弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人飛鳥田一雄提出の公訴趣意書に記載されたとおりである
からここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。
 控訴趣意一及び二について、
 原判決挙示の証拠によれば、原判決摘示の事実は、すべてこれを認めることがで
きる。そして被告人等の配布した本件のタプロイド版半截の印刷物は、原判決が証
拠として挙示する領置にかかるビラに徴すれば、「明日(二十三日)投票日、お金
が勝つか組織が勝つか!!、貴重な一票は革新候補有効に!!」と題し、「今迄私
達働く者の要求を何一つ取り上げてくれなかつた保守党候補の甘言に惑されること
なく、私達の組織を信頼して是非労働組合の推薦する候補を支援して下さい」と記
載し、知事選挙の侯補者として東京都知事候補者甲及び神奈川県知事候補者乙の各
氏名を記載し、次に県会、都会議員候補として、相模原市丙、町田市丁、八王子市
戊、その他横浜市各区及び神奈川県下各市郡のいわゆる革新候補として候補者二十
二名の氏名を列記した全駐労相模支部名義の書面であるところ、所論は労働組合と
いえどもその組合員の経済的地位の向上を図ることを目的とし、これに必要な限度
で政治的活動をすることは許され、その機関紙において組合員の社会的政治的意識
の向上を図るため特定の政党又は候補者を推薦支持し、若しくはこれに反対する旨
報道し論評することは正に正当な活動である。本件の印刷物は、全駐労相模支部が
右許された正当な政治活動の範囲内で組合内部の正式な手続により支持すべき政
党、候補者等を決定し、その決定を組合員に伝達するため作られた同支部の機関紙
であり、特定の候補者の当選を目的としたものではなく、全般的に革新系候補者全
体を推薦する組合の政治的意図を表明したに過ぎないものである。又全駐労相模支
部では組合決定事項を組合員に伝達する場合には常に原判決判示の通用門において
組合員に文書を渡す方法によつていたものであるから、本件機関紙の頒布も通常の
方法に従つたものである。右印刷物が公職選挙法第百四十八条第三項の新聞、雑誌
に該ると否とを問わず、又同法第二百一条の十三(趣意書に同法第百四十八条の十
三とあるのは誤記と認める)に規定する機関新聞紙又は機関雑誌に該ると否とを問
わず労働組合の正当な政治的意図を伝達する手段として許されるものであつて、こ
れを公職選挙法違反に問擬した原判決は、法の解釈を誤つた違法があるか事実を誤
認したものであると主張する。
 <要旨第一>よつて按ずるに被告人等の配布した本件印刷物は題号、発行日附もな
く、号を追つたものでもなく、政党その他の政治団体の発行するもので
もないから、公職選挙法第百四十八条にいう新聞紙、雑誌に該らず、又同法第二百
一条の十三にいう政党その他の政治団体の機関新聞紙、機関雑誌にも該らないこと
論をまたない。又右印刷物には、神奈川県知事候補者の氏名のほかに東京都知事候
補者の氏名も記載してあり、更に県会、都会議員候補者として、神奈川県議会議員
候補者丙の氏名のほかに、東京都並びに神奈川県の議会議員候補者の氏名か多数列
記されていることは所論のとおりであるが、右印刷物には前記のように「明日(二
十三日)投票日、お金が勝つか組織が勝つか」「貴重な一票は革新候補で有効
に!!」とし、「保守党候補の甘言に惑されることなく私達の組織を信頼して是非
労働組合の推薦する候補を支援して下さい」と記載されているのであるから、右印
刷物は、昭和三十四年四月二十三日施行の都道府県知事選挙及び都道府県議会議員
選挙に際し、全駐労相模支部の推薦する右印刷物に列記のいわゆる革新候補の当選
を目的としたものというべく、又右印刷物は、神奈川県相模原市所在の在日米軍総
合補給廠(G、D、J)の第五及び第四各通用門前路上で同補給廠に通勤している
労働者を主たる対象としてこれに頒布したというのであるから、右印刷物の頒布
は、これを受取つた労働者の住所地を選挙区とする候補者中右印刷物に記載されて
いる特定のいわゆる革新候補者に投票することを慫慂した選挙運動のために使用す
る文書と解せられる。してみれば右印刷物には各選挙区の多数の候補者の氏名が記
載されているからといつて、右が特定の候補者の当選を目的としたものではないと
いうことはできない。もつとも原審第三回公判調書によれば、検察官は、被告人等
が神奈川県知事候補者乙及び神奈川県議会議員候補者丙の当選を得しめる目的をも
つて本件印刷物を頒布した事実を訴追する趣旨である旨を釈明しているのである
が、右の理は同一であつて右印刷物は右知事候補者乙又は右県議会議員候補者丙の
立候補した選挙区の選挙人に対し、右候補者等に投票すべきことを慫慂したものと
解せられる。してみれば被告人等より本件印刷物の頒布を受けた者のうちには、知
事選挙については、神奈川県における選挙権のない者、県議会議員選挙について
は、相模原市における選挙権を有しない者の存することは、当然予想されるところ
であるが、これらの選挙権を有する者の存することも当然であり、制限外文書頒布
による公職選挙法違反の罪が成立するためには、特定の候補者に当選を得しめる目
的で同法第百四十二条各号に規定する通常葉書以外の選挙運動のために使用する文
書を不特定多数の人に頒布すれば足り、頒布を受けた者のうち偶々選挙権を有しな
い者が若干存したからといつて同罪の成立に消長を来すものではないと解すべきで
ある。してみれば原判決が被告人等の所為を公職選挙法第百四十二条第一項第三
号、第四号第二百四十三条第三号に問擬したのは正当である。なお所論は、右印刷
物は全駐労がその労働組合として許される限度内で政治的意図を伝達するため頒布
したものであるから之を公職選挙法違反に問うことは、正当な組合活動を処罰する
もので憲法に<要旨第二>違反すると主張する。しかし労働組合が組合員の労働条件
の維持改善と、その経済的地位の向上を図る目的に必要な限度で政治活
動を行うことは許されるとしても、その政治活動は法に従い適法に行われることと
要するのは当然である。公職選挙法の規定は、選挙運動が公正に行われることを図
るためのもので労働組合のみならず何人もこれに従うことを要するのであつて、同
法所定の新聞紙雑誌でもなく、又同法所定の政治団体の機関新聞紙、機関雑誌でも
ない本件の様な印刷物を頒布することは、労働組合としても許されないものである
から、これを以つて正当な労働組合の活動ということはできない。従つてこれが正
当な組合活動であることを前提とする違憲の主張は理由がない。論旨はいずれも理
由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 岩田誠 判事 渡辺辰吉 判事 秋葉雄治)

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