弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成23年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第43011号不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日平成23年1月25日
判決
東京都世田谷区<以下略>
原告A
東京都多摩市<以下略>
原告B
原告ら訴訟代理人弁護士里見剛
東京都港区<以下略>
被告株式会社TBSテレビ
同訴訟代理人弁護士岡崎洋
同大橋正春
同前田俊房
同渡邊賢作
同村尾治亮
同新間祐一郎
同木嶋望
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告Aに対し,924万2100円及びうち別紙「利息一覧表」「原
告A分」欄記載の各金員に対する同「利息の起算日」欄記載の各日から各支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,396万0900円及びうち別紙「利息一覧表」「原
告B分」欄記載の各金員に対する同「利息の起算日」欄記載の各日から各支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告らが,同人らの作曲した楽曲が株式会社東京放送(以下「東京放
送」という。)の制作するテレビ番組のオープニングテーマとして長期間にわ
たって使用されたものの,一部の期間については原告らの許諾を得ずに上記使
用がされたと主張して,会社分割により東京放送の権利義務を包括的に承継し
た被告に対し,上記楽曲の使用料相当額の不当利得の返還及びこれに対する民
法704条所定の法定利息の支払を求めた事案である。
1争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は,当事者間に争いがな
い事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1)東京放送は,平成15年11月ころ,ケネックジャパン株式会社(以下「ケ
ネック社」という。)に対し,当時同局で放映されていた昼のドラマシリーズ
「愛の劇場」の新たなオープニングに利用されるCGアニメーション(以下「本
件オープニング映像」という。)の制作を依頼した。
「愛の劇場」は,昭和44年2月24日から平成21年3月27日までの間,
東京放送及びその系列局において,毎週月曜日から金曜日の午後1時から1時
半までの放送枠で放送されたテレビドラマシリーズの総称であり,共通したオ
ープニング映像が使用されていた。
(2)ケネック社は,平成15年12月ころ,原告Aに対し,本件オープニング
映像に付ける音楽の制作(作曲,演奏,録音物の制作)を依頼した。
原告A及び同原告から協力を求められた原告Bは,平成15年12月24日
ころまでに,全部で7秒程度の長さの下記楽曲(以下「本件楽曲」という。)
を制作し,同曲をケネック社に納品した。原告Aは,上記納品の際,ケネック
社から,「TBS愛の劇場,音楽制作費」の名目で,20万円の支払を受けた
(なお,上記納品の際,原告らが本件楽曲を「愛の劇場」のオープニングに使
用することを許諾していたか否かについては,後記のとおり当事者間に争いが
ある。)(甲2,3,36,38,乙1,2,原告A本人)。

楽曲名:「愛の劇場」オープニングテーマ
∼ホワイトチャイム∼
(3)東京放送は,平成16年1月から平成21年3月までの間,毎週月曜日か
ら金曜日まで,テレビドラマ「愛の劇場」のタイトルバック音楽として,本件
楽曲のテレビ放送を行い,また,本件楽曲を放送用に録音した(これらの利用
行為を併せて,以下「本件使用」という。)。
(4)原告らは,平成18年4月1日付けで,本件楽曲に係る著作権(以下「本
件著作権」という。)を,被告系列の音楽会社である株式会社日音(以下「日
音」という。)に譲渡し(以下「本件譲渡契約」という。),日音は,本件譲
渡契約(第6条)に基づき,本件著作権の管理を社団法人日本音楽著作権協会
(以下「JASRAC」という。)に委託した(甲2,3)。
その後,日音は,JASRACから,平成18年4月1日から平成20年3
月31日までの本件使用に係る本件楽曲の使用料を受領し,原告らに対し,本
件著作権譲渡の対価として,本件譲渡契約(第10条)に基づき上記金額の2
分の1を分配した(甲4∼11)。
(5)原告Aは,平成21年2月6日,被告に対し,平成16年1月1日から平成
18年3月31日までの本件使用に係る本件楽曲の著作権使用料が支払われ
ていないので,これを支払ってほしい旨を通知した。これに対し,被告は,平
成21年3月2日付けの内容証明郵便により,原告Aに対し,本件使用につい
て東京放送はケネック社を通して原告Aから許諾を得ており,原告Aに対して
使用料を支払う理由はない旨を回答した(甲12の1・2,甲13)。
(6)被告は,平成21年4月1日付け会社分割により,同日付けで,東京放送
から同社のテレビ放送事業に関する権利義務を包括的に承継した。
2争点
(1)原告らは,被告に対して本件使用を許諾したか(争点1)
(2)原告らの損失(争点2)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告らは,被告に対して本件使用を許諾したか)について
[被告の主張]
ア原告らは本件使用について許諾していること
(ア)本件楽曲は,「愛の劇場」シリーズのオープニング映像に組み込まれ
て放送されるために制作された委嘱著作物である。放送局が放送で使用す
るために楽曲等の制作を著作者に委嘱した場合,委嘱の目的に従って放送
されることは当然に予定されていることから,委嘱の際に支払われる委嘱
料・制作費以外に,委嘱の目的に従った放送について放送使用料が支払わ
れないことは,委嘱の趣旨から当然であり,委嘱著作物の制作に係る取引
全般における慣行である。
(イ)東京放送は,平成15年11月ころ,ケネック社に対し,愛の劇場の
オープニング映像(約10秒のもの)の制作を依頼した。ケネック社は,
原告Aに対し,上記映像に付ける音楽の制作(作曲,演奏,録音物の制作)
を発注し,その際,原告Aに対し,制作された音楽は平成16年1月から
愛の劇場のオープニング映像の音楽として使用される旨を説明した。
したがって,原告Aは,本件楽曲の制作目的である「愛の劇場」シリー
ズのオープニング映像において放送利用されること(本件使用)を了解し
て本件楽曲を制作したものであり,本件楽曲について本件使用がされるこ
とについて,特段条件を付けることなく許諾していたものである。本件使
用に係る本件楽曲の使用料は,ケネック社が原告Aに対して「音楽制作費」
の名目で支払った20万円の中に含まれている。
(ウ)原告らは,本件オープニング映像の放送開始後,本件使用がされてい
ることを認識しながら,平成20年12月までは,東京放送又は関連会社
に対して本件使用に係る対価の請求をしなかった。この事実は,原告らが
本件使用について許諾済みであり,その後に本件使用について許諾料が支
払われることは予定されていなかったことを裏付けるものである。
イ本件譲渡契約が締結された経緯
原告らが上記のとおり本件使用について許諾し,使用料についても受領し
ていたにもかかわらず,原告らと日音との間で本件譲渡契約が締結され,平
成18年4月1日以後の本件楽曲の放送利用(本件使用)について原告らが
JASRACから分配金を受領した経緯は,次のとおりである。
(ア)本件楽曲は,愛の劇場のオープニング映像のために制作された7秒程
度の音楽であり,本件使用以外の利用については,特段想定されていなか
った。
(イ)ところが,平成18年6月ころ,携帯電話の着信メロディー(着メロ)
の配信等を行っていた会社である株式会社フェイス・ワンダワークス(当
時の商号は「ギガネットワークス株式会社」)から,日音に対し,「本件
オープニング映像のBGMを着メロに使いたいのでJASRACに問い
合わせたが,JASRACに信託されていないとのことであった。日音は
何か知らないか」,との問合せがあった。
(ウ)日音は,上記問合せを受けて東京放送に問い合わせたところ,本件オ
ープニング映像は,本件楽曲も含めて東京放送がケネック社からいわゆる
買い取った作品であると言われた。その際,日音は,東京放送の担当者か
ら,本件楽曲の作曲者が日音に本件楽曲の著作権を譲渡し,日音が更にJ
ASRACに信託譲渡することで,本件楽曲の著作権使用料を本件楽曲の
作曲者が受けられるようにするよう助言された。
(エ)東京放送の担当者が上記助言をした理由は,次のとおりである。すな
わち,放送局がJASRACに対して支払う著作権使用料は,放送局の放
送収入から一定の算式に基づき算出された包括的な一定の額として定め
られており,放送局によるJASRACの管理楽曲の利用の多寡に関わら
ない。そのため,東京放送としては,本件楽曲の著作権がJASRACに
信託譲渡されたとしても,JASRACに支払うべき著作権使用料は増加
しないため不利益を被らないのに対し,上記信託譲渡により,東京放送の
100%子会社である日音は,JASRACから本件使用に係る分配金が
支払われることになることから,東京放送グループにとって利益となると
考えたものである。このようなスキームをとることは,東京放送の基本的
な方針となっていた。
[原告らの主張]
原告らは,本件楽曲について本件使用がされることを許諾したものの,この
許諾は,以下のとおり,「相当額の著作権使用料の支払」を停止条件とするも
のであった。
ア原告Aは,平成15年12月,ケネック社から,愛の劇場のタイトルバッ
ク音楽の制作を依頼されたが,その際,ケネック社に対し,「今回の曲は買
取りではないので,著作権使用料の話になったら別途TBSさんと話をさせ
てください。」と伝え,本件著作物の使用については東京放送による著作権
使用料の支払が前提となる旨,念を押し,ケネック社も異議を述べなかった。
なお,原告がケネック社から支払を受けた20万円は,別紙実費一覧表記
載のとおり,本件楽曲の制作に要した実費相当分であって,本件使用の対価
ではない。原告A(及び作曲,演奏部分に関しては原告B)は,ケネック社
との数回にわたる打合せ,依頼内容に沿った形での候補曲4曲の作曲及び演
奏,これらの候補曲の中からクライアントが選択した1曲についての,音
色・楽器違いの5バージョンの制作,当該5バージョンの中から,クライア
ントが選択した最終候補である2バージョンについてのマスタリング作業,
最終的に選択された1バージョンについてのMA作業(CG,音楽,ナレー
ションを合わせて編集する作業)への立会いという,複数の楽曲制作を含め
た相当量の創作的作業を行っている。
イ原告らは,本件楽曲の使用料の件についてはケネック社から東京放送に伝
えられていると考え,東京放送のような大企業が看板番組枠で実際に使用し
ている楽曲の使用料を支払わないということはよもやあり得ないと思い,ま
た,著作権使用料の話を急がせば,東京放送から本件楽曲の使用を打ち切ら
れてしまうのではないかとの心配もあって,東京放送に対して直接請求をす
ることはしなかった。
ウ東京放送が日音に対し原告らと本件譲渡契約を締結するよう助言したの
は,東京放送がケネック社から買い取ったと思っていた本件著作権に関し,
実は買取りの事実が存在しないことが判明したため,少なくとも,その後の
使用に関しては許諾を受けたものとする必要に迫られたためであり,いわば
苦肉の策として採られた対応である。
原告らは,本件譲渡契約によって平成18年4月以後の著作権使用料の支
払については処理されたため,時間はかかったものの,ケネック社において,
約束どおり著作権使用料の話を東京放送に通してくれたと思い,むしろ安心
した。また,原告らは,本件譲渡契約の際,東京放送,日音,ケネック社の
いずれからも,被告の主張する上記[被告の主張]イ(エ)のスキームについ
ては説明を受けておらず,東京放送において平成18年3月以前の著作権使
用料を支払う意思がないとの話をされたこともない。
エそこで,原告らは,その後も東京放送に対する直接請求を行わず,東京放
送からの著作権使用料の支払を待っていたところ,平成20年12月になっ
て,「愛の劇場」が平成21年3月をもって終了するという情報を得たため,
本件楽曲の放送打切りを心配する必要もなくなり,東京放送に対して初めて
直接の請求をした。
(2)争点2(原告らの損失)について
[原告らの主張]
ア東京放送は,本件譲渡契約後の本件使用に関してはJASRAC経由で原
告らに対し著作権使用料を支払っているものの,原告らが本件楽曲の著作権
者であった期間(平成16年1月から平成18年3月まで)における本件使
用に関しては,原告らに対して著作権使用料を支払っていない。
したがって,平成16年1月から平成18年3月までの間の本件使用に関
しては,「相当額の著作権使用料の支払」という停止条件が成就しておらず,
原告らによる本件使用の許諾は効力を生じていないので,東京放送は,上記
期間中の本件使用について法律上の原因なく本件楽曲の使用料相当額の利
益を受け,原告らは,上記利益と同額の損失を被った。
イ平成16年1月から平成18年3月までの本件使用による原告らの損失
については,本件譲渡契約後に東京放送がJASRAC経由で日音に支払っ
た著作権使用料を基準とすることが合理的である。
別紙著作権使用料一覧表によれば,東京放送がJASRAC経由で日音に
支払った著作権使用料は,1期(3か月)平均で146万7000円である。
したがって,平成16年1月から平成18年3月までの本件使用による原
告らの損失(被告の利得)は,1320万3000円(146万7000円
×9期分)と評価するのが相当である。
ウ原告らは,本件著作権を原告Aが7割,原告Bが3割の割合で共有してい
るから,原告Aの損失額は924万2100円(1320万3000円×7
0%)であり,原告Bの損失額は396万0900円(1320万3000
円×30%)である。
また,東京放送は,当初から,相当額の著作権使用料を支払わずに本件使
用を行っていることを認識していたものであるから,悪意の受益者(民法7
04条)に当たる。
エよって,原告らは,被告に対し,上記ウの損失額及びこれに対する各月ご
との法定利息として,前記「第1請求」記載の金員の支払を求める。
オ仮に,原告らが,JASRACに本件著作権の管理を委託せずに,東京放
送との間で本件楽曲の使用許諾契約を直接締結した場合でも,JASRAC
の使用料規程は音楽著作物利用の対価額の事実上の基準として機能してい
ることから,同規程を基準として使用料を決定することが合理的である。そ
の場合,本件楽曲の使用料は,次のとおりとなる。
放送:(1回64,000円)×587日(平成16年1月1日から平成18年3月
31日までの期間における月曜日から金曜日までの日数の合計)=3
7,568,000(円)
放送用録音:(1回6,400円)×587日=3,756,800(円)
原告らは,本件訴訟において,上記使用料の合計額({3756万800
0円+375万6800円}×1.05(消費税)=4339万1040円)
の一部として,前記「第1請求」記載の金員を請求する。
[被告の主張]
ア原告らの主張を否認ないし争う。
イJASRACの分配基準は,楽曲の長短を問わず3分以下を一律としてい
たものであり,これを本件使用についての基準とすることは合理性に乏しい。
また,上記分配額は,JASRACが社団法人日本民間放送連盟に加盟する
地上波テレビ放送局の全局から徴収した包括著作権使用料の合計額を基に,
JASRACが定める「著作物使用料分配規程」に従って,JASRACが
「愛の劇場」に関する分配額として算定したものであり,東京放送がJAS
RACに支払った本件使用に関する著作権使用料ではない。この分配額には,
東京放送による放送分だけでなく,東京放送以外の系列放送局が各地域で放
送したことに係る分配額も含まれている。
ウJASRACの使用料規程が音楽著作物利用の対価額の事実上の基準と
して機能しているとの事実はない。
エ原告らは,平成16年1月に本件使用が始まったにもかかわらず,原告ら
から日音に対する本件著作権の譲渡及び日音からJASRACに対する本
件著作権の信託譲渡が平成18年6月まで行われなかった理由は,原告らが,
東京放送や日音に対して本件使用に関する著作権使用料の支払を請求する
と東京放送が本件楽曲の利用を打ち切るかも知れないと考え,東京放送や日
音に直接請求をしなかったからであると主張する。
しかしながら,仮に,原告らが東京放送又は日音に対して著作権使用料を
請求していれば,東京放送は,前記(1)[被告の主張]イ(ウ)及び(エ)のと
おり,日音を通じてJASRACに信託譲渡するよう,原告らに対して助言
をしていたことは確実である。
したがって,原告らは,自ら行動すれば容易にJASRACから著作権使
用料の支払を受けることが可能であったものであり,支払を受けられなかっ
たのは専ら原告ら自身の選択によるものであるから,不当利得制度の趣旨で
ある公平の見地に鑑み,原告らに損失があるとはいえない。
また,JASRACから原告らに対して著作権使用料が支払われた場合で
も支払われなかった場合でも,東京放送がJASRACに支払った著作権使
用料は同額であるから,平成16年1月から平成18年3月までの本件使用
に関して東京放送に利得はない。
第3当裁判所の判断
1争点1(原告らは,被告に対して本件使用を許諾したか)について
(1)認定事実
ア前記争いのない事実等のほか,証拠(甲2∼15,36,38,乙2,
4∼8,証人C,D,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実
が認められる。
(ア)本件楽曲が制作されるまでの経緯
a東京放送は,平成15年11月ころ,ケネック社に対し,当時同局
で放映されていた昼のドラマシリーズ「愛の劇場」の新たなオープニ
ングに利用される10秒程度のCGアニメーション(本件オープニン
グ映像)の制作(この中には,ケネック社の責任において,東京放送
が本件オープニング映像を「愛の劇場」のオープニング映像として利
用することが可能となるよう権利処理するということも含まれる。)
を,250万円の報酬で依頼し,ケネック社は,これを承諾した。な
お,ケネック社は,テレビドラマや音楽番組等の放送番組に用いられ
るタイトルバックの映像制作,番組のオープニング映像の制作等を業
務とし,東京放送等のテレビ局とも取引のある会社であった。
bケネック社は,上記依頼を受けて,企画の立案,演出及び制作管理
については同社において行い,キャラクター及び映像の実制作並びに
音楽の実制作は外部に発注することとした。
cそこで,ケネック社は,平成15年12月12日ころ,同社の役員
であるCと旧知の原告Aに対し,本件オープニング映像のタイトルバ
ックに使用する音楽である旨を説明した上,この音楽の制作を依頼し
た。なお,ケネック社は,原告Aに上記依頼をした当時,原告Bとの
面識はなかった。
d原告Aは,平成15年12月24日ころまでに,7秒ほどの長さの
本件楽曲を制作し,これをケネック社に納品して,同社から,「TB
S愛の劇場,音楽制作費」として20万円の支払を受けた。また,原
告Aは,本件楽曲を制作するに当たり,原告Bの協力を得た。
(イ)本件使用の開始
本件楽曲は,平成16年1月から,「愛の劇場」のオープニング映像
(本件オープニング映像)のタイトルバック用音楽として使用され,東
京放送及びその系列局において放映された。原告Aは,本件楽曲が本件
オープニング映像に使用されていることを認識していたものの,東京放
送に対して本件使用に関する本件著作権の使用料の支払を求めることは
なかった。
(ウ)本件譲渡契約が締結された経緯
a携帯電話の着信メロディー(着メロ)の配信等の業務を行っていた
会社である株式会社フェイス・ワンダワークス(当時の商号は「ギガ
ネットワークス株式会社」)は,平成18年6月ころ,本件オープニ
ング映像のBGM(本件楽曲)を携帯電話の着メロに使用したいと考
え,JASRACに問い合わせたところ,JASRACは本件楽曲の
信託譲渡を受けていないとの回答を受けたため,東京放送系列の音楽
出版社であり,東京放送の100%子会社である日音に対し,本件楽
曲について何か知らないかと照会した。
b日音は,上記照会を受けて,本件楽曲につき東京放送に問い合わせ
たところ,本件オープニング映像は,本件楽曲も含めて東京放送がケ
ネック社からいわゆる買い取った作品であるとの説明を受けるととも
に,東京放送の担当者から,本件楽曲の作曲者が日音に本件楽曲の著
作権を譲渡し,日音が更にJASRACに信託譲渡することで,本件
楽曲の著作権使用料を本件楽曲の作曲者が受けられるようにするよう
助言された。
c東京放送の担当者が上記助言をしたのは,放送局が放送における著
作物の利用に関してJASRACに支払う著作権使用料は,JASR
ACと放送局との間の協定により,放送局の放送事業収入に所定の使
用料率を乗じるなどして算定した金額とするものとし,これをJAS
RACの管理する著作物についての包括的な利用許諾料とすることが
定められていたことから(乙4∼6),本件楽曲の著作権がJASR
ACに信託譲渡されたとしても,東京放送がJASRACに支払うべ
き著作権使用料は増加しない一方,上記信託譲渡により,東京放送の
グループ会社である日音は,JASRACから本件使用に係る分配金
を受けることができることになるため,東京放送グループにとって利
益となると考えたからである。
また,東京放送は,ケネック社にも上記案を説明し,同社に対し,
同案は原告Aの利益にも適うものなので,ケネック社から原告Aに連
絡し,日音に本件著作権を譲渡するよう働きかけてほしいと頼んだ。
d東京放送から上記助言を受けた日音は,同助言に沿って原告らとの
間で本件著作権を原告らから日音に譲渡する譲渡契約を締結すること
とし,平成18年4月1日付けで,以下の点等を内容とする著作権譲
渡契約(本件譲渡契約)を締結した(甲2,3)。
①原告Aの著作権を70%とし,原告Bの著作権を30%とする。
②契約期間を平成18年4月1日から本件楽曲の著作権の存続期間
中とする。
③日音は,本件楽曲の著作権の管理をJASRACに委託する。
e日音は,本件譲渡契約(第6条)に基づき,本件著作権をJASR
ACに対して信託譲渡した。その後,日音は,平成18年4月1日以
後の本件使用に関する使用料について,JASRACから,JASR
ACが社団法人日本民間放送連盟に加盟する地上波テレビ放送局の全
局から徴収した包括著作権使用料の中からJASRACの「著作物使
用料分配規程」に基づき本件使用に関する分配額として算定された金
額の分配を受け,これを本件譲渡契約(第10条)に基づき原告らに
対して分配した。
(エ)原告Aから東京放送に対する本件使用の対価の請求
原告Aは,平成20年12月ころ,「愛の劇場」の放映が平成21年
3月末をもって終了することを知った。
原告Aは,平成21年2月6日,被告に対し,平成16年1月1日か
ら平成18年3月31日までの本件使用に係る本件楽曲の著作権使用料
が支払われていないので,これを支払ってほしい旨を通知した。これに
対し,被告は,平成21年3月2日付けの内容証明郵便により,原告A
に対し,本件使用について東京放送はケネック社を通して原告Aから許
諾を得ており,原告Aに対して使用料を支払う理由はない旨を回答した。
イ原告らは,本件楽曲の制作及び納品に当たって,ケネック社に対し,本
件楽曲は買取りではなく,「愛の劇場」のオープニング映像に使用する場
合の使用料については別途東京放送と交渉する意向である旨を伝えていた
と主張し,原告Aの供述(同人の陳述書(甲38)を含む。)中にはこれ
に沿う部分があるが,これを裏付けるに足りる客観的証拠はなく,前掲各
証拠に照らし採用することができない。
(2)上記事実関係によれば,①東京放送は,ケネック社に対して本件オープ
ニング映像の制作を依頼するに当たって,同映像に係る著作権処理をすべて
済ませた物を納品するよう求め,ケネック社は,これを承諾して本件オープ
ニング映像を制作し,東京放送に納品していること,②原告らは,本件オ
ープニング映像用に本件楽曲を制作して同曲をケネック社に納品し,本件楽
曲が平成16年1月から「愛の劇場」のオープニング映像用のタイトルバッ
クとして使用されていることを認識していたにもかかわらず,平成20年1
2月までの約5年間,東京放送に対して本件楽曲の使用料を請求していない
こと,③本件楽曲は,全体で7秒程度のごく短いものであり,ケネック社
から原告らに支払われた20万円という金額は,「愛の劇場」のオープニン
グ映像としての使用料を含むものであったとしても,特段不自然とはいえな
いこと,などが認められ,これらの事実に鑑みると,原告らは(原告Bにつ
いては原告Aを通して),ケネック社又は東京放送に対し,金20万円を対
価として,本件楽曲を本件オープニング映像に使用することを許諾したもの
と認めるのが相当であり,許諾に当たり,原告らの主張するような停止条件
が付されていたと認めることはできない。
また,原告らは,平成18年4月1日付けで日音との間で本件譲渡契約を
締結し,同日以後の本件使用に係る使用料については,日音から本件著作権
の信託譲渡を受けたJASRACを通じて分配金を受け取っていることが認
められるが,本件譲渡契約の締結された経緯については上記(1)ア(ウ)に認定の
とおりであり,東京放送が本件使用に関して原告らに使用料の支払義務があ
ることを前提としたものではなかったものであるということができるから,
上記本件譲渡契約の締結等の事実は,上記認定を左右するものではない。
2よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも
理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官柵木澄子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛