弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1、被告が、訴訟参加人に対し、昭和四五年一二月二五日、指令漁港第八九九号を
もつてなした、臼杵市<以下略>から同市<以下略>に至る国道二一七号線地先お
よび同市<以下略>、<以下略>、同<以下略>、同<以下略>ならびに同市<以
下略>の地先海面二一八、一五七平方メートル、うち護岸敷七、五七九平方メート
ル、埋立敷二一〇、五七八平方メートルの公有水面の埋立を免許する旨の処分を取
り消す。
2、訴訟費用は被告の負担とし、参加により生じた訴訟費用は訴訟参加人の負担と
する。
       事   実
(原告らの求める判決)
主文同旨。
(被告の求める判決)
第一次的に
1、原告らの訴を却下する。
2、訴訟費用は原告らの負担とする。
第二次的に
1、原告らの請求を棄却する。
2、訴訟費用は原告らの負担とする。
(原告らの請求原因)
一、被告は、昭和四五年一二月二五日、公有水面埋立法にもとづき、参加人に対
し、セメント製造工場用地造成のため、主文第一項記載の公有水面(以下本件公有
水面という)について、埋立免許を与えた。
二、1、訴外臼杵市漁業協同組合(以下訴外組合という)は、次項以下記載のとお
り現在、本件公有水面を含む漁区において共同漁業権を有する。
2、原告らは、訴外組合の組合員たる漁業者であつて、訴外組合の漁業権行使規則
は、本件公有水面を含む漁区において、原告らが漁業を営むことができる旨を定め
ている。
3、原告らは、本件公有水面において、漁業を営む権利を有するから、本件埋立免
許取消の訴を提起する適格を有する。
三、1、本件埋立免許は、本件公有水面に関し、権利を有する者がないことを前提
としてなされた。
2、しかし、つぎのとおり、本件公有水面に関し、臼杵市漁業協同組合は共同漁業
権を有しているから、本件埋立免許には瑕疵がある。
四、訴外組合は水産業協同組合法にもとづき設立された漁業協同組合であるが、同
三九年一月一日被告より共第三〇号をもつて、本件公有水面を含む漁区について、
第一ないし第三種共同漁業を内容とする共同漁業権設定の免許をうけた。
五、被告は、訴外組合が同四五年三月二一日組合総会を開催し、本件公有水面にお
ける漁業権の放棄を決議したと主張している。
六、しかし、右の同四五年三月二一日の組合総会は成立していない。即ち、1、右
総会には不特定多数の議決権を有しない一般人が公然、混然と参加していた。
2、少なくとも七五名の人が代理権もないのに代理人と称して総会議場に入つた。
 訴外組合の定款は、組合員は他の組合員又は同じ世帯に属する成年者を代理人と
して議決権を行なうことができ、代理人は代理権を証する書面を組合に提出せねば
ならない旨を定めている。当日の総会では組合員が代理人として出席した場合は、
組合が委任状を預ることはしなかつたが、組合員以外の者が代理人として出席した
際には委任状を組合が預つた。
イ、提出された委任状のうち、つぎの七通は無効であり、無権代理人が総会に出席
したことになる。氏名の下の番号は甲第三号証(委任状)の枝番号である。
a 委任者が既に死亡していたもの
P1(39)、P2(36)
b 同一世帯員以外の非組合員に対する委任
P3(45、受任者P4)
c 偽造の委任状
P5(34、正しい氏名はP6)、P7(76、正しい氏名はP8)
d のちほど受任者の名を訴外組合が記入した白紙委任状
P9(41)
e 白紙委任状で買収により取得したもの
P10(68)
ロ、右総会には一五八名の組合員以外の者が組合員の代理人として出席したが、訴
外組合は組合員への委任状以外の委任状を一〇一通しか所持していないから、右イ
の七名のほかに、五七名の非組合員が委任状を提出せず正当な代理人のないまま総
会に出席したことになる。それらの組合員はつぎのとおりである。氏名の下の番号
は、乙第六号証の二(総会出席簿)記載の番号である。
a 代理人の氏名が不明で代理人が組合員と同一世帯に属する成年者であるかどう
かも不明なもの 三〇名
 P11(4)、P12(30)、P13(33)、P14(34)、P15(3
5)、P16(55)、P17(57)、P18(63)、P19(74)、P2
0(83)、P21(84)、P22(85)、P23(86)、P24(16
9)、P25(179)、P26(184)、P27(219)、P28(22
2)、P29(299)、P30(307)、P31(308)、P32(44
3)、P33(450)、P34(451)、P35(596)、P36(61
2)、P37(629)、P38(648)、P39(649)、P40(65
0)
b 総会出席簿には代理人らしい者の氏名が記載されてはいるもの 二二名
 P41(22)、P42(239)、P43(242)、P44(249)、P
45(254)、P46(260)、P47(262)、P48(288)、P4
9(293)、P50(294)、P51(296)、P52(302)、P53
(314)、P54(324)、P55(358)、P56(587)、P57
(626)、P58(656)、P59(658)、P60(665)、P61
(727)、P62(728)
ハ、少なくとも、つぎの一一名の組合員は他の正組合員に委任をしていないのに、
他の組合員がその代理人としても総会に出席したことになつている。
 P63(243)、P64(7)、P65(27)、P66(283)、P67
(290)、P68(453)、P69(464)、P70(558)、P71
(582)、P72(596)、P73(592)
3、訴外組合の定款は、正組合員が他の組合員に総会における議決権の行使を委任
し、正組合員が他の二人までの組合員から委任をうけることを許している。しか
し、右総会においては、他の正組合員より委任をうけた正組合員が本人兼代理人と
して二票の討議、議決権を有するものとしては取扱われなかつた。
4、訴外組合の幹部らは、漁業権放棄の決議を得るために、一組合員について二、
〇〇〇円、又は、二、〇〇〇円及び酒一本を供与して大がかりで影響も大きい買収
を行い、これは新聞でも広く報道され、また議場でも問題にされていて、総会は全
体として買収の影響下にあつた。
5、被告らは、右総会に七〇〇名(うち書面議決書一二七名)が出席したと主張す
るが、少なくともつぎの一六名の組合員については出席が疑わしい。氏名の下の数
字は乙第六号証の二(総会出席簿)の番号である。
P74(383)、P75(472)、P76(528)、P77(541)、P
78(546)、P79(555)、P80(598)、P81(600)、P8
2(610)、P83(622)、P84(657)、P85(660)、P86
(662)、P87(666)、P88(677)、P89(708)
これらの瑕疵が個々に総会の成立を否定できないとしても、これらを総合した場
合、それらの瑕疵は重大かつ明白であるから、右総会は法律上不成立というべきで
ある。
七、右総会において、漁業権放棄の決議は存在しない。被告は、右総会において、
右の決議については起立により採決することを定めたのち、総会出席者七〇〇名中
反対三、賛成者六四五(うち書面議決一二七)、賛否不明者七六で放棄の決議がな
されたと主張している。しかし、
1、採決方法についての決議はなされなかつた。
 右総会において、採決方法を起立によるものとする動議が上程され、これについ
て議論がなされたが、この動議について採決は行われなかつた。仮に一度採決があ
つたとしても、議長は反対者の異議を認めこの動議について再度はかり採決をやり
直そうとしたが、その採決は行われず、この動議について決定はなされなかつたか
ら、起立採決の方法により漁業権放棄を採決することは許されない。
2、訴外組合の執行部は、自らの行つた買収や威圧を、起立の方法で採決すること
により、より効果的にしようとしたものであり、このことは組合員や一般人にも明
らかなことであつた。
 起立による採決方法は、一般的には有効であるにしても、右のような意図で行わ
れた場合は違法というべきである。
3、採決について、漁業権放棄賛成者又は中立者の起立を求めたことはなく、ある
いはその他の方法によりその数の確認はなされなかつた。議長が反対者の起立を求
める際に、起立していない人は賛成とみなしますと発言したとしても、賛成者をみ
なしによつて確認することはできず、現実の賛成起立がなければ漁業権変更の決議
は成立しえないものである。議長が採決に入つた際、多数の組合員が無記名投票に
より採決することを主張し、議長の措置に抗議するため起立したことはあるが、漁
業権放棄に賛成の採決のために起立したことはない。
4、訴外組合は、書面議決書により一二七名の漁業権放棄に賛成の議決があつたと
主張し、一二九通の書面議決書を所持しているが、このうち六五通は無効である。
氏名の下の番号は甲第六号証(書面議決書)の枝番である。
イ、賛否の記載のないもの 二通
P90(75)、P91(139)
ロ、名義人が既に死亡していたもの 一通
P92(79)昭和四四年一一月二八日死亡
ハ、非組合員の議決書 一通
P93(97)
ニ、本人が総会に現に出席しているもの 八通
書面議決書を既に提出していても、本人が討論採決に加わつていれば、書面議決は
無効として取扱われるべきである。
P94、P95、P96、P97、P98、P99、P100、P101
ホ、代理人が総会に現に出席しているもの 八通
P102、P103、P104、P105、P106、P107、P108、P1
09
ヘ、買収により買取られたもの 四五通
 買収による議決書の内容が第三者の権利に直接影響する本件の場合、このような
議決書は民法九〇条により無効と解すべきである。買収による議決書であること
は、これら議決書の多くが同一筆跡により記載され、又は名義人の名が誤つてお
り、あるいは住所氏名と賛否とが別個の筆跡により記載されていることにより明ら
かである。
P110(105)、P111(109)、P112(110)、P113(11
2)、P114(113)、P115(127)、P116(128)、P117
(129)、P118(130)、P119(133)、P120(134)、P
121(135)以上同一筆跡
P122(60)、P123(92)、P124(84)、P125(91)、P
126(58)、P127(49)、P128(62)、P129(71)、P1
30(57) 以上同一筆跡
P131(78)、P132(40)、P133(38)、P134(42)、P
135(44) 以上同一筆跡
P108(31)、P94(29)、P95(32)、P96(33)、P97
(34)、P98(35)、P99(36)、P100(37) 以上同一筆跡
 P136(113、P114)、P131(78、P137)、P132(4
0、P138)、P139(98、P140)、P141(63、P142)以上
氏名が誤つているもの、括弧内が正しい氏名
 P143(147)、P144(142)、P145(137)、P146(1
25)、P147(132)、P148(51)以上氏名欄と賛否欄が別人によつ
て記載されたもの
八、第一種漁業を内容とする共同漁業権の放棄には、漁業権行使規則の変更に準
じ、組合総会における漁業権放棄の決議前に、右決議の際、その共同漁業権の内容
たる第一種漁業を営み、その漁業権に係る関係地区内に住所を有していた組合員の
三分の二以上の書面による同意を得ねばならないと解すべきであるのに、そのよう
な同意はなされていないから、総会の漁業権放棄決議の有無にかかわらず、漁業権
放棄の効力は生じない。
 漁業権は現行法制上漁業協同組合に属するが、組合自体は原則として漁業を営む
ことができず、実質上漁業権は現に漁業を営んでいる者に属している。漁業法八条
は漁業権はそのままにして行使規則を定め又は変更することにより漁業者の行使権
を奪い又は変更するにはその漁区で現に漁業を営んでいる関係地区組合員の三分の
二の書面による同意を要求することにより、既得権者を保護しているのである。漁
業権の放棄は、行使規則の変更と同じく、財産権である行使権の喪失をもたらすも
のであるから、厳格な適正手続が要求されるものというべく、これには行使規則の
変更手続を定めた漁業法八条が類推適用ないし準用されるべきである。従前、訴外
組合が臼杵市下ノ江地区及び臼杵地区に有していた共同漁業権が放棄された際も利
害関係を有する地元の組合員のみの同意により放棄を決し、地元の組合員の意思を
尊重して来たのである。
 なお、共第三〇号共同漁業権の関係地区として漁業法一一条により知事が定めた
地区は、臼杵市大字臼杵、板知屋、大泊、風成、深江、市浜、諏訪、大浜、中津留
の各地区であり、右総会当時、右地区に住所を有し、右漁業権の内容となる第一種
共同漁業を営んでいた者は一二九名であつた。
九、被告は、同四五年五月二〇日、共第三〇号共同漁業権の対象たる漁区の範囲
を、従前の範囲より本件公有水面を除いた部分に変更する旨の免許をなした。
一〇、しかし、前記総会の決議は前述六ないし八のとおり、不存在ないし無効であ
るから、右変更免許の瑕疵の重大、明白性を問題にするまでもなく、漁業権放棄の
効果は生じない。即ち、漁業権の放棄は漁業権の主体である組合の単独行為である
から、本件のように漁業権の目的たる海域を縮少する行為も漁業権の一部放棄とし
て組合の決議のみによつてその効力を生じ、これに対する知事の変更免許は右組合
の決議の効力より独立した形成的行政処分ではない。したがつて、その行政処分の
瑕疵の重大、明白性を問題にするまでもなく、漁業権放棄決議が不存在、無効であ
る以上、漁業権喪失の効果を生じないものというべきである。
一一、もし、右漁業権変更免許に重大かつ明白な瑕疵がない限り、漁業権喪失の効
果が生ずるものとしても、右免許にはつぎのとおり重大かつ明白な瑕疵が存在す
る。
1、重大な瑕疵
 右漁業権変更免許の前提となる漁業権放棄の総会決議には、前記六ないし八のと
おりの瑕疵があり、この瑕疵は重大であるというべきである。
2、瑕疵の明白性
 前記のような瑕疵は新聞、ラジオ、テレビが大きく報道し公知のものであつた
し、大分県農林水産部漁政課常広課長補佐以下三名は右総会に出席してその瑕疵を
現認しており、この三名を中心に漁業権変更免許事務手続が行われたものであるか
ら、この瑕疵は客観的に明白であつた。
 以上のとおり、本件公有水面に対する共第三〇号漁業権は、総会決議や変更免許
によつて失われず、なお存している。
一二、訴外組合が、本件埋立に同意したとの被告の主張は否認する。
一三、本件埋立によつて生ずる利益の程度が損害の程度を著しく超過するとの被告
の主張は否認する。
一四、以上のとおり本件埋立免許は、公有水面埋立法四条に反してなされた違法な
ものであるからこの取消を求める。
(請求原因に対する被告の答弁等)
一、請求原因一の事実は認める。
二、請求原因二1、の事実は否認する。請求原因二2、の事実は認める。後記三以
降に記載のとおり訴外組合の共同漁業権、したがつて原告らの漁業を営む権利は失
われているから、原告らは本件埋立免許の取消を求める法律上の利益はなく、原告
適格を有しないから、本件訴は却下されるべきである。
三、請求原因三1の事実は認める。
 請求原因三2の主張は争う。つぎのとおり訴外組合の共同漁業権は消滅し、本件
免許当時本件公有水面に関し権利を有する者がなかつたから、本件埋立免許は適法
である。
四、請求原因四の事実は認める。
五、請求原因五の事実は認める。
六、右総会は有効に成立している。右総会当時の、訴外組合の組合員は七二六名で
あつたが、このうち一二七名が書面議決書を提出し、五七三名が現実に総会に出席
して、総会は開催され有効に成立した。
1、請求原因六1の事実は否認する。非組合員あるいは適式に正組合員より委任を
受けた者以外が、右総会の議場に入つたことはない。
2、請求原因六2のうち、定款の定めは認める。正組合員又は適式に正組合員より
委任を受けた者以外は、総会議場に入つていない。
イ、請求原因六2イは争う。
a、P1、P2らの死亡届出がなかつたので、同人らを従前どおり組合員として取
扱つた。
b、P4はP3と同一世帯の成人である。
c、d、請求原因五2cdの事実は否認する。
e、請求原因六2eのうちP10の委任状を買収により取得したとの主張は否認す
る。この委任状により同一世帯の成人者がP10の代理人として出席している。
ロ、代理人として総会に参加した者が委任状を提出しなかつたとしても、適式に組
合員より委任をうけていたから、それらの者が加わることにより総会が不成立にな
つたり、総会決議が無効になつたりすることはない。
a、つぎの七名は、同一世帯に属する成年者である。括弧内の者に議決権行使を委
任して、受任者が出席し、委任状も提出されている。
 P12(P149)、P15(P150)、P151(P152)、P25(P
153)、P26(P154)、P27(P155)、P28(P156)
 つぎの一四名については委任状は提出後返還し、これを代理人に持たせたまま入
場させたので委任状が保管されていないが、同一世帯の成年者に委任されている。
 P11(4)、P13(33)、P157(34)、P16(55)、P17
(57)、P18(63)、P158(74)、P20(83)、P21(8
4)、P22(85)、P23(86)、P32(443)、P33(450)、
P159(451)
 つぎの六名は委任状を受付けたのち、組合員本人が出席した。
 P35(596)、P36(612)、P37(629)、P38(648)、
P39(649)、P40(650)
 つぎの三名については委任状が回収されていないが、同人らは同一世帯の成年者
たる括弧内の者に委任し受任者が出席している。
 P29(P160)、P30((P161)、P31(P162)
b 請求原因六2ロb記載のつぎの二二名については、委任状は提出された後返還
し、代理人に持たせたまま入場させたので、委任状は訴外組合に保管されていない
が、代理人は同一世帯の成年者である。括弧内の者に委任されている。
 P41(P163)、P42(妻)、P43(妻)、P44(父)、P45
(妻)、P46(母)、P47(夫)、P48(妻、P164)、P49(妻)、
P50(妻)、P51(妻)、P52(妻)、P53(父)、P54(父)、P5
5(P165、委任状も保管されている)、P56(妻P166)、P57(妻P
167)、P58(妻、P168)、P59(妻、P169)、P60(妻、P1
70)、P61(妻)、P62(妻)
ハ 請求原因六2ハ記載の一一名は、他の組合員に正当に委任がなされている。
3、請求原因六のうち、定款の定めは認める。
4、請求原因六4の事実は知らない。
5、請求原因六5の事実は否認する。指摘の組合員は総会に出席している。
七、右総会において、本件公有水面に対する共第三〇号共同漁業権放棄について
は、起立により採決することを定めたのち、起立採決の方法により出席者七〇〇人
中、反対三名、賛成六四五(うち書面議決一二七)、賛否不明者七六で右放棄の決
議が有効になされた。
1、請求原因七1の採決方法についての決議が行われなかつたとの事実は否認す
る。
 右総会において、採決方法を起立によるものとする動議が上程され、これについ
て議論がなされたのち、挙手採決により多数でこの動議が採決され、採決方法は起
立によるものと定まつたものである。
2、請求原因七2の事実は否認する。
3、請求原因七3の事実は否認する。
 右総会においては討議ののち採決に入り、議長はまず反対者の起立を求めたとこ
ろ三名が起立し、ついで賛成者の起立を求めたところ、右反対者のほか七六名を除
く全員が起立したので、書面による賛成議決者一二七名を含め賛成者を六四五名、
賛否不明者を七六名と認めたものであり、右漁業権放棄は出席者七〇〇名のうち三
分の二以上の多数により可決されている。
4、書面議決書中一二七通は有効である。
イ、請求原因七4イの事実は認める。
ロ、組合はP92が死亡していることは知らなかつた。
ハ、P93の夫P171は組合員であつたが、同四四年六月四日頃、出漁中遭難行
方不明になつたところ、死亡が確認されないので、同居の妻成人者のP93に議決
権の行使を認めた。
ニ、P94、P95、P98、P99、P100は、総会に出席したが、採決前に
書面議決書を提出して帰宅したものであり、P101は総会に出席していない。
ホ、P102、P103、P104、P105、P106、P107、P109の
代理人は総会に出席していない。P108の代理人は総会に出席したが、採決前に
書面議決書を提出して帰宅したものである。
ヘ、請求原因七4への議決書が買収により取得されたとの主張は否認する。同一地
区に居住する人が相談して同じ結論に達した結果、そのうちの一人が議決書に記載
し本人は捺印、又は署名捺印をしたものにすぎない。
八、請求原因八の法律見解は争う。漁業権の放棄、変更について、水産業協同組合
法四八条、五〇条の手続のほかに、漁業法八条の手続は必要ではない。
 なお、請求原因八のうち、関係地区の範囲、関係地区内に住所を有し第一種共同
漁業を営んでいた者の数は認める。
 なお、請求原因八のうち、関係地区の範囲、関係地区内に住所を有し第一種共同
漁業を営んでいた者の数は認める。
 共第三〇号共同漁業権の従前の対象たる漁場の面積は約二〇、二九八、八八〇平
方メートル、漁業権を放棄して縮少した部分の面積は約三九六、〇〇〇平方メート
ルである。
九、請求原因九の事実は認める。
一〇、請求原因一〇の法律主張は争う。
一一、請求原因一一の事実は否認する。
 行政処分が無効であるためには、処分の当初より行政庁の誤認であることが外形
上客観的に明白であつて、処分関係人の知不知と関係なく何人の判断によつてもほ
ゞ同一の結論に達しうる程度に明らかでなければならないが、漁業区域の変更申請
書には漁業権放棄に関する組合総会議事録が添付されており、被告は大分海区漁業
調整委員会の諮問を得て変更免許をしたものであり、原告らが実体を欠くと主張す
る総会も組合員の過半数が出席し、少なくとも三分の二以上の多数で漁業権放棄が
なされたとみられる状況にあつたものであるから、もし何らかの瑕疵があつたとし
ても明白な瑕疵にはあたらない。また漁業権放棄について漁業法八条の類推適用又
は準用については、見解の分れるところであるから、これを肯定するとしても明白
な瑕疵ということはできない。
 右漁業権変更免許と本件公有水面埋立免許とは、共に被告によつてなされている
が、両者は法律の根拠を異にし、かつその性質、内容の異なる全く別個独立した処
分であるから、かりに前者に瑕疵があつたとしても、それがそのまま後者に承認さ
れるものではない。
 また、右漁業権変更免許は漁業法二二条により行われたものであるが、同条は免
許の基準として二項において「知事は漁業調整その他公益に支障を及ぼすと認める
場合は前条の免許をしてはならない。」と規定し、三項は、「第一項の場合におい
ては、第一二条、第一三条の規定を準用する。」としているのみで、そのほかには
同法、同法施行令、同法施行規則のどれをみても、変更免許に関しその申請様式、
審査基準、審査方法などを定めた規定は存しない。いわんや、水産業協同組合法五
〇条の総会の特別決議の存否は何ら変更免許に際し審査すべき事柄とはされていな
いから、漁業権変更免許の適否は漁業法二二条のみによつて判断されるべきであ
り、総会決議は理論上漁業権変更免許の適否と何ら関係のないところである。
 以上のとおり、右共同漁業権は、右漁業権変更免許および総会決議によつて、本
件埋立免許前に確定的に消滅し、免許当時、本件公有水面に関し権利者が存しなか
つたから、本件埋立免許には何ら瑕疵がない。
一二、訴外組合は本件免許前に本件埋立免許に同意したから、公有水面埋立法四条
一号により本件埋立免許は適法である。
一三、本件埋立によつて生ずる利益の程度は、つぎのとおり、損害の程度を著しく
超過するから、公有水面埋立法四条二号により本件埋立免許は適法である。
1、本件埋立免許により承認された埋立の目的は、参加人のセメント製造工場用地
造成のため護岸敷地、道路敷地、工場敷地の用に供するためである。
 参加人が本件工場進出にいたつたのは、次のごとき事情による。臼杵市には、め
ぼしい産業がなく他地域の発展に伴い人口流出過疎現象が著しくすすみ都市として
その機能、構造が衰退の一途を辿つていたため、市の発展と近代化の方策を見出す
ことに努め、昭和四三年工場誘致計画を立案し、その豊富な石灰石資源を活用する
こととし大阪セメントを誘致することに決定した。このことは、農水工併進施策を
重点施策とする大分県の施政方針に合致するものである。
 参加人は、同四四年一〇月右誘致に応ずることを決定し、訴外組合の埋立につい
ての同意を得たので、本件埋立施工区域にセメント工場を建設すべく準備を開始し
た。
 即ち、その計画では建設工事を同四六年三月より開始し同四八年内に第一期工事
として、本件工場の大部分の建設を完了し、同四九年より焼窯一基によりクリンカ
ー月産一〇万トン、セメント月産二万トンを生産し、同五一年より焼窯二基により
クリンカー月産二〇万トン、セメント月産三万五、〇〇〇トンを生産すべくこの工
場建設に要する費用は総額一七〇億余円である。また、参加人が右工場建設のため
に現在までに支出した金員は埋立用岩石採取並びに工場敷地としての土地買収費四
億円、前記協同組合への漁業補償費一億一、〇〇〇万円、調査費二五〇万円であ
る。
2、本件埋立により生ずる利益
イ、本件埋立により造成される土地の価格は金一、三三〇、〇〇〇千円である。
ロ、参加人が、本件工場で生産するセメント、クリンカーの販売高並びに利益は次
表のとおりである。
ハ、参加人の関連企業として、本件埋立地区に進出する株式会社戸高鉱業社が本件
埋立地に建設する工場で生産する石灰石等の販売高並びに利益は、次表のとおりで
ある。
ニ、本件埋立地に進出する参加人、株式会社戸高鉱業社、および戸高石灰化工株式
会社から臼杵市が徴収する租税は次表のとおりである。
ホ、前記各社操業段階における地元中小企業への下請見込額は年間二二七、四〇〇
千円ないし二六二、五〇〇千円である。
ヘ、関連企業の給与、資材サービスの調達などで地元小売商店街の年間売上が三二
〇、〇〇〇千円増加する。
ト、設備投資時における地元受注見込額は八九〇、〇〇〇千円ないし二、一一〇、
〇〇〇千円である。
チ、従つて、本件埋立により生ずる利益は、生産という面から見れば毎年度ごとに
ロハの販売高合計相当額の利益を生むことになり、また、純粋な利益計算の面から
見れば毎年度ごとにロハの各利益高およびニホヘの効果の合計高および一時的なも
のとしてイトの金額の利益を生むこととなる。
3、本件埋立により生ずる損害
イ 原告らの漁業の実態
 原告らは、全員漁業以外の収入により生計の大部分をたてており、本件埋立施行
区域を含む共第三〇号共同漁業権の漁場区域において第一種共同漁業のうち貝類漁
業を営んでおり、(うち三名は、一本釣ないし突棒漁業を兼ねる)本件埋立施工区
域において原告ら全員で、一年間にあげる漁獲の利益は、金二七万円でこの区域で
の依存度は極めて低い。
ロ 共第三〇号共同漁業権漁場区域における本件埋立施工区域の地位
 本件埋立施工区域の面積は、共第三〇号漁場区域の面積の一〇〇分の一にも足り
ない狭少な部分であり従来から砂地と遠浅のため海水浴場として利用され漁場とし
て活用されることが少なく、この区域からの漁獲の利益は年間(昭和四五年)共第
三〇号共同漁業権関係で、二、五六〇、〇〇〇円、知事許可漁業関係で、一四、〇
一〇、〇〇〇円である。(なお、共第三〇号漁業権漁場全区域における漁獲の利益
は年間(昭和四五年)共第三〇号漁業権関係で、三四、三九〇、〇〇〇円、知事許
可漁業関係で三七、一六〇、〇〇〇円である。)
ハ 従つて、本件埋立によつて生ずる損害は、本件埋立により共第三〇号共同漁業
関係並びに知事許可漁業関係が、その行使によつて得ていた右ロ記載の利益金相当
額と解される。
 なお、本件埋立につき、参加人は、海水汚濁防止に万全の措置をとり、また、埋
立による漁船の運航への支障もなく、さらにセメント工場操業による共第三〇号漁
業権漁場の汚染も考えられないから本件埋立により右損害以上の損害が発生するこ
とは考えられない。
4、本件埋立による利益と損害の比較
 以上のとおり、本件埋立により生ずる利益は、造成される土地の価格約一三億円
のみならず、その後毎年継続的に純利益だけで十数億円を超えるのに比し、本件埋
立により生ずる損害は、逸失利益として年間一千数百万円にしか過ぎず、従つて、
この利益は著しく損害を超過しているものである。
一四、以上のとおり、本件埋立免許は、公有水面埋立法四条に反するところはない
適法なものであるから、原告らの請求は理由がなく、棄却されるべきである。
(証拠)(省略)
       理   由
一、(行政処分と原告適格)
 被告が、昭和四五年一二月二五日、公有水面埋立法にもとづき、参加人に対し、
本件公有水面についてセメント製造工場用地の造成のため埋立免許を与えたことは
当事者間に争がない。
 訴外組合が現在本件公有水面について共同漁業権を有していることは後記認定の
とおりであり、原告らは訴外組合の組合員である漁業者であつて、訴外組合の共同
漁業権行使規則は本件公有水面を含む漁区において原告らが漁業を営むことができ
る旨を定めていることは当事者間に争のないところであるから、原告は本件公有水
面において漁業を営む権利を有するものに該当し、従つて、本件公有水面について
なされた右埋立免許処分取消の訴を提起する原告適格を有する。
二、(本件公有水面に関し権利を有する者)
1、請求原因四のとおり、訴外組合は水産業協同組合法にもとづき設立された漁業
協同組合であつて、昭和三九年一月一日被告より、共第三〇号をもつて本件公有水
面を含む漁区について第一ないし第三種漁業を内容とする漁業権設定の免許をうけ
たことは当事者間に争がない。
2、そこで、進んで共第三〇号共同漁業権のうち本件公有水面に対する部分が放棄
されたか否かについて判断する。
 まず、このような放棄は漁業権の一部喪失に該当するから、水産業協同組合法五
〇条四号により、正組合員の半数以上の出席した総会において正組合員の三分の二
以上の多数による議決がなされることが必要であることはいうまでもない。
 原告らは更にそのほかに漁業法八条五項、三項に定める、共第三〇号共同漁業権
の内容たる第一種漁業を営む組合員のうち関係地区内に住所を有する者の三分の二
以上の書面による同意が必要であると主張する。
 漁業権は、法律上漁業協同組合に属するものであるが、組合は原則として漁業を
営むことができず(水産業共同組合法一一条一項、一七条)、訴外組合においても
漁業を営むことを事業内容としてはいない(成立に争のない乙七号証の一、二)の
であつて、組合は漁業権を管理するに過ぎず、漁業権にもとづき実際に漁業を行い
それにより利益をうけうる権利ないし地位は漁業権行使規則により定められた各組
合員に帰属しているものといわねばならない。そして、漁業協同組合の個人たる組
合員はすべて漁民であつて、一年間に少なくとも九〇日をこえる日数漁業を営み又
はこれに従事している者である(水産業協同組合法一八条一項一号)から、右のよ
うな権利ないし地位は組合員にとつて極めて重要なものであるということができ
る。
 そこで、漁業権行使規則を変更する場合には、総会の特別決議を必要とする(水
産業協同組合法五〇条五号)とはいえそれのみに委ねては、多数組合員の意思によ
り具体的な漁業を営む権利を有していた者の意思に反しその漁業を営む権利が変更
され、又は奪われるという不当な結果が生ずる危険があり、この危険は特に漁業協
同組合が合併等により大きくなり組合員が多人数である場合ほど大きいと言える。
そこで、このような危険を防止するため、法は漁業権行使規則を変更するには、行
政庁の認可(漁業法八条四項)のみならず、その共同漁業権の内容のうち現に第一
種共同漁業を営む者であつて関係地区に居住する組合員の三分の二の者の書面によ
る同意を要求する(漁業法八条五項、三項)ことにより、現に漁業を営んでいる組
合員の利益を保護しているものと解される。
 漁業権の放棄は、漁業権行使規則の変更による組合員の権利ないし地位の変更と
性格を異にするものではあるが、漁業権放棄により各組合員の漁業を営む権利が失
われる(漁業法八条一項)ことになる点においては、漁業権行使規則の変更による
場合と異なる点はない。更に漁業権行使規則の変更による場合には、組合内部でそ
れが再び変更され知事の認可を得ればそれを回復する可能性があるのに比し、漁業
権放棄による場合には、その漁区が埋立等により消滅することなくなお存在し、更
に知事による漁業権設定免許が与えられない限り一度漁業を営む権利を失つた者が
それを回復することのできない点において、前者に比しその権利の喪失はより確定
的永久的であるということができる。また、漁業権放棄にあたつては、漁業権の対
象たる漁区の一部分に対する漁業権の放棄の場合であつても、知事の免許は必要で
ないと解される(この点の詳しい理由は後記3参照)から、漁業権行使規則変更の
場合(漁業法八条四項)と異なり、知事の後見的監督による保護も与えられないこ
とになるわけである。
 以上のことを考慮すると、漁業権の放棄において現に漁業を行つている者の保護
の必要性は、漁業権行使規則の変更の場合以上に大きいものというべきであり、従
つて、漁業権の放棄には漁業法八条五項、三項に定める、当該漁業権の内容たる第
一種漁業を営む組合員のうち関係地区内に住所を有する者の三分の二以上の書面に
よる同意が必要であると解すべきである。
 このように解しても、公益上の必要のあるときは損失を補償することにより漁業
権を消滅させることもできる(漁業法三九条)から、一部の者の反対により漁業権
の放棄ひいては海面の総合的な利用が困難となる結果は避けることができる。ま
た、右のように特別の書面同意が必要であると解しても、関係地区の範囲を比較的
広く定めることにより極めて少数の反対により漁業権放棄ができないことを避ける
こともできる。
 これを本件についてみるに、共第三〇号共同漁業権について被告が漁業法一一条
により定めた関係地区は臼杵市のうち臼杵、板知屋、大泊、風成、深江、市浜、諏
訪、大浜、中津留の各大字であり、ここに住所を有し右漁業権の内容たる第一種共
同漁業を営んでいた者が一二九名であることは当事者間に争のないところである
が、本件公有水面に対する漁業権の放棄について右一二九名の三分の二に当る八六
名以上の書面による同意があつたことは本件全証拠によるも認めることができな
い。
 もつとも、本件漁業権放棄について賛成の書面議決書が同時に右の書面同意と解
することができるとしても、成立に争のない甲第六号証の九八、一一〇、一一二、
一二〇、一二九、一四二、一四三、一四九及び成立に争のない乙第三〇号証により
成立の認められる乙第六号証の二によれば、右一二九名のうち右のような書面議決
書を提出した者は、P140、P143、P172、P173、P174、P11
7、P113、P112の八名にすぎないことが認められ、これのみでは右一二九
名の三分の二に達しないことは明らかである。
 なお、書面による同意はなくとも、これと同程度の明確な同意があれば足りると
解する余地があるとしても、そのような明確な同意の表明があつたことは本件全証
拠によるも認めることができない。これを、同四五年三月二一日の組合総会との関
係でなお詳しく判断する。
 右の組合総会において、前記の漁業権放棄に反対の意思表示をした者が三名、賛
否を明らかにしなかつた者が七六名はいたことは被告の自認するところである。す
ると、この合計七九名の者は賛成の意思を表示しなかつた者というべきであるとこ
ろ、この中に前記の第一種漁業を営んでいた者一二九名中の三分の一に当る四三名
以上が含まれていないことは、本件全証拠によるも認めることができない。むし
ろ、特段の事情のない限り、現実に本件漁区において漁業を営んでいる者ほど漁区
を失いたくない気持が強いというべきであるから、前記七九名の中にはかかる組合
員を数多く含んでいるとみるべく、かりに、被告主張どおりの議決がなされたとし
ても、右一二九名中の三分の二以上の明確な同意があつたものと認めることができ
ない。
 のみならず、成立に争のない甲第二号証、第八号証、甲第九号証の一、二、甲第
一〇ないし第一二号証、甲第一四号証、乙第三二、第三三号証(ただし後記措信で
きない部分を除く)を総合すれば、同四五年三月二一日に開かれた右組合総会にお
いては、まず無記名投票にするか起立投票にするかの採決の方法をめぐつて議場は
紛糾し、議長は起立採決の方法によることを組合員に問い多数の賛成を得たこと、
ついで議長は本議決に入り漁業権放棄に不賛成の者の起立を求めたところ、あくま
で投票による採決方法を主張する組合員数名が議長席に詰寄つたところで反対三名
と宣言したこと、ついで議長の右措置に抗議しようとして起立した者も相当数いる
中で、議長は賛成者の起立を求めたところ、その数が三分の二以上の法定数に達し
ていたか否かはさておき、多数の者が騒然と一せいに起立しおわる瞬間をとらえて
賛成多数により可決された旨を宣したが、右言葉が終るや否や不賛成のため着席し
ていた組合員も抗議と憤激とにかられて立上つたため、反対者の着席している時間
は一瞬の間であり、反対者の人数を正確に数える時間的余裕がなかつたこと、以上
の事実を認めることができる。この認定に反する甲第八号証、甲第九号証の一、
二、甲第一四、第一七号証、乙第三号証の二、乙第二八ないし三一号証および乙第
三四号証は前記証拠と対比すると、たやすく措信することはできない。そうする
と、一二一名(ただし、右は前記一二九名のうち書面議決書を提出した八名を除い
たその余の人員)中七八名以上の者が、総会において、書面による同意に比すべき
程明確な同意を表明したとは到底認めることができない。
 従つて、前記一二九名中三分の二以上の書面による同意又はこれと同程度の明確
な同意があつたことを認定できない以上、漁業権放棄の決議があつたとしても、そ
れだけでは漁業権放棄の効力を生じないものと言わねばならない。
3、被告が同四五年五月二〇日、共第三〇号共同漁業権の目的の漁区を本件公有水
面を除くその余の部分に縮少する旨の変更免許をなしたことは当事者間に争がな
い。
 被告は、右のように漁業権変更免許の行政処分がなされている以上、この変更免
許に重大かつ明白な瑕疵がない限り有効であつて本件公有水面に対する漁業権は消
滅したことになる旨主張する。
 漁業期間、方法、魚の種類などの変更を内容とする漁業権の変更は、これらの新
しい内容をその漁業権者に与えることになるので、漁業調整、漁業資源の保護など
の公益上の見地より免許をうけなければならないものとしていると解される(漁業
法二二条二項参照)。しかしながら、漁業権の放棄はそれにより当該漁区にその漁
業権を有するものがなくなるだけでそれにより他の権利者が生じ又は漁業権に新し
い内容が加えられるものではないから、これについて免許を必要とする漁業調整そ
の他の公益は全く存しないわけである。そして、漁業権は私権としての性格を持つ
ている(漁業法二三条一項)から、特別の規定のない限り権利者は自由にその放棄
をなしうるものであつて、これについて免許を必要とする法の明文は見当らない。
漁業法三一条一項は漁業権が放棄でき、漁業権放棄が漁業権変更とは異つた概念で
あることを前提としているが、放棄につき免許を必要とする規定は存しないし、か
えつて、漁業登録令四一条は漁業権の設定、変更、取消、行使停止など行政庁の処
分により形成される権利変動についてはその行政庁が登録庁として職権でその変動
の登録をすることと定めているのに、漁業権の放棄は登録庁において職権登録でき
る事項に含まれていないのみならず、同令一六条二号は漁業権者の単独申請で漁業
権放棄の登録ができることを定めており、これらの規定よりみれば、漁業権放棄に
ついて行政庁の免許が必要でないことがうかがわれる。以上の諸点を考慮すると、
漁業権の放棄は、行政庁の免許等の処分がなくとも行政庁に対する届出があれば、
効力が生ずるものと解すべきである。
 そしてこのことは、漁業権の放棄が、一個の漁業権の目的たる漁場の一部につい
てなされている場合であつても同様と解すべきである。私権である漁業権は不動産
に対する物権の場合と同様その一部を放棄することも許されると解されるし、この
ような一部放棄について漁業調整その他の公益は全く存しないから、このような漁
業権の一部放棄は、漁業法二二条による免許を必要とする「漁業権の変更」には該
当せず、このような免許がなくとも効力が生ずるというべきである。
 従つて、反面このような漁業権一部放棄について漁業権変更の免許がなされたと
しても、それは放棄の届出受理としての効力を生ずるにすぎず、この変更免許によ
つて漁業権放棄の重大明白でない瑕疵が治癒され漁業権喪失の効力が生ずるもので
はない。
 よつて、前記2に認定の漁業権放棄についての瑕疵が右の漁業権変更免許を無効
ならしめる重大明白なものであるかについて判断する必要はない。
4、以上判断のとおり、本件海域に対する共第三〇号共同漁業権放棄について、右
漁業権の内容たる第一種漁業を営む組合員一二九名の三分の二以上の同意があつた
ことが認められない以上、その余の争点について判断するまでもなく、右の漁業権
が喪失される効力が生ぜず、本件公有水面に対する右漁業権はなお存続しているも
のというべきである。
 従つて、公有水面埋立法四条各号所定のいずれかの要件をみたさない限り、本件
埋立免許はなすことができなかつたものであるから、つぎに右各号の要件をみたし
ているか否かについて判断する。
三、(漁業権者の同意)
 証人P175の証言及び弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一二号証の五
によれば、訴外組合理事P176は同四五年三月二三日、本件公有水面を参加人が
埋立てることに同意する旨の書面を作成し、参加人を通じて被告に提出したことが
認められる。
 ところで、公有水面埋立法にもとづき共同漁業権の対象たる漁区が埋立てられる
と、その漁業権は消滅し、それにもとづく組合員の漁業を営む権利も消滅すること
になる。従つて、前記二で判断した漁業権の放棄の場合と同様、共同漁業権者たる
漁業協同組合が公有水面埋立法四条一号の同意をするには、水産業協同組合法五〇
条に定める特別決議のほかに、漁業法八条五項、三項に定めるところの、その公有
水面に対する漁業権の内容たる第一種漁業を営む組合員のうち関係地区内に住所を
有する者の三分の二以上の同意が必要であると解すべきである。しかしながら、前
記二において判示したとおり、このような同意のあつたことは本件全証拠によるも
認められないところであるから、右の訴外組合理事のなした埋立同意は、公有水面
埋立法四条一号の訴外組合の同意としての効力を生じないものというべきである。
四、(埋立によつて生ずる利益と損害)
 つぎに本件埋立免許処分が公有水面埋立法四条二号の要件を充足するか否かにつ
いて検討する。
 本件埋立は参加人のセメント製造工場用地の造成を目的とするものであることは
当事者間に争のないところである。
 同条二号は、「其ノ埋立ニ因リテ生スル利益ノ程度カ損害ノ程度ヲ著シク超過ス
ルトキ」にはその公有水面に関する権利者のある場合でも埋立免許をなすことを認
めているが、右二号を単独で適用する場合には同条項は権利者の意思に反して、し
かも、公共性の高い事業以外の事業のために例外的に埋立免許を与えることのでき
る場合を規定したものであるから、その要件は厳格に解釈すべきである。これは同
法四条全体の文理解釈のうえからも明らかである。
 すなわち、免許をうける者が一般私企業の場合、造成される埋立地の価格や土地
に建設される工場のもたらす経済的利益の程度と埋立により蒙る権利者の損害の程
度とを単に計数的に比較検討するだけではなく、工場建設がその地方住民の生活環
境におよぼすもろもろのマイナス面の影響の有無、程度をも検討すると共に、他
面、埋立により蒙る権利者の直接、間接の損害の実態を正確に把握し、国土の総合
利用、国民経済上の見地からして、埋立により生ずる利益の程度が既存権利の消
滅、その他埋立により生ずる損害の程度より著しく超過することが、何人の目から
見ても客観的に明瞭であり、既存の権利を消滅させ、又は損害を生ぜさせてもやむ
をえないことが肯認される場合に限ると解すべきである。
 これを本件について見るに、証人P175の証言により成立の認められる乙第二
一号証、第二三号証、第二六号証および第二七号証、証人P177の証言および弁
論の全趣旨を総合すれば、本件公有水面の埋立に要する費用は約一七億円であり、
埋立により造成される土地の価格は約一三億円であること、参加人はこの土地にセ
メント工場を建設する計画であるが、工場を建設するのに約一七〇億円の費用を要
し、参加人はこの工場において操業当初二年間は月二万トン、その後は月三万五、
〇〇〇トンのセメントを生産する予定であること、この操業のため当初二年間は約
一二〇名その後は一五〇名の従業員を要すること、その生産がなされれば、参加人
は当初の二年間は年四億円、その後は年八億円程度の利益をあげることを目標とし
ていること、本件公有水面は良質な石炭石の産地に近くその生産を行う特定の関連
企業の売上が増大し、またその波及効果として下請企業や地元商店街の売上増が見
込まれること、ならびに地方公共団体にある程度の租税収入が生ずるであろうこと
が認められる。
 しかしその反面、前記乙第二七号証によれば、労働者の求人をめぐつて地元の既
存企業を圧迫するおそれがある等のマイナス面の影響も考えられ、要するに、本件
工場建設が地元経済にもたらす利益の程度を把握するには、なお幾多の検討すべき
問題があることをうかがい知ることができる。
 さらには、工場建設、操業、原料製品運搬のもたらす大気の汚染、海水汚濁等に
よる生活環境にあたえるマイナス面の影響も当然予測されるところであるにかゝわ
らず、証人P177の証言によつて成立の認められる乙第一六号証によると、県、
市、および参加人の間に締結された公害防止協定書には、参加人は粉じん、いおう
酸化物、水質汚濁、騒音の防止等に努力し、参加人の責めに帰すると認められた被
害が発生したときは参加人は被害補償の協議に応じ誠意をもつてその解決にあたら
なければならないことを約定したことが認められるが、右防止協定のみでは被告主
張のような万全の措置とまでは認められない。
 また、本件公有水面には訴外組合の共同漁業権が存することは前記判示のとおり
であり、ここで多数の訴外組合の組合員らが漁業を営んでいたことは証人P178
の証言、原告P179本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認められるところで
あるが、証人P180の証言およびこれにより成立の認められる乙第一九号証によ
れば、原告ら漁業者の蒙る損害については、被告は、本件埋立免許処分をなすにあ
たり、本件公有水面から得られる商品としての漁獲物は少なく、本件公有水面は夏
季における海水浴場として利用されているに過ぎないと即断して、当該漁民の蒙る
直接間接の損害については調査検討した形跡がないことが認められる。被告は本件
公有水面から得て来た漁獲物は年一六五七万円相当分にすぎないと主張するが、こ
れを認めるに足りる証拠はない。前記P180の証言により成立の認められる乙第
二五号証には、被告の右主張に副う記載があるが、同証人の証言によれば、右は本
件訴訟係属中にこれに提出するため作成されたものであつて、その記載の根拠とな
つた資料も明らかでないことが認められるから、右書証の記載を真実とは認めがた
い。
 右認定のとおり、本件埋立により土地が造成され、参加人はセメントを生産して
利益をあげ、関連産業の売上増大が見込まれる等の利益があるにしても、他方これ
には多額の資本を要し、地方住民の生活環境への影響、漁業者の収入減等も予想さ
れるところであつて、右認定の事実をもつて埋立によつて生ずる利益の程度が、何
人の目から見ても客観的に損害の程度より著しく超過する場合に該当するとは認め
がたく、他にこれを肯認するに足る証拠はない。
 よつて、公有水面埋立法四条二号に該当するとの被告の主張は理由がない。
五、(結論)
 以上のとおりであつて、本件公有水面には訴外組合が共同漁業権を有しているに
かかわらず、本件埋立免許はこれがないことを前提とし、しかも公有水面埋立法四
条各号の要件を充さないまま、同条に反してなされた違法なものであるから、本件
埋立免許処分を取り消すこととし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九四条
を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高石博良 土井博子 井関正裕)

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