査3)に原告を示す「N」とストーカ炉を示す「S」に
よって表される「N-S」欄に「苫小牧」「210」との記載があるこ
と及び落札率が99.75パーセントであることは,上記工事について,
本件合意に基づいて原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付
ける。
(イ)「熱海市」工事は,「熱海市新清掃工場建設工事」として,熱海市
が指名競争入札の方法により発注した処理トン数136トンの准連スト
ーカ炉の更新工事であり,平成8年8月23日に入札が行われ,原告が
59億9000万円で落札(落札率94.26パーセント)した(査1,
2)。
dのリスト(査3)の「N-S」と記載された欄に「熱海市」及び上
記処理トン数に近似する「120」との記載があることは,上記工事に
ついて,本件合意に基づいて原告が受注予定者として決定されたとの推
認を裏付ける。
(ウ)「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事は,「(仮称)龍ヶ崎地方ごみ処
理施設建設工事」として,龍ヶ崎地方塵芥処理組合が指名競争入札の方
法により発注した処理トン数180トンの全連ストーカ炉の更新工事で
あり,平成9年1月23日に入札が行われ,原告が136億2000万
円で落札(落札率98.98パーセント)した(査1,2)。
dのリスト(査3)の「N-S」と記載された欄に,「竜ケ崎」「1
20」と記載されていること及び落札率が98.98パーセントである
ことは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として
決定されたとの推認を裏付ける。
(エ)「米子市」工事は,「米子市新清掃工場建設工事」として,米子市
が指名競争入札の方法により発注した処理トン数270トンの全連スト
ーカ炉の更新工事であり,平成10年6月2日に入札が行われ,原告が
135億8000万円で落札(落札率99.84パーセント)した(査
1,2)。
aのリスト(査4)の「米子市」の欄と「焼却」の欄の交差する箇所
に「270」の記載に加えて「N」の記載がされていること,原告提出
の「米子市の件」と題する書面(査52)に「K社に指示した灰溶焼却
の金額」との記載があること,落札率が99.84パーセントであるこ
とは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決
定されたとの推認を裏付ける。
(オ)「賀茂広域行政組合」工事は,「平成10年度ごみ処理施設増設工
事」として,賀茂広域行政組合が指名競争入札の方法により発注した処
理トン数150トンの全連ストーカ炉の増設工事であり,平成10年8
月31日に入札が行われ,原告が62億円で落札(落札率97.53パ
ーセント)した(査1.2)。
aのリスト(査4)の「賀茂(組)」の欄と「焼却」の欄が交差する
箇所に上記処理トン数と一致する「150」の記載に加えて「N」の記
載がされていること,原告提出のメモ(査5)に,cを示す「M」,d
を示す「K」,aを示す「H」,bを示す「T」の記載と入札金額らし
き数字が記載されていること及び落札率が97.53パーセントである
ことは,上記工事について,本件合意に基づいて原告が受注予定者とし
て決定されとの推認を裏付ける。
(2)「横浜市(α工場)」工事に係る売上げは課徴金の対象となるか
「横浜市(α工場)」工事は,本件合意に基づいて受注予定者が決定され
たことが認められ「当該役務」に該当する。本件違反行為の実行期間は平成
7年9月17日から平成10年9月16日までの3年間であり,本件実行期
間内において締結した契約の対価が課徴金の対象となる。
「横浜市(α工場)」工事は,地方自治法96条1項5号,同法施行令1
21条の2第1項等により,市議会の議決を得なければならない契約に該当
する。議会の議決を必要とする契約については,議会の議決をもって地方公
共団体としての意思が決定し,執行機関である地方公共団体の長に契約を締
結する権限が付与されるものと解すべきである。したがって,「横浜市(α
工場)」工事に係る契約は,市議会において契約の締結が可決された後,契
約書に横浜市長の公印が押印された時点で契約が締結されたものと認めら
れ,その契約締結日は平成7年9月21日であり,本件実行期間内である。
(3)売上額算定における消費税相当額の処理
役務の「対価」とは,一般に請負や委託代金を指すと考えられるところ,
消費税法は,役務の提供等の資産の譲渡等について当該役務の提供を行った
事業者を消費税の納税義務者としており,役務の提供を受ける側は消費税相
当額を経済的に転嫁されて負担する立場に止まり納税義務者ではない。した
がって,消費税相当額は,法的性質上,役務に対する対価の一部であり,独
占禁止法施行令6条にいう役務の「対価」に含まれる。
(4)課徴金の計算
本件各工事の売上額は,いずれも課徴金の計算の基礎となるところ,本件
実行期間における原告の売上額を独占禁止法施行令6条の規定に基づき計算
すると,本件各工事の契約により定められた対価の額を合計した955億4
192万1410円となる。上記売上額を前提として独占禁止法7条の2第
1項の規定により課徴金の額を算出すると,57億3251万円となる。
4争点
(1)本件各工事が,独占禁止法7条の2第1項の「当該役務」に当たり,課徴
金算定の対象となるか。
(2)「横浜市(α工場)」工事に係る契約金額は,改正法附則2条の規定によ
りなお従前の例によることとされる私的独占の禁止及び公正取引の確保に関
する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による
改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独
占禁止法施行令」という。)6条1項の「実行期間において締結した契約に
より定められた対価の額」に当たり,独占禁止法7条の2の「売上額」に当
たるか。
(3)課徴金算定の対象となる売上額に消費税相当額が含まれるか。
(4)本件課徴金納付命令は,独占禁止法7条の2第6項に定める除斥期間経過
後にされたものか。
5争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)について
ア総論
(原告の主張)
(ア)独占禁止法7条の2第1項は,課徴金は「当該商品又は役務」の売
上額に所定の算定率を乗じて計算される旨定めるところ,「当該商品又
は役務」とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指し,本件
のように受注調整行為を違反行為とする事案においては,当該事業者が
基本合意に基づいて受注予定者として決定され,受注されるなど,受注
調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに
至ったものを指す。したがって,個別の入札で具体的に競争制限効果が
発生した場合にのみ課徴金の対象となり,かつ,課徴金納付命令の名宛
人が当該受注調整手続に直接又は間接に関与していたことが必要であ
り,課徴金対象となる個別工事について,課徴金納付命令の名宛人たる
原告が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果,競争制限効果が発
生したことの主張立証責任を被告が負うところ,本件において,この点
につき実質的証拠はない。本件審決は,本件合意が,地方公共団体が発
注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであ
ったと認定するが,上記の認定は実質的証拠に基づかないものである。
本案審決においても,本件合意が地方公共団体の発注するすべてのスト
ーカ炉の建設工事を対象とするものであったとは認定しておらず,本件
審決は,本件合意が,地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建
設工事を対象とするものであったと推認することにより,個別工事につ
いて当該事業者直接又は間接に関与した受注調整手続の結果競争制限効
果が発生したことに関する主張立証責任を当該事業者に転換するもので
あり,「当該商品又は役務」に関する解釈を誤り,上記立証責任に関す
る法令に違反するものである。したがって,本件審決には,独占禁止法
82条1号,2号の事由がある。
(イ)基本合意の存在が認められる場合に,その事実と他の証拠とを総合
して,個別の工事において競争制限効果が発生したことを推認すること
が認められるとしても,それは,基本合意において対象物件が一定の範
囲に明確に限定され,受注予定者決定の基準も明白で,実施状況も実効
性のあるものと認定される場合であって,かつ,個別工事に基本合意の
拘束が及んでいたと推認することが合理的な場合に限られるべきであ
る。本案審決が認定した本件合意は,黙示の合意又は抽象的・曖昧な合
意にすぎず,その内容・対象範囲が不明確である以上,これに基づいて,
個別行為における基本合意に基づく個別合意すなわち受注予定者決定行
為が行われたと認定する根拠を欠き,基本合意に基づく個別の合意を推
認するための要件を満たすものではない。本件合意を理由として,特段
の事情がない限りすべての個別工事における個別合意が推認されるとす
る本件審決の判断は,「当該商品又は役務」の解釈を誤り,実質的証拠
によらずに本件各工事を課徴金の算定の対象に含めるものである。
(ウ)基本合意及びそれに基づく受注調整行為の存否が争点となる場合,
不当な取引制限すなわち一定の取引分野における競争の実質的制限があ
ったといえるか否かが争点となるところ,競争の実質的制限とは一定の
取引分野における競争を全体としてみて,その取引分野における有効な
競争を期待することがほとんど不可能な状態をもたらすことをいう。こ
れを入札談合カルテルについてみれば,入札談合カルテルにおいて一定
の取引分野における商品又は役務のすべて又はほとんどすべてあるいは
少なくとも大部分を合意当事者がコントロールすることが必要であると
いうべきである。しかし,本件合意は内容・対象範囲そのものが不明確
であり,本案審決においても,本件違反行為期間中に指名競争入札等の
方法により入札が行われたストーカ炉の建設工事のうち,具体的証拠か
ら5社が受注予定者を決定したとされる工事は30件,そのうち5社が
受注したとされる工事は27件しか認定されておらず,本件違反行為期
間中に全国で発注された工事87件の約31パーセントにすぎない。こ
のように,本案審決の認定を前提としても,本件合意の当事者が,地方
公共団体が発注するごみ焼却炉の建設工事について「すべて」又は「ほ
とんどすべて」をコントロールしていたとは認定されていない。それに
も関わらず,本件審決が,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工
事で,5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事については,何
らかの特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者
が決定され,本件合意によって生じた自由な競争をしないという競争制
限効果が個別の工事に及んでいたと推認し,全発注工事の約31パーセ
ントにすぎない工事に基づき認定した本件合意を具体的証拠が存在しな
い個別工事に関する受注調整の立証に用いるのは循環論法であり,明ら
かに不合理というべきである。
本案審決において,具体的証拠から5社が受注予定者を決定したとさ
れる工事の中に「横浜市(α工場)」工事及び「β地区環境整備事業組
合」工事は含まれていない。したがって,本案審決に依拠して,「横浜
市(α工場)」工事及び「β地区環境整備事業組合」工事を課徴金算定
の対象とすることはできない。
(エ)また,アウトサイダーが入札手続に参加した工事については,アウ
トサイダーやその他の入札業者との間で価格競争が行われていたため,
受注調整手続の結果として具体的な競争制限効果が発生したと認めるこ
とはできず,課徴金の算定対象である「当該商品又は役務」に含めるこ
とはできない。したがって,アウトサイダーが入札に参加していた工事
(「苫小牧市」工事,「熱海市」工事,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工
事,「米子市」工事)については,原告が直接又は間接に関与した受注
調整手続の結果としての競争制限効果は発生していないから,課徴金算
定の対象に含める理由はないにもかかわらず,本件審決は,独立して意
思決定を行う競争者が減少すること自体に競争制限効果が認められると
し,抽象的に,競争者が減少したこと自体に競争制限効果を認め,受注
予定者とアウトサイダーとが価格競争を行ったとしても,既に発生した
競争制限効果を消滅させるような影響はないとして,これを課徴金の算
定対象としている。これは,アウトサイダーとの競争関係が存在し入札
手続における競争が存在する場合においても,当該入札において競争の
実質的制限があるとするものであって,原告が直接又は間接に関与した
受注調整手続の結果として具体的な競争制限効果が発生したことを要件
とする「当該商品又は役務」の解釈を誤った法令違反がある。実際にも,
平成6年度から平成10年度までの全連及び准連ストーカ炉の受発注状
況等一覧(査2号証)に記載された87件中アウトサイダーが落札した
工事が21件存在し,アウトサイダーとの間で具体的な競争が存在した
ことは客観的に明らかである。
(被告の主張)
(ア)独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品又は役務」とは,原則
として不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解
すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合の「当該商品又は役
務」とは,基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入
札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると
認められるものをいうと解すべきである。そして,個別の入札において
基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入
札の対象工事には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によっ
て発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,当該個別
の入札に係る工事は「当該商品又は役務」に該当するものと認められる。
(イ)5社は,ストーカ炉の建設工事について,施工実績の多さ,施工経
歴の長さ,施工技術の高さから,プラントメーカーの中にあって大手5
社と称されていたこと,本件違反行為が実施された期間において地方公
共団体が発注したストーカ炉建設工事87件のすべての入札について5
社のうち大半のものが指名されて参加しており,5社全社が入札に参加
した工事は67件に上ること,5社は,随時,その営業責任者クラスの
者が集まる会合を開催し,当該会合で地方公共団体が計画するストーカ
炉の建設工事の情報を共通化した上で,各社が受注する工事のトン数を
目安に各社が均衡して受注することができるように発注トン数の規模別
に受注予定者を決定していたこと,5社の営業担当社員の中には,5社
の受注状況を指数化して把握していた者もいたこと,5社はアウトサイ
ダーが入札に参加した場合には,当該アウトサイダーに協力を求めるよ
うにしていたことが認められ,これらに加えて,本件合意に参加し,本
件合意の詳細を最も良く知り得る立場にある原告において,本件合意及
び本件違反行為の存在を否定し,本件合意の詳細を明らかにしないこと
も総合考慮すると,本件合意は,地方公共団体が発注するすべてのスト
ーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認するほか
ない。そうすると,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事で,
5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事については,何らかの
特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定
され,本件合意によって発生した自由な競争をしないという競争制限効
果が個別の工事に及んでいたものと推認するのが相当である,この推認
を覆すに足りる特段の事情があるというためには,当時,本件合意が存
在していたにもかかわらず,何らかの事情があって個別の工事において
受注予定者が決定されなかったこと,受注予定者が決定されたがこれが
覆されたことなど,当該工事の入札前に本件合意の対象から除外された
ことをうかがわせるに足りるだけの反証をする必要がある。
(ウ)本案審決は具体的証拠から5社が受注予定者を決定し受注したと推
認される27件の工事における受注調整のみを本件合意の認定の根拠と
したものではないし,上記27件の工事以外の工事について受注予定者
の決定がなされたことを否定するものではない。本件審決も,本件合意
が認定されたことのみから本件合意が地方公共団体の発注するすべての
ストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったことを推認
しているものではなく,上記の事由を総合考慮して,本件合意が地方公
共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とす
るものであったと推認し,その結果,特段の事情がない限り,本件合意
の競争制限効果が個別の工事に及んでいたと推認しているのであるか
ら,これが循環論法であるとの原告の主張は理由がない。
「当該役務」該当性の判断において「個別の工事において受注調整が
実施され,その結果,受注予定者が決定されたこと」を立証する方法は
種々存在するのであって,個別の工事ごとに受注予定者が決定された際
の具体的な経緯まで証拠をもって明らかにしなければ「当該役務」に該
当すると認定することができないと解するべき理由はなく,不当な取引
制限に該当する意思の連絡により相互拘束(本件においては本件合意)
の存在が認められる場合に,この事実と他の証拠とを総合して,個別の
工事において受注予定者が決定されたことを推認することは,事実認定
の手法として,当然に許容される。
(エ)また,アウトサイダーが入札手続に関与していた工事については,
入札制度は,本来,すべての入札参加者が当該入札の条件に従って公正
な競争を行うことを予定するものであり,入札参加者間における競争回
避を内容とする合意の介入は一切許されていないのであるから,入札参
加者全員の間で行われるべき競争が行われないこととなって,独立して
意思決定を行う競争者が減少するということ自体に競争制限効果が認め
られるべきである。入札参加者にアウトサイダーが存在した場合におい
ても,一部とはいえ同じく入札参加者である5社の間で,本件合意が実
施され受注予定者が決定されているのであれば,本件の具体的事情の下
では競争制限効果は発生しているのであって,実際の入札において,受
注予定者とアウトサイダーとが価格競争を行ったとしても,既に発生し
た競争制限効果を消滅させるような影響はないと解するべきである。
イ「横浜市(α工場)」工事について
(原告の主張)
原告は,「横浜市(α工場)」工事が,横浜市発注の新設工事としては
最後となる旨の情報を得ていたこと,1炉当たり規模が過去最大の大型工
事である上,灰溶融炉の工事も含む工事であったことから将来の営業活動
上の効果が期待でき,ごみ焼却炉における最高レベルの発電技術が採用さ
れていたためこれを受注することが他社との競争上も大きな武器となり得
たことから高い受注意欲を持ち,利益を圧縮してでも受注したい工事であ
ったため,積算資料も踏まえて下げられるぎりぎりの価格から,さらに1
0億円ないし15億円(2.5パーセントないし4パーセント)引き下げ
た価格(400億円)で入札したものである。したがって,「横浜市(α
工場)」工事は,原告が他社との熾烈な競争を勝ち抜いて受注したもので
あり,同工事において具体的競争制限効果があったとはいえない。
被告は,「横浜市(α工場)」工事について,本件合意による競争制限
効果が及んでいるとの推認を強める事情やその他の同工事を課徴金算定対
象とする合理的な根拠を示していない。
(被告の主張)
「横浜市(α工場)」工事について,原告が,利益を圧縮してでも受注
したい工事であったため,下げられるぎりぎりの価格から,さらに引き下
げた価格で入札したような事情が存在したとしても,それは,地方公共団
体から指名を受ける等入札参加資格を得るため又は5社の中で受注予定者
と決定されるための行動とも解し得るものであり,原告が受注予定者とし
て決定された事実と相反するものではない。したがって,かかる事情は,
本件合意が存在していたにもかかわらず「横浜市(α工場)」工事が本件
合意の対象から除外されたことをうかがわせるに足りるだけの事情とはい
えないというべきである。
ウ「苫小牧市」工事について
(原告の主張)
既設炉の更新工事であり,既設物件の受注業者であったaが受注する可
能性が高かったが,北海道地区での受注が途絶えていた原告にとって,以
後の同地区における営業展開上大きな効果が期待できたため,強い受注意
欲を持って精力的に営業活動を行った案件であり,入札金額を圧縮するた
めの企業努力を行った。また,入札期日間近にプラントメーカーと土木建
築業者の共同企業体形式による受注とすることを苫小牧市から突然告げら
れた事情があり,アウトサイダーや土木建築業者を巻き込んで受注調整が
できるような案件ではなかったし,そのような時間的余裕もなかった。
査第3号証のリストは,一企業の一担当者が作成した受注予想を記載し
た書面にすぎない上,発注が予想される物件を網羅したものではなく,実
際に原告が受注した結果等とも一致しないことが多く,5社が受注予定者
を決定した結果が記載されたものとは認められず,「苫小牧市」工事に関
して,原告が直接又は間接に関与した結果として具体的な競争制限効果が
あったと認めるに足りる実質的証拠とはならない。
さらに,落札率も,個別の工事ごとに設定される予定価格によって容易
に変動する相対的な数値であるから,個別工事における個別の合意を推認
させる根拠とはならない。
(被告の主張)
前記イと同様,原告が精力的に営業活動を行い,入札金額を圧縮するた
めの企業努力を行った事情があったとしても,本件合意に基づき原告が受
注予定者として決定された事実と相反するものではない。
また,共同企業体方式となった場合にも,共同企業体の構成員となった
本件合意の参加者らの間で,当該共同企業体の他の構成員を巻き込むこと
なく受注予定者を決定することは十分可能である上,焼却炉の発注が相当
程度前に把握されていた状況にあったことに照らせば,入札期日まで1月
もない時期に突然共同企業体方式によることになったという事情があった
としても,本件合意に基づく受注調整を困難にするほどの事情ということ
はできない。したがって,かかる事情は,本件合意が存在していたにもか
かわらず「苫小牧市」工事が本件合意の対象から除外されたことをうかが
わせるに足りるだけの事情とはいえない
エ「熱海市」工事について
(原告の主張)
原告は,熱海市の知名度が高いことから,「熱海市」工事を受注するこ
とが将来の営業活動に有利に働くと考え精力的に営業活動を展開した。他
方,「熱海市」工事においては,発注する焼却炉の方式が決定してから入
札期日まで2週間程度の期間しかなく,そのわずかな期間内に受注調整が
あったとするのは現実的でない。また,「熱海市」工事の入札には,5社
以外にアウトサイダー2社が参加していたから,受注予定者を決めるため
には,アウトサイダー2社の協力が必要となるところ,原告がアウトサイ
ダー2社に対し協力の要請をした事実を裏付ける証拠はなく,原告が直接
又は間接に関与した受注調整の結果としての具体的な競争制限効果が発生
したとはいえない。査第3号証のリストは,「熱海市」工事に関して,原
告が直接又は間接に関与した結果として具体的な競争制限効果があったと
認めるに足りる実質的証拠とはならない。
本件工事に関し,東京高等裁判所は本件審判手続と共通の証拠に基づき,
具体的競争制限効果が発生したといえないことを含め,談合の成立が認め
られない旨の判断をし,確定している。被告は終審として裁判を行うこと
ができず,裁判所は被告の審決を一定の場合に取り消せるのであるから,
同一の事実関係について,本件審決と共通の証拠に基づいて裁判所が下し
た判断が優先されるべきであり,被告はその権限を行使するに際して裁判
所の確定判決に反する判断をなすべきでない義務を負っている。本件審決
は司法判断に従うべき上記の法令上の義務に反しており,本件審決は憲法
その他法令に違反する場合にも該当する。
(被告の主張)
原告の引用する判決は,不法行為に基づく損害賠償請求権の存否が争点
となった事案であり,独占禁止法に基づく課徴金の要件の存否が問題とな
る本件とは事案が異なるのであるから,上記判決における判断が本件審決
の判断を左右するものではない。
また,原告が「熱海市」工事について精力的に営業活動を展開したこと
は,原告が受注予定者として決定された事実と相反するものではなく,「熱
海市」工事が,入札期日の2週間前に指名通知を出す直前まで発注する焼
却炉の方式を決定しなかったことも,本件合意に基づく受注調整を困難に
するほどの事情ということはできない。したがって,かかる事情は,本件
合意が存在していたにもかかわらず「熱海市」工事が本件合意の対象から
除外されたことをうかがわせるに足りるだけの事情とはいえない。
オ「β地区環境整備事業組合」工事について
(原告の主張)
「β地区環境整備事業組合」工事は既設炉に加えて新たなごみ焼却炉を
増設する工事であり,既設炉を受注し建設した原告が競争上極めて有利な
立場にあった。本工事は,原告がその強い価格競争力及び技術力を背景に,
自由競争の結果落札した案件であり,これを受注調整行為の対象とする理
由は存在せず,具体的競争制限効果は生じていないことが明らかである。
被告は「β地区環境整備事業組合」工事について,本件合意による競争
制限効果が及んでいるとの推認を強める事情を何ら指摘しておらず,その
他同工事を課徴金算定対象とする合理的な根拠を示しておらず,同工事に
ついて具体的な競争制限効果発生したとは認められず,課徴金算定の対象
とならないことは明らかである。
(被告の主張)
「β地区環境整備事業組合」工事について,原告が強い価格競争力及び
技術力を有していたとしても,本件合意が存在していたにもかかわらず「β
地区環境整備事業組合」工事が本件合意の対象から除外されたことをうか
がわせるに足りるだけの事情とはいえない。
カ「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事について
(原告の主張)
「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事は,予算決定から極めて短期間のうち
に入札が行われた案件であり,また,当時,茨城県におけるごみ焼却炉の
納入実績がなかったことなどから,原告が強い受注意欲をもって臨み営業
活動に注力し,他方,アウトサイダーであるhが技術的に有利な立場にあ
り,強い意欲を持って営業等に臨んでいると考えられ,実際の両社の入札
価格も近接していることから,入札において激しい競争が展開されたこと
が明らかである。査第3号証のリストは,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工
事に関して,原告が直接又は間接に関与した結果として具体的な競争制限
効果があったと認めるに足りる実質的証拠とはならない。
(被告の主張)
「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事について,原告が強い受注意欲をもっ
て臨み営業活動に注力していたとしても,原告が受注予定者として決定さ
れた事実と相反するものではない。
また,アウトサイダーであるhが強い受注意欲を有していたことは,5
社間における受注予定者の決定と相反する事実ではなく,原告とともに当
該入札に参加していた4社の入札価格に照らしても,5社間において受注
予定者が決定されたにもかかわらず,入札参加者全員による自由競争とな
ったことをうかがわせるに足りる事情は認められない。したがって,かか
る事情は,本件合意が存在していたにもかかわらず「龍ヶ崎地方塵芥処理
組合」工事が本件合意の対象から除外されたことをうかがわせるに足りる
だけの事情とはいえない。
キ「米子市」工事について
(原告の主張)
「米子市」工事は,入札参加業者9社のうちアウトサイダーが4社もあ
り,旧施設の更新工事であり,旧施設の受注・施工者であったdが優位に
あり,受注意欲をもって営業活動を展開しており,iも熱心に営業活動を
展開していた。他方,原告も鳥取県内で2件の受注施工実績を有していた
ことから,本工事についても落札を目指して注力物件に置づけ,競合他社
との競争に打ち勝って受注すべく強い受注意欲をもって営業活動に臨み,
熾烈な価格競争を展開した上で受注した経緯がある。
また,「米子市」工事については,米子市は,原告が当初算出した見積
よりも45億円も低い148億円という厳しい事業費を設定しており,そ
のような低い予算水準の下で,アウトサイダーであるd及びiとの間で熾
烈な価格競争を繰り広げた案件であり,入札価格も極めて狭い範囲内に納
まっている。したがって,「米子市」工事について,原告が直接又は間接
に関与した受注調整手続の結果として具体的な競争制限効果が発生したと
いえないことは明らかである。査第4,52号証の記載は,「米子市」工
事について受注予定者が決定されたことを裏付ける実質的証拠に当たらな
い。
(被告の主張)
「米子市」工事について,原告が強い受注意欲をもって営業活動に臨ん
だことは,原告が受注予定者として決定された事実と相反するものではな
い。
また,d及びiとの間で価格競争が存在したことを客観的に裏付ける証
拠はなく,原告,d及びiの入札価格の差をもって直ちにこれらが狭い範
囲内に納まっていると評価できるものではなく,そのことから激しい価格
競争があったことが裏付けられるものでもなく,「米子市」工事が本件合
意から除外されていたことをうかがわせる証拠はない。
ク「賀茂広域行政組合」工事について
「賀茂広域行政組合」工事は既設炉を増設する工事であり,既設炉につ
いて原告が設計,建設施工の実績のある工事であったため,必注案件に位
置付けていたほか,既設炉との制御系システムの統合・一体化が必要であ
り,増設のための空間の確保,設計にも困難を伴う特殊性を有する案件で,
原告が高い価格及び技術競争力を有していた。したがって,原告は,「賀
茂広域行政組合」工事を受注調整の対象とする理由はなく,他社との競争
に打ち勝って確実に受注すべく通常よりも低額の入札金額を設定すること
により,厳しい価格競争の結果落札した案件であり,原告が直接又は間接
に関与した受注調整手続の結果として具体的な競争制限効果が発生してい
ないことが明らかである。査第4,5号証の記載は,「賀茂広域行政組合」
工事について受注予定者が決定されたことを裏付ける実質的証拠に当たら
ない。
(被告の主張)
「賀茂広域行政組合」工事について,原告が高い価格競争力及び技術競
争力を有していたことは,原告が受注予定者として決定された事実と相反
するものではなく,原告が相場よりも低額の入札価格を設定したとしても,
そのことのみでは,本件合意が存在していたにもかかわらず,「賀茂広域
行政組合」工事が,本件合意の対象から除外されたことを根拠付ける事情
とはいえない。
(2)争点(2)について
(原告の主張)
ア独占禁止法施行令6条1項は,課徴金算定の基礎となる売上額の算定方
法として,「実行期間において締結した契約により定められた商品の販売
又は役務の提供に係る契約により定められた対価の額を合計する方法とす
る」と定めており,画一的処理の観点からも契約締結日を算定の基準とし
ている。そして,同条項は,契約の締結について,一般的な法解釈と異な
る解釈をとるものではない。
イ「横浜市(α工場)」工事は客観的証拠から平成7年8月21日に正式
契約が締結されたことが明らかである。地方自治法96条1項5号は,政
令で定める基準に従い条例で定められる一定額以上の金額を契約金額とす
る工事請負契約については,契約の締結に際し議会の議決を必要としてい
るが,地方公共団体が工事請負契約を締結する方法は多様であり,同条項
は,議会議決前に地方公共団体が契約を締結すること自体を禁止するもの
ではなく,地方公共団体は,同条項の規定に従い,議会の議決を得る前に
契約が効力を生じないような法形式を採用すれば足り,その場合,当該契
約はその法形式のとおりの契約内容を保持する。「横浜市(α工場)」工
事は,平成7年8月21日,議会議決を停止条件とする本契約として有効
に成立したことが契約の文言上明白であり,当事者の意思解釈としても合
理的である。したがって,同契約は,本件違反行為の実行期間である平成
7年9月17日から平成10年9月16日までにおいて締結された契約に
は該当せず,課徴金算定の対象とならない。
被告は,契約日を平成7年9月21日と認定しており,かかる認定は独
占禁止法及び独占禁止法施行令の解釈を誤り,その根拠を欠くものであり,
本件審決は取消しを免れない。
ウなお,契約書作成後,地方公共団体の議会における当該契約の審議日及
び議決日がいつになるかという事情は,偶然性に左右されるのみならず契
約当事者が決し得ない事情であって,これを基準として契約の締結の有無
を決定することは,当事者の地位を害する点で法的安定性に反し,明確性
・画一性の見地からも妥当とはいえず,行政上の措置に求められる迅速性,
合理性も確保できない。本件においても,横浜市議会の定例会における審
議が遅れた結果,「横浜市(α工場)」工事の請負契約締結について議会
承認の議決がされたのは実行期間の初日の4日後であったが,当初定めら
れた定例会の会期を前提とすれば,実効期間の初日よりも前の時点で議会
承認議決がされたはずであると考えられる。このような,契約当事者の合
意に関わらない横浜市議会の日程や議決時期という偶然性の高い事情によ
って,「横浜市(α工場)」工事が課徴金算定の基礎とされ,莫大な額の
課徴金が課されるか否かが決定されるのは,契約基準としての明確性及び
画一性を著しく欠き,課徴金納付命令の名宛人の法的地位を不当に害する
ものである。
さらに,課徴金算定の対象となるか否かを議会承認日を基準に判断しよ
うとすれば,審査官は,当該物件が要議決物件に当たるか否かにつき関連
する条例を確認し,議会承認日及び議会承認が法定の要件を満たしてなさ
れたものであるか等について逐一資料を精査して確認し,地方公共団体の
長が契約書に記名押印した日時を証拠をもって確定すべき法律上の義務を
負うことになり,多大な事務作業が発生することになる。
明確かつ画一的な基準による算定という課徴金制度の要請と行政上の措
置に求められる迅速性及び合理性の確保という観点からしても,課徴金算
定の基礎となる売上額の算定方法である契約基準の適用上,契約書に記載
された契約日を基準とすべきことが明らかである。
エまた,独占禁止法施行令6条1項が契約基準を定めた趣旨は,課徴金算
定の基礎となる売上額の算定に当たっては引渡基準が原則とされていると
ころ,例外として,受注から引渡しまでに長期間を要する場合に,引渡基
準を適用すると事業活動の結果を適正に反映できないことから,このよう
な不都合を避け,違反行為の実行としての事業活動による不当利得を適正
に反映させることにある。このような趣旨に照らせば,実行期間よりも後
の時点で引渡しがされた商品又は役務について課徴金算定の対象に取り込
むことは上記の趣旨に合致するが,実効期間よりも前の時点で入札が実施
された場合についてまで,契約基準における「契約締結」の意味を拡大解
釈して課徴金算定の対象とすることは不合理である。被告は,本件と同じ
事案における他の事業者であるcに関し,議会議決日ではなく入札日を基
準として課徴金算定の対象となる対価の額を算定しており,一貫性を欠き
恣意的というべきである。
(被告の主張)
ア独占禁止法7条の2第1項は,実行期間における当該商品又は役務の売
上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命じなければならないと
し,実行期間は,3年を超えるときは,当該行為の実行としての事業活動
がなくなる日からさかのぼって3年間とする旨を定めている。本件違反行
為の実行期間は3年を超え,その実行としての事業活動がなくなる日は平
成10年9月16日であるから,本件実行期間は平成7年9月17日から
平成10年9月16日までの3年間となる。そして,独占禁止法施行令6
条1項により,本件実行期間内において締結した契約の対価が課徴金の対
象となる。
「横浜市(α工場)」工事は,「当該役務」に該当するものであるとこ
ろ,「横浜市(α工場)」工事に係る契約が締結されたのは平成7年9月
21日と認められるから,本件実行期間内において締結した契約の対価と
して,課徴金の対象となる。
イ不当な取引制限行為が実行期間において受注するものに係る場合には,
受注から引渡等までに期間を有するのが通常であるので,実行期間中の不
当な取引制限行為に基づく事業活動の結果が反映されない結果が生じ得
る。独占禁止法施行令6条1項が,同施行令5条の引渡基準の原則の例外
として「実行期間において締結した契約」を売上額の算定の基準としたの
は,このような事態を避け,不当な取引制限の実行としての事業活動によ
る不当な利得が適正に反映するように,契約基準によって売上額を算定す
ることとしたものと解される。このような独占禁止法施行令6条1項の趣
旨等によれば,「実行期間において締結した契約」における契約の「締結」
とは,単に落札者の代表者のみが記名・押印した契約書を発注者に提出す
るなどの契約締結に至る準備行為では足りず,契約の内容が特定され,契
約締結権限を有する者による意思表示により契約締結に必要な手続が履行
され,契約が有効に成立し,違反行為の実行としての事業活動により売上
げに係る債権が発生し得る時点を意味すると解するのが相当である。
ウまた,地方自治法96条1項5号が契約を締結することを議会の議決に
よるべきものと定めていること,同法138条の2が執行機関は議会の議
決に基づく事務を誠実に管理して執行すべき義務を負うと規定しているこ
と及び同法179条が,議会の議決すべき事件について緊急を要する場合
は,議決を待たずに執行機関の長は当該事件を処分することができるとし
ていることに照らすと,議会の議決を必要とする契約については,議会の
議決をもって地方公共団体としての意思が決定し,執行機関の長に契約を
締結する権限が付与されるものと解するべきである。そして,地方自治法
234条5項が,「普通地方公共団体が契約につき契約書(中略)を作成
する場合においては,当該普通地方公共団体の長(中略)が契約の相手方
とともに,契約書に記名押印し(中略)なければ,当該契約は,確定しな
いものとする。」と定めており,地方公共団体が契約を有効に締結するた
めには,契約書を作成の上,これに契約締結の権限ある執行機関の長が記
名押印することが必要となることに照らすと,議会の可決を必要とする地
方公共団体との契約については,議会の議決により契約締結権限を与えら
れた執行機関の長が,当該契約書面に記名押印をすることによって,独占
禁止法施行令6条1項に該当する契約が締結されたものと解される。
エ平成7年8月21日の時点では,発注者たる横浜市を代表する横浜市長
に契約締結権限はなく,そのため契約書の発注者欄には横浜市長の公印は
押されておらず,契約書は完成していなかった。平成7年当時の横浜市契
約規則33条には「契約の相手方と,市議会の議決を得た後に,本契約を
締結する旨を記載した仮契約書を取り交わすものとする。」と規定されて
いることに照らすと,横浜市長が,地方自治法の規定及び上記規則の規定
にもかかわらず,平成7年8月21日に「横浜市(α工場)」工事にかか
る請負契約を締結する意思を有していたとは認められない。横浜市担当者
は,平成7年8月18日の入札終了後直ちに工事請負契約書類一式2組を
原告に交付し,原告はこれに必要事項を記入し,請負人欄に原告の法人名
及び代表者名を記名押印して完成させた上,横浜市に提出し,同市は,市
議会において契約締結議案が可決されるまで請負契約書を保管し,平成7
年9月21日に契約の締結が市議会において可決された後に,請負契約書
の注文者欄の横浜市長の名下に公印を押印して注文者欄を完成させ「可決
(発効)年月日」欄にその日付を記入し,うち1通を原告に交付したこと
が認められる。以上の事実によれば,「横浜市(α工場)」工事に係る契
約は,平成7年9月21日,横浜市長の公印が押捺された時点で請負契約
書が完成し,契約が締結されたものと認められる。
オなお,本件請負契約書には,契約の「締結」及び当該契約によって発生
する債務に係る「予算」が横浜市議会によって可決されて効力が発生する
ものであること並びに議会による議決日が明確に記載されているのである
から,議会による議決を得た時点をもって契約の締結日とすることが明確
性,画一性の見地から妥当でないとはいえず,また,原告の主張するよう
な確認作業が,措置の迅速性及び合理的機動性を害するほどのものとはい
えない。そして,「横浜市(α工場)」工事が「当該役務」に該当し,当
該工事に係る契約は独占禁止法施行令6条1項の実行期間内において締結
された契約に該当することから,その契約金額は独占禁止法7条の2第1
項の「実行期間における売上額」と認められるのであり,「横浜市(α工
場)」工事を課徴金の対象として含めることに何ら恣意的な点はない。
(3)争点(3)について
(原告の主張)
課徴金制度は,もともと,違反行為によって事業者が得た利得をそのまま
事業者に保持させないで国が徴収することにより違反行為の抑止を図る制度
として設計され,事業者が得た不当な利得を収奪するものであり,違反行為
に対する刑罰として事業者の適法な利得を収奪しようとするものではないか
ら,違反者が顧客から受け取る金額のうち,本来違反者の利得となり得ない
ものは売上額に含める必要はない。
売主が買主から受領する消費税相当額は,売主が国に支払うべき消費税を
買主に転嫁するために,製品を買主に販売する際にその対価に上乗せするに
過ぎないものであって,その性質は一種の預かり金であり,売主の営業利益
の源泉となるものではない。
したがって,消費税相当額が製品の対価の一部でないことは明らかであり,
この分に対して課徴金を課すことは,独占禁止法施行令5条及び6条にいう
「対価の額」の解釈を誤った違法があり,上記各規定,独占禁止法7条の2
第1項に違反し,また,財産権を保障した憲法29条に違反し,実質上制裁
金に該当し二重処罰となり憲法39条にも違反する。なお,課徴金制度導入
当時は消費税制度は存在せず,課徴金算定の目的で売上額に乗じる百分率を
定めるにあって,カルテルの実行としての事業活動に係る利益を直接に反映
する指標としては売上高営業利益率を採用することとされ,これに基づき課
徴金算定率として6パーセントが採用された経緯がある。したがって,売上
高営業利益率の算定において当時存在しなかった消費税が勘案されることは
なく,企業会計実務上も売上高算出に当たって税抜方式が採られていること
からすれば,売上高営業利益率に消費税を含まないものとするのが立法者意
思に合致し,課徴金制度の趣旨にも沿う解釈である。
(被告の主張)
役務の「対価」とは,一般に請負や委託代金を指すと考えられるところ,
消費税法は,役務の提供等の資産の譲渡等について当該役務の提供を行った
事業者を納税義務者としており(消費税法2条1項,5条1項),役務の提
供を受ける側は,消費税相当額を経済的に転嫁されて負担する立場に止まり
法律的には納税義務者ではない。役務の受益者が支払う消費税相当額は請負
等の代金相当額の金員と同一の法的性質を有する金員として一体的に事業者
に支払われ,事業者が当該受益者から受領した金員の中から自らの義務とし
て消費税を納付することが予定されている。したがって,消費税相当額は,
法的性質上,役務に対する対価の一部であり,独占禁止法施行令6条にいう
役務の「対価」に含まれると解するべきである。
(4)争点(4)について
(原告の主張)
独占禁止法7条の2第6項は,当該違反行為についての審判手続が開始さ
れた場合にあっては,当該審判手続が終了した日から1年を経過したときは,
公正取引委員会は,当該違反行為に係る課徴金の納付を命ずることができな
い旨を定めているところ,被告は,平成19年3月23日付けで本件課徴金
納付命令を発しているが,本案審決の事前手続としてなされた審判手続は平
成17年7月27日に終結しており,本件課徴金納付命令は,同条項の定め
る除斥期間経過後にされた違法な命令であり,同命令を前提とする本件審決
は取消しを免れない。
独占禁止法48条の2第1項ただし書は,課徴金の納付について,「当該
違反行為について審判手続が開始された場合には,審判手続が終了した後で
なければ命ずることができない」と定め,同法7条の2第6項は,「当該審
判手続が終了した日から1年を経過したとき」は,課徴金の納付を命ずるこ
とはできないとしている。独占禁止法における「審判手続」とは,公正取引
委員会が処分を行うにあたって,その公正を期し,被審人及び利害関係人の
利益を保障するための事前手続として行われるものであり,審判手続は,公
正取引委員会が審決という行政処分を行う事前の一連の手続を指し,公正取
引委員会が準司法的機能を有するものとされ,他方,審決は,審判手続とは
切り離された,被告による行政処分である。したがって,独占禁止法7条の
2第6項の「審判手続が終了した日」とは,「審理が終結した日」を意味す
るものと解するほかはない。
被告主張のように「審判手続が終了した」とき,とは,公正取引委員会の
終局判断である審決が行われた時と解するのは,法律の文言解釈の域を超え
た不当な拡大解釈といわざるを得ず,理由がない。
(被告の主張)
独占禁止法7条の2第6項が除斥期間の規定を設けた趣旨は,適正迅速な
行政事務の遂行を確保するとともに,排除措置命令に不服のある被審人の利
益にも配慮し,当該排除措置命令について審判が開始された場合には,同命
令に係る違反事実の存否についての被告の判断が示されるまでは,課徴金の
納付を命ずることができないこととし,その一方で,いったん被告の判断が
示されたときには,すみやかに課徴金の納付を命ずることとして,これを被
告に義務付け,これにより法律関係の早期安定を図ろうとしたことにある。
そうすると,上記被告の判断は審決の形式をもって示されるのであるから,
独占禁止法48条の2第1項ただし書き及び7条の2第6項にいう「審判手
続が終了した」ときとは,被告の終局判断である審決が行われた時点を指す
と解するのが相当である。本件本案審決は平成18年6月27日に行われて
おり,課徴金納付命令は平成19年3月23日にされているのであるから,
同命令は審判手続が終了した日から1年を経過する前に発せられたものであ
り,除斥期間を経過していない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)について
(1)独占禁止法7条の2第1項について
独占禁止法7条の2第1項は,事業者が不当な取引制限で商品又は役務の
対価に係るものをしたときは,当該商品又は役務の政令で定める方法により
算定した売上額に100分の6を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫
に納付することを命じなければならない旨を定めるところ,同項所定の「当
該商品又は役務」とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務であって,
本件合意のような入札談合の場合には,基本合意の対象となった商品又は役
務全体のうち,個別の入札において,当該事業者が基本合意に基づいて受注
予定者として決定されて受注するなど,基本合意による競争制限効果が及ん
でいるものをいうと解すべきである。
そして,本件合意の内容,本件違反行為の実施方法,5社の実績など前記
前提事実に照らせば,個別の入札について,当該事業者が受注予定者として
決定されるに至った具体的経緯まで認定することができないとしても,当該
入札の対象となった役務又は商品が本件合意の対象の範囲内であり,これに
つき受注調整が行われたこと及び事業者である原告が受注したことが認めら
れれば,特段の反証がない限り,原告が直接又は間接に関与した受注調整手
続の結果,競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。
また,本件合意の内容,本件違反行為の実施方法,5社の実績など前記前
提事実に照らせば,入札手続にアウトサイダーが参加しているとしても,直
ちに基本合意による競争制限効果が失われると認めることはできず,具体的
な入札行動等に照らし,基本合意による競争制限効果が失われ,実質的な競
争が行われたと認められるか否かを判断すべきである。
(2)「横浜市(α工場)」工事について
「横浜市(α工場)」工事は「環境事業局α工場(仮称)建設工事(焼却
炉築造工事)」として横浜市が指名競争入札の方法により発注した処理トン
数1200トンの全連ストーカ炉の新設工事であり,平成7年8月18日に
入札が行われ,原告が400億円で落札(落札率99.66パーセント)し
た(査2)。
本件審決は,前記前提事実に加えて,原告が,本件合意及び本件違反行為
の存在を否定し,本件合意の詳細を明らかにしないことをも総合考慮すると,
本件合意は,地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注
調整の対象とするものであったと認定し,地方公共団体が発注するストーカ
炉の建設工事で,5社のいずれかが入札に参加し受注した工事については,
何らかの特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が
決定され,本件合意によって発生した自由な競争をしないという競争制限効
果が個別の工事に及んでいたものと推認するのが相当であり,この推認を覆
すには,本件合意が存在していたにもかかわらず,何らかの事情があって個
別の工事において受注予定者が決定されなかったこと,当該工事の入札実施
前に本件合意の対象から除外されたことなど特段の事情の存在を立証する必
要があるところ,上記特段の事情は認められないものとして,「横浜市(α
工場)」工事は,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件
合意による競争制限効果が発生していたものとしている。
原告は,本案審決において,具体的証拠から5社が受注予定者を決定し受
注したとされる工事は27件のみであり,本件違反行為期間中に全国で発注
された地方公共団体が発注するストーカ炉の工事87件の約31パーセント
にすぎず,「横浜市(α工場)」工事はそれに含まれておらず,これを前提
として認定された本件合意が「横浜市(α工場)」工事に及んでいたと推認
するのは循環論法であり,不合理であると主張する。
しかし,前記前提事実に加えて,査第22,23号証によれば,cの環境
装置1課長でありごみ処理プラントの官公需部門の実質的な責任者として受
注物件,販売価格等を決定していたoは,被告審査官に対し,平成6年4月
以降,5社の営業責任者クラスの者が集まる会合に出席していたこと,同会
合ではごみ処理プラントの受注調整を行っており,発注予定物件について各
社が受注希望を出し,5社が平等になるよう受注予定者を決めており,同会
合で決定された受注予定者をチャンピオンと呼び,5社は,ごみ処理プラン
トが発注される都度,受注予定者が受注できるよう協力し,アウトサイダー
が5社とともに指名を受けた場合は,受注予定者が個別にアウトサイダーに
協力を求めて受注できるようにしていること,自治体のごみ焼却プラントの
発注情報については,各自治体が厚生省に対して提出する整備計画書により
確実に把握することができること,cは全国の自治体に清掃施設の指名願を
出していること,会合は,5社の持ち回りで毎月1回程度開催され,出席者
は,発注が予定される物件については,事前に情報を把握しており,出席者
全員が共通の認識を持っていること,受注予定者の決定方法は,発注が予定
される物件について,各出席者が受注を希望するか否かを表明し,受注希望
者が1社の場合は当該希望者が受注予定者となり,受注希望者が2社以上の
場合は,希望者同士が話し合って受注予定者を決定していること,受注予定
者は各社が平等に受注することを基本として決定しており,1日のごみ処理
能力で計算し,各社が受注するごみ処理プラントの処理能力が平等になるよ
う受注予定者を決定していること,受注予定者を決定するに当たっては,ご
み処理プラントの処理能力によって,1日当たりの処理能力が400トン以
上の「大」,200トン以上の「中」,200トン未満の「小」に分けて受
注希望物件を確認し,受注予定者を決定していること,受注予定者に決定さ
れた者は,相指名業者に対して入札の際に書き入れる金額を電話等で連絡し
て協力を求め,受注予定者が受注できるよう5社が協力していることなどを
供述していることが認められる。また,査第24号証によれば,原告の大阪
支社機械プラント部環境プラント営業室長であり近畿一円の官公庁が発注す
るごみ処理プラントの受注業務等に関する責任者であるpは,被告審査官に
対し,平成8年秋から冬ころ,原告の本社環境プラント営業部第2営業部長
らから教示を受けた内容として,地方自治体がストーカ炉について行う指名
競争入札について,5社の担当者が集まる会議を年1回開催し,5社が情報
として持っているストーカ炉の物件について,5社が平等に分け与える形で,
物件ごとにあらかじめ受注予定者を決定していること,同会議では,5社の
各社から受注希望の物件を述べて,1社の場合にはそのメーカーが受注予定
者となり,複数メーカーの場合にはそのメーカー間で受注予定者を決定する
こと,物件ごとに1日のごみ処理能力が400トン以上の大規模物件,10
0トン以上400トン未満の中規模物件,准連である100トン未満の小規
模物件に分けて,物件ごとに5社の担当者が受注予定者を決定していること,
5社にf及びhが加わり指名競争入札が行われる場合には,自社が受注予定
者となっている物件についても上記2社と話し合いを行うが,必ずしもすべ
て受注できるかどうかは分からないこと,さらにi及びlが加わった9社で
指名競争入札が行われる場合には,自社がi及びlとも話し合いを行い,そ
の結果,受注予定者になる場合もあり得ること,アウトサイダーが入札に参
加する場合には,一部でたたき合いという事態が起こることも考えられ,受
注予定者に決定した社が必ずしも受注できるとは限らないが,その分につい
て補填等は行われないことなどを供述している。
以上の供述は,いずれも任意になされたものと認められる上,その主要な
部分において相互に合致しており,信用性が認められる。
さらに,平成6年11月からdの環境装置第1営業部に所属しごみ処理施
設の営業に従事していたqが平成7年9月28日ころ作成した文書と認めら
れる「年度別受注予想」と題する文書(査第3号証)には,それぞれd,c,
a,原告,bを示す「K」「M」「H」「N」「T」とストーカ炉を示す「S」
を組み合わせたものと認められる「K-S」「M-S」「H-S」「N-S」
「T-S」と記載した各欄ごとに年度別に工事名及び処理トン数が割り付け
られて記載されていることが認められるところ,その平成8年度分として記
載された15件の工事のうち12件が平成9年度までに実際に発注され,ア
ウトサイダーであるhが落札した2件を除き,いずれも上記「年度別受注予
想」において割り付けられた事業者が落札していることが認められる(査2)。
そして,これらの証拠上,5社による受注予定者決定の対象となるストー
カ炉建設工事について,何らかの限定がされていたことはうかがわれないし,
また,アウトサイダーが落札したことはあるものの,5社の中で受注予定社
以外の事業者が落札したことは認められない。
以上判示の各点を総合すると,「横浜市(α工場)」工事が落札された際,
本件合意は,地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注
調整の対象とするものであったと推認するのが相当であって,この推認を左
右するに足りる実質的証拠はなく,「横浜市(α工場)」工事は,その受注
調整の対象の範囲に含まれるものと認められる。これに加えて,「横浜市(α
工場)」工事の指名競争入札には5社のみが参加しており,落札率も99.
66パーセントであることも併せ考慮すれば,「横浜市(α工場)」工事は,
本件合意に基づき受注予定者が決定されたものと認めるのが相当であって,
これを覆すに足りる実質的証拠はない。
原告の主張する,「横浜市(α工場)」工事について高い受注意欲を持ち,
低額な入札価格を設定したことなどの事情は,上記の認定を左右するに足り
るものではない。
以上によれば,本件合意は,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉
の建設工事を受注調整の対象とするものであり,「横浜市(α工場)」工事
につき本件合意に基づいて受注予定者が決定されず,あるいは,本件合意の
対象から除外されたことなどの事情は認められないものとして,「横浜市(α
工場)」工事も,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定されたもの
であり,本件合意による競争制限効果が及んでいたとする本件審決の事実認
定は,合理的なものであり実質的証拠に基づくものと認められる。
(3)「苫小牧市」工事について
本件審決は,本件合意の前記内容から,「苫小牧市」工事について,本件
合意による競争制限効果が及んでいたと推認し,査第3号証の記載からもこ
れが裏付けられ,これを覆すに足りる特段の事情は認められないとする。
これに対し,原告は,「苫小牧市」工事は,原告が強い受注意欲を持って
精力的に営業活動を行った案件であり,入札金額を圧縮するための企業努力
を行い,入札期日間近に共同企業体形式による受注とすることを突然告げら
れた事情があり,受注調整ができるような案件ではなく,査第3号証のリス
トも,一企業の一担当者が作成した受注予想を記載した書面にすぎず,5社
が受注予定者を決定した結果が記載されたものとは認められず,「苫小牧市」
工事に関して,原告が直接又は間接に関与した結果として具体的な競争制限
効果があったと認めるに足りる実質的証拠とはならない,落札率も,個別工
事における個別の合意を推認させる根拠とはならないと主張する。
しかし,本件合意が,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設
工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なもの
であり実質的証拠に基づくものと認められることは前判示のとおりである。
その上,査第3号証には,「N-S」との記載のある欄の平成8年度分と
して「苫小牧市」「210」との記載がされているところ,「N-S」の記
載が「原告-ストーカ炉」を示すものと認められること,同号証の同年度分
として記載された15件の工事のうち12件が平成9年度までに実際に発注
され,アウトサイダーであるhが落札した2件を除き,いずれも同号証にお
いて割り付けられた5社内の事業者が落札し,5社の中で受注予定社以外の
事業者が落札したとは認められないことは前記のとおりであって,上記判示
の各点に同号証の作成者と認められる前記qは,同号証の趣旨について合理
的な説明をしているとは認められないことを総合すると,同号証は5社によ
る受注調整の対象工事を記載したものと認めるのが合理的であって,同号証
は,「苫小牧市」工事が5社による受注調整の対象とされ,原告が受注予定
者と決定されたことを裏付ける実質的証拠ということができる。
これに対し,「苫小牧」工事については,アウトサイダーであるf及びh
が指名競争入札に参加していたことが認められるところ,原告は,アウトサ
イダーが参加していることから,本件合意による競争制限効果が及んでいな
い旨を主張するようである。
しかし,前記前提事実のとおり,5社においては本件合意により受注予定
者として決定された事業者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格
をも定めて各社に連絡し,受注予定者以外の事業者は,受注予定者から連絡
を受けた価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注することができ
るように協力するものとされていたことが認められ,「苫小牧市」工事につ
いて,これと異なる方法が採られたことを認めるに足りる実質的証拠はない
ことに上記判示の各点を総合すれば,同工事についても,上記の方法により
原告が入札価格を120億6000万円(2回目)と決定して入札したもの
と認められる。
その上,次順位の入札者であるhは121億円(2回目)で入札した結果,
原告が落札者と決定したものであり,かつ,hの入札価格は入札予定価格1
20億9000万円を上回っていたこと,fの入札価格121億8000万
円(2回目)は5社中のaの入札価格121億1500万円(2回目)をも
上回っていたことが認められ,落札率が99.75パーセントであることも
併せ考慮すれば,アウトサイダーとの間で競争が行われた結果,入札価格が
低下したこともうかがわれず(査2),「苫小牧市」工事の入札において,
本件合意による競争制限効果がアウトサイダーの参加により失われたものと
は認められない。
原告が主張する,「苫小牧市」工事につき原告が強い受注意欲を持って精
力的に営業活動を行ったこと,入札金額を圧縮するための企業努力を行った
こと,入札期日間近に共同企業体形式による受注とすることを告げられたこ
となどの事情は,前記の認定を左右するに足りるものではない。
以上によれば,「苫小牧市」工事は,本件合意に基づいて5社間で受注予
定者が決定されたものであり,本件合意による競争制限効果が及んでいたと
する本件審決の事実認定は合理的なものであり実質的証拠に基づくものであ
ると認められる。
(4)「熱海市」工事について
本件審決は,本件合意の前記内容から,「熱海市」工事について,本件合
意による競争制限効果が及んでいたと推認し,査第3号証の記載からもこれ
が裏付けられ,これを覆すに足りる特段の事情は認められないとする。
これに対し,原告は,「熱海市」工事を受注するため精力的に営業活動を
展開したこと,「熱海市」工事においては,発注する焼却炉の方式が決定し
てから入札期日まで2週間程度の期間しかなく,そのわずかな期間内に受注
調整があったとするのは現実的でないこと,査第3号証のリストは,「熱海
市」工事に関して,原告が直接又は間接に関与した結果として具体的な競争
制限効果があったと認めるに足りる実質的証拠とはならないこと,アウトサ
イダー2社が入札参加しており,受注予定者を決めるためには,アウトサイ
ダー2社の協力が必要となるところ,原告がアウトサイダー2社に対し協力
の要請をした事実を裏付ける証拠はなく,原告が直接又は間接に関与した受
注調整の結果としての具体的な競争制限効果が発生したとはいえないことを
主張し,本件審決の認定が,確定した判決の事実認定にも反し,憲法及び法
令に違反すると主張する。
しかし,本件合意が,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設
工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なもの
であり実質的証拠に基づくものと認められることは前判示のとおりである。
その上,査第3号証には「N-S」との記載のある欄の平成8年度分とし
て「熱海市」「120」との記載がされているところ,「N-S」の記載が
「原告-ストーカ炉」を示すものと認められること,同号証が,5社による
受注調整の対象工事を記載したものと認められることも前判示のとおりであ
る。
これに対し,「熱海市」工事については,アウトサイダーであるh及びi
が指名競争入札に参加していたことが認められるところ,原告は,アウトサ
イダーが参加していることから,本件合意による競争制限効果が及んでいな
い旨を主張するようである。
しかし,「熱海市」工事の原告の落札価格は59億9000万円であり,
これに対し,hの入札価格は64億8000万円,iの入札価格は60億9
700万円であり,5社中の次順位であるbの入札価格60億9500万円
をも上回っていたことが認められること(査2)及び前記(3)で判示した各点
を総合すれば,「熱海市」工事の入札において,本件合意による競争制限効
果がアウトサイダーの参加により失われたものとは認められない。
また,熱海市の住民が,「熱海市」工事において原告らが談合を行い受注
予定者を原告と決定して落札したことにより落札価格が不当に高額となり熱
海市に損害が発生し熱海市長がその損害賠償請求権の行使を違法に怠ってい
るとして,熱海市に代位して原告らに対し損害賠償を請求する住民訴訟(静
岡地方裁判所平成○年(行ウ)第○号,東京高等裁判所平成○年(行コ)第○号)
について,静岡地方裁判所は請求を棄却し,東京高等裁判所は,控訴を棄却
する判決を言い渡し,その理由中で,原告ら5社が,入札の受注予定者につ
いて,話合いの機会を設けて,何らかの話合いをしたことを認めるに足りる
確たる証拠はない,また,原告らがアウトサイダーである2社に対し協力の
要請をした事実を裏付ける証拠はないと説示し,この判決が確定したことが
認められる(審JFE5,44,査51)。
しかしながら,上記判決の理由に関する説示部分が,本件審決における事
実認定を拘束すると解すべき法律上の根拠はなく,また,上記判決は,談合
による共同不法行為に基づく損害賠償請求権の成否が争点となる住民訴訟に
関するものであって,本件とは事案を異にするものというべきである。
原告が主張する,「熱海市」工事を受注するため,原告が精力的に営業活
動を展開したこと,発注する焼却炉の方式が決定してから入札期日までの期
間が短期間であったことなどの事情は,前記の認定を左右するに足りるもの
ではない。
以上によれば,「熱海市」工事は,本件合意に基づいて5社間で受注予定
者が決定されたものであり,本件合意による競争制限効果が発生していたと
する本件審決の事実認定は合理的なものであり実質的証拠に基づくものと認
められる。
(5)「β地区環境整備事業組合」工事について
「β地区環境整備事業組合」工事は,「γ焼却炉増設工事」としてβ地区
環境整備事業組合が指名競争入札の方法により発注した処理トン数100ト
ンの全連ストーカ炉の増設工事であり,平成8年9月19日に入札が行われ,
原告が47億円で落札(落札率99.60パーセント)した(査2,62)。
本件審決は,本件合意の前記内容から,「β地区環境整備事業組合」工事
について,本件合意による競争制限効果が及んでいたと推認し,これを覆す
に足りる本件特段の事情は認められないとする。
これに対し,原告は「β地区環境整備事業組合」工事については,原告が
強い価格競争力及び技術力を有しており,これを受注調整行為の対象とする
理由は存在せず,具体的競争制限効果は生じていないと主張する。
しかし,本件合意が,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設
工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なもの
であり実質的証拠に基づくものと認められることは前判示のとおりであっ
て,「β地区環境整備事業組合」工事について,実際に5社が参加して指名
競争入札が行われていることを併せ考慮すると,これを受注調整の対象とす
る必要がなかったとする原告の主張は理由がないというべきである。
以上判示の点に,「β地区環境整備事業組合」工事については,5社のみ
が参加して指名競争入札が行われ,落札率も99.60パーセントであるこ
とを総合すれば,「β地区環境整備事業組合」工事は,本件合意に基づいて
5社間で受注予定者が決定されたものであり,本件合意による競争制限効果
が及んでいたとする本件審決の事実認定は合理的なものであり実質的証拠に
基づくものと認められる。
(6)「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事について
本件審決は,本件合意の前記内容から,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事
について,本件合意による競争制限効果が及んでいたと推認し,査第3号証
の記載からもこれが裏付けられ,これを覆すに足りる特段の事情は認められ
ないとする。
これに対し,原告は,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事は,予算決定から
入札までの期間が短期間であった上,原告が強い受注意欲をもって営業活動
に注力する一方,技術的に有利な立場にあったhも強い意欲を持って営業等
に臨み激しい競争が展開された案件であり,同工事について具体的な競争制
限効果は発生していない,査第3号証のリストは,「龍ヶ崎地方塵芥処理組
合」工事に関して,原告が直接又は間接に関与した結果として具体的な競争
制限効果があったと認めるに足りる実質的証拠とはならないと主張する。
しかし,本件合意が,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設
工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なもの
であり実質的証拠に基づくものと認められることは前判示のとおりである。
その上,査第3号証には,「N-S」との記載のある欄の平成11年度分
として「竜ケ崎」「120」との記載がされているところ,「N-S」の記
載が「原告-ストーカ炉」を示し,同号証が,5社による受注調整の対象工
事を記載したものと認められることも前判示のとおりである。
もっとも,実際の「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事の発注年度はこれと異
なり,また処理トン数も180トンであること,同号証に平成11年度分と
して記載されている工事10件のうち,平成10年度までに実際に発注に至
ったのは他に「福知山市」のみであり,同号証の記載と発注実績との間に差
異のあることが認められるものの,同号証の作成時期が平成7年9月である
ことを考慮すると,将来の年度に関する発注見込の記載が発注実績との間で
差異が生じたとしても,このことから直ちに同号証に係る受注調整が行われ
ていないと認めることはできず,その後,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事
が受注調整の対象から除外されたことを認めるに足りる実質的証拠はないの
であるから,上記記載から「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事が5社における
受注調整の対象とされたことを推認することを左右するに足りるものではな
い。
また,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事の指名競争入札には,アウトサイ
ダーであるf及びhが参加していたことが認められるところ,原告は,アウ
トサイダーが参加していることから,本件合意による競争制限効果が及んで
いない旨を主張するようである。
しかし,前記のとおり,5社においては本件合意により受注予定者として
決定された事業者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格をも定め
て各社に連絡し,受注予定者以外の事業者は,受注予定者から連絡を受けた
価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注することができるように
協力するものとされていたのであり,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事につ
いて,これと異なる方法が採られたことを認めるに足りる実質的証拠はない
ことに前記(3)判示の各点を総合すれば,同工事についても,上記の方法によ
り原告が入札価格を136億2000万円と決定して入札したものと認めら
れる。
その上,次順位の入札者であるhは139億8000万円で入札した結果,
原告が落札者と決定したものであり,hの入札価格は入札予定価格137億
6000万円を上回り,fの入札価格153億9000万円は,5社中のd,
a及びcの入札価格をいずれも上回っていたことが認められ,落札率が98.
98パーセントであることも併せ考慮すれば,原告とアウトサイダーとの間
で競争が行われた結果,入札価格が低下したこともうかがわれず(査2),
「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事の入札において,本件合意による競争制限
効果がアウトサイダーの参加により失われたものとは認められない。
原告の主張する,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事について,強い受注意
欲を持って営業等に臨んだことなどの事情は,上記の認定を左右するに足り
るものではない。
以上によれば,「龍ヶ崎地方塵芥処理組合」工事は,本件合意に基づいて
5社間で受注予定者が決定されたものであり,本件合意による競争制限効果
が及んでいたとする本件審決の事実認定は合理的なものであり実質的証拠に
基づくものと認められる。
(7)「米子市」工事について
本件審決は,本件合意の前記内容から,「米子市」工事について,本件合
意による競争制限効果が及んでいたと推認し,査第4,52号証の記載から
もこれが裏付けられ,これを覆すに足りる特段の事情は認められないとする。
これに対し,原告は,「米子市」工事は,入札参加業者9社のうちアウト
サイダーが4社もあり,旧施設の受注・施工者であったdのほかiも熱意を
持って営業活動を展開し,原告も強い受注意欲をもって営業活動に臨み,か
つ,米子市が,原告の当初算出した見積よりも大幅に低額の事業費を設定し,
低い予算水準の下で,アウトサイダーであるd及びiとの間で熾烈な価格競
争を繰り広げた案件であり,査第4,52号証の記載は,「米子市」工事に
ついて受注予定者が決定されたことを裏付ける実質的証拠に当たらず,原告
が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果として具体的な競争制限効果
が発生したといえないと主張する。
しかし,本件合意が,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設
工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なもの
であり実質的証拠に基づくものと認められることは前判示のとおりである。
その上,a提出に係る「平成10年度厚生省補助内示一覧(新規のみ)」
と題する文書(査4)の「焼却」欄の「米子市」に係る「270」の記載の
冒頭に手書きで「N」の文字が記入されていること,同文書には,他に「s
(組)」につき「H」,「八千代市」につき「K」,「中央区」につき「H」,
名古屋市につき「M」,「津島市ほか(組)」につき「M?」,「賀茂(組)」
につき「N」,「高知市」につき「M」の手書きの記入があるところ,平成
10年8月までに入札が実施されたストーカ炉の受注実績と対照すると,
「H」がa,「K」がd,「M」がc,「N」が原告を示すものとすれば,
前記受注実績と良く合致しており,同号証に記入された上記文字は受注調整
の結果受注予定者と決定された者を示しているものと認められるのが合理的
であり,そうすると,「米子市」工事については,受注調整の結果受注予定
者と決定した者として,原告が記載されていることになる。
そして,原告提出に係る「米子市の件」との記載のある文書(査52)に
は,5社及びfについてそれぞれ見積価格らしき金額が記載されていること
が認められ,上記6社の間で受注調整が行われる関係があったことをうかが
わせるところ,原告の環境エンジニアリング本部環境第2営業部第1営業室
係長tは,上記の記載の趣旨について,明確な説明をしていないことが認め
られる(査96)。
以上判示の点を総合すれば,査第4,52号証は,「米子市」工事が,本
件合意に基づく受注調整の対象とされたことを裏付ける実質的証拠に当たる
ということができる。
これに対し,「米子市」工事については,アウトサイダーであるf,h,
l及びiが指名競争入札に参加していたことが認められるところ,原告は,
アウトサイダーが参加していることから,本件合意による競争制限効果が及
んでいない旨を主張する。
しかし,「米子市」工事の原告の落札価格は135億8000万円であり,
これに対し,fの入札価格は145億8000万円,hの入札価格は147
億円,lの入札価格は146億円,iの入札価格は139億8000万円で
あり,いずれも5社中の次順位であるdの入札価格139億5000万円を
も上回っていたことが認められる(査2)こと及び前判示の各点を総合すれ
ば,アウトサイダーとの間で競争が行われた結果,入札価格が低下したこと
もうかがわれず(査2),「米子市」工事の入札において,本件合意による
競争制限効果がアウトサイダーの参加により失われたものとは認められな
い。
また,c中国支社機械1課課長uは,平成10年3月27日ころ,前記o
から「3月26日〈秘〉会合で中国5県の話は出なかった。」と聞いた旨供
述していること(審JFE31),平成10年4月15日付けc作成の「秘
10年度受注達成予想」と題する書面(審JFE33添付)には,「主要織
り込案件」として「米子市/ごみ焼却炉」が記載されていることが認められ
るが,以上の事実は,上記判示の各点に照らすと,「米子市」工事について,
受注調整が行われたとの認定を覆すに足りるものではなく,原告の主張する,
原告,d及びiが強い受注意欲をもって営業活動に臨んだこと,米子市が,
当初見積よりも大幅に低額の事業費を設定したことなども,前記の認定を左
右するに足りるものではない。
以上によれば,「米子市」工事は,本件合意に基づいて5社間で受注予定
者が決定されたものであり,本件合意による競争制限効果が発生していたと
する本件審決の事実認定は合理的なものであり実質的証拠に基づくものと認
められる。
(8)「賀茂広域行政組合」工事について
本件審決は,本件合意の前記内容から,「賀茂広域行政組合」工事につい
て,本件合意による競争制限効果が及んでいたと推認し,査第4,5号証の
記載からもこれが裏付けられ,これを覆すに足りる特段の事情は認められな
いとする。
これに対し,原告は,「賀茂広域行政組合」工事については必注案件に位
置付けていたほか,原告が高い価格及び技術競争力を有しており,これを受
注調整の対象とする理由はなく,競争に打ち勝って確実に受注すべく通常よ
りも低額の入札金額を設定して落札した案件であり,原告が直接又は間接に
関与した受注調整手続の結果として具体的な競争制限効果が発生しておら
ず,査第4,5号証の記載は,「賀茂広域行政組合」工事について受注予定
者が決定されたことを裏付ける実質的証拠に当たらないと主張する。
しかし,本件合意が,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設
工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なもの
であり実質的証拠に基づくものと認められることは前判示のとおりである
上,「賀茂広域行政組合」工事について,実際に5社が参加して指名競争入
札が行われていることも併せ考慮すれば,これを受注調整の対象とする必要
がなかったとする原告の主張は理由がないというべきである。
その上,査第4号証の「賀茂(組)」につき「N」の手書きの記入があると
ころ,これが受注調整の結果受注予定者と決定された者である原告を示して
いると認められることは前判示のとおりである。そして,原告から提出され
た査第5号証のメモ書きには,「①」として「62.5億」,「M65」,
「K67」,「H69」,「T69.5」の記載があるところ,これが
「賀茂広域行政組合」工事に関するcの入札価格65億円,dの入札価格6
7億円,aの入札価格69億円,bの入札価格69.5億円と一致している
ことに照らせば,同メモ書きは,5社による受注調整の結果を記載したもの
と認めるのが合理的であって,査第4,5号証は,「米子市」工事が,本件
合意に基づく受注調整の対象とされたことを裏付ける実質的証拠に当たると
いうべきである。
上記判示の各点に原告の入札価格,「賀茂広域行政組合」工事については,
5社のみが参加して指名競争入札が行われ,落札率も97.53パーセント
であることを総合考慮すれば,「賀茂広域行政組合」工事は,本件合意に基
づいて5社間で受注予定者が決定されたものであり,本件合意による競争制
限効果が発生していたとする本件審決の事実認定は合理的なものであり実質
的証拠に基づくものと認められる。
2争点(2)について
(1)独占禁止法7条の2第1項及び2項は,事業者が不当な取引制限で商品
若しくは役務の対価に係るものをしたときは,事業者に対し,実行期間にお
ける当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に100
分の6を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じ
なければならない旨を規定し,独占禁止法施行令5条は,上記売上額の算定
の方法は,6条で定めるものを除き,実行期間において引き渡した商品又は
提供した役務の対価の額を合計する方法によるとする引渡基準の原則を定
める一方,独占禁止法施行令6条1項は,独占禁止法7条の2第1項に規定
する違反行為が実行期間において受注する商品又は役務のみに係る場合に
おいて,実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額と実
行期間において締結した商品の販売又は役務の提供に係る契約により定め
られた対価の額の合計額との間に著しい差異を生ずる事情があると認めら
れるときは,実行期間において締結した商品の販売又は役務の提供に係る契
約により定められた対価の額を合計する方法によるとする例外としての契
約基準を規定している。
(2)前記前提事実によれば,本件違反行為は,遅くとも平成6年4月から開始
し,その実行としての事業活動がなくなる日は平成10年9月16日である
ことが認められる。したがって,その実行期間は,同日からさかのぼって3
年間である平成7年9月17日から平成10年9月16日までと認められる
ところ,原告は,「横浜市(α工場)」工事について平成7年8月21日に
議会議決を停止条件とする契約が締結されたのであるから,同工事の契約で
定められた対価の額は,課徴金算定の基礎となる売上額から除外されるべき
であるので,これを除外しなかった本件審決には独占禁止法7条の2第1項,
独占禁止法施行令6条1項の解釈を誤った違法がある旨主張する。
(3)本件審決は,以下の事実を認定し,これらの事実については実質的証拠が
あるものと認められる。
ア「横浜市(α工場)」工事は,地方公共団体である横浜市が発注する請
負工事であり,その予定価格が6億円を超える契約であることから,地方
自治法96条1項5号,同法施行令121条の2第1項,横浜市議会の議
決に付すべき契約に関する条例2条(査9号証)により,市議会の議決を
得なければならない契約に該当する。なお,平成7年当時適用されていた
横浜市契約規則には,市長は,市議会の議決に付すべき契約を締結しよう
とするときには,契約の相手方と,市議会の議決を得た後に,本契約を締
結する旨を記載した仮契約書を取り交わすものとする旨の定めがある(3
3条,査58)。
イ「横浜市工事請負等競争入札参加者心得」には,落札者は,落札の通知
を受けた日から5日以内に設計書,図面及び仕様書その他の関係書類を添
付して契約書を作成し,記名押印の上,これを提出する旨が記載されてい
る(24条,査57)。
ウ横浜市の担当者は,平成7年8月18日の入札終了後直ちに,予め用意
してあった工事請負契約書類一式2組を原告に交付し,原告は,同契約書
類一式2組に必要事項を記入し,請負人欄に原告の法人名及び代表者名を
記名押印し,同契約書類一式とその他の書類を製本し,製本された2組の
契約書類(以下「本件請負契約書」という。)を横浜市に提出した。横浜
市は,市議会において契約締結議案が可決されるまで,本件請負契約書を
保管していた。なお,本件請負契約書には「この契約は,その締結につい
て及びこの契約に係る予算について横浜市議会が可決した時に発効するも
のとする。」との記載がある(査54,56,審JFE18)。
エ横浜市担当者は,平成7年9月21日「横浜市(α工場)」工事に係る
契約の締結が市議会において可決された後,本件請負契約書の注文者欄の
横浜市長の名下にその公印を押印して注文者欄を完成させ,「可決(発効)
年月日」欄に可決日の日付を記入し,うち1通を原告に交付した(査54,
56,審JFE18)。
(4)独占禁止法施行令6条1項は,不当な取引制限行為が実行期間において受
注する商品又は役務のみに係る場合において,実行期間において引き渡した
商品又は提供した役務の対価の額と実行期間において締結した商品の販売又
は役務の提供に係る契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい
差異を生ずる事情があると認められるときは,受注から引渡し等までに長時
間を要するのが通常であるので,引渡基準によったのでは,課徴金額の算定
について,実行期間中の違反行為に係る事業活動の結果が反映されないこと
が生じ得るため,このような事態を回避し,違反行為の実行としての事業活
動による利得が課徴金額の算定に適正に反映されるように,契約基準によっ
て売上額を算定することとしたものと解され,このような同項の趣旨に照ら
せば,同項にいう契約の「締結」は,当事者双方の契約意思が合致して契約
に基づく法律上の権利義務が発生し,事業者の事業活動による利得を法律上
発生させるものであることを要すると解するのが相当である。そして,普通
地方公共団体の契約の締結は,本来,予算の執行に当たり,執行機関である
長の権限に属する(地方自治法149条2号)ところ,地方自治法96条1
項5号が,同号所定の契約の締結を普通地方公共団体の議会の議決事項とし
たのは,政令等で定める種類及び金額の契約を締結することは普通地方公共
団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから,これに関しては住民
の利益を保障するとともに,これらの事務の処理が住民の代表の意思に基づ
いて適正に行われることを期することにあるものと解すべきであって(最高
裁平成12年(行ヒ)第125号,平成16年6月1日第三小法廷判決・裁判
集民事第214号337頁),「契約を締結すること」についての議会の議
決は,長の契約締結行為を単に許可,承認,同意するのではなく,どのよう
な内容の契約を締結するかということについての普通地方公共団体としての
意思決定に当たるものというべきである。
したがって,議会の議決を要する契約については,上記の議決前には,横
浜市としての意思決定がなされておらず,横浜市との間で契約成立の要件で
ある意思の合致を認めることはできないものというべきである。
その上,地方自治法234条5項は,普通地方公共団体が契約につき契約
書を作成する場合においては,当該普通地方公共団体の長又はその委任を受
けた者が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ,当該契約は,
確定しないものとする旨規定するところ,同規定は,契約書を作成する場合
の契約成立時期を,当事者双方が契約書に記名押印した時と明定する趣旨と
解される。
以上に加え,横浜市契約規則33条は,市長は,市議会の議決に付すべき
契約を締結しようとするときには,契約の相手方と,市議会の議決を得た後
に,本契約を締結する旨を記載した仮契約書を取り交わすものとする旨を定
め,本件請負契約書にも「この契約は,その締結について及びこの契約に係
る予算について横浜市議会が可決した時に発効するものとする。」との記載
があることを総合すれば,「横浜市(α工場)」工事に関する横浜市と原告
との間の工事請負契約について,独占禁止法施行令6条1項にいう契約の締
結の日は,横浜市議会において契約の締結が議決されて横浜市において契約
締結の意思が決定され,本件請負契約書に横浜市長の公印が押印された平成
7年9月21日と認めるのが相当である。
したがって,「横浜市(α工場)」工事は,本件実行期間内に契約が締結
されたものというべきである。
これに対し,原告は,議会の議決を契約締結の基準とすることは,明確か
つ画一的な基準による算定という課徴金制度の要請及び行政上の措置に求め
られる迅速性及び合理性の確保に合致しないと主張し,また,議会議決日を
契約締結日と認定するのが恣意的であると主張するが,原告の主張は,前判
示の点に照らし,採用することができない。
3争点(3)について
(1)原告は,課徴金制度は,もともと違反行為によって事業者が得た利得を事
業者に保持させず,国が徴収することにより違反行為の抑止を図る制度であ
るところ,消費税相当額は,売主等の事業者が国に支払うべき消費税を買主
等契約の相手方に転嫁するために,製品を販売等する際にその対価に上乗せ
するにすぎないのであって,事業者が利得するものではなく,その性質は一
種の預り金であり,製品等の対価の一部を成すものではないから,独占禁止
法施行令6条1項の定める「対価の額」に含まれないとして,これを「対価
の額」に含めて課徴金額を算定した本件審決が憲法29条,39条,独占禁
止法7条の2第1項,独占禁止法施行令5条,6条に違反する旨主張する。
そして,被告が,本件審決において原告らに対する課徴金計算の基礎となる
本件各工事の売上額を「契約により定められた対価の額」に基づき算出する
に当たり,消費税相当額を上記「契約により定められた対価の額」に含ませ
てこれを算定したことは,当事者間に争いがない。
(2)しかし,役務の提供,資産の譲渡等について消費税を納付する義務を負う
のは,役務の提供,資産の譲渡等を行った事業者であり(消費税法5条),
この事業者は,消費税を円滑かつ適正に転嫁することが予定されている(税
制改革法11条)ものの,役務の提供,資産の譲渡等の相手方が消費税の納
税義務を負うものではなく,事業者が役務の提供,資産の譲渡等の対価の中
から消費税を納付することが予定されているのである。その上,独占禁止法
は,不当な取引制限等の禁止に違反する行為をした事業者に対し,違反行為
に係る事業活動による利得を適正に反映させた課徴金の納付を命じること
で,不当な取引制限等を禁止する規定の実効性を確保し,違反行為の抑止を
図っているところ,その課徴金の算定については,同法7条の2第1項,2
項,独占禁止法施行令5条,6条が,違反行為により事業者が取得した現実
の経済的利得額そのものとは別に,一律かつ画一的に算定する売上額に一定
の比率を乗じて算出すべきものと定めることからすれば,役務の提供,資産
の譲渡等の対価の中から消費税相当分を控除するのがこれらの規定の趣旨で
あると解することはできないものというべきである。
したがって,本件審決が消費税額相当額を含む契約により定められた対価
の額を合計する方法により算定した売上額に基づき課徴金の額を算出したこ
とが,独占禁止法7条の2第1項,独占禁止法施行令6条1項に違反するも
のと解することはできない(最高裁平成9年(行ツ)第214号,同10年1
0月13日第三小法廷判決・裁判集民事第190号1頁参照)。
以上によれば,本件審決が独占禁止法7条の2第1項,独占禁止法施行令
5条,6条に違反する旨の原告の主張は採用することができない。
また,本件審決が憲法29条に違反する旨の主張は,本件審決に上記各規
定に違反する法令違反のあることを前提とするものであるので,その前提を
欠き採用することができないし,また,前判示のように,課徴金は,その目
的,性質が,刑事手続により課せられる刑事罰と同じくするものとは認めら
れないのであるから,本件審決が憲法39条に違反する旨の主張も採用する
ことができない(前記最高裁平成9年(行ツ)第214号,同10年10月1
3日第三小法廷判決参照)。
4争点(4)について
(1)独占禁止法7条の2第6項は,当該違反行為についての審判手続が開始さ
れた場合にあっては,当該審判手続が終了した日から1年を経過したときは,
公正取引委員会は,当該違反行為に係る課徴金の納付を命ずることができな
い旨を定めている。
原告は,同項にいう「審判手続が終了した日」とは,審判手続の審理が終
結した日をいうものと解すべきであり,本案審決の事前手続としてなされた
審判手続は平成17年7月27日に終結しており,平成19年3月23日付
けで発せられた本件課徴金納付命令は,上記期間経過後にされたものである
から,被告は課徴金の納付を命ずることは許されないと解すべきであり,課
徴金納付を命じた本件審決が違法である旨主張する。
(2)しかし,独占禁止法7条の2第6項所定の当該「審判手続が終了した」と
は,同法48条の2第1項所定の「審判手続が終了した」と異なるものでは
ないと解すべきところ,同項が,課徴金納付を「当該違反行為について審判
手続が開始された場合には,審判手続が終了した後でなければ命ずることが
できない」ものと定めた趣旨は,違反行為について審判手続が開始された場
合には,被告において課徴金納付命令の前提となる違反行為の存在を確定し
た後に課徴金納付命令をすべき旨を定めたものと解するのが相当である。
したがって,同項所定の「審判手続が終了した」とは,違反行為について
審決がされたことをいうと解すべきであり,独占禁止法7条の2第6項所定
の「当該審判手続が終了した日」も,違反行為に関する審決が行われた日を
いうと解するのが相当である。
そして,本案審決は平成18年6月27日に行われているところ,同日か
ら1年が経過する前である平成19年3月23日に本件課徴金納付命令が発
せられたのであるから,本件審決に原告主張の違法があるとは認められない。
5結論
以上によれば,本件審決に独占禁止法82条の事由は認められず,原告の請
求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官大竹たかし
裁判官三代川俊一郎
裁判官杉原則彦
裁判官栗原壯太
裁判官林俊之

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛