弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成26年5月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第18288号特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論の終結の日平成26年4月8日
判決
東京都品川区<以下略>
原告平田機工株式会社
同訴訟代理人弁護士永島孝明
安國忠彦
明石幸二郎
朝吹英太
安友雄一郎
同補佐人弁理士若山俊輔
磯田志郎
久米川正光
長野県諏訪郡<以下略>
被告日本電産サンキョー株式会社
同訴訟代理人弁護士新保克芳
高崎仁
近藤元樹
洞敬
井上彰
酒匂禎裕
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録記載の各製品を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,
輸出若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しの
ための展示を含む。)をしてはならない。
2被告は,その占有に係る別紙物件目録記載の各製品及びその半製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,多関節ロボット装置に関する特許権を有する原告が,被告に対し,被
告が製造,販売するガラス基板搬送用ロボットは原告の特許権の特許発明の技術
的範囲に属すると主張して,特許法100条に基づき,ガラス基板搬送用ロボッ
トの生産,使用,譲渡等の差止め並びにガラス基板搬送用ロボット及びその半製
品の廃棄を求め,原告の特許権の侵害により損害を受けた,又は,原告に無断で
原告の特許権を実施して法律上の原因なく20億円を下らない額の特許発明の実
施料の支払をせずに利得し,そのために原告に損失を及ぼしたと主張して,民法
709条又は703条に基づき,主位的に,被告が特許権侵害行為により受けた
利益相当額120億円及び弁護士費用相当額1000万円の合計額のうち1億円
又は被告が受けた特許発明の実施料相当額の利益20億円のうち1億円並びにこ
れに対する不法行為の後であり,訴状送達により支払を催告した日の翌日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,予備的に,特許発明の実
施料相当額20億円及び弁護士費用相当額1000万円の合計額のうち1億円又
は被告が受けた特許発明の実施料相当額の利益20億円のうち1億円並びにこれ
に対する上記と同様の遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いがない。)
原告の特許権
ア原告は,発明の名称を「多関節ロボット装置」とする特許権(特許第3
488393号。以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」と
いう。)を有している。
イ本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)
の特許請求の範囲の請求項1の記載は,本判決添付の特許公報の該当項記
載のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
被告の行為
被告は,別紙物件目録記載1ないし8のガラス基板搬送用ロボット(以下,
併せて「被告各製品」という。)を製造,販売している。
被告各製品における本件発明の構成要件充足性
ア本件発明の構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれ
の符号に従い「構成要件A-1」のようにいう。)。
A-1一方の端部に設けられた第1のハンドを待機位置と動作位置との
間で平行移動する平行移動機構を有する第1の多関節アーム手段と,
A-2一方の端部に設けられた第2のハンドを待機位置と動作位置との
間で平行移動する平行移動機構を有する第2の多関節アーム手段とを,
A-3主基部に対して回動駆動される回動基部に配設し,
A-4基板を含む搬送物を前記第1のハンドと前記第2のハンドにより
所定装置に対して移載するための
A-5多関節ロボット装置において,
B-1前記回動基部が,
B-2上基部と,
B-3前記上基部と対向して配置された下基部と,
B-4前記上基部と前記下基部とに連結され,前記回動基部の前記主基
部に対する回動中心線からずれて立設された支柱部と,
B-5からコ型に形成されたアーム支持部を有し,
C前記第1の多関節アーム手段と前記第2の多関節アーム手段とが
上下方向に重ねて配設されるように,前記第1の多関節アーム手段
の他方の端部を前記上基部の下面に取り付けると共に,前記第2の
多関節アーム手段の他方の端部を前記下基部の上面に取り付けた
Dことを特徴とする多関節ロボット装置。
イ被告各製品は,いずれも構成要件A-1,A-2,A-4,A-5及び
Dを充足する。
2争点
被告各製品の構成(争点1)
被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点2)
本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか否か
(争点3)
3争点に関する当事者の主張
争点1(被告各製品の構成)について
(原告)
被告各製品の構成は,次のとおりである(以下,それぞれの符号に従い
「構成a-1」のようにいう。なお,被告各製品の例として下図にSR89
seriesの形態を示す。)。
a-1一方の端部に設けられた第1ハンドを待機位置と動作位置との間で
平行移動する平行移動機構を有する第1多関節アーム部と,
a-2一方の端部に設けられた第2ハンドを待機位置と動作位置との間で
平行移動する平行移動機構を有する第2多関節アーム部とを,
a-3ベース部に対して回動駆動される部分(台座,コラム,第1の支持
部材及び第2の支持部材)に配設し,
a-4ガラス基板を第1ハンドと第2ハンドにより所定位置に対して移載
するための
a-5ガラス基板搬送用ロボットにおいて,
b-1ベース部に対して回動する部分(台座,コラム,第1の支持部材及
び第2の支持部材)が,
b-2第1の支持部材と,
b-3第1の支持部材と対向して配置された第2の支持部材と,
b-4ベース部に対する回動中心からずれて設けられた第1の支持部材及
び第2の支持部材を連結する端部と,
b-5から形成された略コの字状の支持部を有し,
c第1多関節アーム部と第2多関節アーム部とが上下方向に重ねて配
設されるように,第1多関節アーム部の他方の端部を第1の支持部材
の下面に取り付けると共に,第2多関節アーム部の他方の端部を第2
の支持部材の上面に取り付けた
dガラス基板搬送用ロボット。
ここで,「第1の支持部材」は上図の「上側支持部」,「第2の支持部材」
は上図の「下側支持部」をそれぞれ指し,「台座」及び「コラム」はいずれ
も後記(被告)欄に記載の図に示す同名の箇所を指す。
なお,被告は,構成b-4について否認するが,構成b-4の「第1の支
持部材及び第2の支持部材を連結する端部」を「第1の支持部材及び第2の
支持部材を連結する端部及び連結部材(LMガイド及びカバー)」と解して
も結論に影響しない。
(被告)
被告各製品においては,下図のとおり,本件発明の「主基部」に該当する
「ベース部」に対し,「回動中心」を軸として回動する「台座」が設けられ,
この「台座」の「回動中心」とは別の位置に,別体のアームの上下移動機構
である「コラム」が設けられ,この「コラム」に,別体である「第1の支持
部材」及び「第2の支持部材」によって2つのアームの基端の関節部が取り
付けられ,2つのアームが一体的に上下移動可能となっているが,被告各製
品の第1の支持部材と第2の支持部材は端部で連結していない。
したがって,被告各製品には「ベース部に対する回動中心からずれて設け
られた第1の支持部材及び第2の支持部材を連結する端部」(b-4)が存
在しない。また,「から形成された略コの字状の支持部を有し」(b-5)
という構成も有しない。
争点2(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か)について
(原告)
ア被告各製品の構成と本件発明の構成要件とを対比すると,「第1ハンド」
は「第1のハンド」に,「第1多関節アーム部」は「第1の多関節アーム
手段」に,「第2ハンド」は「第2のハンド」に,「第2多関節アーム部」
は「第2の多関節アーム手段」に,「ベース部」は「主基部」に,「回動
駆動される部分(台座,コラム,第1の支持部材及び第2の支持部材)」
は「回動基部」に,「ガラス基板」は「基板を含む搬送物」に,「ガラス
基板搬送用ロボット」は「多関節ロボット装置」に,「第1の支持部材」
は「上基部」に,「第2の支持部材」は「下基部」に,「第1の支持部材
及び第2の支持部材を連結する端部」又は「第1の支持部材及び第2の支
持部材を連結する端部及び連結部材(LMガイド及びカバー)」は「支柱
部」に,「支持部」は「アーム支持部」にそれぞれ対応する。
被告各製品の「台座,コラム,第1の支持部材及び第2の支持部材」は,
回動中心を軸として全体が一体としてベース部に対して回動可能になって
いるから,構成要件A-3の「主基部に対して回動駆動される回動基部」
に相当し,被告各製品は,構成要件A-3を充足する。
被告各製品の第1の支持部材及び第2の支持部材は一体としてコラムの
側面に取り付けられており,「第1の支持部材及び第2の支持部材を連結
する端部」又は「第1の支持部材及び第2の支持部材を連結する端部及び
連結部材(LMガイド及びカバー)」はベース部に対する回動中心からず
れているので,構成要件B-4の「前記上基部と前記下基部とに連結され,
前記回動基部の前記主基部に対する回動中心線からずれて立設された支柱
部」に相当し,また,これは構成要件B-5の「コ型に形成されたアーム
支持部」に相当するから,被告各製品は,構成要件B-1ないしB-5を
充足する。
被告各製品は,第1多関節アーム部と第2多関節アーム部とが上下方向
に重ねて配設されるように,第1多関節アーム部の他方の端部を第1の支
持部材の下面に取り付けると共に,第2多関節アーム部の他方の端部を第
2の支持部材の上面に取り付けているから,構成要件Cを充足する。
したがって,被告各製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
イ構成要件A-3に「主基部に対して回動駆動される回動基部に配設し」
とあるとおり,本件発明の回動基部は,主基部に対して回動駆動されるも
のを指すが,アーム支持部は,構成要件B-1ないしB-5及びCにおい
て規定されているとおり,回動基部の一部であって,上基部と,上基部と
対向して配置された下基部と,上基部と下基部とに連結され,回動基部の
主基部に対する回動中心線からずれて立設された支柱部からコ型に形成さ
れるものであり,上基部の下面に第1の多関節アーム手段の他方の端部が
取り付けられ,下基部の上面に第2の多関節アーム手段の他方の端部が取
り付けられるものを指す。
アーム支持部は,回動基部の一部であるから必然的に主基部に対して回
動駆動されるので,この点において回動基部とアーム支持部との作用は共
通であるが,アーム支持部はコ型の形状であって,上基部及び下基部にお
いて第1及び第2の多関節アーム手段を支持するものであるから,回動基
部とは異なる機能を実現するための構成であり,回動基部と同一視するこ
とはできない。そもそも,本件明細書の発明の詳細な説明に,「回動基部
全体が一体的にコの字型に形成された」との記載はなく,特許請求の範囲
においてもその旨の記載はない。
本件特許出願の願書に添付した図面(以下「本件図面」という。)の
【図2】を見れば明らかなように,回動基部全体の構造は,上辺に比べて
下辺が長く,コの字型ではないので,回動基部全体がコ型に形成された構
成ではない。【図2】においては,回動基部の中にコの字型の部分が存在
し,その部分において,上基部の下面に第1の多関節アーム手段の他方の
端部が取り付けられ,下基部の上面に第2の多関節アーム手段の他方の端
部が取り付けられた構成が開示されている。
したがって,被告が主張するように,回動基部を,それ自体が一体としてコ型
に形成されたアーム支持部のことであるなどと限定して解釈すべき理由はない。
ウ本件図面の【図1】には,下図のとおり,回動基部7が,第1の多関節
アーム手段と第2の多関節アーム手段とを支持する青色部分を備えると共
に,この青色部分の下に,主基部1に対する回転中心から水平方向に延び
る赤色部分を備えていることが明示されている。
赤色部分は,一端に主基部1の回転軸が配置され,他端側に多関節アー
ム手段を支持する青色部分が配置されており,モータ2によって主基部に
第1の多関節アーム手段
第2の多関節アーム手段
回動基部7
本件特許図1
対して回転駆動される。この赤色部分が主基部1に対して回転駆動すると,
当然,他端側に配置されたコ型に形成された青い部分も回転駆動するので
ある。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】には,回動基
部7が垂直面に投影したときに「コ」の字状の形状を備えていること及び
「コ」の字状の形状の部分において,第1アーム14と第1アーム114
を支持する旨の記載があり,段落【0013】には「減速機6を底面にお
いて図示のように固定した回動基部7を基台1に対して図1の矢印K方向
に回動するように構成されている。」との記載がある。回動基部7のうち,
底面が減速機6に固定されている部分は,本件図面の【図1】において赤
色部分として示される部分であるから,本件明細書及び本件図面の記載に
よれば,当業者は,垂直面に投影した回動基部7として,下図に示すよう
な構造を把握することができる。
このように,本件図面の【図1】及び【図2】に示された回動基部は,
その全体がコの字型に一体形成されたものではなく,回動基部の一部にコ
型に形成された部分(青色部分)を有する構造であり,本件発明は,回動
基部7のうち,コ型に形成された青色部分について,第1の多関節アーム
手段及び第2の多関節アーム手段を支持することからアーム支持部と称し
ている。
エ本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】及び【0025】に
記載のある「剛性を低下させず」との本件発明の効果は,段落【0006】
に記載された従来技術の「2本のオフセットアームが必要となるのでハン
ドの剛性が弱くなる問題」を解決したことにより得られる効果である。ま
た,多関節アームを旋回軸に直結した場合には剛性が問題となるが,本件
発明は,これについても回動基部を旋回軸とは別途設けることにより解決
している。このように,剛性の低下の防止という本件発明の効果は,回動
基部自体を一体化,固定化したコの字型のものとしたことにより得られる
効果ではない。
段落【0007】及び【0025】に記載のある「ハンドの平行移動軌
跡を設置面から低く設定する」という効果についても,段落【0006】
及び【0022】の記載を素直に解釈すれば,本件発明は,従来必要とさ
れていたオフセットアーム等のハンド取付け用の部品が不要となることに
よって,下段側の基板下面までの高さを低くすることができるという効果
が得られるものであると理解される。
段落【0019】,【0022】及び【0024】の記載によれば,本
件発明は,アーム支持部をコ型に形成し,第1の多関節アーム手段と,第
2の多関節アーム手段とが上下方向に重ねて配設されるように,上基部の
下面に第1の多関節アーム手段の他方の端部を取り付け,下基部の上面に
第2の多関節アーム手段の他方の端部を取り付けることによって,省スペ
ース化を実現することができ,従来のオフセットアーム等のハンド取付け
用の部品を不要として高さを低くすることができ,さらには,ハンド21
及び121を直に各アームに付けることができることからハンドの剛性を
アップすることができたことを把握することができる。このような本件発
明のアーム支持部の機能,効果からすると,第1の多関節アーム手段と,
第2の多関節アーム手段とが上下方向に重ねて配設されるようにするため
に,上辺と下辺の長さがほぼ同じコ型のアーム支持部を採用したものであ
るから,本件発明では,少なくともアーム支持部が上基部と下基部と支柱
部とからコ型に形成されたものであれば足り,回動基部全体を一体的にコ
型に形成する必要はない。
(被告)
ア被告各製品の「回動駆動される部分(台座,コラム,第1の支持部材及
び第2の支持部材)」は,構成要件A-3の「回動基部」に当たらず,被
告各製品には「回動基部」が存在しないから,被告各製品は,構成要件A
-3,B-1ないしB-5を充足しない。原告は,被告各製品における
「第1の支持部材と第2の支持部材を連結する端部」が,本件発明の「支
柱部」に相当すると主張するが,被告各製品の第1の支持部材と第2の支
持部材は相互に直接連結しているわけではなく,互いに直接連結される端
部が存在するものでもないから,被告各製品は,この点からも構成要件B
-4及びB-5を充足しない。
また,被告各製品は,「前記第1の多関節アーム手段と前記第2の多関
節アーム手段とが上下方向に重ねて配設される」が,これら多関節アーム
手段の端部を「(回動基部の)上基部の下面」あるいは「(回動基部の)
下基部の上面」に取り付けるものではないから,構成要件Cを充足しない。
イ本件発明における「回動基部」とは,それ自体が一体としてコ型に形
成されたアーム支持部のことをいう。このことは,本件明細書の発明の
詳細な説明の段落【0014】に回動基部全体をコの字型にすることが
記載され,本件図面の【図2】に,回動基部は,その全体がコの字型に
一体形成されたもののみが記載されていること,本件明細書上,支柱部
については何らの記載や示唆もなく,段落【0019】に一体形成され
たコの字型の回動基部を前提として,その上端天井部と下端側にアーム
の端部を支持することが示されていること,また,原告がした補正の経
緯から,明らかである。なお,本件図面の【図1】に示される回動基部
7を,原告主張のような2つの部材(青色部分と赤色部分)に分けるこ
とはできないのであり,【図1】中の原告指摘の箇所は,作図上のミス
である。
被告各製品は,「回動基部」全体をコの字型に一体に形成したもので
はなく,「台座」,アームの上下移動機構である「コラム」及び「コラ
ム」に取り付けられこれを自由に上下移動する「第1の支持部材」と
「第2の支持部材」によって構成されているものであるから,これらは
本件発明の「回動基部」に該当しない。
ウ本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】及び【0025】の
記載内容からすれば,本件発明は,剛性の低下がなく,ハンドの平行移動
軌跡を設置面から低く設定することを可能としたものである。
ここでの剛性の問題とは,段落【0006】に「2本のオフセットアー
ムが必要となるのでハンドの剛性が弱くなる問題がある」と記載され,段
落【0019】に「回動基部を「コ」の字型にすることで,・・・また剛
性の高いアーム手段を支えることができる」と記載されていること等に照
らすと,旋回軸にアームを直接取り付けることによって個別可動機構や旋
回軸そのものが破損するなどの問題であり,これをコ型に一体形成された
回動基部を旋回軸に取り付けることによって解決したのが本件発明である。
一方,被告各製品では,コラムと移動機構に剛性を持たせるという本件発
明とは別の方法でこの問題を克服しており,回動基部自体を一体化,固定
化したコの字型のものとすることで剛性の問題に対処しているのではない
から,剛性の低下防止という本件発明の効果を利用していない。
また,ハンドの平行移動軌跡を設置面から低く設定することについては,
段落【0022】及び【0023】の記載内容からすれば,単に多関節ア
ームを左右に併設する従来技術と比べて低ければよいというのではなく,
本件発明の構成によって下段側の基板下面までの高さが低くなり,低い位
置において基板の出し入れを行うことを作用効果とするものである。本件
発明においては,これを得るために,主基部に直接配置したコの字型の回
動基部の下基部にアームを取り付け,そのアームにハンドを直接取り付け
る構成とすることによって,下段側の基板下面までの高さを低くする構成
としている。一方,被告各製品においては,ベース部に対して回動駆動さ
れるのは,台座,コラム,第1の支持部材及び第2の支持部材であるが,
ベース部と下側のアームが取り付けられる第2の支持部材との間には,コ
ラムを支えるため剛性の高い厚みのある台座が介在し,従来技術に比して
台座の厚みの分だけかえって高くなっているから,オフセットアームをな
くしても,下段側の基板下面の高さを低くするという本件発明の効果は得
られない。
争点3(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められ
るか否か)について
(被告)
ア進歩性の欠如
本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である公開特許公報(特開
平4-87785号。以下「引用例」という。)には,次の発明が記載
されている。
「第1アームと第2アーム,第2アームとハンドが回転可能に回動軸
で連結されたアーム部を2組備えたダブルアーム型ロボットにおいて,
前記2組のアーム部が互いに上下に異なる高さで搬送チャンバの上板及
び下板にそれぞれ備えられ,これら上板と下板は,搬送チャンバの壁で
連結され,前記ハンド部は,前記アーム部を伸ばしきった伸長位置と前
記アーム部を折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を平行移
動するようになされ,前記アーム部の駆動部は前記2組のアーム部を挟
んで配置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮
み位置との間を移動するものであるダブルアーム型ロボット。」
引用例に記載された発明と本件発明は,以下の点で一致する。
一方の端部に設けられた第1のハンドをアームの待機位置と動作位置
との間で平行移動する平行移動機構を有する第1の多関節アーム手段と,
一方の端部に設けられた第2のハンドを待機位置と動作位置との間で平
行移動する平行移動機構を有する第2の多関節アーム手段とを,上基部
と下基部に配設し,基板を含む搬送物を前記第1のハンドと前記第2の
ハンドにより所定装置に対して移載するための多関節ロボット装置にお
いて,前記第1の多関節アーム手段と前記第2の多関節アーム手段とが
上下方向に重ねて配設されるように,前記第1の多関節アーム手段の他
方の端部を前記上基部の下面に取り付けると共に,前記第2の多関節ア
ーム手段の他方の端部を前記下基部の上面に取り付けたことを特徴とす
る多関節ロボット装置である点。
引用例に記載された発明と本件発明は,以下の点で相違する。
引用例に記載された発明においては,主基部に対して回動駆動される
「コ」の字型に一体形成された回動基部が存在せず,また,「コ」の字
の縦線部(支柱部)が回動基部の主基部に対する回動中心線からずれて
立設されるものではない点。
基板等を搬送するロボット装置において,主基部に対して回転駆動す
る回動基部を設けること,その回転軸とずれた位置に多関節アームの支
持部材を取り付ける支柱等を配置すること,その支持部材の上下の空間
に多関節アームを引き込むことは,本件特許出願当時,当業者に周知の
技術であり,本件発明は,引用例に記載された発明にこれら周知の技術
を組み合わせることで,当業者が容易に想到することができた。
イ新規事項の追加
原告は,本件特許出願に対する拒絶理由通知に対応して,特許請求の範
囲の請求項1について「前記回動基部が,・・・コ型に形成されたアーム
支持部を有し」などと改める補正(以下「本件補正」という。)をし,こ
れによって特許査定を受けたが,本件発明の回動基部がコの字型に一体形
成されたアーム支持部自体でなくてもよいというのであれば,本件補正は,
本件特許出願当初の明細書や図面に記載のない事項を付加し,新規事項を
追加するものである。
(原告)
ア進歩性の欠如の主張について
引用例に記載された発明は,正しくは次のとおりのものである。
「第1の駆動部30の一側面30aに,第1アーム50,第2アーム
51及びハンド34が回転可能に回動軸で連結され,待機位置と動作位
置との間で平行移動する第1のアーム部31を備えた第1のシングルア
ーム型ロボットと,
第2の駆動部30の一側面30aに,第1アーム50,第2アーム5
1及びハンド34が回転可能に回動軸で連結され,待機位置と動作位置
との間で平行移動する第2のアーム部31を備えた第2のシングルアー
ム型ロボットとを備え,
ハンド34に基板を載せて移動させるための搬送装置において,
第1の駆動部30が,搬送チャンバ10の上壁に,第1駆動軸43の
軸中心を搬送チャンバ10の中心線に一致させて取り付けられ,
第2の駆動部30が,搬送チャンバ10の下壁に,第1駆動軸43の
軸中心を搬送チャンバ10の中心線に一致させて取り付けられ,
第1の駆動部30の一側面30aと,第2の駆動部30の一側面30
aとが相対向させるように上下に配置され,第1の駆動部30の第1駆
動軸43の先端に第1のアーム部31の第1アーム50の他端が固定さ
れ,第2の駆動部30の第1駆動軸43の先端に第2のアーム部31の
第1アーム50の他端が固定されている搬送装置」
本件発明と引用例に記載された発明は,次の点で一致する。
上下に向かい合った平行移動機構を有する多関節アーム手段がハンド
を備え,基板を含む搬送物を搬送する点。
本件発明と引用例に記載された発明とは,次の点が相違する。
a本件発明が,第1の多関節アーム手段と第2の多関節アーム手段と
を備えた多関節ロボット装置の発明であるのに対し,引用例に記載さ
れた発明が,第1のシングルアーム型ロボットと第2のシングルアー
ム型ロボットとを備えた搬送装置の発明である点。
b本件発明が,第1の多関節アーム手段と第2の多関節アーム手段と
を主基部に対して回動駆動される回動基部に配設しているのに対し,
引用例に記載された発明が,搬送チャンバ10の上壁に第1のシング
ルアーム型ロボットを取り付け,搬送チャンバ10の下壁に第2のシ
ングルアーム型ロボットを取り付けた構造であり,2台のシングルア
ーム型ロボットが一緒に回動駆動されずに独立して設けられている点。
c本件発明が回動基部を有するのに対し,引用例に記載された発明に
は回動基部が存在しない点。
d本件発明が,第1の多関節アーム手段と第2の多関節アーム手段と
が上下方向に重ねて配設されるように,第1の多関節アーム手段の他
方の端部を上基部の下面に取り付けると共に,第2の多関節アーム手
段の他方の端部を下基部の上面に取り付けたものであるのに対し,引
用例に記載された発明が,第1の駆動部30が,搬送チャンバ10の
上壁に,第1駆動軸43の軸中心を搬送チャンバ10の中心線に一致
させて取り付けられ,第1の駆動部30の第1駆動軸43の先端に第
1のアーム部31の第1アーム50の他端が固定され,第2の駆動部
30が,搬送チャンバ10の下壁に,第1駆動軸43の軸中心を搬送
チャンバ10の中心線に一致させて取り付けられ,第2の駆動部30
の第1駆動軸43の先端に第2のアーム部31の第1アーム50の他
端が固定されている点。
引用例に記載された発明の搬送装置は,2台のシングルアーム型ロボ
ットを搬送チャンバ10の上壁と下壁に上下に向かい合わせて設けただ
けであり,本件発明の具体的な多関節アーム手段の支持構造(構成要件
B-1ないしB-5及びC)については全く開示されておらず,本件発
明に至る動機付けについて記載も示唆もない。むしろ,引用例に記載さ
れた搬送装置は,2台のシングルアーム型ロボットがそれぞれ独立して
搬送チャンバ10内のあらゆる位置に任意の方向に向けてハンド34を
順次移動させることができるから,本件発明の具体的な多関節アーム手
段の支持構造を採用すると,支柱部によるアームの移動への干渉という
問題が生ずる。したがって,引用例に記載された発明に被告が周知であ
ると主張する技術を組み合わせても,本件発明に容易に想到することは
ない。
イ新規事項の追加の主張について
前記(原告)ウのとおり,回動基部の一部であって,上基部の下面に
第1の多関節アーム手段の他方の端部が取り付けられ,下基部の上面に第
2の多関節アーム手段の他方の端部が取り付けられるアーム支持部の構成
は,本件明細書及び本件図面に記載があり,これらにより当業者が把握す
ることができるから,本件補正は,新規事項の追加に当たらない。
第3当裁判所の判断
1争点1(被告各製品の構成)について
前記前提事実,証拠(甲7ないし10,12)及び弁論の全趣旨を総合すれ
ば,被告各製品の構成は,次のとおりであると認めることができる。
a-1一方の端部に設けられた第1ハンドを待機位置と動作位置との間で平
行移動する平行移動機構を有する第1多関節アーム部と,
a-2一方の端部に設けられた第2ハンドを待機位置と動作位置との間で平
行移動する平行移動機構を有する第2多関節アーム部とを,
a-3ベース部に対して回動駆動される部分(回動中心に一端が取り付けら
れた台座,台座の回動中心とは反対側の端部から略垂直に立設するコラ
ム,コラムの側面に取り付けられた第1の支持部材,第2の支持部材及
び連結部材)に配設し,
a-4ガラス基板を第1ハンドと第2ハンドにより所定位置に対して移載す
るための
a-5ガラス基板搬送用ロボットにおいて,
b-1ベース部に対して回動する部分(前記台座,前記コラム,第1の支持
部材,第2の支持部材及び前記連結部材)が,
b-2第1の支持部材と,
b-3第1の支持部材と対向して配置された第2の支持部材と,
b-4ベース部に対する回動中心からずれて設けられた第1の支持部材及び
第2の支持部材を連結する連結部分(各端部及び前記連結部材)と,
b-5から形成された略コの字状の支持部を有し,
c第1多関節アーム部と第2多関節アーム部とが上下方向に重ねて配設
されるように,第1多関節アーム部の他方の端部を第1の支持部材の下
面に取り付けると共に,第2多関節アーム部の他方の端部を第2の支持
部材の上面に取り付けた
dガラス基板搬送用ロボット。
被告は,被告各製品の第1の支持部材と第2の支持部材は端部で連結してい
ないと主張するが,被告の主張は,被告が第1の支持部材と第2の支持部材が
端部で連結する旨説明する内容の書簡(甲12)があることに照らしても,こ
れを採用することができない。
2争点2(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か)について
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は前記前提事実イ,ア
のとおりであるが,これによれば,本件発明の回動基部は,主基部に対して
回動駆動され(構成要件A-3),第1の多関節アーム手段と第2の多関節
アーム手段とを配設し(構成要件A-1ないしA-3),「上基部と,前記
上基部と対向して配置された下基部と,前記上基部と前記下基部とに連結さ
れ,前記回動基部の前記主基部に対する回動中心線からずれて立設された支
柱部と,からコ型に形成されたアーム支持部を有し」(構成要件B-1ない
しB-5)というものであり,第1及び第2の多関節アーム手段の配設につ
いて,さらに,「前記第1の多関節アーム手段と前記第2の多関節アーム手
段とが上下方向に重ねて配設されるように,前記第1の多関節アーム手段の
他方の端部を前記上基部の下面に取り付けると共に,前記第2の多関節アー
ム手段の他方の端部を前記下基部の上面に取り付けた」(構成要件C)とさ
れている。
証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載があ
り,また,本件図面の【図1】ないし【図5】の内容は本判決添付の特許公
報の該当箇所に記載のとおりであると認められる。
「【従来の技術】基板を含む平板状のワークを搬送するために2つの多関
節アーム手段を備えた多関節ロボット装置が用いられる。特許第27394
13号の「基板搬送用スカラ型ロボット」に開示されたロボット装置は,そ
の一構成例であって,第1のハンドと第2のハンドの夫々の軌跡が平行とな
る平行移動機構を備えており,これらのハンドを第1と第2の多関節アーム
手段に設けている。」(段落【0002】)
「図4は,上記公報になるロボット装置の平面図である。・・・」(段落
【0003】)
「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記のように構成され
るロボット装置によれば,第1と第2の多関節アーム手段を回動基部301
の回転軸部P1,P2周りに横方向(水平面に沿う)に並設している。この
ために,第1と第2の多関節アーム手段を図示のように待機位置と動作位置
の間で移動する際に最大となる幅で決定される幅寸法D2が大きくなるので
ガイドレールG上で本体移動する際の移動方向に沿う干渉範囲が大きくなる
問題があった。また,図4のX-X線矢視断面図である図5において,第1
と第2のハンドをアーム218,318の回動端部に対して取り付けるため
には,ハンドの機械的干渉を防止するために上下方向ハンドが重なるように
配置しなければならないことから,上方の第1のハンド321を固定する為
のオフセットアーム330と下の第2のハンド221を固定する為のオフセ
ットアーム331が必要となる。これらのオフセットアーム330,331
を夫々設けることで,第1と第2の多関節アーム手段の取付け面から,搬送
されるべき基板までの高さが高くなり,また,2本のオフセットアームが必
要となるのでハンドの剛性が弱くなる問題がある。」(段落【0006】)
「したがって,本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり,第
1と第2の多関節アーム手段を折りたたむことでハンドを待機位置に移動し
たときに決定されるガイドレール上で移動する際の干渉範囲を小さくするこ
とができ,剛性を低下させずに第1と第2のハンドの機械的な干渉を防止す
ることができ,かつ第1と第2のハンドの平行移動軌跡を設置面から低く設
定することができる多関節ロボット装置の提供を目的としている。」(段落
【0007】)
「【課題を解決するための手段】上記の課題を解決し,目的を達成するた
めに,本発明によれば,一方の端部に設けられた第1のハンドを待機位置と
動作位置との間で平行移動する平行移動機構を有する第1の多関節アーム手
段と,一方の端部に設けられた第2のハンドを待機位置と動作位置との間で
平行移動する平行移動機構を有する第2の多関節アーム手段とを,主基部に
対して回動駆動される回動基部に配設し,基板を含む搬送物を前記第1のハ
ンドと前記第2のハンドにより所定装置に対して移載するための多関節ロボ
ット装置において,前記回動基部が,上基部と,前記上基部と対向して配置
された下基部と,前記上基部と前記下基部とに連結され,前記回動基部の前
記主基部に対する回動中心線からずれて立設された支柱部と,からコ型に形
成されたアーム支持部を有し,前記第1の多関節アーム手段と前記第2の多
関節アーム手段とが上下方向に重ねて配設されるように,前記第1の多関節
アーム手段の他方の端部を前記上基部の下面に取り付けると共に,前記第2
の多関節アーム手段の他方の端部を前記下基部の上面に取り付けたことを特
徴としている。」(段落【0008】)
「【発明の実施の形態】以下に本発明の好適な一実施形態につき,添付の
図面を参照して述べる。図1は,多関節ロボット装置の使用例を示した外観
斜視図である。本図において,この多関節ロボット装置は,図中の破線図示
のウエハまたは基板22を図中の矢印Y方向に平行移動することにより一時
保管のための装置100と,ウエハまたは基板22に対して所定処理を行な
う装置200の間での出し入れを行なうために,各装置100,200の略
中心に配置される。また,必要に応じて,図中のZ方向(上下方向)とX方
向(左右方向)にこの多関節ロボット装置を昇降または移動するための不図
示の昇降機構,移動機構が設けられて,基板22をさらに別の装置間で出し
入れ可能にするようにして使用される。」(段落【0010】)
「このために,基部1上には,回動基部7が矢印方向に回動駆動されるよ
うに設けられており,この回動基部7に対して第1アーム14,114が図
示のように上下関係になるように回動自在に保持し,かつ第1アーム14,
114の回動端部において,第2アーム18,118を設け,さらに第2ア
ーム18,118の回動端部において第1のハンド21,第2のハンド12
1を回動自在に設けている。」(段落【0012】)
「図1に,図1のX-X線矢視断面図である図2をさらに参照して,基部
1の内部には,モータ2が固定されており,このモータ2の出力軸に固定さ
れたプーリー3と入力軸にプーリー5を固定した減速機6の間において,図
示のようにベルト4を張設することで,モータ2の正逆方向の駆動にともな
い,減速機6を底面において図示のように固定した回動基部7を基台1に対
して図1の矢印K方向に回動するように構成されている。」(段落【001
3】)
「この回動基部7は図示のように,垂直面に投影したときに「コ」の字状
の形状を備えており,上方に開口した上面7aにおいて,第1アーム114
を回動自在に支持する一方で,下方に開口した下面7bにおいて,第1アー
ム14を回動自在に支持することで,各アームの一点鎖線で示す回転軸部P
1,P2が同一軸上に位置するように構成されている。」(段落【001
4】)
「次に,ハンド21,121を平行移動する平行移動機構について重点的
に述べる。回動基部7内にはブラケットを介してモータ8,108が上下関
係かつ対称関係となるように固定されている。これらモータの出力軸にはプ
ーリー9,109が固定されている。また,回動軸部P1を中心に回動する
第1アーム14には減速機12の出力軸が固定されるようにして内蔵され,
さらに減速機12の基部は回動基部に固定されており,この減速機12の入
力軸にプーリー11が固定されており,モータのプーリー9との間において
ベルト10が張設されており,モータ8の正逆方向の回動力を減速してから
第1アーム14に伝えるように構成されている。また,この減速機12を取
り囲むようにして,第1アーム14の回動と共にアーム体内で相対的に回動
するプーリー13が回動基部7に固定され,軸支部を兼ねて設けられている。
また,第1アーム14の片側端部を取付け,且つ第1アーム14の他端部に
はベルト15を介し,一定比で回転されるプーリー16が設けられている。」
(段落【0015】)
「このプーリー16を第1アーム14の回動とは無関係の状態に突出させ,
プーリー16には,第2アーム18の片側端部を取付け,且つ第2アーム1
8の他端には第2アーム18の回動と共に第2アーム体内でプーリー17及
びベルト19を介して一定比で回動されるものとなるプーリー20を第2ア
ーム18の回動とは,無関係の状態に突出させ,且つプーリー20には基板
22を上面より吸引止着するハンド21が取付けられており,このハンド1
2により処理前基板を取り出し,処理箇所への搬送及び処理済み基板の返送
を同一垂直線上で互い違いの対称関係で同時進行するように構成している。」
(段落【0016】)
「一方,回動基部7において上記の回動軸部P2を中心に回動する下側の
第1アーム114には減速機112の基部が固定されるようにして内蔵され
て,さらに基部12は回動基部7に固定されており,この減速機112の入
力軸にプーリー111が固定されており,モータのプーリー109との間に
おいてベルト110が張設されており,モータ108の正逆方向の回動力を
減速してから第1アーム114に伝えるように構成されている。また,この
減速機112を取り囲むようにして,第1アーム114の回動と共にアーム
体内で相対的に回動するプーリー113が回動基部7に固定され軸支部を兼
ねて設けられている。」(段落【0017】)
「また,第1アーム114の片側端部を取付け,且つ第1アーム114の
他端部にはベルト115を介して,一定比で回転されるプーリー116が設
けられている。このプーリー116を第1アーム114の回動とは無関係の
状態に突出させ,プーリー116には,第2アーム118の片側端部を取付
け,且つ第2アーム118の他端には第2アーム118の回動と共に第2ア
ーム体内でプーリー117及びベルト119を介して一定比で回動されるも
のとなるプーリー120を第2アーム118の回動とは,無関係の状態に突
出させ,且つプーリー120には夫々基板122を吸引止着するハンド12
1が取付けられており,このハンド112により処理前基板を取り出し,処
理箇所への搬送及び処理済み基板の返送を同一垂直線上で互い違いの対称関
係で同時進行するように構成している。」(段落【0018】)
「以上のようにハンド21とハンド121とを1つが上面より,他の1つ
は下面より,互いに干渉しないように作動するように設けることで,これら
のハンド12,121により処理前基板を取り出し,処理箇所への搬送及び
処理済み基板の返送を同一垂直線上で互い違いの対称関係で同時進行するよ
うに構成している。すなわち,図4,5で説明の装置と基本的に違うのは,
アームが特許第2739413号の場合にはアーム等が同一水平線上に並ん
でいるのに対して上記の構成のものは同一垂直線上に並んでいる事であり水
平面内でスペース的には有利となる。また,回動基部を「コ」の字型にする
ことで,第1の多関節アームの第1アームの端部を回動自在に上端天井部に
支持し,また第2の多関節アームの第1アームを下端側に図示のように支持
して,上下に重ねるようにして省スペース化を実現でき,また剛性の高いア
ーム手段を支えることができる。」(段落【0019】)
「以上の構成において,図3に図示のように上下の多関節アームを待機位
置になるように折りたたんだ時に,回動軸部P1,P2が垂直方向に共通で
あるために,待機位置と動作位置決め用の間で移動する際に最大となる幅で
決定される幅寸法D1を小さくできるのでガイドレールG上で移動する際の
移動方向に沿う干渉範囲の短縮化を図ることができる。また,モータ8,1
08を回動基部7に内蔵することで,更なる省スペース化を図ることができ
る。そして,上下の多関節アームが上下方向に重なっている為に,従来のよ
うに改めてハンドを重ねる為の部品であるオフセットアーム等のハンド取付
け用の部品が不要となる。このために,回動軸部P2のアーム取付け面から
下段側の基板下面までの高さを低くできることになる。具体的には,上記の
ように多関節アームを左右に併設する場合に比べて,約30mm程度低くす
ることができたので,基板22のサイズ変更にともなう対応が容易になる。」
(段落【0022】)
「また,ハンド21,121を直に各アームに付けることができる為に,
ハンドの剛性がアップすることになるので,大型ガラス基板を搬送する場合
に特に有利となる。」(段落【0024】)
「以上説明したように,本発明によれば,ハンドを待機位置に移動したと
きに決定される第1と第2の多関節アーム手段による専有面積を小さくする
ことができ,剛性を低下させずに第1と第2のハンドの機械的な干渉を防止
することができ,かつ第1と第2のハンドの平行移動軌跡を設置面から低く
設定することで,搬送物の変動に対してより柔軟に対応することができ,し
かもガイドレール上で移動する際の移動方向に沿う干渉範囲の短縮化を図る
ことができる多関節ロボット装置を提供することができる。」(段落【00
25】)
上記認定に基づき検討するに,本件明細書の発明の詳細な説明及び本件
図面においては,回動基部7自体が垂直面に投影したときに「コ」の字状の
形状を備えるとされている一方(段落【0014】,【図2】),回動基部
におけるアーム支持部を除く部分の構成や,回動基部自体が「コ」の字状又
は「コ」の字型ではない構成については何らの記載がない。
また,本件発明は,従来技術の問題点(段落【0006】)を克服すべく,
①第1と第2の多関節アーム手段を折り畳むことでハンドを待機位置に移
動したときに決定されるガイドレール上で移動する際の干渉範囲を小さくす
る,②剛性を低下させずに第1と第2のハンドの機械的な干渉を防止する,
③第1と第2のハンドの平行移動軌跡を設置面から低く設定するという目
的を達成するものである(段落【0007】)。ところで,上記②の目的は,
回動基部を「コ」の字型にし,その上端天井部に第1アームの端部を回動自
在に支持し,その下端側に第2の多関節アームの第1アームを支持すること
で達成される(段落【0019】)。そして,上記①及び③の目的は,第1
及び第2の多関節アーム手段を同一垂直線上に並置したことにより達成され
るものであって(段落【0019】,【0022】),回動基部を「コ」の
字型にすることによりその目的の達成が阻害されることもないし,かえって,
回動基部にアーム支持部以外の部分を設ける場合,とりわけアーム支持部よ
りも下に何らかの構成を設けるような場合には,上記③の目的を阻害するこ
とにもなりかねない。
そうすると,本件発明において,「前記回動基部が,上基部と,前記上基
部と対向して配置された下基部と,前記上基部と前記下基部とに連結され,
前記回動基部の前記主基部に対する回動中心線からずれて立設された支柱部
と,からコ型に形成されたアーム支持部を有し」(構成要件B-1ないしB
-5)とは,「前記回動基部が,上基部と,前記上基部と対向して配置され
た下基部と,前記上基部と前記下基部とに連結され,前記回動基部の前記主
基部に対する回動中心線からずれて立設された支柱部と,からコ型に形成さ
れたアーム支持部を構成し」の意味に解するのが相当である。
ア原告は,特許請求の範囲の請求項1の記載からすれば,本件発明のアー
ム支持部は回動基部の一部であると主張するが,本件発明の回動基部は,
それ自体がコ型に形成されたアーム支持部を構成するもの,すなわち,そ
れ自体がコ型に形成されたアーム支持部であると解するのが相当であり,
このように解しても,「前記回動基部が,・・・アーム支持部を有し」の
語義に反するものとはいえない。
原告の上記主張は,採用することができない。
イ原告は,前記第2の3(原告)ウ記載のとおり,本件図面の【図1】
には,回動基部7が,第1の多関節アーム手段と第2の多関節アーム手段
とを支持する青色部分を備えると共に,この青色部分の下に,主基部1に
対する回転中心から水平方向に延びる赤色部分を備えていることが明示さ
れていると主張する。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】によ
れば,【図2】は【図1】のX-X線矢視断面図であるとされているが,
この【図2】には原告主張の赤色部分に該当する部分の記載がない(なお,
原告は,【図2】に示された回動基部全体の構造について,上辺に比べて
下辺が長いからコの字型ではないとの主張もするが,【図2】に記載され
た程度に下辺が長くとも,回動基部7の全体がコの字型であると解し得
る。)。また,原告主張の赤色部分の構成や機能は,本件明細書や本件図
面からは明らかでないというほかなく,仮に青色部分の下に赤色部分が存
在するとすれば,第1と第2のハンドの平行移動軌跡を設置面から低く設
定するという本件発明の目的(前記③)を阻害することになってしまう。
さらに,【図1】における多関節ロボット装置は,同図中の破線図示のウ
エハまたは基板22を図中の矢印Y方向に平行移動することにより一時保
管のための装置100と,ウエハまたは基板22に対して所定処理を行な
う装置200の間での出し入れを行うために,各装置100,200の略
中心に配置され,第1の多関節アーム手段に取り付けられたハンド21と
第2の多関節アーム手段に取り付けられたハンド121による処理前基板
の取り出し,処理箇所への搬送及び処理済み基板の返送を同一垂直線上で
互い違いの対称関係で同時進行するように構成されているものであるが
(段落【0010】,【0019】),【図1】の記載を原告の上記主張
のように解すると,青色部分のうち,第1及び第2の多関節アーム手段が
取り付けられる上基部及び下基部の長手方向が,赤色部分の長手方向と平
行でなく,一定の角度で接続されているものとして図示されていることに
なるから,この場合,両者を平行に設置した場合に比して,第1及び第2
の多関節アーム手段における各第1アーム及び第2アームの長さを長くせ
ざるを得なくなるおそれがあり,そうであるとすれば,ガイドレール上で
移動する際の移動方向に沿う干渉範囲の短縮化を図るという本件発明の目
的(前記①)及び効果(段落【0022】,【0025】)を阻害する
ことになりかねない。
そうすると,【図1】における回動基部7に関する作図自体が,そもそ
も不正確,不適切なものであると解さざるを得ず,これを根拠として,回
動基部7が原告の主張するような構造であると理解することはできない。
ウ原告は,剛性の低下の防止という本件発明の効果は,回動基部自体を一
体化,固定化したコの字型のものとしたことにより得られる効果ではない
と主張するが,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0019】の記載
に照らして,たやすく,これを採用することはできない。
本件発明の回動基部は,主基部に対して回動駆動されるが(構成要件A-
3),構成要件B-1ないしB-5は,この回動基部自体が,上基部と,上
基部と対向して配置された下基部と,上基部と下基部とに連結され,回動基
部の主基部に対する回動中心線からずれて立設された支柱部とからコ型に形
成されたアーム支持部を構成するものであって,この上基部の下面に第1の
多関節アーム手段の他方の端部が取り付けられ,下基部の上面に第2の多関
節アーム手段の他方の端部が取り付けられることになる(構成要件C)。
これに対し,被告各製品の構成は,前記1認定のとおりであり,被告各製
品において,本件発明の主基部に該当するのはベース部であり,これに対し
て回動駆動される部分は回動中心に一端が取り付けられた台座,台座の回動
中心とは反対側の端部から略垂直に立設するコラム,コラムの側面に取り付
けられた第1の支持部材,第2の支持部材及び連結部材であって(構成a-
3),第1の支持部材と,第1の支持部材と対向して配置された第2の支持
部材と,ベース部に対する回動中心からずれて設けられた第1の支持部材及
び第2の支持部材を連結する連結部分(各端部及び前記連結部材)とが略コ
の字状の支持部を構成し(構成b-2ないしb-5),本件発明の第1の多
関節アーム手段に相当する第1多関節アーム部は第1の支持部材の下面に,
第2の多関節アーム手段に相当する第2多関節アーム部は第2の支持部材の
上面に取り付けられている(構成c)。このように,被告各製品は,上記の
回動駆動される部分がコ型に形成されているとはいえないから,それ自体が
コ型に形成された回動基部が存すると認めることはできないし,本件発明の
下基部に相当すべき台座に第2の多関節アーム手段に相当する第2多関節ア
ーム部が取り付けられているわけでもない。
そうすると,被告各製品が本件発明の構成要件A-3,B-1ないしB-
5及びCを充足するとは認められないから,被告各製品は,本件発明の技術
的範囲に属しない。
3以上の次第であるから,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求
は全て理由がない。
よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官三井大有
裁判官宇野遥子
別紙
物件目録
被告が生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出若しくは輸入し,又はその譲渡
若しくは貸渡しの申出をする,下記型番のガラス基板搬送用ロボット

1SR8820
2SR89series
3SR8882
4SR99series
5SR9183H
6SR9181H
7SR9182H
8SR9184
<添付の特許公報は省略する>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛