弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

     主   文
    原判決を破棄する。
    被告人を懲役3年6月及び罰金120万円に処する。
    原審における未決勾留日数中90日を懲役刑に算入する。
罰金を完納できないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留
置する。
大阪地方裁判所堺支部で押収保管中の透明ポリシートに包まれ更に茶色粘着テ
ープで巻かれた大麻草1塊(同庁平成12年押
第97号の1),大阪地方検察庁堺支部で保管中の同様の大麻草11塊(同庁平
成12年領第501号の符1の2,3,符2の1な
いし3,符4の1ないし3及び符6の1ないし3)及び同裁判所押収保管中の航空
券1冊(同庁平成12年押第97号の2)を没収する。
被告人から金4万9405円を追徴する。
    理   由
 本件控訴の趣意は,検察官仲内勉作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,弁護
人和田重太作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。
 論旨は,被告人は,原判示の犯行を遂行するにあたり,共犯者である通称Aからヨハ
ネスブルク国際空港・関西国際空港間の往復航空券(以下「本件航空券」という)を受領
しているところ,本件航空券は,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長
する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律
(以下「麻薬特例法」という)2条3項に定める「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に
あたるから,未使用の復路航空券は,同法11条1項1号によってこれを没収し,使用済
みの往路航空券については,同法13条1項によりその価額を追徴すべきであるのに,
原判決が,本件航空券は「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」にあたらないとして,
没収ないし追徴をしなかったのは,法令の解釈適用を誤ったものであり,これが判決に
影響を及ぼすことは明らかである,というのである。
 関係証拠によれば,被告人は,原判示の犯行を遂行するにあたり,共犯者Aから本件
航空券を受領し,そのうち往路航空券を使用して,原判示の犯行に及び,復路航空券を
所持したまま逮捕された事実が明らかであり,原判決が,「薬物犯罪の犯罪行為により
得た財産」には,薬物犯罪実行のために支給された資金や経費的な金員は含まないと
して,本件航空券について,没収追徴をしなかったことも,その判文に明らかである。
 〈要旨1,2〉そこで,本件航空券が麻薬特例法2条3項にいう薬物犯罪収益に当たる
か否かについて検討するに,同項によれば,「薬物犯罪収益」とは,「薬物犯罪の犯罪
行為により得た財産若しくは当該犯罪行為の報酬として得た財産」等と規定されており,
ここにいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」が,「犯罪行為の報酬として得た財
産」以外の「犯罪行為により得た財産」を意味することは,文理上明らかであるところ,原
判決が,資金や経費的な金員を含まないというのは,「犯罪行為により得た財産」という
文言を,「犯罪行為を手段として得た財産」との意味に解釈しているものと思われるが,
「犯罪行為により」の「より」は「因り」であって,国語としては,手段の意味にも用いられ
るが,より一般的には,原因を示す意味に用いられる言葉であり,特に法令用語として
は,因果関係を表す言葉として用いられるのが通例であって,この規定の文言自体か
ら,これを手段を示すものとして,薬物犯罪の資金や経費に充てられるべき財産を除外
しているものと解することはできず,同法中に,資金や経費等を除外する趣旨をうかが
わせる規定もない。また,同法は没収追徴の対象を「薬物犯罪収益」等として,「収益」と
いう概念を用いているが,「収益」という言葉は,一般には「利益」の意味で用いられるこ
ともあるが,会計学等では,通常,費用を差し引いて利益を算出するもとになるもの,す
なわち,後に費用として支出されるものも含めた収入全体を意味する概念として用いら
れており,同法14条の規定からも,同法が用いる「収益」概念が,これと異なるものでな
いことをうかがい知ることができる。加えて,共犯者間における資金や経費の交付を収
益に当たらないとして没収追徴ができないものとすると,本来正当に受け取ることの許さ
れない財産の交付を受けて得た利益を,これを受けた者のもとに止めることとなり,共犯
関係による薬物犯罪を助長することにもつながりかねず,薬物犯罪収益を徹底的に剥
奪し,経済面からも薬物犯罪を禁圧するという麻薬特例法1条が宣明する同法の趣旨
にも悖るものといわざるを得ない。
 これらの諸点を勘案すれば,麻薬特例法2条3項の規定する「薬物犯罪の犯罪行為に
より得た財産」とは,薬物犯罪の犯罪行為をしたこと若しくは薬物犯罪の犯罪行為をす
ることを原因として取得した財産をいい,原則として薬物犯罪実行のための資金や経費
に充てられるべき財産も含むものと解すべきである。
 原判決は,麻薬特例法は,刑法19条に対する特別法的な規定であり,麻薬特例法2
条3項の文言は,没収等の対象範囲としては,刑法19条1項3号とほぼ同様の表現を
用いているのであるから,刑法19条1項3号の解釈が同様に妥当すると解すべきであ
り,「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」とは,薬物犯罪により取得した金品等をい
い,薬物犯罪実行のために支給された資金や経費的な金員などは含まないと解すべき
であるという。原判決は,刑法19条1項3号のいわゆる犯罪取得物件の中には,犯罪
実行のために支給された資金や経費は含まないとの解釈を自明の前提としているが,
そのような解釈自体,必ずしも自明ではなく,従前あまり議論のされてこなかったところ
ではあるが,異論も十分存しうるところであり,仮に刑法19条1項3号の規定について,
原判決のような解釈が相当であるとしても,麻薬特例法2条3項は,同法の規定する薬
物犯罪に伴って生ずる薬物犯罪収益の定義を定める規定であるから,同法の立法趣旨
や関係する他の規定との整合性もふまえて解釈すべきものであって,同様の表現が用
いられているからといって,刑法総則規定の解釈がそのまま妥当することにはならな
い。
 次に,原判決は,麻薬特例法2条3項は,薬物犯罪収益として,「薬物犯罪の犯罪行
為により得た財産」とは別に「資金」という用語を用いており,これらの規定の体裁からし
ても,「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に,薬物犯罪実行のために支給された資
金や経費的な金員などを含むと解することはできないという。確かに,麻薬特例法2条3
項は,「薬物犯罪収益」とは,「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産若しくは当該犯罪行
為の報酬として得た財産又は前項7号に掲げる罪に係る資金をいう。」と規定して,いわ
ゆる資金等提供罪における資金を「薬物犯罪収益」としているが,その趣旨は,資金等
提供罪における提供とは,広く相手方がそれを利用し得る状態に置くことをいい,資金
等提供罪が成立しても,被提供者が実行に着手し,あるいは予備罪が成立するに至ら
なければ,その資金は,提供者,被提供者のいずれにとっても,「薬物犯罪の犯罪行為
により得た財産」には当たらず,もとより「報酬」でもない。この場合,資金等提供罪の組
成物件として刑法による任意的没収の対象とはなるが,「薬物犯罪収益」に当たらなけ
れば,たとえば,情を知ってこれを収受しても薬物犯罪収益等収受罪は成立しないこと
になり,法の趣旨を貫徹できないところから,これを「薬物犯罪収益」として規制する必要
性に鑑み,「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」等とは別に,資金等提供罪における
資金を,薬物犯罪収益として掲げたものと考えられ,この規定をもって「薬物犯罪の犯罪
行為により得た財産」から,薬物犯罪実行のために要する資金や経費に充てられるべき
財産を除外する趣旨を読みとることはできない。
 麻薬特例法2条3項は,薬物の輸出入の予備罪,大麻栽培罪についても,これらの犯
罪行為により得た財産の発生があり得ることを前提にしていることはその規定上から明
らかであるが,これらの罪については,資金や経費以外に「薬物犯罪の犯罪行為により
得た財産」の発生を想定できず,原判決のように,資金や経費を含まないとすると,麻薬
特例法2条3項が,これらの犯罪行為により得た財産の発生があり得ることを前提にし
ていることを合理的に説明できない。
 原判決は,共犯者内部間における費用の分担に過ぎない金員の交付行為をとらえ
て,たまたま交付を受けた者について「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」が発生し
たとみることは,単独犯として資金や経費等を自弁した場合と対比して明らかに均衡を
欠くという。しかし,共犯者間内部における財産の交付という点では,報酬も同様であ
り,将来発生すべき利益若しくは取得した利益の分配を,交付の時点で収益の発生とと
らえているのであり,共犯者間内部における財産の交付ということは,「資金等」を「収
益」から除外する合理的根拠にはならない。原判決は,共犯関係による犯罪の場合,犯
罪共同体のようなものを想定して,その内部における財産の移動に収益の発生を認め
ることはできないというもののようであるが,共犯関係による犯行であっても,収益発生
の有無は,個々の犯人についてみるべきである。単独犯の場合,自ら出損した経費等
はそのまま犯人の損失になることは当然として,資金や経費等を負担するものと共謀
し,資金や経費等の提供を受けて犯罪を実行したものについて,その経費等を没収,追
徴できないとすると,その者は本来正当に受領できない財産を受領しながら,何らの経
済的損失を受けないことになり,単独犯の場合とむしろ均衡を失することになる上,これ
が共犯関係による犯罪遂行を助長することにもつながりかねず,麻薬特例法の趣旨に
反することは先に述べた通りである。〈/要旨1,2〉
 以上のとおり,本件航空券は,麻薬特例法2条3項の「薬物犯罪収益」に該当するもの
と認められ,未使用部分については,同法11条1項1号によってこれを没収し,使用済
み部分については,同法13条1項によりその価額を追徴すべきであるのに,これをしな
かった原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,論旨は
理由がある。
 よって,刑訴法397条1項,380条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従
い,被告事件について更に次のとおり判決する。
 原判決がその挙示する証拠により認定した罪となるべき事実のうち,営利目的で大麻
を輸入した点は刑法60条,大麻取締法24条2項,1項に,輸入禁制品である大麻を輸
入しようとしたが未遂に終わった点は刑法60条,関税法109条3項,1項,関税定率法
21条1項1号にそれぞれ該当するが,右は1個の行為で2個の罪名に触れる場合であ
るから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い大麻の営利目的輸入罪の刑で
処断することとし,情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,その所定刑期及び
金額の範囲内で,輸入した大麻の量は多量であることなど被告人の刑事責任は重大で
あるが,他方で本邦内に流通する前に発見されたこと,薬物犯罪に手を染めるのは今
回が初めてであったこと,障害を持つ娘の治療費を捻出するために今回の犯行に及ん
だものであるところ,身柄拘束中にその娘が死亡し,死に際に娘の側にいてやることが
できなかったと反省,悔悟の念を強めていること等被告人のために酌むべき事情も考慮
して被告人を懲役3年6月及び罰金120万円に処し,刑法21条を適用して原審におけ
る未決勾留日数中90日を懲役刑に算入し,罰金を完納できないときは,同法18条によ
り金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,大阪地方裁判所堺支部で
押収保管中の透明ポリシートに包まれ更に茶色粘着テープで巻かれた大麻草1塊(同
庁平成12年押第97号の1)及び大阪地方検察庁堺支部で保管中の同様の大麻草11
塊(同庁平成12年領第501号の符1の2,3,符2の1ないし3,符4の1ないし3及び符
6の1ないし3)は,営利目的大麻輸入罪に係る大麻で,かつ禁制品輸入未遂罪に係る
貨物であって,犯人の所有するものであるから,大麻取締法24条の5第1項本文及び
関税法118条1項本文によりこれらを没収し,同裁判所押収保管中の航空券1冊(同庁
平成12年押第97号の2)は,営利目的大麻輸入罪により得た財産であるから,復路部
分は麻薬特例法11条1項1号によりこれを没収し,往路部分は既に費消して没収する
ことができないので,同法13条1項によりその価額4万9405円を被告人から追徴し,
原審及び当審における訴訟費用については,刑訴法181条1項ただし書を適用して被
告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田元彦 裁判官 柳澤 昇 裁判官 川本清巌)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛