弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人稲垣貞男の上告趣意第一点のうち、当裁判所判例を引用して判例違反をい
う点は、所論引用の判例は、実行行為に関与しない者については共同正犯の成立す
る余地がないという所論の趣旨の判断を示したものではないから、前提を欠き、大
審院判例を引用して判例違反をいう点は、所論引用の各判例は、いずれも事案を異
にし本件に適切でなく、その余の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張で
あつて、すべて刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 なお、原判決の認定したところによれば、被告人は、タイ国からの大麻密輸入を
計画したAからその実行担当者になつて欲しい旨頼まれるや、大麻を入手したい欲
求にかられ、執行猶予中の身であることを理由にこれを断つたものの、知人のBに
対し事情を明かして協力を求め、同人を自己の身代りとしてAに引き合わせるとと
もに、密輸入した大麻の一部をもらい受ける約束のもとにその資金の一部(金二〇
万円)をAに提供したというのであるから、これらの行為を通じ被告人が右A及び
Bらと本件大麻密輸入の謀議を遂げたと認めた原判断は、正当である。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官団藤重光の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるも
のである。
 裁判官団藤重光の意見は、次のとおりである。
 わたくしは、もともと共謀共同正犯の判例に対して強い否定的態度をとつていた
(団藤・刑法綱要総論・初版・三〇二頁以下)。しかし、社会事象の実態に即して
みるときは、実務が共謀共同正犯の考え方に固執していることにも、すくなくとも
一定の限度において、それなりの理由がある。一般的にいつて、法の根底にあつて
法を動かす力として働いている社会的因子は刑法の領域においても度外視すること
はできないのであり(団藤・法学入門一二九―一三八頁、二〇六頁参照)、共謀共
同正犯の判例に固執する実務的感覚がこのような社会事象の中に深く根ざしたもの
であるからには、従来の判例を単純に否定するだけで済むものではないであろう。
もちろん、罪刑法定主義の支配する刑法の領域においては、軽々に条文の解釈をゆ
るめることは許されるべくもないが、共同正犯についての刑法六〇条は、改めて考
えてみると、一定の限度において共謀共同正犯をみとめる解釈上の余地が充分にあ
るようにおもわれる。そうだとすれば、むしろ、共謀共同正犯を正当な限度におい
て是認するとともに、その適用が行きすぎにならないように引き締めて行くことこ
そが、われわれのとるべき途ではないかと考える。
 おもうに、正犯とは、基本的構成要件該当事実を実現した者である。これは、単
独正犯にも共同正犯にも同じように妥当する。ただ、単独正犯のばあいには、みず
から実行行為(基本的構成要件に該当し当の構成要件的特徴を示す行為)そのもの
を行つた者でなければ、この要件を満たすことはありえないが、共同正犯のばあい
には、そうでなくても基本的構成要件該当事実を実現した者といえるばあいがある。
すなわち、本人が共同者に実行行為をさせるについて自分の思うように行動させ本
人自身がその犯罪実現の主体となつたものといえるようなばあいには、利用された
共同者が実行行為者として正犯となるのはもちろんであるが、実行行為をさせた本
人も、基本的構成要件該当事実の共同実現者として、共同正犯となるものというべ
きである。わたくしが、「基本的構成要件該当事実について支配をもつた者―つま
り構成要件該当事実の実現についてみずから主となつた者―が正犯である」として
いるのは(団藤・刑法綱要総論・改訂版・三四七―三四八頁参照)、この趣旨にほ
かならない。以上は、刑法の理論体系の見地から考えて到達する結論であるが、そ
れは同時に、刑法六〇条の運用についての実務的要求の観点からみて、ほぼ必要に
して充分な限界線を画することになるものといつてよいのではないかとおもう。
 これを本件についてみると、まず、被告人はかなりの大麻吸引歴をもつていたと
ころがら(記録によれば、一年ばかり前から八〇回くらい大麻を吸引していたとい
うから、すでに大麻に対する依存性が生じていたのではないかと想像される。)、
大麻の密輸入を計画したAからその実行担当者になつてほしい旨頼まれると、みず
から大麻を入手したい欲求にかられて、本件犯行に及んだこと、また、大麻の一部
をもらい受ける約束のもとにその代金に見合う資金を提供していることがみとめら
れる。これは被告人にとつて本件犯罪が自分のための犯罪でもあつたことを示すも
のというべく、それだけでただちに正犯性を基礎づけるには足りないとはいえ、本
人がその犯罪実現の主体となつたものとみとめるための重要な指標のひとつになる
ものというべきである。そこで、さらに進んで、被告人が本件において果たした役
割について考察するのに、被告人はAから本件大麻密輸入の計画について実行の担
当を頼まれたが、自分は刑の執行猶予中の身であつたので、これはことわり、自分
の身代わりとしてBを出したというのである。ところで、Bは被告人よりも五、六
歳年少の青年で、被告人がかねてからサーフインに連れて行くなどして面倒をみて
やつていた者であるが、たまたま被告人とBは一緒にグアム島に旅行する計画を立
てていたところ台風のために中止になり、Bはせつかく旅券も入手していたことで
もあり外国旅行を切望していた。被告人はそこに目をつけて、「旅費なしでバンコ
ツクへ行ける話がある」といつてタイ国行きを二つ返事で応諾させたのであり、そ
の際、大麻の密輸入のこともいつて、自分の代わりに行くことを承知させたものと
認められる。このような経過でBは本件犯行計画に参加し大麻の密輸入を実行する
にいたつたのであつて、被告人は、単に本件犯行の共謀者の一員であるというのに
とどまらず、Aとともに、本件犯行計画においてBを自分の思うように行動させて
これに実行をさせたものと認めることができる。以上のような本件の事実関係を総
合して考えると、被告人は大麻密輸入罪の実現についてみずからもその主体になつ
たものとみるべきであり、私見においても、被告人は共同正犯の責任を免れないと
いうべきである。
  昭和五七年七月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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