弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中「当審における未決勾留日数中二八〇日を原判決の本刑に算入
する。」との部分を破棄する。
     原審における未決勾留日数八日を本刑に算入する。
     その余の部分に対する本件上告を棄却する。
         理    由
 検察官の上告趣意について
 記録によれば、被告人は、本件各事実につき勾留のまま大阪地方裁判所堺支部に
起訴され、昭和五六年九月一四日被告人を懲役一五年に処する等の旨の判決の言渡
しを受けたが、これに対し、被告人は同日、検察官は同月二二日、それぞれ控訴を
申し立てたところ、原審は、被告人を引き続き勾留のまま審理し、同五七年八月二
三日「本件各控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中二八〇日を原判決の本
刑に算入する。」との判決を言い渡したことが認められる。そして、原判決が右の
とおり原審における未決勾留日数中二八〇日を第一審判決の本刑に算入する旨言い
渡した点は、その理由中の記載に照らし、被告人の控訴申立後の未決勾留の日数の
一部を、刑法二一条に則り裁量により算入した趣旨であることが明らかである。
 しかし、本件のように、検察官も控訴を申し立てた場合には、その後の未決勾留
の日数は、刑訴法四九五条二項一号により、判決が確定して執行される際当然に全
部本刑に通算されるべきものであつて、控訴裁判所には右日数を本刑に算入するか
否かの裁量権が委ねられておらず、刑法二一条により判決においてその全部又は一
部を本刑に算入する旨の言渡しをすべきでないことは、所論引用の当裁判所昭和四
五年(あ)第一七七六号同四六年四月一五日第一小法廷判決・刑集二五巻三号四三
九頁及び昭和五二年(あ)第一九四四号同五三年五月二日第三小法廷判決・裁判集
刑事二一〇号一頁の判示するところである(最高裁昭和四八年(あ)第一一四五号
同年一一月二七日第三小法廷判決・裁判集刑事一九〇号七一五頁、同五一年(あ)
第七六一号同年一一月一八日第一小法廷判決・刑集三〇巻一〇号一九〇二頁、同五
二年(あ)第一四一四号同五三年四月一一日第三小法廷判決・裁判集刑事二〇九号
四八七頁参照)。従つて、原審における未決勾留日数のうち本刑に算入することを
許される日数の限度は、被告人の控訴申立の日である昭和五六年九月一四日から検
察官の控訴申立の日の前日である同年九月二一日までの八日間であるのに、原審が
右の限度を超えて原審における未決勾留日数中二八〇日を本刑に算入したのは、刑
法二一条の適用について右各判例と相反する判断をしたものといわなければならな
い。この点に関する論旨は理由があり、原判決の前記未決勾留日数を算入した部分
は破棄を免れない。
 よつて、刑訴法四〇五条二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により、原判決
中「当審における未決勾留日数中二八〇日を原判決の本刑に算入する。」との部分
を破棄し、刑法二一条により原審における未決勾留日数八日を本刑に算入すること
とし、原判決中その余の部分に対する上告は、上告趣意としてなんら主張がなく、
従つてその理由がないことに帰するから、刑訴法四一四条、三九六条によりこれを
棄却し、当審における訴訟費用は、同法一八一条一項但書により被告人に負担させ
ないこととして、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官横井大三の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官横井大三の反対意見は、次のとおりである。
 わたくしは、原判決全部を破棄したうえ、当審において、被告人の本件控訴を棄
却するとともに原審における未決勾留日数八日を本刑に算入する旨の判決をすべき
ものと考える。その理由は、当裁判所昭和五五年一月一一日第三小法廷判決(刑集
三四巻一号一頁)におけるわたくしの反対意見と同じである。
 検察官筧榮一 公判出席
  昭和五八年三月二二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    安   岡   滿   彦

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